ニュージーランドの地質に初めて出会ったのは,1985年に参加した文部省海外学術調査隊に参加した時でした.その後,1987年から1991年までの間,オークランド大学理学部地質学教室のポストドクトラル・フェローとして在籍してニュージーランドに分布する付加体の地質学調査と中生代放散虫化石の研究を行ってきました.1985年以降,ニュージーランドに毎年地質調査に出かけています.1995年から国内7大学の放散虫研究者とニュージーランド人研究者と共に共同研究調査隊を組織して,ニュージーランドの付加体の調査を行っています.どうしてニュージーランドに魅了されて,ライフワークとしてニュージーランドの研究に取り組むようになったのかは,スタッフのページに紹介してある「微化石−顕微鏡で見るプランクトン化石の世界」の6.3章「微化石研究者への道」に書いてありますので,関心がある方はご覧になって下さい.
三畳紀からジュラ紀の南半球高緯度帯収束帯において形成された付加体の野外調査を行い,(1) チャートや珪質泥岩の堆積岩石学的解析および放散虫化石層序に基づいて海洋プレート層序を構築し,付加年代を明らかにすること(図1-1).(2) 当時の高緯度海域で,放散虫固有種(図1-2)がなぜ長期にわたり繁栄し,どのように多様性を維持してきたかを解明する. (3)当時の海洋環境は,珪酸質の海洋(silica ocean)から炭酸塩質の海洋(carbonate ocean)に大きく変転した地球進化史上,海洋環境の転換点に当たる事変が起っており,当時のシリカオーシャンの表層と中層の海洋環境の変化を復元する.
Fig. 1-2 ニュージーランドから産するGlomeropyle属放散虫の固有種群(相田ほか, 2009)
ニュージーランド北島のノースランド地方北東部,ファンガロア地域の海に浮かぶ無人島の小島であるアローロックス(マオリ名ではオルアテマヌ島)には,南半球では唯一の古生代と中生代の境界(P/T境界)を含む遠洋性の地層が連続的に露出しています.宇都宮大学を中心とするNZ地質調査隊(兵庫教育大学,愛媛大学,高知大学,宮崎大学,東北大学,山口大学)は,1995年以来アローロックス島や周辺のファンガロア地域の地質調査を毎年行っています.1997年には,アローロックス島に関する地質学,岩石学,構造地質学,放散虫やコノドント化石層序,古生物学,地球化学および古地磁気学の論文集として"Arrow Rocks volume"をニュージーランド地質学・核科学研究所(GNS Science)のモノグラフとして出版しました.ニュージーランドの付加体の地質学を理解するために無くてはならない論文集です.
宇都宮大学地質学研究室では,卒論や修論としてニュージーランドの地質をテーマに数多くの研究を行ってきております.近年,チャートや珪質泥岩の単層についてスラブ観察やHF処理をほどこした堆積断面を高精細SEM観察を行って堆積相区分や堆積岩石学的解析に基づいて,堆積環境の変遷を解明しております.
このような研究をやりたい学生,フィールドが好きな学生,ニュージーランドが好きな学生はどうぞいつでも研究室に来てください.研究室のメンバーが相談にのります.
アローロックスの様々な地形の表情です.潮が引くと海底下の露頭が全面的に露出します.この島に1995年以来,毎年通って調査を行っています.この島の魔力に引きつけられたかのようです.
The Oceanic Permian/Triassic boundary sequence at Arrow Rocks (Oruatemanu), Northland, New Zealand. GNS Science Monograph, 24: 229p. Sporli, K.B., Takemura, A. & Hori, R.(Eds.) (2007) ISBN 0-478-09919-3
アローロックス島のオルアテマヌ層の珪質堆積岩です.左はUnit 5の赤色珪質泥岩で,コノドント化石により三畳紀中期(Anisian前期)を示します.右はUnit 3の黒色チャートで,コノドント化石により三畳紀前期(Dienerian後期)を示します.
中生代の化石放散虫.左はジュラ紀前期,右は三畳紀後期の放散虫.