園芸学会2005年度春季大会(2005年4月3-4日)
冬季の温暖化が落葉果樹栽培に及ぼす影響(第5報)ニホンナシ‘幸水’果実の発育・生長に及ぼす幼果期気温の地域・年次間変動
○本條 均1・青木俊輔1・金原啓一2・吉田 亮3・福井 糧1・朝倉利員4・杉浦俊彦5
(1宇都宮大農学部,2栃木農試,3鳥取園試,4農研機構果樹研,5農研機構本部)
Effects of global warming on temperate fruit crop production
5. Yearly variation of air temperature for young fruit stage on fruit growth and development of Japanese pear ‘Kousui’.
Honjo, H., S. Aoki, K. Kanehara, A. Yoshida, R. Fukui,T. Asakura and T. Sugiura
【目的】 前報(農業環境工学関連4学会合同2002年大会;園学雑,71(別2),p288,2002;園学雑,72(別2),p.338)までに,西南暖地の一部における‘幸水’の開花日の遅延傾向とそれ以外の地域での開花日の前進化傾向を認め,温暖な地域ほど開花予測モデルによる推定開花日と実開花日との誤差(RMSE)の変動が大きいことを報告した.また,‘二十世紀’,‘幸水’,‘豊水’を対象に温暖化に伴う開花・収穫日の全国的な変動について,品種や地域による前進あるいは遅延の状況を類型化した.すでに,ニホンナシ果実の生長や発育に関する気温の影響については,佐藤(1968),遠藤(1973ab)他多くの報告がなされ,杉浦ら(1995)は,‘幸水’を対象に気温の影響のみを実験し,幼果期は気温の影響を強く受け,その平均気温が高いほど収穫期が前進することを解明し,その推定モデルも報告した.
本研究では,前述の3品種のなかでも開花・収穫日の前進化傾向が全国的に顕著であった‘幸水’を対象に,開花後の気温経過の近年の変動状況から,それが収穫期や生育期間に及ぼす影響について,気候温暖化との関係解明を試みた.
【資料と解析方法】 生態資料は,農研機構果樹研究所編集による「落葉果樹品種に関する試験打合わせ会議資料(1967-1982)」,「果樹系統適応性・特性検定試験成績検討会資料−落葉果樹(1983-2000)」,および栃木農試の「果樹の開花期,収穫期に関する資料(1970-2000)」を用い,各調査地点について開花期と収穫期を調査した.開花開始日と終了日の平均を実開花中央日と定義し,同様に収穫日についても開始日と終了日の平均を収穫中央日とした.生育期間は実開花中央日から収穫中央日までの日数である.また,杉浦ら(1995)の定義に従い,‘幸水’幼果期を開花中央日からの33日間として解析を行った.なお,東日本では25年,西日本では20年以上の生態資料を確認した秋田,宮城,福島,栃木,茨城,千葉,新潟,愛知,長野,岡山,山口,愛媛の12地点を対象にした.
気象資料は,「都道府県気象資料(地上・アメダス;CD-ROM版)気象庁」用い,生態調査資料の調査地点に最も近い気象官署による観測点を選択した.アメダス観測は1976年以降であり,欠測等もあるので,アメダス観測点とその最寄りの地上気象観測点との間で日平均気温,日最高気温,日最低気温のそれぞれについて,回帰式を作成し気象資料を補完した.
【結果および考察】 結果を概括すると,山口,岡山,愛知では幼果期平均気温の上昇傾向が,その他,宮城と愛媛以外の地点でのわずかな上昇傾向を認めた.収穫日は,新潟,千葉,茨城,宮城,福島で明らかな前進傾向が観察された.果実の生育期間は栃木ではやや長期化するものの,新潟,千葉,茨城,宮城,秋田では明らかな短縮傾向が認められた.解析した全ての地点で,幼果期の平均気温と果実の生育期間とに負の相関関係が認められ,長野では気温1℃の上昇により生育期間は約4日短縮した.全ての地点を総合すると気温1℃の上昇が生育期間を1.6日弱短縮することとなり,杉浦ら(1995)が提起した満開から収穫までの日数(Y)を求めるY=-1.24T+147.2(T:満開後33日間の平均気温)の傾きに良く一致していた.しかし,幼果期以降の平均気温と果実の生育期間には一定の傾向は認められなかった.
ここでは,暖候期に起こる開花や果実生長に及ぼす寒候期の温暖化気候変動の影響の一端を解析したが,生態調査資料が得られた全期間についての平均的な傾向を示したに過ぎず,最近特に顕著になりつつある気候温暖化(Global warming)と都市の熱汚染(urban warming)の影響をどのように区別,評価していくかが重要となろう.著者らはすでに気候温暖化による気温上昇分から都市化の影響を分離する試みを宇都宮市について行い(Honjoら,2004),市街化区域が拡大しつつある地方都市で,urban warmingの影響を受けている気象観測所の資料を利活用する場合の問題点を提起し,さらに解明を進めている.