輸出後におけるアンスリウム切り花の老化抑制処理の検討U
(Benzyladenineと生け水に増殖する細菌の作用)
生物生産科学科 比較農学研究室
菊地 沙織
摘要
米国ハワイ州の主要輸出農産物であるアンスリウム切り花の老化抑制処理の効果を、熱帯と日本を含む温帯地域での観賞条件下で比較検討するため、本研究では、1)Benzyladenine(BA)と塩化カルシウム処理が切り花の観賞期間(vase life)に与える効果を夏期と冬期で比較する、2)切り花を一輪挿しした場合と束挿しした場合とでvase lifeを比較する、3)生け水中に増殖するさまざまな種類の細菌が切り花のvase lifeに与える影響を検証することを目的として実験を行った。 BAの噴霧処理により、夏期には切り花のvase lifeが安定して延長し、'Tropic Fire'では無処理の32.5日と比較すると22.2日vase lifeが延長した。またその効果は'Red Leilani'に比べ'Tropic Fire'でより顕著であった。一方、冬期におけるBAの老化抑制効果は夏期に比べて小さく、そして両品種で切り花のvase lifeが夏期に比べて大幅に短縮した。また、CaCl2処理による明らかな効果は、冬期・夏期ともに、両品種において認められなかった。昨年の結果と合わせて総合的に評価すると、品種間で差は見られるが、夏期に切り花を空輸前或いは空輸後にBAで処理することは老化抑制に有効であり、CaCl2の処理は切り花の老化抑制に作用しないと結論された。 BAで処理した切り花を束挿しすることによって、切り花の観賞期間が9〜10日程減少した場合があったが、その効果は昨年と比べると顕著ではなかった。ただし、昨年と今年の夏期実験を通して、BA処理をした一輪挿し切り花のvase lifeが最も長く(45.1〜51.5日)、BA処理をしない束挿し切り花のvase lifeが最も短かった(28.0〜32.8日)。総合的に評価すると、束挿しすることは切り花のvase lifeに何らかの影響を及ぼし、また一輪挿しの場合に比べてBAの老化抑制効果が大幅に減少すると結論された。このことから、ハワイの生産状況において収穫された切り花が出荷までの間、何十本もまとめてバケツに保管されている状態や、一般家庭で観賞される場合に、束挿しして切り花を生ける状態は、切り花を長期間観賞するためには適さない状態であることが示唆された。 実験開始から早期にvase lifeが終了した個体から細菌がより高頻度で検出され、また単数区に比べて複数区の生け水中の細菌がより速く増殖したことから、vase lifeの短縮と細菌の増殖に何らかの因果関係があることが示唆された。このことから、生け水に細菌を接種してvase lifeの長さを比較したが、アンスリウム病原菌を含む全ての細菌接種区で、vase lifeに顕著な変化は認められなかった。このことから、細菌の増殖それ自体が切り花の老化を引き起こしたのではないことが示唆される。また本実験において、生け水に添加した1%のショ糖は、vase lifeに影響していないことが判明した。そして、生け水にショ糖を加えた場合、ある種の細菌を混合で接種すると、vase lifeが延長したケースがあった。このことから、特定の細菌が生け水中に存在する場合に限り、生け水へのショ糖添加による老化抑制効果が明らかになることが示された。
Benzyladenine処理によるアンスリウム切り花の老化抑止効果.(上)Benzyladenineで処理した切り花、(下)無処理の切り花.この写真は、切り花を生けてから50日以上経過した時の様子である.