稲作の主要害虫

(ウンカの仲間)

インドネシア作物保護プロジェクト

多収性品種導入に伴う病虫害発生予察と防除体制の確立

無農薬水田における坪枯れ(旧九州農業試験場,福岡県筑後市)

 稲作害虫

 アジアの稲作における主要な害虫として,半翅目の類(ウンカ・ヨコバイとカメムシ)がいる。ここではトビイロウンカとセジロウンカを取り上げる。

 

ウンカ飛来調査用のネットトラップ

 トビイロウンカ:アジアでの最重要な稲作害虫である。長翅型と単翅型があり,幼虫期の密度や餌の条件で翅型が決まり,長翅型は4-5mmで体色はトビ色,毎年梅雨期の前線に沿って中国南部の2期作地帯から飛来侵入し,稲の株元で成虫や幼虫が師管液を吸汁する。吸汁害が激しい場合は稲が枯死し,水田で坪状に枯れる(坪枯れ)。日本では,古くからの重要害虫で天明・天保の飢饉の原因となった。東南アジアでは,国際稲研究所(IRRI)を起源とする多収性品種が普及してから被害が多発するようになった。西日本での被害が多く,坪枯れが8月下旬以降に起こることが多いので「秋ウンカ」とも呼ばれる。東南アジアでは抵抗性の稲が普及している。

 セジロウンカ:トビイロウンカと同様に梅雨期に中国大陸から飛来侵入する長距離移動性害虫である。雌成虫は長翅型と単翅型があるが,雄成虫は通常長翅型である。胸部背面に特徴ある白斑があり名前の由来となった。本種による坪枯れは起こりにくい。西日本から東北地方にまで飛来し,個体数のピークが早く見られ,「夏ウンカ」とも呼ばれる。


インドネシア・西ジャワにて

共同除草作業(灌漑等の生産基盤整備が行われた水田)
(Sukamandi,インドネシア・西ジャワ,1982)

プロジェクトについて

 インドネシアでは,独立時から慢性的な食糧不足に悩まされ,国家計画による食糧増産が行われた。1970年代ころからIRRI系統の多収性品種の栽培が普及に移り出すと,トビイロウンカの大発生による被害が大きな問題となり,毎年生産量の10%程度の輸入が必要な事態となった。そこで,稲病虫害の発生予察技術の開発と病虫害の総合管理体制の確立のために,インドネシア政府の要請により,プロジェクト方式の技術協力(1期:1980-87,2期:1987-1992年)と無償資金協力(1984-87年)による農業技術協力が行われた。第2期には対象作物を拡大するとともに病虫害発生予察のための技術者養成と第3国研修(1990-94,1995-99年)も行われ,非常に長期にわたり効率よく実施されたという特徴がある。

キーワード 

総合防除(IPM):害虫と作物の生態的研究に基づき,農薬使用を最小限に抑え,天敵や不妊化法などを応用した害虫管理。

リサージェンス:農薬散布後2,3週間して害虫が多発生する現象。その要因として,天敵の減少,競争種の除去,農薬が寄主植物の生理を変えることによる間接的な害虫の増殖率の上昇,農薬の直接刺激による出生率の増加,殺虫剤抵抗性害虫の出現などがあげられている。

インドネシアの水田におけるウンカの生態調査(1982)


IR系統の稲(左)とLocal品種(右)の草丈の違い
インドネシア・西ジャワにて

 参考:害虫駆除行事としての「虫送り」・「稲虫送り」
 源平時代の武将斎藤実盛が稲に躓いて倒れたために討たれ、稲虫(ウンカ)になったとの言い伝えから、実盛の人形を村境や川へ送る。

参考:友松・桂井・岸本編「国際農業協力論」,古今書院;
山崎・久保・西尾・石原監修「新編 農学大事典」,養賢堂