シキミ(Illicium属:イリキウム属)

植物のある風景(その15)

「悪しき実」あるいは「ハナノキ」 Japanese anise


宇都宮市大谷にて

 シキミ科は本属からなる単型の科である。北米,中国南部,インドシナに約40種と我が国に1種自生する。

 左は,Illicium anisatum L.で,本州,四国,九州から朝鮮半島南部,中国に分布し,低山の林地に自生する。常緑の高木で,葉は有柄,長楕円形から倒卵形,滑らかな革質で香気があり,抹香の原料とされる。

 3〜4月に小枝の葉腋に3cm程度の淡黄色の花をつける。萼片と花弁はほぼ同形で,合わせて12枚あり,多数の雄しべがある。雌しべは10本前後で放射状にならび,互いに癒着して星形の果実をつくる。有毒植物で,葉,樹皮,なかでも果実に強い毒性がある。

和名は,果実の有毒性から「悪しき実」の意味で,「悪」が省略されてシキミになったとされる。古くからハナノキ,コウノキといい,墓前や仏前の供花に用いられ,寺院の境内などに栽植されている。

同属のI. verum Hook. f.は,和名トウシキミ,英名star aniseで,大茴香あるいは八角と呼ばれ,中国広西,雲南省からベトナム北部ぶ分布し,シキミより大形。果実は,6〜8個の袋果からなり,その形からハッカクウイキョウ(八角茴香)ともいう。種子は特有の芳香があり,薬用や中国料理の香料に利用する。これは,インフルエンザの抗ウイルス薬「タミフル」の原料として,その需要が急増している。