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作物学特論

1.内容と目次

トウジンビエ雑種強勢 この頁は農学系大学院修士過程の「作物学特論」の講義を想定したものです.
ほぼ実際にした内容です(状況により削除追加もあったが).証拠写真は
これ
多人数相手の学部講義は誠に苦痛であったが,これは結構楽しかった.

前提とする知識は,作物や育種学,生物統計の極初歩程度.
作物生産についての大学院単位を取りたい学生,
大学院いかなかったが,そこで何やってるか興味ある人,
単位取ったことはあるがもう一度おさらいしたい人,などを対象にしてます.
作物学専門の学生以外も想定してます.

少々数字が出てきても,易しいから拒否反応示さないように.
小さい文字の部分は,とりあえずはいいかな.でも読むだけは読む.用語でわからないのは教科書などを参照.

内容はどうしても教員の得意分野に偏ってくるのはしょうがない.また,一学期をどうもたせようかが優先している.それらは勘弁.少しでも実り多い修士過程でありますように.

作物学特論目次

   1.内容と目次
   2.安定性
   3.品種(遺伝子型)×環境交互作用
   4.繁殖様式と選抜,量的形質
   5.遺伝率,遺伝相関の計算
   6.最近の育成品種の特徴
   7.遺伝子源の幅と遺伝的ぜい弱性
   8.家系分析の方法
   9.系統樹作図
   10.育種目標
   11.育種法トピックス
   12.米の食味
   13.自給率,最大収量,エネルギーなど
   14.サツマイモはなぜ太る
   15.作物統計,小論文練習
   後記

(上の写真はトウジンビエ雑種強勢の発現)

2.安定性

自動車でも,電化製品でも,性能が高い(値段のことはさておいて)ものを買いたいが, その製品の当たりはずれがない,少ないことも大切である.たとえ既存のものより平均 的にはかなり性能が良くても,一部の製品に悪いものがあれば市場では受け入れられ ないであろう. 作物品種も同様である.収量とか食味,つまりある品種の性能 performance,の変動が 少なく,安定していることが必要である. 安定とはどういうことか,安定性 stability を数値でどう計るか,が本章の課題である. なお,収量が安定しているということは,個々の例えば耐病虫性,耐冷(高温)性,感光性, 耐湿性,耐不良土壌,障害抵抗性,・・が要素になっているのであろうが,ここではそれらを 総合したものとしてとらえる. 安定性の高いとされる品種の例 日本晴やコシヒカリ(稲),農林1号(ジャガイモ),高系14号(サツマイモ),農林61号 (小麦),などがあげられる.これらの品種は国内で広範囲かつ長期間栽培されており, 安定性(収量や品質などの)が高いためといえよう. 世界的にはメキシコCIMMYT育成コムギがある.これは年2回場所を変えて選抜することで, 日長反応性を消去し,比較的広範囲の温度へ良く反応し,数種の耐病性を付与している. これらは広域適応性 wide adaptability を持つともいう. では安定性をどう測定するか 例として  A: 1,7,2,2,8  B: 3,4,2,6,5 の値を示す2品種を比較すると考える.この値は収量でも食味値でもよい. 平均値は A,B ともに 4 である.値の変動を示すると
 A:xxxxx
 --1-2-3-4-5-6-7-8-9-
 B:xxxxx
と図からは B のほうがバラツキが小さく安定していると言えそうであるが, 万人に納得して貰うためバラツキを数値で表すには, 1)レンジを比較する レンジ,つまり,最大値-最小値を比較するのが一番簡単で,  A: 8 - 1 = 7  B: 6 - 2 = 4 と A のレンジが B のより大きいので B のほうがバラツキが少ないと数値化できそうである. 但し,レンジだとたまたま一つの値がかけ離れた場合に不正確な判定になりかねないので, 2)全データを使って平均値からの差(の絶対値)の平均をみると  A: 3,3,1,1,4 平均 2.4  B: 1,0,2,2,1 平均 1.2 となりAのバラツキはBの倍となる. これでもいいのだろうが,倍ならホントに B が小さいといえるのか, 1.5倍ならどうなのかとの声もあろう. ここで,「ホントに」とはどういうことなのかを解釈すると, 感覚的に言うのでなく,ある種の根拠,つまり数学なり統計学の理論などから判断し, 万人が納得してそう言える,の意味であろう. そのため,「ホントに」差があるなしなのかまでを言うには,  3)分散を比較する ここでいう分散とは,平均値からの差の絶対値の代わりに2乗を計算し, その和を(観測数-1)で除したものである.  Aでは: [(1-4) x (1-4) + ・・・・+ (8-4) x (8-4)] / (5-1) = 10.5  Bでは: [(3-4) x (3-4) + ・・・・+ (5-4) x (5-4)] / (5-1) = 2.5 少なくとも一つは自分で計算して確認して下さい. なぜ(観測数-1)で割るのかは数学者が考えたことだから,ここではそれに従う. この(観測数-1)を自由度という. さて,ここで得た 10.5 は 2.5 よりホントに大きいのか. 10.5 / 2.5 = 4.2 であり,A の分散は B の4倍以上である. こういう場合に備えて数学者は基準値を作ってくれている. 基準値より分散を割り算した値が大きければホントに差があると言ってよろしい. これを,差が有意であるという.この場合の基準値はF値というものである. 第2−1表 分散の違い検定のF値.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
自由度123456789102030100
基準値16119.09.286.395.054.283.793.443.182.972.121.841.37
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
スネデカー統計的方法,岩波書店.1966,より. で,この場合の自由度4では 6.39で,4.2 は基準値以下なので, ホントに差がある,有意な差がある,とは言えないことになる. やや釈然としないのだが,この基準値をどう割り出したかはさておき, 世の中では通常この判定法が一般的である.差の検出力が低い感じはするが. なお,自由度でその基準値は違っていて,観測数が多くなれば基準値は小さくなり, 100個も観測すると有意な差はだいぶ検出しやすくなる(1.3倍ちょっとで). また,ここでは危険率5%での値をとっている. 危険率1%(より確かな検定)での値は5%値より大きく自由度4のとき 15.98 で, 分散値に大差(ひと桁以上)がないと有意な差とならない. 通常,農業実験では5%値での判断は経験的にも妥当な値である. 危険率25%では 2.06 とかなり小さくはなるが,それで判定していいものかどうか. 危険率0%で値は無限大となる.危険率0を要求すと,いくら実験しても結論はでない. 現実世界では,多分,前者での意志決定が見切り発車でしばしばなされているのだろう. 後者は評論家の無責任な発想である. 4)3組以上の集団の分散の均一性の検定 ここまでは2組のバラツキの比較であったが,3集団以上の平均値間差を検定するとき, 集団間で分散に差がない,との仮定が必要である そのための検定法に,Bartlettの方法(スネデカー.1966,p.263)というのがある. 少々計算が大変なので,
ここにエクセルによる計算手順がある. 但しこれも検出力は低く,10倍程度分散に違いがあるものがないと有意差がでない. 5)Finlay and Wilkinson による回帰式を利用した安定性の数値化 文献は Finlay and Wilkinson (1963) Aust.J.Agric.Res.14:742-752. 第2−1図 回帰直線と回帰式. 回帰直線 図中のデータ○の傾向線である直線を,X に対する Y の回帰直線, この式を回帰式,b を回帰係数(直線の傾き)という. 正式には図中の縦棒の長さ(の二乗の総和)が最小になるような b を計算するが, 手でエイやと引いてもマアよかろう.大差ないから. エクセル使うと自動的に計算してくれる. b は横軸 1 につきどれだけ上に行くかの値である. ある品種の安定性を,この回帰式の b とする方法である.そのため, 横軸;ある環境(年次,場所等)での全品種の平均値 縦軸;各品種の値 としてグラフ上にプロットしたときの各品種ごとの回帰式直線を求める. 横軸は当該環境での一般的な生産力の値とみなせる. つまり,異なる場所ならその土壌肥沃度の高低,年次なら良気象か悪天か, あるいはそれらの組合せの良否,の場合の収量の平均的な期待・予測値を, その条件下での全品種の平均値で表そうというわけである. (1)直播用の選抜の例 5品種(G1〜G5)を6条件で収量をみた(Wonら,2000). 全体的には好条件下で各系統の収量は上がっていくのだが, 品種によって傾きに違いが認められ,回帰直線の傾きの値が0.59〜1.59 と異なり, G2やG4は好条件下で収量の増加程度が大きく,G1やG5は変化の程度が他より小さい. 第2−2図 5品種6条件での収量. 直播安定性 (2)食味の安定性の例 ブラウザによっては3個図が出ちゃってるかも.そのときは右上の図. 9品種,7年間の食味の値をみた. 第2−3図 9品種7年間の食味. 食味 ○のミネアサヒと●のコシヒカリに注目してほしい. 両方ともに他の品種より食味値が高い.ミネアサヒは極良食味ということで普及され, 確かに平均値はコシヒカリより優るように見受けられる. しかし年次による変動が大きく,一方コシヒカリは年次間の食味変動が極めて小さい. やはり広く受け入れられるためにはコシヒカリの安定性が必須で, 最終的に軍配はミネアサヒよりコシヒカリにあがるのであろう. ニシホマレ,チクゴニシキは平均値は低いが,傾きは大きい. レイホウやミナミニシキは低位で安定しており問題外である.

なお,年次間の食味の値を比較することの妥当性について疑問をお持ちでしたら(良い質問だ), この論文(松江ら 1992)の考察を一読ください.

Finlay and Wilkinson は,回帰係数 b の大小で, b<1 なら比較的安定性が高い b>1 なら低い  b=1 なら平均安定性 b<1 でかつ平均値が高ければ適応性が高い, としている. (3)回帰係数と全環境条件での平均値のグラフ 次に,各品種の回帰係数と平均値をプロットしてみる. 第2−2図中の代表的な4品種についての概略の図は以下である. 第2−4図 回帰係数と平均値.  回帰係数  |  チクゴニシキ  |            ミネアサヒ    |  |           コシヒカリ  |  ミナミニシキ    −−−−−−−−−−−−−−−−        全年次での平均値 ここで,平均値が高い方が良いのは論を待たないが, 回帰係数の大小のどちらが良いかは議論があろう. 可能性にかけて傾きの大きいほうが良いとの考えも勿論ありうる. 本解析は,その意志決定のための有力なデータを供給している.
回帰式が面倒なら平均値と分散の図でもよいかもしれない.

      第2−5図
食味 6)平均値と分散のグラフ

第2−5図(上)に第2−3図での分散と平均値をプロットした.
第2−4図と同様な傾向がみえ,チクゴニシキは平均は低く,変動大,
コシヒカリは平均値が高く変動が小,一方ミネアサヒは変動が大である.

品種でなく,産地についても同様な解析が可能である.

7)産地についての解析

第2−5図(下)に10産地について7条件(品種や年次)の食味値から求めた回帰係数と全平均をプロットした.
試験場(本場と2分場)での値は比較的高く,かつ安定してることが見て取れる.
現地の一つ■は値も低く,不安定で,何らかの問題があることを強く示唆している.
このように,本解析法は応用の範囲が広いので,自分の問題に適用して,
色々考えたらよい.

ここでも回帰係数の差がホントにあるの,という問題が起きる. 正式には有意性検定をしなければいけないが,計算はかなり面倒である. ここに計算エクセルファイルがあるので(回帰式計算含む)気になる人は試みて下さい.

8)安定性は遺伝的か 安定性での選抜効果はあるのか. 稲,大豆,小麦で,一年二回栽培して雑種集団を選抜し, それらの後代系統を複数環境条件で栽培して回帰分析をしたところ, 標準品種より回帰係数の値が小さくなったとの報告がある(Luら 1970,SABRAO 2:91−). 広域適応性を有する品種が存在することからも,安定性は遺伝的なもので, 選抜効果があり,新品種を作る時に考慮の対象としなければいけない重要な形質である. 9)回帰式からの偏差とすることも 文献は Eberhart and Russel (1966) Crop Sci. 6:36- 第2−6図 縦棒が回帰式からの偏差. 回帰からの偏差 ■と○の2品種で,○のほうが安定している. ○は回帰直線からの偏差が■より小さい. ○の太線(の二乗)の総和は■の細線の総和より小さい. 回帰係数の大小ではなく,回帰直線からの偏差の大小を安定性の尺度とする. 好条件で収量があがるのは当然として,その上がり方が一定がどうか,でみる. たしかに本方法も一理あるといえよう. 練習問題 (是非してください) 6ヶ所で4品種の収量をみて(値は簡略化),下の結果を得た. 第2−2,3図みたいに,全産地の収量平均を横軸にし, 縦軸には各品種の収量の値としたものを各品種ごとにプロットした図を書け. また回帰分析をせよ.回帰式は計算してもいいが,とりあえずフリーハンドで傾向線を引き, その傾きを読み取ってもよい. 次に第2−4図のような,傾きの値を縦軸,横軸に収量平均値とした図を書け. 図中に品種番号を入れよ. 最後に,これら4品種の特徴と,自分ならこれらの中からどれを選ぶか,理由ととも述べよ. 第2−2表 4品種を6産地で行った結果. −−−−−−−−−−−−−−−−−      品種1 品種2 品種3 品種4 −−−−−−−−−−−−−−−−− 産地 1 1.5 1.0 3.5 4.0 産地 2 2.5 6.0 6.5 5.0 産地 3 2.0 4.5 5.5 5.0 産地 4 2.0 3.0 4.5 5.0 産地 5 1.5 0.5 3.0 4.0 産地 6 1.5 2.0 4.0 4.5 −−−−−−−−−−−−−−−−− 戻る

3.品種(遺伝子型)×環境交互作用

第3−1図 交互作用のあるなし. 交互作用 環境(施肥条件など)が異なると品種により反応が違ってくることである. 図の左は2品種とも多肥条件で多収になり,その増加程度は同じで,交互作用がない. 中と右では,品種と施肥量の間の交互作用が認められる.つまり, 図の中では,品種1は2と比べ,多肥での収量増加程度が大きい. 図の右では,品種1は多肥でかえって減収し,品種2と逆転してしまう.(ちなみに, これはどういうときに起きるだろうか.クラスでは必ず聞くことにしていた) 左は a と b が同じで,中と右は a と b が異なる,右では符号が逆転する. 中と右では,品種1,2の「差に差がある」(差,つまり a や b,が違う). 新品種ができたら,その最適施肥量を決めるため施肥量を変えた試験を行うであろう. こういうのを施肥のみ変えるから,1元配置の試験という. 一方,複数の品種を同時に施肥量を変えて行うような試験を2元配置という. 品種と施肥量の効果を同時にみたいためである. もし,品種1,2間の差が一定であると予めわかってれば, 2元配置の試験は試験区数が増えて大変なのでせず, どこか一つの施肥量のみで2品種を試験するだけであろう. 2元配置の試験は,まさに,この交互作用をみたいから行っているといえる.

ここでも,ホントに a と b に差があるの,との問題がある.これは正式には分散分析を行わないといけない. 反復付きの2元配置のデータを分散分析し,交互作用項が有意であるかどうかである. 分散分析をしたことある人は思い出して下さい.交互作用計算エクセルファイルはここ. 第3−1表 2品種2施肥条件2反復として第2−1図の分散分析をした結果. (誤差が充分小さいとして)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
要因自由度左図有意性中図有意性右図有意性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
品種ns
施肥ns
交互作用1ns
誤差4
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
左と中では,品種1,2の平均値に差あり,右はナシ. 左と中では,施肥の平均値に差あり,右はナシ. *(有意), ns(有意でない) となる理由をしっかり考えて.

正式には分散分析をしなければいけないのだが,より大事なことは図を書き, 自分のデータのどこが原因で交互作用があるのかを考察することである. なお,品種が異なると環境により反応が違ってくるといっても同じことで, 横軸に品種をおいてもよい. 3品種以上の場合は,全体として環境×品種の反応が違うかということである. 交互作用ありなしの例として,水稲の収量を施肥量(左,12品種)と場所(右, 7品種)を変えた結果を示す(今林ら,日作紀 66,67 を改変). 第3−2図 水稲の交互作用の実例. 場所×年次 施肥量を変えた場合,一部変な動きをする品種もあるが, 全体的には多肥と標準施肥の差はほぼ一定であるといえよう. 一方,試験場所を変えた場合,場所1,2,3の順に多収ではあるが, 品種によって場所間の差は異なる. 分散分析でも,左は交互作用が有意でなく,右は有意との結果である. いくつかの試験から稲各種形質での交互作用の有無を以下に取り纏めた. 第3−2表 各種形質の交互作用一覧. (大里ら,日作紀 65の結果を加えた)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 収量食味出穂期稈長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
年次
場所ns
土壌ns
施肥量nsnsnsns
作期nsns
貯蔵期間
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
*は交互作用が有意(ある),ns は有意でない(あるといえない), −は試験がない,または結果が一定しない. この表からどういうことが言えるだろうか. 1)年次を変えた試験,つまり複数年の試験が必須である. 2)施肥量を変えた試験は,完全な2元配置にしなくても, どれか代表的な品種で施肥条件変えたのを行えばよさそうである. 3)場所を変えた試験は収量や出穂期を見るためには必要だが, 食味には(土壌の違いは場所の違いと考えて)あまり必要でなさそうである. 4)作期を変えた試験(早植,遅植)は逆に収量よりも食味を見るために行う必要がある. 試験実施の観点からは,収量を見るための大規模な圃場試験でなく, 食味試験に必要なだけの小規模な栽培でよい. 5)食味をみるためには貯蔵期間を変えた,つまり新米と貯蔵米の試験が必要である. というような結論が得られ,新品種や奨励品種決定のための,より合理的な戦略が, 交互作用の有無から立てられることになる. 勿論,これは供試した良食味早生品種の範囲での話である. 非常に稈の弱い品種などを入れて試験すれば,多肥で倒伏するものが多く, 結果は異なってくるであろう. 戻る

4.繁殖様式と選抜,量的形質

作物の育種法は,その繁殖様式によって大きく異なる. 代表的な繁殖様式は,自殖,多殖,栄養繁殖である. 自分の研究対象としている作物が自殖か他殖かなどは必ず知っておかねばならない. 品種や育種のことしてるわけでないから,そんなのどうでもいい,では決して済まない. 1)自殖性作物 互いに補うような形質をもったもの同士の交配をして, 自殖を繰り返して固定(同型接合にして分離しないこと)後に選抜を行う. メンデルの法則に従い,異型接合個体は自殖のたびに下のように半減していく. ここでは単純に AA と aa の交配の場合を示した. 第4−1表 異型接合の半減していく様子. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
両親AA ×aa
次世代で↓ 全部Aaに
雑種第1代 F1100%Aa
分↓離
自殖1代目 F225%AA + 50%Aa + 25%aa
50%のAa↓が分離
同2代目 F325%AA12.5%AA + 25%Aa + 12.5%aa25%aa
|合計25%のAa↓が分離合計|
同3代目 F437.5%AA6.25%AA + 12.5%Aa + 6.25%aa37.5%aa
|合計12.5%のAa↓が分離合計|
同4代目 F543.75%AA3.125%AA + 6.25%Aa + 3.12%aa43.75%aa
|合計6.25%のAa↓が分離合計|
・・
同10代目 F1149.95%AA0.0976%Aa49.95%aa
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− と,自殖を10回も繰り返せば,ほとんどは AA か aa の同型接合体 homozygoteで, 異型接合体 heterozygote の割合は少なく,優性形質がたまたま発現されている 異型接合体を選抜して次代で非希望個体が分離してしまう確率は低い. しかし,10回も自殖をしてから選抜するのでは時間がかかりすぎなので, 自殖を4,5回した後で分離の危険を承知のうえ選抜することが多い. しかも,収量などは多数の遺伝子が関与しており, それら全部が同型接合になる割合はさらに低下する. 第4−2表 自殖5,10代目で全遺伝子座が同型接合の割合(%). (遺伝子座数別に示す)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
遺伝子座数自殖5代目自殖10代目
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
196.999.9
293.899.8
585.399.5
1072.899.0
2053.098.0
5020.495.2
1004.290.7
2000.182.2
10000.037.6
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
と,10遺伝子座が関与しているときは,5回の自殖では3割, 20の場合では半分近くがどれかの遺伝子座が異型接合である. 10回自殖をすれば遺伝子座が多くとも,全遺伝子座が同型接合の個体(純系)を 得る可能性はかなり高い.

計算は 自殖5世代で1遺伝子座のときの同型接合の割合は  1 - 0.03125 = 0.96875 であった. (0.03125 は自殖4代目の Aa の 3.125% の半分) 2遺伝子座のとき,その両方とも同型接合になるのはその二乗で (1 - 0.03125) x (1 - 0.03125) = 0.938476563 3遺伝子座のときは三乗で (1 - 0.03125) x (1 - 0.03125) x (1 - 0.03125) = 0.853215188 ・・・,である. 自殖10世代のときも同様に 1遺伝子座のときは  1 - 0.000976563 = 0.999023438 2遺伝子座のときは  (1 - 0.000976563) x (1 - 0.000976563) = 0.998047829 ・・・,である.

2)他殖性作物 雌雄異株性 Dioecy[daii:se] ホップ,アスパラガス,パパイヤ 雌雄同株性 Monoecy トウモロコシ(雄穂と雌穂)自殖は可能 自家不和合性 self-incompatibility クローバ,タバコ,テンサイ 雄性不稔 male sterility 花器の構造 雌蘂先熟 トウジンビエ などの機構により他殖となる. これらでは,常に異個体の花粉により交配されるので, 自殖作物のように固定してから選抜,という方法はとれない (少数遺伝子で支配される特定形質のみを対象とする場合を除く). 他殖集団で,集団の大きさが充分大きく,無作為交配で,変異間に淘汰の差がなく, 遺伝子の混入,突然変異もないとし,対立遺伝子 Aaで,A の集団中の頻度を q とすると, a は (1-q) で,この q の値は世代を繰り返しても変わらない.

これをハーディ・ワインベルグ平衡 Hardy-Weinberg's law という. [q A + (1-q) a]2 = q2 AA + 2q (1-q) Aa + (1-q)2 aa の状態を世代にかかわらず続ける. 第4−3表 ハーディ・ワインベルグ平衡. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
精子(花粉)
q A(1 - q) a
−−−−−−−−−−
卵(柱頭)q Aq2 AAq(1-q) Aa|□内は子の遺伝子型
(1-q) aq(1-q) Aa(1-q)2 aa
−−−−−−−−−−
次世代合計
q2AA配偶子q2 Aq2 A + q(1-q) A = q A
q(1-q) A
2q(1-q) Aa 同
q(1-q) aq(1-q) a + (1-q)2 a = (1-q) a
(1-q)2aa 同(1-q)2 a
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− このように,次世代の遺伝子頻度も q A と (1-q) a となる. この平衡が成り立たないのはどういう場合か考えよ.

(1)集団選抜 mass selection 品種改良とは望ましい形質に関与する遺伝子の頻度を高めることである. qを高める,または下げる試みである. そのために,集団内から,優良個体を選抜し,選抜個体同士で交配させ, 次世代を作ることを集団選抜という. 作物の起源以来,人間はこの営みを行ってきたに違いない. q2 AA + 2q(1-q) Aa + (1-q)2 aa の集団を改良することを考える. 簡単のために q = 0.5 とすると 0.25 AA + 0.5 Aa + 0.25 aa となり AA と aa が 1,Aa が 2 の割合となる. 受粉前に選抜する(できる)か,後かで効率が異なる. ○を選抜,×を廃棄, 。 を花粉とすると, i)AA,Aa 個体を選抜 (Aが優性でAAとAaの区別がつかないとする) (a)受粉前 1/3 AA + 2/3 Aa の個体に,2/3 の A と 1/3 の a の花粉が受粉する
× 花粉
AAAaAaaaAAAAaa
1/31/31/3
Aa 個体と a 花粉から半分は aa の次世代ができる. つまり aa が 2/3×1/3×1/2 = 1/9 = 0.111・・出現する. (b)受粉後 1/3 AA + 2/3 Aa の個体に,1/2 の A と 1/2 の a の花粉が受粉する.
× 花粉
AAAaAaaaAAAAaaaa
1/31/31/3
Aa 個体と a 花粉から半分は aa の次世代ができる. つまり aa が 2/3×1/2×1/2 = 1/6 = 0.166・・出現する. ii)aa 個体を選抜 (a)受粉前 全部 aa の個体に,全部 a の花粉が受粉する.
× × × 花粉
AAAaAaaaaa
1/1
aa 個体と a 花粉だから Aa の次世代はできない. つまり aa が 全部出現し,即固定する. 例はサツマイモのアミラーゼ欠(b)受粉後 全部 aa の個体に,1/2 の A と 1/2 の a の花粉が受粉する.
× × × 花粉
AAAaAaaaAAAAaaaa
1/1
aa 個体と A 花粉から Aa の次世代ができる. つまり Aa が 1×1/2 = 1/2 = 0.5 出現する. 例はトウモロコシの黄色胚乳. このように開花前(葉の病害など)か後(子実形質)かの選抜で効率が異なる. また集団選抜は個体単位の選抜なので環境変異が大きく効率は良くないとされる. しかし,アメリカ大陸の原住民は,コロンブスが来たとき(*)には既に, トウモロコシでデント,フリントなどの品種を長期間の選抜で分化させていた. 明らかに開花後の選抜である. テンサイの葉枯れ病の成功例も.これは開花前になろう. *雑談:これは西暦何年? (実際にやるとこういう楽しみがあるんだが…) トウジンビエ集団を出穂期で2回選抜した結果をここに. 出穂の遅い個体は開花前に抜き取り,残った個体の花粉のみで多交配した. 一回目の選抜でかなりの選抜効果が,二回目でもある程度の効果がみられた. 練習問題 同じ選抜を継続したとき次世代で非希望型がまだどのくらい出るか計算してみよ. 何世代後にほぼ固定するか,興味あったら試みよ(縦軸に頻度,横軸に世代数). (2)トウモロコシ品種改良の歴史 i)Mass selection 集団選抜 これは歴史以来なされたに違いない. 成熟期,稈長,穂や粒の外観で効果があったが収量は向上しなかった. 個体単位なので環境の影響を受けやすく多収個体を識別しにくい, 他の花粉が混入する,強選抜で自殖弱勢になるなどのためである. ii)Ear-to-Row Breeding 1穂1列法 イリノイ農業試験場で1896年に始まった. 50〜100の穂をとり,1穂の種子の一部を1列に植え,残りの種子は翌年まで保存. 各列の外観,収量をみて優れた10〜20を決定.保存種子を混合して播き,これを繰り返す. 選抜個体に他の花粉が受粉しておらず,外観で判定できる形質の改良は急速であった. 反復付き試験をしたが,収量など外観では判定が困難なものはあまり向上しなかった. iii)Variety Hybridization 品種間交配 自然受粉品種同士の交配による. 1880年ミシガン農業試験場の Beal が1つの品種を除雄し,横に別品種を植え受粉させた. 翌代が多収になった.遠縁同士が多収であった. 分離が大きく実際栽培品種とはならなかったが,これは次のF1品種を強く示唆した. iv)Hybrid Corn F1品種 1909年に G.H.Shull や Edward East が近親交配をして近交系を作り, 近交系同士を交配して多収で均一な単交配を作ることを提唱した. この方法はトウモロコシ育種を革命的に変えた. 当初近交系による採種量が少なく種子が高価であったが, 1918年 D.F.Jones が単交配同士の交配の複交配をすることで解決した. 以降,近交系の育成とそれらの組合せ能力検定が精力的に行われ, 1940年代までには米国コーンベルト中がhybrid種になった. さらに近交系の改良も進み,単交配による採種が複交配にとって変わった. (3)組合せ能力の推定 n系統あるとき,正逆組合せはしないとして, 単交配の組合せは, n(n-1)/2 で,n=10 ならこれは 45 である. 複交配では, n(n-1)(n-2)(n-3)/8 で,n=10 でも 630 と非常に多くなる. 従って実際には,いくつかのテスター品種との交配で一般組合せ能力を推定し, その優れたもの同士に数を絞ってから特定組合せ能力を検定する.   また,組合せ能力は近交系自体の生育と相関が高く, 結局各種特性の優れた近交系の育成に力が注がれた. (4)合成品種 10〜50の品種を混合して自然交配,採種して利用するもの. 多収を示す組合せを親に選ぶ. 近交系作成なしに簡単に雑種強勢を利用する方法である. 雑種強勢は低下するが数世代増殖させた種子を用いることもある.

3)量的形質

 メンデルの法則に従う単1遺伝子の例には,イネの矮性や,オオムギの2・6条性の遺伝子など多くある.このような遺伝子を主動遺伝子(major gene),その形質を質的形質という.一方,品種改良での主要目標である収量や品質では,関係している遺伝子の数は通常多く,個々の遺伝子の効果は小さい.このような遺伝子を微動遺伝子(polygene),その形質を量的形質という.

 仮に,コムギの皮色に4つの遺伝子R1,r1,R2,r2が関与しており,各Riを持つごとに+1の効果を持ち,Riが4つあれば超濃赤,3つで濃赤,2つで赤,1つなら淡赤,0なら白とする.超濃赤(R1,R1,R2,R2)×白(r1,r1,r2,r2)の交配をすると,F1は(R1,r1,R2,r2)で赤色,F2の頻度分布は下図に示すような分布となる.関与する遺伝子数がさらに増えれば,環境変異とあいまって,連続的な分布を示すようになる.

超濃赤(R1,R1,R2,R2)×白(r1,r1,r2,r2)のF2での色の分離.
−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
世代遺伝子型優性遺伝子数分離比
−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
F1R1r1R2r2
F21R1R1R2R2超濃赤41
2R1R1R2r2濃赤 3 4
2R1r1R2R23
1R1R1r2r22 6
4R1r1R2r22
1r1r1R2R22
2R1r1r2r2淡赤1 4
2r1r1R2r21
1r1r1r2r20 1
−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

4)超越分離 transgressive segregation

表現型は赤で同じでも,1つの親の遺伝子型がR1,R1,r2,r2,もう1つの親の遺伝子型がr1,r1,R2,R2と異なっており,その両者の交配をしたとする.F1やF2の分離は前の場合と同じになり,F2で超濃赤や濃赤が出現し,両親にはなかった遺伝子型で,両親の値を超えた後代が出現してくる.

このように親を超えた遺伝子型が出てくることを超越分離といい,これが交配と選抜により両親を超えるものができる根拠である.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
淡赤濃赤超濃赤
(親の値)|→超越分離


5)選抜集団の規模

交配で組合せようとする形質の数(遺伝子の数)が増えると,希望型が後代に出てくる割合は小さくなり,そのため後代系統を数多く養成しなければならない.

簡単のため,希望形質はすべて連鎖してない単一の劣性遺伝子(aa,bb,cc,・・)で支配されているとすと,2つの形質を組合せるときは,F1の配偶子遺伝子型の組合せは(AB+aB+Ab+ab)×(AB+aB+Ab+ab)であるから,F2で希望遺伝子型aaは1/16出てくる.3つでは(ABC+aBC+AbC・・)×(ABC+aBC+AbC・・)からaaが1/64,4つで1/256,5つで1/1024である. 以後急速に小さくなり,10あると約100万分の一となる(一般にはn個で1/(2^n)^2).

実際にはF2でのヘテロ個体からも後代で希望型がでてくるが,経験からも,多くの遺伝子を組合せること,つまり,交配に用いる片親が優良な形質を1つ持っていても,他の形質がいくつか劣ると,1回の交配では優良系統選抜の困難なことがよく知られている.

集団の数 (Poehlman 1979)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
関与する遺全遺伝子型得るのにその面積
伝子対の数必要な集団の最小数0.3cmx0.3として
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
140.36 m2(2n)2
2161.44(AB aB Ab ab)2
3 645.76(ABC aBC AbC ・・)2
425623.04
5102492.16
101,048,57610 ha
201,099,511,627,7761千万ha 耕地面積500万ha
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

いもち病(葉いもち圃場抵抗性,東1995)では7〜8個,ショウジョウバエの腹部剛毛数は少なくと
も6個,トウモロコシ油脂含量では少なくとも20個(同中のStudent1934)としたが,200個が真実に近いとした.

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5.遺伝率,遺伝相関の計算

1)遺伝率(力) Heritability ある形質が次世代にどの位遺伝するか,それを数値で表したものである. 例えばIQは親から何%位伝わる,などの言い方がある. その数字はどのようにして出されたのだろうか. AA×aaの自殖第2世代(1/4 AA+1/2 Aa+1/4 aa)から劣性aaの個体を選抜すると, 100%後代は親と同一となるが,A が優性で AA と Aa を選抜すると, 次代では親と同一の表現型個体となるのは 5/6 である.

この計算は (1/4 AA+1/2 Aa+1/4 aa) から 1/4 aa がなくなるから   (1/3 AA + 2/3 Aa) となり,その次世代は 1/3 (AA) + 2/3 (1/4 AA + 1/2 Aa + 1/4 aa) = ・・・ + 1/6 aa で,残りの AA+Aa は 5/6 である.

実際には単一遺伝子の形質でなく,多数遺伝子による連続的な値をとる形質が問題である. そのため,統計的な手法をとる. ある形質の表現型 P が遺伝的効果 G と環境効果 E の和で表せるとき, つまり P = G + E なら,これらの分散も同様に VAR(P) = VAR(G) + VAR(E) VAR(P);表現型分散 ,VAR(G);遺伝分散,VAR(E);環境分散 である(但し G,E が独立に変動するとの仮定が必要). 遺伝力 h2 は表現型分散中における遺伝分散の割合, つまり h2 = VAR(G) / VAR(P) と定義される. 遺伝分散は表現型分散から環境分散を差し引いた値とする. 実際の計算は, (1)マザーの方法(マザー統計遺伝学,岩波, 1959) 分離しているF2集団の表現型分散は遺伝分散と環境分散の和からなっており, 分離していない親品種やF1の分散(又はそれらの平均)は環境分散だとして計算する. つまり, h2=[VAR(F2)−VAR(F1)]/VAR(F2) VAR(F1) でなくて [VAR(P1)+VAR(P2)]/2 または [VAR(P1)+VAR(P2)+VAR(F1)]/3 でもいい(P1,P2は両親). F1は異型接合だが全個体の遺伝子型は同じで,その集団は均一である. 例として,2品種の交配F1を18個体とF2を12個体,稈長を測ったとしよう. 平均からの偏差として図を下に書いた.明らかにF2のほうがバラツキが大きい. 第5−1図 F1とF2の稈長.
F1F2
l
lll
llll
l+l+l++ll+l++l+l+平均
llllllllllll
lllllllllllllll
llllllllllllllllll
lllllllllllllllllll
llllllllllllllllllll
02-210-11-1103-24-30-11-23-4
---------------------------------------------------------------
VAR(F1) = [02+22+(-2)2+12+02+(-1)2 +12+(-1)2] / 7 = 12 / 7 = 1.71 VAR(F2) = [12+0+32+(-2)2+42+(-3)2+0+(-1)2+1+(-2)2+3+(-4)2] / 11 = 70 / 11 = 6.36 であるから,遺伝率は h2 = (6.39 - 1.71) / 6.39 = 0.73 となる. なお,F2には異型接合の個体を含み,それらも遺伝変異をなしているが, その後代は分離して固定していないという意味で, この方法で求める遺伝率を狭義の遺伝率ともいう. (2)選抜実験から 第5−2図 選抜による遺伝率の推定. 選抜実験 直接的選抜試験から求める方法もある. まず左の図で,縦軸は個体の頻度であり,集団の平均値を M, 選抜したもの(斜線)の平均値を M’とする.ここで, i = M’- M を選抜差という. 下に選抜したもの(それらを多交配した翌世代)の図を示す. その平均を M”とすると,当然通常は M” < M’であり  △G = M” − M を遺伝獲得量という.遺伝率は h = △G / i である. 図では翌世代の平均値が前と同じとしてあるが,その保証はない. 標準品種を同時に試験しておき,それからの偏差とする手はあるが. もっと良い方法は右図のように,選抜を上下方の両方向に行うことである. 元の集団での値で,上方で選抜したものの平均を M1’,下方のを M2’, 翌世代で,上方からのの平均値を M1”,下方のを M2”とすると, h = (M1” - M2”) / (M1’ - M2’) である. 上下方の両方やると,世代(年次)の環境の差による誤差が消去されるので, 試験精度が高まる. 右下の図がたとえ左右にずれても(翌世代の全体の平均が違ってきても)支障ない. 本方法がお勧めである.

うるさいこと言うと,遺伝子型と環境の交互作用が無視できるとの条件が必要だが. 右下の図で,M1”とM2”に重なった部分がある.これは上と思って選抜したものの中に, 下と思って選抜したのより値が低いものがあるということである.

一般的にイネでの遺伝率の大小は,  出穂期,耐病性(0.9位) > 稈長 >・・ 粒大・・> 収量 > 食味(0.4位) である. 勿論,対象とする集団の遺伝的背景の違いで値は異なってくる. 極低収から多収の品種まで含めて比較すれば収量の遺伝率の値は高くなる. 食味などでは試験の精度も大きく影響する. 例題 トウジンビエで3種のストレスを与えて選抜した結果が以下である (日作九支報65).遺伝率を各々計算せよ. 第5−1表 処理による根の長さや,評価判定値.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
M1’M2’M1”M2”
−−−−−−−−−−−−−−−
耐乾燥3.9040.0870.9670.577
耐塩3.7260.3071.1431.170
耐Al7.001.006.043.22
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
また,結果を考察せよ. 耐塩の値は間違いでない.どういうことか? このとき値はどう表すのが妥当か.

(3)分散分析表から 第5−2表 分散分析の推定値.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
要因自由度平均平方平均平方の推定値
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
品種g-1MSgVAR(E)+rVAR(G)
反復 r-1MSrVAR(E)+gVAR(R)
誤差(g-1)(r-1)MSeVAR(E)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ここで,VAR(G), VAR(R), VAR(E) は品種,反復,環境にもとずく分散. h2 = VAR(G) / [ VAR(G)+VAR(E) ] = [ (MSg - MSe) / r ] / [ (MSg - MSe) / r + MSe ] である. 第5−3表 8品種2反復した米の食味試験結果.
−−−−−−−−−−
要因自由度平均平方
−−−−−−−−−−
品種70.1905
反復 10.8876
誤差70.0637
−−−−−−−−−−
のとき, h2 = [ (0.1905 - 0.0637) / 2 ] / [ (0.1905 - 0.063) / 2 + 0.0637 ] = 0.499

2)遺伝相関 相関とは2形質の変動が関連していること. 相関係数とはその程度を0〜±1の値で示す.このへんは前提とさせて. 遺伝相関とは,そのうちどの程度が遺伝的なものなのかで, ・A,B二形質に働く遺伝子の多面発現(Pleiotropism) ・A,B遺伝子の連鎖(Linkage) ・選抜過程での2形質の相関の効果 が関与してくる. 相関係数 r は,2変数を A,B,データ数を n とすると, r = (AとBの共分散)/√(A分散・B分散) =[(A-Ma)(B-Mb)/(n-1)]/{√[(A−Ma)2/(n-1)×(B−Mb)2/(n-1)]} であった(Mは平均).この復習をしたい人は
こちらを. (1)マザーによる遺伝率の計算と同様に 2形質 A,B の表現型 (Pa,Pb) が, 遺伝的効果 Ga,Gb と環境効果 Ea,Eb の和で表せるとき,つまり, Pa = Ga+Ea, Pb = Gb+Eb なら, 共分散も同様に(うるさいことはおいとき) COV(Pa,Pb)=COV(Ga,Gb)+COV(Ea+Eb) である.ここで COV(Ga,Gb);遺伝共分散,COV(Ea,Eb);環境共分散 すると,遺伝相関は rg=COV(Ga,Gb)/√VAR(Ga)VAR(Gb) である. COV(G) = COV(F2) - COV(F1) とする. 第5−4表 F1が7個体,F2が8個体,A,B形質の値. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− F1 A 4 3 3 4 5 5 B 7 4 7 7 8 9 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  F2 A 10 8 6 7 7 10 8 B 12 9 6 4 6 11 8 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− COV(F1) = 1.2, COV(F2) = 4, h2(A)=0.657 h2(B)=0.664 rg= 0.961 を確認せよ. 注) r(F1)=0.802,r(F2)=0.907で,rg≠r(F2)−r(F1)  で,相関係数の値を引いたのではいけない. 子実重と蛋白含有率の間にみられる負の相関は遺伝的要因である(大麦の例).

(2)選抜実験から 遺伝相関(rA)は,rA=(CRx ix hx)/(Rx iy hy),で求める. (Falconer1981,Fehr1987) ここで,Rx はある形質(第一の形質)で直接選抜したときのその形質の増加量, CRx は第二の形質で間接的に選抜したときの第一の形質の増加量, ix と iy は第一と第二の形質の選抜強度(σ単位.10%のときは1.75), hx と hy は第一と第二の形質の遺伝率の平方根である. 第5−5表  トウジンビエを上位10%選抜をしたときの値.  (Totokら,PPS 1998) ------------------------- 選抜形質 一株子実収量  (g)   ------------------------- 一株子実収量 24.7 一穂粒重    29.5 原集団 8.6 ------------------------- 遺伝率は,一株子実収量,一穂粒重が 0.94;1.0 とする(それらの平方根は0.97; 1.0). 一株子実収量と一穂粒重の遺伝相関は; CRx= 29.5-8.6; Rx= 24.7 - 8.6; ix= iy = 1.75; hx= 0.97; hy = 1.0; rA = CRx ix hx / Rx iy hy = (29.5 - 8.6) x 1.75 x 0.97 / (24.7-8.6) x 1.75 x 1.0 =1.2 1 を超える値は不適なので,答えは 1 としておくのが妥当であろう. 文献. 英語が嫌な人はこれ

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6.最近の育成品種の特徴

1)サツマイモ サツマヒカリ(もう最近とはいえないが)の家系図を示した.上の数字は交配年. サツマヒカリの交配両親は九州84号と九州88号, 九州84号の両親は九系693-1281と九州66号,と読んでいってください. 第6−1図 サツマヒカリの家系図. いも家系図 育種が始まった当初は1932年に元気と七福の交配から関東3号が育成されるなど, 当時栽培されていた品種同士の交配によるものである. その後,新しい導入品種を使った交配も勿論行われてきたが, 本質的には,そのようにして育成されてきた品種同士をさらに交配して次の品種を, というまさに大規模な循環選抜がなされてきたといえよう. その交配サイクルも段々短くなり,以前は10年間隔だったものが, 近年では例えば九州84号とサツマヒカリの間では僅か4年で, 積極的に良いものをどんどん交配に使ってきていることが伺える. また,遺伝資源の元,つまり家系図の左端を見ると,元気,七福などが目立つ. この家系図では一度出現したものの後は省略しているから, 図に表れないこれらはさらにあることになる. このように,多くの交配の結果最近の品種ができてはいるが, 元々の起源は狭いのではないかと推察される. 2)ビール大麦 アサカゴールの家系図を示した.圧倒的にゴールデンメロンとその純系淘汰品種が目立つ. これは,ビール大麦が高度の品質を要求される工業原料で, 明治の初めに導入されたゴールデンメロンの品質が標準としてあり,その後の改良は, その品質を維持したまま早生,強稈などを付与することがもっぱらだったことによる. 第6−2図 アサカゴールドの家系図. ビールオオムギ家系図 なお,ビール大麦では大麦縞萎縮病抵抗性遺伝子の取り込みが重要であった. ここから家系図の向きが逆になってごめん. 被害の様子 第6−3図 抵抗性遺伝子の戻し交配による取り込み.   
交配年1977197419661965
(1986年育成>○木石港3
F1(67)
○南系B4718アズマゴールデン
○F3-2(75)アズマ(78)
○ニシノゴールドはるな二条
(82)はるな(82)
○:抵抗性品種  ( )は麦芽エキス値(栃木農試のデータ) 本病による被害は激甚であり,抵抗性遺伝子の取り込みが強く求められた. 醸造品質を保ちつつ木石港3由来抵抗性を導入するため戻し交配が必須であったが, その間に求められる品質の値も,はるな二条の82と高くなった. ビールとしての品質(麦芽エキス値を例に示す)を維持しつつ, 病害抵抗性を導入してきた経過が図からよくみてとれる. 麦芽品質の値の67は論外で,78と82の差も極大とされ, 高度の品質で抵抗性の品種育成に20〜30年かかった. 3)水稲 1956年育成のコシヒカリ(上)は家系図もまだ単純である. 祖先としては愛国やあさひが使われている(朝日と旭は,あさひ,とした). 農林8号の育成は1937年であり,コシヒカリはいわば3代目である. 第6−4図 コシヒカリ(上)と夢つくし(下)の家系図. (本家系図では,純系淘汰や突然変異品種は原品種名で記載した) コシヒカリ家系図 一方,近年育成の例えば夢つくし(下)をみると,すでに10数世代目で, 家系が大変複雑である. しかしコシヒカリがその中に沢山でてきてコシヒカリと極めて近縁で, 愛国やあさひがその元として多く寄与している. ホウネンワセ(下のほうの▲印)の両親はコシヒカリと同じ「きょうだい系統」だから, これもコシヒカリとの関係をいいたいときは考慮する必要がある(後述).

あさひ,と仮名書きにしたのは,祖先品種の中に旭と朝日があり,この2品種の起源は同じとされるため.

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7.遺伝子源の幅と遺伝的ぜい弱性

トウモロコシでは1950年代に細胞質雄性不稔を利用したF1の採種が始まり, cms-T細胞質雄性不稔遺伝子がすべての親に使われた. 1970年,それらにごま葉枯病が大発生し,一時,採種不能な状態にまでなった. このように普及品種の遺伝子源の幅が狭くなり,病虫害などへの耐性がなくなる危険を, Walsh(1981)は,‘遺伝的脆(ぜい)弱性’(genetic vulnerability)として警告した. しかし,実際の品種育成での交配の原則は‘良いもの同士’となり,その結果, 近縁な両親が交配に多く使われ,結果として育成品種の遺伝子源の幅が狭くなる. また,遠縁同士の交配ではなかなか良い品種の育成はできない. このように,遺伝的背景の拡大は実際には容易でないので, 実用品種育成のためには既存の基幹品種の多収・高品質を維持しながら, それらに個々の障害抵抗性などを付与していくのが現状であるし, 戦略的にみても最良であろう. 本章では,現実に現在の品種の遺伝資源の構成,遺伝的背景がどうなっているのかを, 感覚的にいうのでなく,数量的に示したうえで,農業形質との関わりを述べる. 育成品種の遺伝子源構成,家系と性能(収量・品質など)の関係を分析し, 将来の育種計画策定の参考にすることを家系分析(Pedigree analysis)という. この場合,単純な遺伝をする耐病性などの形質でなく,収量や品質など量的形質について扱う. まず,計算方法や用語の定義はおいておき,いくつかの結果を示す(主な文献,日本語英語). 1)家系図の概要 始めに,水稲,大小麦の家系図の概略の構成をみるため,家系図での端の品種迄遡る数, 家系図中に出てくる品種の総数,その中で共通を除いた数を計算した. 第7−1表 水稲,大小麦の家系図の構成. ───────────────────────────────       最大世代数 総祖先数 重複を除いた祖先数 ─────────────────────────────── 水稲     13-17(13.7) 136-1238(493.5) 52-119(85.5) (比)日本晴 9 72 40 小麦 5-9(8.1)  32-138(86.6) 25-66(42.8) (比)農林61号    3   6   6 ビール大麦    8-12(9.3)   64-220(147.0) 24-56(36.4) (比)ニューゴールデン 4 12 10 ─────────────────────────────── 値は,レンジ(平均値)で,水稲はちくし1〜30号から17品種, 小麦は西海160〜179号から16品種,ビール大麦は吉系23〜45から20品種. 上記品種は1980年代のもので,最近は勿論もっと増えている. 以下の寄与率などの値は大差はないはずである. 2)祖先の寄与率 品種名が異なっていても祖先品種が共通なものもあるので, 祖先の数だけでは遺伝的背景が掴みにくいので, 最終祖先(もうそれ以上遡れない品種)の寄与率をみると, 第7−2表 主要祖先品種の寄与率. ──────────────────────── 順位  最終祖先名  寄与率(%) 累積寄与率(%) ──────────────────────── 水稲 1 愛国  16.3 16.3 2 旭(朝日) 13.4 29.7 3 器量好(神力) 12.2 41.9 4 上州   11.0 52.9 5 大場(森田早生) 9.6 62.5    6  亀の尾     6.2 68.8    7  京都新旭     3.3 72.2 小麦 1 中長   35.9 35.9 2 江島  8.1 44.0 3 ヒラキ小麦 6.1 50.2 4 早小麦   4.9 54.9 5 神力   4.5 59.4    6 蘇麦3号 3.8 63.2    7 ハシリコムギ2号 3.8 66.9 ビール1 ゴールデンメロン 41.7 41.7 大麦 2 シバリー   15.9 57.6 3 札幌7号     14.2 71.8 ──────────────────────── 上表の供試材料での平均値. このように水稲では,愛国,朝日(旭),神力などの5品種で今日の品種へ63%, 7品種で70%以上の寄与をしている. 小麦では中長の寄与が大きい. ビールオオムギでは,ゴールデンメロンなど3品種合計で70%もの寄与をしており, 極めて遺伝資源の幅は狭いといえよう. 3)ある品種との近縁度 最終祖先と限らず,どのような品種が寄与しているかは近縁度で表し, 第7−3表 大小麦育成品種と近縁度の高い品種. ───────────────────────────        品種名      近縁度(%) ─────────────────────────── 小麦  1 アサカゼコムギ  47.8     2 ヒヨクコムギ  37.3     3 中長        35.9     4 シロガネコムギ  35.9 ビール 1 はるな二条    56.1 大麦  2 ミサトゴールデン    52.2     3 ゴールデンメロン    41.7     4 愛知早生13号     39.2 ─────────────────────────── 小麦ではアサカゼコムギ,ビール大麦ではゴールデンメロン以降の, 高品質で定評のある,はるな二条との近縁度が高い. 4)遺伝的背景での違い これらは,勿論対象とする品種(暖地か寒地かなど)で異なる. 共に暖地のものではあるが,多収をもっぱら目的にして育成されたのと, 良食味を目的にされたものとの比較をしたところ(吉田・今林 1998"), 第7−4表 水稲良食味品種や多収品種と主要品種との近縁度(%). ────────────────  品種名 良食味品種 多収品種 ────────────────  コシヒカリ  47.7   16.1 良食味品種>多収品種 農林22号   40.6   30.0 黄金晴   39.0   22.4 農林1号   22.7   2.1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 日本晴   32.7  30.6 良食味品種=多収品種 陸稲戦捷    0.8  1.0 ← 不味とされた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ シンレイ   24.6  41.5 良食味品種<多収品種 トヨタマ   17.7  41.3 ホウヨク    4.3  28.2 十石    2.1  14.1 ────────────────  各群の平均値で示した. 多収品種群;レイホウ,ニシホマレ,ツクシホマレ,ヨカミノリ,西海176号,西海190号の6品種. 良食味品種群;福岡県育成17品種. 良食味品種群では,コシヒカリ,農林22号などと近縁であること, 多収品種群ではコシヒカリは意図的に交配に用いられてなさそうなことが示される. なお,陸稲戦勝が家系に入っていると不味いという人(エライ人)が昔いたが, その証拠は認められない.きちんと数量的に示すことが大切である. どうしても基幹品種との近縁度が高くなるのは, それらを用いた交配で良食味なり高品質のものが得やすいからである. 5)農業形質との関係 第7−1図 水稲の食味とコシヒカリとの近縁度との関係. 食味とコシ近縁度 縦軸は食味,横軸は対コシヒカリ近縁度(近縁係数). 上は品種間(相関係数は 0.746),下は育種材料間(同 0.583)の比較. ともに有意な相関があった.文献ビール大麦でも麦芽品質とはるな二条の近縁度とに有意な相関があった.文献. 良質などで定評のある品種以外での交配では,少なくとも直接は有望系統がなかなか 得られないのである. その後代をさらに交配親として使用していくことは考えられるが. 上記以降で,他地域,多作物,最近の品種では, 北陸地域関東福島県インドネシア,栃木県(飯田ら2008)の水稲, 長野県の小麦, 栃木県のビール大麦, サツマイモイチゴテンサイが計算されている. ここには水稲作付け上位品種の対コシヒカリなど近縁係数値,祖先数などがある. 6)栄養繁殖作物と近交弱勢 他殖の栄養繁殖作物では近親交配の程度と収量には重大な問題があり, 近親交配(近交係数として表される)が進むと近交弱勢がおきる. 自殖作物同様に遺伝資源の幅はどうしても狭くなるので, 現実的にはどの程度の近親交配まで容認できるかである. 第7−2図 サツマイモで収量と近交係数との関係. (元データをかなり簡略化した) いも近交弱勢 ほぼ,近交係数で0.1位迄は多収が望めそうであった(文献). 実際の品種も以下の図に示すように 0.1 以下のものが多かった. 第7−3図 サツマイモ育成品種の近交係数. いも近交係数 縦軸は近交係数,横軸は九州系統(▲原料用,□食用)の番号(文献). 一方,イチゴはもっと近親交配に強く,0.3程度までなんとかなり, 逆に,テンサイでは0.1以下にすべきであった. 最近の栄養繁殖作物品種では,カンショ4品種の近交係数は0.009〜0.140, バレイショ4品種では0.018〜0.072,イチゴ3品種では0.172〜0.262であった. バレイショでの値はカンショやイチゴより小さい値であった. イチゴではかなり大きい値であった.文献7)有望な後代を生み出す交配の予測 (1)基幹品種との近縁度から(自殖作物) ビール大麦で,はるな二条と近縁なものが高品質になる傾向であった. そこから,手持ちの品種の交配をしたとして,その対はるな二条近縁度を計算しておけば, 交配後代での品質の予測がある程度可能である. 第7−4図 手持ちの品種の交配をしたとしてその対はるな二条近縁係数. 対はるな文献) コシヒカリとの近縁度からの予測した計算結果はここに. (2)近親交配の程度の予測から(他殖,栄養繁殖作物) 他殖作物で近交弱勢を起こさない組合せの予測もできる. イチゴの近交係数からの予測計算結果はここに. サツマイモでの計算結果を図示する.文献はここ. 第7−5図 手持ちの系統を総当たり交配したとして,その後代の近交係数. 横軸は数,縦軸は近交係数,上はデンプン原料用,下は食用系統について計算した. 予測に反して,手持ちの材料同士でも近交係数 0.1 以下のものが沢山あった. 近交係数予測 戻る

8.家系分析の方法

前章では計算法や用語の定義はさておいたが,本章ではそれらの内容を解説する. できるだけかみ砕いて解説する.さらに詳細はここ,文献はここを参照. 実際の計算は,手持ちの交配記録データを用意して家系分析Webサービスへ. 1)世代や祖先数 これは家系図書けば,あとは数えるだけだから簡単そうである. しかし最近の品種,例えば2006年育成のまっしぐらでは, 家系図の端までいくのに14世代,家系図中にある祖先品種数は776, 共通を除くと126もある.総祖先が2000を超えるのも希でなくなっている. こうなると大変であるが,幸にも推論や再帰的処理を得意とするソフトを利用し, 計算をコンピュータに任せることができるので,それを利用することにする. 世代数は,8〜10年程度で1サイクルづつ増えていっているのではないだろうか. 総祖先数はそのたびに2倍になっていくのだから,2,4千とどんどん増えていく. しかし共通を除くとそれほどは増えてはいない.せいぜい100程度である. これらの品種は名前は違っていても,同じような祖先由来かもしれないので, 数だけでは遺伝的背景を掴みにくい. そこで祖先品種がどの程度寄与しているかが次の課題である. 2)祖先品種の寄与率 最終の祖先,つまりそれ以上祖先が遡れない家系図の端にある品種を対象とする. まずコシヒカリの例をみる.ローマ字表記は勘弁. 第8−1図 コシヒカリの家系図. *** pedigree tree of kosihikari ***
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kosihikarinorin22norin8aikoku
|||
||asahi
|norin6joshu
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|kiryoyosi
norin1oba
|
rikuu132aikoku
|
kamenoo
あさひ農林8号の片親なので農林8号に50%, 農林8号は農林22号が片親なのでその半分の25%, 農林22号はコシヒカリの片親なのでその半分の12.5%, あさひが寄与していることになる. 愛国は経路が2つあり,農林22号経由が上と同じ計算で12.5%, 農林1号経由も12.5%で,その和の25%,愛国が寄与している. このように寄与率の計算自体は,親は子に50%,子孫にいくたびそのまた半分, として,最後にその総和をとればいいので簡単である. 但し最近の品種では大変で,まっしぐらの家系図中に愛国は46もあり, 寄与率は0.19で,これも実際にはコンピュータの力を借りることにする. 結果は,水稲で3品種で42%,5品種で63%,7品種で70%程度, 小麦は3品種で50%,ビールオオムギは3品種で70%もの寄与をしており, どの作物でも遺伝資源の幅は極めて狭いといえよう. 全国の水稲品種を栽培面積で比例配分して計算すると,3品種で51%, 6品種で82%である(文献). 愛国20%,あさひ14%で,これらが家系図の端に沢山あるということである. 次に,最終の祖先のみでなく家系図の中の途中の親との近縁度が計算できると, どのような品種が交配に多用されたかがわかる. それを数値化すると,次はその値と農業形質との関連が解析できることになる. 3)近縁係数 近縁度は近縁係数という値を使う.2品種間の遺伝的な似通いを表す値である. 最終の祖先との近縁係数は寄与率となる. 2品種の間で,どれだけの数の同じ祖先があるか, それらはどの程度遠い祖先なのか(遠い祖先なら影響は小さくなるから), を数値化したものである.

定義は, 「一方の個体の相同遺伝子のうちの任意の1つと,他の個体のもつそれに対応する 相同遺伝子の任意の1つが共通の祖先から由来する確率」 で,なんとも恐ろしい表現である.数学的な厳密性を元にしているのであろう. とてもフォローしかねるので,ここではうけたまわるだけにしておこう. 文献を一応あげておく. Kempthorne, O. 1969. An Introduction to Genetic Statistics. Male'cot, G. 1948. Les mathe'matiques de l'he're'dite'.  Wright, S. 1922. American Naturalist 56.

計算方法は, P と Q 間の値 FPQ は,   FPQ = [(1/2)(n1+n2)]  (酒井 1957,育雑 7: 87ー92) 但し n1; A〜P の世代数,n2; A〜Q の世代数 (A 共通祖先) . 煤@は共通祖先の全経路を累積の意味. つまり (1/2)(共通祖先から片方の品種へ子孫を遡る数 + もう片方の子孫へ遡る数) を全共通祖先の経路について計算し,総和をとる(自殖作物の場合). これはなんとかフォローしてもらいたいので以下を我慢して見て頂戴. ここでは,  親1 親2   \ /     子 と表記している. (1)半きょうだい間 まず簡単に,C,D は A を共通の祖先とする場合. つまり片親が同じ子の間ではどうなるか(“半きょうだい”という).  (以降,空欄の祖先は全部がお互い全く血縁関係ないとする)
A
CD
寄与率を計算するとき,子孫に遡るに従い 1/2 づつとした. A の半分が C にきている.C からみると,C の半分が A にある. その半分が D にいくので 1/2 の 1/2 で 1/4 が同じ. つまり C と D が 1 + 1 = 2 世代離れており (1/2)2. このように経路を辿るのは,C → 共通の A → D とした. 以降,祖先方向→共通親→子孫方向,と辿る. (2)半きょうだいの子との間 D の子 K との間では(叔父叔母にあたるか)
A
CD
K
C → 共通の A → K の経路で, A の半分が C にきている.C からみると,C の半分が A にある. その半分が D,そのまた半分が K にいくので, 1/2 の 1/2 の 1/2 で 1/8 が同じ. つまり C と K が 1 + 2 = 3 世代離れており (1/2)3. (3)全きょうだい間 両親が同じ子の間 C,D 間ではどうなるか(“全きょうだい”という).
AB
CD
簡単な場合はこの表記でもいいのだが,複雑になると別々に書いたほうがいいので,
ABAB
CD
とする.共通の祖先は A と B である.図では離れてるが,重なっているとみて頂戴.

計算のための交配両親データベースはこの形式で作られている.つまり, (C,A,B) (D,A,B)  … のように,Cの両親はAとB,Dの両親はAとB,….

C → A → D の経由は,
ABAB
CD
で,(1/2)(1+1) = 1/4 C → B → D の経由も同様に 1/4 その和が 1/2,つまり 0.5 が全きょうだい間の近縁係数である. ここまでで,n1 や n2 の意味,その和だけ 1/2 乗すること, 経路の和を取ること,が分かったと思う. (4)複雑な場合 もう一つだけやろうか. C と D は全きょうだいなので 0.5 としたいが, F と G も全きょうだいで A と B がいとこに相当する. それも考慮しないといけないので,全経路を辿ると, CAD1経由が (1/2)2=0.25 (赤の数字1が経由) CBGIFAD2経由が (1/2)6=0.015625 (青の数字2が経由) CBGJFAD3経由が (1/2)6  (以下は黒の数字) CBD4経由が (1/2)2 CAFIGBD5経由が (1/2)6 CAFJGBD6経由が  (1/2)6で, 合計 0.5625 なおこれは,A と B 間の近縁係数は 0.125 で, その半分がきょうだい間の 0.5 に追加となっているのに相当している. このように祖先数が多いと計算は大変だし,共通祖先を捜すのも苦労する. やはりコンピュータの出番である.

両親データベースを用意して,共通の親を捜し,その祖先と子孫を辿っていき, そのたびに 1/2 乗し,最後にそれらを総和すればいいのだから, なんとはなしにソフトでできそうな感じはするであろう.その詳細はここ. きょうだい,と仮名書きしたのは兄弟姉妹の区別したくないから.

上記のコシヒカリと夢つくしの関係では, コシヒカリ,愛国,あさひ経由が各々4,農林1号経由が3,器量好経由が2, 農林22号と亀の尾経由が各々1の合計19を辿ることになる. どまんなか の総祖先数は 526 で,これとコシヒカリでは 86 の経路である. その出力ファイル.ご一覧あれ. どまんなか対キヌヒカリでは 586,ななつぼし対あさひの夢ではなんと 5784 の経路です. 4)近縁度と農業形質との関係 複雑な品種の特性を,ある品種との近縁係数,という形で数値化できた. これは大きい.その値と農業形質との関係をさらに解析できるから. 5)近交係数 近親交配の程度を表す値で,他殖作物では重大である.

定義は, 「個体の相同遺伝子が同一の祖先遺伝子から由来した確率」である. 計算方法は,共通祖先に辿る世代数を数えて, (1+FA)x(1/2)(n+1)   (FA は共通祖先の近交係数. n は共通祖先から両親へ辿る世代数の和), を計算し,この値を全経路について累計する. このように計算方法は近縁係数の場合に似ている.計算ソフトの文献はここ

実例は,きょうだい間の子や親子間の子では 0.25,半きょうだい間の子では 0.125, いとこ間の子では 0.0625 である(共通祖先が近親婚による子供ではない場合).

2個体間の近縁係数はその間の子の近交係数に相当する. しかし,自殖作物でのきょうだい間の近縁係数は 0.5 で, 栄養繁殖作物のきょうだい間 の子の近交係数 0.25 の倍になる.  これは,究極の近親交配の結果である純系の近交係数は 1 で, 自殖作物では共通祖先の近交係数を 1 として計算するため. 

6)分子マーカーとの関係 近縁係数や近交係数は50%ずつ,との統計的手法で計算している. 最近はなんでも分子マーカーばやりだから,そんなの古い,意味ない, などと言うやからもいるが,そんなことはない. 自分の交配記録データさえ完備しておけば,手軽に計算できるメリットは捨てがたい. また,分子マーカー沢山やれば,どうしてもその家系図との関係をみたくなるであろし, そのときは本手法が有効である. まあ両者が必要だということで,本章では計算値と分子マーカーとの関係の有無をみる. 前提としては, ・家系図が正確である. ・選抜はなされていても全体的には半分づつ後代へいく. が必要である. Martin(1982)は大豆の後代系統の88%は片親の遺伝物質の40〜60%を持ち, 強度の選抜を行っても70%を持つ系統を選抜する見込みはなく, 半分ずつとの仮定は妥当としているので,後者はまあいいことにしよう. (1)家系図からの計算と分子マーカーとの整合性 まず,これをみてください.  第8−2図 小麦での近縁係数と同一マーカー数との関係. 距離と異マーカー数 小麦16品種とイワイノダイチの間で,縦軸は近縁係数, 横軸は23種の分子マーカーの内で同一なものの数である. 近縁な組み合わせでは,近縁係数は大きく,同一マーカーも多くなるはずで, この図は実際にそうであることを示している.文献. このように,2つの前提はかなり確からしいことが分かるし, また,本解析法が有効であることを示している. (2)ずれる場合は さて,一つの組合せに絞ると高い相関が出るが, 全組合せの総当たりでの傾向をみると傾向はややばらつく. 第8−3図 二条大麦での近縁係数と遺伝的距離の関係. 遺伝的距離と近縁係数 二条大麦の24品種で,43種類の分子マーカーによるものである(文献). 横軸はマーカーあるなしのデータから多次元空間内距離を計算したもので, 近縁係数が小さくなるに従い大きい値となるので上の図と傾向の向きが逆になるが, 中身は同一マーカー数と同じことである. 相関係数は全体では -0.526,対アサカゴールドに限ると -0.955 である. ここで,祖先で類縁関係が実際にはあるのに家系の記録では無いとグラフ左下に離れてくる (×印,対スカイゴールデン). 右上部に離れたのは,類縁関係があるとの記録だが,実際にはその家系が誤りで, 他と類縁関係のない,あるいは少ない品種が祖先になっている場合である (△印,対きぬか二条). このように本解析では,家系の記録の信頼性も簡単にチェックできる.

正直なところ,両者の関係を書いてみて相関がでてきたときはホットしたもんだった. 全く関係なかったり,あるいは逆の傾向が出たらどうしようと思ってた.

練習問題 以下は haruna と asahi19 の家系図である. haruna の両親は goldenm と satuki とみて下さい. haruna と asahi19 間の近縁係数を計算せよ. 経路は全部で6,答えは 0.328125 のハズ,確認せよ. 第8−4図 はるな二条とアサヒ19号の家系図.

*** pedigree tree of haruna ***
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haruna -goldenm
|
satuki -asahi5 -aitiwase13 -aitiwase5 -taisho -chv
|||||
||||kitukiwase
|||goldenm
||goldenm
|chv
sapporo7 -hannamugi
|
duckbill
*** pedigree tree of asahi19 ***
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asahi19 -aitiwase13 -aitiwase5 -taisho -chv
||||
|||kitukiwase
||goldenm
|goldenm
chv

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9.系統樹作成

品種を分類し,その結果を系統的に表示するときクラスター分析がよく行われる. 似た者同士を集める手法の一つである. クラスター分析を含む多変量解析の極概論はここを. 実際のクラスター分析では,それら品種について多くの形質を計測し, それらの値をもとに多次元空間内の距離(次章でふれる)を品種相互間で計算し, その距離の最も近いものを第1のクラスターとして併合し, 残りについての距離を再計算して次のクラスターを決定し, 順次それ以降も同様な計算を行ってクラスター分けを行って, 最終的な分類を樹状樹の形にして作図を行う. 当然コンピューターが必要だが,簡単な手計算可能なものをまず述べる. 1)簡単な例の解説 似ている程度を測る物差しとしては,一番単純には長さでも可能である. 例えば,細菌,ハエ,カエル,ネズミ,蛇,猿,人間,キリン,鯨,の長さを測り, その値に従い横に並べる. 第9−1図 長さによる生物の分類. 1 mm   1 cm    10 cm       1 m     10 m くらい ――+―――+―――――+――――――――+――――――+―――― 細菌  ハエ (カエル,ネズミ)  (蛇,猿,人間) (キリン,鯨) 対数目盛を使うと,mm単位で左から 0,1,2,3,4 で,目盛りが等間隔になる. それはともかく,長さを測るだけでも,カエルとネズミの区別はともかく 上記生物のおおざっぱな分類が可能である. なお,ハエと (カエル,ネズミ) 間の距離は対数目盛のままで言うと 2-1=1 である. 次に,蛇と(猿,人間)が同じグループでは面白くないので,長さだけでなく幅を計測する. 第9−2図 長さと幅による生物の分類. 2次元での表示 となり,(猿,人間)と蛇とはめでたく別のグループに属すことが示される. この絵でのハエとカエル間の平面上での距離 (2次元空間での距離) は, ピタゴラスで,√ [(2-1)2+(2-1)2]=√2=1.414・・である(下図の中央). ネズミと蛇間では√ [(3-2)2+(1.5-1.5)2]=√1=1 である. さて,猿と人間以外は分けることができたが,残ったこれもなんとかしたい. そこで次には第3の形質として脳の重さ,またはその全重に対する比を計測すると, 猿と人間の区別ができそうである. 全く別の形質で,読書するかどうか (1,0,か読書時間),なんてのも良いかもしれない. ちなみに,前章でのマーカーあるなしも1,0で表した. そのときの表示は3次元の空間になりチト面倒である (下図左). 空間内距離は,ピタゴラスから容易に類推されるように,ハエとカエル間は √ [(2-1)2+(2-1)2+(Z2-Z1)2] である. 全エントリー含んだ絵(下図右)では,第3の軸を知能程度としてみた(値の正確性は不問). 第9−3図 長さ,幅,知能による生物の分類. 2,3次元での距離表示 次は第4の形質を測って距離を計算し,分類をさらに合理的にしたくなるはずである. 形質としては色々あろう.色,形,体毛の有無,運動能力,寿命,DNA,etc と. 4次元以上は可視的にはできない.n個の形質を計測したら,頭のなかでn本の座標軸を立て, そのn次元空間内でエントリーが散布している,ということになる. n個の形質を測ったエントリーA,B間のn次元空間内での距離も3次元の場合と同様な計算である. 次元を増やすと合理的な分類が可能にはなるのだろうが可視的にはできず, そのデータ解析が困難になる.そこで,なんとかして見やすい2次元に, つまり図上に関係を示そうとするのがクラスター分析である. 本章では,コンピューターのブラックボックスでなく,手計算をすることで手法を理解し, 怖がることなく,しかも誤った結果の解釈をしないで済むようになって貰う. 2)手計算によるクラスター分析 例として,まずプライマーOPD12による大麦数品種のDNA多型をあげる. 第9−1表 供試品種(この文献データの一部を使用). ---------------------------------------- 品種番号    品種名(条性,育成地) ---------------------------------------- 1 関東二条35号(二条種,栃木) 4 あまぎ二条    〃 ,キリン) 5 なす二条     〃 ,キリン) 10 シュンライ  (六条種,長野)  13 カシマムギ    〃 ,関東) 14 マサカドムギ   〃 ,関東) 17 ファイバースノウ 〃 ,長野)  19 イチバンボシ   〃 ,四国) ----------------------------------------

葉身からDNA抽出し,PCR増幅してアガロースゲルで電気泳動を行った. 染色後,PCR増幅産物を確認し,バンドの有無を検出した. 品種識別のためのプライマーは稲や大麦で多型を示すものを選定した.

第9−4図 プライマーOPD12による大麦数品種のDNA多型. 電気泳動の写真 このような電気泳動の写真を得た.下表の上に読み取ったバンド有無を---で示す. 次にこのOPD12を含む全マーカーの有無の表を表の下に示す. 第9−2表 8品種における33マーカのバンドの有無.

  品種番号  OPD12 1 4 5 10 13 14 17 19 ------------------------------------- 1250bp --- ---  −−−→ 赤部分 800bp --- --- --- ---   33マーカーのバンド有無を0,1にすると; 品種 OPA11 OPB1 OPC4 OPD2 OPD5 OPD12 OPD18 OPG5 OPG6 番号 800 1900 1000 2100 900 580 980 350 1250 800 930 350 1500 950 550 450 1 0 1 1 1 0 0 1 1 0 0 1 1 1 0 0 0 4 1 1 1 0 0 0 1 1 0 0 1 1 0 1 1 0 5 0 1 1 0 0 1 1 1 1 0 1 1 1 0 1 0 10 1 0 0 0 0 1 1 0 0 1 0 0 1 0 0 0 13 0 0 1 0 1 1 0 0 0 1 1 1 1 1 0 1 14 0 0 1 0 1 1 0 0 1 1 0 1 1 1 0 1 17 1 0 0 0 0 1 1 0 0 1 1 1 1 0 0 0 19 0 0 1 0 1 1 1 1 0 0 1 1 1 1 0 0 OPG13 OPG16 OPM2 OPT8 OPT16 A01 A08 1200 1100 850 750 780 680 1200 1900 1300 1300 1200 1050 1600 1300 1100 1050 1000 1 0 1 0 0 0 1 1 1 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 1 0 1 1 1 1 0 0 0 1 0 1 0 1 0 1 0 0 0 1 1 0 1 0 0 0 1 1 0 0 1 0 0 1 1 1 0 0 0 0 1 1 0 1 0 1 0 1 1 0 1 1 0 0 0 0 0 1 1 1 1 0 1 0 1 1 0 1 0 1 0 1 0 0 1 1 1 0 1 0 0 1 0 0 1 1 1 0 0 0 0 1 1 1 1 1 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 0 1 1 1 1 1 0 1

33次元空間の膨大なデータであり,これだけみていも全体像はつかめない. そこで,ある2品種の間でバンドの有無が異なっているマーカーの数を数えた. この品種相互間で異なるマーカーの数は品種間の違いの程度に相当する. つまり2品種の違い,距離,を示すことになる. (前章で同じものの数としたが,逆なだけで同じことである) 多次元空間内の距離とほぼ同じものである.これを品種相互間で計算する. 計算は2品種間だけなら目で追って簡単にできるが,相互間全部となると大変である. ここに計算ソフトがあるが,少なくとも品種1と4の間くらいは数えて欲しい. 結果は以下である. 第9−3表 品種相互間で異なるマーカーの数(品種間の距離). --------------------------   1 4 5 10 13 14 17 19 -------------------------- 1 0 10 6 22 23 21 19 15 4 0 10 20 21 27 21 19 5 0 20 21 19 17 13 10  0 11 15 5 15 13 0 8 10 10 14 0 12 10 17  0 10 19 0 --------------------------- 練習に,上表の六条種だけで以降してみる. 第9−4表 六条大麦品種間で異なるマーカーの数. ------------------- 10 13 14 17 19 ------------------- 10 0 11 15 5 15 13 0 8 10 10 14 0 12 10 17  0 10 19 0 ------------------- 表をみると,一番"近い"のは 10 vs 17 の 5 である(太字).従って; 距離 ↓ 5 ***** * * 10 17   ← 品種番号 と 10,17 を1つの群にしてよかろう. 次を決めるため,群になったのからの平均値をとると, 第9−5表 クラスター分けの第二段階. ------------------------------ (10,17) 13 14 19 ------------------------------ (10,17) 0 10.5 13.5 12.5   10.5=(11+10)/2 13 0 8 10 14 0 10 19 0 ------------------------------ 13 vs 14の距離が最小で 8 である.よって, 8 ***** * * 5 ***** * * * * * * 10 17 13 14    品種番号 となる.次も同様にして, 第9−6表 クラスター分けの第三段階. ------------------------------ (10,17) (13,14) 19 ------------------------------ (10,17) 0 12 12.5 (13,14) 0 10 19 0 ------------------------------ (13,14) vs 19が最小で 10 である.よって; 10 ******* * * 8 ***** * * * * 5 ***** * * * * * * * * 10 17 13 14 19   品種番号 次も同様に, 第9−7表 クラスター分けの第四段階. ----------------------------- (10,17) (13,14,19) ----------------------------- (10,17) 0 12.25 (13,14,19)   0 ----------------------------- となり,下に示すように一応完成する. 距離 ************ 12  * *   * * 10   * *******  * * * 8   * ***** *  * * * * * * * * 5  ***** * * *  * * * * *    10 17 13 14 19   品種番号 膨大な1,0からなっていた数字が平面図上で可視的に要約された. これをみると,品種が育成地別に手計算で分類できた. また 19(四国)は(10,17;長野)より(13,14;関東)に近いことがわかる. 練習問題 二条種を含めてやってみよ.本章は読むだけでは不十分で, この練習問題をやることが理解のために必須である. 必ずしてみて,ブラックボックスから脱却して欲しい. なお,青木繁伸氏のHpを利用してクラスター分析を正式に行った結果はここである. 練習問題をしたあとで確認してみよ.ソフトの使い方に慣れることも大切である. 戻る

10.育種目標

本章は途中で質問を適宜混ぜる.指名されたとして読んでいって下さい. 大学院ったって,先端,最近のことのみでなく, 重要なことはやり直して確たる理解をすることは重要だから. さらに,本来講義は一方的にしゃべる,聞くだけでなく, 質問,意見を交えながらの双方向であるべきだ. 1)育種目標 (1)多収 最重要である. トウモロコシで1930年代の自然受粉品種は 1.5t/ha 程度であったのが, 7-8t,最近では 10t もの品種が育成されてきている. 勿論,N施肥など環境条件向上による多収化もあるが, N施肥に耐える品種育成という要素も大きく, いわば品種と環境条件は車の両輪である. 多収には色々な要素が含まれるであろう. 収量構成要素(これ何だっけ?),耐病虫性,受光体勢,光合成能力,などなど. 収量構成要素については,相互に補償作用があるので, 個々の形質のみを目標にして成功した例はあまりなく, それらを総合して徐々に向上してきた. (2)耐冷性 熱帯産の稲が日本で生育できるようになるには耐冷性付与が必須であった. ところで,稲の冷害には2種類あった.それは何だっけ? 収量同様に,耐性性も低温発芽性,早生,いもち病などへの抵抗性, 低温への生理機能など各種形質の複合したものである. 2種類の冷害は,これら形質の何がそれぞれ深く関与しているのか? (3)耐肥性 第10−1図 新旧水稲品種のN施肥への反応(Chandler 1969).

9 I + + IR−8(改良品種) もみ収量(t/ha) I +            7 I +              I *              5 I* *              I+ *          I * * Peta(在来品種)           −I −I −I −I −I −I − 0 30 60 90 120 窒素施肥量(kg/ha)

古い品種は無施肥では改良品種より収量が上回ることもあるが, ある程度以上の施肥では収量が低下する(なぜか?). 改良品種は施肥に従って収量が増加していく(勿論限界はある). こういうのを耐肥性という. どういう特性が関与しているか? 上のなぜかと同じ質問であるが. 稲以外の作物でも,近代の品種にとって必須の特性である. なお,インプットなしに生産はありえないと考えるので, ここでは無施肥での品種特性の是非などの議論はしない. (4)病虫害 稲では,イモチ病、ゴマハガレ病、モンガレ病、・・・と沢山とあり, その多くは少数の耐病性遺伝子を導入することで発病を抑えられる. しかし,それには問題があった.それは何か,その対処法は何か? 病虫害などの重要性と品種間差有無の極概略を一覧にした. この表から,

第10−1表 水稲作への主要病虫害など. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   病虫害 重要性 品種間差 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 早期   いもち病   △〜○ あり   縞葉枯病(ヒメトビウンカ) □      あり 普通期   白葉枯病          ?      あり   ウンカ類(トビイロウンカ) ○      あり   カメムシ類         □〜○    ? その他    メイチュウ,イネミズ・・  ? ?(一部あり)   雑草            ○      なし(除草剤) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

何を導入すべきか? 戦略を立てよ. (5)穂発芽 コシヒカリは耐穂発芽が強で,穂発芽しにくい. 西南暖地でコシヒカリが早期作に導入されたのは,高品質もあったろうが, 早期作で問題となる高温下での降雨による穂発芽に耐性があったことである. 良食味の新品種がコシヒカリになかなか置き換わらなかったのは, 当初の新品種の穂発芽耐性が充分でなかったことも大きい. (6)倒伏 稈自体の強度,病虫による弱化,根の支持力,短稈,などが関与する. これらは品種間差が大きく,重要な育種目標である. 中でも短稈化(半矮性品種)は目標として簡単であり,その効果も大きかった. 簡単に収穫指数(これ何だっけ?)の向上にもつながった. (7)低温発芽 畑作物で重要である.早播きで作期を早めることができる.品種間差も大きい. (8)環境適応性 まず,安定性,交互作用の章を復習せよ. これには品種間が確かにある.そのため,複数年,作期,ある場合は施肥条件, などを変えて新品種の評価を行うことが通常行われている. 病害抵抗性なども,品種と環境の交互作用がみられたら同様であり, 実験室の結果だけで安心してはいけない. 品種の違いで,例えば低温と高温での病虫抵抗性に差があるようなものがあるか, 調べよ. (9)品質,食味 量が足りてくると次は品質が問題となる.そんなの邪道だとの意見もあろうが, 良食味米開発に遅れ倉庫一杯にしてしまわないために品質育種は避けて通れない. 数々の理化学特性による間接選抜が提唱され(米では何だった?), 実際に行われているが,最終的には官能試験による. パネル構成員の感度を高めることが必須である.そのため,構成員の評価をしておく. また,プラセボ効果(これ何?)は常に念頭におかねばならない.これらは後述. (10)総合値 下記は福岡県の試験場で行っている水稲育種試験の成績書の一部である. 早期栽培として普及しているハヤユタカを改良し,コシヒカリ並の食味としたい. 予備的な選抜を重ね,この年始めて収量や品質などのテストを行った. 第10−2表 早期栽培用品種の選抜.  ────────────────────────────────  品種名 成熟期 稈長 倒伏 穂発芽 いもち 品質 収量 食味 概評 ──────────────────────────────── ハヤユタカ  8.5 71 0 ×  4.4 6.0 100 -1.33 比較  フ系753   8.2 73 1.0 ○△ 5.0 4.0 96 -0.43 ×   ′760   8.3 72 0  △× 4.0 5.0 99 0.07 △   ′761   8.4 69 0  △  3.9 5.0 101 0.29 ◎   ′768   8.4 74 0  ○  4.0 4.0 94 -0.43 △   ′614   8.5 72   0  △  4.6 5.0 100 -0.14 △   ′767   8.7 72   0 ○△ 3.9 4.0 98 -0.43 ×   ′763   8.7 74 1.0 △  4.2 5.0 103 -0.36 ×   ′764   8.7 76 0.5 △  4.6 5.0 100 0.00 △   ′789   8.8 74   0  △  5.2 5.0 98 -0.35 ×   ′657   8.9 65 0  △  3.9 5.0 117 -0.47 △  コシヒカリ 8.15 79 1.5 ○  5.4 4.0 111 0.00 比較 ──────────────────────────────── 移植;1994年4月20日.倒伏;0(無)〜5(甚).いもち;0(無)〜10(枯死). 品質;1(上上)〜6(中下).玄米収量;ハヤユタカ基準.食味;コシ基準. さて,フ系753は食味が劣り,収量も不十分なので概評は×,760は穂発芽が劣り△, 761は後述,768は食味で△,614は穂発芽で△,767以降はハヤユタカより晩生でダメ ・・・と,いづれもどこかに欠点がある. 761も穂発芽に問題あるが,収量と食味がまあまあで,この中で選ぶならこれかな, ということで◎がついているが,かなり不満である. このように,実際にはオールマイティはなかなか困難なのである. (11)良食味品種はコシヒカリの栽培特性改良である. 例えば, あきたこまち  ; コシ/奥羽292号 はなの舞い(山形) ; 北陸99号/コシ ごろぴか(群馬)  ; 月の光/コシ はえぬき(山形)  ; 庄内9号/あきたこまち ひとめぼれ(宮城) ; コシ/初星 とコシヒカリが主な交配親になっている. 北海道の品種でさえ, 第10−2図 ほしのゆめの家系図. ほしのゆめ--┌ F1 --┌ あきたこまち --┌コシヒカリ |    |          |      |   └道北48号    └ 奥羽292号 └ きらら397 と,あきたこまち経由でコシヒカリと近縁になっている. さらに,夢つくしでは(家系図は簡略化している), 第10−3図 夢つくしの家系図.       ┌・・・← コシヒカリ ┌キヌヒカリ─|     (キヌヒカリは約半分コシ) 夢つくし ─│ └ナゴユタカ   └コシヒカリ と,コシヒカリと極めて近縁である.勿論, 遺伝的背景を広げることは重要ではあるが, それは言うに易しく実際はなかなか困難である. 戻る

11.育種法トピックス

本章では,半数体育種と栄養繁殖作物の育種についてふれる. 1)半数体育種 (1)作成方法 半数体とは体細胞の染色体数の半分を持つ個体である. 配偶子の染色体数は半数で,若い花粉を含んだ葯を培養する(葯培養)と, 葯中の花粉からカルスが形成される. 各種作物で半数体が作成されている. 第11−1図 稲の葯培養.カルスがいくつか分化している. イネ葯培養 培地にはカルス分化を促すホルモン(2,4-D)を添加する. 次にカルスを再分化促進ホルモン(NAAやIAA)を含んだ培地上に移植すると, 半数体の植物が分化する. これをコルヒチン処理すると染色体数が倍加し, 遺伝的に完全にホモとなった2倍体植物(倍加半数体)が短期間にできる. 再分化の過程で染色体の自然倍加がおき,コルヒチン処理なしに倍加個体が得られることも多い. 第11−2図 ミシマサイコ再分化個体とソルガム半数体の染色体(n=10). 半数体分化と染色体 葯培養以外でも半数体を得ることができる. 第11−3図 Hordeum bulbosumの花粉. bulbosum オオムギに近縁野生種のHordeum bulbosum花粉を受粉させると, H.bulbosum由来の染色体は胚形成中にすべて消滅し,オオムギの染色体が残る. この胚を培養することでも半数体植物ができる. (2)長所欠点 半数体育種法では育種年限を短縮できるが, 通常の育種のように多数個体の集団を養成しにくいので, 望まし組換え個体を得る率が低くなる,施設や熟練を要する, 脱分化・再分化の過程で変異がでやすいなどの欠点がある. bulbosum法では変異はほとんどでない. 半数体誘導での品種間差が大きく,例えばコシヒカリは葯培養への反応が悪い. Bulbosum法で,ビール大麦が交配から3年で地域適応性試験供試系統を決定でき, 本法は早期新品種育成として有効と考えられた(文献). 本法で,ビール大麦新品種’ほうしゅん’が育成された(文献). また小麦半数体が H. bulbosum やトウモロコシなどの花粉利用でできる. (3)通常法との比較,分離の歪みの有無 i)小麦 第11−4図 通常法(左)とbulbosum法(右)の稈長の比較. Ushiyama 2008 小麦DH比較 3〜6年目で集団のゆがみの有無を方法間で比較した. 半数体育種法では遺伝的なゆがみは認められず,稈長は明確に分離し, 自殖系統では密植により世代を重ねると遺伝的なゆがみが生じた. このことも半数体育種法の有効性を示すものと考えられる. 小麦へのbulbosum法適用により新品種キヌヒメ, トウモロコシ法によりユメアサヒ,ハナマンテンが育成された. ハナマンテンは交配から8年,ユメアサヒは9年で育種された.これまでの集団育種法では, シラネコムギが16年,しゅんようが15年,ユメセイキ,フウセツが14年であった(文献). ii)水稲葯培養法と通常育種法による育種経過を比較する. 第11−1表 水稲葯培養法と通常育種法の比較(大里ら 1999).

育種経過の比較. ────────────────────────────────────────           1991 1993 1994年 ────────────────────────────────────────  葯培養法 交配数  3 3 5 置床葯数     (a) 23715 12100 29376 カルス数     (b) (b/a %) 6820(28.8) 2762(22.8) 4212(14.3) 緑色個体数   (c) (c/a %) 218( 0.9) 671( 5.5) 194( 0.7) 系統選抜1年目供試数      - 221 159 予検供試数(食味検定系統)  17 (6) 14 (0) 13(12) 通常育種法 交配数  8 23 24 系統選抜1年目供試数      8958 16520 19490 系統選抜2年目供試数      898 1722 2115 予検供試数(食味検定系統) 49(26) 69 (0) 73(37) ────────────────────────────────────────  育成系統平均値(標準偏差)と平均値間差のt検定. ───────────────────────────────────  形質  年次  葯培養(SD) 通常育種(SD) t値 DF ───────────────────────────────────  出穂期   1991  8.19(0.05)  8.20(0.07) 0.85NS 64 月.日   1993  8.28(0.07)  8.26(0.06) 0.87NS 81 1994  8.15(0.07)  8.17(0.08) 0.68NS 84 稈長    1991  67.6(4.9)  69.4(7.1) 1.13NS 64 cm 1993  64.6(4.5)  69.0(3.2) 3.49** 81 1994  83.2(4.8)  80.5(5.4) 1.85# 84 穂長  1991  19.9(1.2)  19.8(1.3) 0.44NS 64 cm     1993  19.0(0.8)  19.9(0.7) 3.78** 81 1994  19.5(1.3)  20.4(0.9) 2.41* 84 千粒重  1991  22.1(0.9)  22.5(0.9) 1.70# 64 g     1993  20.9(1.8)  21.5(1.8) 1.11NS 79 1994  22.7(0.3)  22.6(0.3) 0.79NS 84 収量    1991  41.1(3.5)  46.1(7.4) 3.66** 64 s/a 1993  41.8(4.9)  43.8(3.6) 1.42NS 81 1994  62.9(4.6)  62.3(4.2) 0.46NS 84 食味    1991   -0.10(0.38) -0.37(0.18) 1.64NS 30        1994   -0.53(0.42) -0.46(0.31) 0.79NS 47 ──────────────────────────────────── #;10%水準.

1991,93,94年の生産力検定試験に供試した材料. 交配組合せは通常育種法では8〜24組合せ,葯培養法では3〜5組合せ. 葯培養法では1万〜2万の葯を置床したが,最終的に得た緑色個体は194〜671であった. 圃場栽培し選抜を行い,生産力検定試験へ編入できた数は13〜17と少なくなった. 通常の育種法では系統選抜試験供試数,生産力検定試験供試数は葯培養法よりかなり多かった. 葯培養法による生産力検定試験供試系統は交配の3年後,通常育種法では4年後で, 葯培養法によるものが1年早く供試できた. 出穂期は両者に差がなかった.穂長は1993年と1994年の2ヶ年で葯培養が短かった. 収量は葯培養が低い値であった. 通常育種では葯培養よりも大きな集団から草型などの観察による選抜が行われたため, 平均収量が高まったものと考えられる.食味やその他の形質では両者間の差は小さかった. 従って,葯培養においても育種規模を大きくすることにより, 優れた特性をもつ系統が通常育種と同様に得られるものと考えられる. (4)置き換わったか 半数体育種法は現状では特殊な場合以外あまりなされなくなってきている. いくつかの新品種(例;千葉県育成ふさおとめ)は誕生したが, 手間をかける以上の成果ではなかったため,通常法に置き換わることにはならなかった. 新品種誕生で一番時間がかかるのは育成途中の固定化よりも,現地試験, 奨励品種決定試験,品種登録のための試験,あるいは生産団体,行政との調整であり, それまでの1年程度短縮の効果があまりなかった. 2)栄養繁殖作物 栄養繁殖作物とは,有性生殖を経る種子による繁殖でなく, 栄養系によって繁殖する作物のことである. 倍数体である場合が多く,一般に多収で不良環境によく耐える. 突然変異か,交配可能なものは交配実生からの選抜による. 栄養繁殖作物は通常異型接合であるが,子孫はすべて同一の遺伝子型であり, 集団としては斉一である. (1)開花,採種 第11−5図 サツマイモの花と種子. いもの花と種子 開花,交配,採種の困難な場合が多いが,交配して得た種子由来の実生を増殖, 評価するだけであり,分離はなく,育種方法は他の作物に比べると単純である. (2)栄養系の評価 第11−6図 サツマイモの実生の評価. いも実生選抜 増殖だけでも長年月がかかる.早期検定が重要となる. (3)組合せ能力検定 反面,組合せ能力の検定が重要であり,通常,予備的に組合せ能力の検定を行い, 能力の高い組合せのみについて大規模な交配を行う. 第11−2表 組合せ能力検定試験の有効性.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
交配種子数,A生検編入系統数,BA/B
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
予備的な検定なし4029166700
検定後大量採種48563461100
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
6年間の合計.生産力検定試験に編入された系統を一応成功したものとする. A/Bは何粒交配すると1系統できるか,の数字. 予備的な組合せ能力検定試験をしてから,有望組合せについて大量採種をした場合, いきなり交配,選抜するより約4倍効率がよかった(文献). (4)選抜の実際 稲麦などと同様,いも収量などよりも耐病性などの年次間相関が高いので, 耐病性などで初期に選抜を行い,収量の選抜は栄養系を増殖して,反復を設けて育成後期に行う. 第11−3表 サツマイモ主要形質の年次間相関.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
T56T45T34T23
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
いも収量0.720.620.490.29
切干歩合0.840.780.680.58
いも大きさ0.650.650.48
一株いも数0.670.610.48
いも外観0.59
ネグサレセンチュウ抵抗性0.91
ネコプセンチュウ抵抗性0.85
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
T56は試験開始から5,6年目の間の相関.他も同様. 2年間共通な供試品種間で計算した(文献). 収穫物が重いなどのため,圃場作業の機械化が必須である. 第11−7図 サツマイモ育種での移植作業. サツマイモ育種の移植作業 栄養繁殖作物は近親交配で近交弱勢がおきやすい. これは前の章のここ参照. 戻る

12.米の食味

本章は松江勇次学位論文(要旨PDF本文)にほとんどよっている. 本章では,まず食味という値がどの程度信頼できるのか,理化学的特性で説明できるのか, 環境条件でどう変わるか,などを述べる. 1)米の食味評価 まず,旨い不味いというが,どの程度の精度で判断しているのだろうか. (1)判定結果の元データ 下の図の右上は安定性の章で既にふれた.図の左上が13名で9品種の評価をした とき各自3反復して平均値をとった元データである.縦軸は評価員の頻度である. 最低位のチクゴニシキと最高位のコシヒカリでは確かに差がありそうである. しかし中位の黄金晴やユメヒカリとでは,再上位,あるい最下位の品種と同じ, 中には逆転して判定する人も少なからずいる(但しこれら品種間に有意差はある). 判定がろくにできてない人が結構いるなら食味はどうでもいいか.そうではなかろう. 平均値で差が,それも有意差があるなら,又は味にうるさい, 精度の高い判定をする顧客がいれば,無視はできない. しかもそれらの人の評判の与える影響は大きく, 生産から流通の全過程で食味に気を使わなければ競争に負けること必定である. 競争は無駄か.それも違う. 結局その地の水田農業の衰退を招くことになり,由々しき問題である 第12−1図 食味試験でのパネル評価員の判定と試験精度. 食味判定精度 (2)食味試験の精度 上の絵の下部は判定をした人の精度を評価した結果である. 縦軸に皆と同じ判定をしたかの値,横軸に識別能力の値をとった.

縦軸は嗜好性とした.全体の平均値とその人の判定値とが一致しているか,相関係数で示した. 横軸は各人別の分散分析のF値で,この値が大きければ3反復間の差が小さい.

横軸では縦のできたら実線,悪くとも点線より右にきて欲しく(分散分析の有意性), 多くの人が判定の精度を満足していた. 判定の精度が低い人は全体との一致度も低く,問題ありであった.特注すべきは, 全体と異なる判定を,精度高くする人図の(右下にくるはず)はいないことである. コシヒカリみたいのでなく,粘りのあまりないのが好きだと言う人がいる. しかし,そのような人はいない,信頼できそうにないということである. なお,ここでのパネル構成員は試験場職員で,ある程度の訓練は経ているものの, 基本的には素人である. 穀物検定協会などでは,ここでのより遙かに誤差少なく判定がなされている. (3)パネル構成員の違いによる差 試験場の本場と分場で試験を行った.両者には有意な相関が認められ, パネル構成員が違っても,ほぼ似た判定をしている. 第12−2図 2ヶ所で同一材料をした結果 食味場所間相関 左はコシヒカリ,右は日本晴.栽培方法を色々変えて行った. (4)年次の違いによる差 年次が異なっても有意な相関が認められ,品種間差の傾向はほぼ似ている. 第12−3図 年次の違いによる判定の差 食味年次間相関 同一品種をいくつか2年間栽培して食味をみた. 2)理化学特性との関係 多くの品種間の比較で,食味は窒素含有率,アミロース含有率, デンプンの糊化特使(最高粘度,ブレークダウン)と関係がある. 第12−4図 食味と理化学特性との関係. 食味理化学的特性 縦軸は食味,横軸は左から窒素含有率,アミロース含有率,ブレークダウン. 次に,これら理化学特性値を総合して食味を推定できるか重回帰分析をした. 年次(又はその年に供試された品種)の違いで,有意な項目や回帰係数は異なるが, これらを用いて食味の推定がある程度可能である(手間のかかる食味試験なしに). この中で,窒素含有率は常に影響しているようである. 第12−1表 理化学特性値に対する食味の重回帰係数.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試験年次窒素アミロース最高粘度ブレークダウン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1988標準偏回帰係数-0.394-0.0720.457
偏相関係数-0.449-0.0450.251
(R2=0.746,df=10,n=14)
1989標準偏回帰係数-0.275-0.1910.0490.600
偏相関係数-0.517-0.4210.0950.762
(R2=0.927,df=10,n=15)
1990標準偏回帰係数-0.323-0.407--
偏相関係数-0.356-0.434--
(R2=0.351,df=24,n=27)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3)環境条件による変動 食味は品種によって多くが決まるが,環境(栽培)条件での変動も大きい. これらを明らかにしておくことは,良食味米生産にとって必須である. (1)作期 早植で食味は良く,移植時期が遅れるにしたがい食味は低下した. 特に晩植(7月5日植)では著しく食味が劣った. このことも早期栽培が増えた要因である. 水田の高度利用からは麦作の犠牲を伴っており,好ましくはないが…. 移植時期の早晩による食味変動の大きい品種と小さい品種があった. 第12−5図 移植時期と食味の関係 移植時期と食味 (2)倒伏 倒伏により食味が低下し,時期が早いほど低下が大きかった. しかし成熟5日前の倒伏は食味に影響を与えなかった. 第12−6図 倒伏時期と食味の関係 倒伏と食味 人為的に時期を変えて倒伏させた. (3)収穫期 当然,成熟期刈が最良であった. しかし,遅刈による食味低下程度の関係は品種により異なった. 第12−7図 収穫期と食味の関係 刈り取り時期と食味 (4)遮光 遮光(日照不足を想定)によって食味が低下し,処理時期が早いほど低下する. コシヒカリでは遮光による食味の低下程度が小さい. 第12−2表 遮光による食味低下. −−−−−−− コシヒカリ   15 -0.50* 20 -0.45 25 -0.38 30 -0.10 日本晴   15 -1.18** 20 -1.00** 25 -0.64* 30 -0.46 −−−−−−− 70%遮光する寒冷紗を出穂後の15〜30日かけた. 無処理を基準とした. (5)殺虫剤敵布 結論は,少なくとも殺虫剤の無敵布により食味が向上することはない,とした. 外観が無散布では低下するかもと予想したが,それはなかったので, 外観が低下して,官能試験に影響を与えたということはない. 第12−3表 殺虫剤散布と食味 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 年次 総合評価 外観  味  粘り −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1987 -0.36 0.07 -0.57* -0.43* 1988 -0.18 -0.06 -0.06 -0.29 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 日本晴で,農薬散布慣行区を基準とした.*は5%水準で有意差あり. (6)干ばつ 干ばつの程度が小でも食味が低下した. 第12−4表 干ばつと食味. −−−−−−−−−−−−−−− 程度 検査等級 食味 −−−−−−−−−−−−−−− 日本晴 無  2等中  0.00(基準) 小  2等中  -0.33 中  2等下  -0.66* 多  規格外  -1.07** ヒノヒカリ 無  1等下   0.00(基準) 小  2等中  -0.33 中  2等下  -0.47 −−−−−−−−−−−−−−− 干ばつの起きた現地から取った. 干ばつ程度は達観で判定した. (7)穂発芽 穂発芽は食味の低下を招いた。 しかし,混入率10%では食味に影響を与えなかった. だからといって,検査で10%を許してくれるかは別問題. 第12−5表 穂発芽と食味 −−−−−−−− 混入率 食味 −−−−−−−− ミネアサヒ 0 0.00 10 -0.15 25 -0.38 50 -1.06** 75 -1.44** コシヒカリ 0 0.00 10 0.00 25 -0.13 100 -1.25** −−−−−−−− 人為的に発芽させたものを混入した. このように,干ばつや穂発芽による食味の低下程度には品種間差がみられ, コシヒカリやヒノヒカリは低下程度が小さかった. (8)貯蔵 古米で食味が低下し,古米のコシヒカリは新米の日本晴程度であった. 低下程度に品種間差が認められた. これは試験方法が難しい.年次を超えて比較しないといけないから. 第12−8図 新米と古米の食味. 古米食味 左は新米古米共に1988年産.食味試験は新米は88年,古米は89年に実施. 右は新米は89年産,古米は88年産.食味試験は89年に同時に実施. いずれも基準米は新米の日本晴. (なお,食味の低下する品種は遊離脂肪酸が多い傾向にあった) (9)標高や場所の差 なんとなく山手がいいと言われるが,その証拠はない. むしろ,山手では登熟期の低温遭遇の危険に留意すべきであろう. 第12−9図 標高別の食味. 標高と食味 福岡県での多数現地試験の材料を試験場に集めて食味をみた. 標高よりも,以下に示すように土壌,特に黒ボク地での食味低下の対応が必要である. 黒ボクで食味低下するのはなぜか? 第12−10図 黒ボクでの食味. くろぼくと食味 多くの現地試験を取り纏め,黒ボク地帯のを点線で囲った. (10)理化学的特性 栽培条件による食味の変動は理化学的特性の変化をも伴っている. 品種間差はあるものの,食味が−0.5以上の有意な差で低下する場合は, 概してタンパク質含有率では8.5%以上,アミロース含有率では20.0%以上, アミログラムの最高粘度が300B.U.以下,ブレークダウンが100B.U.以下の時が多かった. これらの値は良食味米生産技術ための指針となる. ただ,栽培環境条件の違いが食味に及ぽす影響と,品種の違いによる食味の差を比較すると, 一般的には品種の違いによる食味の差の方が大きい. (11)有機とか 当然のことながら,食味評価は科学のもと,つまり感情論でなく,行うべきものである. 通常,堆厩肥大量使用は窒素制御がしにくく,食味向上が難しい. 齋藤ら (2002,日作紀)によると, 第12−6表 有機栽培での食味. −−−−−−−−−−−−− 有機・無農薬  -0.01ab 有機・源農薬  0.03b 有機・有農薬  -0.24a 慣行      0 −−−−−−−−−−−−− Nを堆厩肥,鶏糞5+油粕6kg/10aで揃え, 減農薬は除草剤散布,殺虫剤無散布. 日本晴,3カ年の平均値. また,食味ではプラセボ効果に常に留意する必要がある. 浅野ら (1998,日作紀)によると, 第12−7表 米の食味とPlacebo効果 −−−−−−−−−−−−−−−−−− 標準的な試験方法 アイガモ -0.13 慣行    1.17** 米の銘柄(コシヒカリ)を明示した試験 アイガモ -0.20 慣行    0.34 銘柄と栽培方法を明示した試験 アイガモ  0.03 慣行    0.83* −−−−−−−−−−−−−−−−−− キヌヒカリを基準.アイガモ栽培米はタンパク質含量が慣行より1%以上高く, 慣行栽培の食味が高かった. しかし試験前にアイガモ栽培に関する情報をパネルに伝えると, アイガモ栽培米の食味評価が若干高まった. 以上の2つの論文の結論が極めて妥当である. さらに,乾燥方法と品質に関する北陸農試(1976)のデータでは, 第12−8表 乾燥方法と品質. −−−−−−−−−−−−−−−−−  温風   所要時間  胴割率% −−−−−−−−−−−−−−−−−  55度   11.3時間   10.2  45度   10.2時間   6.1  35度   15.5時間    1.2   自然乾燥 7日間    4.4 −−−−−−−−−−−−−−−−− 含水率30.2%の生籾を14%になるまで乾燥させた. 当然であるが自然乾燥はそのときの天候に大きく左右される. つまり,はざ掛け米が美味しい,とはならない. 戻る

13.自給率,最大収量,エネルギーなど

収量限界にふれる前に, 1)自給率の復習をしてほしい. 大体自給率とは? 計算方法は(いくつかあった)? 個別品目,特に重要なものの値は? くらいはすらすら出てこなくてはいけない. 一応それらは思い出すなり,調べ直すなりしたとしたら, ここにある数字をみてもよろしい. 自給率の低いことから,国内産振興のみが強調されるが, 素直に考えると,まず何を,どのくらい,どこから輸入しているか, を明確にしておくべきである. 農林水産物輸出入概況(ここ)で, 農産物輸出や全貿易の値も示した. その中で,農産物の占める位置を理解してほしいためである. ここの数字は,例えば国内生産の米の量を尺度にみたらいい. とうもろこしの輸入,中国の大豆輸入がどれほど莫大で恐ろしい数字かが分かる. 農水省の試算では,主な輸入農産物の生産に必要な海外の作付面積は1200万ha (内訳は,小麦 242,とうもろこし 215,大豆 199, その他作物 294(なたね 132,大麦 79等), 畜産物を飼料換算 250)で,国内耕地の2倍以上の面積を必要とする. なお,農産物輸出では加工品が多く,一次産物はわずかである. 今後,本当に期待ができるものだろうか. 耕地面積ここ)は毎年減少している. 100年でなくなる計算である. 耕地利用率ここ)をみると, それでいて平均的には1年1作していないことになる. また県間で利用率の差がかなり大きい. 視点を変えて,食料は勿論大切ではあるが,例えば, ・石油,肥料,エネルギーなどの自給率は?(調べよ) それらなしでは作物生産はなりたたない. 確かに全体像を考慮すべきである. さらに, ・我が国の資本で生産したものの割合 を広義の自給としてもよいのでは,との意見もあり,一理はある. 世界人口ここ)をみると, 一人の力は勿論のこと,一国で可能なことのはかなささえ感じてしまう. 食べ残しと廃棄に関する農水省調査では, 所帯平均が7.7% 外食産業平均が5.1% (食べ残しと作り置き商品廃棄,厨房内廃棄含まず) 一般飲食店は3.0% 結婚披露宴では23.9% だそうだ. 2)最大収量,エネルギーなど (1)国内産でのカロリー摂取の可能性 第13−1表 カロリー効率を最大化した場合の国内での食糧供給量. ------------------------------------------------------------------   総供給量 平年収量で試算 多収米導入 ------------------------------------------------------------------ 栄養水準 供給カロリーkcal 2620   2000  2000      蛋白質  g    87    62   62      脂質  g   82    27   30 1人1年あたり純食糧 kg         米     72   91   109         麦類    32    18   13         いも類   20    153   70         野菜     111    82   100         果実     39    12   22         牛乳・乳製品 76    31   31      肉類     27    3 4 鶏卵    16    4  7 油脂     14    3    3 魚介類 37    38   32 ------------------------------------------------------------------ 農水省 1990年,による.総供給量は調査当時の値. 500万haの農地,魚介類は現量,食用仕向を優先などを前提とする. がんばっても2000kcal,しかも,米さらにいも類を沢山食べ,肉類は大幅減である. 第13−2表 1人1年に必要なカロリーを個別作物で得るには. ----------------------------- 作物名   必要面積(a)  ----------------------------- サトウキビ      5 小麦  10  同カロリーを得ようとしたら ミルク 100  牛肉  500 ----------------------------- 一日,2585 kcal x 365日 = 944,000 kcal で 100万kcal/年・人 とした. 小麦の収量は270kg/10a, 270,000 x 3.5 kcal = 945,000 kcal / 10a とした. 肉で1カロリー得るにはその6〜7倍のカロリーの穀類を必要とする. 第13−3表 わが国の普通作物の平均収量の比較(最近の農水省統計より試算)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
作物子実・いも平年収量乾物率可食部乾物収量*カロリー収量
t/hat/ha百万kcal/ha
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
5.28863.8515.4
小麦3.80872.8111.2
大豆1.70851.236.8
バレイショ31.90**236.2424.9
サツマイモ25.04337.0228.1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
*;可食部を一律85%とした.**;平13年での値. 乾物1g (ほとんど炭水化物)で4000cal,大豆は5520calとした. 稲・麦で28百万,サツマイモ・麦で39百万kcal/ha生産可能(地域性は無視), わが国耕地面積は500万haとして乗じ,さらに一人・一年必要量100万kcalで割ると, 1.4億〜2億人分にはなるが・・・ (2)太陽エネルギー利用効率 どの程度の効率で太陽エネルギーを固定しているかは,日射エネルギーと, 生産物のもつエネルギーの割合から計算する. 第13−4表 太陽エネルギー利用効率.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
CO2固定経路場所CGR日射量Eu
g/u/daycal/cm2/day%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
トウモロコシC4福岡554854.6
塩尻524864.3
カリフォルニア527342.9
イネ(インド型)C3フィリピン555084.1
(日本型)筑後364782.8
モロコシC4カリフォルニア516902.9
ダイズC3盛岡272904.4
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
光合成と物質生産,村田 1980 から. CGR 個体群生長率 = (W2-W1) / (t2-t1). W1,W2は時点t1,t2における単位面積内にある全個体の乾物重. Eu:日射エネルギー利用効率.乾物1g (ほとんど炭水化物)で4000cal,大豆は5520calとした. ここでは短期間での最高値. イネの全生育期間では1.71〜1.12または1.35〜1.24%程度である. 子実として固定された太陽エネルギーの割合は最大0.2%前後である(文献). 太陽電池の発電効率向上はめざましく,高いもので17%, さらには35%なんてのも実現されつつあるらしい(ウィキをみた). これらは最高値で,一日,あるいは一年での平均値は当然低下するのであろうが, 作物で日射エネルギーを吸収するより遙かに高い値である. 作物も改良は進んでいるが,現状の作物体全体での最高値の4%程度, 子実への固定では0.2%程度の値が太陽電池並に向上するはずはなく, 作物は矢張りエネルギー吸収よりは食料生産としてみるべきである. 第13−5表 各作物の収穫指数. −−−−−−−−−−− 作物      % −−−−−−−−−−− 水稲      38 小麦     30-38 大麦      51 トウモロコシ  41 グレイソルガム 48 大豆      46 −−−−−−−−−−− 光合成と物質生産,村田 1980,より. この値を向上させるのが一番手っ取り早い. (3)投入エネルギー 生産の要するエネルギーも考慮しなければならない. 当初は石油危機との関連でいくつかの場合について推定された. 第13−6表 生産に要する投入エネルギー(武田1983)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
組合せ収量産出エネルギー投入エネルギーA/B
t/ha百万kca/ha,A同,B
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
稲+麦平均4.89+3.1336.1+22.976.4+25.30.47
多収農家7.50+6.00 55.7+43.880.3+28.40.92
サツマイモ+麦平均24.9+4.00 37.5+23.219.0+18.81.07
多収農家50.0+6.0074.0+43.843.3+35.41.50
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
サツマイモを作らないかぎり,投入以上のエネルギーを産出してないじゃないか, とのデータである.しかし,食料生産のためのエネルギー投入なのだから, それはやむを得ない感じはする.運搬,調理にも当然エネルギーが必要だし. もっと広範囲にみたデータが以下である. 第13−7表 食糧生産のエネルギー比率 (いまなぜ種子か 新食糧戦略論,友永剛太郎著,講談社から)  エネルギー産出量/エネルギー投入量 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
70〜60自給自足農業,キャサバ
5〜10熱帯作物,いくらかの肥料と機械を使用
5〜4 テンサイ
4〜3コムギ
2〜1バレイショ
1〜0.5豆類
0.5〜0.4全農業,英国1952
0.4〜0.3ミルク,全農業,英国1968
0.2〜0.1鶏卵,ブロイラー
0.05船団漁業
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
岸壁または農場出口時点での値. 大きくは,自給農業>普通作物>畜産>漁業,の傾向で,それも桁違いである. 第13−8表 農産物1kg当り生産に投入されたエネルギー 同上より(原典は 科学技術庁資源調査会編 衣食住のライフサイ クルエネルギー 昭和54年)
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小麦かんしょハウスきうり
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計226614772044287
食品熱量33703280120090
合計/熱量0.670.450.1747.6(露地は7.4)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ここでの計算では,投入エネルギー以上をキュウリ以外は得ていることになる. やはり,自然を生かした生産に回帰すべきではある. 最近のデータについては各自調べよ. 3)遺伝子組換え作物 この課題は今後の食料安定生産に避けて通れない. 世界で作出された事例は, 除草剤耐性,害虫抵抗性,耐病性,収量向上,不良環境耐性,日持ち, 成分や機能(高オレイン酸,高カロチン,高メチオニン,低アミロース), 繊維改良, など多岐にわたっており,貴重な形質改良が含まれている.    わが国の遺伝子組換えイネ事例は, ウイルス抵抗性,低アレルゲン,造酒用低タンパク質, 低グルテリン,除草剤抵抗性, などで,ニッチ狙いか. 以下のようなことも可能である. 第13−1図 イネへのグルテン導入による製パン性付与. グルテン導入米粉パン パーティクルガンで小麦のグルテン遺伝子をイネに導入したら,その米粉が膨らんだ. 文献(導入法遺伝子の確認製パン性). 非現実的な安全性の要求で,高価格なり安定供給阻害が生じるのは困ったものだが, 冷静な議論はできないのが現状である.多分,反米的な背景もあるのだろう. 反対派は飢えてなさそうだ(ここ),なんて揚げ足取りをするつもりはない. しかし,遺伝子の理解なり簡単な導入実験を経験すれば考えはだいぶ違ってくるであろう. 世界の趨勢は急速な普及に向かっている. 第13−9表 遺伝子組換え作物の栽培面積. 栽培面積上位の国. −−−−−−−−−−− 米国     62.5 アルゼンチン 21.0 ブラジル  15.8 インド     7.6 カナダ 7.6 中国     3.8 −−−−−−−−−−− (百万ha, 2008年) 個別の遺伝子組換え作物栽培面積. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 遺伝子組換え  非組換え含む合計 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 大豆 6580 9500 ワタ 1550 3400 トウモロコシ 3730 15700 ナタネ   590 3000 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (世界合計,万ha,2008年) 出典は,日本モンサント資料室から. なお,飼料,油脂原料には輸入されており(組換え作物不分別として), 間接的には日本人は多量の組換え作物を摂取している. 4)問題の所在 (1)堆肥万能のような時勢だが,有機物,堆肥などは科学的アプローチが必須. (2)堆肥大量投与は持続的とは言い難い. (3)栄養分が有機質起源であることに意味があるのか.  (4)農薬とは,結局耐病虫品種育成の問題である. (5)生態系とは何か.はなはだ明確でない部分が多い. (6)稲は外来作物で,その単一種を広く栽培しており,最大の生態系攪乱植物である. (7)ナタネの遺伝子拡散を問題視するが,だいたい今みられるナタネは全部外来ではないか. (8)持続型と自給率向上は背反的である.  (9)作物生産,自給率向上はすべてに優先するか. 戻る

14.サツマイモはなぜ太る

第14−1図 ベニオトメ.  いも この章の表題を英語にしてみよ. なぜ,は理由(why)でなく,通常は機構,メカニズム(how)であろう. なお,水耕でも塊根は肥大する.砂利,土は不要で, 物理的接触が必要ということではない. 第14−2図 サツマイモの水耕栽培.  いも水耕栽培 また,不定根を培養して塊根が形成された. 第14−3図 in vitroでの不定根培養による塊根形成(Nakatani 1994から). 培養によるいも塊根形成 さて,いくつかの説明が可能で,それらはその時代の学問背景を如実に示している. 1)環境条件や形態 本研究は食料不足を背景に当時の農林省試験場が生理,形態, 栽培の各方面から,総力をあげて実施した. 発根後の根の第1期形成層の活動が活発で,かつ根の中心柱細胞が木化しなければ, 根が肥大していもになるとした.このため条件として,適温,カリ多用,日照, 土壌が乾燥で緊密,多窒素にならず,適度の湿度と通気をあげた. 多Nはつるぼけに. 第14−4図 サツマイモ植付当初の環境による根の分化の方向 (戸苅 1950). −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   \ 中心 |     細胞の木化程度 第1期\ 柱|−−−−−−−−−−−−−−  形成層\ |  小  → → 大 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 活 | 大 |  塊根 梗根(ごぼう根) 動 | ↑ |(低温)(多K) (乾燥・緊密) 程 | ↑ | ↑     ↑ 度 | 小 | 若根 →  細根 | | (遮蔽)    (還元・多N) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 形態や栽培環境と栽培方法との関係を明確に明らかにしたもので, 後述する高度の手法を用いた各種説明を遙かに凌駕する価値高い研究である. 2)物質生産,光合成 葉で光合成をし、光合成産物が維管束を通って転流し, 根に多量にでんぷんとして蓄積する. 経路の概略は, 光合成 →ショ糖 → グルコース・1・燐酸 → ADPグルコース → いもデンプン C3作物だがカロリー生産量が最も高い作物の一つである. 最適LAIは低い.光合成速度20mg CO2 dm-2 hr-1で低いが,いもへの分配率が高い. 接き木実験で,台木を10数品種、穂木をコガネセンガンにして, でんぷん含量とADPGPPase活性とに r=0.66 の相関がある,など論文は沢山書かれた. 3)遺伝子 根をいもに分化,肥大させる遺伝子があって, それらの数やDNA構造はよくわからないが,それらの作用でいもが太る. いつかは肥大関与遺伝子が同定されたり,他作物へ導入されたりするかもしれない. 遺伝的に進化した過程では倍数化によるものが大きい. 接き木では,いも肥大の品種特性は地下部自体の特性によるところが大きく, 地上部の影響も無視できないがそれは比較的小さい. 4)ホルモン これも結局は遺伝子がどう働くかに帰着されるのかもしれないが. 中谷(1990)は,サイトカイニンのレベルがいも形成から肥大初期に高く, 塊根形成前に外生的に処理するといも数や重さが増加することにより, サイトカイニンが重要な役割を持つと示唆した. 台木を10数品種変えた一葉挿し接き木実験で,ABA含量といも重に r=0.56 の相関. オーキシンでは,生育中のさつまいも塊根を光に当てると露光部分の肥大が停止し, 露光部分では内生オーキシン活性が低下した. 第14−5図 サツマイモの露光実験とIAA活性. __ __ 露光 I- -I IAA活性 - I- -I −−−−−I−−I−−−    −−−−I−−I−−− 土中 I+ +I  I+ +I I__I IAA活性 +  I____I ジベレリン(バレイショでは内生GAレベルの減少が塊茎形成の前提条件)の報告は少ない. エチレンは健全な塊根の内生エチレン生成はわずかで,塊根形成や肥大への効果は不明. 5)起源,作物としての成立 野生の2倍体×野生の4倍体が自然交雑し,倍加して野生6倍体の野生種ができた. 倍数体は一般に栄養成長が盛んである. 中南米の野生2倍体に太さ2cm程度のいもをつけるのがあり, 空腹な先人はそれを目につけたに違いない. その後,さらに突然変異,選抜を経て次第に太いイモを食べられるようになった. 6)品種改良 開花結実した種子から変異のある実生個体ができ,また芽条変異からも色々な変異が生じ, そのなかから良いものが選抜されてきた. 大正時代から在来品種の系統分離が始められ,昭和になってから交配育種が始まった. 現在の品種は当初の交配から10数世代が経過している. 高でんぷん,多収,良食味,耐病性(黒斑病、ウイルス・・),センチュウ抵抗性, 萌芽性,貯蔵性,育苗容易,などなどの形質が改良されてきている. 7)どう説明するか 私見だが,最後の2つの説明が一番重要であると信じる. 機構,メカニズムの追求が学問とされるが,農学はそうではないよ. あくまで実用化が最優先である. 他の例として湿害に強い大豆を挙げる. 大豆を転作として栽培するとき湿害がよく問題とされる. ノマメが湿地に生えてたのを見て,根の調べると,通気組織があった(内村ら1996). そこから何をすべきか. 通気組織に実際に酸素は通っているか,よりは, 大豆 × ノマメ → 選抜し,品種につなげる研究とすべきである. もうひとつの例. 肥料養分は古くは山林,原野の野草や下草,人間家畜の排泄物,マメ科植物などが使われたが, 19世紀の産業革命前後の人口増加で食料供給が不安に. 1840年,リービヒが植物は無機栄養で生育することを明らかにした. ハーバーとボッシュは大気中の窒素と水素を高圧下で反応させアンモニアを合成した. ハーバーは化学を,ボッシュは工業化を分担した. 偉い順は, リービヒ < ハーバー < ボッシュ  ではないだろうか. 戻る

15.作物統計,小論文練習

ここに,FAOや農水省の主要作物生産状況の統計がある. こういう数字は,日本の耕地面積470万ha,お米収穫量900万t, 憶えにくかったら500万ha,1千万t弱,を常に尺度にしていないと無味乾燥になる.  生の数字だけでも面白いが,以下のようなことを自問,あるいは調べながらみてご覧なさい. 小論文作成の絶好の練習である. 読みやすく書きなさいよ.大は勿論小論文は適当に具体的数字を織り交ぜるといい. 人と同じことを書かない(同じのばかりだと読むほうはイヤになる). 自分の意見を入れる(間違っていてもよい).内容も勿論だが,まず日本語をちゃんと. 面接も同じだぞ. 1)課題の例 ・世界耕地面積で,日本は全体の何%. ・ロシアの小麦の収量が低いのはなぜ. ・小麦輸入の多い国が一杯!日本だけでない. ・米生産の多い国の特徴.どういう国か. ・小麦,トウモロコシなど輸出の多い国はどこ. ・日本のトウモロコシ輸入量は国内米生産量より多いか. ・米国の米生産量は日本より少ないか. ・大豆,最大の輸入国は.どこから. ・ちなみに,大量に売り買いしている両国は仲違いできるか. ・稲麦作況指数の違い. ・米の都道府県別生産数量の値は,県間で大差ある. ・かんしょ,ばれいしょの多い県,南北に大いが,都市近郊も. ・そば.自給率低い.地場産ってホントか. ・水稲作付面積別の農家数,あまり零細だ.個別補償は拡大の妨げでは. ・農業総産出額,米の割合の値から,まだ多いとみるか,もう少ないとみるか. ・その地域別から何と考えるか. ・農林水産物輸出総額から何考える. ・農産物で一番(金額)輸入している品目は何.どこから. ・全貿易に占める農産物,食料の割合から. ・そして自給率. ・他国との比較は. ・農家1戸当たり農地面積国際比較,中国が気にならないか. ・わが国耕地面積の推移.大変だ. ・なのに,耕地利用率は100%以下. ・世界人口.食料生産より人口抑制か. などなどいくらでも. 2)解答例 学部生へだが,近郊で撮ったこの写真を見せながら,麦早生化や湿害, 稲早期栽培などの話をしておいた. 第15−1図 宇都宮近郊のビール大麦と早生水稲.  二毛作水田とビール麦 翌週,朝一の確認テスト(これ遅刻防止に良い)で,ノート見ながら可とし, 15分で提出させたものの一つがこれである. 第15−2図 課題;上の写真から考えられること.  小論模範解答 タイトル,序論,自分の考えがあり,字が読みやすい. 戻る

後記

ここまで書いて,やはり実際に講義を聴くことの大切さを再認識している.
ネット授業なんて,矢張り無理が多い,というかほぼ不可能と思う.

人間は弱いもので,強制されないとなかなかできない.
するほうも,聴くほうも,日頃の講義を大切にしてやっていって下さい.

序論に,ほぼ実際にした内容と記したが,正直全部はしてない.
そうねぇ,この 1/2〜2/3 ってとこかな.
でもここの内容は作物生産を学ぶ大学院課程での最小限の知識と思っています.

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以上