園芸学会2003年度秋季大会(2003年10月)

冬季の温暖化が落葉果樹栽培に及ぼす影響 (第4報)ニホンナシ‘幸水’,‘豊水’,‘二十世紀’の開花・収穫日の年次変動

本條 均1・小滝真知子1・島田裕一1・金原啓一2・吉田 亮3・福井 糧1・杉浦俊彦4

1宇都宮大農学部,2栃木農試,3鳥取園試,4農研機構果樹研)

Effects of global warming on temperate fruit crop production

4. Yearly variation of flowering and harvesting date for Japanese pear cultivar‘Kousui’, ’Housui’ and ‘Nijisseiki’.

Honjo, H., M. Kotaki, Y. Shimada, K. Kanehara, A. Yoshida, R. Fukui and T. Sugiura

【目的】 前報(農業環境工学関連4学会合同2002年大会;園学雑,71(別2),p288,2002)までに,ニホンナシ‘幸水’と‘豊水’の開花現象における栃木・茨城地域での変動状況の解析と,ニホンナシ‘幸水’の開花について,全国21地点の生態調査資料と,近傍の気象観測所の資料を用いて,開花日の変動の地域的な特徴と自発休眠の覚醒や開花を推定するモデルとの適合性の検討を行い,西南暖地における‘幸水’の開花日の遅延とそれ以外の地域における開花日の前進傾向を報告した.また,温暖な地域ほど開花予測モデルによる推定開花日と実開花日との誤差(RMSE)の変動が大きいことが認められた.そこで,本研究では,我が国の主要なニホンナシ品種である‘二十世紀’,‘幸水’,‘豊水’を対象に,全国的な開花・収穫日と果実生育期間の近年の変動状況から,気候温暖化に伴う影響の有無の検証を試みた.

【資料と解析方法】 生態資料は,農研機構果樹研究所編集による「落葉果樹品種に関する試験打合わせ会議資料(1967-1982)」,「果樹系統適応性・特性検定試験成績検討会資料−落葉果樹(1983-2000)」,および鳥取県園芸試験場による「ニホンナシ‘二十世紀’の作況調査資料(1964-2000)」と同場による「ニホンナシ‘幸水’および‘豊水’の作況調査資料(1983-2000)」,ならびに栃木農試の「果樹の開花期,収穫期に関する資料(1970-2000)」を用い,各調査地点について開花期と収穫期を調査した.

気象資料は,「都道府県気象資料(地上・アメダス;CD-ROM版)気象庁」用い,生態調査資料の地点に最も近い気象官署による観測点を選択した.アメダス観測は1976年以降であり,欠測等もあるので,アメダス観測点とその最寄りの地上気象観測点との間で日平均気温,日最高気温,日最低気温のそれぞれについて,回帰式を作成し気象資料を補完した.

【結果および考察】

 ‘二十世紀’と‘幸水’・‘豊水’の開花中央日の年次変動をみると,福岡では遅延傾向が3品種で認められた.それ以外に3品種揃って遅延傾向を示した地点は無く,長野では‘二十世紀’は遅延,‘幸水’は前進化,‘豊水’は殆ど変化が無かった.それに対して,開花中央日の前進化傾向が揃って認められたのは,3品種揃った資料が得られた12地点のうち1/3であった.

次に,収穫中央日の推移について代表的な例をFig.1に示したが,‘幸水’と‘二十世紀’で興味ある差異が認められた.1:両品種ともに前進化,2:‘二十世紀’は遅延し,‘幸水’は前進化,3:両品種ともに遅延傾向,の3タイプにグループ化できた.福岡では開花・収穫日ともに3品種揃って遅延傾向を示した.今後は,果実生育期間の早晩や,生育期間中の気象条件を考慮にいれた解析を行う予定である.