研究内容

 当研究室では、種々の細菌や出芽酵母、糸状菌、バクテリオファージといった微生物を必要に応じて選択し研究材料としています。培養操作は培地の作製、滅菌、種菌の移植、培養、サンプリング(菌体、培養液)が基本となります。細胞数や代謝産物、生体成分の計測には生物顕微鏡、蛍光顕微鏡、HPLC、GC、LC-MS、GC-MS、吸光度計、蛍光光度計、サーマルサイクラー、電気泳動装置、リアルタイムPCRといった理化学機器を用いています。また、次世代シーケンスによる菌叢解析を行うこともあります。研究テーマによっては組換えタンパク質の調製や細菌の遺伝子組換え技術を利用しています。以下に、進行中の研究をいくつか紹介します。

イネの生物学的窒素固定活性の向上に関する研究

 化石燃料を消費して空気中の窒素からアンモニアを生産する工業技術(化学的窒素固定)は農業生産を飛躍的に向上させました。一方、ある種の細菌は自然環境下において生物学的窒素固定を行い、アンモニアを生産することができます。持続可能な農業の構築に向けた取り組みとして、本研究では、イネの栽培に微生物資材を施用することで、生物学的窒素固定活性を高めるべく研究を行っています。また、資材施用により、土壌やイネの菌叢がどのように変動するのかを環境DNA(eDNA)の次世代シーケンス解析により明らかにしようと試みています。

テンペ菌による抗菌物質の清算

 東南アジアで伝統的に食されているテンペは、茹でた大豆に糸状菌の仲間であるテンペ菌を移植して発酵させた食品です。このようにして製造されるテンペには黄色ブドウ球菌等のグラム陽性細菌に対して抗菌性を示す物質が含まれていることが知られています。当研究室ではこれらの物質がリノール酸やα-リノレン酸といった脂肪酸であることを初めて明らかにしました。リノール酸やα-リノレン酸の生成にはテンペ菌の増殖と代謝、そしてこれら脂肪酸の基質となる大豆油の存在が重要であることが分かっています。この研究成果を基にして、テンペ菌が持つ食用油からの抗菌性脂肪酸の生成能について、特に油の分解を触媒する酵素であるリパーゼに着目して研究を行っています。

乳酸菌Pediococcus acidilacticiの機能性に関する研究

 青源味噌(株)との共同研究で開発された甘酒乳酸菌発酵飲料・ペディオは植物性乳酸菌Pediococcus acidilacticiをスターターとして用いることで製造されています。P. acidilacticiが甘酒中のブドウ糖の一部を乳酸に変換することで酸味のある爽やかな飲み口に仕上がっています。P. acidilacticiは耐酸性能が高いことや、乳酸以外にも細菌の細胞壁溶解酵素や抗菌性ペプチドを産生するといった特性を有しています。そこで当研究室ではP. acidilacticiの耐酸性能や抗菌性に着目した研究を行っています。P. acidilactici細胞や甘酒乳酸菌発酵飲料をマウスに投与した際に糞便中に生きた細胞がどの程度含まれているのかといった点や、糞便中の細菌叢の変化について調べています。