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本頁は“日作九支報 63:56-,1997)”に掲載したものです.図表一部省略.

β-アミラーゼ欠カンショの貯蔵中の遊離糖変化

    吉田智彦・田代久美子・鄭紹輝
      (九州大学農学部)
Changes in free sugar content of β-amylase null sweet potato (Ipomoea batatas Lam.) during storage
   Tomohiko Yoshida, Kumiko Tashiro and Shao-Hui Zheng
  (Faculty of Agriculture, Kyushu University)

 カンショ(Ipomoea batatas Lam.)塊根の遊離糖組成には品種間差異がある5).久木村ら2)は新規用途の拡大のため,β-アミラーゼ活性を欠き,そのため蒸してもデンプンがマルトースに分解せず,甘みがほとんどない品種サツマヒカリを育成した.ここではサツマヒカリとその他のβ-アミラーゼ欠の数系統を材料として,遊離糖含有率の貯蔵中の変化やその品種間差を検討した.

       材料および方法
 露地開花性を有し,しかもβ-アミラーゼ欠のカンショ集団を1993年に九州大学構内の圃場で栽培して放任受粉した.得られた真性種子を1994年にビニルハウス内に播種して育苗し,苗を本圃に定植した.平均的な塊根が形成された系統を収穫し,糖の分析を行った.1995年は前年に供試したβ-アミラーゼ欠7系統の種イモを通常に育苗し,本圃に定植した.両年共に,比較品種として,サツマヒカリとβ-アミラーゼ活性を持つ通常の品種であるベニアズマ、コガネセンガン、高系14号

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平成8年10月23日 第73回講演会(第59回九州農業研究発表会と共催)で発表
キ−ワ−ド:アミラーゼ,貯蔵デンプン,遊離糖

の計3品種を同時に通常に栽培した.
 糖の分析は高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製LC-10A型)によって行った.収穫直後と20度の室内に3カ月貯蔵後の塊根のフラクトース、グルコース、シュークロースおよびマルトースを分析した.塊根を蒸してから皮を除き,均一なペースト状にして,分析するまで冷凍保存した.試料の1.5gを80%エタノール20mlを溶媒として40℃で一晩振とうし,糖を抽出した.試料5μLを注入し,ポストカラム反応後蛍光検出法1)に準じて定量分析した.

       結果および考察
 第1表に供試品種の糖の値を2カ年の平均値で示す.通常の品種のベニアズマ,コガネセンガン,クロシラズでは,蒸した塊根中にβ-アミラーゼによるデンプンの分解によって生成した多量のマルトースが検出された.一方,サツマヒカリとβ-アミラーゼ欠の7系統ではマルトースが検出されなかった.
 第2表に年次を反復とみなし,品種による変動要因を通常の品種群間,β-アミラーゼ欠品種群間,およびその2群間と分割した分散分析の結果を示した.反復(年次)間の誤差が大きく,フラクトースとグルコースでは収穫直後も3ヶ月後も品種間差は検出できなかった.シュークロースは3ヶ月後に通常の品種群とβ-アミラーゼ欠品種群との間に有意差があった.
 第1表の下段に通常の品種群とβ-アミラーゼ欠品種群の糖の平均値を示した.通常の品種では貯蔵中にデンプンが分解してシュークロースの増加することが知られている4).ここでも通常の品種では貯蔵中にシュークロースが増加した.しかしβ-アミラーゼ欠品種では貯蔵中のシュークロースの増加がほとんどみられず,貯蔵中のシュークロースの増加量が少ないこともβ-アミラーゼ欠品種の特徴としてあげることができよう.
 植物の貯蔵デンプンの分解には主にα-アミラーゼが働き6),イネ種子の発芽にαーアミラーゼが確認されている3).一方,貯蔵中のカンショではα,βーアミラーゼによる分解生成物が確認されず4),カンショ塊根中のデンプン分解とシュークロース合成におけるα,β-アミラーゼの働きは不明な点が多い.ここでのβ-アミラーゼ欠品種はいずれも問題なく萌芽はするので,萌芽中にはデンプンが分解されているはずである.カンショの貯蔵中と萌芽中では異なるαーアミラーゼが働くのか,β-アミラーゼ欠品種ではα-アミラーゼ活性も非常に低いのか,さらにα,βーアミラーゼ遺伝子の関係などは不明であり,今後の検討課題としたい.

           摘要
 カンショ塊根中の遊離糖含有率は環境変異が大きく,品種間差の検出が困難であるが,β-アミラーズ活性を欠いた品種は貯蔵中のシュークロースの増加がほとんどない.
                  引用文献

1)Kinoshita,T. et al.1991. Journal of liquid 
  chromatography 14:1929-1938.
2)久木村久ら 1988. 九州農試報告 25:225-250.
3)Murata,T.et al.1968. Plant Physiol. 43:1899-1905.
4)村田孝雄 1970.農化 44:412-421.
5)Takahata,Y. et al.1992. Japan.J.Breed.42:515-521.
6)山口淳二 1993. 植物細胞工学 5:184-192.

第1表  貯蔵直後と3ヶ月後の蒸塊根中の糖含有率
───────────────────────                         
品種     フラクトース   グルコース  シュークロース  マルトース
───────────────────────                         
[収穫直後]
サツマヒカリ      22.2      20.2       74       0
ベニアズマ    21.9      19.3       83     354
コガネセンガン    7.6       8.4      102     376
クロシラズ      16.2      16.0       80     383
平均(全部)   16.3      15.1       73     102
〃(標準品種) 15.2      14.6       88     371
〃(アミ欠* )  16.7      15.3       68      0
[3ヶ月後]
サツマヒカリ       9.5      11.4       45       0
ベニアズマ     4.8       5.3      183     325
コガネセンガン     2.1       2.6      142     302
クロシラズ       6.5       9.7      113     331
平均(全部)    8.9      12.3       83      87
〃(標準品種)  4.5       5.9      146     320
〃(アミ欠* )  10.6      14.8       60      0
───────────────────────                         
値は2カ年の平均値で単位はmgg-1(生重当たり).
 *:β-アミラーゼ欠8品種.

第2表  蒸塊根中の糖含有率の分散分析
───────────────────────                         
要因         df フラクトース グルコース シュークロース マルトース
───────────────────────                         
[収穫直後]
合計        21  131.3  122.9  996    36144
反復(年次)   1 1074.1 1257.0 3175    41959
品種       10   60.7   37.6  606    59968**
 群間         1    8.9    2.5 1891   598750**
 標準品種群内   2  102.5   61.5  281      456
 アミラーゼ欠品種群内 7   56.0   35.7  516        0
誤差        10  107.8   94.7 1168    11739
[3ヶ月後]
合計        21   41.8   99.8  3083   24391
反復(年次)    1   23.5   27.8    56   16744
品種       10   51.8  115.9  4094   44741**
 群間         1  164.5  344.6 32882** 446494**
 標準品種群内   2   10.0   25.2  2464      454
 アミラーゼ欠品種群内 7   47.6  109.0   446        0
誤差        10   33.5   91.0  2375     4805
───────────────────────                         
値は平均平方.**;1%水準でF値の有意なことを示す.

引用文献
2)久木村久,吉田智彦,小巻克巳,坂本敏,田渕尚一,井手義人,山川理    1988. カン
 ショ新品種“サツマヒカリ”について. 九州農業試験場報告 25:225-250.
3)Takahata,Y.,T.Noda and T.Nagata 1992. Varaietal diversity of free sugar composition in st
 orage root of sweet potato. Japan. J.Breed. 42:515-521.
1)Kinoshita et al.1991. Journal of liquid 
   chromatography 14:1929-1938.


以上