[ホーム>作物学]
吉田総合案内へ戻る. 作物各論目次へ戻る.

作物各論(麦)

目次

  1. コムギ(小麦)
    1. 分類と起源
    2. わが国での栽培
    3. 世界の生産状況
    4. 形態的特徴
    5. 生理・生態的特徴
    6. 栽培
    7. 品種
    8. 加工と利用
  2. オオムギ(大麦)
    1. 来歴と分類
    2. 生産
    3. 形態的特徴
    4. 生理・生態的特徴
    5. 栽培
    6. 品種,品質,用途
  3. エンバク(燕麦)
  4. ライムギ(黒麦)
  5. ライコムギ
穂,小穂,小花,粒の写真参照.


小麦

英名:Wheat,学名:パンコムギはTriticum aestivum L.br>
イネ科に属する穀類作物.草高1m程度,分げつにより1株に数本の穂を持ち,1穂には40粒くらいの子実が密に着生する.粉にして利用する.世界的に栽培面積が多く極めて大切な作物である.適応の幅が非常に広く,熱帯の高地から寒帯付近までの広範囲に栽培される.わが国でも古くから栽培され,関東以西では水田2毛作が可能.製パン性が大きな特徴である.他に,麺,チャパティ,菓子類,飼料などと幅広い用途がある.

冬コムギと春コムギがある.病虫害抵抗性,多収,各種用途の品質などを目標とした品種改良がなされ多くの優れた品種が育成されている.自家用から1農家が数百ha以上もの大規模栽培まである.コメが自給的で世界貿易へは比較的出回らないのに反し,トウモロコシとともに国際市場へ多量に出回り戦略的作物にもなっている.

分類と起源

コムギ属(Triticum)には20以上の種がある.2倍体は1小花が稔実,4倍体は2小花,6倍体は3〜4小花稔実する.1粒系・2粒系・普通系コムギともいう.

パンコムギは世界の栽培面積の9割以上,わが国では全部を占める代表的な種.デュラムコムギ(マカロニコムギ)は4倍体の種で粉の粒子がきわめて粗い.高温,乾燥などの栽培ストレス,さび病などに強い.クラブコムギは6倍体の種でパンコムギに近く,ヨーロッパ,中央アジア,北アメリカなどで栽培され軟質で主に菓子用などに利用される.

パンコムギ関連のコムギ属とエジロプス属(写真
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
分類群*和名学名ゲノム**2n
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
コムギ属一粒系野生ヒトツブコムギ T. aegilopoidesAA14
(Triticum)ヒトツブコムギ T. monococcumAA14
二粒系野生エンメルコムギT. dicocoidesAABB28
エンメルコムギT. dicoccumAABB28
マカロニコムギT. durumAABB28
普通系スペルトコムギT. speltaAABBDD42
クラブコムギT. compactumAABBDD42
パンコムギ T. aestivumAABBDD42
エジロプス属タルホコムギ Ae. squarrosaDD14
(Aegilops)クサビコムギAe. speltoidesBB?14
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
* 小花数,小穂の形での分類. 栽培種の4倍体をすべてT.turgidum,6倍体をT.aestivumと呼ぶこともある.

**4×6倍体>F1雑種は35本の染色体 後代で28または42本へ.
1セット7本が安定.このような正常な生活機能をもつための最少単位の染色体セットをゲノムという(木原1930).

[Dゲノムの発見]
:野生エンメルコムギ゙×タルホコムギ F1をコルヒチン処理して倍加し,6倍体の人工普通系コムギ(スペルト小麦によく似る)が作出された(McFaddenとSears,1944).
:形態の比較から,木原(1944)が上記とは独立にDゲノムを明らかにした.

それらを総合すると,コムギ属の成立は以下のようになる.
                          コムギ属祖先    1500-1000万年前西アジアで分化
      寒温帯地域群    ←        ↓       
           ↓               地中海地域群    100万年前頃分化
      オオムギ属                ↓     →     →           →
                                ↓               ↓           ↓
                            コムギ属           エジロプス属   ライムギ属
                                ↓               ↓         \
                          野生ヒトツブコムギAA   (クサビコムギ ?BB)   ↓
                      /        ↓               ↓        タルホコムギ DD
              栽培化 ↓         倍数化 ← (自然交雑)       ↓
            ヒトツブコムギAA         ↓
                          野生エンメルコムギAABB              ↓
                      /
              栽培化 ↓                                      ↓
                エンメルコムギAABB                     
                     ↓                  ←    (自然交雑)  ↓
                    倍数化
                     ↓
                 パンコムギAABBDD

遺跡からの発掘では,
  BC7000 イラク ジャルモ遺跡には, 二条オオムギ,一粒系コムギ,エンメルコムギが
  BC5000-AD300 エンメルコムギが. AD300 には マカロニコムギ
  BC5500頃 トルコ、イラン、イラクの遺跡にパンコムギが出土
  BC7000-BC5000 二粒系コムギ畑で,そこに入ってきた雑草のタルホコムギと交雑,倍
  数化して誕生した.
  BC2700 第4王朝ダハシュールのピラミッドの煉瓦にはパンコムギの穀粒がある.

植物間でのゲノム比較,近縁種同士の交配による遺伝解析などから;
   Aゲノム;広い適応性(ゲノム;正常な生活機能を持つための最少単位の染色体セット)
  Bゲノム;耐乾性と高い生産性
  Dゲノム;製パン性(グルテン)
に寄与することがわかった.

進化の過程でこれらの特性を得ることによって,現在のコムギは優れた作物になった  (Schulz,1913,McFaddenとSears,1944,坂村,1918,木原,1944).
戻る

わが国での栽培

弥生時代には中国大陸や朝鮮半島経由で伝来していた.奈良時代には広く栽培され,農民の自家食糧としての栽培が増えた.江戸時代には各地の気象土壌条件に応じた品種が選抜され,今日の品種の基となった.明治初期に36万ha栽培,以後生産の奨励や優良品種の開発もあり生産は増加した.最高は1942年の85.6万ha.

1960年代から急減し,1973年には最低の7.5万ha.収益性が低い,収穫期の雨害などで農家の生産意欲が低下したことなどによる.コメの生産過剰対策として1970年代からとられた施策でコムギへの転作がはかられ一時28万ha(1988年)に回復したが以後漸減し現在21万ha(平成17年).

北海道は畑作約9割,関東地方は水田裏作約8〜9割,九州は水田裏作.平年収量はha当たり約4.3t,生産量は約54万t.北海道の収量はやや高いが年次変動が大きく,関東は安定して高く,九州は不安定で低い.作況指数をイネと比較すると,コムギ収量の年次変動が大きい.

個別経営体当たりの面積が10〜20haになるように指導している.自給率約14%.輸入相手国はアメリカが全体の57%,カナダ21%,オーストラリア22%.

世界の生産状況

2億1400万ha(2003〜5年FAO統計を平均),穀類の全収穫面積(7億ha)の約30%.生産量は約6.8億t,中国(4億1300万t),アメリカ(3億8900万t),インド(2億3200万t)など.収量は世界平均でha当たり約3.42t,ヨーロッパ諸国で7tを超える.春コムギの収量は低い.

南半球の南アフリカやニュージーランドではコムギ収穫期が11〜12月,アルゼンチンやオーストラリアでは1〜3月,北半球のインドでは3〜5月,アメリカやカナダが6〜9月,北欧では8〜10月と(これをコムギカレンダーという),一年中世界のどこかで収穫がなされている.
 小麦カレンダー (小麦の収穫期)
              1  2  3  4  5  6  7  8  9  10 11 12    月
 アルゼンチン   **
  オーストラリア    **
 チリー           **
 インド             * * * *
 エジプト           * * * * *
 スペイン                * * *
 アメリカ                 * * * * * *
 イタリア                   * *
 フランス                    * * * * *
 ドイツ                         * * * *
 デンマーク                     * * * * *
 カナダ                          * * *
 ロシア                         * * * *
 日本                       * *
 イギリス                         * * * *
  ペルー                                  * *
 ブラジル                                 * *
 南アフリカ                                  * *
 ニュージーランド                             * *

戻る

形態的特徴

[種子(頴果)]
種子は穎果(果実)で長円形.胚乳にデンプンやタンパク質を蓄積.胚には鞘葉,第1〜3葉原基,6本の種子根が分化.1000粒重は30g程度.粒色(種皮の色)は白黄色から赤褐色まであるが,普通は白コムギと赤コムギに大別される.

[葉,茎,分げつ]
第1葉も葉身がよく発達.主稈葉数は9〜14枚で早生品種は少ない.稈は上位4〜6節が節間伸長し稈長は普通0.8〜1m.稈の長さや強度は耐倒伏性と関係が深く最近の品種は稈が短い.

初期の分げつの出かたは規則的で主稈の第n葉が出るとき,それより3枚下の葉(n−3)の葉腋から分げつ(1次分げつ)が発生する.1次分げつと2次分げつの間でも同じ関係がなりたつが,上位の葉や高次分げつではこの規則性はずれる.

播種密度が低いと分げつが多く出るが,普通の栽培では3〜4本の分げつが穂を着け,主稈が最も大きな穂を着ける.深播きや高温下では,分げつの発生は抑制される.

幼植物の草状を叢性(そうせい)といい,直立型と匍匐型がある.匍匐型は寒冷地の品種に多い.

[穂と小花]
花序は複穂状花序.穂軸に約20節あり,各節に短い小穂軸が互生する.小穂軸の各節に小花が1つずつ互生.1小穂当たり3〜9小花が分化するが,稔実するのは基部の2〜4小花である.雄ずいは3本ある.

穂が穂首節間の急激な伸長により止葉の葉鞘から外部に出ることを出穂といい,1日に最大1〜2cm伸長.出穂後40〜45日で成熟に達し,オオムギよりも成熟期間が長い.早生品種が望まれる.早生品種は早春の凍霜害を受ける危険が大きい.通常3日出穂期を早めても2日程度しか成熟期は早まらない.

戻る

生理・生態的特徴

[発芽]
健全な種子を5℃,湿度50%で保存すると7〜12年後でも発芽率は低下しない.発芽の最適温度は20〜25℃.水に浸かると酸素不足で発芽しない.播種深度は2〜4cmが適す.播種深度が著しく深いと第1,2節間が土中で伸長して地中茎となり,冠根(節から出る不定根)の発生する位置(冠部,crown)が地表面近くになる.

種子根は通常6本出て種子根はある程度伸びると多数の枝根を生じ生育初期の養分吸収と植物体支持の役割をする.根は1m以上の深さに達するが,深さ30cm,株の周囲20cm程度に多く分布する.根系が少なくとも60cmの深さまで達することが望ましい.

[花芽形成と播性]
冬コムギは冬期低温下で生育するため発育段階の進展が緩慢で幼穂分化期をイネの場合のように特定することがむずかしい.普通,関東地方では発芽後1カ月程度で止葉始原体の分化が終わる.2月中旬に小穂分化が終わり1穂内の小穂数が決定し,幼穂長が2〜3mmになる.3月上旬に小花が分化し,幼穂長が5〜6mmに達する.

幼穂の分化が早く進むと早春の低温により幼穂凍死型の凍霜害が発生する.早生品種は一般に節間伸長(茎立ち)が早いが,早生でありながら茎立ちの遅い凍霜害回避型となる品種の育成が進められている.

発芽後,穂を分化させて出穂するには光と温度条件の適当な組合せが必要であり.秋に播種すると出穂するが春に播種すると茎葉が繁茂するだけの品種と,春に播種しても穂が分化し出穂する品種とがあり,前者を秋播(性)あるいは秋播型品種,後者を春播品種という.この間には品種間差があり,これを播性(まきせい)程度が異なるという.秋播性が消失され,生殖生長に入るための生理的体制を得ることを春化(vernalization)という.

[(秋)播性]
栄養生長を過度に継続しようとする性質(柿崎・鈴木1937).

春化(vernalization)
秋播性が消去され生殖生長に入るための生理的体制を得ること.
春コムギは春播性品種を用いるが,冬コムギの播性程度はさまざまで,寒地では秋播性品種を用いるが,暖地では冬期の低温が春化に十分でないので春播性品種が秋〜冬に播種されることも多い.自然条件下では秋〜冬の低温,短日によって春化され,その後の高温,長日により出穂が促進される.春播性品種は高温,長日のみで出穂が促進される.

世界的には暖地は春播型が,寒地は秋播型品種が適しコムギ品種が播性程度によりはっきりした地理的分布を示す.

播性程度を分類するには,早春に2週間程度の間隔で何回か播種し出穂までの日数を播性程度が既知の標準品種と比較して決める.

播種期を異にする場合の出穂までの日数(柿崎,鈴木1937).
-----------------------------------------------------------------------
級 品種名                           播種期
              1/  2/          3/         4/       5/       6/       7/
              29  8  18   28  10  20 30  9 19 29  9 19 29  8 18 28  8 18
-----------------------------------------------------------------------
T  鴻巣25号 113  -   -   88  -   -  68 -  -  49 45 41 42 40 39 33 38 35
Ua Ceres    126  -   -  102  -   -  81 75 70 63 59 58 62 65 65 67 74  x
Ub 新中長   114  -   -   91  -   -  72  -  - 60 58 57 62 60 69 70  x
V  江島     123  -   -  100  -   -  80 78 74 70 71 74 80 83 104 x 
W  農林1号 124  -   -  102  96  94 90 86 97 85 x 
X  農林8号 138 134 133 123 119 117 130 x 
Y 赤皮赤   142 142 142 141 154  x 
Z  Martin   159 145 148  x
-----------------------------------------------------------------------

催芽種子低温処理期間の差による出穂まで日数.同上(5/16に一斉に播種)
-----------------------------------------------------------------------
級                ±0.5度  低温処理日数
                なし 10  20  30  40  50  60  70  80
-----------------------------------------------------------------------
T               41  40  37  38   -  38  38  35  36
Ua              56  54  54  53  -   55  52  53  49
Ub              54  53  46  44   -  44  41  39  39
V               77  76  67  60   -  56  53  51  49
W               x  101  96 68    -  46  43  42  40
X               x   x   x   x    -  61  55  48  47
Y              x   x   x   x    -  68  65  57  53
-----------------------------------------------------------------------
[開花と登熟]
自家受粉を主にし自然交雑は普通0.5〜1%以下.開花は晴天の昼過ぎが盛んで20℃前後が適温.主稈から始まり1個体全部が開花するのに5〜8日を要する.1穂内では中央付近の小穂から始まる.受粉後数分で花粉が発芽し約5時間で重復受精(花粉管で運ばれた精核の1つが胚のう中で卵核と,さらにもう1つの精核が極核と合体すること)が完了する.

卵核+精核は分化・成長して胚(染色体数は2n)となる.極核(胚のう細胞の分裂でできた8核のうちの胚のう中心に位置する2核.この2つが合体し,さらに重複受精で精核と合体する)+精核は胚乳(染色体数は3n.その内の2nは母本由来である)となる.受精後15〜20日間経過すると胚は正常に発芽や生長をすることが可能である.

[耐寒雪性]
低温によく耐えるが,その程度に品種間差がある.播性程度の高いもの,体内細胞液の濃度の高いものに耐寒性の高いものが多い.霜柱による霜害,土壌凍結による凍害への抵抗性も耐寒性の要因となる.積雪の多い地方では,雪による腐敗の発生程度に品種間差.積雪下の光不足での同化機能低下による植物体の消耗や,雪腐病に対する抵抗性の差が品種間差をもたらす要因にもなる.

[光合成と物質生産]
葉身の光合成速度は30CO2mgdm-2hr-1前後(武田 1978)で,最大日射の1/2〜1/3で光飽和に達し,最適温度は10〜25℃で,0℃でも光合成を行う.冬期に生育した葉身は光合成の適温が低い.

登熟に穂,葉鞘や稈の果たす役割はオオムギより小さく,葉身の役割が最も大きい.収量は登熟期の日射量や葉面積指数×緑色葉の維持期間の長さに大きく影響される.最適葉面積指数は通常5〜6であるが,多収穫栽培のものでは6〜10にもなる.

戻る

栽培

[適地]
本来冷涼乾燥気候に適すが赤道付近から北緯60度まで広く栽培される.冬コムギの栽培は北緯20〜40°が多く,それより寒地,または高地では春コムギが栽培される. わが国では登熟期の雨害による品質の低下が発生しやすい.

粘質土,壌土に適すが粘質土や植壌土にも広く栽培される.土壌酸度はpH6.0〜6.5が適する.酸性土壌ではライムギやエンバクより弱いがオオムギより強い.節間伸長〜登熟期の過乾燥や過湿は低収となりやすいがオオムギよりは耐性がある.

[播種]
各県に奨励品種が定められている.自家採種による種子の使用は最小限にし,品種固有の特性を持ち,異品種の混入がなく,高い発芽能力を持つことなどが保証された種子を使用する.種子は風選やふるいにより充実の悪いものを除去し,種子消毒で種子伝染性病害を予防する.

播種期は通常北海道で9月中旬,関東地方で10月下旬,北部九州で11月下旬.通常ドリル播きする.溝を作って表面排水する.不十分な場合は暗きょによる地下排水が有効である.地下水位は60cm以下が望ましい.苗立ち数がu当たり200本程度とする.

スズメノテッポウ,ノミノフスマ,ヤエムグラなどの雑草が発生する.播種直後〜出芽前に土壌処理の除草剤を散布する.生育初期には耕種的な除草法として中耕や土入れを動力土入れ機や小型管理機を利用して数回行う.土入れは分げつ促進効果もあり,排水溝管理も兼ねる.生育中期に雑草が残っている場合は選択性の高い茎葉処理の除草剤を散布.

播種部分だけを浅く耕して播種する不耕起栽培が試みられている.適期播種や経営規模の拡大に有効であるが,雑草防除が最大の問題である.

[施肥]
窒素を10a当たり合計10〜14kg施す.無窒素で非常に減収する.最高分げつ期までに全窒素吸収量の約50%,穂ばらみ期までに約90%が吸収される.施肥量の約半分を追肥とす.イネの場合のように細かく生育時期ごとに施肥時期をかえて窒素の肥効を制御するのは困難である.

踏圧(麦踏み)は,生育が進み過ぎた場合の生育抑制,穂数増や穂揃い良く多収,火山灰土壌などでの霜による根の浮上防止などの効果がある(
大谷 1950).節間伸長の開始前に踏圧ローラを牽引して数回行うが,効果が少ないとして省略することも多い.

オオムギより倒伏は少ないが倒伏すると減収,収穫能率の低下,品質低下,病気の発生などの諸障害を生ずる.一般に短稈品種は倒伏が少なく,早生とともに短強稈は主要な育種目標である.生育調節剤を出穂前40〜20日に処理すると,収量や品質への悪影響なしに稈長が10%程度短くなって倒伏を軽減することができる.

[収穫]
穂発芽するとデンプンが変成して品質が著しく低下する.休眠期間の短い品種が穂発芽しやすい.わが国の品種は穂発芽難のものが多いが品種間差が大きく,白コムギは一般に穂発芽し易い.

成熟度は,乳熟期(粒を圧すと乳状の液が出る),糊熟期(果皮の葉緑素が消え粒は圧すとつぶれて内容物は柔軟である),完熟期(粒が硬化し指では砕けず品種本来の粒色が明瞭となる),枯熟期(穂軸が折れやすく脱粒が多くなり粒は硬くなる)と進行していく.調査基準による成熟期は,「茎葉や穂首が黄化し,穂が枯れ,粒は緑色がぬけて,爪跡がわずかにつき,ほぼ“ろう”くらいの硬さに達した穂が全体の80%を占める日」,粒の水分は30〜35%のときである.収穫適期は成熟期の2〜3日後で,粒水分が30%以下.

火力乾燥時は送風温度を上げすぎず,穀粒の温度が40℃以下とする.水分を13%程度にし,粒選機で細麦や屑を除去する.出荷に当たっては公的機関の検査を受ける.

大規模な共同乾燥施設で,テンパリング乾燥(急速乾燥をして胴割れするのを避けるため,時々乾燥を中断しながら水分を下げていく乾燥法)し,調製や包装も行う方式が増加している.コンバイン収穫で一時に多量の高水分のものを搬入しても効率よく処理できる.カントリーエレベーターはライスセンターより大規模であり,2000t程度のサイロを備えてバラ貯蔵し,そのため同一品種を大量に生産する産地に適している.

[病虫害]
世界的に重大なのはさび病で,葉を侵して低収にし,過繁茂で多発.病菌増殖のサイクルを絶つため,前年の罹病株を焼却する.病気発生の初期に殺菌剤を散布するか,耐病性品種を用いる.耐病性の品種間差は大きいが,病菌のレース分化により耐病性品種が罹病化する場合がみられる.

注)レースの存在
1917年 抵抗性品種 Kanred
1934年 durumからの抵抗性品種 Thatcher
1926年 emmer小麦からの抵抗性品種 Hope
が1935,37,50年の黒銹病大発生年には罹病した.

さび病以外でわが国で問題となるのは,赤かび病,うどんこ病,雪腐病,(縞)萎縮病,斑葉病.赤かび病は開花期前後の長雨で多発し,子実の発育不全やかび毒混入など被害が大きい.品種間差はあるが小さい.開花〜乳熟期に殺菌剤を散布して防除するが,降雨が続くと効果が低下する.

うどんこ病は,多肥,密植,晩播で発生する.抵抗性品種があるが病菌のレース分化がみられる.殺菌剤散布が有効だが著しく発生しないかぎり被害はあまりない.

雪腐病は多雪地帯に発生して坪状に株を枯死させる.北海道道北東部に大粒菌核病,道央多雪地に小粒菌核病,全道に褐色雪腐病が発生する.各々の雪腐病へ抵抗性品種を適期播種し,根雪前に薬剤散布し,春の融雪を融雪剤散布で促進するなどの総合的な対処を行って防除する.

縞萎縮病と萎縮病は,ともに土壌伝染して両病が混発し,早播きで多発する.オオムギとコムギの縞萎縮病のウイルスは異なり,ともに抵抗性の品種がある.斑葉病は種子伝染するので,種子消毒する.

わが国での虫害としては,アブラムシが春に茎葉を,ハリガネムシが春に地下部を,イネヨトウが早春に茎下部を,ムギスジハモグリバエが葉の表皮を残して葉肉を,シロトビムシ類が発芽したての芽を食害する.抵抗性品種間差は明瞭でなく,薬剤散布や種子消毒する.バクガが貯蔵中の子実に発生すると被害が大きく,種子用では発芽率が低下するので,低温貯蔵や殺虫剤の早期処理により防除する.

戻る

品種

アメリカでは多くの品種が世界各地から移住者とともに導入され代表的な例がロシアから移住してきたメノ派教徒が持ってきたTurkey Redである.中部大平原に適したこの硬質冬コムギは19世紀後半に広範囲に栽培され,以後アメリカのコムギ生産を支えるTurkey型品種の遺伝子源となった.

現在,気象条件に応じて各種のコムギが作付けされ硬質赤冬コムギが最も多く約半分,その生産の5%程度が日本へ輸出される.わが国がアメリカから輪入するコムギの約4割を占め最も多い.白コムギは西海岸を中心に栽培されその約15%は日本へ輸出され,ウェスタンホワイトと呼ばれクラブコムギが混合されている.

カナダでは,硬質赤春コムギが大部分で,マニトバ州を中心とした中部平原で産する.パン用原料として優れている.全カナダ生産量の1割弱が日本へ輸出される.オーストラリアではすべて冬コムギで代表的銘柄をAustralianstandard white(A.S.W.)という.白コムギ品種でタンパクや粉の硬度は中間質で多目的に使用され生産の約1割が日本に輪出される.日本のめん用原料として好まれ多量に使用されている.

ロシアは春コムギの作付けが多く北極圏近くまで栽培され生産が不安定である.ヨーロッパでは冬コムギ短強稈品種を用いた多肥多収栽培がなされている.

わが国の品種は一般的に早生,短稈,穂は密で,粒色は濃赤色.成熟期の降雨や水稲作との競合を避けるために,早生,耐赤かび病,穂発芽への耐性を持つ品種であることが必須で,世界的にも最も早生である.粉の品質は中間質で主にめんや菓子の原料として使用されている.関東以西の地方では農林61号が長期間栽培されてきた.近年では高品質,耐病性,多収のより優れた品種が農林61号に取り変わって栽培されてきている.
北海道でも多収で諸障害へ耐性のある優れた新品種が次々と育成され,栽培されている.
北アメリカの代表的な小麦作地帯の気温と降水量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
小麦の種類  生産の中心地    代表的都市     年平均気温   同降水量(mm)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
デュラム(春播) 大平原北部・カナダ マニトバ州      2.5     517
                                  ウィニペッグ
白コムギ    ニューヨーク・ミシガン オレゴン州       11.6       944
               太平洋沿岸         ポートランド
硬質赤春小麦  大平原北部      北ダコタ州ビスマルク  5.4      385
硬質赤冬小麦 大平原中・南部  カンサス州カンサスシティー 13.4   865
軟質赤冬小麦 米国東部・東南部 オハイオ州コロンバス   11.5     931
中間質冬小麦                  札幌           7.8     1141
      同                          熊谷            13.8     1284
      同                         福岡            15.7     1705
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
気温もさることながら,日本の主要産地での降水量の多さが目立つ.乾燥地起源で耐湿性の弱い
コムギの栽培に非常に不利ななかで,早生,耐湿性品種を用いて生産している.

[緑の革命]
メキシコにある国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)では,世界の広範な栽培地に適した各種の病害に耐性のある品種育成が行われている.わが国の‘農林10号'の短稈遺伝子を導入した品種が育成された.

CIMMYTで育成された品種はメキシコ,インド,パキスタンなどに広く普及して生産性を飛躍的に高め,多くの飢餓を救う‘緑の革命’の原動力となった.主導者の N.Borlaug は,この功績によって1970年にノーベル平和賞を得た(
作物栽培のその他も参照).

戻る

加工と利用

[外観品質]
粒がよく充実し,雨や病虫害がなく,品種本来の色や形をしていることが必要である.検査規格によって種類や産地別に数段階の等級に分けられる.容積重や整粒歩合が高く,水分,被害粒,異物の少ないものが上位等級になる.輪出国でも,輸出に際して公的機関による検査を行う.

[原料コムギの分類]
粒質で硬質,軟質,中間質に.気象や栽培条件でも変動するが品種によってほぼ決まる.硬質のものは粉が硬くて粒子が粗く,タンパク質含量(グルテン含量)が高く,ガラス質の率が高い.軟質とはその逆.ガラス質とは粒の細胞が密で粒の断面が半透明なものをいい,その反対が粉状質で,細胞が粗で断面が白色を呈する.

わが国の品種は大部分が中間質.北アメリカでは気象条件に応じて,地域別に硬質コムギや軟質コムギを春播き秋播きしている.各種の原料コムギを混合して製粉し,用途別のコムギ粉を作る.

[コムギ粉の分類]
粉質で強力粉,準強力粉,中力粉,薄力粉とに分類される.強力粉ほどタンパク質(グルテン)を多く含んでおり,硬質コムギを原料としてできた製品である.
---------------------------------------------------------------------
種類  グルテン量 同質 粒度 原料コムギ      主な用途
---------------------------------------------------------------------
強力粉  甚多  強靭   粗  硬質        パン(食パン) 
準強力粉 多   強    粗  硬質・中間質    パン(菓子パン) 
中力粉  中   軟    細  硬質・軟質・中間質 うどん・料理
薄力粉  小   粗弱   甚細 軟質        菓子・天ぷら
デュラム粉 多   柔軟   甚粗 デュラム      マカロニ類
---------------------------------------------------------------------
わが国のコムギ粉消費量は約500万tで,パン用,めん用,その他に約1/3ずつ使われる.めん用の割合が低下してきている.

[製粉]
原料コムギ → 精選 → 共雑物を除く → 加水して一定湿度へ → 粉砕 → ふるい分け
  粒度の粗いものは再粉砕する.製粉歩留まりは80%以下である.

[加工適性]
1次加工適性:製粉の難易や製粉歩留まり.製粉時の胚乳部と穀皮の離れのよさ(皮離れ),粉のふるい分けに要する時間(ふるい抜け),得られる上質粉の割合などが評価の指標となる.

2次加工適性:コムギ粉としての適性.タンパク質やデンプンの量や質により左右される.普通,粉に一定量の水を加えて生地(dough)を作り,その色や物理性(粘弾性,引張り抵抗など),化学性(アミラーゼ活性の値など)を測定して検定する.

[栽培条件と品質]
国内産コムギの主用途はめん用で,めん用に適するタンパク質含有量は9.5〜11.0%.タンパク質含有量は品種以外にも土壌,施肥量,気象条件でも影響され,低タンパクのものは製めん時に破損しやすく,高タンパクのものは色相が劣る.低タンパクは窒素不足など,高タンパクは窒素過多や登熟不良などによっておきる.パン用の硬質コムギの蛋白含量はめん用より高い.

穂発芽,高水分での収穫,不的確な乾燥などでアミロ特性値(生地の粘弾性の値)が低下し,このように粘弾性の低下した粉(低アミロ粉という)は製めん製の低下,めんをゆでたときの溶出量の増加,食感の低下などを引き起こす.

めんの色相は明るくクリーミーなものが好まれ,色相は早刈りや高タンパク質でも低下するが,品種間差が大きく,輸入コムギのA.S.W.並みに色相の優れた品種の育成がわが国で進んでいる.新品種候補系統は,育成した農水省の試験場,奨励品種採用予定の県,製粉業界の合同による品質連絡試験を行ったうえで,新品種への採用や普及がなされる.

製パン適性,製めん適性の評価は,最終的には製品の食味検定による.めんの評価は食感や外観などの項目別にパネルによる官能試験を行い,標準品種と相対比較をしながら評価する.食味は品種間差が大きいが,栽培地や栽培方法でも差がある.

戻る

オオムギ(大麦)

英名:Barley,学名:Hordeum vulgare L.
世界栽培面積第4位の主要な穀類である.コムギと同地帯に栽培されるがコムギのほうが価格が高いのでコムギが優先されることが多い.早生であるのでコムギの栽培が困難な高地や高緯度地,乾燥地で,また他作物との競合を避ける場合などに栽培される.

コムギと形態や生理生態的特性がよく似ているが,最大の相違点は小穂中小花数で,コムギは複数の小花を持つのに反し,
オオムギの1小穂は1小花である.裸性品種以外は内・外頴が穎果に癒着し,脱穀するとコムギでは頴が分離するが,オオムギでは頴が子実に付着したままとなる.ビールなどの醸造用,飼料用,食用などに主に用いられ,製パン性はない.

なお,麦類とは主に冬に作付けする穀類作物の総称で種は各々異なる.英語では winter cereals.

来歴と分類

[来歴]
コムギ族(Triciceae)の祖先の中から早生で寒冷乾燥した土地に向いたものがオオムギの祖先へと分化した. 紀元前7000年の西アジアの遺跡から2条皮性のオオムギが発掘され,2条性のオオムギの起源は西アジアである.

6条性は2条性から進化したか.しかしチベットやネパールが6条種の起源だとする説もある.

紀元前5000年のエジプトのミイラの胃の中に発見されており,オオムギはギリシャ・ローマ時代にはヨーロッパ中に広まり,庶民の重要な食糧であった.

[分類]
----------------------------------------------------------------------
   作物的分類     一般(生産上)   検査規格上              用途
                       の分類         の呼称   
----------------------------------------------------------------------
大麦 /六条種/皮性  六条大麦     普通小粒大麦           食用 飼料用
    |      |      (大麦・皮麦)          
    |       \裸性  裸麦        裸麦                     〃
     \二条種/皮性  二条大麦    / 普通大粒大麦(非醸造用)    〃
            |                  \ ビール麦    (醸造用)  醸造用  
             \裸性  実際栽培はない
----------------------------------------------------------------------
[皮裸性]
子房壁から粘着物質が登熟期に分泌され内外穎と穎果が密着するか否かで決まる.皮性が裸性に対して単純優性.ハダカムギは耐寒性が劣るので西日本に栽培が多いとされるが,裸性と耐寒性との連鎖の確証はない(文献).

[条性]
二条種は六条種の側列小花が不稔か退化する.ビール原料用に適すとされた品種(わが国はすべて2条)を栽培し,その生産物が検査規格に合格したものがビール原料用となる.

単一遺伝子に支配され2条が優性.側列小花の稔性に関する変更遺伝子が多くあり,2条×6条品種のF1に,側列小花が各種の程度で稔実する.

西日本では赤かび病や湿害などが多発し,それらへの障害耐性が6条品種より優れるので2条品種の栽培が多い.

[並渦性]
鞘葉の長さや型により,渦(うず)性(短型)と並(なみ)性(長型)との2群に分けられる.渦性は鞘葉が短く先端にくびれがあり,並性に対して単純劣性の遺伝をする.渦性遺伝子は葉身の長さ,稈長,芒長,粒長を短くし,全体としてずんぐりした型となる多面発現をする.わが国の主力品種は,6条品種は渦性,2条品種は並性.

これらの染色体数はすべて2n=14で相互に交配可能である.

戻る

生産

[わが国での栽培の歴史]
紀元前2700年の中国の文書にオオムギについて記載されている.紀元前後に6条オオムギが渡来した.奈良時代には主食の1つとなり,中世以降に水田での2毛作が盛んになり,農民の主要な自給食糧であった.製粉する必要がないので,庶民の食糧としてコムギよりも重要であった.

2条オオムギは明治初期にビールの製造技術とともにヨーロッパやアメリカなどから導入された.

[生産状況]
1906年に136万ha栽培,以後減少した.平成17年現在は2条オオムギが3.4万ha,6条オオムギが1.5万ha,ハダカムギが4500ha作付けされている.2条オオムギは関東北部と九州北部に,6条オオムギは関東・北陸地方に,ハダカムギは主に九州中部や四国北部.約9割が水田裏作で,北海道の一部で春播きされる.

飼料用や加工用(醸造,みそなど)に大部分使用され,食用は僅かである.自給率は9%程度.主にアメリカ,カナダ,オーストラリアから.それらの国では全生産量の1割前後をわが国へ輸出している.

世界での収穫面積は5700万ha(FAO統計2003〜5年平均)で,赤道下から極地近く,高地で栽培される.世界平均収量はha当たり2.5tと低いが,ヨーロッパ諸国では6tを超える国がある.主要生産国はロシア(生産量は1700万t),カナダ(1300万t),ウクライナ(1100万t)など.ロシアでは6条皮性品種を春播き食用が多い.カナダでは春播き,飼料用と醸造用が市場価格に応じて作付けされる.ドイツでは秋播き多肥料で短稈品種を栽培して多収(平均5.7t/ha)をあげている.裸性品種は食用の重要な穀類である.

戻る

形態的特徴

[種子]
子実は穎果に相当,内・外穎に包まれる.胚乳のデンプンは粳性で,貯蔵タンパクはホルディンと称す.グルテンを含まずパン適性はない.発芽温度の最低は0〜2℃,最適温度は20〜25℃である.種子根は6条品種では3〜6本発生し,コムギよりも少ない場合が多いが,2条品種では10本以上発生する.

休眠期間は品種間差が大きい.休眠打破は,過酸化水素0.5%溶液に24時間浸漬,穎の剥離,高温(38〜40℃で10日間),低温(湿った濾紙の上に種子を置き,5℃で5〜7日間),あるいは粒の切断などによる.

[葉,茎,分げつ]
主稈葉数は10〜14枚で早生品種は少ない.第1葉もよく発達し,止葉は小型である.稈はコムギに比ベてやや弱く,倒伏しやすい.短強稈は主要な育種目標である.普通栽培で3〜4本の分げつが穂を付け主稈が一番大きい.2条品種は多い.発生は規則性を有す.

[穂]
花序は穂状花序で穂軸には30節以上もの節が分化するが,稔実するのは普通10〜14節で,穂軸の各節に3個ずつの小穂が互生する.1小穂は1小花で,6条品種は3個の小花が全部稔実するので,上からみると6角形となる.2条品種では中央の小花のみ稔実し,穂は偏平である.護穎は極細長い.外穎の先端は長い芒となる.

戻る

生理・生態的特徴

[発芽]
土壌水分が過多だと発芽,苗立ち率が低下する.播種深度は2〜4cm程度がよい.根系は半径20〜30cm,深さ20〜30cmの部分に分布する.

[幼穂形成と茎立ち]
関東地方では普通,1月初めには苞の分化,2月中旬には小穂の分化
(写真;ビールムギの幼穂),3月初めには小花の分化を終える.節間長は1月初めは5mm以下であるが,早春に節間伸長期(茎立ち期)を迎える.節間伸長期の異常低温により穂は凍死することがある.近年育成されている品種は早生のわりに茎立ちが遅く,凍霜害回避型である.

[出穂,開花,結実]
通常出穂後開花するが,止葉の葉鞘内で開花することもある.穂の中央付近より開花が始まり開花は4〜5日で完了する.自家受精で自然交雑はまれである.胚は受精後7〜8日で発芽能力を備え,25〜28日で完成する.出穂後37〜42日で成熟期,コムギより早い.早熟化は最大の育種自標であるが,出穂期が2日早くなっても成熟期は1日程度しか早まらない.

[耐寒雪,耐湿性]
耐寒雪性はコムギより弱い.6条並性品種に耐寒性や耐雪性の優れたものがある.播性と耐寒性との関係はコムギほど明瞭でない.東北や北陸地方で積雪下で雪腐病が発生する.過湿土壌による害はコムギより大きい.耐湿性の品種間差は小さい.ビールムギでは,雨害,穂発芽,剥皮,暖冬での穎発育不全などがしばしば問題となるが,それらへの耐性の品種間差は小さい.

[光合成と物質生産] 子実生産に対する穂の寄与率高く全体の1/2〜1/3占める.芒の光合成能力が高く芒の表面積や芒にある気孔の総数は止葉の表面靖や総気孔数に匹敵する.葉鞘や稈の寄与率も高く,また各器官から子実へ再配分されるものが子実生産の約10%に達する.

戻る

栽培

[適地]
冬オオムギと春オオムギがある.冬オオムギは冬コムギより耐寒雪性が劣り,北限は冬コムギより低緯度である.春オオムギの生育期間は短く高緯度地や高地で栽培される.コムギより乾燥を好むが耐乾性はコムギに劣る.耐湿性もコムギに劣る.特に節問伸長期以後は降雨の少ないことが良質多収にとって望ましい.土壌phは6.0〜6.5が適しコムギと大差ないが,好適pH以外では著しく減収する.火山灰の酸性土壌では,リン酸欠乏による害を伴うことがよくある.

[栽培方法]
コムギに準じる.ただしコムギより土壌の
過湿害や倒伏への耐性があまりないので排水対策や施肥量に特に留意する.9〜13kg/10aの窒素肥料を施す.施肥量の約半分を追肥とする.ビールムギでは子実のタンパク質含有量が高いと醸造適性が低下するので追肥の量を減らすか時期を早める.タンパク含有率は9.5〜11.5%が適当とされる.

ビールムギは発芽させて麦芽を作るで,発芽率を低下させないことが大切である.コンバイン収穫では成熟期の3〜4日後,穀粒水分が25%以下,80〜90%の穂首が曲がって穀粒の色が黄白色になった頃とする.高次分げつの粒の水分は高くなるので,4〜5本以上の分げつが出現しない栽培法とする.脱穀調製時に,扱胴の回転数が高いと発芽不良や皮むけを起こすのでコムギより回転数を下げる.

[病虫害]
赤かび病,縞萎縮病,うどんこ病,さび病,斑葉病,株腐病などが発生する.赤かび病の被害は大きいが,抵抗性品種はなく,出穂期前後の薬剤散布による防除と,雨害の受けにくい早生の品種や二条の品種を用いて被害を回避する.

縞萎縮病が,わが国の2条オオムギに1970年代より多発した.6条品種から本病への抵抗性遺伝子を導入して被害防止に成功した.高度の品質を維持しつつ耐病性を付与するために,数回の戻し交配と多数の後代系統の品質検定を行う必要があったので,良質で縞萎縮病抵抗性品種の育成に長年月がかかった.

戻る

品種,品質,用途

[わが国の品種]
わが国の2条品種はビール原料用と,それ以外用とに分極し前者は高度な醸造適性を有する品種が育成されている.後者は食用,飼料用,麦茶などに用いられ多収,強稈で耐病性の優れた農業特性を持つ.ともに播性程度は低い.

明治初期にビール原料用としてヨーロッパ原産の品種ゴールデンメロンが導入された.ゴールデンメロンは醸造適性は優れるが長稈で倒伏しやすく晩生なので,以後ゴールデンメロンの優れた醸造適性を維持しつつ欠点を改良する育種が,当初はビール会社の各社で後に公的機関も加わってなされた.その結果,短稈,早生で,しかもゴールデンメロンの品質を凌ぐ品種が多く育成された.

[ビール用品種]
ビールはオオムギを発芽させた麦芽(malt)に副原料のデンプンなどを混ぜ,麦芽のアミラーゼでデンプンを糖化させ,酵母を加えて発酵させる.酒税法上のビールの定義では原料全体の67%以上が麦芽からなることが必要とされる.

粒が大きく揃っており,穀皮が薄く色がよく,発芽力が強く,デンプン含量が多く,タンパク質含量は高くないことなどが大切な条件で2条オオムギがこれらの条件をよく満たしている.

良質品種の育種に際しては,麦芽エキス含量,酵素力,最終発酵度など,多くの項目にわたり高度な品質検定が行われる.品質のよい品種は一般に収量などの農業的形質が低下するが,良質と同時に農業特性の優れた品種を育成する努力が傾けられている.新品種候補系統は,育成者とビール業界の合同による品質試験を行ったうえでビールムギ用品種としての採用がなされる.

[その他の品種]
食用にする場合は,搗精し,熱をかけて加湿し,さらに圧扁したものを(押麦)米に混ぜて炊く.搗精歩留りは50〜60%である.繊維やビタミンが多く健康食とされる.精麦歩留り,搗精時間,精麦粒の白度などが品質の基準となる.世界的には,簡単に砕いてゆでるか,あらく製粉したものを湯で溶いて食す場合が多い.

焼酎の副原料デンプン,みそ用などにも用いられるが,最大の用途は飼料用でトウモロコシ,ソルガムなどと配合される.麦茶には皮性の品種を炒る.
ビール麦品質と収量,短稈化の成果.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
品種名      育成年次 収量比  出穂期   稈長cm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
栃木ゴールデンメロン 1915   100       0     105
ニューゴールデン   1965   110    -5      95
アズマゴールデン    1971   100    -11     90
ミホゴールデン     1975   107    -14    85
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
栃木県農業試験場栃木分場による.2週間早生化,20cm短稈化が達成されている.
麦芽評点
   I                            +                   +           ●      
40 -                             +                   +    アサカ   関25    
   I                          ○ +                  + ◎ 87      87   
   I                        ハル75 +◎ ニシ84       ○ +                
   I                                +            ニラ82 +        ツユ80   
   I                                 +                   +      ○      
30 -                                  +                   +             
   I                                   +       キヌ84      +  ◎ ミワ83   
   I                                    +    ◎             + ● トネ85 ◎
   I           +                         +      ○           +      関24
   I            +                         +       アマ75      +      86
20 -            +                         +                   +        
   I              +                         +                   +       
   I    ○    ○  +                         +                   +      
   I   アカ71 フジ64+                ○       +                  1985年 
   I               +              ミホ71     +                        
10 -                 +                        +                       
   I                  +                         +                      
   I                  +                         +                     
   I                     +                        1975年                
   I               セイ63 +                                            
 0 -                  ○   +                           
   I                        1965年                                      
     ------ + ------- + -------- + -------- + -------- + -------- + ---
                     100                   110                   120
                            収 量 指 数
    図.ビールオオムギ育成系統の麦芽品質と収量との関係
福岡農試の生産力検定試験でもので(麦芽の分析は栃木農試),各系統の供試期間数年間の試験を平均した.成城17号を規準(収量を100,麦芽評点を0)とし,成城17号が供試されていない年は共通に供試された比較品 種の値からスライドさせ規準化した.系統の略称に付した数字は育成年度(二条番号付与年).◎は 縞萎縮病,●は 縞萎縮病+うどんこ病抵抗性の系統.

同時代の比較では収量と品質(麦芽評点)に負の関係があるが,時代とともに収量,品質が右上の方向に改良されて行っている.

戻る

エンバク(燕麦)

英名:Oat,  学名:普通種はAvena sativa L.

イネ科のカラスムギ属(Avena)の主な栽培種は6倍体(2n=42)の普通種のエンバク(common oat,A.sativa),アカエンバク(red oat,A.byzantina).他の野生種が耐病性導入に利用されている.はじめ麦畑の雑草であったが,低温や乾燥で麦が実らない年でもエンバクは実ることがあり,そのためやがて作物として独立し,麦とともに各地に伝播していった.

世界で穀実用に収穫されている面積は1200万ha,平均収量は2.1t/ha(FAO統計2003〜5年平均).ロシア(500万t),カナダ(360万t),アメリカ(170万t)などが主要生産国である.このほか青刈り用にも多く栽培される.わが国の穀実用の栽培面積は1942年の15万haが最高で,以後減少して現在はすべて青刈り用である.

子実は穎果に相当し,細長く,表面に毛が疎生する.皮・裸性がある.深根性で吸肥力が強い.稈長は60〜150cmでコムギやオオムギより長い.分げつは普通3〜4本.

穂は複穂状花序で全長20〜30cm,穂軸に5〜6節,各節に1次枝梗を4〜5本輪生,さらに2次枝梗を出す.その先に小穂が着き,1穂に70〜80の小穂,1小穂は2〜3小花からなる.先端の小花は不稔で,1小穂に2粒実る.護穎は長い.外穎は細長く先端はとがっている.自殖を主とし他殖率は0.5〜1.0%以下.登熟期間はコムギより短く出穂後30〜35日で成熟する.

冷涼なやや湿った気候に適す.耐寒性は強くない.春播型と秋播型がある.乾操に対する抵抗性は麦類中一番小さく,穂ばらみ期から開花期にかけて特に水分を必要とする.土壌の適応性の幅は広く泥炭地や重粘地にも栽培される.耐酸性はコムギやオオムギより強く,pH4.0〜8.0の土壌で栽培可能である.

早生多収良質のほか,倒伏しやすいので耐倒伏性が重要である.出穂後に冠さび病が多発する.野生種A.sterilisからの本病抵抗性遺伝子導入が進められている.冠さび病の抵抗性を永続させるため,異なる抵抗性遺伝子を持った系統をいくつか混ぜたマルチライン品種が普及された.出穂後雨で赤かび病が多発し,粒の品質低下が著しい.

オートミールの原料で,ある.古くは主食あるいは救荒食糧とされた.飼料用,特に馬用に重要であるが,他の動物にとっても飼料価値が高い.

戻る

ライムギ(黒麦)

英名:Rye, 学名:Secale cereale L.

ライムギはイネ科のライムギ属(Secale)に属し,染色体数は2n=14でコムギに近い種である.栽培化されたのは他の麦類より新しい.各種不良環境に対する耐性が強く,麦畑の雑草だったが,麦類の栽培不安定地域で次第に独立した作物として栽培化されていった.

わが国は現在子実用の栽培はなく青刈り用にわずかにあるのみである.世界の穀実としての収穫面積は650万haで,収量は2.4t/ha.ポーランド(430万t),ドイツ(380万t),ロシア(290万t)が多い(FAO統計).その他,青刈り用に広く栽培される.

穎果は長大粒で,表面にしわがあり,穎果は裸性である.根の発育はきわめてよく根長は2mにも達する.鞘葉は赤褐色で他の麦類と容易に区別できる.稈長は1.3〜1.8m程度で長稈だが,倒伏しにくい.

穂は穂状花序で長さ10〜18cm,やや偏平で外見は2条オオムギに似るが,花の構造はコムギに似る.穂軸には25〜30節あり,各節に1小穂が互生,1小穂には3小花あるが,最頂部の小花は不稔である.葯が著しく長くて大きい

気温12℃以上で開花し開花は朝多い.穂全部の開花に3〜4日要す.花糸と葯は外部に出て下垂し,多数の花粉を散らす.他の麦類と異なり風媒による他家受粉を主とし自家受粉では稔実が悪い.自殖率は品種間で差が大きく,かなりの自殖をする品種もある.品種の維持には隔離栽培が必要である.受精後の発育は他の麦頬と比べて最も遅い.

登熟期には冷涼乾燥を好む.開花時に多雨な場合赤かび病や穂発芽が多発する.耐寒牲は麦類の中で最も強い.不良土壌に耐えコムギの生育が不良な所でも栽培できる.過湿にはコムギより弱い.pH4.0〜8.0の範囲の土壌に耐える.

秋播型と春播型の品種がある.秋播型の方が耐寒性が強く多収である.コムギ同様グルテンを含むのでパンが作れる.品質が劣るが特有の風味を有する.飼料用に多く用いられる.

戻る

ライコムギ

英名:Triticale,  学名:×Triticosecale Wittmack

コムギとライムギの交配から創られた新作物である.コムギにライムギの持つ耐病性,耐乾性,不良土壌への耐性などの導入を目的としてManitoba大学とCIMMYTなどでなされた.胚培養やコルヒチン処理による染色体の倍化により,4倍体コムギとライムギから6倍体が,6倍体コムギとライムギから8倍体が得られた.当初は不稔が多く遺伝的に安定しておらず,広く普及することにはならなかった.また6倍体ではパンコムギのDゲノムを持たないので,パン用にならず,飼料や醸造用としての利用しかなかった.

以後ライコムギにさらにコムギを,またライコムギ同志の交配により,稔性がよく,充実した粒,短強稈など,農業特性の優れたものを作る努力がなされ6倍体でもDゲノムの一部を持ち,製パン適性のあるライコムギができている.Armadillo型のライコムギは,2n=14A+14B+2D+12R=42の染色体構成である.現在6倍体品種が主力で,穂や植物体の
形態はコムギに似る

コムギの栽培ができなかった地域でも栽培され,世界で穀実として収穫した面積は350万ha(2003〜5平均)と,確固たる地位を占めつつある.飼料用,簡単なパン,あるいはオートミールとして利用される.収量は平均3.5t/haでコムギより高い.ドイツ,ポーランド,中国などが主な生産国である.

戻る


以上