日本農業気象学会 農業環境工学4学会合同大会(2002,東大)
光環境の変化がニホンナシの果実品質に及ぼす影響 磯 靖憲,本條 均,渡邉美菜子1,小林由起2,福井 糧
ポスター発表会場にて(発表者)

 

 福島県安達地域農業改良普及センター,栃木県立那須拓陽高校

緒 言

近年、多くの果樹において高品質の果実の生産が求められており、ニホンナシも例外ではない。しかし、連年安定して高品質の果実の生産が可能な技術は未だに確立されていない状況である。ウンシュウミカンの露地栽培において反射シートマルチ処理による栽培技術が広く普及している。なぜなら、反射シートマルチ処理による光環境の変化や降雨遮断による土壌水分の制御により着色促進や増糖、樹冠内外層の果実品質を均一化する効果が大変顕著であることが分かってきたからである。  

本研究では、反射シートマルチ処理によるニホンナシの果実品質の向上を目的とし、果実品質に大きく関与していると考えられる収穫約1ヶ月前から反射シートマルチ処理を行い、樹冠内の光環境の変化、葉色、比葉重(SLW)、果実品質などに及ぼす影響について調査を行った。  

材料及び方法

20002001年の2年間、宇都宮大学附属農場(真岡市上籠谷)に栽植されているニホンナシ‘幸水’及び‘豊水’樹を対象に試験を行った。例年、農場では‘幸水’は8月下旬、‘豊水’は9月上旬に収穫が行われており、収穫が行われる約1ヶ月前(‘幸水’は7月下旬、‘豊水’は8月上旬)から白色の反射シートマルチ資材(タイベック:Dupont社製)を1樹につき主幹を中心に6m×6mの広さで樹冠下の地表面に被覆した。タイベックを被覆した区を処理区とし、無被覆の区を対照区とした。各区とも両品種を2000年には2樹ずつ、合計8樹、2001年には3樹ずつ、合計12樹を供試した。

Tyvec被覆の実際の画像は,こちらをご覧ください

調査は気温、相対照度、葉色、比葉重、果実品質について行った。果実品質調査は1樹につき無作為に2000年には20果、2001年には15果を採取し、果重、果径、比重、表面色、地色、糖度、硬度を測定した。

結果及び考察

 被覆後に樹冠下で相対照度を測定したところ、上向き方向からの照度は両区において差はないが、下向き方向からの照度は対照区において樹冠上の2.5%ほどなのに対して、処理区では約17%と明らかに高い値を示した。

 果実品質調査の結果、‘幸水’では2000年において、処理区で糖度が僅かながら高い値を示したが、果重や果径、比重、表面色、地色、硬度には差は認められなかった。2001年には両区で明らかな差は認められなかった。‘豊水’では2000年において、処理区の糖度が僅かながら高い値を示し、硬度は低い値を示した。果重や果径、比重、表面色、地色には差は認められなかった。2001年において、処理区で表面色、地色、糖度が高い値を示し、前年と同様に果重や果径、比重、硬度では差は認められなかった。以上のことから、反射シートマルチ処理を行うことによって樹冠下の光環境が改善されることなどが、品質の向上につながったものと考えられる。しかし、その効果は‘幸水’より‘豊水’でより発現しやすいと考えられる。  

表 ニホンナシ ‘豊水’の地色と糖度に及ぼす

反射シートマルチの影響(2001年)

 

地色

糖度

1

4.3±0.1 ac

10.7±0.3 a

対照区 2

4.1±0.2 a

10.9±0.2 a

3

5.2±0.1 bd

11.9±0.2 b

1

4.4±0.2 ac

10.9±0.2 a

処理区 2

4.7±0.2 cd

12.0±0.1 b

3

4.6±0.1 ac

12.0±0.3 b

Tukeyの多重検定により異符号間で有意差(5%)があることを示す。

収穫日 9月19日