研究テーマ

 
 
微弱発光(フォトン)計測による食品の機能性の評価について

 食品に関する人々の関心は“味”や“嗜好”から、“健康の維持・増進”“医食同源”まで広がっています。特に癌や、生活習慣病の発症には酸化障害が関わっていることが報告されており、その大半は「活性酸素」や「フリーラジカル」によって引き起こされます。 これらに対し、過酸化の抑制、抗酸化性の増強を効能とする健康食品は増加の一途をたどっています。しかし、安易に高機能性をうたうものが多く、問題視されている現状があります。

 この背景にたち、我々は迅速かつ簡便に多種多様な食品の機能性を同一基準で評価するマーカーとして微弱発光(フォトン)現象に着目しました。フォトンは、肉眼の検出限界以下の微弱な光で、生体反応と結びついていると言われています。近年、化学発光用の試薬の開発が進み用途が拡大したため、人々の注目が集まっている分野です。そこで、研究室では本手法が食品の機能性評価の公定法となりうることを示すための安価な微弱発光計測装置の開発と各発光系の食品への適用方法の確立を目指して研究しています。

(独)食品総合研究所、浜松ホトニクス、栃木県産業技術センターと共同

   
 
携帯汎用型微弱発光計測装置の開発

 食品の成分や機能性の分析には高度な設備や技術と時間を要するため、中小企業や地方の行政機関ではより安価で簡便な手法の確立が求められており、微弱発光はその手法になりえる可能性があります。

 しかし、微弱発光の計測装置は大型・高価であり、微量試薬注入やガス制御、熱励起などが可能な、可変性に富む携帯型の装置が開発されていない事実が普及を妨げる一因となっています。この背景のもと、我々は浜松ホトニクス株式会社・(独)食品総合研究所と共同で、新しい微弱発光計測装置の開発を行っています。

 
 
微弱発光を用いた日本酒(清酒)の品質評価手法の開発
 中小零細企業である酒蔵は、杜氏の高齢化、後継者の不足を抱え、日本文化である清酒造りの高度な技術を伝承することが困難になり、愛飲家の日本酒離れに拍車をかけています。

清酒の熟度や抗酸化能を化学的に評価する方法には3DG法やTBA法がありますが、測定対象が単一成分であることや測定法が煩雑なため現場には定着していません。
この背景の中、本研究では、迅速で簡便、かつ高感度が長所である微弱発光(フォトン)を用い、清酒中に多種存在する酒質の熟成・劣化に大きく影響している過酸化物質と抗酸化物質の総量の迅速推定法の確立、発光量と熟練者の官能評価や成分との因果関係を解明します。
さらに酒質の良否に大きく影響する麹菌の繁殖過程のモニタリングをフォトンで行い、清酒の貯蔵・熟成・出荷管理工程に利用できる新規の客観的評価法を開発することを目的とします。栃木県産業技術センターや県内の酒蔵の皆さんと研究を行っています。

日本酒好き集まれ! 酒造りは大変面白いですよ!

化学発光を用いた清酒の熟度の評価(左上)
蛍光分光法を用いた麹菌活性の評価(右上)
マイクロプレート上の麹菌の繁殖状況(左下)
左から12時間、26時間、36時間経過(右下)

熟成酒(古酒)の官能・化学分析・フォトンによる新しい評価軸の確立

 近年、清酒の新しい商品として、“熟成酒・古酒”に注目が集まっています。長期熟成酒とは、満3年以上貯蔵熟成させた日本酒のことで通常の日本酒(新酒)とは異なり、独特の風格と香味があります。その香味は、「少し焦げたような香りがし、その後バラ、はちみつや香ばしいアーモンドの香りになり、チーズやバターの香りへ変化する。色も黄金色から琥珀色へと変化する」などとその時の流れや、風土に思いをはせた言葉で表現されます。しかし、このような魅力的な熟成酒も一歩間違えば、劣化した老香に返信することもあります。どの、タイミングで商品として出荷する、どのように品質を維持する、商品の内容や成分の特徴を官能に結び付けて消費者へいかに伝えるか。などわからないことが多いのも事実です。そこで、研究室では、新しい熟成酒の評価軸を開発するために、官能・理化学指標・微弱発光の相互関係を明らかにしたいと思います。

島崎酒造(栃木県烏山町)、栃木県産業技術センターと共同
栃木県アンテナショップささらでのアンケート調査
ささらガーデンでの調査
どうくつ熟成酒

 

消費者の望む新たな清酒表示ラベルの開発

 商品の容器および包装に印刷されているラベルは、消費者が購入する上で重要な情報源となります。
しかし、清酒ラベルに記載されている情報量は他の食品と比較しても非常に少ないのが現状です。
主に記載されている内容は、米の品種、日本酒度、酸度などと専門的であるため、消費者には伝わりにくい実態があります。

  製品の特徴を正確に消費者に伝えるには味・香りを文章表記するだけでなく、新たな指標で数値化し、表現する必要があると考えられます。
  そこで本研究では消費者に清酒の情報を分かり易く伝える指標の開発を目指します。2010年には、四季桜生もと純米酒を題材に、新たな品質表示ラベルを開発し製品化しました。是非ご賞味ください。

宇都宮酒造(栃木県宇都宮市)、栃木県産業技術センターと共同
宇都宮酒造(四季桜)
四季桜生もと純米酒発売
新しく開発した清酒ラベル

 

太陽光・人工光型植物工場における高付加価値生食用野菜の生産技術の開発

 近年、カット野菜などの生食用野菜は食文化の多様化とともに食する機会が増しています。加えて、食の安全や健康志向の高まりによって有機や無農薬と言った高付加価値製品が人気を集めています。
  さらに、生産拠点として、温度、光、CO2、肥料など植物生長に影響を及ぼす因子を人為的に制御できる「植物工場」の技術が注目されています。
 宇都宮大学にも太陽光型、人工光(蛍光灯・LED)型の植物工場が建設されています。
  この背景のもと、本テーマでは、@どのようにしたら安全・安心な清浄度の高い野菜がつくれるのか、Aどのようにしたら抗酸化性の高い機能性の高い野菜がつくれるのかにターゲットをあて研究を行っています。

 
高清浄度な生食用野菜の生産技術について

しかし、生鮮野菜は各過程において土壌や塵埃の環境因子を介して微生物汚染を受けやすく、食中毒の原因にもなっています。その結果、現場では過剰ともいえる微生物汚染に対する洗浄・殺菌が実施されていますが、細菌数の減少には限界があり栽培時からの清浄度を低減することが重要となっています。
  また、殺菌を行うことで食品本来の形態や味を損なう恐れがあり食育の観点からも問題とされています。

これらの問題の解決には、供給される生鮮野菜の微生物汚染を軽減し、周年を通して安定した清浄度を保つ栽培技術の開発が期待されている。そこで、本研究では栽培環境が制御可能である施設園芸生産を対象として栽培、収穫過程での微生物の挙動の把握とその汚染源の特定を行い、清浄度の高い野菜の栽培に必要な管理技術を検討することを目的とする。

藤田エンジニアリング、正和と共同

宇都宮大学太陽光型植物工場
宇都宮大学人工光型植物工場(三色LEDとHf蛍光灯)
機能性(抗酸化性:ORAC)の高い生食用野菜や食品の生産技術について

 近年、紫外線の増加や大気汚染、喫煙、精神的なストレスなどにより体内で活性酸素種が発生することが知られている。
  過剰に発生した活性酸素種は体内で細胞やDNAを損傷し、癌や成人病、老化の原因となることが考えられています。
 このため、体内では活性酸素種を消去する機構が存在し、ビタミンCやβ-カロテン等の食品などから得られた抗酸化物質による防御機構があり、抗酸化物質に対して様々な評価法が模索されています。その中でORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)法は米国国立老化研究にて確立された抗酸化能評価法であり、生体内での抗酸化能の影響を解析することを目的に作られ、日本でも今後全ての食品を統一基準で評価する指標として普及が見込まれます。そこで、本研究ではORAC法をマーカーとしてその適用法を明らかにするとももに、ORAC値の高い野菜の栽培方法や食品の製造方法を明らかにしようとするものです。

栃木県産業技術センターと共同

機能性の高い野菜の生産方法は?
LEDによる光質の制御と抗酸化野菜の生産
蛍光分光法によるORAC(抗酸化性)の計測    (TECAN infinite)
農村空間での再生可能エネルギーの食料生産技術への利活用について

 農村地域に豊富に賦存する再生可能な自然エネルギーを活用し、農業施設の維持管理費の軽減、温室効果ガス排出量の削減や、これによる農村地域の新たな価値の創出・活性化させる取り組みが増加しています。
  なかでも、太陽光発電は、技術の発達により導入が手軽になり、多くの地域での活用が望まれるます。しかし、住宅用を中心に導入が進む都市部に対し、農村地域へ太陽光発電システムを設置した事例は未だ少ないのが実態です。
  本研究では、再生可能エネルギーを利用した持続的な食料生産を目的とした施設、UU Sustainable Village(UUSV:太陽光パネル搭載エコファーマーズハウス、ヒートポンプイチゴ温室、LED植物工場)を対象とし、周年を通した食料生産に必要とされる物質・エネルギーコスト、太陽光発電によるエネルギー自給率、収支についての分析を行います。

閉鎖生態系における食糧生産と廃棄物処理について

 短期間の宇宙滞在から、長期間の宇宙空間での定住へと人類の夢は広がりつつあります。そのために、無重力、宇宙放射線と並んで克服しなければならない大きな問題は、閉鎖空間での”自給自足”です。

 小さな空間で食糧を生産し、ガスを循環し、廃棄物を速やかにリサイクルしなければならず、まさに「ミニ地球」を作るようなものです。その中で、食糧生産とガス交換(炭酸同化)の大きな役割をするのが「植物」になります。また、地球上の生活と同じようにゴミ処理(資源循環)は閉鎖系では特に重要となります。そこで、本研究では効率的な植物生産とそこから生まれる、非可食部、ならびに生命活動に基づく廃棄物処理の方法、さらにそれらの植物肥料養液の循環利用を可能にする技術開発を行っています。人間2人を閉じ込め、人間・動物・植物が共存共栄する興味深い実験が青森県で始まっています。

(財)環境科学技術研究所と共同

 
   
 

 微小重力環境下での植物栽培装置の開発

 

 宇宙空間での、植物の生理特性、生長特性、生殖特性などを明らかにするためには、高い信頼性のある植物栽培装置の開発が必須項目となります。微小重力下では、植物への直接的な影響のみならず、植物を取り巻く環境、例えば液体の挙動の変化、対流の抑制、微量ガスの蓄積など二次的に発生する現象をも制御しなければ、本当の意味での重力の植物に及ぼす影響を解明することはできません。
 つまり、真の意味での対照区となる植物実験装置の開発が必要になるのです。また、宇宙実験では、省スペース、省電力、搭乗員の負荷軽減なども同時に求められます。要素技術としては、照明、養液循環、気流制御、温湿度制御、生体情報の検出などがあり、それらを集積した植物栽培装置の開発を試みるのが本研究になります。

東北大、大阪府立大学、東京大学、東海大学と共同

   
   
  過去の卒業論文・修士論文・博士論文

博士論文

 

2009年3月

閉鎖系物質循環システムにおける嫌気性発酵処理の導入および評価に関する研究(森谷和彦)
修士論文

2011年3月

蛍光分光法を用いた清酒製造工程における麹菌活性評価技術の開発(片岡皆人)

2009年3月

清浄度の高い生鮮野菜の生産に向けた衛生管理技術の検討(黒川祐治)
微弱発光を用いた日本酒造りでの品質評価手法の開発(山口貴之)
2003年3月
新規微弱発光を用いた活性酸素・フリーラジカル評価手法の検討(高橋大輔)
2001年3月
微小重力場植物栽培装置における養水分供給法の開発(中村智丈)
卒業論文

2011年3月

植物工場内の栽培環境が栽培植物の清浄度に与える影響(鯉沼誠也)
農村空間での食料生産へむけた再生可能エネルギー活用法について(高野裕介)
清酒ラベルに導入する新たな品質評価指標の開発(杉本真理)

2010年3月

NaClO発光による清酒の熟度評価法の開発(阿部恭幸)
培養液原水の純度が植物生長におよぼす影響について(石上勝也)
生食用野菜の機能性と清浄度の迅速評価手法の検討(田中耕介)
高温乾燥空気利用による野菜種子の殺菌手法の検討(保科友美)
消費者の望む熟成酒の品質評価指標の開発(宮本梨沙)

2009年3月

清浄度の高い生食用野菜の生産に向けた種子殺菌方の検討(漆戸崇智)
長期熟成酒の品質変動の検討(片岡皆人)

2008年3月

生食用野菜における微生物管理方法の検討(海老原映里)
食品微生物検査に対応した携帯型微弱発光計測ユニットの開発と適用(野元加奈)
微弱発光による清酒の抗酸化能の評価(山根 歩)

2007年3月

食品の評価に対応した携帯型微弱発光計測ユニットの開発(金子裕仁)
CEEFにおける廃棄物処理システムの分解特性と回収性(黒川祐治)
微弱発光による清酒の劣化度の評価(山口貴之)

2006年3月

栃木県清酒の製造条件と官能評価。理化学指標の相互関係(岡本五月)
微弱発光による清酒の劣化・抗酸化能の評価(齋藤守弘)
2005年3月
新規微弱発光による抗酸化能の評価方法の検討(青木真紀)
2004年3月
地下部温度制御がシラカシの生育におよぼす影響(磯 裕章)
新規微弱発光を用いた活性酸素種評価手法の検討(岡崎雅季)
二酸化炭素を含む泡による害虫防除法の検討(篠原雅和)
湿式酸化処理前後における無機元素含有量の測定(山中弘之)
2003年3月
XYZ系微弱発光における計測条件の最適化(伊藤勝行)
2002年3月
極微弱発光計測によるダイズ生態情報のモニタリング(大塚直輝)
セラミック培地がコマツナの生育と内部成分におよぼす影響について(佐山誠士)
2001年3月
TDR水分計を利用した培地内水分モニタリング法の検討(湖山南基)
ハイドロボールの少量化がイネの生育におよぼす影響について(原科有一)
2000年3月
閉鎖系での湿式酸化反応におけるCO発生に関する基礎的研究(高橋大輔)
微小重力場における培地内の水分量制御装置の開発(倉田昌幸)
1999年3月
微小重力場植物栽培装置の開発−養分供給法の開発−(佐藤一樹)
微小重力場植物栽培装置の開発−栽培培地の検討−(中村智丈)
CEEFにおける湿式酸化装置の窒素収支に関する研究(山之内望)
1998年3月
閉鎖系における廃棄物処理液を用いた植物栽培に関する研究(川嶋幸子)
閉鎖系での組織培養におけるウイルスフリー苗生産に関する研究(佐藤浩平)
湿式酸化処理における触媒反応の特性に関する研究(東浦達夫)
1997年3月
植栽樹木用培地の化学的特性について(浜舘博美)
閉鎖系における植物体非可食部再生利用に関する研究(関 元弘)
1996年3月
宇宙空間(月面基地)における生命維持技術システムの開発
〜排泄物処理液による植物生産の可能性の検証〜(佐藤一樹)
都市空間での植栽樹木の生育に関する研究
〜ハイドロカルチャ−転換における植物体の生育について−(鈴木真理)