栽培気象学  ー 地球に吹く風 ー

Agricultural Meteorology

講義ノートから(抜粋)

空の大きさの認識

古来,気象学を知らなくても,人は空間スケール区分を認識していた。⇔時間スケールと比較しよう)次の言葉は,全て知っていますか?

大空(おおぞら)・中空(なかぞら)・上の空(うわのそら) 

定義は? 「大空」はイワシ雲・スジ雲が出るような高さ:5000から6000mまでの空間

「中空」は,鯉のぼりの高さから雨雲が飛び交う数1000mまで  大・中とあるが,小空という表現はない!では,何か?  

人間の生活に一番近いものは,「上の空」で人の背丈から松の木の梢くらいの高さ(羽衣伝説)までの空間である。スケール的にはマクロ・メソ・マイクロに対応した言葉である。

  そのような言葉が,どのように使われているか,実例を見ましょう。

 (1)唱歌の「鯉のぼり」のなかには,「甍の波と雲の波 重なる波の中空 橘香る朝風に 高く泳ぐや鯉のぼり:1913年」。こちらの唄は,今「屋根より高い鯉のぼり ・・・」におされている。

 (2)「さすらいの唄」には,「行こうか戻ろか北極光(オーロラ)の下を ロシアは北国果てしらず 西は夕焼け東は夜明け 鐘が鳴ります中空に:北原白秋/中山晋平:1917年」

 (3)源氏物語 「山の端の心も知らで行く月は 上の空にて影や絶えらむ」:この場合の上の空は「空中」の意味で用いられている。

 地球の大気は,3/4が対流圏(高さ11km)に存在し,地球の半径(赤道で6380km)に比べて,非常に薄いことに注意しよう!半径の1/600である。しかし,この大気があることと,大気中に水蒸気があることが,地球上で人間が生きていける理由でもある。また,太陽により赤道付近で暖められた熱エネルギーが大気の大循環と海洋で輸送されて行くことが気象に大きく影響する。熱エネルギーは顕熱と僭熱で運ばれる。この部分は,非常に重要なので別の機会に説明しよう。

 風が地球を巡ることが重要です。時には,災害をもたらす場合もある。

1.風と気流の違い

風は空気の地表面に対する相対的な運動であり,その水平成分で風向と風速を持つ。普通,地上10mの高さで測定し,その時刻の直前10分間の平均であらわす。

それに対して,気流は,水平と鉛直成分を持つ。上昇と下降気流があり,上昇気流域では水蒸気の凝結により,雲ができやすい。

2.風速と風程

単位時間に空気が移動する距離を風程という。風程を時間で割ることにより単位時間内の平均風速が求められる。単位は,m/sであるが,ノット(1knot1852m/時)も用いられる。

類似した気象用語に視程がある。視程は 0:50m以下から,9:50km以上までの10階級の区分があり,気象官署等で観測されています。

 風速の測定原理は多様である。

 ◎ 風車の回転数から風程を求め平均風速を求める方式(風車型風速計,風杯風速計)

 ◎ 風圧(総圧と静圧)を測定して,風速を求める方式(ダインス風速・風向計,ピトー型風速計)

 ◎ 風による物体の温度変化から風速を求める方式(熱線風速計)

 ◎ 大気中に固定した2点間を超音波が伝わる速度から求める方式(超音波風速計:起動風速がなく,応答速い):センサを組合わせて,3成分の風速・気温とベクトル合成により風向が測定できる。

 

観測タワーから伸びたアームの先に超音波風速計(気象研究所,つくば市)

 風向は北から右回りでN, NNE, NE, ENE, E, ESE, SE, SSE, S, SSW, SW, WSW, W, WNW, NW, NNWの16方位で観測する。

Beaufort(ビュフォート)風力階級観測機器により測定できない場合でも,風のたなびき方や枝葉の揺れなどの目視観測で,おおよその風速を知ることが出来る。このような目的で開発されたものの1つがビューフォート風力階級で,0〜12の13階級に分け,数が大きいほど風速大となる。イギリスのF. Beaufortが考案した。瞬間的な風速は,これによることが出来るが,ある地点における長期間の風の強さや風向を知るには,扁形樹などを利用して情報を得る。

Beaufort(ビュフォート)風力階級

風力階級

名称

 

風速範囲

状況

Calm

平穏

0.00.2m/s

煙突の煙がまっすぐ

Light air

至軽風

0.31.5

煙が曲がる,風見は静止

Light breeze

軽風

1.63.3

木の葉がゆれる

Gentle breeze

軟風

3.45.4

小枝が絶えず揺れる

Moderate breeze

和風

5.57.9

砂ぼこりが舞い上がる

Fresh breeze

疾風

8.010.7

葉の繁った小枝が揺れる

Strong breeze

雄風

10.813.8

大枝が揺れ,電線が鳴る

Moderate gale

強風

13.917.1

風に向かっては歩行困難

Fresh gale

疾強風

17.220.7

小枝が折れる

Strong gale

大強風

20.824.4

屋根瓦が動く

10

Whole gale

全強風

24.528.4

樹木・家屋が倒れる

11

Storm

暴風

28.532.6

被害広範囲に及ぶ

12

Hurricane

台風

32.7以上

被害猛烈をきわめる

 

 

 

 

偏形樹とは?

栽培気象学

wind deformed tree

気象と暮らし

霧降高原にて(2002年)

 

 見過ごしがちな風景のなかにこそ重要なことがある。

 風の強い海岸や高山には,「偏形樹」と名前が付けられる変わった樹が観察できる(写真中央の樹)。

 これは,風上側の枝が風による乾燥,あるいは風により運ばれた塩や砂の粒子でヤスリをかけられたようになって,風上側の芽の成長が妨げられ,結果的に風下側の枝だけが伸びて偏った形になり,風がなくてもなびいているように見えるのです。

 風力階級は,良く知られていて,ある瞬間の風速の強さがわかります。偏形樹のスケールを使えば,ある地点の長期間の風力エネルギーの評価に使えます。

参考資料:吉野正敏著「風と人々」東大出版会UP選書