当初計画:1989.9.-1994.9.(5 years)
計画延長:1994.9.-1996.9(2 years)

トルコ半乾燥地域農業開発現地実証調査

The Trial Agricultural Development Project for Semi-arid Areas

低温要求性の多少によるリンゴの発芽・開花時期の相違(チュクロバ農場,アダナ郊外/トルコ)
展葉している右奥の品種は「アンナ」で既に幼果がある。それに対して左の「ふじ」は発芽していない(1994年4月)

はじめに 

 本項は,プロジェクトの最終年度(1994)に計画打ち合わせ調査団員として参加した短期の印象に基づくものであることをお断りする。そのため,カウンターパート機関として48国営農場を統括するTIGEM総局(農業村落省農場経営総局,アンカラ)とプロジェクトサイト(アダナ近郊)往復しながらの会議と現地調査の連続であった。

 TIGEM総局別館(アンカラ,トルコ)

プロジェクトサイトの気象観測露場と圃場(1994)

畑地灌漑用水路(チュクロバ農場,1994)

レインガン(大型スプリンクラ)

樹冠下灌漑用のミニスプリンクラ

プロジェクトの背景

 トルコは食糧自給国であり,農業は基幹産業である。しかし,広大な休閑地・未利用地があり,灌漑普及率も低いことから,潜在的な農業開発・食糧生産のポテンシャルを十分活かしていない。トルコ側では,EU(関税同盟)への農産物の輸出のための商品価値の高い作物,綿花栽培(オスマン帝国時代に強制)から新作物導入への希望などがあり,南東部アナトリア開発計画(Guneydogu Anadolu Projesi )を推進しており,南東部8県の総合開発計画(13の灌漑発電プロジェクト)により,年間降水量300mm程度の広大な地域(クルドの人々が住む潜在的な農業ポテンシャルが高い地域)へプロジェクトの成果を移転したい。
 日本側では,日本企業の農業開発事業の推進,日ト関係改善とカウンターパート機関を通じた一般農家の営農改善,世界の他の半乾燥地域における農業開発のためのノウハウの修得の期待があった。

<実証調査とは何か?> 農業技術を実証的に試験し,基礎的な栽培技術データの蓄積と農業経営面のデータを得て,農業開発の基本構想を策定する。それにより相手国の農業技術の開発,発展に資する。ここでは,半乾燥地における本邦企業による農業開発協力事業の推進のために,節水方式の灌漑技術を導入しながら,畑作,野菜,果樹等の実証的な栽培試験を行う。

実証調査の前に> 農業基礎調査として,トルコ側の農業開発協力への具体的なニーズや本邦企業の事業参入可能性や関連情報収集のための基礎一次調査,トルコ政府や県レベルでの半乾燥地域農業開発計画,カウンターパートや実施サイトを概定するための同二次調査,対象品目の市場流通制度や状況,EU(当時はEC)への輸出の可能性を調べた市場・流通調査などがプロジェクトが実施されるまでに行われた。

灌漑(Irrigation)の方法
 半乾燥・乾燥地農業に欠くことの出来ない灌漑方法を講義では紹介するが,ここでは項目のみとする。
散水方式
A スプリンクラ灌漑

  複式スプリンクラ
   定置式
   手動式(半可搬・可搬)
   トラクター牽引式(滑板・車輪付)
   自走式(横移動型・横移動車輪付)
   自動式(旋回型・配水支管横移動型)
  単式スプリンクラ
   手動式
   トラクター牽引式
   自走式(ケーブル牽引・ホース牽引・ ホース巻取り式)
  ブームスプリンクラ
   トラクター牽引式
   自走式
B 定置パイプ灌漑
   多孔管灌漑
   点滴灌漑
C 地表灌漑
   畦間灌漑
   ボーダー灌漑
   コンターディッチ灌漑
   水盤灌漑
D 地下灌漑

<問題点> 本プロジェクト実施中に湾岸戦争(1991年1月)が起こり専門家の避難が余儀なくされ,また長期専門家の交代に伴う空白期間があったこと,安全確保の面からプロジェクトサイトが本来の半乾燥地ではないが,夏季に高温乾燥,雨季には排水が不良な現サイトとなったこと,落葉果樹には,冬季が温暖過ぎることと苗木から結果時期までの遅れ,など多くの要因が重なり,試験予定年次では成果が不十分と判断され,試験項目を絞って2年間延長された。
 このように当初計画外の事態が連続したプロジェクトに参画された専門家達の苦労は本当に大変なものだったと推察します。


 appendix

アダナ空港における荷物検査風景(1994)
機内持ち込みでない荷物は,空港係員に台車上の荷物を
「これが自分の物」と手で示さなければ積み込んでもらえない。