かんきつの話 | Citrus の仲間 |
人間生活と植物:くだもののある暮らし | 講義資料から 抜粋 |
温州ミカン
紀州ミカン(静岡県天然記念物指定) 徳川家康像(駿府城・静岡市にて撮影) グレープフルーツ(花序:果実の着果跡が残っている) カワチバンカン(河内晩柑)
デコポンの花 ポンカンを売る売店 ブッシュカン(仏手柑) |
カンキツ類(Citrus)他の果物にくらべ非常に種類が多い ミカン類,スイートオレンジ類,サワーオレンジ類,タンゴール類,タンゼロ類,ブンタン類,グレープフルーツ類,雑柑類,レモン類,ライム類,シトロン類,ユズ類,キンカン類,カラタチの仲間。雑種が容易であまりに多くの栽培種があるため,ここでは一部を紹介する。 A.温州みかん(C. unshiu)Satsuma mandarin 日本を代表するカンキツであり,皮が剥きやすく(寛皮性),種子がないのが特徴である。普通ミカンといえば,本種のことである。鹿児島,長島ー東町(出水郡)に大木があり,1936年当時で,樹齢300年以上と推定されていた。また,中国には温州(地名)はあるが,ウンシュウミカン自体は無かったので,約500年前に偶発実生として発生したとされる0。 「無核」であることが,「種無し」果実を食べると子供ができない,家系が絶えるという迷信もあり,江戸時代は種子の多いコミカンが好まれた。しかし,明治期以降,栽培が広がった。一時期は300万t以上生産したが,生産過剰から高品質(高糖系)果実と適地生産に重点を置くようになった。高糖系品種に加え,マルチ栽培(+灌水制御の組合せも)といわれる反射性被覆資材を利用した根圏水分管理技術の普及により,露地栽培での果実品質の向上が著しい。 また,栽培管理が不十分であると隔年結果(表年と裏年)が大きくなる。逆に,結果年と不結果年を積極的に起こすという隔年交互結実という栽培管理法も策定された。 通称ハウスミカンと呼ばれる施設栽培では,葉が露地より光合成能を高くかつ長く維持するので,生産性が高い。 主要品種としては,宮川早生,興津早生,上野早生,宮本早生,青島温州,大津4号などが知られる。 機能性成分:発ガン抑制物質のベータクリプトキサンチンを含む。 B.紀州ミカン(コミカン)C. kinokuni 元禄期の紀之国屋文左衛門(紀文 お大尽)が紀州から江戸へ運んで,大儲けしたといわれる。ウンシュウミカンが普及するまでは,我が国を代表するミカンであった。正月の葉付きミカンとして,残っている。 中国原産とされ,温州ミカンの半分くらいのサイズで,甘味が強いが,種子が多い(5−6個/果)。 駿府城(駿河の国府,静岡市)に徳川家康がお手植えの樹がある(左写真)。 日本原産である。文化勲章のデザインはこの花から。カラタチは唐たちばなの略(中国原産)である。詳しくは別項参照。 D.ナツダイダイ(夏柑,夏みかん)C. natsudaidai 原木が判明している。山口県長門市の海岸に漂着したカンキツを西本チョウさんが拾い,種をまいたところ得られた。着果した果実が翌年の春から夏にかけて食用となる。酸味と苦みに特徴がある。明治維新で職を失った士族の栽培を奨励された。 寒さに遭うと,落果やす上がりを起こしやすい。甘夏:大分県の川野さんが昭和10年に発見し,川野ナツダイダイともいう。 E.ブンタン(文旦)shaddock,pomelo(果実) ザボンともいわれ,学名はC, grandis var. ○○である。カンキツ類のなかでは最も果実の大きいグループである。 本田文旦,土佐文旦などがある。果肉は淡黄色か淡紅色であり,果汁は少なく,風味がやや淡泊で,厚い果皮は砂糖煮(文旦漬け)などに利用される。 晩白柚(ばんぺいゆ)は2kgにもなる。1920年にベトナムから導入された。 F.グレープフルーツ(grapefruit) C. paradisi 西インド諸島で18世紀に発見された(1814年)。名の由来は,果実がブドウのように房状に着果する(左写真参照)から,あるいはブドウのような芳香があるからともいう。 サイズは夏みかんくらい,文旦類と他のカンキツの雑種(偶発実生)と考えられている。その理由は,何故か?文旦の仲間は,ハッサク,イヨカンなどと同様に種子の中の胚の数が1つで単胚(雑種胚)である。しかし,グレープフルーツは,ウンシュウミカン,オレンジ,ポンカン,レモンなどと同じように胚数が多く,これを多胚といい,一つは雑種胚で,他は無性胚(珠心細胞に由来する)である。多胚性は単一あるいは複数の優勢遺伝子に支配されており,劣勢ホモの場合に単胚性となる。グレープフルーツが,文旦(単胚)と多胚性カンキツとの自然雑種と考えられる理由である。 cf:カワチバンカン:(国産のグレープフルーツ) ブンタンの血を引く自然交雑種と考えられ,熊本県河内吉野村で発見された。果実は大きく倒卵形,果皮は滑らかで柔らかいが,厚く剥きにくい。果肉は淡黄色で果汁が多い。カワチバンカン以外にジューシーオレンジや美生柑の名で,出荷されている。 G.ネーブルオレンジ navel orange(C. sinensis) 中国原産のオレンジが,シルクロードを通り,ヨーロッパにもたらされた。それから,栽培が広まり,地中海沿岸諸国の気候風土に適していたことから普及していき,新大陸の発見とともにブラジルやアメリカに導入され急速に産業として発達した。スイートオレンジの早生種である。 ワシントン・ネーブル(C. sinensis var. brasiliensis 'Bahia')は,ブラジルのバイア地方で発見された品種がアメリカ農務省により導入され,ワシントン市のガラス温室に植えられたことから,その名がついた。生食,ジュース,マーマレード他に利用される世界的な栽培品種となった。また,ワシントン・ネーブルの枝変わりである,清家ネーブル,吉田ネーブル,森田ネーブルなど多くの系統が発表されている。 普通系common orange:へそがない。 バレンシア・オレンジは,バレンシア(スペイン)原産でなく,ポルトガル原産と推定される。オレンジ類の中では世界で最も生産量が多い。晩生種であり,我が国では果実の発育に必要な高温が得られにくいので栽培適地が限られる。 オレンジは,地中海沿岸に多く栽培されている。(参考:スペインのオレンジ) H.清見(C. unshiu * sinensis) 1949年温州ミカンの宮川早生(tangerin)×トロビタオレンジ からできた。タンゴールの1品種である。1979年命名。2月から3月上旬に熟する。暖地向きである。果肉は,柔らかく多汁で品質良好である。 この 「清見」×「ポンカン」から,デコポン(品種名としては,不知火;商標 凸ポン,キヨポン,ヒメポン)が育成された。果頂部が盛り上がるのが特徴であり,その名の由来である。果皮は剥きやすく,品質良好である。 ポンカン(C. reticulata 'Ponkan'):インド北部原産で,mandarinの代表品種である。低しょう系と高しょう系がある。 I.三宝柑(C. sulcata) 和歌山城内に原木があり,紀州徳川家は門外不出としていた。和名は献上するときに三宝に載せたことに基づく。果実はダルマ型で,淡黄色,3-4月に熟し,酸味は少ない。 J.伊予柑(いよかん,C. iyo) 1887年山口県で発見された。ポンカンとオレンジの雑種ではないかと考えられている。1955年に,宮内さんが枝変わりを発見,宮内伊予柑と命名され,ウンシュウミカンの更新とともに栽培面積が広がった。果実は偏球形で250-300gで甘味と酸味が調和している。果面は濃橙色で美しく,芳香がある。 K.レモン(C. limon) ミカン科シトロン類,インド原産とされる。ポストハーベスト農薬問題で,国産復活 L. シトロン(C. medica) インド原産で,マルブッシュカンと呼ばれるように,ブッシュカン(C. medica var. sarcodactylis)の仲間である。ブッシュカンは,果皮が厚く,果肉がほとんど無く,果実が大きいものほど心皮の分裂が著しく,あたかも手の指をあわせたような形となることから,珍重されてきた(左写真参照)。 |