農学部の高冷地実験農場として利用されてきたこの地区(7.82ha)を、昭和34年演習林が引き継いで、戦ヶ原演習林とした。この地区は、昭和21年栃木県農業会が事業主体で、種子馬鈴薯原種園として開拓、後に生産利用農協連により開拓実験農場として、開拓地の営農指導に当っていた。太郎山地区は、昭和46年農水省により所管換したものであるが、さきに設定した太郎山地区と併せて日光演習林とし、今日に至っている。
日光演習林太郎山地区
戦場ヶ原地区は、男体山西側(標高1、390m)の平坦地である。太郎山地区は、日光火山郡の西端、太郎山(標高2、370m)の中腹部に位置する。一帯は内陸的気候を呈し、低温で降水量が多い。年平均降水量は2、000mm前後であるが、その70%は6月の梅雨期から9月の台風期までの降雨である。地元測候所の観測では、
最大日雨量519.2mm、時間最大雨量79.5mmが記録されている。年平均気温は6.4度、冬期の月平均気温-5度、最低気温は-17度を越える厳しい環境のなかにある。
戦場ヶ原地区は冬期の凍土が深く、数度の植林を試みたが成績が思わしくない。一部にカラマツ林とカンバ類が生立しているほかは草生地となっている。
太郎山地区の標高1、600m以上は、主として亜高山帯針葉樹林である。この針葉樹林はコメツガが主で、シラビソ、オオシラビソ、トウヒのほかダケカンバ、ミヤマハンノキなどが混じって主林木をなしている。標高1、600m以下は主としてミズナラ、ブナ、カンバなどの亜高山帯広葉樹林となり、一部にカラマツ、ストローブマツの人工林がある。
なお、一帯は土砂流出防備林と水源かん養保安林に指定されている。
本演習林は、すべて国立公園のなかにあって土砂流出防備、水源かん養等の保安林や鳥獣保護区、国立公園特別地域の指定も受けている。このような立地条件から、収益性を追求した林業経営より、森林のもつ他の効用を重視して、全域を教育研究のための実験林として取り扱っていた。 太郎山地区には大規模な侵食谷が多く、既設の砂防工作物も多い。この特色を生かして砂防工学実習や治山砂防計画、山地災害情報管理等、森林保全に関する研究が行われている。また、亜高山帯における森林の取り扱いに関する研究、森林生態学や樹木学実習の他、大型哺乳動物の行動調査もおこなわれている。 森林科学以外の分野での利用も多く、昆虫学、菌学、地震観測、地球物理学、地形発達等地理学の分野まで多岐にわたっている。