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本頁は“日作九支報 60:36-,1994”に掲載したものです.
平成5年4月22日 第70回読演会で発表
キーワード:地温,ビール大麦,品質,暖冬,収量

地温の上昇がビール大麦の生育に及ぽす影響

         吉田 智彦
       (九州大学農学部)
Effects of high soil temperature on growth of malting barley
              Tomohiko YOSHIDA
     (Faculty of Agriculture,Kyushu University)

 浜地・吉田1)は,ビール大麦の収量と気象条件との関
係の統計解析から,暖冬による生育収量への悪彩響は暖
冬にともなう多雨が主要因で,高温自体は悪影響を与え
ないとした。このことを実証するには人工気象装置を用
いて実験することが考えられるが,人工気象装置内での
生育はどうしても不自然で圃場条件との対応が充分でき
ない場合が多い。本実験ではビ−ル大麦の生育と温度と
の関係をできるだけ自然に近い条件下で調べるために,
圃場に電熱線を埋設して地温を上昇させることにより暖
冬を再現し,ビール大麦の生育,収量,品質(子実の外
観)に及ぼす暖冬の影響を実証しようとした。

       材料および方法
 実験は2ケ年行った。九州大学構内の畑に1990年11月
21日に窒素を10a当り7.2kg,1991年11月14日には6.Okg
を元肥として施し,両年とも品種アサカゴールドを条間
30cmで2cm間隔で点播した。これはuあたり166粒の播
種密度となる。追肥は施さなかった。苗床保温用の250
Wの電熱線を,条の中央の位置で約3cmの深さに埋めた。
時期別の影響を見るため処理は3時期行い,1回目は12
月15日から1月15日まで(処理1),2回目が1月15日
から2月15日まで(処理2),3回目が2月15日から3
月15日まで(処理3)とした。1区の大きさは長さ1m
で8条からなり,中央の4条の回りに電熱線を埋設した。
各2反復した。1990年の播種では生育の途中何回か葉数
や幼穂の推移を分げつごとに追跡した。2月15日での幼
穂の分化程度を判定した2)。また,この時点で分げつの
有効化を節の太さや伸長程度から判定した。1991年の播
種では収穫調査を主稈と分げつに分けて行った。

       結果および考察
 条の直下,地表下5cmでの温度測定によると,処理区
では無処理区よりも2〜3度地温が高かった。発芽やそ
れ以後の生育は順調であった。無処理での出穂期は1990
年播種で3月31日,1991年では3月25日であった。
 穂の伸長や葉の出現は処理により促進された(第1
表)。処理3は処理2とほぼ同様なので表から省いた。
処理2は処理1より穂の伸長の促進効果は大きかった。
最終的な主稈葉数は無処理が11.9枚,処理1では12.4
枚と増加傾向がみえたが,分げつでは処理による効果は
不明であった。有効化率をみると,主稈や1号はすべて
有効化しており,一方すべての分げつが有効化はしな
かった鞘葉,2,3号分げつでは,処理により有効化率
が向上した。
 1991年2月15日における主稈や各分げつでの穂の分化
程度は(第2表),主稈と1号分げつではいずれの処理
でも小穂の諸器官が分化していた。2号分げつでは雌雄
ずいの始原体分化期,3号では小穂分化の後期で,分げ
つ間には差があるが処理間には鞘葉分げつ以外差はな
かった。鞘葉分げつでは処理により分化の程度が進んで
いた。                ’
 最終的な収量構成要素関連形質などをみると(第3
表),処理により稈長は伸び,出穂期は1〜3日早くな
り,穂数,一穂粒数,千粒重は増加傾向で,子実の外観
は処理1で良かった。
 主稈と分げつごとの調査結果(第4表)よると主稈,
分げつともに稈長,粒数,千粒重,子実の外観に処理の
効果が伺えた。小面積の結果ではあるが,子実収量は処
理1で無処理よりも有意で高い値となった。これは分げ
つの有効化によるものと思われる。子実の外観は主稈よ
り分げつで全体的に劣ったが,分げつの外観は処理で無
処理より良く,処理による分げつ増加があっても外観の
低下はなかった。
 処理の時期別の効果の差は,稈長の伸長は早い時期,
出穂の促進は遅い時期で効果が大きかったが,収量構成
要素についてはあまり明確でなかった。
 以上のことから,地温の上昇によるビール大麦の生育
や収量,品質への影響は,良くなることはあっても悪影
響はないと思われる。ここでは地温を上昇させて暖冬を
想定したが,気温の上昇でも同様な影響を与えると考え
られるので,浜地・吉田1)が述べたように,暖冬による
気温自体の悪影響はないであろうと思われる。

         摘  要
 ビール大麦の生育に及ばす暖冬の影響を調べるため,
圃場に電熱線を埋没して地温を上昇させ暖冬を再現した。
1.電熱処理により穂の伸長,葉の出現,分げつの有効
 化が促進された。
2.処理で稈長は伸び,出穂期は1〜3日早くなった。
3.穂数,一穂粒数,千粒重は処理で増加する傾向で,
 子実の外観も良かった。
4.以上から,暖冬によるビ−ル大麦の生育,収量,品
 質への気温自体の悪影響はないものと推察した。

         謝  辞
 本研究はビール酒造組合の奨学寄附金によった。厚く
御礼申し上げる。

         引用文載
1)浜地勇次・吉田智彦 1989.暖地のビール大麦の収
  量と気象条件の関係の統計的解析.日作紀 58:
  1−6.
2)和田栄太郎 1936.小麦の穂の分化過程に就いて.
  育種通信 11:119−127.


第1表 主稈と各分げつごとの穂の発育や葉数の推移
――――――――――――――――――――――――
分げつ 処理 −穂長mm−   −葉 数−  有効化
       @ A B   @ A B   率%
――――――――――――――――――――――――
主稈 無処理 1.5 6.0 56 6.0 8.3 11.9 100
   処理1 1.9 6.5 58 6.7 8.8 12.4 100
   処理2    8.4 61    9.1 12.0 100
鞘葉 無処理   4.2 39 3.5 5.7 9.7  83
   処理1    4.8 47 4.6 5.8 9.5 100
   処理2    6.4 50    6.4 9.6  82
1号 無処理   4.9 44 3.2 5.5 9.1  100
   処理1     5.3 51 3.9 5.7 9.4 100
   処理2    7.3 54    6.0 9.0 100
2号 無処理   4.0 30  2.1  4.3 7.9  48
   処理1    4.6 40 2.8 4.8 8.3  79
   処理2    4.8 46    4.9 7.8  59
3号 無処理   3.3 − 1.0 3.3 7.0  0
   処理1     3.7 30 1.6 3.7 7.1  7
   処理2    3.1  47    3.9 6.5  6
――――――――――――――――――――――――
注)調査日,@;1月15日,A;2月15日,B3月15日
 処理の内容は本文を参照

 第2表 2月15日での主稈と各分げつの幼穂分化程度
――――――――――――――――――――――――
処理   主稈 分げつ/  鞘葉    1号   2号   3号
――――――――――――――――――――――――
無処理 \後期  [〜\前期 \後期 \前期 [期
処理1  \後期  \前〜後期 \後期 \前期 [期
処理2  \後期  \ 後 期 \後期 \前期 [期
――――――――――――――――――――――――
注)[期:小穂分化の後期,\前期:雌雄ずい始原体
  が分化,\後期:小穂の諸器官が分化(和田2)に
  従った)。

第3表 地温上昇が収量構成要素などに及ぽす影響
――――――――――――――――――――――――
処理   稈長 出穂期   穂数  1穂  千粒重  子実の
    cm  3月 日   /u  粒数  g    外観
――――――――――――――――――――――――
無処理 78  28   495  21.8 39.3  4.5
処理1  83  27   507  23.3 39.5  5.5
処理2  81  25   511   23.6 40.4  4.5
処理3  77  26   490  22.9 39.8  4.5
――――――――――――――――――――――――
注)2ケ年の平均値。成熟期はどの区も5月10日。
  外観は1990年播種の値で,中上:6,中中:5,
  中下:4。

     第4表 主稈と分げつ別収量構成要素(1991年播種)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
      稈長    1穂粒数      千粒重     子実の    子実収量
処理    −cm−           −g−    −外観−   −g/u−
     @ A   @  A   @  A   @  A   @ A
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
無処理  78 72  22.8 19.9  40.6 36.0  6.0 4.5  360a 35
処理1   85 79  25.2 22.1  41.5 38.0  6.0 5.0  459b 29
処理2   82 77  24.8 21.3  40.5 38.4  6.0 5.0  360a 37
処理3   79 72  24.7 21.4  41.6 37.9  5.5 5.0  376b 39
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
注)@:主稈の値,A:分げつの値。但し収量は@:全体の値,A:主稈の占める割合(主%)
  で,付記した記号はダンカンの多重検定の結果。外観の値は第3表に同じ。                                  

以上