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このHPの内容は,主に普通作物(稲麦豆類)の栽培や品種に関する用語の簡単な解説です. 作成の発端は後書きに記した.

作物学用語集

除草作業
用語は以下の項目別に分類されている.項目内での配置は順不同.受験勉強組は一度は全部に目を通すこと.

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[栽培] [作物生理,形態] [遺伝資源] [品種] [圃場試験,統計解析] [育種] [遺伝] [水稲] [米の食味] [水稲病虫害] [麦類] [大豆] [いも類] [トウモロコシ] [雑穀など] [環境保全] [土壌,作物栄養] [施策] [後書き] (付・別ファイル)生産統計(20KB)

[栽培]

☆収量性  収量性は作物の最も重要な特性である.品種改良の最大の目標も収量向上である.多収性は 多くの形質が複合された結果として発現する.多収を目標にした品種改良では,大きな穂や多 数の穂,全乾物生産における収穫部分の割合(イネではもみわら比)の向上,上位葉の直立化 による群落内への光投射の改善,耐倒伏性の付与,病虫害抵抗性,耐肥性などを目標にした選 抜で多収品種が育成されてきた.アメリカのトウモロコシは1930年代には従来の自然受粉品種 が1.5t/ha程度の収量であったのが,最近の一代雑種品種では6t/haを超えるまでなった.日本の イネでは明治以前には2t/ha以下の収量だったのが,最近は約5t/haである.この収量増加に は栽培方法の改善の寄与も大きいが,新しい栽培法,例えば安価な化学肥料の入手による多肥, 機械利用による密植などを可能にしたのも,それらに向く品種の開発があったからで,品種と栽 培方法の両面での改善によって収量増加が実現したといえる. ☆作物 利用することを目的に植物を特別に準備した場所(田,畑)に植え,育て,収穫する人間の営み における,その植物のこと.生育途中での土中へのすき込みも広義の収穫と考える.原野にたま たまあるものは収穫しても作物とはいわない. ☆作物学 crop science 作物の生産を行うにともなって生じる諸々の要求や問題点(例えば多収化,高品質化,投入資源量 の最小化,維持可能な生産方法など)を解決・解明することを最終の目的として,作物の諸性質を 究明する学問.実学である.形態学,遺伝育種学,生理学,生態学,植物病理学,作物栄養学,そ の他の関連学問の手法や成果を幅広く取入れ,応用し,その上に構築される独自の学問である. ☆農学 agronomy 広義には,広く農業にかかわる学問.食品加工や流通,林産,水産,経済政策などに関することも 通常含める.狭義には,作物生産に直接かかわる,栽培,育種,病害虫防除,あるいは土壌や肥料 の取扱いに関する学問. ☆農業 agriculture 作物を育て(農耕),あるいは家畜を育て(牧畜),その結果得られたものを必要に応じて調整・加工 し,市場に出す営み.人類は当初,狩猟や採集の生活をおくっていたが,約1万年前に農耕や牧畜を 始めたと考えられている.広義には,林業,水産業も含む.“農”,“agriculture”の語源は共に“土地 を耕す”である(agri;土地の単位面積).施設栽培はこの語が誕生したときは想定してなかった ☆収量構成要素  水稲の収量では,単位面積当たりの穂数×一穂籾数×登熟歩合×玄米一粒重と表せる.これら の各要素をいい,各々は普通負の相関関係があり,ある一つが増えると他が減る. 登熟歩合;完全に稔実した籾の割合のこと.比重1.06の液につけて沈んだ籾数/全籾数. ☆穂数型,穂重型  主に稲麦品種の多収要因を示すもので,穂数を多く,あるいは穂重(一穂粒数)を増やして多 収となっているかを表す.通常収量と最も関連の深いのは穂数で,従来多収品種の育成は穂数型 を目標にしてきた(穂重の減少は最小限にしながら).但し,不良環境条件下や疎植では穂重型 のほうが多収を得やすい.また,最近の極多収をねらった品種では稲の日印交雑品種のように穂 重型(しかもかなり大きな穂)のものが育成されている.いわゆる麦の理想型のuni-culm品種も 穂重型といえよう(但し実際の実用品種はない). ☆早晩性  出穂,開花期や成熟期はいずれの作物でも品種間差が大きい.その早晩により,早生,中生, 晩生と分類され,この品種間差の序列は環境条件が違ってもあまり変わらず安定している.寒地 や高地で夏作物を栽培するときは生育期間の短い早生品種が有利である.収穫期が雨期にかかる 場合も早生品種が必要である. 戻る ☆置換作物 catch crops  主作物が生育途中で失敗し,その替わりに急きょ栽培されるもの.短期作物が使われる. ☆換金作物 cash crop 主として市場に出すことを目的にして生産され,迅速に販売可能な作物.19世紀中頃にこの 用語(cash crop)がアメリカで使われていたときは,ワタやタバコを指していた.今日では, 一部の野菜が相当するであろう.適切な使用例ではないが,ケシなどの麻薬の原料もそう呼 ばれることがある ☆被覆作物 cover crops 土壌特性の改善,土壌浸食の防止,肥沃度向上などのために,主作物の前後に栽培されるもの. 雑草防除,害虫防止などの効果もある.茎葉を緑肥としてすき込むことが多い.マメ科作物で は窒素固定を,イネ科作物では浸食防止の効果が高い.早期の苗立や土壌養分の利用効率向上 のために数種作物を混播することもある.注意点としては,主作物の播種前に適切にすき込む などの処置をしないと雑草としての害を与えることがある.また,極乾燥地では主作物に必要 な土壌水分を使用して主作物に悪影響を与える. ☆間作 intercropping, catch cropping ある作物の条間や株間に他の作物を栽培すること.土地の有効利用や,幼植物がもう一つの作物 で保護される利点がある.間作は前期や後作,主従関係がある程度明確な場合の用語であり,一方, 混作はそれらの関係が明確でない場合をいう.あるいは多毛作体系で,主要2作物の栽培期間の間 を利用して短期作物や野菜などを栽培すること.それらの作物をも指す. ☆混作 mixed cropping 同一土地に同時にいくつかの作物を栽培すること.間作はある作物の条間や株間に他の作物を栽培 することで,前期や後作,主従関係がある程度明確な場合の用語であるが,混作はそれらの関係が 明確でない場合が多い.同時に播種されることも多い.種類の異なる作物の特性を互いに生かした り,保護しあったりすることで,単独栽培より有利になる場合になされる.イネ科牧草とマメ科牧 草を混播するのが典型例である. ☆田畑輪換 ある水田を,水田と転換畑の両方に交互に利用する方法.転換の周期は1年交代,水田を数年,転換 畑を数年など各種ある.水田の裏作栽培は田畑輪換とはいわない.湿田では排水対策が必要である. 雑草や土壌病害の種類が水田と畑で異なるので,輪換することで被害を少なくできる.連作障害の回 避にもなる. ☆随伴作物 companion crops  他作物と同時に播種され,収穫は別に行われるもの.牧草と禾穀類を同時に播種し,牧草の生 育が不十分な初年目に禾穀類を収穫すると土地の有効利用が計れる.この場合禾穀類が随伴作物. ☆作付体系 cropping system  複数の作物を同一圃場で栽培するとき,収量,品質,収入,労力,持続性,環境への負荷などを 考慮して,最良となる作物の組合せ,作付け順序,供試する品種,あるいは間作,混作するかなど を計画して実行する.そのような場合における,作物の栽培方法の全体のことをいう.例;大型機 械導入を前提とした作付体系.環境保全型露地野菜営農の作付体系. ☆肥料反応  肥料,特に窒素肥料への反応性.品種によって,施肥しても同じだけ増収するとは限らない. ある品種では施肥反応が良く,施肥量に応じて収量が増加するが,ある品種では多肥でも収量が あまり増加しない,あるいは多肥ではかえって減収してしまうことが起き得る.多肥で倒伏,病 気,草型の乱れ(上位葉の湾曲や過繁茂)などが生じるためである.施肥反応の良い品種では, 根が良く発達し,吸肥能力が高く,短稈で耐倒伏性が優れ,光合成産物の子実への転流割合が高 く,耐病性に優れるなどの特性を有する.安価で多量の肥料供給と,それに対応した肥料反応の 優れた品種の育成が今日の作物の高生産性を支えている. ☆生育診断・生育制御  生育の進展程度(草高,分げつ数),葉色程度などから作物体の生育状況の適否を判定し,その ときの気象条件も加味しながら,多収良質が得られるように施肥,水管理,踏圧(麦の場合)を 加減して生育を制御する技術.葉色低下時の追肥,分げつ過多時の強い中干し,冷夏での追肥抑 制,暖冬での踏圧など. ☆作柄, 作況 作物のできばえ.例年との比較での収量の高低.作況指数とは,平均収量に対するその年の収量の 比率.作況指数106以上を良,102〜105をやや良,99〜101を平年並み,95〜98をやや不良, 94以下を不良,90以下を著しい不良とする.平年収量としては,気象条件や被害の発生などが平 年並みとし,さらに栽培技術の進歩などを考慮し,実収量の趨勢をもとに作成した値を用いる ☆根の活力診断法  白くてつやがあるもの,分枝根の多いもの,腐ってないものがよい.α−ナフチルアミン 20ppm溶液に根を浸すと,健全根は赤色を呈する ☆縞葉枯れ病と縞萎縮病  前者は稲のウイルス病.ウンカが媒介するので防虫(薬散)する.暖地に多い.耐虫性品種 あり.後者はオオムギ萎縮病.ウイルス病.土壌伝染.耐病性品種あり. 戻る ☆有効積算温度  植物の生育は高温で促進される.生育期間の毎日の平均気温を積算したのが積算温度である が,ある程度の温度(例;10〜15度)以下は生育促進に寄与しないので,この生育に寄与する 温度以上のみの気温を累積したもの.早生水稲品種の生育期間の値は2.5千℃日位である(この ときの基準温度は10℃). ☆限界日長  ある限界の時間よりも日長が長くなると花芽形成や開花促進がなされる場合(長日植物),そ の限界の日長時間.または,ある限界の時間よりも日長が短くなると花芽形成や開花促進がなさ れる場合(短日植物),その限界の日長時間.植物・品種によって値は異なるが,長日植物では 10〜14時間の場合が多い.このような明暗周期に対する反応を光周性という.イネの品種改良 では日長を8時間に制限して開花を早め,世代促進を行う.弱光でも影響は大きく,強度10Lux の夜間終夜照明は多くのイネ品種の出穂を遅延させる(笹村ら 1970). ☆要水量  生育期間中に吸収した全水量を全乾物重で割った値.1gの乾物を生産するのに必要とした水の 量.稲では200〜300で他作物より値が高い.「用水量」は潅漑に要する水の量であり,地下浸透 なども含んだ値.水稲の用水量は10aで1000〜1400t(+代掻き用に90t)位必要. ☆乾地農業, 乾地農法dry farming 降水量の少ない乾燥,半乾燥地帯で,節水栽培法や耐乾性品種を用いることで,灌漑なしに行う農業. 湿潤地農業に対する.乾地農業では降水の有効利用が極めて重要で,ほ場の傾斜をなくして降雨を流 失なく捕捉し,地中に水分を蓄えるために深耕し,蒸発を防止するなどの工夫がなされる.1年の降 水量で不足するときは休閑をして土中に水を蓄える ☆点滴灌漑 drip irrigation 灌漑方法の一つで,小さい孔のあいたホースを畑にはわせて,作物のある場所だけに水を最小必要 量だけ供給する.肥料や薬剤を溶かして同時に供給できる.他の灌漑法の散水灌漑や畦間灌漑より 水の節約になるが,多量のホースが必要になる ☆穂発芽  降雨,倒伏による収穫前の発芽のこと.耐穂発芽性品種あり.品質を低下させる.稲では早 期栽培,極早生種でおきやすい.コシヒカリは穂発芽しにくい.日本の麦品種は比較的穂発芽 しにくい. ☆作柄変動の要因と対策  主に気象要因による.水稲では夏期の低温,寡照,台風害,受精時の低温による受粉障害,麦 では冬季の低温による凍霜害,暖冬による生育過促進,生育量不足,登熟期の雨害,などが要因 である.気象的なもので対策はあまりないが,品種間差はあるので気象変動に耐える品種の作付 けが考えられる. ☆倒伏抵抗性  稈長,穂重,粒重,稈基重,下部節間の長さ,稈の直径,葉面積,葉鞘の厚さなどの形態的特 性,稈基部の挫折抵抗力などの物理的性質,あるいは稈の切断面積,維管束の大きさやその分布 などの解剖学的特性,またリグニンなどの化学成分など数多くの形質が複雑に関与している.栽 培条件で異なり,品種間差も大きい.倒伏抵抗性の程度を数値的に表示するには,倒伏指数=負 荷重/挫折重(ただし負荷重は地上部10cm毎の生体重とその地表面よりの距離の積を合計した もの),倒伏係数(地上部重の稈の強さに対する100分比),モーメント挫折重などがある. ☆耐肥性  多肥にしても,過繁茂,植物体の弱体化,病気発生,倒伏,草型の乱れ(特に上位3葉)など の悪影響を発現せず,多肥で収量が増加すること.多収品種の重要な特性である. ☆アレロパシー(他感作用) allelopathy ある植物が別種の植物に影響を与える現象.リンゴ果実のエチレン生成による種子の発芽阻害や, 植物のテルペン類生成による生育阻害がその例である. ☆耕起砕土 plowing and harrowing 田畑を掘り返し,土を砕いて土塊を小さくし軟らかくすること.除草,土壌の膨軟化や通気による 発芽,苗立ち,根の伸長を良くするなどの効果がある.昔は鋤(すき)や鍬(くわ)を用いた.現 在では主にローター(土を耕すつめ)を付けたロータリー式耕耘機で耕起と碎土を行う.深耕する ときはトラクターにプラウ(鋤)を,細かい碎土と整地には円盤状のディスクハローや爪状のスパイ クハローを付けて行う. ☆耕種概要 ある作物を栽培するときの標準的な方法を示したもの.作物栽培のためのマニュアル.気象条件 が異なるので各地域ごとに作られている.例えばイネでの内容は,その地方での選ぶべき品種, 播種育苗法,肥料(元肥量,追肥の時期の判定法と量),田植時期,栽植密度,除草や病虫害防除 用薬剤の種類と施用法,水管理の方法,収穫時期の判定法,収穫乾燥法などである.各県の農業試 験場で主要な作物について作成している. ☆耕地 cultivated land, arable land 作物を栽培するための土地.田畑(飼料畑を含む).FAOの統計では世界の全穀類作物の面積(収穫 面積)は約7億haである.草地を含めると約14億haである.わが国の耕地面積は1999年農水省 発表値で487万ha,内水田は266万ha(但し1/3以上を生産調整)で,毎年4万ha程度減少してい る.減少の理由は耕作放棄,工場や宅地への転用,水害などの自然災害などである. ☆周辺効果 border effect 作物を栽培している場所の外縁付近の,その外側にはなにもないところ(水田では畔に近い部分) で,作物の生育が内部のよりも優れること.最外側の一列が特に顕著に現れ,内部になるに従いこ の効果は少なくなる.日射や養分などの競合が少ないために起こる.小さい試験区で実験を行うと き,この効果による影響を避けるため,外側数列の個体を除いて収量などを計測する. ☆施肥法 作物への肥料の与えかた.量,施肥時期,施肥位置,肥料の種類などが問題となる.元肥(もとごえ) とは播種や移植前に施す肥料で,必要なときは生育中に追肥(ついひ)をする.イネでは,増加させ たい対象形質ごとに分げつ肥,穂肥,実肥という.全層施肥は肥料を全面にまき,耕起して作土全体 に混合する.肥料の利用効率が高くなる.表層施肥は土壌表層に施肥する.肥効が早い.深層施肥は 作土の深い位置に施肥し,追肥としても機械を使用して行うことがある.イネでの側条施肥は田植え と同時に苗の横約3cm,深さ4cm前後に施肥する.省力と施肥効率が高くなる. ☆深層追肥 イネ栽培で,基肥を少なくして,初期の過剰な分げつを抑えて育て,出穂前35〜40日に地表下 10〜12cmに追肥を行う施肥法.登熟歩合の向上や子実の充実を目的とする.初期生育を抑える ので過繁茂になりにくく,有効茎歩合が高まり,草丈が低くなり倒伏しにくい特徴がある.専用 の深層追肥機を使い,尿素を液肥にして土中に注入する. ☆深水灌漑 イネ栽培での水管理方法の一つで,水深を深くすること.移植直後の苗の保護,穂ばらみ期の幼穂を 低温から守る,分げつ発生を抑制して生育を制御する,雑草の防除,水田の持つ貯水機能の増強など の効果がある.畦畔を高く,強固にしておく必要がある.水深は,移植直後以外では15cm程度以上 とする. ☆予措 よそ(種子の)pretreatment 播種前に行う選種,消毒,浸種,催芽などの作業.発芽がそろい,発芽力が強い種子を選び,種子 伝染性の病害を防除するために行う.イネでは,選種はふるいや塩水選,消毒は薬剤の溶液に漬ける か粉衣,浸種は10〜13℃の流水に1週間,催芽は30〜32℃に保つ.催芽を1日すると種子はハト 胸状になる. ☆不耕起播き nontillage sowing 表面全体や深く耕起するのでなく,播種,覆土に必要な最小限の深さ・場所を耕起して播種すること. 土壌浸食の防止,省力化などのために試みられている.除草,水田では漏水などが問題である.不耕 起栽培での収量は,初年目,二毛作での二作目などでは大差ないとされる. ☆保温折衷苗代 機械利用の田植え以前に行われた苗代での育苗方法.出芽とそれ以降の幼苗時期を透明フィルムで被 って保温し,育苗の前半は湛水状態,後半は溝のみ灌水して床面を湿潤にする.折衷苗代とは水苗代 の長所(水分不足がなく,雑草が少なく,苗が取りやすい),畑苗代の長所(根の発達が良い)を兼 ね備えた方法.保温苗代とは自然状態の露地苗代に対するもの.1960年代より,当初は油紙を用い た本方法が寒冷地や早期栽培に普及し,冷害回避に多大の寄与をした. ☆生育診断 作物の生育の良否,生育の遅速,栄養状態などを生育の途中に判断すること.その診断に基づいて 適切な処置(増肥,減肥,水管理,むぎ踏み,生育調節剤の散布など)を行い,最良の生育を計っ たり,被害の可能性を最小にする.観察項目には,生育初期の草丈,分げつ数,葉の展開速度,幼 穂形成の時期,葉耳間長(止葉とその直下葉の葉耳間距離.減数分裂期判定の簡易尺度となり,イ ネではほぼ-10cmで始まり,0で最盛期,+10で終了期),葉の緑色の濃度などがある. ☆収穫機,ハーベスタ 作物を収穫するための機械.各種あり,イネやむぎ類では,小さく安価な順に,1〜3条を刈取っ て結束するためだけのバインダー,2〜6条を刈取って,穂の部分のみを脱穀部に通して脱穀する 自脱型コンバイン,刈取った株を全体を脱穀部にかける普通型コンバインとがある.いも類では, トラクターに付けた収穫用のプラウで掘り起こして手で集めるか,堀取りして作業台車までいもを 集めてリフトする機械を使う. ☆緑肥 植物の地上部を刈取り,そのまま田畑にすきこんで腐食させて肥料とするもの.そのため前作に栽培 するものが緑肥作物.窒素供給のためにはマメ科作物が,有機物の大量補給には地上部乾物重の大き いイネ科作物がよく用いられる.堆肥は腐植させてから用いる点で緑肥と異なる. ☆連作障害 同一(または近縁)の作物を同一ほ場に連続して栽培することで発生する作物の生育不良.水田は湛水 するので連作障害はみられないが,畑では常に問題となる.土壌養分の欠乏,障害となる土壌微生物の 増加,病害虫の発生,作物からでる毒素集積などが原因とされる.輪作,田畑輪換,湛水処理,深耕や 天地返し,土壌消毒などで対応する. ☆わい(矮)化剤, 成長抑制剤, 成長抑制物質 作物の草丈を短くする薬剤.イネ科作物で穂長に影響せず稈長を短くするわい化剤が開発されている. クロルメコート46%液をコムギの出穂前20〜40日に散布すると収量や品質への悪影響なしに上位3 節間が短くなり,稈長が10cm程度短くなって倒伏が軽減できる.本剤と多肥を併用し,ヨーロッパで コムギの極多収栽培がなされている. ☆種子seed 広義には,発芽して次世代の個体となるなるもの.狭義には,胚珠が受精後発達してできたもので, 胚,胚乳,種皮からなる.食糧としての利用価値が高いものが多い.イネ科種子の大部分は胚乳から なる.ダイズでは子葉部分が多い.子実とは,果実や種子の別称.種(たね)は種子の俗称.但し,種 いもの“種”は広義の意味の種子に相当する.真正種子true seedとは,“種いも”でないとの意味での 種子で,例はTPS(true potato seed).発芽が光で促進される光発芽種子(ゴボウ,ニンジンなど)と ,抑制される暗発芽種子(ダイコン,キュウリなど)とがある.イネ科の発芽は光条件にあまり影響 されない. ☆出芽  芽が地上に出ること.emergence 出芽率(%)=(出芽個体/播種数)×100   播種数×発芽率を分母がいいかも.  (広義に出芽とは,植物体から新原基が形成され発育すること.budding) ☆苗立ち (なえだち) establishment of seedling  移植,または播種出芽後,個体として確立し,今後順調に生育するであろう状態.  苗立率(%)=(苗立ちした個体数/播種または移植数)×100   移植または出芽の1〜2週間後に計測. 戻る ☆カントリーエレベーターとライスセンター  共に稲麦の大規模な共同乾燥施設で,テンパリング乾燥(急速乾燥をして胴割れするのを 避けるため,時々乾燥を中断しながら水分を14〜15%にする方式)し,調製や包装も行う. 最近は単一品種が栽培され,収穫期が揃い,しかもコンバイン収穫で一時に多量の高水分のも のが搬入されるが,これらの施設で効率よく処理できる.前者のほうは大規模で,2000t程の サイロを備えバラ貯蔵し,そのため同一品種を大量に生産する産地に適す. ☆ブロックローテーション  転作を各農家単位でするのでなく,地域単位にすること.不公平のないように,その地域 単位で転作作目を一定年度ごとに交代していく.例えば水系ごとにすることで,灌排水など の効率が水稲作,転作作物ともに非常に向上する.特に大豆導入に効果あり. ☆バラ流通  稲麦の集荷,流通を一袋単位でなく,ばらしてすること.効率がよくなる.品種の統一, 適正な収穫,乾燥などの管理が必要になる. ☆雑草の種類(実物写真は他の参考書を参照)  発生期;冬期雑草(11〜12月出芽,5〜6月成熟.スズメノテッポウ,ハコベ,ヤエムグラ) 夏期雑草(3〜5月出芽,9〜10月成熟.タイヌビエ,メヒシバ,カヤツリグサ).  水への適性;水生(ミズガヤツリ,ホテイアオイ),湿生(アゼスゲ),乾生雑草(メヒシバ).  生活型;一年生(多く),多年生雑草(根茎;ミズガヤツリ,塊茎;クログワイ,ウリカワ).  繁殖法;種子(多くの一年生),栄養繁殖雑草(多くの多年生).  植物分類;広葉(コナギ,アゼナ),イネ科(ヒエ類),カヤツリグサ科雑草(カヤツリグサ).  発生場所;水田(コナギ,アゼナ,ヒエ類,カヤツリグサ),畑雑草(メヒシバ,ヤエムグラ). ☆雑草防除法  耕種的;播種前の耕うんや代掻き,麦畑の中耕,輪作など栽培方法による.  除草剤;雑草の光合成阻害,植物ホルモン作用の撹乱,酵素生成阻害などを生じる薬剤の使用. ☆除草剤の分類  化学構造;無機(例;石灰窒素,塩素酸ソーダ),有機除草剤(2,4-D,NIP).  生理作用;選択性(イネ科に害が少なく,広葉に大きい.例;2,4-D,MCP),       非選択性除草剤(全植物に強い毒性.パラコート).  植物への移行;接触型(薬剤が接触した部分が枯れる.パラコート),         移行性除草剤(茎葉や根から移行.2,4-D,MCP).  植物生長物質;ホルモン型(2,4-D,MCP),非ホルモン型(無機,多くの有機除草剤). ☆除草剤使用法  注意事項;除草剤を適正に保管,管理する.圃場以外への流出,飛散を防止する.適性使用量な どの使用基準を守る.散布時に防護具を着用する.長年同一剤を使用すると優占雑草が変化するの で他の剤とのローテーションを組む.  土壌,水条件;土性や腐植含量で薬効や薬害に差がある.砂土では剤の吸着力が少なく,薬害が でやすいので少な目とする.水田では土性の差による効果の差は少ないが,減水深の大小で効果に 差がでる. ☆発育段階 developmental stage 生物の発育過程の一区切り.その過程で形態や代謝などが変化する.植物での栄養成長から生殖成 長へ転換は大きな区切りとなるが,このような急激な変化が起らない場合でも,さらにいくつかの 段階的な進行がみられ,種子の発芽,葉,分枝,花芽の分化・発達・成熟などの変化がおきる.こ のような質的な変化が発育である.一方,重量の増加や草丈の伸長など量的な変化は成長(生長) という. ☆ひこばえ ratoon 元来は“孫(ひこ)生え”の意で,地面近くで切られた樹木の親株基部から生えた芽.多年生の作物 (サトウキビなど)で,一度地上部を収穫後に,また出てきた芽.暖地の早期栽培イネの収穫後に出 た穂にもいうことがある. 戻る

[作物生理,形態]

☆植物の基本的器官  植物の器官organとして基本的なのは,根root,茎stem,葉leaf.それら器官の持つ機能function のもとに,代謝metabolism,生長growth,分化differenciation,増殖propagationをする. ☆成長点,生長点 growth point 茎頂,シュート頂 shoot apex 根端 root apex, root tip 根 端分裂組織 root apical meristem 頂端分裂組織 apical meristem  いずれも,茎や根の先端にある活発な分裂組織(とその近辺)を指す.定義,使用法が場合によって若干異 なることがある. 一次組織promary tissue;これらの分裂組織から直接できた組織. ☆二次分裂組織 secondary meristem  既分化組織が再び分裂機能を回復し,新たな分裂組織となったもの.例えば; 形成層cambium (二次維管束形成層):茎や根の木部と篩部との間にあり維管束組織をつくる. コルク形成層:茎や根外側のコルク組織をつくる. これらからできた組織を二次組織secondary tissueというが,一次組織との区分が不明確なことも多い. ☆シュート shoot 苗条びょうじょう 芽条がじょう 茎葉(部)  茎とそれに付いた葉(≒枝).茎と葉を合せ考えた器官,つまりシュート,が生長の単位であるとす るときの用語.幼芽plumuleは最初に形成されるシュート.側芽lateral budは茎の側方(先端でなく) にできたシュートで,通常は腋芽[axillary bud;葉腋(axil,葉のつけね)からでたシュート]である. 側芽が伸びたシュートが側枝lateral branch.不定芽,不定枝もシュート.花も,がく片や花弁などは 葉の変形したものと考え,シュートである花芽floral budから生じるといえる. ☆頂芽 terminal bud,apical bud  シュート先端の芽.幼芽が伸長してなす主軸main axisの先端,側枝や不定枝が伸長してなす側 軸lateral axisの先端のいずれもが頂芽となりうる. 頂芽優性apical dominance;=側芽抑制lateral bad inhibition. ☆芽 bud  極若いシュートで,その先端付近に生長点のある部分.伸長して茎,葉,花を分化していく.休眠している のを休眠芽,将来花となるのを花芽(かが,はなめ)という. ☆葉原基 leaf primordium  発生初期の葉.生長点の頂端近くに側生する.花原基floral primordiumは生長点の頂端に分化. ☆ファイトマー phytomer  1枚の葉と根および1つの側芽をつけた茎の断片.節から節まで.植物体はこれが積み重なってできていると する場合の単位構造. (要素) ☆幼穂 ようすい young panicle  イネ科作物での用語で,まだ稈中にあり出穂する前の穂. 幼穂分化期;厳密には止葉原基の次の最初の苞葉原基(第1苞葉原基)が分化した時期.稲では出穂の32〜30日 前で(止葉−3番目)の葉が出るころ.2次枝梗原基の分化期(幼穂形成期)は第1苞葉原基分化期の5日後. ☆幼穂形成期 panicle formation stage 幼穂(稈中にあり出穂前の穂)が形成される時期.普及現場での判定基準としては,生長点が長さ約1mm,突 起と密生した毛がみられる時期(2次枝梗原基の分化期)とする.幼穂分化のほぼ5日後 ☆花 flower  生殖器官.受精して種子を作る.花芽floral budからでき,がく片sepal,花弁petal,雄ずい (蕊)stamen,雌ずいpistilからなる.これらはいずれも葉(花葉)の変形したもの.  イネ科では,雄ずい下部外穎側に1対ある鱗被(lodicule,開花直前に膨れて内外穎を開ける)が花弁に相当. 穎は葉が変形したもので,穎は葉鞘,芒は葉身に相当.  トウモロコシの雌穂は,分げつの短縮した節間の先につくとみなせ,穂軸cob直下の各節からでた4枚位の 苞葉huskが花序を包む.穂軸表面に20〜40列小穂が1列40〜50つく.小穂に2小花あるが1小花は雌雄ずいがな く不稔.花柱・柱頭は長く(絹糸silk)苞葉の先から抽出し受粉する.内外穎は発達しないので果実が露出.  ダイズの花は長さ5mm位で葉腋から出る短い花枝上に数〜10数個密に互生し,萼(がくcalyx,がく片の集ま り)に包まれ,花冠(corolla,花弁の集まり)は1枚の旗弁standard petal,2枚の翼弁wing petal, 2枚の竜骨弁keel petalからなる.雄ずいは10本で9本は花糸部分が癒着,雌ずいの柱頭は1本.1子房内に 胚珠が2〜4(全部稔実すれば1莢の種子数)ある.各胚珠へは1花粉由来の精核が侵入して各々重複受精する. ☆単性花 unisexual flower  雄ずいか雌ずいの一方のみを有する花(雄花staminate,雌花pistillate).異性花,雌雄異花ともいう. ☆両性花 bisexual flower  雄ずいと雌ずいの両方を有する花.稲,大小麦等.両性花でも,雌雄異熟だと自家不和合になるこ とがある(トウジンビエ).両全花ともいう.完全花とは萼,花冠,雌雄ずいのすべてを持つ花. ☆雌雄(異花)同株 monoecious  単性花をつける種子植物で,雌花と雄花が同一個体に生じるもの(トウモロコシ).自殖は可能. ☆雌雄異株 dioecious  単性花をつける種子植物で,雄花と雌花を別々の個体に生じるもの(ホップ,アスパラガス). 戻る ☆花序 inflorescence   花の集まり,花の配列の状態.以下の説明は明確でない部分があり,あまり悩む必要なし.図解(32KB) A.花序軸の先端に花を着けるか否かによる分類は; 1.無限花序:早く形成された花から咲き始め,順を追って枝の上方に及ぶもの.先端には花が   つかないことが多い. 2.有限花序:枝先の花(頂花)から咲き始め枝の基部に向かうもの.腋芽からの枝でもまず先端   に花をつける.しかし主軸は無限花序で,そこから生える枝は有限花序のこともある. 注;無限伸育型:無限花序の品種.有限伸育型:有限花序のものだが,定義通りでなく下部の花   が多くの場合先に分化する.頂端に花が付き節の増加がそれ以上はないが,その後も全体的   な生育が続くものもある.例;大豆の品種. B.花序主軸と分枝の相対的大きさによる分類は; 1.総穂花序;主軸がよく発達しているもの.その中をさらに;  1)穂状花序:花が穂軸に直接(無柄,つまり枝なしで)列生する.イネ科では2重の穂,つまり複穂    状花序で,その中の単位の穂状花序は小穂という.小麦,ライ麦,ライグラス.  2)総状花序:花が有柄(枝梗を持つこと)で穂軸につく.イネは複総状花序(二次枝梗があるから).    花序分枝が下部ほど大であるのが普通で,これを特に円錐花序とよぶ.イネ,エンバクなど.  注;総穂花序は穂spikeともいう.総穂花序は通常無限花序. 2.集散花序;分枝がよく発達したもの.作物での例? 戻る ☆稲の穂の構成  中央の穂軸(11KB)(すいじく,ほじくrachis)は8-10節あり, 各節から1本ずつ1次枝梗(しこう,primary rachis-branch)がでる.1次枝梗にも節があり, その節から2次枝梗がでる.枝梗の各節から短い小枝梗pedicelをだし,その先に小穂 (しょうすいspikelet)がつく.穂軸先端の一次枝梗は上向きで,その基部近くに小さい節(生長点の 退化したもの)がある. 1小穂は1小花(17KB)(floret)で,小花は2護穎glumeと,内外穎palea,lemma に包まれる.その最下部外穎側に鱗被(lodicule,花弁に相当)がある.雄蕊(stamen. 葯antherと花糸とからなる)は6本ある.雌蕊pistilの基部は子房ovaryで上部は花柱styleの 先端が二分し羽毛状の柱頭stigmaとなる. 穂;“花序”の説明を参照.穂軸;=花軸floral axis,rachis ☆小花 しょうか floret  花序を構成する個々の花.稲では1小花が内外穎に包まれているので穎花ともいう. ☆小穂 しょうすい spikelet  禾本科の花序を構成する単位で,穂から分枝したもので,1〜3あるいは数個〜多数の小花と, それを包む護穎とからなる.小麦の1小穂には 2-5小花(分化するが稔実するのは2-3粒). 稲,大麦は1小穂に1小花. 大麦の護穎は極細い. その他写真も参照. ☆護穎 glume  イネ科の小穂の根元にある葉状器官.通常小型で2個. ☆外穎 lemma (外花穎)  イネ科の花を包む葉状器官.子実の外観の大部分を占める. ☆内穎 palea (内花穎)  イネ科の外穎に相対し花を直接包む葉状器官.前出葉に相当.護穎,内外穎をあわせて穎とよぶ. ☆籾 もみ rough rice, paddy  米で,籾殻(内外穎に相当.通常の品種は脱穀すると極短い小穂軸と護穎も付いてくる)を取 り除いてない状態のもの.我が国では玄米(brown rice, hulled rice.籾を除いた米.受精した子房 が発達したもので,果実fruitに相当)で収量を表すが,FAOの統計は籾収量である.通常の日本 型品種では籾重量の18〜21%が籾殻(小麦では19〜25%,穂軸を入れると,穂重の72〜78%が子 実重).容積では玄米/籾は50〜60%にもなる. 戻る ☆雌ずい(蕊) pistil の構造 (29KB)  果皮pericarp;受精後雌ずいの子房が発達し果実となるが,子房の外壁を受精後は果皮とよぶ,種子は   表層から果皮・種皮・胚乳となっていく.玄米の胚乳上の表層は果皮+種皮.豆の莢(さや)は果皮.  子房ovary;雌ずい基部にあり胚珠を内蔵する袋状の器官.  種皮seed coat,testa;種子の周囲の膜の総称.胚珠の珠皮が変化したもので,胚を保護し,発芽時の   水分吸収に関与する.  胚珠ovule;後に種子となる器官.胚のうembryo sacとそれを包む珠心さらにそれを包む珠皮からなる.  果実fruit;種子植物の子房が発達した器官.  雌ずい上部は,花柱styleの先端が二分した羽毛状の柱頭stigmaとなる. ☆雄ずい(蕊) stamen おしべ  雄性の生殖器官.葯antherと花糸filamentとからなる.1小花中に麦等穀類では3本の場合が多いが稲 は6本,大豆は10本で内9本が癒着.ジャガイモ,サツマイモは5本.葯中に多量の花粉(pollen 雄性配 偶体)を含む. ☆配偶体 gametophyte  配偶子を作る生物体.花粉は雄性配偶体,胚のうは雌性配偶体に相当.配偶体は単相(核相n). ☆配偶子 gamete 生殖体  有性生殖に関与する生殖細胞.精細胞(精核)が雄性配偶子,卵細胞(卵核)が雌性配偶子に相当(重 複受精参照).雌雄などの2種の配偶子の接合した受精卵から新個体が生ずる. ☆接合子 zygote 接合体  2個の配偶子が接合して生じた細胞.受精卵が接合子. ☆種子 seed  発芽して次世代の個体となるなるもの.胚珠が受精後発達してできる.胚,胚乳,種皮からなる. 食糧としての利用価値が高いものが多い.イネ科種子の大部分は胚乳からなる.ダイズでは子葉部 分が多く,胚乳成分は成熟中に子葉に吸収され,成熟時には種皮と子葉間に数層残るのみとなる. 子実 grain(穀類) bean(マメ類);果実,種子の別称.≒穀実grain,kernel 種(たね);種子の俗称.但し,種イモseed tuberの“種”は上記定義の頭部分に相当. 真正種子true seed;“種イモ”でないとの意味での種子.例:TPS(true potato seed). 結実seed-setting,結しょ(藷)tuberization;実ること,イモができること. ☆果実 fruit  子房が発達した器官.果実≒種子,意味では種子⊇果実.果実内で胚珠が発達して種子をつくる. 子房の外壁を受精後は果皮とよぶ.玄米の表層は果皮+種皮,その内部に胚乳.モモは果皮が3層に 発達し,外果皮exocarp,中果皮mesocarp(多肉質で可食部),内果皮endocarp(堅くその内部に種子) からなる.スイカの可食部は中果皮と内果皮で,その中に3室/1子房内の多数胚種からできた種子が ある.リンゴは芯に近い部分が果皮に相当する.イチゴは花床の発達した部分が可食部で,1雌ずい 内の多数子房由来の小さい果実が表面に散在する.→偽果 ☆多花果 polyanthocarp 複合果 multiple fruit 集合果,複果  複数花由来の果実が見かけ上1つの果実のように見えるもの.例:イチジク,パイナップル. 多花果⇔単果(1子房由来の果実simple fruit). なお,1花の複数子房に由来する果実を分離複果aggregate fruit(集合果,複合果)という.例:イチゴ. ☆偽果 pseudocarp 仮果 anthocarpous fruit  子房以外の組織由来部分がかなり多くを占める果実.子房の発達時に心皮以外の組織(花床,がく, 花軸,包葉など)が大きく発達したもの.例:果皮以外が可食部の多くを占めるくだもの. ⇔真果true fruit;子房と種子のみからなる果実. ☆花床 receptacle 花托  花柄の先端で,花をつけさせている部分. ☆花柄 peduncle 花梗  花序の中央軸(花軸rachis.イネ科での穂軸は花軸に相当)から分枝し,花をつけている茎. ☆心皮 しんぴ carpel  雌ずいをつくると概念上される葉.心皮が子房,花柱,柱頭に分化すると考えられる. 胚珠は心皮の縁に発生する. ☆胚 embryo  種子中の発芽前の幼体.胚には通常,幼根,茎頂分裂組織をもつ上胚軸,この間の胚軸,胚軸の 上端に子葉,さらに数枚の幼葉が既に分化している. ☆芽ばえ seedling 実生 みしょう (幼)苗 ようびょう なえ  種子が発芽して,幼植物体が生長し始めた段階での植物体. 実生;種子から生育した植物体をいうこともある.例:実生個体 苗;移植を前提にし,移植するまでの幼植物をいうことが多い.例:稚苗(葉齢3〜3.5) ☆胚乳 albumen,endosperm 内(胚)乳  種子中にあり発芽のための養分貯蔵組織.被子植物では重複授精後にできる. ☆穎果 caryopsis  果実の一種で,小型,成熟後果皮が堅くなり種子に密着しているもの. 戻る ☆重複受精 double fertilization  花粉母細胞は葯中で減数分裂を行って4個の花粉四分子pollen tetradとなる.花粉四分子(小胞子 に相当)は成熟して各々離れ花粉(花粉粒pollen grain)となる.花粉粒は核分裂して花粉管核(栄養核) と生殖核(雄原核)を分化し,2細胞となる.生殖核はさらに分裂し2つの精細胞(精核)(雄性配偶子に相 当)を作る.発芽して柱頭中を伸長する花粉管で運ばれた2個の精細胞の1つは胚のう中で卵細胞と,さ らにもう1つの精細胞は極核と合体する. 精細胞+卵細胞の受精卵は分化・成長して胚(2n)へ,精細胞+極核は胚乳(通常3n)となる. 被子植 物特有の受精様式である. 極核;胚のう細胞の分裂でできた8核のうちの胚のう中心に位置する2核.この2つが合体し,さら に精細胞と合体し胚乳をつくる.  (29KB) ☆キセニア xenia  胚乳に交配した花粉親の形質が現れること.トウモロコシの黄色胚乳(YY)(花粉親)×白色胚乳(yy) で,重複授精後にできた胚の遺伝子型はYy,胚乳はYyyで,胚乳は黄色となる.モチ稲にウルチ稲の 花粉で受粉させるとウルチの胚乳となる. ☆多胚(現象) polyembryony 多胚種子 multigerm seed  1種子中に複数の胚が生じる現象.1卵細胞が胚形成中に多胚となる(松,杉)もの;卵細胞+珠心など の胚のう細胞由来(遺伝的に母本と同一)とからなるもの(柑橘類);1胚のう内で,複数の子房(あるいは 子房内の室locule),複数卵細胞を生ずるもの(サツマイモ,ジャガイモは子房内に2室あり各室に前者は 2,後者は数百の胚珠を形成する)などがある.甜菜では,1包葉腋上に生じた数個の花の花被が癒合し, 複数の異なる子房由来の果実を含む種子ができるので,ここでの多胚の定義からはややずれる. 戻る ☆子実の形成  イネでは,子実は開花後ほぼ5日で粒の全縦長に,2週間で幅長に,35日位で最大乾物重に達 する.胚は重複授精ほぼ10日後に胚培養可能段階に生長し25日で完成する.胚中には幼根(1本 の種子根.小麦では6本),幼芽(鞘葉,1〜3葉の原基.小麦も同じ)が分化している.胚乳の 形成は,重複授精の片方である極核2つと精核の合体後細胞分裂が急速に進み,胚乳組織の表層 に澱粉層aleurone layer,内部に澱粉貯蔵組織ができ,受精10〜20日後に細胞分裂は終了 する.澱粉層は果皮・種皮直下の数層からなり澱粉粒は蓄積しない.澱粉貯蔵組織の細胞内で, 光合成の結果転流してきたスクロースから澱粉が作られ,澱粉粒が蓄積し,細胞は肥大していく. また蛋白質が,各種アミノ酸と各種有機酸(細胞内で,前者は窒素が根からアンモニアや硝酸な どの無機態の形で吸収されつくられ,後者は光合成・呼吸由来で)とから作られ,胚乳の7%程度, 顆粒状に蓄積する. ☆脱粒性 shattering habit, shedding habit   成熟後の子実落ちやすさの程度.稲では小枝梗のもろさ,大豆では莢が開くか,などが関与.   戻る ☆葉 leaf  茎に側生し,光合成や水分蒸散などを行う.表皮はクチクラに被われ表面に気孔や水孔がある. 気孔の密度,大きさ,分布は種で大きく異なる.葉肉mesophyll の細胞には葉緑体が多数あり, 光合成を行う.葉肉細胞間隙は気孔につながってガス交換がなされる.葉身窒素濃度を高めると光 合成速度が高まる.維管束が茎の維管束とつながり,物質の輸送経路となる.  イネ科では葉身leaf blade,葉鞘leaf sheathからなり,葉鞘は茎葉を包み茎の補強をもする. 細長い葉身に平行して葉脈(vein 維管束の上部.中央のが中肋ちゅうろく)が数本/mm走る.葉脈に 平行して気孔が数列葉の表(稲止葉mm^2あたり4-500)裏(同5-600.大麦は5-70)にある.  葉の上側upper sideは,向軸面adaxial sideまたは腹面ventral side,下側lower sideは, 背軸面abaxial sideまたは背面dorsal sideという. ☆葉序 phyllotaxis,leaf arrangement  葉の配列様式.1節につく葉の数で分類; 1.輪生葉序;1節に2枚以上の葉がつくもの.1節2枚のを特に対生葉序(ナガイモ,ヤマノイモ),3枚以上 のみを輪生(作物では?)ということもある.エンバクの穂の一次枝梗は穂軸に3-4本輪生. 2.互生葉序;1節に1枚ずつ葉がつく.通常茎の回りにらせん状につくので“らせん葉序”ともいう.茎上 方から見て隣同志の葉の開度が144度の場合,ある葉の5枚上の葉がらせん2回転後に直上に付く.これを2/5 葉序という(大豆,ジャガイモ,キャッサバ).禾穀類は通常1/2(180度).135度なら3/8. ☆子葉 しよう cotyledon  種子植物の個体発生で最初に形成される葉.被子植物で子葉が1枚のは単子葉植物,2枚のは 双子葉植物と分類される.胚乳が発達する種子では子葉は種子内にある.発芽に必要な物質が 子葉に貯蔵されることもある.ダイスの豆のほとんどはこの2枚の子葉である.  但し,単子葉植物では何を子葉とみなすか(鞘葉は子葉か?)の議論が多い. ☆鞘葉 coleoptile (子葉鞘,幼葉鞘,幼芽鞘)  イネ科植物の発芽時,第1葉の前に最初にでる葉状の器官.管状をなす.単子葉類での子葉にあたるか. 成長ホルモンに敏感でオーキシン定量にエンバクの鞘葉を使う.(注意;葉鞘leaf sheath とは異なる) ☆前出葉(前葉) prophyll  分げつでの鞘葉に相当する器官.但しイネ科に限らず,双子葉植物の側芽で最初に形成される葉状器官も 前出葉という.特異的な形で通常小型,双子葉は左右に1対生じる.大豆では極小さい. ☆第一葉 first leaf 初生葉 primary leaf  子葉の次に出る葉.上部の葉と形の異なることが多い.イネは葉身不発達で小さい.大小麦は先端が丸い. 豆類は通常は単葉(小葉からなる複葉でなく). ☆止葉 とめば flag leaf  イネ科植物で最上位の葉.下位葉とは若干異なり通常葉身が厚く短い.止葉までの葉数はほぼ決まっている. ☆托葉 stipule  葉柄基部付近に発生する葉身以外の葉状器官の総称.双子葉植物でよくみられ,種で形態や数は異なる. エンドウでは大型で葉身と同じようなのが,大豆では突起状で極小さいのが葉柄基部に一対つく. ☆葉枕 ようちん pulvinus, leaf cushion  双子葉植物の葉柄や小葉柄基部にある肥厚部分.葉身の日光に対する運動や就眠運動に関与する. ☆単葉 simple leaf と複葉 compound leaf  前者は葉身が一つにまとまったもの,後者は分かれているもので,その個々が小葉(しょうよ う leaflet).ジャガイモは下位葉が単葉,上位葉が複葉となる. ☆苞葉,包葉 bract, bract leaf  花を抱く小形の葉.この葉腋から花芽ができる. ☆葉齢指数 leaf number index  通常例えば主稈が14枚葉を出す品種で,6枚目の葉が半分抽出したときの,5.5/14×100=39をいう. イネでは,葉齢指数77のころが苞原基の分化期(幼穂形成期),87〜92のころが穎花原基の分化期, 97〜98のころが減数分裂期に相当する.生育診断における重要な観察項目. ☆葉耳 ようじ auricle 小耳  イネ科の葉身にみられる基部の小さく突起した器官.ヒエ,キビ,アワ,エンバク,ソルガムは欠く.  葉耳間長;止葉とその直下葉の葉耳間距離.減数分裂期判定の簡易尺度となり,稲ではほぼ-10cmで 始まり,0で最盛期,+10で終了期.  戻る ☆茎 stem  軸状の構造で葉,花,芽をつける.水,同化物質の輸送や体の支持などの機能を有す.茎頂は分 裂組織からなる.維管束系が分化し中心柱をなす.葉のつく部位が節node,その間が節間 internode.  イネ科の茎は稈culmともいう.通常の日本のイネ早生品種は14-15,晩生品種が16-17節 あり,各節から葉,分げつ,根を生じる.下位10位は節間伸長せず,その上位節が生殖生長以 後伸長し,上位ほどよく伸びる.稲麦は中空.トウモロコシは随組織で充満し維管束も通る. 表皮は硬化組織からなる. ☆短稈品種 short-culmed  (半)わい(矮)性品種 (semi-)dwarf variety  茎,稈の短い品種.耐倒伏性が優る.多肥に耐える.現代の品種の特徴である. ☆匍匐枝 匐枝 stolon  茎の地際近辺から水平に伸びる枝.地上,地下にでる.ジャガイモ塊茎は匐枝の先端が肥大したもの. ☆地下茎 subterranean stem  地中の茎.養分を貯え肥大することが多く繁殖器官にもなる.形態から,根茎(rhizome 根状.タケ); 球茎(corm, solid bulb 大きく球状に肥大.コンニャク);鱗茎(bulb 茎基部に肥厚した多数の低出葉(鱗 片葉)がつく.茎は肥大しない.タマネギ);塊茎(tuber ジャガイモ),と区別. ☆むかご 零余子 aerial tuber, bulbil 珠芽(肉芽) 鱗芽  葉腋に生じた芽が肥大したもので,茎が球状に肥大したり(ナガイモ),肥大した鱗片葉が茎をとりまい て(オニユリ)肥大してできる.栄養物の貯蔵や,独立して栄養繁殖器官となる. ☆枝 (分枝) branch  主軸(主茎,主稈)から分かれてできた茎.側芽が発達してできる. 主軸と枝との相対的大きさによって分枝(または分枝方法の状態)を分類すると; 側方分枝(単軸分枝);主軸がありその側方に枝(側枝 lateral branch)が形成されるもの(禾穀類大豆). 仮軸分枝;枝がよく発達し,その枝が主軸より優勢になるもの(ジャガイモ). 注)二又分枝;頂芽が同勢力の2分をくり返すもの(作物ではみられない).原始的な分枝とされる. ☆分げつ tiller 分蘗  禾穀類では分枝を通常分げつという.有効分げつproductive tiller;穂をつけた分げつ. ☆維管束 vascular bundle  茎葉根の中を通る水分や養分の通路.木部と篩部からなる.木部xylemは導管や柔組織 からなる水の通路.導管vesselは細胞が縦に並び,細胞壁の穴で連結して管となった組織. 篩(師)部phloemは篩管や柔組織からなる養分の通路.篩管sieve tubeは篩管細胞が連 なって管となる.  イネ葉身には大小の維管束があり,大維管束には2本導管がある.大維管束と一部の小維管 束が葉鞘へ,茎へと通じる.ある葉の維管束はその2枚下の葉の維管束とつながっている.葉 鞘の葉肉には破生通気腔があり,茎,根にこの空隙が通じているのでイネは水中でも酸素欠乏 しないが,畑作作物ではこの組織は発達してない.  サトウキビ,トウモロコシなどC4植物では維管束を包む維管束鞘が良く発達し,その中に 葉緑体を多く含む. ☆胚軸 hypocotyl  茎と根の間部分.子葉付着部の下で,幼根との間の部分(下胚軸 hypocotyl).胚軸と幼根は色素や形 態の相違などで区別される.甜菜の地下部の大部分やハツカダイコンは胚軸が肥大したもの . 下胚軸伸長型(地上子葉型);発芽時に下胚軸が伸長し子葉が地上にでるもの. 上胚軸伸長型(地下子葉型);発芽時に子葉と初生葉付着部の間(上胚軸 epicotyl)が伸長して子葉が地中に 残るもの. 図(19KB)(写真;Dr.Zheng)参照.  上下胚軸伸長の区別は主に双子葉植物について用いられ,前者は大豆,リョクトウ,インゲン,菜種,ソ バ.後者は小豆,エンドウ,ソラマメ.前者は発芽時障害(硬土壌,鳥)を被りやすい.落花生は中間型.  単子葉植物のイネやトウモロコシで,鞘葉節から下部の伸長部分を中胚軸(中茎mesocotyl)という.深播 きすると土中で伸長する.図(22KB).小麦は伸びない. ☆根 root  地下部にあり,体支持と水吸収をする器官.先端は根冠 root cap,内部は表皮にかこまれて 中心柱,その中に導管と篩管が通る.根端の少し後方に表皮細胞の一部が突起した根毛がある. 根毛およびその付近の細胞の表皮細胞で水分吸収が盛んであるが,根毛の寿命は数日から数週間で, 根は常に伸長するので,その位置は常に前進する.根全体を根系root systemという.  イネでは,種子根は1本,鞘葉節以上の節から不定根が各節5-20位でる.節からのを冠根という. 上位節で多くでる.それらから1次,2次の分枝根がでる.最長1m程度になる.開花直前に上から3節 直下で切り,水に漬けておくと発根し稔実可能. ☆種子根 seminal root  植物の胚に形成された根(幼根 radicle)が伸長したもの.主根となることが多い.稲では1本.小麦, 大麦,トウモロコシでは数本出る.茎,節その他の器官からも根は出ることがあり,これを不定根 adventitious(偶発の,外来の) rootという. この場合の“不定”;通常はその器官を形成しない部分から生ずる場合.その他の例;不定芽,不定胚. ☆根圏 rhizosphere 植物の根を取り囲んでいる土壌域.根からの分泌物,根組織の剥離,土壌養分の濃縮,呼吸による酸素 濃度低下と炭酸ガス濃度上昇などにより,土壌の構造や微生物相は根圏以外の土壌と異なってくる.土 壌微生物数は根圏で多い.なお,主根,側根,ひげ根からなる根の全体構成を根系という. 戻る ☆短日,長日作物  短日作物とは短い日長条件下で開花が促進されるもので,イネ,ダイズ,トウモロコシなど の通常の品種が相当する.長日作物は長い日長時間で開花が促進されるもので,コムギ,オオ ムギ,テンサイなどがある.なおコムギ,オオムギでは,開花には長日条件のみでなく幼植物 の時期に0〜10度の低温を経過させる(春化処理)ことが通常の品種では必要となる.中性 作物とは日長の長さの違いで開花があまり影響されないものをいう.一般に早生や極早生品種 の開花迄日数は日長条件の差にあまり影響されず,中性的となる. ☆基本栄養成長性 品種の早晩性を決定する3要因は,基本栄養生長性(環境条件を変えてもそれ以上短縮され ない栄養生長期間の短長),感温性(温度への感応),感光性(昼の長さへの感応)である. 感光性の大きい品種は出穂(開花)期が気温や播種期に影響されにくく,出穂期が比較的一定 となる.一般的に日本の稲では,高緯度地方の品種は夏の長日下でも出穂する感光性の小さい 品種が多く,主に出穂迄の積算温度に出穂期は支配されている.感光性の小さい品種を暖地で 栽培すると,極く早期の栽培以外では栄養生長が不十分なまま出穂してしまい低収となるので ,西南暖地で晩植される品種は感光性が大きいものが多い.基本栄養生長性は北海道の品種は 小さく,熱帯の品種で大きいものが多い. ☆播性  コムギとオオムギでは花芽分化への低温要求度を主な尺度とした播性(まきせい)程度で品 種を数段階に区分する.長期間の低温が必要なものを秋播性程度が高いという.早春に何回か に分けて播種し基準品種の出穂期と比較して区分するので,実際には早春の低温と長日の複合 した条件への反応の違いが播性程度の差となる.秋播性が低いものを春播性が高いともいう. ☆同伸葉同伸分げつ(蘗)理論  禾本科作物に広く当てはまる分げつ(分げつ;禾本科での分枝をいう)の出方の規則.ある葉 が抽出したとき,その3枚下の葉の葉腋から分げつが抽出する.これは主稈のみでなく二次や三 次分げつでも適用できる.従って,主稈のある葉が抽出するとき,各分げつがどの位置から出て いるかがわかる.鞘葉からの分げつ,生育後期の葉,高次分げつではこの規則性は乱れる. ムギの例参照(原図山下.背景用なので薄い) 片山(1951):「主稈は母,分蘗は子,母子間には秩序があり分蘗は主稈の養育の恩に報いるがご とく自分の子,分蘗を育て慈悲に満ちた関係・・・」と述べている. ☆葉面積比 LAR  植物体の乾物重にたいする葉面積の比.葉1g当たりの葉の面積.これが大きいのは薄い葉. 戻る ☆葉面積指数 LAI  単位土地面積あたりの葉の全面積(葉面積)の値.最大の葉面積指数は,通常直立葉を持つ ものでは6−7,寝た葉のものでは4−5位である. ☆出葉転換点 イネの葉は下位葉では5〜6日間隔ででてくるが,最後の4,5枚はこの間隔が7〜8日になる. この出葉間隔が長くなる時点をいう. ☆休眠 dormancy  芽・種子が温度,水分などの条件を適当にしても発芽しないこと.植物にとって種子の寿 命を延長し,不良環境下での種属の永続牲のための適応現象と考えられる.野草は種子休眠 性が高いが,栽培作物では淘汰されて休眠性は少ない.種皮にクチクラなどが沈積して水分, 酸素を通さないような種子を硬実とよび,種皮が破壊されれば吸水発芽し,マメ料牧草に多い. ☆C3とC4植物  葉緑体中でCO2はリブロース−1,5−ニリン酸(RuBPと略す)と反応し,2分子の3−ホ スホグリセリン酸(3−PGAと略す)という3個の炭素骨格からなる糖リン酸を生ずる.3− PGAはカルビン回路を一巡し,再びRuBPに戻る.その間にショ糖を系の外に排出する.こう してCO2から糖が合成されるが,この際,最初に出来る産物が3−PGAというC原子が3個 の化合物(C3化合物)であることから,このような反応回路で炭酸固定をする植物をC3植物 といい,稲,マメ類とイモ類など,主要な作物はすべてC3植物である.  一方,トウモロコシ,サトウキビなどの大型のイネ科作物,バヒアグラス,グリスグラスな どの熱帯牧草では,CO2が炭素原子3個のホスホエノールピルビン酸(PEP)という有機酸に 取込まれ,リンゴ酸やアスパラギン酸など,炭素原子が4個の化合物を生ずる.このC4化合 物は脱炭酸され,再び1分子のCO2を放出する.こうして放出されたCO2が,先に述べたカ ルビン回路によって最終的に固定される.すなわちカルビン回路で固定される前段階に,も う1つの炭酸固定回路(C4回路)が存在するのである.C4回路の炭酸固定酵素,PEPカル ボキシラーゼは,CO2に対して高い親和性を有しているため,大気中の低い濃度のCO2を 効率よく捕捉することができる.このような回路を有する植物をC4植物と称す.光飽和点 が高く,光合成最適温度が高い.光呼吸が少なく,強光,高温に適応する.C3植物に比較 して光合成速度は2倍近く高い.その結果,生物学的収量も高いものが多い. ☆光合成の明反応と暗反応  光が直接関与するのが明反応,光とは直接関係のないのが暗反応.明反応;光エネルギー を化学的エネルギーに変換する反応系.クロロフィルで吸収した光エネルギーで,水,無機り ん酸,ADPから,NADP・H2,酸素,および高エネルギー物質のATPを生成する.暗反応; カルビン回路(C3植物の場合)で炭酸ガスを還元し,炭水化物を合成する回路. ☆光飽和,光補償点  暗所では植物は酸素を吸収し炭酸ガスを放出(呼吸)するが,光が当たると光合成がおこり, ある光の強さで,酸素や炭酸ガスの出入りが見かけ上つり合う.このときの光の強さ光補償点 といい,これ以上光が強くなると光合成が呼吸を上回り,同化産物の蓄積すなわち生長が行な われる.さらに光が強くなると,これ以上光を強くしても,光合成による同化量は頭打ちとな る.この点を光飽和点という.C4植物ではこのときの光強度の値が大きい. 戻る ☆太陽エネルギー利用効率 Eu  全乾物(ほとんど炭水化物で1gは4000cal,大豆は5520cal)生産するのに要した,対投入太陽 エネルギーの比率.3〜4%程度である.例:(村田1980) -------------------------------------------------- 種    CO2固 場所   CGR  日射量  Eu      定経路    g/u/day cal/cm2/day % -------------------------------------------------- トウモロコシ  C4  福岡  55  485   4.6  塩尻   52    486   4.3  カリフォルニア  52    734   2.9 イネ(インド型) C3  フィリピン  55   508   4.1 (日本型)  筑後   36   478   2.8 モロコシ    C4  カリフォルニア  51    690   2.9 ダイズ   C3  盛岡   27   290   4.4 -------------------------------------------------- Crop Growth Rate 個体群生長率=(W2-W1)/(t2-t1).W1,W2は時点t1,t2における単位面積内 にある全個体の乾物重.ここでは短期間の値. ☆植物ホルモン  生長促進作用のあるオーキシン,ジベレリン,サイトカイニン,生長抑制作用のあるアブシ ジン酸,エチレンなどがある.自然界のオーキシンは主としてIAAである.また2,4-D,NAA など植物体内にはないが,IAAとよく似た作用をもつオーキシンがある.IAAは未熟な種子, 茎の先端,若い葉で生成され,茎内では茎軸に沿って濃度勾配ができる.細胞壁の可塑性や細 胞分裂を促進する働きがある.暗所で育てたエンバク鞘葉が屈光性を示すのは,鞘葉先端から 細胞伸長を促進する物質が下降していおり,その物質がオーキシンで,屈光性は両側の壁のオ ーキシン濃度差のためであることが発見の糸口である.  ジベレリンは未熟種子,幼芽,根に多く,植物の茎葉縦伸長を促し,細胞の伸長と分裂, など広く形態形成に働く.  サイトカイニンはいずれもアミノプリンを含む核酸近縁物質であって,これらを総称して サイトカイニンと呼び,約10種類の誘導体が発見されている.未熟種子・幼芽および成熟 した組織にも分布している.オーキシンと協同的に細胞分裂を促進する.  アブシジン酸は果実・茎葉の生長を抑制する阻害物質で,例えばワタの未熟果実におい て花柄に離層を作って落果させる原因となる物質がアブシジン酸である.  エチレンは植物の生長を抑制したり,果実の成熟を促進する. ☆ソースとシンク  作物の生産過程を光合成と貯蔵とに分けて考えるときの概念で,ソースとは光合成器官(葉な ど),シンクとは貯蔵器官(籾).ただし稲の葉,葉鞘はソースと同時にシンクの働きもし,貯蔵 された光合成産物は登熟期に子実へ転流するので,この区分が明確でないことも多い. 戻る

[遺伝資源]

☆遺伝子中心説  作物の発生の中心地にはその変異が多数蓄積されているとする説.発祥の中心から伝播し他の 地域でも栽培され時間がたつとその地域でも変異が集積してくる.本来の中心を一次中心地,あ らたに生じた中心を第二次中心地という.起源の中心と代表的な作物は,  1.中・西中国:大豆,大麦,エンバク,ソバ  2.インド(含ビルマ,アッサム):米,綿,ささげ  3.中央アジア:パン小麦,綿,ゴマ  4.中近東:小麦祖先種,二条大麦,ライムギ  5.地中海沿岸:durum, emmer, spelt小麦  6.エチオピア:六条大麦, durum, グレインソルガム  7.メキシコ南部,中米:トウモロコシ,サツマイモ  8.南米特にペルー,ボリビア:ジャガ,タバコ,落花生,トマト ☆主要食用作物  現在栽培されている食用作物の数は世界でも200たらず,日本ではせいぜい40位である. なかでもエネルギー供給量の多い世界の主要な食用作物は,禾穀類ではコムギ,イネ,トウモ ロコシ(以上が三大作物),オオムギ,ミレット(キビ,ヒエなど),ソルガム,エンバク,イ モ類ではジャガイモ,サツマイモ(ヤム),キャッサバ,マメ類ではダイズ,インゲンマメ, ラッカセイ,ヒヨコマメ,その他ではココヤシ,バナナなど合わせて20たらずである.なお飼 料作物は世界の耕地面積,約14億haの約半分に栽培され家畜を経過することで,サトウキビ とテンサイは糖作物としてエネルギー供給の重要な部分を担っている. ☆野生型と栽培型の違い 1.脱粒性の有無;2.休眠性の有無;3.成熟期の揃い;4.栽培化に伴う長期の選抜に よる原始的な品種分化. 戻る ☆遺伝的侵食と遺伝資源の枯渇  育種の成果として,広い地域に適応する多収品種が育成され大規模農法とともに普及すると, 従来の農法は生産性が低いとして駆逐され,それらの農法を支えてきた在来種が各地域から失わ れていった.このような事態を,土壌の侵食になぞらえて遺伝的侵食(genetic erosion) と呼ぶ.遺伝的侵食が進み遺伝資源が枯渇すると,育種事業で新しい病虫害への抵抗性遺伝子な どが必要なときに支障をきたす. ☆遺伝資源の重要性,保護  育種では耐病虫性・収量性など有用遺伝子を持つ交配親が必要であるが,遺伝的浸食で遺伝資 源が失われつつある.そのため遺伝資源の収集・保存・評価・利用がなされ,種子の長期保存法, ウイルス病対策としての組織培養による長期保存法,特性の評価とそのデータベース化などの遺 伝資源の保存とその利用に関研究がなされている.このような遺伝資源は,耐病性などの交配親と して有効に利用される. ☆遺伝資源 genetic resources 広義には,遺伝的変異に富む生物集団の総称.農学的な意味では,収集されて系統的に保存・維持 されている多数品種の集合,あるいは品種改良事業における育種材料.品種改良にとって重要な材料 ・資源である.世界中の在来品種などを広く探索・収集しており,集めたものは長期間保存可能なよ うに低温貯蔵されている 戻る

[品種]

☆生物分類学と品種  種が生物分類の基本単位で,種の学名は属(Genus)と種(species)名の二名法 で表記する.イネは単子葉類下綱穎花類イネ目イネ科イネ(Oryza)属に属し, Oryza sativa L.と記す.属名は大文字で始め,L.は命名者(この場合はLinneの略) で,属名と種名はイタリック表記とする.日本型イネとインド型イネは亜種 (subspecies)として区別され,区別して表記するときは,前者が O.sativa L. subsp. japonica,後者が O.sativa L. subsp. indica である.亜種名もイタリック 表記する.変種(variety)は種の下におかれた階級で,基本種と形質が 学術的な目的に用いられる生物の名称.リンネによる分類を基本としている.先取権を原則 とし,学名を使用することで種を記載する際の安定性や混乱防止を主目的としている.植物 では1930年にその基礎ができた国際植物命名規約に基づいている. 農業的な品種は内容的には変種と同じであるが,分類学では 種分化の見地から変異をとらえるのに対し,作物学では種分化より,むしろ実用性で 品種を位置づけるので,品種の違いを同一種内での変種としては扱わない. ☆品種の定義  同一作物に属すが遺伝的構成が異なり,ある形質,特に農業上重要な形質において他と異な る集団を品種(variety,またはcultivar)という.従って品種と認められるためには,識別性, つまりなんらかの特徴的な形質を有した集団で,その集団内の個体は相互に十分類似しており, 集団として他と明確に区別できること,および永続性,つまりその集団の特性が通常の繁殖法 で維持できることが必要である. ☆品種の分化  農業の誕生以来,作物はその起源の地から人類とともに環境条件の異なる場所へと移動して いったが,新しい環境に適する生態型も同時に分化していった.その分化には当初自然淘汰が 主に働いたのであろうが,よりよいものを得ようとして意識的,または無意識的な選抜も同時 に行われたはずである.このような長年にわたる淘汰や選抜の結果によって初期の品種が分化 した.以後も経験に則った選抜が繰り返され,近代科学の誕生以前に今日の品種の基となる多 くの品種ができていた.日本のイネでは篤農家が雑ぱくな集団から優良個体を積極的に選抜し た結果,江戸時代既に各地域の土壌や気象条件に適した多くの品種があり,また各々の品種に 適した栽培法が工夫されていた.明治以降,科学的かつ組織的な方法により品種改良が進んだ. 戻る ☆品種と系統  品種改良では数多くの系統(line,strain)を検定して選抜し,各種の評価に最終的に合 格したものが新品種となる.系統は実験中のもの,品種は何らかの公的な認定を得た系統, あるいは実質的にかなりの規模で栽培がなされているものである.なお品種の条件の一つで ある「特徴的な形質」を「有用形質」とし,品種たるには単に特徴的な形質を持つのみでは 充分でなく,農業上のなんらかの有用形質を持つことが必要であるとする場合もある.  なお一般的な品種の定義は「同一作物に属すが遺伝的構成が異なり,ある形質において他 と異なる集団」であるので,系統も品種の定義に含まれ,育種用語以外では両者を特に区分 して表記する必要はなく,通常は系統も品種と称してよい(しいて両者を言えば遺伝子型). ☆家系分析 Pedigree analysis  育成品種の家系を解析してそれらがどのような遺伝子源で構成されているのか,あるいは品 種の家系とその品種の性能(収量・品質など)とにどのような関係があるのかといった問題を分 析し,将来の育種計画策定の参考にすること.ただしこの場合,単純な遺伝をする耐病性などの 形質についてでなく,主に収量や品質などの量的な形質について扱う. ☆耐病性品種について  作物は多くの種類の病気にかかるが,病害に対する抵抗性の品種間差も大きく,極めて抵抗 性の強い(免疫性)品種もある.しかし耐病性品種が広範囲に栽培されると数年後に罹病する ようになり,そのため常に新しい品種と交替し続けなければならないことがある.イネのいも ち病,コムギのさび病にその典型がみられる.これは病原の系統(レース)が変化して,それ まで抵抗性だった品種を侵すようになるからである.対応策として異なるレースごとの抵抗性 品種を作り(抵抗性以外の形質は同じにしておく),それらを混合した多系品種が試みられて いる.これは多系品種を栽培して均一な遺伝的組成にならないようにし,変化したレースの急 速な増殖を防ぐことを目的としている.また罹病しても病状があまり進行せず収量には大きな 影響がないものを耐性,または圃場抵抗性といい,この抵抗性は多数の遺伝子によって支配さ れているので永続性が高い. ☆耐虫性品種について  作物は虫害への抵抗性の品種間差もある.イネでメイチュウ,ウンカ類,ヨコバイ類,ダイ ズでカメムシ類,ムギ類でヘシアン蝿やアブラムシ類など重要な害虫への抵抗性品種があり, 農薬散布を減少させるため耐虫性品種の育成が試みられている.病害同様新しい害虫のバイオ タイプの出現により,抵抗性品種だったものが感受性となる問題をかかえている. 戻る ☆品種の環境適応性 adaptability  ある作物を栽培するとき良好な条件下ではもちろん,少々不良な環境でも多収を得られるこ とが望ましい.このように幅広い環境条件下で安定収量となる品種を適応性が高い品種,ある いは広域適応性品種といい,日本で広く栽培されているコムギの農林61号やジャガイモの農林 1号,および世界中に広く栽培され緑の革命の原動力となった半矮性コムギがよい例である. 広域適応性は各種の病害虫への抵抗性,気象や土壌条件の変動に対する耐性などを複合した形 質である.適応性には品種間差があるので品種改良上の重要な目標である.そのため,選抜さ れてきた品種の最終段階の評価として多くの条件(異なる施肥量,裁植密度,作期,場所,年 次など)での収量試験を行い,安定多収をあげるかの検定をする.コシヒカリは,収量性はさ ておくとしても,食味に関する広域適応性を持つ品種といえよう. ☆品種と環境の交互作用 genotype-environment interaction  環境が異なると品種により反応が違ってくること.例えば,多肥でA,B両品種ともに同じ だけ増収するとは限らず,Aは施肥反応が良いが,Bは多肥でも収量があまり増加しない場合. 環境条件を変えて品種比較試験を行うということは品種と環境の交互作用を検定していること である.場所と品種,年次と品種の交互作用は通常大きい.このことは,育成した品種が基準 品種よりも育種試験地では多収であっても,異なる場所,年次ではそうでもない場合があるこ とを意味しているので,安定多収品種の選抜には数カ所での収量試験を数年にわたって行う必 要がある.統計的には環境1での品種間差と環境2での品種間差が異なる(差の差がある)こと で,反復付きの品種と環境の2元配置データを分散分析し,その交互作用項の有意性として検 出される. ☆品種選定について配慮する条件  気候風土に適した栽培しやすいもの,病虫害抵抗性をもち(稲;ウンカ類,麦;赤かび病) できるだけ農薬使用を少なくできる安全性をもって栽培できること,気象災害に耐える(稲; 台風=倒伏抵抗,麦;湿害),高品質(稲;食味,貯蔵性良,麦;製粉,製麺適性の優れるも の)で付加価値が高く(麦;新規用途の可能性のあるもの)市場価格が高いもの,など.多収 も大切である.さらに稲では直播適性を有するなど,当面の満足だけでない要素も加味する必 要がある. ☆奨励品種 recommended variety  都道府県が管内の栽培に適すと公的に認めた優良品種(主に稲麦大豆について).そのため, 奨励品種決定のための調査が主に農業試験場で行われる.現地試験も行う.奨励品種の原種維持 や採種圃場の審査も公的機関でなされる.この制度の元に多くの優良品種の普及が計られ,わが 国主要作物での生産性や品質向上に多くの寄与をした.主要農作物種子法を法的な根拠とする. 戻る ☆原種圃,採種圃の管理  原種(育成品種の特性を失わないよう維持され,種子増殖の元になる種子)圃(その圃場. 普通は試験場)や採種圃(純正で,その特性がきちんと維持された品種を一般農家に配布する ために増殖する圃場.圃場や採種された種子は公的機関の検査を受ける)では,異品種の混入 や種子伝染性病害を防止し,発芽力の高い健全な種子生産が必要である.そのため,病害虫防 除を特に念入りに行う,倒伏防止のため施肥を控える,異品種を隣接しない(花粉よけ),前 作を同一品種にするか休閑後とする(前作種子防止),1本植えとし,異株は開花前に除去す る,収穫機に異品種が残ってないよう,きれいにする等が必要である. ☆種子用の乾燥貯蔵法  稲では,子実水分25%以下で収穫し,水分20%までは40度以下,20%以下は45度以下で通風乾 燥する.麦では,子実水分35%以下で収穫し,水分35%までは40度以下,35%以下は45度以下で 乾燥する.コンバイン収穫では回転数を通常よりおとす.貯蔵は,水分10%程度で健全な種子を 5℃湿度50%の部屋ですると,10年後でも発芽率は低下しない.  大豆では,小規模なら莢のまま30度以下の通風で子実水分13%以下にしてから脱粒する.コンバ インなら,できれば莢水分40%以下,子実水分18%以下になってから収穫し,子実水分18%以下で は30度以下,18%以上では25度以下で徐々に乾燥する.湿度50%以下で温度25度以下の部屋で貯蔵 すると1年間発芽力は保たれるが,高温多湿だと発芽力は急速に低下する.長期間貯蔵には,子実水 分10%以下,温度10度以下で湿度50%以下の部屋又は気密容器とする.  休眠打破は稲では予熱50℃7日以内,麦では30〜35℃7日以内またはジベレリン0.05%浸漬など. ☆種子更新の必要性  品種固有の特性をもったものの確保,異品種混入防止,種子伝染性病害防止,高い発芽能力 のものの確保など. ☆遺伝的ぜい弱性 genetic vulnerability  品種の画一化のため,病虫害や気象条件などでの悪条件への耐性がなくなること.例;米国 でF1採種のため同一のT型細胞質雄性不稔をトウモロコシで広範囲に利用していたのが,ご ま葉枯れ病が大発生し大被害を受けた.コシヒカリ及びその近縁品種が増加していることで, わが国稲作でも同様な危惧が指摘されている.平成10年産米の全国作付け面積の33.6 %がコシヒカリである.2位以下の品種もコシヒカリと近縁のものが多く,それらの品種のコ シヒカリとの近縁度を考慮すると,全作付けの約60%がコシヒカリの遺伝的構成を持つ品種 で占められているといえる. ☆種苗法  新品種育成の振興を図るため,植物の育種者の権利保護を目的とする法律.一定期間育成 者に一定の独占的な地位を付与(種苗の販売権の独占)する.UPOV条約(植物新品種保 護国際条約)に基づき設けられており,植物品種の国際的な流通の促進に寄与するものとな っている.  登録の要件は,  a 重要な形質に係る特性によって,既存の品種と区別できること(区別性).  b 同一の世代において,その特性が十分な均一性を保持していること(均一性).  c 繰り返し増殖させた後においても,特性が安定していること(安定性). 戻る ☆新品種の育成や普及  日本では農作物,特にイネやムギ類などの主要な作物の品種改良は国や県などの公的機関 で古くから行われてきた.最近は民間も積極的に参入している.園芸作物は民間での品種改 良が盛んである.品種育成者の権利を守るために種苗法による登録制度がある.また優良種 子の生産や普及を促進するため主要農作物種子法(ここでいう主要農作物とはイネ,コムギ, オオムギ,ダイズ)が制定されており,都道府県の農業試験場などが管内に適する優良品種 の選定(奨励品種決定調査,現地試験)および優良種子の生産(原々種や原種の生産,採種 圃場の審査)を行っている.新品種の農家への導入や栽培方法の指導は各地域の農業改良普 及センターの農業改良普及員,農協の営農指導員などが行っている. 戻る ☆半数体 haploid 染色体数が半数である細胞または個体.半数体個体は単為生殖,人為的な処理をした花粉による 受粉,多胚現象などで発生する.いくつかの作物で,若い花粉を含む葯の培養や,ある種の植物 の花粉で交配するとその染色体のみが脱落する現象を利用した手法などにより半数体が作成され ている.半数体の染色体を倍加すると,自殖をくり返すことなしに固定系統(純系)がただちに 得られる. ☆半わい(矮)性品種 semidwarf variety 主にイネやむぎ類で,稈長が70〜90cm程度の品種.今日の普及品種のほとんどはそうである. 旧来の品種は稈長が1m以上,時には1.5mにもなる品種が多かったが,稈長を短くする遺伝子, 例えばイネの十石,コムギの農林10号,オオムギの渦性品種の持つ主動遺伝子の導入,あるい はいくつかの短稈遺伝子の集積により稈を短くした.耐倒伏性の付与が主目的である.稈は短くし たが穂長は短くせずに多収をあげる育種がなされた.

[圃場試験,統計解析]

☆統計的方法 統計学に基づく,データの取り方,とりまとめ,解釈にかかわる手法.ある処理の効果の有無 について,結果の値を平均値のみから感覚的に判定するのでなく,より根拠のある判定をする 方法(t検定,F検定など)がその例である.さらに,変数間の関連性の数値化(相関分析)や その値の有意性,データが多くの変数を扱って結果が複雑なものをより分かりやすくする手法 (多変量解析)などがある. ☆生産力検定試験(圃場試験)を行うにあたっての注意点  実際の農家圃場に近い生産力があり,土壌が均一であること.普及対照地域の土壌,気象条 件に近い場所を選ぶ.検定品種間の競合を避ける.反復を行い統計処理を行う.特殊な病虫害 のないこと.なお麦は,排水の良好な圃場を選ぶことが必須であり,さらに水稲に比べると試 験区間のばらつきが大きいので反復数を増やすなどの処置が必要である. ☆試験区の大きさ,反復  1区の大きさは通常4〜7条に条播(移植)し,周辺効果を少なくするため両側1条ずつを成 熟後除き内側の列を収穫する.条間は30〜50cmとする.条長は6m位とし,収穫時に両端30cm ずつを除いて内側のみを収穫する.条内に播種むらのないようにする.  収量の品種間差の検定をする際は,「時間やコストを考慮すると,3反復,3年間,6ヵ所の 試験が最も利点がある」(Rasmussonら1961.米国の大麦の例)とされる. ☆現地試験法  奨励品種決定調査事業の現地試験の場合,普通1区の広さが20〜300u,2区制で供試品種 数は3〜5である.農道や畦畔に近い部分は地力が不均一であったり,湿害を受けやすいので避 ける.農業試験場内での試験よりも誤差が大きくなりがちであることに留意し,排水対策,除草, 鳥虫害防除などを万全にする.試験区の周り広範囲に供試品種(品種比較試験では比較品種)と 同じ品種が栽培されている圃場を選び,これらの管理作業が隣接圃場と同時に行われるようにす る.必ず反復を設ける. ☆多数品種の比較    育種の初期世代での系統選抜にあたる.通常反復はとれず、多数(数百以上)の系統を極小規 模に播種する.反復がとれないので標準品種を10品種位ごとに入れ,標準品種との比較検討を する.できるだけ成熟期や草高のそろったものをひとまとめにする.収量の品種間差を検出する のは困難で,環境による影響の受けにくい,出穂期,稈長,少数遺伝子支配による耐病虫性など の品種間差を主にみる.耐倒伏性,穂発芽性,品質などの予備的な検定も可能である. ☆施肥法などの試験   同一品種で施肥量,播種量などの処理間の比較をするとき,多肥,密播で倒伏が予想されると きは隣の試験区に影響を与えないように番外をとるなどする.品種,施肥量,播種量,播種時期, 播種様式などの処理を含めた多因子実験は,通常満足な結果が得られないことが多い.さらに, たとえ高次の交互作用が有意に検出されてもその解釈がしにくい.よって,3因子以上の実験は, 各因子の水準数が極少ない場合を除いて通常避けたほうがよい.因子,水準数をしぼり,そのぶ ん反復数,試験年次,あるいは試験場所を増やして実施したほうが得られる情報量が多い.  播種様式を問題とするとき以外,播種は条播にする.十分な反復数,試験場所数,供試年数を とる.試験区の配置は分割試験区法をとり,主試験区を播種様式や播種期,副試験区を品種,施 肥量,播種量,などの処理にするのが作業上能率的である. 戻る ☆任意配列ブロック法(乱塊法) randamized block design  いくつかのブロックに区切り,各ブロック内では同数の処理をランダムに割り当てる試験法. ☆分割区試験法 split-plot design  2要因以上の処理を同時に比較するとき,処理の都合や重要度のために処理を主要因と副要 因にわけて行う試験法.まず主要因(例;灌水の有無)を大試験区に配置し,副要因(例;品 種)を大試験区内に小試験区として割付る. ☆多重検定 multiple comparison  3つ以上の処理(例;数品種の比較.施肥水準を変えた試験)を行ってその結果を比較したと き,処理間に差があるかは分散分析による.その結果処理間差に有意性が検出されと,次はどの 処理平均値の間に有意差があるかが問題となる.この処理平均値相互間の有意性を検定すること. ダンカンの方法がよく用いられるが,これは有意差が“あまく”でるとして,その改良法もある.  記載方法は,平均値の大きさ順に並べて(平均値1>・・>平均値5とする),平均値1〜3, 2〜4,4〜5の間には有意差がない(平均値1〜3と平均値4,5に有意差あり)とすると, 下図左の「縦線間には差がない」でも良いが,下図中のように「同一記号の付いた平均値間には 差がない」とすれば,下図右の大きさ順でない場合の注記ができ,複数形質について注記できる. -----------------------------------------------------------------    出穂  稈長  収量 ----------------------------------------------------------------- 平均値1 | a 品種1 a   a c 平均値2 | | a b 品種2 ab  bc b 平均値3 | | a b 品種3 ab   a ab 平均値4 | |   b c 品種4 bc  b a 平均値5 | c 品種5   c  bc a ----------------------------------------------------------------- ☆最小有意差 LSD  √2×t値(分散分析での誤差の自由度)×√(同平均平方/平均値を構成する測定値の数)で, t検定での有意な差の限界値に一致する.多重検定で,平均値の隣り同士を比較するときの基準 値でもある.多重検定でLSDを全部の比較の基準値とすると,非常に“あまい”結果となる. 3つ以上離れた値のとき(上記例の平均値1と3,2と4などの比較)はLSDに,あるファク ターを乗じた値を用いるべきで,それがダンカンなどの方法である. ☆t検定  2群の平均値間差の有意性検定方法.2群が対になっている場合,対にはなってなく,群内個 体数が同じ場合,同異なる場合,とあり,(平均値の差/平均値の標準偏差)の値をt表と比較 して検定する. 戻る ☆相関係数(r) correlation coefficient  2形質の内の片方が増加するともう片方も増加するといった,2形質の関連程度を表す値. −1〜1の値をとり絶対値が1に近いほど密接な関係である.0は無関係,−は逆の関係となる. 5%有意水準は,自由度(対の数−2)が8のときは|r|>0.632,18では|r|>0.444で, データ数が少ないと有意性が得られにくい.一方自由度100では|r|>0.195でも5%水準の 有意性を持ち,自由度が大きいと非常に小さなr値でも高度に(例えば0.1%水準)有意となる. なお,高度に有意と,非常に密接な関係がある,とは異なることに留意する.高度に有意(相関 のあることが極めて確かなこと)でも密接な関係ではないことがある. ☆偏相関 partial correlation coefficient  3変数があり,内1つの影響を消去した(その変数が一定に保たれているときの)残り2つの 間の相関.第一・二間の相関係数をr12,第一・三間をr13,第二・三間をr23,第三を消 去した第一・二間の偏相関係数をr12.3とすると, r12.3=(r12−r13 r23)/√[(1−r132)(1−r232)] である.自由度を(対の数−3)として通常の相関での表を用いて有意性検定を行う. ☆別頁に  生物統計学一般と演習問題   作物の生育調査法の実際  戻る

[育種]

☆メンデルの法則  1865年に発表,1900年に再発見された.対立する形質を支配する粒子的な因子(遺伝子)が あり,分離,独立,優劣の法則があるとした.今日の交配育種の理論的基礎となっている. 分離の法則;対立形質を支配する1対の対立遺伝子が,F1(雑種第一代)個体で融合すること なく,配偶子(卵細胞と精細胞)形成時に互いに分かれて別々の細胞に入ること. 独立の法則;2対以上の対立遺伝子が配偶子に入るとき,互いに独立に組合わさり(連鎖があ るときこれは成立しない),さらに雄性と雌性配偶子はその遺伝子型に関係なく受精すること. 優劣の法則;F1での対立遺伝子発現には強弱があり,極端な場合は対立形質のうち一つだけ が現れる(その形質を優性,隠された形質を劣性という)こと. ☆生殖様式の違いと育種法との関係  自殖作物では,交雑後,良形質を持った系統の選抜と固定(純系の欄参照)をはかっていく. 他殖作物では,近交弱勢を防ぐためヘテロ性を保ったままでの集団選抜によるか,合成品種か 一代雑種育種をとる.栄養繁殖作物では突然変異か,交配可能なものは交配実生からの選抜による. ☆自家受粉作物 self-pollinated crops  自家受粉作物(自殖性作物)とは,両性花をもち,同じ個体の雌ずいと雄ずいの間での受精 がもっぱら行われるものを指す.イネやコムギでの自家受粉の率は,風などにも左右されるが 通常99.9%以上と高い.しかし採種圃場では0.1%でも異品種との受粉が起きると品種の純度 が問題となるので,同一品種を広い面積に栽培して異品種との交雑を防ぐ. ☆純系 pure line  自家受粉作物で,すべての対立遺伝子が同型接合(ホモ,あるいは固定の状態)になってい る個体.異なる遺伝子型間の交配や突然変異により異型(ヘテロ)接合体ができても,自家受 粉を繰り返すたびに任意の遺伝子座で異型接合は半減し,最終的には純系が得られる.純系で あれば,この個体を自家受粉して増殖した後代の遺伝子型はすべて親と同じで固定している. 自殖を10回程度繰り返すとほぼ純系が得られる.または葯培養などで得られた半数体の染色体 をコルヒチンなどで倍加すると得られる. 戻る ☆純系淘汰(育種) pure line selection  純系の集まりだが遺伝的には雑駁な集団から有望個体を選抜し,それらの系統比較により優良 品種を選抜する育種法.交配育種法以前の主要な育種方法であった. この図(19KB)で.初年目は雑ぱくな原集団から個体別に採種する.2年目は1個体由来の系統を 比較し,優良系統を選抜する.選抜した系統を混合して採種し,3年目以降にその種子を増殖する. 純系淘汰法  改良品種が導入される以前の昔の自殖性作物では,ある程度の均一性は保たれていたであろうが, 遺伝子型の異なる多くの純系からなっていたと考えられる.このような集団から有望個体を選抜し, それを増殖して優良品種を育成する育種法が純系淘汰法である.交配育種法以前の主要な育種方法で, 単純ではあるが,この方法で多くの優れた品種が育成された.それらは今日の品種の遺伝子源となっ ている.実際の操作では,個体単位の評価では信頼性が高くないので,有望と思われる個体をいくつ かを選び,個体由来の系統間の比較を数年繰り返し,有望系統を選抜する.系統は固定しており, 系統を混合して採種しても翌年分離はない ☆系統育種法 pedigree selection  系統と個体の選抜をF2世代から行う.F2世代で,100〜200個体程度を選抜し,F3世代で,列を系 統として系統の選抜と,各系統10程度の個体選抜を行う.F4世代での選抜は,F2の1個体起源の系統群, 群内系統,系統内個体について行う.原則として1群からは1系統をとるが,2つ以上をとることもある. 初期世代から系統を作り,未固定でも強力な選抜を行う点が本育種法の特徴である. この図(25KB)ではF4から選抜を行っている.赤;優性ホモ,灰;劣性ホモ,青;ヘテロ個体.  集団育種法では,系統の固定化を計り,試験用の種子を採るため収量試験と併行して系統育種を行う. 個体間の識別を容易に行うために点播で栽培し,平均的な数個体を個体別に採種する.F5世代で, 前年の1個体を1列に点播栽培し,分離していない,平均的な列を1つ選抜し,その中から数個体を採種する. F6世代以降も同様な選抜と採種を繰り返す.図でわかるように,優性形質ではヘテロ個体は表現型から はわからないが,次世代では劣性ホモ個体が分離すれば容易にわかる.次世代でも劣性ホモ個体が出現 しない可能性はあるが(図の左から2番目の列),ここに示した操作を繰り返して行えば固定系統が通 常は得られる.次世代での各種試験用の種子は,選抜個体の残りの種子を用いる. ☆他家受粉作物 cross-pollinated crops  他家受粉作物(他殖性作物)とは,異なる個体間での受精がもっぱら行われるものを指す. 雌ずいか雄ずいの一方のみを有する単性花で,雌花,雄花が別株(雌雄異株,アスパラガス, ホップなど)のときはもちろん他家受粉となる.同一個体に雄花と雌花を持つ雌雄同株(トウ モロコシ,カボチャなど)では自家受粉も可能だが他家受粉が普通で,トウモロコシの自家受 粉は通常5%程度である.両性花でも同一花または同一株での雌雄ずい間では受精しない自家 不和合性(クローバー,テンサイなど),雌ずい先熟(トウジンビエなど)などによっても他 家受粉となる. 戻る ☆栄養繁殖作物 asexually propagated crops  栄養繁殖作物とは,有性生殖を経る種子による繁殖でなく,栄養系(クローン)によって繁 殖する作物のことである.塊根,塊茎,匍匐枝(多くの牧草類),茎(サトウキビ)などで繁殖 する.倍数体である場合が多く,一般に多収で,不良環境にもよく耐える(サツマイモ).  育種は突然変異か,交配可能なものは交配実生からの選抜による.通常異型接合であるが, 無性繁殖であるので子孫はすべて同一の遺伝子型であり,集団としては斉一である.  開花,交配,採種の困難な場合が多いが(カンショの花と種子 =>), 交配して得た種子由来の実生を増殖,評価するだけであり,分離はなく,育種方法は他の作物に 比べると単純である.  反面,組合せ能力の検定が重要であり,通常,予備的に組合せ能力の検定を行い,能力の高い 組合せのみについて大規模な交配を行う(=>).  稲麦などと同様,いも収量などよりも耐病性などの年次間相関が高い(=>)ので, 耐病性などで初期に選抜を行い,収量の選抜は,栄養系を増殖して,反復を設けて育成後期に行う.  近交弱勢がおきやすく,近交係数(近親交配の程度)とカンショいも収量の関係(=>)をみると, 多収のためには近交係数を0.1以内におさえる必要があり,0.2を超えると大幅に低収となる. また,実際の育成系統の近交係数をみると,殆どが0.1以下となっている(=>). ☆雑種強勢(F1育種) Hybrid vigor, heterosis  他家受粉作物は近親交配で自殖弱勢が通常おきる.しかし自家受粉やきょうだい交配を繰り 返した育種材料(近交系)を作り,近交系同士の交配をすると,組合せが適切である場合(組 合せ能力検定を行う)その雑種第1代(F1)の生育はきわめて旺盛となる.これを雑種強勢と いう.雑種強勢(ハイブリッドまたはF1)育種法により他家受粉作物の品種改良は非常に進ん だ.米国では1940年代からトウモロコシに応用し収量が飛躍的に上昇した.成功の理由は,採 種量が多く,多収で広い環境に適するF1を生み出す優れた近交系(両親)が育成されたことで ある.ソルガムなど他多くの作物にも応用されている.イネなどの自家受粉作物でも,花粉親で の花粉の良く散る特性と,種子親での雄性不稔遺伝子と細胞質稔性回復遺伝子を組合せた品種の 開発が試みられている.  雑種強勢がなぜ生じるかについては,優良形質は優性遺伝子によっており,F1にそれらの 優性遺伝子が集積されるとする説と,異型接合性は同型接合性より生育が優るとする両説あ るが,どちらも決定的な説明とはなっていない.トウジンビエの発現例(重宗,未発表). ☆組合せ能力 combining ability  ある品種が他の品種との組み合わせで優れたF1をだす場合,その品種は組み合わせ能力 が高いという.一般組み合わせ能力の高い品種とは平均的に多収を生み出す品種,特定組み 合わせ能力とは特定の組合せでよい場合である.相互交配(ダイアレル交配)をして一般, 特定組合せ能力の大きさを推定する. ☆突然変異育種 mutation breeding  遺伝子はその性質を突然変化することがあり,それを利用する育種法.自然突然変異によ る育成品種もあるが,自然突然変異の発生する頻度は低い(一遺伝子一世代当たり10-6) ので,人為的にその頻度を高めるため放射線照射などによって発生率を高める.この育種法 では,1.いままでにない新しい遺伝子をつくり出す可能性がある,2.優良品種の多くの形質 をそのまま生かして,一部の特性だけをかえることができる,3.栄養繁殖性作物では枝変り などの変異が生じやすい,といった利点がある.短稈,早生,耐倒伏性,花の色・形,多収 性などが改良された.イネでは耐倒伏性多収性の品種レイメイ,フジミノリが育成された. 変異系統を中間母本として利用することもある. 戻る ☆半数体(育種法) haploid breeding  半数体とは体細胞の染色体数の半分を持つもの.稲,大麦の体細胞は同一ゲノム(ゲノム ;生存するのに必要な最小数の染色体の1組み)を2組み持つ(二倍体).配偶子(花粉, 卵)の染色体数は半数であり,花粉を含んだ葯などを適切な培地上で培養すると不定胚ある いはカルスを形成し,さらに不定胚形成あるいはカルス経由から半数体植物を分化させるこ とができる.半数体植物をコルヒチン処理すると遺伝的にホモ(固定化したもの.自殖後代 で分離しないもの)となった二倍体植物を短期間に(自殖を繰り返すことなく)つくること ができ,育種年限を短縮できる.イネやタバコ育種で実用化され新品穂が育成されている. 一方通常育種のように多数個体の集団を養成できないので,望まし組み換え個体(両親の長 所をもったもの)を得る確率が低くなる,施設,熟練を要する欠点がある. 葯培養の写真;水稲葯からのカルス分化(15KB.byDr.Oosato), ソルガム半数体の染色体(n=10)(byDr.Can)とミシマサイコ再分化個体(byDr.Shon) (5KB) ☆細胞質雄性不稔 cytoplasmic male sterility  雌雄ずいの内の雄ずいが機能不全になって生じる不稔が雄性不稔である.花粉や,葯全体 が未発達になる.これは環境条件でも生じるが,遺伝的に細胞質中の遺伝子によって起きる 雄性不稔を細胞質雄性不稔という.細胞質中にあるので,その不稔遺伝子は種子親(母方) のみを通して伝達される.これを持つ種子親に稔性回復遺伝子を持つ花粉親(父方)を隣接 栽培することで除雄する手間なしに異なる2品種間の交配種子が大量に得られるので,雑種 強勢を利用するハイブリッド育種の採種に用いられる.核遺伝子による不稔に比べ,不稔親 の維持が簡単である. ☆集団選抜 mass selection  表現型により個体選抜し,その選抜個体の種子を混合して次代を育て,次の選抜を行うとい うサイクルを繰り返す育種法.実際場面では,F2からF4〜F6世代までを全く無選抜とし(通常, 世代促進をする),ある程度固定化の進んだ後に始めて個体選抜を行う.初期世代で,組換え により希望遺伝子型の頻度を増やすことも目的とする.  特に,各世代の個体から1粒のみを採って次世代を育てる方法を単粒法(Single Seed Descentの頭文字をとりSSD法)といい,集団の意図しない歪みを防ぐために行われる. 単粒法では,F2で200粒程度を採種し,以後の世代でこの規模を保つ. トウジンビエ出穂期の集団選抜(19KB.吉田・角田1996). ☆循環選抜 recurrent selection  量的な形質に関する遺伝子の集団内での頻度を高めるため,選抜と交配をシステマチックに 繰り返す育種法.主に他殖作物に用いられるが,自殖作物にも応用されることがある. ☆合成品種 synthetic variety  他殖作物で,いくつか(10〜多いときは50)の品種(自然受粉品種,近交系,F1,クローン) を混合して交配,採種したもの(数世代増殖させることもある).多収を示す組合せを親に選ぶ. 近交系の作成をすることなく,簡単に雑種強勢を利用をする方法である.牧草でよく利用される. 戻る ☆自然(放任,開放)受粉品種 open-pollinated variety  他殖作物で,自然に(人為的な制限なしに)受粉し,採種されている品種.例:F1導入以前の 昔のトウモロコシ品種.品種の維持はときに困難なことがあり,特性が変化することがある. ☆戻し交配(交雑)(backcross)育種  ある品種(反復親という)の特定形質の改良のため,反復親/その特定遺伝子を持つ品種(非 反復親,供与親)の交配を行い,目的形質を持つ後代にさらに反復親を交配する操作を繰り返 す育種方法.反復親の全体的な形質は保ったまま,特定形質のみ改良することを目的とする. 選抜が困難なとき,選抜を毎回は行わず,無選抜で交配を何回か繰り返し(F1へ交配することも ある),その後に選抜することもある.なお交配と交雑は共にcrossで意味の差はない.  遺伝学実験ではF1に劣性ホモを交配すること.但し,育種ではF1(又はF2以降)に反復親を 交配することのみでも戻し交配という. ☆遺伝子型 genotype  1.表現型phenotypeの対語.生物の遺伝子構成.2.遺伝的構成が同一のものの一群.「品種」 +「系統」は「遺伝子型」と表記できる. ☆世代促進(育種年限の短縮) shortening of breeding cycle  自殖作物の初期世代での固定化を促進するため交配後の後代を年に数世代(2〜3世代)育て ること.温室などを用いる.世代をおくるためだけなので数粒ずつ全個体から採種できればよい. その間に耐病性などの検定を行うこともある.育種年限の短縮には,ある程度固定した後期世代 で,農業形質の評価を緯度や標高を変えて年2回行うこともなされる.愛知農試育成の水稲品種 日本晴がわが国での代表例で交配の6年後に育成(奨励品種に決定)された(その7年後には全 国で21万ha作付).福岡農試育成の夢つくしは交配の5年後に種苗法による品種登録,6年後に 奨励品種に採用された(交配の11年後に県内で1万ha作付).夢つくしでは現地試験などに複数 の新品種候補系統を同時に供試したことが期間短縮に大きい. ☆人工交配法  自殖作物では,除雄(麦では開花直前に頴上部をハサミで切り,ピンセットで葯を除く. 水稲では43度温湯処理7分)し,もう片親の花粉をかける(花粉が散ることを確認).開花期 調整のため播種期を何回か変える.大麦では除雄後2-3日交配可能.開花の最盛時間に行う. 頴の切断上部で成熟葯を壊して花粉を散らすとほぼ100%OK.無風下で穂の上から花粉を散ら す,又は両親を隣接させ(花粉親を上)て袋中に入れ放置しても率は下がるがOK.自殖に注意. ビール麦の実例(左から除雄,交配,実った交配粒.11KB.古庄氏提供).  大豆では,翌日開花予定の花を選ぶ.1葉腋から出た花は2つまでとし自殖したのと未成熟 花(特に托葉下に隠れたの)を全て除く.がく片,次に花冠をピンセットで取り除き柱頭を露 出し葯を除く(除雄しなくとも可との意見もあり).その当日に受粉可能.成功率に大差. 戻る

[遺伝]

☆ゲノム解析 genome analysis 生物のゲノム(染色体のひとかたまりの単位,あるいは遺伝子の全体)構成を明らかにす ること.例;コムギで木原らは,コムギのゲノムがAABBDDからなることを見つけた. これは,1セット7本の染色体が安定しており,一粒コムギのゲノムAA,にクサビコムギ のBBゲノムが合わさって4倍体コムギ(マカロニコムギなど)ができ,それに,タルホタ ルホコムギのDDゲノムが自然交配され今日の普通(パン)コムギができたとした.これら の品種間で交配すると,各ゲノム同士で染色体が対合することから類推した.  最近では,ある特定生物(ヒトや稲)での全遺伝子のDNA塩基配列を明らかにする意味 にも使われている. ☆プロトプラスト protoplast 原形質体  細胞壁を除いた細胞のこと.細胞融合や,遺伝子導入のために作る.細胞組織にセルラー セを働かせて作る. ☆(自家)不和合性 self-incompatibility  雌雄蕊ともに完全で生殖能力をもつが,自家または特定系統(品種)間の受粉によって種子 を生じない現象.自家受粉による不和合性を自家不和合性,特定の交雑組合せでみられるもの を交雑不和合性という.牧草類などにみられる.花粉が柱頭上で全く発芽しない,発芽しても 花粉管が柱頭組織内に侵入しない,花粉管は柱頭組織に侵入するが伸長が不良,の場合がある. 不和合遺伝子によるが,配偶子の遺伝組成で決まる場合と,植物体の遺伝組成による場合とが ある. 戻る ☆遺伝子組換え植物 transgenic plant  外来遺伝子を宿主細胞に移入し,宿主細胞の遺伝子とのあいだで組換えをおこさせ,宿主細 胞内で増殖させて目的の形質をあらわすようにした植物.宿主細胞が導入された外来遺伝子の 形質をあらわすことを形質転換,形質転換した生物を形質転換体という.希望する遺伝子だけ を導入できる,植物だけでなく微生物や動物の遺伝子も導入できるなどの従来の育種法にない 利点がある.  目的とするDNAを制限酵素で切り出し,つぎに,切り出したDNA断片をプラスミド(細 胞内で自己増殖できる核外遺伝因子.ベクター)にDNA連結酵素でつなぎあわせて組換え プラスミドDNAをつくり,これを宿主細胞にもどす.現在,高等植物を対象としたベクタ ーとしては,土じょう細菌アグロバクテリウムがもつプラスミドがあり,このようなバク テリアを用いて感染させることにより,遺伝子が導入される.  他に,遺伝子の導入法には,高周波の電気パルスをあたえ,細胞膜に瞬間的に穴をあけ, プラスミドDNAを導入するエレクトロポレーション法や,レーザー法,マイクロインジェ クション法などがある.耐病性,耐虫性,除草剤耐性などの実用性の高い形質転換体が各 種作物で得られている. ☆遺伝子組み換え食品  外来遺伝子導入などの遺伝子組み換え技術を応用してつくられた食品.厚生省は3つのグ ループに分類し安全性評価を策定する.第1番目はチーズ製造用酵素のように組み換え体を 直接は食べない場合,第2番目はダイズのような種子植物について組み換え体を食する場合 で組み換えダイズやナタネを原料とする油脂を使った食品などが登場するかもしれない.第 3は,それ以外の場合である.どの場合であっても,組み換え技術によって付与した特性以 外は,従来の食品と同等の性質をもつことが条件である.アメリカではすでに組み換え酵素 でつくられたチーズや,日持ちのよいトマト「フレーバー・セーバー」が販売されている. 日本でもアレルギー患者用の低アレルゲン米,特定の除草剤への耐性を付与したダイズなど について,実用化に向けた研究が進められている. ☆突然変異体mutant 突然変異遺伝子を保有する細胞または生物.あるいは突然変異を起こした遺伝子.突然変異と は,生物の遺伝物質の構造または量の変化.あるいは構造変化を起こした遺伝子または染色体. ほとんどの突然変異は有害であるが,進化は少数の有利な突然変異により進行する.農業上有 益な突然変異(早生,短稈など)が起きることもある. ☆トランスポゾン 転移性遺伝因子 プラスミドまたは細胞の染色体にランダムに挿入されるDNA断片.DNA上のある部位から他の 部位へ移転可能である.トランスポゾンも宿主細胞に新しい形質を与える遺伝子を運搬する. この存在はトウモロコシでMcclintockにより示された. ☆分子マーカー molecular marker DNA塩基配列を基にした遺伝子の染色体上での目印.育種で,農業上重要な,しかし評価するの に多大の労力を要する形質を,その形質と連鎖した,別の評価がより容易な形質(マーカー)で 間接的に選抜することがある.この間接選抜をより正確に行うため,詳細な染色体地図(分子マー カーと各種の形質を支配する遺伝子の染色体上での相対的位置関係を示したもの)がイネなどで 作成されている. ☆不和合性 各器官は正常だが花粉と卵細胞間で受精の行われないこと.花粉の不発芽,花粉管の伸長不全あるいは 成長停止などがみられる.雌雄ずいの発育時期の相違でも不和合となる.同一花の雌雄ずい間または同 株内の他花間の場合の不和合性を自家不和合性という.品種間,種間などでの不和合性を交雑不和合性 という.不和合性は温度や栄養条件で変動し,高濃度の炭酸ガス処理や蕾受粉などで打破できることが ある. ☆補足遺伝子 Complementary gene  2種の遺伝子が働いて新しい形質が発現されるもの.スイートピーの2種の白色花(CCrr とccRR)の交雑のFlは紫(CcRr)となり,F2では9C_R_,3C_rr,3ccR_,1ccrrと なるが,CとRとの双方を有するC_R_だけが紫となり,他は全部白となるため,表現型 では紫:白=9:7の分離を示す.着色するためには色素原(C)と酵素(R)とが共存する 必要があるためとされる. 戻る ☆重複遺伝子 Duplicate gene  2種の対立遺伝子の働きが同じ方向であるが,優性遺伝子問に累積的効果がなくA,B, A+Bの表現型が等しく,劣性遺伝子のaabbだけが表現を異にする場合である.例えばナ ズナの三角型(CCDD)と紡錘型(ccdd)の交雑でFlは三角型(CcDd)となり,F2では三 角型:紡錘型=15(9CD+3Cd+3cD):1(1cd)となる. 戻る ☆複数遺伝子 Multiple gene  重複遺伝子と同じく2種以上の対立遺伝子の働きが同じ方向で強さも同じであり,かつ同 一方向に働く遺伝子の数によって,表現する形質の程度に差異がある場合.例えば大麦粒色の 白(p1p2)と紫(P1P2)とを交雑したF2は濃紫:紫:自=9(9P1P2):6(3P1p2+3p1P2) :1(1p1p2)となる. ☆抑制遺伝子 Inhibiting gene(Suppressor)  2対の遺伝子のうち,一方が他の作用を抑圧して形質を発現させない場合.例えは蚕の 白色繭(IIyy)と黄色蔽(iiYY)の交雑ではFlは白(IiYy)となるが,F2では自:黄=13 (9I_Y_+3I_yy+1iiyy):3(3iiY_)に分離する.これはIが抑制遺伝子として働く からである. ☆上位性 Epistasis  それぞれ独立の形質発現能力を有する対の遺伝子のうち一方が他方より作用が強く,その 発現をおさえる場合.優性遺伝子の問に上位性があるときは,上位の遺伝子を被覆遺伝子と もいう.例えばカボチャの果色の白色種(WWYY)と緑色種(wwyy)のF2では白:黄:緑 =12(9W_Y_+3Wyy):3(wwY_):1(1wwyy)に分離する.すなわちWはYに 対して上位である.  劣性遺伝子が上位性である例としては,マウスでCCAAは野ネズミ色,CCaaは黒である が,ccAAはccaaと同じく白色であって,CはA*に対して上位である. ☆変更遺伝子 Modifying gene  それ自身として単独で形質表現の作用はないが主働遺伝子と共存するときにはその作用を 変更する一群の遺伝子. 戻る ☆多面的発現  2つ以上の形質の発現に関与する遺伝子は多面的発現Pleiotropicであるという.オオムギの 渦性遺伝子は粒形,稈長,第1葉身長などにも関与する. ☆致死遺伝子  生物発育のある一定の時期において,これを死に至らしめる遺伝子Lethal geneであって, 配偶子または接合子を死滅させる.多くは劣性であるが優性のこともある.伴性致死遺伝子は 性比に異常をきたすので識別されやすい. ☆位置効果  転座や逆位などにより染色体上の相対的位置が変ることによって形質発現を異にすることが ある.これを遺伝子の位置効果Position effectという. 戻る ☆複数(同義)遺伝子 poly gene  量的形質を支配し,同じ程度の効果をもつ多数の遺伝子で,その効果が相加的なもの. ☆プラズマジーン plasmagene  細胞質内にある遺伝物質.細胞質遺伝をし,母方(卵)のみから子に伝わる. ☆遺伝率(力) heritability  全分散(表現型の分散)に占める,遺伝(子型の)分散の割合.この値が大きければその 形質は次代に強く表現される.遺伝分散の内,遺伝子の相加的効果による部分だけで計算し たのは狭義の遺伝率という. ☆遺伝子の相加的効果  additive genetic effect  遺伝変異は,個々の遺伝子の効果の和として発現されるものと,優性遺伝子の場合のような, 相加的とはならない優性効果などがある.前者を遺伝子の相加的効果いう.優性効果はヘテロの 状態で発現するから,固定(後代が分離しないこと)はできない.狭義の遺伝率は後者を除き, 固定できる部分だけの値である. 戻る ☆遺伝率の推定法 1.Motherの方法  ある形質の表現型(P)=遺伝的効果(G)+環境効果(E)で表せるとき,GとEが独立なら, 表現型の分散VAR(P)=遺伝分散VAR(G)+環境分散VAR(E)となる.VAR(P)を遺伝分散と 環境分散を含む例えばF2集団の分散,VAR(E)は環境変異のみのF1の分散(両親の分散又はそれら 平均)とし,VAR(G)=(F2の分散−F1の分散)で,遺伝率=(F2の分散−F1の分散)/(F2の分散). F2にはヘテロを含むので,これは広義(狭義でない)の遺伝率である. 2.選抜実験による遺伝獲得量/選抜差から.  平均値Mの原集団を選抜した群平均値をM’,その翌世代平均値をM”とすると,i=M’−M を選抜差,△G=M”−Mを遺伝獲得量といい,遺伝率=△G/iである.選抜を上方と下方に 行ったときは,その平均値をM1’,M2’,翌世代の平均値をM1”,M2”とすると, 遺伝率=(M1”−M2”)/(M1’−M2’)である. 3.他に親子回帰,数品種の反復付き実験の分散分析表の分散成分からも求められる.  一般に,出穂期,少数遺伝子による耐病性 > 稈長 >・・粒大・・> 収量,食味,の順になる. 出穂期では0.9程度,収量では0.4程度の値が推定されている. 狭義の遺伝率を推定するには,例えばF2とF3集団では遺伝分散中での優性効果による部分 の大きさが違うので(F3のほうが少ない),それらから優性効果を最小2乗法で消去して求める. ☆遺伝(的)獲得量(遺伝的進歩) genetic gain  量的な形質についていい,(元の親集団の平均値)−(選抜した次世代での平均値)の値.次 世代は,親集団で一定割合の上位又は下位の選抜を行って作る.選抜によりどの程度後代で効果 があったかを示す.(親集団全体の平均値)−(親集団での選抜個体平均値)を選抜差という. 遺伝率=遺伝獲得量/選抜差である. ☆遺伝相関 genetic correlation 1. AB二形質に働く遺伝子の多面発現(Pleiotropism),2. A,B遺伝子の連鎖(Linkage), 3. 選抜 過程での2形質の相関の効果,で現れる. 相関=(x-Mx)(y-My)/√((x-Mx)2×(y-My)2)=COV(A,B)/√VAR(A)VAR(B)であるから,  2形質A,Bの表現型(Pa,Pb)が遺伝的効果Ga,Gbと環境効果Ea,Ebの和で表せるとき [Pa=Ga+Ea,Pb=Gb+Eb,COV(Pa,Pb)=COV(Ga,Gb)+COV(Ea+Eb).ここで,   COV(Ga,Gb);遺伝共分散,COV(Ea,Eb);環境共分散] 遺伝相関 rg=COV(Ga,Gb)/√VAR(Ga)VAR(Gb) であり,その求め方; 1.Mather's : COV(G)=COV(F2)-COV(P1,P2,F1) として, 例題;F1が6個体,F2が7個体,A,B形質の値が以下とする. F1 A 4 3 3 4 5 5 B 7 4 7 7 8 9 F2 A 10 8 6 7 7 10 8 B 12 9 6 4 6 11 8 cov(F1)=1.2 cov(F2)=4 h^2(A)=0.657 h^2(B)=0.664 rg= 0.961 を確認. 注) r(F1)=0.802,r(F2)=0.907で,rg≠r(F2)−r(F1) 2.選抜実験から; Genetic correlations were calculated as (Falconer 1981; Fehr 1987): rA = ( Crx ix hx )/( Rx iy hy ) where, rA, Crx, Rx, ix, iy, hx and hy, were genetic correlation, amount of improvement in primary character obtained by indirect selection for secondary character (yield components) and by direct selection for primary character (yield), selection intensity for primary and secondary character (as 1.75 for 10% selection of population), square root of heritability for primary and secondary character, respectively. ☆制限断片長多型 RFLP:restriction fragment length polymorphism  相同染色体の相同部位のDNAは一般に同じ塩基配列を持つので,ある制限酵素を用いて DNA断片を切り取ったときに同じ長さになる.しかし,比較的縁の遠い品種によってはDNA 断片の長さが違うこともある.相同部位のDNAはメンデルの法則に従って遺伝するから, DNA断片の長いものと短いものを,あたかも対立遺伝子のように取り扱って染色体地図をつ くることができるので,これをRFLP地図と呼んでいる.観察するDNA断片は幾らでも増や せ,詳細なRFLP地図ができる. 戻る ☆メンデル集団  淘汰,競争がおこなわれていない条件下で,互いにランダムな交配がなされている集団. ☆同型(ホモ)接合体 homezygote,異型(ヘテロ)接合体 heterozygote  個体を任意の遺伝子座で分類したとき,その遺伝子座を同一遺伝子が占めているものと,その 遺伝子座に異なる対立遺伝子を持つもの.ホモ接合体は自殖を繰り返すと得られる. ☆連鎖 linkage  同一染色体上の隣接した位置に遺伝子があり,それらの遺伝子によって支配される形質が伴って遺 伝すること.染色体は1対の相同染色体のある部分で交換されることがあり(乗換え, crossing over), そうすれば連鎖のやぶられることがある. 戻る

[水稲]

☆育苗  うるち品種は比重1.13の塩水選をする.浸種を10〜13度で5〜7日でする.催芽(芽出し) を32度でして鳩胸状態(芽長1mm程度)にする.育病箱にph5.0の土を2cm入れN,P,Kを1〜2g 施肥し,200gまく.十分潅水してから5mmに覆土する.10aあたり18〜20箱必要である.いもち 病,ごま葉枯れ病,ばか苗病予防のため種子消毒をする.出芽を,30〜32度で2日加温してする. 種が浮き上がらないように,箱を積み重ねる.緑化を,鞘葉が1cm地上にでたら20〜25度にして 弱光にあててする.2日間,第2葉がでるまで.棚に光が当たるよう間隔をあけて並べたり,ハ ウスに並べて薄い遮光フィルムをかけてする.次に昼間30度以下で日光にさらし,夜間10度以 上にして徐々に自然環境に慣らす(硬化という).葉齢3.2の稚苗,育苗期間20日のものを通常 用いる(中苗は4〜6齢,30〜40日,高冷地や暖地の遅植え).育苗箱でマット状になった苗を機械 で植える. ☆本田準備  トラクター(ロータリー)で耕起をし,入水して整地(しろかき)を水もれ,雑草防止のため にする.田面を平にする.N施肥量は通常合計10〜15kg/10aで,元肥(約6割),穂肥(2回) と分施する.玄米100kg生産するのに,N,Kが2.0〜2.5kg,Pが1.5〜2.0kgが必要である. 田植え時期は早いほど多収である.但し平均気温12〜13度が限界であり,台風回避,麦作との 都合等で決定される.機械移植では条間28〜33cm,株間11〜16cm.18〜25株/u.1株4〜5本. ☆田植機 イネの苗を移植するための機械.育病箱に播種して苗を育て,根がからんでマット状になったもの を機械に装着し,1株3〜5本ずつ苗を掻き取りながら移植する.当初は歩行型で2条植えであった が,最近は乗用で6〜8条植えのもある.従来から苗は成苗であることが必須とされてきたが,19 70年代に成苗でなく土付きの稚苗を移植する方式をとったことで開発が急速に進んだ ☆早期栽培  7〜8月の収穫を目標とする.保温育苗とメイチュウ防除で可能になった.台風回避,早期出荷, 秋落ち防止などを目的とする.高温登熟なので胴割れ米発生や長雨での穂発芽に注意. ☆乳苗栽培  稚苗(葉齢3〜3.5)よりさらに若い育苗日数14日(出芽後11日)の2.5葉齢程度以下の胚乳 養分をまだ持った(名前の由来)苗を利用する栽培法.育苗日数が短く箱当たり播種量が増やせ (200→250g/箱),育苗コストの削減が可能である.直播き,特に乾直の補完(雨で直播きが できなかったとき,発芽苗立ちの失敗時)技術でもある.収量が不安定になる欠点がある. ☆水管理   水もれ(地下浸透)量が10〜15mm/day,減水深(地下浸透+蒸発散量)は20〜25mmが適当. 活着期は深水で苗を保護,分げつ期は浅水でときどき田面を露出して酸素を土中に入れ,有機物の 分解を促進する.中干し後,幼穂発育期には間断かんがいをする.出穂期はたん水する.その後 間断かんがいにし,登熟終期に落水する.寒地で穂ばらみ期に低温(20度以下)が予想されると きは12〜15cmの深水にして幼穂を保護する. 戻る ☆中干し  幼穂分化開始の10〜15日前に落水し,田面に軽く亀裂が入る程度に乾かすこと.土壌に空 気を入れて還元状態を緩和して根を健全化し,過剰分げつを抑制するなどの効果がある. ☆追肥  分げつ初期の追肥は穂数を増やす.穂肥は幼穂分化期および穎花分化中期でもみ数を増やす. 減数分裂期直前は穎花の退化を少なくして籾数を増やすとともにもみがらを大きくして,千粒重 を大きくする.穂ぞろい期以降のを実肥といい,登熟期の光合成を高める(良食味米生産では実 肥は避ける). ☆雑草防除  一年生雑草(イネ科雑草のタイヌビエ,カヤツリグサ科雑草のカヤツリグサ・タマガヤツリ, 広葉雑草のコナギ・キカシグサ・アブノメ・アゼナなど),多年生雑草(ヒルムシロ・ウリカワ ・クログワイなど)がある.多年生のものは防除が難しいのではびこらないようにする.代掻き は田植え前の雑草防除のためでもある.田植え直後に1回散布するだけでよい,処理適期幅が広 く,多くの種類の雑草に効果のある除草剤が開発されている.  昔,除草作業は水稲作での最大の労働であった.米の生産費調査(農水省)によれば,1949年 に全水稲作に要した時間は10a当たり216.2時間,その内除草に要したのは50.6時間だった.1989 年には全体が46時間に減り,その要因として除草がわずか2.8時間に激減したことが大きい.時 間だけでなく,真夏の重労働であった除草作業が有効な除草剤開発により著しく軽減された. ☆直播での雑草防除  直播栽培では稲と雑草が同時に生育を開始する,除草剤の処理時期の稲が若齢で薬害を生じや すい,除草期間が長くなる,などの問題点がある.近年直播用除草剤が開発されてきているが, まだ改善の余地が大きい.特に乾田直播は播種後湛水するまでの期間が長いため、数回の除草剤 散布が必要である. ☆アイガモ農法  有機栽培の一手段として,合鴨(アヒルとマガモのF1)を10a当たり20〜40羽,苗の活着後 から出穂期頃まで水田に放飼し,化学肥料や農薬の使用を避け,合鴨による除草,糞からの養分 供給,害虫の摂食,接触での稲体の健全化などを計る農法.合鴨の生産にもなる.通常栽培に近 い収量を得ている場合もあるが,不安定であり,高度の経験と熟練を要す. 戻る ☆検査・出荷  量目は1俵60kg.容積重(810g),整粒歩合(70%),水分含量(15%),形質(粒ぞろい,充実 度,粒形,光沢),被害粒(腹白,青米,胴割れ,茶米,しいな,砕け米,・・)の混入率(15% 以下)・・で1〜3等に格付けされる.流通は玄米で行う.とう精とは,玄米を白米にすること で,92%(とう精歩止まり)位にする.のぞかれたのは”ぬか”. ☆生育の概況(普通期栽培) ----------------------------------------------------- 発 田 分げ 幼穂 節間   出穂 実 芽 植 つ 分化 伸長 開花 り ----------------------------------------------------- 育苗期 I 分げつ期 I 幼穂発育期 I 登熟期 I (穂数決定)   I (粒数決定) I (粒重決定) ----------------------------------------------------- 栄養成長期     I   生殖成長期 ----------------------------------------------------- (月日 5.1 5.25 7.23 8.25 10.10) 発芽の最低は10度,最適は30〜32度,最高限界は42度. 第1葉は極小さく,不完全葉ともいう.第2葉も小さい.葉身と葉鞘の境に葉耳と葉舌がある. 移植栽培では一次の1,2,3,4号分げつ位までは出ない.主稈葉数は16〜17(早生は14〜 15)枚.葉が4枚に満たない茎は無効化しがち.普通5〜6本分げつがでるが,有効分げつ(穂 をつけたもの)は3〜5である.最高分げつ数=有効分げつ+無効分げつ.有効茎歩合は通常60 〜80%. 出穂の32〜30日前が幼穂分化期で,止葉から下へ数えて3枚目の葉が出始めるころで,生長点で 葉のもとをつくっていたのが穂のもとを作りだす.出穂28〜26日前が枝梗分化期.出穂の22〜10 日前が穎花分化期.出穂の13〜12日前が減数分裂期で花粉のもとの細胞が減数分裂をする.出穂 の10〜7日前が穂ばらみ期. 穂は複総状花序とよばれ,穂軸が枝分かれして,一次,二次の枝梗がつき,それに小穂がつく. 1小穂に1花つく.一次枝梗の先に5〜6個,二次枝梗の先に2〜4個で1穂で80〜150小穂つく. 開花受精は午前10〜12時が盛ん.適温は30〜35,最高は50,最低は15度.最適湿度は70〜80%. 追肥時期と収量構成要素の増減との関係は(松島1959より) ------------------------------------------------------------      分げつ 幼穂分 穎花分化中 減数分裂 穂そろい      期 化期 期(穂肥) 期直前 期(実肥) ------------------------------------------------------------ 穂数 ◎ ○  △ △ 1株もみ数 △ ◎ ○ ○ × 登熟歩合 × △ ◎ 玄米千粒重 × ◎ ------------------------------------------------------------ 登熟歩合:比重1.06の塩水で沈んだものの割合  単位面積当りもみ数と登熟歩合には高い負の相関がある. 戻る ☆水稲の冷害  水稲の冷害は低温のために生育が遅れて稔実不良となる遅延型冷害と,花粉の発達時期 (特に出穂12日前の減数分裂期頃)の低温で花粉が不稔になって稔実しなくなる障害型 冷害とがある.遅延型冷害には早生化が有効である.障害型冷害への耐性にわずかなが ら品種間差がある.品種育成のための試験圃場に冷水をかけ流し,耐冷性品種を選抜す ることが継続されている.耐冷性は低温発芽性,晩秋の低温襲来以前の収穫を可能にす る早生,低温で発生の多いいもち病などへの抵抗性,低温へ耐えるその他の生理的機能 などの複合した形質でもある. ☆水稲の葉色診断  葉色は葉身の葉緑素含量(光合成の活性程度)と関係があり,葉色をみることで水稲体 内の栄養状況がわかる.緑が濃すぎると過繁茂などの障害がおきる.生育の初期は濃い色 を保つ必要がある.出穂35〜25日前には窒素の肥効を抑える.葉色を測定するには緑色 を淡緑から濃緑まで数段階に区分した標準標を用いる.電気的に計測する機械もある. ☆V字型(理想型)稲作技術  稲の収量は単位面積当たり総籾数×登熟歩合(完全に登熟した(比重1.06以上)籾の割 合.不受精や登熟期不良でないもの)で表される.N施肥で総籾数を増加させることがで きるが,籾数が増加すると登熟歩合が通常低下し,単なるN増肥では収量増加にないこと が多い.松島らは,N施肥時期と登熟歩合の関係を研究し,穂首分化期(出穂前33日位 )前後12日の期間(葉齢指数69)のN肥効が最も登熟歩合を低下させることをみいだ し,従って多収のためには,この時期以前のN施肥で籾数を充分確保し,この時期にはN 肥効を落とし(追肥がこの時期に効かないようにして),この時期以後はまたN追肥によ り葉身光合成を高める栽培法で籾数と登熟歩合の両方を高めることができるとした.この ように生育中期でN肥効を落とす栽培法をV字型稲作技術という.穂首分化期のN肥効中 断により上位3葉が短く,直立することで草型が良くなることが主要因である. ☆イネの直播き品種  直播きは,大別して湛水直播き(湛直)と乾田直播き(乾直)がある.共に,発芽苗立ち, 鳥害,倒伏が問題である.時に雑草防除が困難.雑草や鳥害への品種対応はできない. 発芽力強,根(特に種子根)が太くてよく伸び,初期生育良好,倒伏強の品種が望ましい. 戻る ☆イネ直播きの種類 耕起乾田直播;耕起後乾田状態で播種する.発芽後葉齢が4〜5のときに入水する.作業 は容易だが圃場によっては漏水が多い.除草も難しい. 不耕起乾田直播;耕起せずに播種.降雨下でも播種でき,省力効果大だが連年は困難. 乾田播種早期湛水直播;乾田に過酸化石灰剤(カルパー)を粉衣した種子を播く.播種後 10〜20日で入水する.乾直(作業性)と湛直(発芽苗立)の長所を生かした方法. 湛水土壌中直播;代かき後過酸化石灰剤を粉衣した種子を土壌中に播く.作業が降雨に影 響されない.出芽後一時落水し活着を計る.適応範囲が広い.粉衣作業や播種機を要す. 湛水土壌表面直播;代かき後土壌表層に播種し,その後湛水か潤土とする.本法は確立 してはない.湛水下でもほぼ正常に発芽はする.(16KB.Won&Yoshida, PPS 3:112-,375-) ☆直播の補完としての移植栽培: 乳苗移植;育苗期間7日程度で葉齢が2前後の苗を移植する.直播失敗後でも可能. 部分耕移植;代かきをせずに移植部分のみを耕起し,同時に移植する. ☆イネの収穫適期  穂軸が完全に黄色になったころが刈り取りの適期.出穂後45日位.玄米水分が22〜26%. 早すぎると未熟米や青米,遅すぎると茶米や胴割れ米で品質を落とす.仕上げ乾燥は火力通風乾 燥機で14〜15%にする.急激な乾燥をしたり,13%以下にするとひび割れ,胴割れ米になり, 食味,品質が落ちる.調製はもみすりをする.重量で79〜82%,容量で50〜60%になる.もみ すりと同時に不完全米(くず米)を除く選別がなされる. ☆側条施肥法  田植えと同時に稲の条の横に沿って施肥すること.施肥効率が優れる. ☆減水深  田の水の減少量のこと.通常,地下への水もれ(地下浸透)量は10〜15mm/day,減水深 (地下浸透+植物体の全蒸発散量)は20〜25mmが適当とされる. 戻る ☆水稲の不耕起栽培  不耕起の乾田圃場に水稲を直接部分耕移植する技術.耕耘・代かきが省略できると同時に, 移植後入水するので,入水後田植えする従来の湛水部分耕移植より広範な圃場に対応できる. 不耕起乾田直播栽培は,耕起・整地・代かきの工程を省略した栽培法で, 前作の残渣があっ ても精度良く播けるトラクタ用の高能率播種機が最近開発された. 耕起乾田直播に比べて降 雨後も速やかに播種作業を始めることができるため,計画的な播種が可能である. ☆ハイブリッドライス  異品種同士の交配F1は通常生育がきわめて旺盛となる.これを雑種強勢といい,これを 利用した育種を雑種強勢育種という.通常トウモロコシなどの他殖性作物で利用するが,稲 でこの雑種強勢を利用したもの.インディカ×ジャポニカで雑種強性が大きくでる.採種が 難しく,雄性不稔と稔性回復系統が採種に必要である.また,花粉親品種の花粉量が多く, よく飛び散る必要がある.この種は毎年更新する必要がある. ☆インディカ稲  稲を生態型で大別すると,日本型稲(わが国で栽培している通常の稲)とインド型稲の 亜種として区別される.後者をインディカ稲という.原産の稲に近く,熱帯〜亜熱帯に分 布し,長稈,長粒,米は粘りがないものが多い.わが国での栽培に適する品種はないが, インディカ稲のもつ耐病性や多収性遺伝子導入を目的に日印交雑した品種が育成されてい る.耐寒性がない欠点がある. ☆陸稲(りくとう,おかぼ)  湛水状態でなく,畑で作る稲.やや低収である.品質・食味は劣る.葉は垂れ下がりやすい. 深根性で水稲より耐乾性が強いが,他の畑作物より耐乾性がかなり低い.穂ばらみから出穂期の 干害に特に弱い.連作障害がある.世界的には多くの面積があり,水稲との区別がつきにくい場 合がある.  ☆浮稲 floating rice 水深変化の大きい河口付近や湖沼で栽培されるイネ品種で,増水するのにしたがい節間が著 しく伸長し,稈長が数メートル以上にもなるもの.水面上に出穂するが,通常成熟時には水 が引く.主に東南アジアで栽培されている.イネの祖先型の一つと考えられている ☆酒米 日本酒醸造用の米.心白が大きく,大粒,低蛋白質含有率のものが好まれる.代表的な品種が 山田錦や五百万石.酒米には,こうじ(麹)米とかけ(掛)米とがある.こうじ米は,こうじ 菌の増殖,澱粉分解酵素の生成をさせ,特有の味や香りを生成させるので品質への影響が大き い.かけ米で,澱粉分解酵素によりアルコールが主に生成される.かけ米は酒米原料の約7割を 占めアルコール収率の高いものがよい.心白は粒中央部の白色不透明部であり,澱粉粒間に空隙 がある.心白の大きい米は吸水が早くこうじ米に適す. ☆米の起源と我が国への伝来 数千年前にインド東部−ビルマ・タイ北部−中国雲南におよぶ地域で栽培が始まった.イ ンドのガンジス平野ではB.C.3800年に,中国ではB.C.3000年に,日本では中国中南部から 起源,2世紀に九州へ,1c.には近畿へ,4〜5c.には東海近畿へ,12c.には本州北部へ,明治 には北海道へと伝播した. わが国への伝来以来,記録が始まったときにすでに出雲種,日向種等の品種分化が知られ ていた.8世紀(奈良時代)には糯粳の区別,早生晩生の区別があり,奥羽地方へ伝播した. 8〜12世紀(平安時代)にはチモトコ,ソデノコ等品種固有名があった.13cには津軽へ. 17世紀(江戸時代)には栽培環境に応じた細かい品種が選択された.19c末には北海道へ. 明治以降は在来品種から各地の農家が品種純系選抜をし,それらが今日の品種のもととなっ た.例:神力,愛国,亀ノ尾,銀坊主,旭・・.明治中期以降:試験場で科学的な方法によ る育種が開始された. 戻る ☆米の育種目標  耐冷性(生育遅延型冷害,稔実障害型冷害),耐肥性(根の窒素吸収力,耐倒伏性,受光態勢, 耐病性などを複合したもの),耐病害(イモチ病を代表,ゴマハガレ病,モンガレ病,白葉枯病・ ・),耐虫性(ウンカ類),良質(食味,検査等級),・・. ☆貯蔵  玄米で貯蔵する.包装のままあるいは,カントリーでばら貯蔵する.コクゾウやかびがつくと 着色米や変色米になる.温度は10〜15度以下,湿度は75%以下が望ましい.玄米水分は下げ ておく.低温除湿倉庫のおかげで古米の品質低下は小さい. ☆塩水選 seed selection with salt solution イネの育苗を行うとき,種籾をうるち品種では比重1.13の塩水に浸して沈んだもののみを播種す る.この操作を塩水選という.登熟不良や病虫害に犯された種子を除き,健全種子のみにする効果 がある.古くから経験的になされていたが,1900年頃に福岡県農業試験場長の横井時敬(後の東 大教授)が理論化や普及を行った.
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[米の食味]

☆低アミロース品種  でんぷんは通常20%のアミロースと80%のアミロペクチンからなる.グルコースが α−1,4結合のみして直鎖状なのがアミロース amylose, CH2OH CH2OH   |_ |_   _/ \1_4/ \_ ・・・ \_/ \_/ グルコース グルコース    α−1,4結合以外にα−1,6結合もして枝別れしたのがアミロペクチン amylopectin. _ ・・ 4/ \1_ \_/ |   6 CH2 CH2OH   |_    |_ ・・ _4/ \1_4/ \_ ・・  \_/  \_/ うるち(粳)は通常アミロース17〜20%位.もち(糯)はアミロース0%.通常のインディカ 稲は高アミロース(25%以上)で粘らない.低アミロース(20%以下)は粘りが強い.わが国 の品種は17〜23%程度に分布している.コシヒカリなどの良食味品種は17%位の値で,最近 の良食味品種はこの値を目標に選抜している.極低アミロースの品種も見つかっており(13%, あるいは5%前後.dull品種ともいう),新品種も育成されている.粘りが極強いが,一般に良食 味として受け入れられるかは不明である.  アミロース含有率は第一には品種で決まる.登熟期間の低温は高める. ☆米の食味  わが国で一般的に好まれるのは,炊飯の白度が高く,表面に光沢があり,粘りがあり,硬すぎ ず,強い香りを持たず,わずかな甘味があるものである.低アミロース品種の粘りは強くなる. 多肥,多追肥,生育後期までの肥効(有機Nなど)で高蛋白だと硬くなり,白度が低下する.不 適切な貯蔵だと異臭がする.収穫方法が不適切だと外観が低下する.食味を予備的に評価するに は,食味関連理化学的特性である,アミロース,蛋白質,アミログラム特性(澱粉の糊化特性), テクスチョロメータ特性(粘度)を測定することで一部可能であり,竹生ら(1985)によればこれ らの値の重回帰式で食味の70%を説明できたとしている.標準的な評価方法はパネルによる官能 試験によるもので,基準品種(日本晴やコシヒカリ)との食べ比べを訓練された20名程度の人が 行って基準品種との相対的な評点を付ける.食味は品種,産地,気候,栽培方法,収穫乾燥法, 貯蔵法,炊飯法等で影響されるが,通常の栽培方法をとる範囲では,最も影響の強いのは品種で, 典型的な良食味品種がコシヒカリである. 戻る ☆アミログラム特性  澱粉(精米,小麦の粉)に水を加え,加温しながら攪拌し,攪拌時の粘度を測定すると,以下の ようなグラフが得られる.最高粘度やブレークダウン値の大きいほうが良食味の傾向である.小麦 の品質でも同様な関係がある.    I +++            →最高粘度   粘 I +   + +   度 I +    +++    →最低粘度    I +++   この差がブレークダウン値 −−−−−−−−−−−−−−−−→ 時間   加熱 93度 冷却 (糊化温度) ☆テクスチョロメータ特性  口腔内での咀嚼をモデル化した測定器械を用いて測定した,硬さ,付着性,弾力性の測定特性 のことで,付着性,硬さ/付着性,付着性/硬さ,の値が食味と関連するとされている. ☆良食味品種  わが国ではコシヒカリがその代表である.若い人で粘りがコシヒカリほど強くないものを好む 傾向が一部ないわけではないが,それが永続するかは不明で,現状ではコシヒカリに代表される 粘りが強く,光沢のあるものが良食味の標準であるといって差し支えない.産地間競争のため多 くの良食味品種が各府県独自のブランド米として育成されているが,それらはコシヒカリと極め て近縁のもので,コシヒカリの栽培特性上の欠点(倒伏しやすいなど)を改良したものとなって いる.北海道では,道産米の食味改善のためアミロース含有率を指標とした良食味の選抜を行い, 良食味品種(きらら397など)を育成し,それまでの道産米の不評を覆すのに成功した. 戻る ☆コシヒカリ  代表的な良食味品種.農林22号/農林1号の交配.福井県農試で1956年に育成.同年新潟県 で奨励品種に採用.現在,広く福島〜鹿児島で栽培され,全国の栽培面積の約30%をも占める. そのうまさは粘り,甘みにあるとされ,光沢も優れる.他品種比べ食味の変動が少なく,広い範 囲の各種条件下でも良食味である.また混米に適すともされる.穂発芽し難いことが早期栽培に 適すが,倒伏易,いもち病弱の欠点がある.最近育成の良食味新品種はコシヒカリとの血縁関係 が深い. ☆食味試験  標準的な食糧庁の方法;滋賀県産日本晴を基準品種とし,訓練された概ね男女同数で20〜39 才と40才以上が同数の24名のパネルにより,基準品種との相対評価で行う.供試材料は栽培, 収穫,乾燥,貯蔵,搗精などを適切に行う.炊飯は電気釜(1.8L)を使用する.1回の試験には, 6つの試料と基準米を,2つの無地の白皿に約50gづつ,基準米を含め4つずつ盛りつける. 試食の順番による誤差を避ける配置をあらかじめ検査員ごとにしておく.外観,香り,味,粘り, 硬さ,これらの総合評価(通常これが食味の値)を,基準米を0として±3区分(わずか〜かな りの差)で評価する.2つの皿の評価の間には10分の休憩をとる.試験は1日に2回を限度(午 前と午後)とする(6×2=12の評価が1日の最大数).基準米との差の有意性をt検定する. ☆炊飯法 精米 600g(水分13.5%)として. 洗米 数回手早く. 直ちにザルにとり,加水(600g×1.4倍=840g程度.結果をみて次回以後は適宜増減)し,  そのまま常温では30分おき吸水させる. または 洗米後,吸水30分(常温)させた後,ざるで水を切り+水750g(米重量×1.25の水)  加水する.この場合は,米の表面への吸水+750gの加水となる. 炊飯23ー24分,むらし20分. ☆良食味米生産の留意点 一般的な水稲栽培の注意点以外に,特に,1.当該地域で奨励されている良食味品種を用いる. 2.倒伏,病虫害などの障害を防ぐ.3.多窒素や,晩期の追肥,肥効*を避ける(子実タンパク 含量を高めない).3.早刈り,刈り遅れせず適期(成熟期)に収穫する.4.乾燥を的確に行う. 収穫後速やかに水分20%以下に落とし,仕上げは火力通風乾燥機で14〜15%にする.但し急激な 乾燥,過乾燥を避ける.5.登熟期間が低温にならないよう,晩期栽培は避ける. 6.貯蔵は低温乾燥条件下とする. *;有機質の多量施用に注意 戻る ☆良食味品種のコシヒカリへの近縁度  最近育成の良食味品種は対コシヒカリ近縁係数の値が一般的に大きい.例えば,ひとめぼれ; 0.769,ヒノヒカリ;0.608,あきたこまち;0.617などである(日本晴は0.245).これは, 良食味品種育成にはコシヒカリか,その近縁品種を交配親に使わないと良食味の後代系統が得に くいため.一昔前の多収が主目的の品種はコシヒカリとの近縁係数が低い(吉田・今林1998). 作付け上位品種の対コシヒカリ近縁係数値は生産統計米麦作付け品種の欄を参照. 戻る

[水稲病虫害]

(実物写真は他の参考書を参照) ☆いもち病抵抗性  いもち病はいもち病菌の寄生により,稲病害の中で最大の被害をもたらす.被害は稲作付 け全域に及び,生育全期を通し発生する.曇天が続き,日照が少なく,やや低温(25℃くら い)で湿度の高い条件で発生しやすい.苗いもち,葉いもち,穂首いもち,穂いもち病があ る.病気が進むと枯れたり,出すくみや白穂を生じる.著しい場合は収穫皆無となる.伝染 性が強く,広域蔓延する.菌の胞子は籾やワラに付着して残り,次年の発生源となる.窒素 肥料が多すぎると寄生をうけやすい.防除には,上述の諸条件の回避と,薬剤による防除, 抵抗性品種の導入がある.レースの変化で耐候性品種が罹病化することが多い.罹病しても 病状があまり進行せず,収量には大きな影響がないものを耐性,または圃場抵抗性といい, この抵抗性は多数の遺伝子によって支配されているので永続性が高い ☆ごま葉枯病  ごま菓枯病菌の寄生にとる.葉に濃褐色で周囲のはっきりした長円形のゴマ粒大の病斑が多 数発生する.全国的に発生し特に暖地に多い.地力の低い田や,秋落ち田に多発する.地力を 高め追肥で地力を維持することが基本対策である.根腐れを伴うことが多い.品種による抵抗 性の違いもある.薬剤ではあまり防げない. ☆紋枯病  紋枯病菌の寄生による.初夏から主に下位の葉鞘部に不定形の黒色斑紋ができる.しだいに 上部に移り成熟前に葉を枯らす.早期栽培と多肥で発生が増えた.菌核で越年し湛水すると浮 いて,田植え後水際からイネに侵入する.高温多湿の年に発生が多い.窒素の多施用を避ける. 薬剤散布で防除する. 戻る ☆ばか苗病  ばか苗病菌の寄生による.種籾についていた胞子が苗床で繁殖し伝染する.菌糸は体内に 入り,葉を異常に長く伸ばす.4〜5葉で枯死するものが多いが,罹病しても発病せず,本 田に移殖後イネの抵抗力が弱まると発病して徒長し,出穂しない.密植育苗になって全国的 に増えた.種子消毒で防除する. ☆苗立枯病  土壌中にすむ数種の菌が苗の根から侵入し苗を枯らす.おもに発芽直後から移植までの間 に箱育苗や畑苗代で発生する.幼植物が低温,その後急に高温になった場合などに出やすい. 床土のphが高いとでやすい.葉が巻くのが特徴で,やがて全体が一様に枯れる.根は腐って おり,引き抜くと容易に抜ける.種子消毒で防除する. ☆白葉枯病  白葉枯病細菌の寄生による.葉の縁より波状に黄色となる.暖地の地力の高い水田や多 肥栽培で発生しやすく,とくに風水害のあとに蔓延しやすい.抵抗性品種もある. ☆縞葉枯病  ウイルスによる.葉が巻いて垂れ,黄白色の縞状の病斑が出る.全体は淡色で,茎は徒長し, 穂は出すくみになりやすい.暖地に発生が多い.媒介するヒメトビウンカの防除が必要で,苗 代の後期から移植後1か月間の防除が大切である.発病株は抜き捨てる. ☆ニカメイチュウ  ニカメイガの幼虫でイネの害虫の中で最も広く分布し,大きい被害を与える.刈株やワラの 中で越冬した幼虫は6月に羽化し苗代や本田に飛来して産卵する.幼虫は葉鞘や茎を食害し, 7月に蛹となり7月下旬〜8月中句に羽化し産卵する.2化目の幼虫は食害の程度が著しく, 茎を食害するので幼穂は折れ白穂となる.多窒素や早期栽培で被害が多い.発生予察により発蛾 最盛期と終期の2回に薬剤で防除する. ☆サンカメイチュウ  三化めい虫は年3回(三化),一部では2回発生する.主として温暖地に発生が多く, 1化期は5月上〜下旬,2化は7〜8月,3化は9月を中心に成虫(蛾)となる.成虫幼虫 ともにニカメイチュウに似る.防除はニカメイチュウに準じる.晩化栽培による回避策もある. 戻る ☆ウンカ類,ヨコバイ類  イネを食害するウンカ類は50余種あるが,発生が多く被害の大きいものは,セジロウンカ, トビイロウンカ,ヒメトビウンカ,ツマグロヨコバイ,イナズマヨコバイの5種である.苗 代時代から被害を与えるツマグロヨコバイとヒメトビウンカは夏ウンカと呼ばれ,イナズマ ヨコバイ,セジロウンカ,トビイロウンカは秋口になって害が大きいので秋ウンカと呼ばれ る.いずれも稲作期間に数世代を経過し,幼虫も成虫も共にイネの汁液を吸ってイネを弱らせ, 大発生するとイネは倒伏し,坪枯れ状になり,収穫はほとんどなくなる.殺虫剤を用いる. ☆イネカラバエ  長さ2〜4mmの黄色いハエで幼虫は白色透明なウジ.幼虫はイネ科雑草中で越冬し,6・7月 と7・8月の年2回発生し,幼虫が葉や幼穂に喰入し部分的に白い不稔籾をつける.産卵盛期に 薬散する.品種により抵抗性の差がある. ☆イネクロカメムシ  イネクロカメムシは6月上旬〜8月上旬にかけ飛来し,幼虫,成虫ともにイネの体液を吸 う.葉鞘に斑紋ができ,下葉から枯れ上がる.穂の籾に口吻を刺して吸収するので被害籾の 玄米には斑紋がつき品質を害する.幼虫はカメムシ特有の悪臭を発する.登熟期に薬剤防除 する.
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[麦類]

☆麦  大麦,小麦など,わが国で晩秋に播種し,冬に生育する禾穀類の総称.相当する英語はない. 強いて言えばwinter cereals.大麦,小麦,燕麦,ライ麦のこと.蕎麦は含まない. (麦類の穂,小穂,小花,粒の写真). ☆パンコムギ Triticum aestivum L.の由来   現在のパンコムギは,紀元前7000〜5000年頃,西アジア地域の二粒系コムギ(ゲノムは AABB)と,そこに生えていた雑草のタルホコムギ(DD)が自然交雑し,さらに染色体の自 然倍数化により現在のパンコムギ(AABBDD)の祖先が誕生した.各ゲノムを持つコムギ属 植物の比較や遺伝解析から,Aゲノムは広い環境条件に適応する能力に,Bゲノムは耐乾性 と高い生産性に,Dゲノムは製パン性(グルテン)に寄与するとされる.このような進化の 過程でこれらの特性を得ることによって現在のコムギは比類のない優れた作物になった. ☆世界の小麦品種の特長  アメリカでは硬質赤冬コムギの生産が最も多く約半分を占め,わが国へ多く輪入される. カナダでは硬質赤春コムギが多くマニトバコムギと称し,パン用原料として優れている.多 くが日本へ輸出される.オーストラリアではすべて冬コムギであり,代表的銘柄を Astralian Standard White(A.S.W.)という.白コムギ系統でタンパクや粉の硬度は中 間質で多目的に使用され日本のめん用原料として色度や食感が優れているとして好まれ,多 量に使用されている.メキシコにある国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT) では世界の広範な栽培地に適した,各種の病害に耐性のある品種育種が行われている.わが 国の農林10号の短稈遺伝子を導入した品種が育成された.CIMMYTで育成された品種はメ キシコ,インド,パキスタンなどにも広く普及し,食料生産が飛躍的に増大した‘緑の革命’ の原動力となった.  わが国の品種の特性は,一般的に早生,短稈,粒色は濃赤色である.成熟期の降雨や, 水稲作との競合を避けるために,早生,耐赤かび病,穂発芽難の品種であることが必須で あり,世界的にも最も早生の品種に属している.粉の品質は中間質で,主にめんや菓子の 原料として使用されている. 戻る ☆小麦栽培の適地  本来冷涼,乾燥した気候に適するが,世界の主要穀類の一つであるので世界的に広く赤道付 近から北緯60度位まで栽培されている.早春に播種して秋に収穫する春コムギと,秋に播種し 冬を越して翌夏に収穫する冬コムギとがある.冬期の気温は寒地では高め,暖地では低めがよく, 出穂以後は気温が低め,多照,少雨が多収や良質にとって望ましい.北アメリカの大生産地での 年降水量は400〜900mm前後である.わが国の主要生産地は北海道,北関東,九州北部で大部分 冬コムギである.降水量が世界のコムギ作地帯と比べて多く,雨害による品質の低下が発生しや すい.土壌酸度はpH6.0〜6.5が適する.酸性土壌ではライムギやエンバクより弱いがオオムギ よりは強い.世界での収穫面積は2億3千万haで(FAO統計),穀類の全面積(7億ha)の約 33%を占め,世界で最も多く生産される作物である.主要生産国は中国(1億1千万t),アメリ カ(6千4百万t),インド(6千6百万t),ロシア(3千6百万t)などである.収量は世界平均 でha当たり約2.5t,最も高いのは∃−ロッパ諸国で7tを超える国がある. ☆小麦の栽培方法  種子は風選により充実の悪いものを除去し,種子消毒を行って種子伝染性の病害を予防 する.播種期は通常北海道で9月中旬,関東地方で10月下旬,北部九州で11月下旬で遅れな いようにする.生育中〜後期の土壌過湿により根が痛みやすいので,溝を作って表面排水を計る. 苗立ち数がu当たり200本程度となるように播種する.  播種直後〜麦出芽前に土壌処理の除草剤を散布する.生育初期には耕種的な除草法として 中耕や土入れを行う.土入れは分げつ促進効果もあり,また排水溝管理も兼ねる.  施肥は窒素を10a当たり合計10〜14kg施す.イネよりも施肥効果が高く,無窒素で育て ると非常に減収する.  収穫前に雨が続いて穂上で発芽する(穂発芽)と品質が著しく低下するので適期収穫に努 める.成熟期は「茎葉や穂首が黄化し,穂が枯れ,粒は緑色がぬけて,爪跡がわずかにつき ,ほぼ“ろう”位の硬さに達した穂が全体の80%を占める日(コムギ調査基準による)」 とされ,そのときの粒の水分は30〜35%である.コンバインによる収獲の適期は成熟期の 2〜3日後,粒水分が30%以下になってからである.  収穫物の火力乾燥時には,送風温度を上げすぎず,穀粒の温度が40℃以下になるように 調節しながら行う.粒の水分を13%程度にした後,粒選機で細麦や屑を除去する. 戻る ☆わが国での小麦栽培の歴史  弥生時代に中国大陸や朝鮮半島経由で伝来し奈良時代には広く栽培された.作付けの最高は 1942年の85.6万haである.1960年頃から作付けは急減した.これは,1.全般的な農家の人手 不足,2.政府の補助にもかかわらずコムギ作の収益性が低いこと,3.主に収穫期の雨害による 収量・品質の低下が多発すること,などが主な理由である.一方,米の生産過剰対策として1970 年代からとられた一連の施策で一時28万ha(1988年)までに回復したが,以後また漸減した. 現在の栽培面積は16万ha(1997年).平年の収量はha当たり約3.8tで北海道はやや高いが年次 変動が大きく,関東は安定して高く,九州は不安定で低い.自給率は約9%に過ぎない.最大の 輸入相手国はアメリカで全体の58%を占め,以下カナダ24%,オーストラリア18%である. ☆小麦の加工適性 --------------------------------------------------------------------- 種類  グルテン量 同左質 粒度 原料小麦     主な用途 --------------------------------------------------------------------- 強力粉   甚多  強靭   粗  硬質        パン(食パン)  中力粉   中   軟    細  硬質・軟質・中間質 うどん・料理 薄力粉   小   粗弱   甚細 軟質        菓子・天ぷら デュラム粉 多   柔軟   甚粗 デュラム      マカロニ類 ---------------------------------------------------------------------  硬質とは粉が硬く粒子が粗く,タンパク(グルテン)含量が高いもの.硬・軟質は栽培条件 でも変動するが大部分は品種で決まる.  コムギ粉の一次加工適性とは製粉の難易や製粉歩留りに関することで,製粉時の胚乳部と 穀皮の離れの良さ(皮離れ),粉のふるい分けに要する時間(ふるい抜け),得られる上質 粉の割合などが評価の指標となる.二次加工適性とはコムギ粉としての適性であり,タンバ ク質やデンプンの量や質により左右される.普通,粉に一定量の水を加えて生地(dough) を作り,その色や物理性(粘弾性,引張り抵抗など),化学性(アミラーゼ活性など)を 測定して二次加工適性を検定する.めんの色相は明るくクリーミーなものが好まれる.輸 入コムギのA.S.W.並に色相の優れた品種育成がわが国で進んでいる.製パン(写真;春口), 製めん適性の評価は最終的には食味の官能試験による. 戻る ☆小麦の蛋白質含量  国内産コムギの主用途はめん用で,めん用に適するものはタンパク質含有量が9.5〜11.0 %である.タンパク質含有量は品種以外にも土壌,施肥量,気象条件でも影響され,低タ ンパク(N不足など)のものは製めん時に破損しやすく,高タンパク(登熟不良など)の ものは色相が劣る.パン用の硬質小麦は蛋白含量はめん用より高い. ☆低アミロ小麦  主に穂発芽によるアミラーゼ活性発現のため,小麦デンプンのアミログラムが低下して製 パン,製めん適性をなくしたもの.小麦の二次加工適性のうちの,生地の粘弾性の値がアミ ロ値である.穂発芽以外,高水分での収穫,不的確な乾燥などでもアミロ値が低下する.低 アミロの粉は製めん製の低下,めんをゆでたときの溶出量の増加,食感の低下などを引き起 こす. ☆小麦の穂発芽,  成熟した穂が長雨にあたり立毛中に発芽すること.低アミロとなり品質が著しく低下する. 品種間差がある.種子の休眠性と関係があり,休眠の短いのは穂発芽しやすい.多雨の日本 では穂発芽しにくい品種が自然淘汰されて,日本の品種は穂発芽しにくい. ☆もち性小麦  小麦の胚乳デンプンは通常アミロースが10数%含まれるうるち性であるが,もち性小麦 とはアミロースをほとんど含まない品種のことである.米と同様に小麦でもアミロース含 有率の少ないものは粉の生地の粘りが強く,食味が優れる傾向であり,アミロースの少な い品種が開発されているが,もち性品種はその極端な形のものである.粘弾性に特に優れ る,生地の劣化が無い等の特性を有するので,うどんやパンでこの品種を利用して高品質 を計る,既存品種と混合してASW並の品質を計る,新食材や工業用など小麦の新規用途 の拡大への期待,などがある. ☆大麦の品種  二六条,皮裸の別により六条オオムギ,二条オオムギ,ハダカムギの3種に分ける.穂軸 の各節に3個ずつ着生した小花の内,中央の小花のみ稔実するのを二条種,全部稔実するの を六条種という.成熟期に粘着物質が子房壁から分泌され穎と穎果が密着するのを皮性,穎 と穎果が容易に分離するのを裸性という.写真参照.  二条オオムギはビールムギといわれることもあるが,二条種でも食用や飼料用の品種がある. ビ−ル原料用に適すとされた品種を栽培し,その生産物が検査規格に合格したものがビール原 料用になる.  すべて染色体数は2n=14で相互に交配可能で後代は稔性があり同一種に属す.学名もすべ てHordeum vulgare L.と記すのが現在では一般的である.  鞘葉の長さや型により渦(うず)性(短型)と並性(長型)との2群に分けられる.渦 性は鞘葉が短く先端にくびれがあり,並性に対して単純劣性の遺伝をする.この遺伝子は 葉身の長さ,稈長,芒長,粒長を短くし,全体としてずんぐりした型となる多面発現をす る.わが国の主力品種は,六条種は渦性,二条種は並性である.  早生.短稈化が主要育種目標で,最近は高品質化も重要. 戻る ☆大麦の用途   わが国で食用にする場合は通常米に混ぜて炊く.搗精し,次に熱をかけて加湿し,圧扁した ものを押麦という.繊維やビタミンが多く健康食とされる.ビールを作るには,オオムギを発 芽させた麦芽(malt)に副原料のデンプンなどを混ぜ,麦芽のアミラーゼでデンプンを糖化させ, さらに酵母を加えて発酵させる.粒が大きく揃っており,穀皮が薄く色がよく,発芽力が強く, デンプン含量が多く,タンバク質含量は高くないことなどが大切な条件で,二条種はこれらの 条件をよく満たしている.良質品種の育種に際しては麦芽エキス含量,酵素力,最終発酵度な ど多くの項目にわたり高度の品質検定が行われる.新品種候補系統は育成者とビール業界の合 同による品質試験を行ったうえでビールムギとしての採用がなされる.その他焼酎の副原料デ ンプン,味噌用などにも用いられるが,最大の用途は飼料用で,トウモロコシ,ソルガムなど と配合される.麦茶には皮性の品種を炒って用いる. ☆麦類品種の播性,  大麦と小麦では花芽分化への低温要求度を主な尺度とした播性(まきせい)程度で品種を 7段階に区分している.長期間の低温が必要なものを秋播性程度が高いという.早春に何回 かに分けて播種し基準品種の出穂期と比較して区分する.基準品種があり,それらと比較し て播性程度を決定する.一般には播性程度の高い品種が寒地に,低いのが暖地に分布する. ☆麦の不耕起栽培,  通常稲跡で,播種部分だけを浅く耕して麦を播くこと.省力できる.雑草が問題.二毛作 限界地帯では,作物切換え時の作業競合が著しいので耕起・砕土を省略できる不耕起播種が 適期播種,規模拡大に有効である. ☆エンバク 燕麦 oat Avana sativa L.  初め麦畑の雑草であったが低温や乾燥で麦が実らない年でもエンバクは実ることがあり,その ためやがて作物として独立し,麦と共に各地に伝播していった.冷涼なやや湿った気候に適する. 耐寒性はあまり強くない.乾操に対する抵抗性は麦類中一番小さい.土壌の適応性の幅は広い. 世界の平均収量は1.7t/ha.ロシア,カナダ,アメリカなどが主要生産国である.青刈り用にも 多く栽培されている.わが国はすべて青刈り用.倒伏しやすいので耐倒伏性が重要である.出穂 後冠さび病が多発する.冠さび病抵抗性のマルチライン品種がアイオワで普及された.自殖. 子実を搗精,圧扁してオートミールの原料とする.古くは主食あるいは救荒食料とされた.飼料 用特に馬用に重要であるが,他の動物にとっても飼料価値が高い.写真 戻る ☆ライムギ rye Secale cereale L.  栽培化されたのは他の麦類より新しい.各種不良環境に対する耐性が強く,麦畑の雑草だった が麦頬の栽培不安定地域で独立した作物として栽培化されていった.耐寒牲は麦類の中で最も強 く,不良土壌に耐えコムギの生育が不良な所でも栽培できる.世界での収量は2t/haである. ポーランド,ロシア,ドイツが多い.その他青刈り用に広く栽培される.根の発育は他のムギ類 と比べて極めてよい.穂の外見は二条オオムギに似る.葯が著しく長くて大きい.風媒による他 家受粉を主とし自家受粉では稔実が悪い.自殖率は品種問で差が大きい.コムギ同様グルテンを含 むので製パン性あり.粉色は黒く酸味あり特有の風味を有する.飼料用にも用いられる.写真 ☆ライコムギ triticale X Triticosecale Wittmack  コムギとライムギの交配から創られた新作物.コムギにライムギ持つ耐病性,耐乾性,不良 土壌への耐性などの導入を目的とした.当初は不稔が多く遺伝的に安定しておらず,広く普及す ることにはならなかったが,ライコムギにさらにコムギを,またライコムギ同志の交配により, 稔性が良く,充実した粒,短強稈など農業特性の優れたものを作る努力がなされ,製パン適性の あるライコムギもできている.穂や植物体の形態はコムギに似る.今までコムギの栽培できなか った所で栽培され,世界での面積は2.2百万ha(1997年)で,作物として確固たる地位を占め つつある.収量は平均3.3t/haでコムギより高い.ドイツ,ポーランドなどが主な生産国. ☆赤かび病  開花期前後の長雨で多発し,子実の発育不全やかび毒混入など被害が大きい.抵抗性の品種間 差はあるが小さい.開花〜乳熟期に殺菌剤を散布して防除するが,降雨が続くと効果が低下する. 早生品種で雨害を回避するのも一手段である. ☆さび病  さび病は葉を侵して低収にする.過繁茂で多発する.病菌増殖のサイクルを絶つため,前年の 罹病株を焼却することが大切である.黒さび病菌は担子菌類に属し,ムギの葉上で夏胞子と冬胞 子2種類の胞子を形成する.葉,葉鞘,茎に発生する.葉では,金属の赤さびのようなやや大型 の紡錘形の病斑が散生する.これは夏胞子層で,その表面に夏胞子が形成される.そののち,濃褐 色の斑点が形成される.これは冬胞子層であるが,両者が混在する場合も多い.多発すると低収 となる.抵抗性に品種間差があるが病菌は多くのレースに分化している. ☆雪腐病  多雪地帯に発生し坪状に株を枯死させ,褐色小粒菌核病,黒色小粒菌核病,紅色雪腐病,大粒 菌核病,褐色雪腐病の5種がある.北海道では道北東部に大粒菌核病,道央多雪地に小粒菌核病, 全道に褐色雪腐病が発生する.抵抗性品種の適期播種,根雪前の薬剤散布,春の融雪促進などで 防除する. 戻る ☆うどんこ病  多肥,密植,晩播で発生する.本病菌は子のう菌類に属し,子のう殻内に子のう胞子を形成する. 主に葉に発生するが,葉鞘,穂にも発生し,うどん粉を振りかけたような外観を示す.のちに灰 色から淡褐色となり,その上に黒色の小粒(子のう果)を形成する.多発病しなければ収量への 影響は小さい.殺菌剤散布が有効である.抵抗性に品種間差があるがレースの変化も起きる. ☆大麦縞萎縮病  土壌伝染性のウイルス病で,二条種で被害甚大.抵抗性品種育成が進んだ. ☆麦の雑草  スズメノテッポウ,ノミノフスマ,ヤエムグラなどが発生する.除草のため,播種直後〜麦出 芽前に土壌処理の除草剤を散布する.生育初期には耕種的な除草法として中耕や土入れを行う. 動力土入れ機や小型管理機を利用して数回行う.土入れは分げつ促進効果もあり,また排水溝管 理も兼ねる.生育中期に雑草が残っている場合は,その種類に応じた選択性の高い茎葉処理の除 草剤を散布するか,手取りによるが,困難なことが多いので初期防除に努める.
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[大豆]

soybean Glicine max (L.) Merr. ☆大豆の起源  大豆の原型はノマメ(ツルマメ).ノマメは中国〜日本にかけて自生し,2n=40で大豆と同じ で容易に大豆と交雑する.中国では5千年前から栽培され,日本には弥生時代初期に伝来した. 米国は19世紀に日本,中国から導入し,当時は目だたない牧草にすぎなかったが,半世紀の後に は主要穀物になり,米国の戦略作物ともなった.この急速な伸びは近年の作物の歴史上他に類が なく,これはこの間の各生態型に適応した,多収,耐病性,機械適性品種の育成なしにはあり得 なかった. ☆大豆の栽培法  わが国での播種期は寒地では5月中下旬〜6月上旬,暖地では7月上〜中旬.晩播では減収す る.10株/uの苗立ちを目標とし,晩播では増やす.施肥量はN:2〜2.5,P:8〜10,K:5〜 8kg/10aで他作物より窒素を少なくする.除草のため,播種後〜発芽前の除草剤散布と大豆の 生育早期に中耕培土を行う.病虫害防除は,寒地ではタネバエを種子消毒で,わい化病を媒介す るアブラムシ,菌核病,マメシンクイガなどを薬剤散布で,センチュウを輪作で行う.暖地では ハスモンヨトウ,カメムシ,紫斑病などの防除を8月〜9月にかけて数回薬剤散布して行う.暖 地で適期より早播きすると過繁茂し,病虫害の発生が多くなる.連作で減収する.イネ科−大豆 −根菜類の作付体系が望ましい.大豆後は有機質(茎葉,根)を多く残す.なお枝豆は大豆であ り,極早生品種を早春,ときには温室中で播種して,完熟前に収穫する. ☆大豆の不耕起栽培  麦後などで,降雨後早くから播種作業が可能となる長所がある.麦の株間に作条・播種・覆土 した上から切断した麦わらを落下させる.雑草防除が一番の問題で,播種直後と生育期に除草剤 散布を行う. ☆大豆の生態型  大豆は短日作物で開花まで日数が最も短縮される最適日長は早生品種が11〜13時間,中生品 種10〜12時間,晩生品種8〜10時間である.開花まで日数と日長感応性により生態型をIa(北 海道と九州の夏大豆)〜Vc(九州の秋大豆)までの9段階に日本では分ける.注;夏大豆:暖地 で4月下旬播種,8月中旬収穫に向く品種(実際栽培はない).秋大豆:暖地で通常の7月上〜中 旬播種で10月末〜11月始めに収穫する品種.  米でのグループ分けは00(極早生で長日)〜X(晩生で短日),IXとXは赤道の両側である. 0と00は最北部,IとIIは北部コーンベルト,IIIとIVは中央コーンベルト,V,VI,VIIはミシシッ ピデルタと南部諸州に栽培される. 戻る ☆大豆の育種目標  多収.子実収量はわが国の平均で1.5t/ha位と稲麦などよりかなり低い.但し貯蔵物質が蛋白 (40%)や脂肪(20%)である.適切な成熟期(日長と成熟期に関係).倒伏や脱粒抵抗性(有限 伸長型が倒伏には強い.多いときには30〜50%もが脱粒する).窒素固定能力(根粒菌の利用 効率のよいもの.根粒菌非着性系統利用でわかる).耐寒,乾性(低温発芽や生育で早播可能に なる).耐病性(根や茎腐れ,糸状菌,バクテリア,ウイルス,ネマトーダ,褐斑病−ウイルス の罹病),耐虫性(カメムシ,センチュウ・・),臍(へそ.種子と莢の連結部)の色の濃くない もの,など. ☆大豆種子の品質や成分: 1)市場での(みかけ)品質.種皮の色,欠損,しわ.太ったものは脂肪含量が高い.しわ粒 は不適品種やり病.紫色は市場価格を下げる.  2)脂肪含量と質.大豆脂肪は世界の植物脂肪の3割を占める.オレイン酸含量を増やすとリ ノレン酸が減り,脂肪の香りと安定性が増す.  3)蛋白含量と質.蛋白を増やすと脂肪が減る.制限アミノ酸はメチオニンだが遺伝変異は少 ない. ☆大豆の加工適性及び新用途の開発  わが国の輸入量は世界の生産の5%の500万t.このうちの8割の400万tが製油用.国内 産(25万t)はすべて食品用.大豆蛋白含有率は30〜50数%.蛋白含量が高いほど豆腐は硬い. 大豆の脂肪酸組成はリノール酸が55〜60%,オレイン酸が20%位.リポキシゲナーゼは脂質 を酸化して青臭い不快臭を発生させる酵素である.食品加工では加熱処理で不快臭防止する. 加熱すると蛋白質の変性による不溶化を招き食品の品質低下になる.リボキシゲナーゼ欠乏品種 が育成され,ほとんど臭みがなく,プリン,アイスクリーム,水産練り製品への添加などへの 利用が考えられる(喜多村1990).
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[いも類]

☆いも類  肥大した地下部を利用する作物の総称.ジャガイモは茎(塊茎),サツマイモは根(塊根)が 肥大する.栄養繁殖であり,倍数体である場合が多い.一般に不良環境によく耐え,栽培がや さしく,多収である.  一方,種イモがウイルス病に侵されやすい.貯蔵中の腐敗が多い.増殖率が低い. ☆サツマイモ(カンショ,甘藷 sweet potato Ipomoea batatas (L.) Lam.)の起源,伝播,生産  ヒルガオ科サツマイモ属に属しアサガオと近縁である.本属の2〜6倍体各種が中南米に分布 し,その内イモを形成する倍数体が起源で,サツマイモは六倍体(2n=90)である.わが国へは 琉球,薩摩を経て1735年に青木昆陽が江戸へ導入した.酸性,アルカリ土壌に耐え,不良環境下 でも栽培可能である.アジアでの生産が多い.わが国では戦後1949年に44万ha栽培され,救 荒作物として食糧飢餓を救った.以後減少し現在は4万ha位.収量は2t/10a位.関東と南九 州に多い.→塊根(9KB.写真;森川義規) ☆サツマイモの形態  茎は蔓性で2〜6m伸び,多くの分枝を伸ばす.根は不定根で,根が肥大して塊根となる. 塊根肥大には,適温(20〜30度),カリの多用,日照,土壌が乾燥,緊密,多窒素にならず, 適度の湿度と通気,といった条件が必要である(戸苅1950).葉は水平で最適LAIはイネ科にく らべて低い.光合成速度も20mgCO2/dm2/hrで低い.しかし収穫指数が高く(0.5〜0.6),塊根の 生育期間が長い,等のため単位面積あたり高いカロリー生産量の作物である.生育可能な温度は 15〜38度だが,24度以上がよい.わが国では福島以南.乾燥には比較的強いが,生育期間中 500mmの降水量が望ましい. ☆サツマイモの開花,品種  温帯ではまれに開花し,葉腋からでる花梗に4〜5花づつ咲く.種子は硬実性を有す.人為開花 にはアサガオに接き木する.自家不和合性で,交配不稔群が存在する.  昔の品種は実生由来の個体や芽条変異が起源で,わが国では大正から在来品種の系統分離,昭 和から交配育種が始まった.原料用品種は,でんぷん原料(飴,ブドウ糖,食品加工原料など)と して高でんぷんや多収,食用では良食味.他に,耐病性(黒斑病,ウイルス病),センチュウ抵 抗性,萌芽性が良く,貯蔵性,育苗容易などが育種目標である. 交配実生種子由来の栄養系を増殖,評価,選抜する. 戻る ☆サツマイモの栽培法  苗床で,萌芽のため30度を約1週間保つ.萌芽後は23〜25度にする.10a当り種いもが100 〜200kg位必要.本圃はN4〜8,P4〜6,K10〜20kg/10a施肥.カリは光合成を促進し肥効が大 きい.多Nはつるぼけ(茎葉が過繁茂しいもが太らない)になるのでNは控えめにする(野菜後 など注意).完全展開葉が5枚以上で長さ30cm位の苗を移植する.太く硬いのがよい.植付け適 期は平均気温19度,地温が18〜20度,暖地で5月中〜6月下旬(早めがよい).3〜5本/u 植える.高畦とする.早植えではマルチ栽培する.無傷のイモを翌年用に貯蔵す.適温は13〜 14度,湿度は85〜90%,15度以上だと萌芽し貯蔵養分が消耗し,9度以下は腐敗しやすい. (半)地下式の貯蔵庫が適す.連作には耐えるが,センチュウやウイルス害がでる前に転換する. ☆ジャガイモ(バレイショ,馬鈴薯 potato, Irish potato Solanum tuberosum L.)の起源・生産  ナス科ナス属に属す.起源は中央アンデス、チチカカ湖付近.A.D.500年には現在の栽培四倍 体種(2n=48)が栽培されていた.旧大陸へはスペインのメキシコ征服(1512年)以降,新大陸 へは1613年,日本へは1601年オランダ船で長崎へ伝播した.いも類のうちで最も広範囲に世界 中で生産されている.冷涼な気候を好み世界の産地は年平均気温が5〜10度の地域である.熱 帯では高地で栽培される.生育期間の平均気温は21度前後,生育に適当な降水量は300〜450mm とされる.北海道で多く生産され,長崎では二期作される. ☆ジャガイモの形態,生長  塊茎が葡枝(茎)の先端に付く.イモの目(くぼみ)は節の葉,分枝が生ずる部分で葉腋に相 当し,そこから萌芽する.先端の目の萌芽力が強い.萌芽は4〜8度で始まる.初期の生育は種 イモの貯蔵養分に依存するが開花期ころには貯蔵養分は消滅する.サイトカイニン,オーキシン が澱粉蓄積を促進する.開花始めから肥大が始まる.塊茎肥大の最適温度は15〜18度で,地温 が27〜30度を超すと塊茎生育が妨げられる.塊茎は堀取り後休眠にはいるが品種間差が大きい. 休眠中は生理代謝が低く貯蔵養分の消費は少ない.全乾物生産量は他の作物と大差ないが高い収 穫指数のため多収になる.塊茎肥大期には光合成産物の9割が塊茎へ転流する. ☆ジャガイモの品種  1840年代に欧州で疫病が大流行したのを機会に組織的な育種が開始された.わが国では明治初 期に導入された欧米品種の男爵イモ,メークインが現在でも栽培されている.萌芽が良,着生位置 の良,白い皮色,目が深くなく,良食味またはでんぷん含量の高い,多収,貯蔵性良,加工適性 良,二期作では短い休眠,耐病虫性(疫病,そうか病,ウイルス病)等の品種がよい。 戻る   ☆ジャガイモの栽培  深起する.施肥効果が高く3〜4t/10aの収量を得るにはN8〜10,P10〜12,K12〜15kg/10a施用 する.K必要量が多い.ウイルスフリーの種イモを選ぶ.種イモを2〜4個に切断し,暖地では 春作は2月中旬,秋作は8月上旬〜9月上旬に植える.条間60〜75cm,株間30〜35cm,深さ5 cmとする.10aあたり100〜150kgの種イモを要する.収量は3〜4t/10a.貯蔵には0〜8度を 保つ. ☆キャッサバ cassava, manioc, tapioca plant Manihot esculenta Crantz  広く世界の熱帯・亜熱帯に栽培される.干ばつに強く,年間雨量が50〜500mmで栽培可能. 年中栽培でき,面積当り生産カロリーがきわめて高い.短年生の潅木で草高2〜3m.茎の基部 からでた不定根が肥大し塊根となり,1個体に5〜10個つく.茎を切って移植する.収量は1.5 〜3t/10a.熱帯では米につぐ主食である.青酸を含む種類があるが,加熱,水洗,乾燥で無毒と なる.抽出したでんぷんがタピオカデンプンで,料理,加工,アルコール原料に使われる.
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[トウモロコシ]

corn, maize Zea mays L. ☆トウモロコシの起源,生産  メキシコ,ボリビア近辺を起源.アメリカ大陸内で農耕が始まったBC2千年頃から栽培され, 南北大陸に広まった.コロンブス(1492)がスペインへもたらし,その30年後には欧州中へ伝播した. 全世界で栽培され,3大作物の一つ.わが国での生産は穀実用はほとんどなく,青刈り飼料用が 主である.濃厚飼料用として大量に輸入される. ☆トウモロコシの形態  雌雄異花で他殖作物だが,自殖もできる.葉は各節から互生し,長大でLAIは22にもなる. C4植物.茎は直立し,1〜4m.分げつはほとんどない.雄花は茎頂端にあり雄穂(tassel)という. 雌花は茎の中位で1〜3節の葉腋に1個ずつ互生し雌穂(ear)という.雌雄両花とも発生途中まで は両性器官をもつが発生後期に一方が退化する.まれに雄穂にも結実する.雄穂は長い穂軸の各 節から枝梗を生じ多数の小穂をつける.1小穂は2小花.雌穂は分げつの節間が短縮しその先に 形成された穂とみなせる.穂軸表面に対をなして2列づつ小穂が8〜20列並ぶ.1小穂2小花で, 下位小花は退化し上位はよく発達して結実する. ☆トウモロコシの集団選抜 mass selection  植物体や穂の特性で個体選抜し,収穫した種子を混合し翌代として播くことをくりかえす. 栽培の極初期からなされたと思われ,成熟期、稈長、穂や粒の外観では選抜効果があった.収量 は向上しなかった.これは(a)ヘテロ集団から多収個体を識別しにくい.(b)多収個体でも 他の花粉が受粉して子孫で再現されない.(c)特定個体の強選抜が近親交配になり自殖弱勢に なる.(d)個体単位の観察なので環境の影響を評価できずに選抜するので誤差が大きい,こと による. ☆1穂1列法 Ear-to-Row breeding  イリノイ農業試験場で1896年に始まった.50〜100の穂をとり,1穂の種子の一部を1列に植 える.残りの種子は翌年まで保存.各列の外観,収量をみる.すぐれた10〜20を決定する.と ってあった種子を混合して播く.穂を選抜しこれを繰り返す.選抜個体に未知の花粉が受粉して おらず,外観で判定できる形質の改良は急速であったが,収量など外観では判定が困難なものは 集団選抜同様向上しなかったので,反復つきの試験をして改良した. 戻る ☆品種間交配 Variety Hybridization  異品種(open pollinated)同士の交配によってできたもの.1880年ミシガン農業試験場のBeal が1つの品種を除雄し,その横にもう1つの品種を植えて受粉させた翌代が多収になったと報告 した.遠縁の品種間交配で多収となった.次のHybrid品種を示唆するものとなった. ☆Hybrid Corn  1909年にG.H.ShullやEdward Eastは,近親交配をして近交系をつくり,近交系同士を交配 して多収で均一な単交配をつくることを提唱した.この方法はトウモロコシ育種方法を完全に革 命的にした.当初近交系による採種量が少なく,種子が高価であったが,1918年にD.F.Jones が単交配同士の交配の複交配をすることで解決した.1920,30年代に近交系育成,単交配や複交 配の組合せ能力検定が精力的におこなわれた.1940年代までには米国コーンベルト中がhybrid 品種になった.1950年代には除雄操作を省くため細胞質雄性不稔−稔性回復遺伝子利用システム ができあがった.雄性不稔細胞質をもつ系統にごま葉枯病が発生し,利用は一時中止され他の細 胞質の探索と検定が始まった.この期間に近交系の改良が進み,近交系の生育収量が向上し,19 60,70年代にかけて徐々に,最初Shullが提唱したように単交配による採種が複交配にとって変 わった.また,これは組合せ能力の検定法を容易にし,育種目標の設定を容易にし,多収育種が さらに進んだ. ☆育種目標  収量:多くの形質が複合して表現された結果で多くの関係遺伝子を集積して多収になっていく. 例えば,光合成,呼吸,転流・・,成熟期,倒伏抵抗性,耐病虫性・・である.とくに注目形質 として,草型,登熟期間の長さ,多穂性,葉の角度(直立葉にして光の透過をよくする)・・.  適応性;該当生産地に適した成熟期,土壌肥沃度への反応,暑さや乾燥への抵抗性,耐寒性, その他直接間接には耐病虫性も影響する形質で,広範囲の環境条件へ適応するのが望ましい.  倒伏抵抗性;組織的に弱い,根腐れ,虫害などが要因である.短稈品種は一般的に強い.  耐病虫性;葉枯病,ごま葉枯病,黒穂病,アワノメイガ・・・.  品質;高蛋白.イリノイでの1穂1列法で1896年の自然受粉品種のBurr White(10.9%) から10世代で14.26%へ,70世代で26.6%へ増加した.低いほうへは,70世代で4.4%になった. このことは非常に多数の遺伝子が関与していることを示す.  蛋白の質:opaque-2遺伝子のLisine含量は4%で通常の倍である.取り込みの努力がなされ ているが,収量が落ちる,粒が小さくなる,胚乳がやわらかくなる,耐病虫性が劣る,の問題があ る.  高油脂;イリノイの実験で,元の4.70%が10世代で7.37%,70世代16.64へ,、低い方向では 70代でたった0.40%となった.同時に胚の大きさが変わった(高油脂は胚が大きい).
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[雑穀など]

☆ソルガム(モロコシ) sorghum Sorghum bicolor (L.) Moench  世界第5位の穀類で半乾燥・準熱帯の主要作物.乾燥や高温へ耐える.わが国は飼料用に多量 に輸入.遺伝的多様性に富む.自殖作物だが6%程度の他殖をする.F1品種が発達しているが, 在来種は低収でも不良環境に強い.写真 米国では早生品種育成のおかげで,高緯度,短い夏,小雨の地域でも栽培可能になった.低温 発芽性が早生化に寄与した.その他,短稈,耐倒伏,穂が完全に抽出することでの機械収穫適性 高温・乾燥への抵抗性,耐病虫性が付与されている.また耐鳥性(アフリカではうその類の Quetasがソルガム生産者への悪夢)が,果皮と種皮にタンニンをふくませ未熟種子を苦くする, 穂を密穂でなく散穂にして鳥がとまりにくくする,の2つのアプローチで試みられている. ☆トウジンビエ pearl millet Pennisetum typhoideum Rich.  アフリカ,インドの半乾燥地域の主要穀類作物.茎葉も利用する.米国では飼料として利用. 完全花だが,雌蕊先熟(出穂の2〜3日後に柱頭が抽出し、葯は柱頭が乾燥してから抽出)で 80%の小花が他殖する.多くの在来品種がアフリカやインドで集団選抜された.今日では改良F1 品種が育成されている.育種目標は,多収と環境ストレスへの抵抗性であるが,主食を頼ってい る地域では毎年安定した収量をあげることが良好な条件下で多収をあげることより重要である. 早生は水分欠乏の前に収穫可能にして乾燥を避けうる.在来種は高く細い稈で弱いので,耐倒伏 性のため,短強稈,根腐れ病抵抗性を導入する.ただし乾燥地や低肥沃地での短稈遺伝子はあま り望ましくない.べと病,麦角病,黒穂病抵抗性品種が育成されている.トウジンビエは全粒を 砕いてかゆにしたり,粉砕して粉にし,種なしパン,chapatisまたはpasteとする.エンバク以外 では蛋白含量が主な穀実作物の中で一番高い.普通,光沢があり,太く,真珠−こはく色の粒が 好まれる.写真 戻る ☆キビ 黍 (common) millet, proso millet, hog millet Panicum milliaceum L.  原産地は中央・東アジア,わが国へは古く伝播した.生育期間が極短かく春播き,夏播きが 可能である.耐乾性がある.米と混炊したりキビ団子,醸造,飼料用にする.一部他殖する. 千粒重は5g前後.収量は100kg/10a程度と低い.古くは主要穀類であった.写真 ☆アワ 粟 Italian millet, foxtail millet Setaria italica (L.) P.Beauv.  原産地は中央・東アジアで,わが国への伝播は古い.生育期間が短く春播き,夏播きが可能. 糯品種が多く,米と混炊される.菓子,小鳥の餌にもする.自殖作物.千粒重は2g前後の小粒 である.収量は収量は100kg/10a程度と低い.古くは主要穀類であった.写真 ☆ヒエ 稗 Japanese millet, barnyard millet Echinochloa utilis Ohwi et Yabuno  原産地は中国,インドで,日本では最古の作物である.夏播きされることが多い.味は劣る. 長期貯蔵が可能である.稔実歩合は20%位と低い.自殖作物.不良環境に極強い.写真 ☆サトウキビ sugar cane Saccharum officinarum L. 禾本科に属する長大植物.ローマ人がインドでサトウキビから砂糖を抽出していると記している. 適地は熱帯で気温高く年降水量1200〜2000mmを要す.気温24〜25度,20度以上が好ましい。 栄養繁殖し地上部を挿し木する.茎はやや硬く多汁糖分を多量に含む.挿し木してから10カ月 〜1.5年を要す.一度刈り取った株から分げつが再生し何度も収穫できる.他殖で自家受粉は1% 程度である.育種目標;耐病性(黒穂病,葉焼け病,赤腐れ病,株腐れ病,矮化病,モザイク病 など),茎の長く太いこと,分げつ力旺盛,出穂の遅い(含糖率が高くなる),搾汁率の高いこと, 成熟期が早い,旱害,風害耐性など. ☆テンサイ 甜菜 sugar beet Beta vulgaris L.var. rapa Dumort.  世界の多くの国で栽培され,全糖生産の約4割を占める.ロシア,アメリカに多い.比較的多 雨を要し,夜間の低温で糖含量が増加する.飼料用のビートが起源でその根の糖含量は7〜10 %程度であったが,19世紀後半に,正確な糖含量推定と後代検定による品種改良により,現在は 20〜22%もに改良された.根の収量は50〜75t/haと多い.各種病害も多かったがウイルス病, 黒根病,褐斑病抵抗性の育種も進んだ.多胚種子であり発芽後間引きが必要であったが単胚種子 の発見で間引きが不用になった. 戻る ☆ソバ 蕎麦 buckwheat Fagopyrum esculentum Moech  豆類を除くと双子葉類で子実目的の作物である点が特異的である.ロシアの生産が多く,他に 北欧,北米,わが国では北海道と鹿児島での栽培が多い.収量は100kg/10a程度と低い.極早生で あり,不良環境条件下でも生育する.虫媒による他殖(花柱が長く雄蕊が短い長柱花と逆の短柱 花の個体があり,その間でしか受精しない)で,品種は一般に雑駁である.育種は集団選抜か一 穂一列法によるが,収量,耐倒伏,耐脱粒性などの選抜には困難が多い.
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[環境保全]

☆環境アセスメント, 環境影響評価 ならかの開発行為を行おうとする場合,事前にその周辺の環境,特に自然環境にどのような影響 を与えるかを調査して予測し,影響の有無や大きさをあらかじめ評価すること.1997年に環境ア セスメント法が成立した.大規模な公共事業についての評価が特に問題となってきたが,今日こ の用語は広義に他の営み,例えば農業自体が自然環境に及ぼす影響についてなどにも使用可能である. ☆地球環境の変化と作物  化石燃料の大量消費等によりCO2が増加し,1890年頃(産業革命開始時)には280〜290 ppmと推定されているものが,現在は350ppmに達している.CO2増加への反応は作物で異 なり,C4作物で大きい.CO2濃度が倍増すると平均気温は3±1.5度上昇するとされ,日本 の稲作は東北以北で増収,それ以南で減収すると予測される.メタンガスはCO2についで大 きな温室効果をもち,現在毎年2%の速度で増加している.発生源は水田,湖沼での嫌気性発 酵や,動物の腸内発酵が主要とされる.イネが栽培されている水田からは,裸の水田よりも多 くのCH4が放出される(堀江1991). ☆環境保全型農業  農業の持つ物質循環機能を生かし,生産性との調和などに留意しつつ,土づくり等を通じ て化学肥料,農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業.このため,土づく りや合理的作付体系,家畜ふん尿・生ゴミ等の有機物のリサイクル等,環境に配慮した農法の 確立,普及,定着が必要である.また,中長期的には需給のひっ迫化が予想される石油情勢や地 球温暖化をはじめとする地球環境問題等を踏まえた省エネルギー・省資源の推進も重要である. ☆低投入持続型農業 LISA, Low Input Sustainable Agriculture  できるだけエネルギーや化学物質を投入することなく生産をあげ,その生産が長年月にわた って可能にしようとする方式.環境と調和した生産を目指している. ☆持続型農業 sustainable agriculture 農業活動にかかわる環境要素をすべて勘案しつつ,資源が枯渇しないように置換または更新し ながら行う農業.将来の世代が農業活動をするための能力を損なうことなく,現世代の農業活 動を行うこと. ☆環境負荷  人が環境に与える負担のこと.単独では環境への悪影響を及ぼさないが,集積することで悪影 響を及ぼすものも含む.環境基本法では,環境への負荷を「人の活動により,環境に加えられる 影響であって,環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう」としている. 戻る ☆温室効果ガス  大気のなかの,温室効果のある気体.地球温暖化に関与するものとしては,大気中の二酸 化炭素,メタン,一酸化二窒素,対流圏のオゾン,フロンなど.現在二酸化炭素の大気中の 濃度は350ppmくらいである.これに対しメタンは1.7ppm,一酸化二窒素は0.3ppm,オ ゾンは0.03ppm,フロンガスは0.001ppmというわずかな量だが,メタン以下のこれら微量 気体全体の温室効果はきわめて大きく,二酸化炭素の温室効果と同程度の役割をしている. ☆内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)  動物の生体内に取り込まれた場合に,本来,その生体内で営まれている正常なホルモン作用 に影響を与える外因性の物質.近年,環境中に存在するいくつかの化学物質が,動物の体内の ホルモン作用を攪乱することを通じて,生殖機能を阻害したり,悪性腫瘍を引き起こすなどの 悪影響を及ぼしている可能性があるとの指摘がなされている. ☆コンポスト  生ごみなどから作った有機肥料.藁や家畜糞尿を好気的に発酵させた堆肥などの有機肥料. 都市からの生ゴミや下水汚泥から作られる有機肥料のこともいう.家庭では生ごみを発酵菌 とともにプラスチック製容器に入れ発酵させて作る. ☆アグロフォレストリー agroforestry 作物と林木を同時に生産すること.農地に生えている木を農業に利用すること.果樹,ナッツ類 などの直接利用を始めとして,木は農業に昔から燃料,木ぐい,土壌浸食防止,肥沃化,生物の 多様性維持などのために利用されてきた.農地に樹木を取り込むことで,生態学的な天然資源管理 システムを構築することを目的とし,このような旧来の慣習を今日の科学として見直す試みがなさ れている.ここでの天然資源管理システムとは,生産の多様化や持続性を可能にするようなものを 前提としている. ☆酸性雨 火山活動や化石燃料によって排出された硫黄酸化物や窒素酸化物などが大気中の水を酸化しため, 酸性となった降水.基準値は国で異なり,わが国では一般に5.6以下の降水をいう.空気の清浄な 地域の雨はpH5.6位である.通常ph5.6〜5.3で,時にpH4.0前後の値が観測されることもある. 土壌の変質や森林の枯死をもたらし,生態系に悪影響を与える.酸性霧は葉を被うので降雨より害 が大きい. ☆農薬 作物を害する病害虫,雑草,ねずみなどを防除して作物を保護したり,作物などの生理機能を増 進または抑制をして,農業の生産性を高めるために用いる薬剤.安全性確保のため,毒性試験や 環境関連の試験データによる国への登録が必要である.残留農薬基準や安全使用基準が設けられ ている.わが国では,江戸時代にイネ害虫のウンカを防除するために鯨油を水田に注いだのが農薬 の第1号といわれている. ☆生物農薬 自然界に存在する微生物や天敵昆虫を用いた農薬.微生物農薬は現在,BT剤(昆虫病害菌である Bacillus turingiensisの産出する毒素を製剤化したもの)がアブラナ科野菜の害虫である コナガの殺虫剤として使用されている.天敵農薬には,寄生バチ,捕食性ダニなどがあり,ハダニ類 などを対象としている.欠点は,対象作物が限られる,効果が緩慢,製品の不均一性などである.生 物的防除はより広い意味であり,誘引性フェロモン利用,害虫不妊雄の大量導入なども含む. ☆総合的病害虫管理 作物への病害虫による被害を防ぐのに,化学的農薬のみに頼るのでなく,生物的農薬の使用,耐病虫 性品種の使用,あるいは被害を避けうる栽培方法をとるなど,各種の方法の長所をあわせ,環境への 負担をできるだけ少なくしながら,総合的に防除すること.単に総合防除ともいう. ☆バイオレメディエイション 生物的浄化 bioremediation 土壌,河川,地下水などに含まれる汚染物質を微生物,植物などの生物を利用して分解,浄化する こと.植物の浄化効果としては,無機イオンの吸収,光合成による酸素・炭水化物の供給,酸化還 元電位の低下による硝酸などの分解,脱窒や脱リン,細胞壁による重金属固定,水の濾過などがあ る.ホテイアオイは浄化能力が高いとされる. ☆マルチ 作物を栽培するときに地表面を被覆すること,またはその被覆するもの.わら,草,ポリエチレン フィルム,紙などを用いる.地面からの蒸発を少なくする,地温変化の抑制(過高温・低温の防止), 土壌浸食の防止,雑草防除などの効果がある. ☆有機農業 肥料,農薬などに化学的に合成されたものの使用を避け,有機質資材を用いて地力を養い,天敵や 小動物を利用して除草や病虫害防除を行うことで作物栽培を行おうとする農法.持続型生産,ある いは農薬汚染のない食料生産を目的とする.国の有機農産物表示ガイドラインによると,3年以上 農薬,化学肥料などの使用を中止し堆肥などで土づくりしたほ場で生産した農産物を有機農産物と 表示できる.使用量を一定量削減した場合は特別栽培農産物で,その内容により無農薬,無化学肥 料,減農薬,減化学肥料栽培農産物と表示する.表示ガイドライン ☆クリーニングクロップ (清耕作物)  土壌への過剰施肥や畜産廃棄物による過剰養分の土壌からの除去,連作によって増加した土壌 微生物やかたよった微生物相の是正,あるいは富栄養価した水域の浄化などを目的として栽培さ れる作物.畑での過剰養分吸収のためには,吸肥能力の高い粗大イネ科作物のソルガムやトウモ ロコシ,連作障害回避のためには,センチュウ駆除効果のあるマリーゴールド,ハウス栽培にお ける過剰養分吸収にはスイートコーン,水質の改善のためには,水生植物で養分吸収能力の高い ホテイアオイなどが用いられる.
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[土壌作物栄養]

☆土壌診断 土壌の改良や適切な施肥法などの指針を作るために,土壌の諸特性を調べ,問題点の有無,その状態, 改善のための処方を明らかにすること.作物の生育状況,土性(砂土,壌土,埴土),土壌中の養分(腐 食含量,酸度,NPK含量など),物理性(ち密度,水分,空気率など)などから総合的に判断する. ☆土壌微生物 土壌中に生息する細菌,放線菌,糸状菌などの総称.腐植の集積,窒素固定,養分供給などで農業上有 益になる場合と,土壌病害,脱窒,硝酸還元作用による根腐れなどで有害な場合がある.わが国の自然 土壌の表層1g当たり細菌数は百万〜数千万とされる.土壌中の有機物を分解し,自然界における物質 循環の中で大きな役割を果す. ☆土壌肥沃度 作物が高い収量をあげるための土の力.地力.地力保全基本計画調査では土地の生産力を以下の項目を 用いて分級している.表土の厚さ,有効土層(根群域)の深さ,表土の礫含量,耕耘の難易,土地の乾 湿,自然肥沃度(置換塩基容量,リン酸吸収係数,土層の塩基状態),表土の養分の豊否(有効態窒素含 量など),有害物質,地すべりや冠水のおそれ,傾斜など.水田は他に,湛水透水性,酸化還元性が項目 に加わる. ☆塩類集積salt accumulation 極多肥,ビニルハウスなどの施設内,蒸発量が降水量を上回る乾燥地帯などで,水が表層に移動して 各種の塩類が土壌表層に集積すること.生育の障害や,世界的には砂漠化の原因ともなる.一般には 粘土や腐植の少ない土壌で被害が大きい.土壌診断(電気伝導度,塩基の量,硝酸態窒素などを測定) により判定する.対策としては,施肥の合理化(過剰に施肥しない),土壌水分の適正化,湛水による 塩類除去,植物に吸収せさて外に排出するなどがある. ☆有効土層と作土層  作物根が貫入しうる土層を有効土層という.水田では50cm以上,畑,樹園地では1m以 上あれは良好な耕地とみなされる.作土層は土壌の最上部に位置し,耕うんや施肥,灌水など, 作物を栽培するために,人間が土壌に強く影響を与えている土層. ☆土壌の三相分布  土壌中の固体,水,空気の部分(固相,液相,気相)の容積割合(%).液相%(水分 率)と気相%(空気率)の和を孔隙率.透水性・保水性・通気性と密接な関係があり,作 物の生育にとって重要である.通常,固相率が40%,液相率と気相率は30%で,気相率 は少なくとも20%必要とされる. ☆圃場容水量  畑状態で十分な降雨があった後1〜2日経過して,重力水が根圏から排水され,水の下 降浸透が少なくなったときの土壌水分の状態で,畑土壌が重力に抗して保持しうる最大の 水分量にあたる. ☆しおれ点  土壌水分が減少し,植物の吸水に見あう水分の補給が間にあわなくなり,しおれはじめ るときの土壌水分の状態. 戻る ☆永久しおれ点  土壌水分が減少し,植物が吸水できなくなってしおれ,しおれが回復しえなくなったとき の土壌水分の状態. ☆pF  水が土壌に引きつけられている強さの程度を,水柱の高さ(cm)の対数で表わした数値. 植物の吸水に対する難易の程度を支配する. ☆有効水  植物が吸収可能な土壌水分.これ以外の状態の土壌水分を無効水分という. ☆作物の好適pH  作物に好適なpHは一般に6.0〜7.0である.水稲,ジャガイモなどは酸性でも比較的生育が 良好であるが,タマネギ,ホウレソソウなどは中性に近いところで生育がよい.耐酸性が弱い 作物はアルミニウムに対する耐性も弱い. ☆酸化還元電位 Eh   土壌の酸化還元の強さを表わす単位.値が大きいほど酸化状態,小さいほど還元状態. ☆地力窒素  土壌中の有機態窒素は微生物によって分解され無機態窒素に変化して始めて作物に利用 される.有機態窒素のうち無機化されて有効化する窒素を地力窒素と呼び,作物の株や根, 堆きゅう肥などが供給源である.暖地水稲で施肥窒素より多く(7〜12kg/10a)吸収する場 合がある. ☆乾土効果  土壌を乾燥し,水田状態や畑状態の水分含量にして保温すると,窒素が無機化してくること. 戻る ☆連作障害  同種の作物を同一圃場に2年以上連続して栽培し生育や収量が低下する現象.原因には,土 壌養分の欠乏,土壌物理性の悪化,土壌病虫害,これらの組合わせがあげられる. ☆秋落ち水田,老朽化水田  水稲の生育前期の勢いが成熟期まで持続せず収量が低くなる水田が秋落ち水田.作土から鉄, マンガン,塩基類が下層に溶脱して水田土壌としての能力が低下したものが老朽化水田.秋落ち 水田は腐植過多の湿田および老朽化水田でみられる.客土や含鉄資材の施用,塩基頬の補給,天 地返し,早植栽培による根ぐされ回避などを行う. ☆水田転換畑  水田を排水し乾燥させて畑地としたもの.排水方法として,明渠(めいきょ)および暗渠(あ んきょ)の施工がある.明渠(溝)は表面水を,暗渠(パイプ,弾丸など)は地中水を排除する. 一般に転換1作目は砕土率が低く,発芽不良や除草剤の効力低下が起きやすい.無機化する窒素 は転換初年目が最も多く,2年目,3年目としだいに少なくなる. ☆田畑輪かん  水田を一定期間畑状態にし,その後水田にもどすことを繰り返す.水田期間に畑雑草,畑 期間に水田雑草が減る.土壌伝染性病害が減る.土壌理化学性が向上する.排水不良田での 湿害,水田に戻した時の漏水の欠点がある. ☆客土  土壌的な生産力阻害水田を改良するために,改良目的にあった土壌を搬入して,土壌改良 を行なうこと.砂質土には養分や粘度合量の高い土壌を,重粘土には砂質土壌や山赤土を10 〜20t/10a客土する. 戻る ☆肥料  養分を補うために、古くは野草や下草、人間や家畜の排泄物、マメ科植物の緑肥などが使われ たが、19世紀になると産業革命後の人口増加で、食料の供給が不安になった。  1840年にリービヒは植物が無機栄養で生育することを明らかにした。  窒素肥料の生産で最大の寄与は、1913年のドイツのハーバーとボッシュによるアンモニア合成 工業の成功である。アンモニアは大気中窒素と水素を高圧下で反応させて作る。窒素は無尽蔵だが、 水素を作るためにはエネルギーが必要で,現在は天然ガスが主原料である。  リン酸肥料の主原料はリン鉱石でモロッコ、中国などから輸入している。資源枯渇が問題である。  カリ肥料の原料はカリ鉱石でカナダからの輸入が多い。資源量の問題はまだ少ないとされる。  有機質肥料のナタネ油かす、骨粉なども輸入依存度が高い。コスト、品質などの問題がある。 (日本化成肥料協会HPより) ☆脱窒  土壌中の脱窒菌の作用で硝酸態窒素が酸素不足条件下で窒素ガスになり空中に放出されること. 畑より水田で多く,水稲全生育期間で6-10kg/10a程度とされる.水田は上1cm程度が酸化層, それより下が還元層.施肥アンモニア態窒素は酸化層で硝酸態となり,土壌に吸着されにくくな り,水ととともに還元層に移動し,還元されNガスとなる.アンモニア態窒素を湛水前に土中に 混合すると窒素の利用効率が高まる. ☆水田への窒素供給量  灌漑によって水稲生育期間中に2〜4kg/10a程度の全窒素が流入する.他に降雨で0.5kg程度, 微生物による固定が2.58kg(小野),さらに地力窒素が7〜12kg(施肥窒素より多く吸収)がある. 一方浸透と地表排出で1〜5kgは水田外へ再流出する(田淵).灌漑水の硝酸態窒素が水稲に吸収 されるのは36%程度(日高). ☆堆肥 イネわら,落葉,野草など粗大有機物を堆積し,腐らせて作った肥料.養分の供給とともに,有機 物による土壌物理性の改良効果がある.成分は変動が大きいが,通常窒素0.5%前後,リン酸0.1〜 0.2%,カリ0.5%前後である.家畜の糞尿をわらなどと堆積したものは本来きゅう肥というが, きゅう肥も堆肥に含めることがある.
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[施策]

本欄は,農水省のHPに多くを負っている. ☆コメの自由化  日本におけるコメ市場の開放問題.日本は食糧管理制度により,コメを国家貿易品目と したうえ,この輸入を禁止していた.しかし89年10月には,ガットのウルグアイ・ラウ ンドの農業交渉の結果93年12月,6年間の猶予期間を設ける条件で日本が原則関税化を 容認し,98年に再度猶予延長の交渉をすることが決まった.そしてこの原則関税化,市 場開放措置をうけて,農水省は95年11月,食糧管理法を廃止,新食糧法を施行した. ☆ミニマム・アクセス 「最低輸入量」と訳される.ウルグアイ・ラウンド合意では,農産物貿易に関する数量 制限や課徴金など国境措置は,原則として関税に置き換えることになっている.ただ, 輸入量がゼロあるいは少ない農産物の場合には,関税化を一定期間猶予し,経過措置と して「ミニマム・アクセス」措置をとることが認められた.日本のコメについては,95 年には国内消費量の4パーセント(37万9000トン)の最低輸入枠を設定,6年後には8 パーセント(75万8000トン)にまで拡大することが義務づけられている.輸入は食糧 庁が実施.一部は途上国援助に回すことを検討している. ☆新食糧法  コメ,麦など主要な食糧に関する生産・流通について定めた法律.正称は「主要食糧 の需給及び価格の安定に関する法律」.94年12月公布.93年12月のウルグアイ・ラウ ンド農業合意で,政府はコメの原則関税化と市場開放を受け入れたが,この戦後農政の 大転換をうけて制定された.95年11月施行,施行と同時に従来の食糧管理法は廃止され た.食管法は政府の統制色の強いものだったが,新法ではこうした規制を緩和した.具 体的には,流通は従来の政府管理米にかえて,計画流通米と販売ルートが自由な計画外 流通米との二本立てとし,市場原理を大幅に導入.これまでのヤミ米も計画外流通米に取 り込まれる.  2003年に大幅改正,生産調整や米流通は、消費者・市場を重視した制度へと大きく転換 した.生産調整は08年度には国による生産調整配分をなくし,農業者・農業団体が主体 となる生産調整に移行.国は必要な支援,指導・助言などを行う.米流通では、現行の計 画流通制度を廃止,米流通を大幅に自由化. ☆米価 明治以前は全くの自由市場であったが,1910年代の大暴落や米騒動を契機に最高・最低 価格を設定する間接統制方式が行われた.戦中戦後の食糧不足時代に,公平分配を図るた め1942年に食糧管理法を制定し,全量政府買入れと国民への割当配給を行った.戦後, 自給事情の緩和と,1970年代からの供給過剰やそれによる財政負担の増大により徐々に 規制緩和が行われたが,食管法を廃止して1995年に新食糧法を制定し,米の価格管理を 従来の政府管理にかえて市場原理を大幅に導入する方式とした. ☆中山間地域 平地の周辺部から山間地に至る,まとまった平坦な耕地の少ない地域.過疎法などの法に よって指定された市町村.森林や急傾斜地が多い,交通条件が悪い,就業機会が少なく過 疎化や高齢化が進んでいるなどの不利な条件にある.耕作放棄地が増えており,農地や農 業用施設の持つ公益的機能の低下が懸念されている.国土の約7割の面積を占め,総人口の 約14%が居住する.耕地面積,農家数,農業粗生産額は全国の約4割を占める. 戻る ☆食糧自給率  国内で生産される食糧の割合である.定義の違いにより以下の値がある. A)カロリー(供給熱量)自給率:食糧すべてをカロリー換算し,畜産物の飼料の輸入量 も勘案する.1960年79%,1987年49%,1996年42%と低下している.但し穀類摂取が 減少したことも大きい.(米国=134,英=74,1985年). B)主食用穀物自給率:肉・飼料を含まない,米麦などでの値.1960年89%,1987年68%, 1996年63%.(米国=182,英=97,1998年) C)穀物自給率:主食用穀物+飼料用穀物.1960年82%,1987年30%,1996年29%. 輸入穀物の70%が飼料で,このため値が低下している面もある. D)食用農産物総合自給率:国内生産/国内消費を金額で計算した値.現在63%位. E)個別作物では(1996年);米102,小麦7,大豆3,野菜86,果実47,肉類56,鶏卵 96,魚介類69%である. せめて,主食用穀類自給率だけでも80%程度に上げる必要があろう. ☆水田の公益的機能  豪雨時の雨水の一次的貯水による洪水防止.地下水かん養による水資源確保.土壌流出 の防止.自然環境の保護.都会との交流.日本全国の水田が蓄える水の総量は,およそ81 億トン.日本各地に作られている治水ダムの貯水量の3.4倍.もし水田と同じ貯水力をダム でまかなおうとすれば,その建設費は9兆1,300億円にもなる. 戻る ☆米の生産調整  米は古来よりわが国の主食であったが,誰しもが充分食べられたわけではない.1960年に初め て米が100%供給となった.但しこれは,生産の増加だけでなく一人当たりの消費が減少したこ ともある(注).以後古米の持ち越し量が急増し,1971年度から本格的な生産調整が実施され, 生産調整助成金が支給され,飼料作物,園芸作物,麦,大豆などへの転換が計られた.国の施 策として地域ぐるみの転作や団地の形成を奨励してきたが古米在庫は増えつづけ,1987末には 古米在庫が230万tにも達し,その処理に莫大な費用を要した.現在全体の約35%の水田が生 産調整の対象になっている(生産統計参照).政府は新食糧法を1995年に制定し,その中で,民 間流通により価格形成が行われる自主流通米を米流通の主体とし,さらに生産調整,備蓄(150 万トン),計画的流通の確保等の措置により米の需給及び価格の安定を図るとした総合的な対策 をとっている. 注)国民1年1人あたり消費量はピークが1962年の118kg,1986年が73kg,1995年が68kg.   外食産業は全体で約1割を消費. ☆とも補償  農家がお金を出し合って,自治体・国も補助金を出し,これらを併せて米の生産調整を実 施した農家に補償金として支払い,全体で米の生産調整の目標を達成しようという仕組み. ☆新農業基本法(食料・農業・農村基本法)  旧農業基本法は1961年に制定されたが,その後の農業・農村をめぐる状況は大きく変化し, 自給率の低下,農業者の高齢化,農地面積の減少,農村の活力低下などの諸問題点が生じてきた.  一方,農業・農村に対する期待は高まっており,良質な食料を合理的価格で安定的に供給する役 割のみならず,国土や環境保全などの機能発揮も望まれてきている.そこで,これら政策の 再構築を行うため平成11年に旧法を大幅改正した.  新法では,食料自給率の目標設定,安全性確保や品質改善による消費者重視,望ましい農業構造 の確立と経営施策(効率的・安定的経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立するとともに, 専業農家発展のための条件整備,家族経営の活性化,農業経営の法人化推進),市場を反映した価格 と経営安定対策,環境と調和した生産,中山間地への直接支払いを含む支援,などの諸政策の展開 を計ることを主眼としている. ☆気象災害 異常な気象により作物の生育が阻害され,収量や品質が低下することをいう.低温,日照不足,降 雨不足,大雨,強風,霜やひょう,暖冬,雪害,土壌湿害などによる.直接これらが作物に生理生 態的な被害を起こす場合と,病虫害の発生を促して被害を及ぼす場合もある.共済制度により被害 の一部は補填され,1997年度の水稲被害面積は3.2万ha,1998年度は10.9万ha(鳥獣害,病虫害, 火災などによる災害も含んだ値)であった. ☆主業農家 農業所得が主で65才未満の農業従事60日以上の者がいる農家.準主業農家;農外所得が主で, 65才未満の農業従事60日以上の者がいる農家.副業的農家;65才未満の農業従事60日以上 の者がいない農家.H12農家戸数は312万戸,内主業農家は50万.農業総産出額9.1兆円. 農家とは経営面積が10a以上の農業を営むか1年間に農業生産物を販売した金額が15万円以上の世 帯.販売農家とは経営面積が30a以上または販売金額が50万円以上の世帯.自給的農家とは経営 面積が30a未満でかつ販売金額が50万円未満の世帯. ☆マルサスの法則  人類は食糧の生産を算術的にしか増加させられないが,人口の増加は幾何級数的である, とThomas R. Malthusが1798年に述べた.将来の食糧危機を予測した.
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[後書き]

I 君は数年前の卒業生で,このたび大変お気の毒にリストラに会い,仕方ないので公務員試験を受けるということであった.私にできることは彼の受験勉強のお手伝位しかない.そこで,私が種々の機会に作っていたファイルから作物学に関する用語を抜き出してとりまとめた.広島在住の彼の勉強のため,また私一人で持っているのも勿体ない,さらに試験はフェアであるべき,の理由から,誰でも利用できるよう,ミスや孫引きのそしりを覚悟の上,ここに公開する.

農学大事典(養賢堂),食用作物(星川,養賢堂),作物学総論(朝倉書店),作物学各論(文永堂),育種学(松尾,養賢堂),土壌肥料用語事典(農文協),岩波生物学辞典,農水省のHPなどを参考にしました.すべて私なりに咀嚼しなおしたつもりですが,原著者に感謝します.

内容は少しだけ色をつけました.できるだけ人間臭さの部分を強調し,例えば形態の細部にわたるような所は省略し,栽培上の問題点や品種改良の歴史などを主にするように努めました.その意味で,普通作物の用語解説ですが,施策の部分はもっと充実させる必要があるでしょう.内容はできるだけ更新していくつもりです.

「インターネットはごみたまり」との説があり,私も同意します.この無限の可能性を持つシステムに一番必要なのは,信頼できる役に立つデータベースであると思います.この頁がそれにふさわしいかは全く自信ありませんし,本屋さんには恨まれそうですが,できることをやるのも義務と信じてはおります.

誤り,質問,注文の類がありましたらご一報下さい.この頁内容の多くは質問がそもそもの由来で,そのおかげで充実してきました.

では朗報を.Good luck !!

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以上