異なる培養条件下におけるタロイモ茎頂組織の生長及び組織培養系内での

大腸菌O157:H7と植物内生細菌の挙動に関する研究

 

生物生産科学科 比較農学研究室

佐藤 留美

摘要

 本研究は、組織培養系におけるタロイモ茎頂組織の生長に適した温度と培地組成を調査する事、圃場で栽培したタロイモ植物における内生細菌を検出し、分離菌の細菌学的特性について分析する事、そしてタロイモ茎頂培養組織にO157:H7または分離した内生細菌を接種した際の、細菌の生存・挙動と細菌の接種が茎頂組織の生長に及ぼす影響について調査し、タロイモ茎頂組織にO157:H7を接種することで同菌が外生または内生した状態で発根したタロイモ植物を育成することができるか検討する事を目的として行なった。また、大腸菌O157:H7の宿主外生態に関するデータを得る事で、O157:H7の感染経路を特定する糸口となる事を期待する。 タロイモ組織培養系に大腸菌を含む各種の細菌を接種した実験では、茎頂組織は枯死する事無く生長を続け、特に腋芽の分化に対しては影響が少ないことが判明したが、発根培地においては大腸菌の接種が茎頂組織の生長を明らかに抑制し、大腸菌と共存する状態で発根を誘導する事はできないことが判明した。また、茎頂組織内部からも大腸菌が検出され、特定の条件下では、人や家畜の大腸以外の組織でもO157:H7を含む大腸菌は存在し、増殖することが確認された。 タロイモ茎頂組織を16℃と28℃で培養した結果、茎頂組織の生長量は'P20'では16℃と28℃であまり変わらず、37℃でも生長することが確認された。これにより細菌と温度の関係を広い温度域で調査する事が可能である。しかしKauai Lehuaの茎頂組織の生長量は16℃で明らかに低下し、茎頂組織の生長量には16℃と28℃で品種による差が認められた。タロイモ茎頂培養においてはフロリアライトを培地に用いた場合より、Phytagelを培地に用いた場合で茎頂組織の生長が良好であった。

 

大腸菌O157:H7を接種したタロイモ茎頂組織.(左)大腸菌O157:H7を接種した茎頂組織、(右)無接種の茎頂組織.大腸菌を接種したにも関わらず、タロイモ茎頂組織の生長は殆ど阻害されていない。この場合、大腸菌O157:H7は培養培地、茎頂組織の表面及び内部から検出された.