発がんのリスクを低くする、アレルギーなど免疫の働きを調整するなどの作用が期待される食品成分について研究しています。 そのために、タンパク質化学的・生化学的・免疫学的・細胞工学的・遺伝子工学的方法など多様な方法を用いて、野菜・果実や乳に含まれる食品成分の化学的特性や、生体分子との化学的な相互作用などの解明を進めています。
食事などにより、私たちの体にはさまざまな発がん物質が取り込まれています。 それでもがんになってしまわないように、私たちの身体はさまざまな仕組みを持っています。例えば、肝臓で発がん物質を解毒していることも重要な働きの一つです。しかし、せっかく解毒された発がん物質が腸内細菌の働きで再び活性化されてしまうことがあり、この微生物の働きが大腸がんのリスクを高めていると考えられています。 これは腸内細菌の作る『β-グルクロニダーゼ』という酵素の働きによるものです。そこで、この酵素の働きを食品成分で抑えることで大腸がんのリスクを下げることができるに違いない、と考え、そんな酵素阻害物質について研究を進めています。
これまでに、カイワレダイコンやダイコンによるβ-グルクロニダーゼ阻害作用を明らかにしてきましたが、ダイコンでは煮ることで阻害作用が強くなりそうで、どんな成分なのか、どんな反応が起こっているのかなど研究を進めています。 また、ナスにも阻害作用が見つかっています。残念ながら加熱したナスでは阻害作用がなくなってしまいました。生のナスなんて食べないよ!と思うでしょうが、漬物にすることでより強力な作用を発揮することがわかってきました。どんな漬け方にすれば良いのか?どんな物質が効いているのか?など研究を進めています。
イチゴは実が重要なので実の小さな野生イチゴはあまり利用されてきませんでした。私たちは、イチゴの葉にもβ-グルクロニダーゼ阻害作用をみつけています。発がんリスクの低下が期待されるハーブティーの開発につながるかも?と期待しているところです。 また、ナスやダイコン、カイワレダイコンなどで、規格外で廃棄されてしまうものも、そこに含まれる阻害物質を取り出して、調理、加工の際に加えて機能性アップした食品を作る、ということも持続的な生産やSDGsの観点から重要だと考え、取り組んでいる研究です。 食品に含まれる機能性成分については、こちらの模擬授業もご覧ください。
私たちの身体では1-1のように発がん物質などを解毒して排泄する仕組みだけではなく、免疫という仕組みによりがん細胞を抑える働きもあります。 がんになってしまった部分(腫瘍組織)では、盛んにがん細胞が増えていますが、免疫の働きをする細胞の一員である『T細胞』ががん細胞を殺傷しがんを食い止めようとしています。一方で、T細胞が働きすぎないよう調節をする『制御性T細胞』も活躍することで、うまく免疫の働きを調節しています。 このように免疫の働きはさまざまな細胞がうまく連携してバランスを取っていますが、食品成分により制御性T細胞の働きを少しだけ調節してあげることで、がん細胞に対する免疫の働きを強くすることができるのではないか?と考えられています。 私たちは、乳脂質を包み込んでいる成分であるMFGMには、制御性T細胞のはたらきを調節し、がん細胞に対する免疫の働きを増強する働きがあるのではないかと考え研究を進めています。
2-1のように私たちの身体を護るための仕組みである免疫の働きが食品成分に対して過剰に反応すると食物アレルギーの症状が発症してしまいます。食物アレルギーを引き起こす原因食物として鶏卵、牛乳、小麦などがあります。 私たちは、卵白の主要なタンパク質である卵白アルブミンをアレルギーの原因物質としたマウスの食物アレルギーのモデルを用いて、アレルギーの発症を改善するような食品成分について研究を進めています。 これまでに、マウスにユズ果皮抽出物を摂取させることで卵白アルブミンに対するアレルギーの症状を改善することを見出しています。どんな成分が、そのようにして作用しているのか解析を進めています。