Utsunomiya University Now
シリーズ特集 環境シリーズ(その4)
気候温暖化と果物栽培ー今そこにある危機
農学部生物生産科学科植物生産学講座
宇都宮大学 広報資料UUNOW第34号(2004年4月発行)から担当部分の抜粋,この詳細については,http://www.utsunomiya-u.ac.jp/info/uunow/index.htmlも参照ください。
 教授 本條 均 
 カンキツグリーニング病により枯死寸前のシーカーシャー樹(2003年10月,沖縄県大宜味村)シーカーシャーは沖縄・奄美地方の特産果樹,ジュースや香味料として賞用。

 ミカンキジラミの宿主となるゲッキツ(同,大宜味村の民家の庭)病気の拡大を防ぐにはミカンキジラミの防除とゲッキツを植えないことが重要!

 空港に着陸すると捕虫網と殺虫剤を手にした検疫官が乗り込んで来たことはありませんか?紛れ込んだ蚊などの媒介昆虫を探すためです。

 さて,「稲虫送り」という害虫駆除行事があります。稲虫とはウンカ類のことで,江戸時代に飢饉の原因にもなりました。幸いウンカ類は日本で越冬できず,毎年梅雨のころ東シナ海を越えて飛来し水稲に被害をもたらしますが,冬には死に絶えていました。もし,彼らが越冬できるくらい暖かくなるとその影響は甚大です。

 このようなことはウンカに限ったことではありません。最近,熱帯・亜熱帯で蔓延しているカンキツグリーニング病が日本に侵入しました。今のところ沖縄地域と南西諸島の一部だけですが,この病気は媒介昆虫であるミカンキジラミの吸汁行動や接木によりミカン類に伝染します。ミカンキジラミは東南アジアを中心に分布していますが,温暖化に伴いその生息分布域が北上しそうな気配です。感染した樹は伐採するしかなく,ミカンキジラミと本病が本土に定着・蔓延することになれば,我国のミカン生産が壊滅するかも知れません。急いで防除技術などが検討されています。

 このように少し暖かくなるだけで動植物の生育適地も変化し,今までにない病害虫の侵入や多発も起こるでしょう。将来の気候温暖化が農業に及ぼす影響を想定して,新しい品種の育成や環境に優しい影響緩和技術の研究開発が実施されています。

 皆さんにいつまでも安心して美味しい果物が食べてもらえるように!