JICA project 「南ブラジル小規模園芸研究計画」

南米でナシをつくる−果樹分野の国際農業協力−

本條 均

はじめに

 今までにJICA専門家として,インドネシア,トルコとブラジルに派遣され,主に果樹と農業気象分野での技術協力を行ってきました。本稿では,ブラジルの話題を取り上げました。

ブラジルのリンゴ栽培

 現在,南ブラジルのサンタ・カタリナ(SC),リオ・グランデ・ド・スル(RS),及びパラナ(PR)州では,リンゴが約50万t(わが国は約90万t)生産される。これは1971年に派遣された後沢憲志氏以来多くのJICA専門家の功績によるものです。しかし,MERCOSUL(南米南部共同市場)の発足に伴い,小規模リンゴ農家はウルグアイやアルゼンチンとの,あるいは国内の大規模経営農場との競争に曝され,高品質・安定生産技術やニホンナシ等の新規果樹の導入による経営安定を図ろうとした。ただ,ニホンナシについては,カサドールやクリチバーノスの日系人移住地において試作が行われている程度で,試験研究や栽培技術は模索中で,花芽異常(Floral Bud Abortion)と呼ばれる障害が年により多発し,それが深刻な生産阻害要因となり,その原因解明と制御が求められていました。

プロジェクトが始まる

 1996年12月から持続的な落葉果樹生産技術の導入・開発及び小規模園芸農家の営農基盤強化をはかるため,日伯の間でJICAプロジェクト「南ブラジル小規模園芸研究計画が,SC州農牧研究・普及公社(EPAGRI)及びブラジル農牧研究公社温帯農牧研究センター(EMBRAPA/CPACT)において開始されました。

  

ニホンナシ園(クリチバーノス近郊)幸水は咲くが,豊水は咲かない!

花芽異常の原因は?

 1997年6〜10月と1999年11〜12月の2回,専門家としてEMBRAPA/CPACT(RS州ペロータス市)を拠点にRS州とSC州のニホンナシ園の調査と花芽異常現象の農業気象学的解析を行いました。1997年は花芽異常が大発生し,品種や園地による発生状況の差異を実際に観察できました。同時に,開花期間が異常に長く8月末から2ヶ月近く続くことを確認しました。花芽異常発生と気象要因の解析結果から自発休眠の完了と関係が深い7.2℃以下の低温持続時間が少ない年に発生しやすく,特に7月中下旬の低温持続時間が少ないと異常発生が大きく,関与し,に低温持続時間が少ないこ発生しやすく,しかも同時に,8月に25℃以上の高温遭遇時間が長いと障害発生を助長することを明らかにしました。

  

          剪定を指導する短期専門家(左)とサンジョアキン試験場のプロジェクト研究棟

適地適作と気候温暖化対応

 以上の結果から,花芽異常の発生には,自発休眠覚醒前後の温度が大きく関与することを明らかにでき,低温量からみた経済栽培の適地判定の重要性を提言した。しかし,花芽異常の発生を軽減させる対策の開発も重要であり,筆者らの研究室では環境負荷の少ない自発休眠制御技術の開発を目指している。また,このような研究は気候温暖化時の落葉果樹栽培が直面する問題解決にも結びつくので,ブラジルだけの問題に留まりません。最近40年くらいを対象に調べると,わが国の果樹栽培にも少しずつ温暖化の影響が出ています。

JICAプロジェクトは終わっても

 プロジェクトは,ブラジル側からの熱心な延長あるいはフェーズIIの要請にも関わらず,日本側の国内問題(ブーメラン効果等の懸念も影響した?)が影響して,5年間で終了しました。長期的な展望を持てば,我が国の気候温暖化時の落葉果樹栽培に対応する技術開発に結びつき,国際貢献にも発展したものをと非常に残念です。

 しかし,プロジェクトは終わっても,個人的な共同研究は続いています。一昨年にはカウンターパートのDr. Herterが訪日し,宇大でセミナーをしてくれました。また,私は昨年12月に,ワークショップ「Temperate Fruit Trees Adaptation in Subtropical Areas」にEMBRAPA/CPACTから招待され,「気候温暖化と日本の落葉果樹栽培」について講演しました。ワークショップでは以前ウルグアイで行われたJICAプロジェクトで日本に研修に来ていたダニーロに再会しました。奇遇ですね。ワーキンググループを形成し,定期的に研究会を順次違う国で開催しようとの合意ができ,非常に有意義なものになりました。

エピローグ/ブラジリアン・タイム

 前回は持参した日本語プリンタのインク切れで町中インクを探し回るとCanon 製品は販売していて有り難かったものです。昨年もPCを担いでいきました。非常に便利ですが,NYのトランジットで降ろされ,以前なら空港内に監禁されたような状態でしたが,今回は入国・出国審査を受けることになり,PCは手荷物から出して起動させろとのこと,NYのテロ以来爆発物等に神経質になっています。

さて,ブラジルの人たちが時間通りに会議を運営できるのかな?と思っていたら,案の定ホテルにバスが来るのが1時間半くらい遅れ,開会が予定より1時間遅れました。それでも皆気にする様子もなく(運転手さんも),進行していきます。講演翌日,ローカルTVが突然取材に来て,日本での温暖化と開花の関係を聞かれ撮影されましたが,放送がどうなったのか知りたいところです。