概要

研究について

 天然物有機化学分野では,有機化学を通して,天然物の可能性を探ることを目的に,天然物の有機合成と生理活性評価を中心に研究活動を行っています.
 有機合成は,化合物を人工的に作り出す学問で,化学の領域に分類されます.その研究室は,理学部,工学部および薬学部にたくさんあります.地方の国立大学の農学部で有機合成を行っている研究室は希少ですが,生物,自然や環境などをより身近に感じながら研究できることが,農学系の有機合成の大きな特徴です.当研究分野でも,化合物の生理活性を調べるため,生物よりの化学に関する研究を中心に行っています.

 有機合成のターゲットとなる化合物は,複雑な構造を持つものではなく,生理活性を示すことが予測される小分子です.基本的な生理活性の評価は当分野内で行っています.
 したがって,上の図に示すように,化合物をつくる,生理活性を調べる,さらに活性を強めるために化合物の構造をかえる,という一連のスパイラル型の研究スタイルで新しい生理活性物質を生み出しています.それらの化合物は,医薬品化粧品試薬香料および農薬などの開発のための基盤分子になってくれればよいと願っています.

 天然物有機化学の歴史は18世紀後半まで遡ることができます.特に20世紀の中頃はこの学問の最盛期といっても過言ではなく,重要な抗生物質やホルモンなどが発見され,人間の生活は一変し,寿命も飛躍的に伸びました.
 今でも菌類,植物および海洋生物から新しい天然有機化合物が次々と見つかっています.それらの中には現時点では実用性に乏しいものもありますが,未来にどのような必要性が生まれてくるのか予測することは極めて困難です.例えば100年以上前に,抗ウイルス性物質が必要になってくると考えた人がいたでしょうか?
 有機化合物の必要性は,生化学,分子生物学や微生物学などの学問の発展とともに変化し続けるのです.
 皆さんが開発した新しい化合物は,仮に数年の内に実用化されなくても,10年先,20年先,ひょっとしたら世紀を超えて,脚光を浴びることになるかもしれません.天然物有機化学は,そのような有機化合物の構造を決定した瞬間,有機合成を達成した瞬間および生理活性を明らかにした瞬間の感動によって支えられています.
 さらに詳しくはnihei98アットcc.utsunomiya-u.ac.jpまでお尋ねください.

教育について

 「平日の日中は研究に集中すること」当分野の規則はそれだけです.反応,精製,分析および活性測定の繰り返しにより,新しい機能性分子が生まれます.平日,多くの学生は実験台に向かって,積極的に実験を行っています.
 テストとは異なり,研究には初めから答えはありません.でも,答えの予感はあります.根気強く実験を繰り返し,答えの予感を確信に変える必要があります.時間がかかることもあるかもしれませんが,その過程を含めて,「楽しい」と感じていただければ,大変うれしいです.時間をかけて得られたものは,簡単に失われるものではないはずです.
 当分野では,TLC,HPLC,NMRおよびMSなどの様々な分析手法を日常的に使用します.したがって,有機化合物の合成,検出,精製や構造解析などの化学実験の進め方を習得できます.NMRには抵抗を感じる方もいますが,約1年間,研究を続ければ,自分自身で機器を操作し,スペクトルを解析できるようになります.また,様々な試薬を使用するため,有機化合物の基本的な取り扱い方も身につきます.

進路について

 大学院に進学する学生が多く,博士課程と修士課程の修了生は主に,研究・開発職に就いています.例えば,化粧品,香料,製薬や試薬など関連する化学メーカーに就職したり,公務員になったりして活躍しています.