森林科学は、理学部や理工学部のように純粋科学としての「森林」を対象とする科学ではなく、森林管理や生産に従事している森林所有者、林業労働者、木材加工業者、林業技術者、農民など生身の人間、土臭い、汗をかいている人間、すなわち本当の担い手を意識した、「実学」としての森林に関する学問です。
また、地球環境、森林環境問題、砂漠化、森林生態系・森林動植物の破壊、消滅を客観的に、感傷的に語るだけでなく、深い知識と技術を持った専門技術者集団として、50年、100年後の目標を見据えた森林の整備、施業、及び木材生産を国民に自信をもって提示できる知識・能力を身につけていきます。
森林科学科を卒業すると、国家公務員としては農林水産省・林野庁、国土交通省、環境省、地方公務員(上級職)として都道府県林務部関連(技術職)や市町村役場(行政職)、そして民間林業関連団体の専門的技術・行政担当者として、さらには森林インストラクタ-や樹木医など専門技術資格取得者として、まさに森林科学関連の高等専門教育を受けたフォレスタ-(林業・林産加工技術者)としての活躍が期待されています。
森林科学科に入学してくる学生は環境問題に興味を持っている人が非常に多くいます。
「森林を人間の手を加えずに残すべきである。」
「木材の利用(木材生産)は地球環境の保全に逆行するから、木は伐採しない方がよい。」
「木材搬出道路(林道)は環境を破壊するから、開設することは止めたほうがよい。」
とする意見が国民のなかに台頭している今日、フォレスタ-(林業・林産加工技術者)として国民にその必要性について説明できる知識と自信を持たなければ、国民の社会的信任を受けることができません。国民ひとり一人が、素人であるがゆえにいだく森林の環境問題への疑問を、同じ次元で自問自答する段階に留まることは、大学の森林科学科で専門教育を受講した者には許されません。森林科学科の各教員が学生に教育する科目の内容は、けっして環境問題の一般論ではありません。
森林科学とは、森林を保護しながら利用するための学問を体系化したもので、
「環境問題そのものが重要である。」
「森林生態系や生物の多様性をまもる必要がある。」
「希少な動植物を保護しなければならない。」
「砂漠化など荒廃地は緑化すべきである。」等々
森林科学の専門教育を受講した学生は、これをただ唱える段階を早期に克服して、その解決方向を国民の前に提示できる能力を身につけることが出来るようになり、卒業を迎えます。
森林を取り扱う技術に習熟していても、森林を森林として維持し、より深い内容の豊かな森林にするためには、歴史、管理組織、法的制度、財政的支援のあり方など、確かな目で長期的な洞察力を発揮できるフォレスタ-がいなければ、対処療法的な対応に終わってしまいます。ドイツ、オ-ストリア、フランスなど欧州の先進国では、今日でもなおフォレスタ-が果たす社会的役割が国民の間で認知されています。
ドイツの大学には林学部が(ゲッチンゲン、ミュンヘン、フライブルグ大学など)、中国では林業大学(北京林業大学、東北林業大学など)が設置され、各大学には日本の大学の森林科学関連研究室(分野)が、それぞれ学部や学科の規模(構成員)を擁しています。宇都宮大学森林科学科においても本来ならば教育分野ごとに複数以上のスタッフが必要ですが現実は厳しく、各教員は、他大学の教員の研究成果や研究交流を通じて、最大限の努力のもと教育に力を注いでいます。