研究の観点
物質代謝的観点から植物の栄養生理を解析することを基本として、肥料の効果的・環境保全的な利用法のみならず食物連鎖系を循環する栄養元素の動態を考慮した人間環境・人間栄養に資するための植物栄養のあり方を探求しています。
主な研究テーマ
(1)人間栄養のための植物栄養 :
人間のミネラル栄養の源は植物の栄養にあり、さらには土壌の栄養にあります。ミネラルは食物連鎖系をたどるので、植物栄養学は食物栄養学と無縁ではいられません。ヨウ素欠乏は世界の3大栄養疾患の一つです。そこで、イネのヨウ素獲得・移行の分子機構を明らかにして、ヨウ素欠乏による疾患の予防に寄与する高ヨウ素含有米を作出しようとしています。また、血糖値の低下や糖尿病の発症予防にMgが有効で、健康維持のためにはMgの摂取も重要になっています。栃木県の地域資源であるドロマイト(苦土石灰)を用いて、伝統地場野菜であるアブラナ科の「かき菜」に対してMg富化を図り、「健康ミネラル地場野菜」を作出することを試みています。
(2)機能性肥料の効果と利用法:被覆肥料を使った水耕栽培、植物成長調節剤入り肥料を用いたコシヒカリや宇都宮大学育成品種である「ゆうだい21」の安定多収を図り、良食味を維持する施肥法、植物の硝酸態窒素含量を低下させるための酢酸塩肥料利用法、海藻堆肥やヨウ素鶏糞の効果、カリウム減肥によるニラの硝酸態窒素低減法、カリウム追肥によるムギ類の増収法、ニンジンのβカロテン含量に及ぼす肥料養分の影響、ドロマイト(苦土石灰)中のカルシウムとマグネシウムの植物可給性の検討など、機能を備えた肥料の効果と利用法について研究しています。稲作に関する実験は、圃場(附属農場)で実施しており,農業を体験します。
今までの研究トピックス
(1)植物の栄養状態とホルモンバランス : 亜鉛欠乏植物では,オーキシンよりもジベレリンレベルが低下していることを明らかにしました.
(2)根圏における養分動態の可視的観察 : 植物根の養分吸収によって,根圏の栄養元素の分布とpHの分布は変化します.そのパターンを分類することによって,「健康状態を顔色で判断する」ことができるのではないかと考えました.養分環境によって顔色(根圏pH変化)の違いがでることがわかりました.
(3)食物連鎖系での養分元素の動態 : ミミズは土壌中の硝酸化成作用を助長し土壌を酸性化させる場合があり,例えば下水汚泥など金属元素が多く含まれる資材が投入された土壌では,酸性化に伴って,この金属元素の植物吸収が助長されました.最近、植物の必須元素ではありませんが、動物の必須元素であるヨウ素に注目しています。食物連鎖からいえば、動物は植物中のヨウ素を摂取するわけですから、植物には必ずヨウ素が含まれるわけで、ヨウ素は植物においても何らかの作用をしているはずです。土壌̶植物系におけるヨウ素の化学形態変化と植物栄養学的意義について調べています。
(4)身近な環境化学:化粧品にはUVカット機能材料や顔料として金属元素が含まれていますが,洗顔や入浴の後,その金属元素はどこに行くのでしょうか.生ゴミに混入されたりしたら,生ゴミ堆肥を経て土壌へ還元され,いずれは私たちの口に入ることになります.
(5)変な植物の栄養生理: 亜鉛とカドミウムの超集積植物の超集積メカニズムを追いかけています。この変な植物の培養細胞は、私がコーネル大学で作ったもので、この細胞を使って、超集積のための細胞壁の役割や金属の細胞内取り込みについて、実験してました。また、培養細胞から再分化には成功していません。