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本頁は 日作紀 79に掲載.図表省略

栃木県のおけるオオムギ縞萎縮ウイルスの発生状況と新たに見出されたオオムギ 縞萎縮ウイルス系統

五月女敏範・河田尚之・加藤常夫・関和孝博・西川尚志・
夏秋知英・木村晃司・前岡庸介・長嶺敬・小林俊一・和田義
春・吉田智彦

要旨:ビールオオムギ初のオオムギ縞萎縮ウイルス (BaYMV) I〜III 型抵抗性品
種スカイゴールデンの普及にあたり,対象地域の栃木県におけるBaYMV 系統の発
生調査を行った.その結果,栃木県南地域では現在もIII 型が常発化しており,
県中北地域ではI 型が発生していることから,現在普及している品種では不十分
なことが明らかとなった.加えて,栃木県大田原市で既知のI,II,III 型と病原
性が異なり,BaYMV 抵抗性遺伝子rym3 を犯す大田原系統を見出した.この大田原
系統と同様にI〜III 型と病原性が異なり未同定であった山口系統について,品種
の反応 (病原性) 及び塩基やアミノ酸配列の相同性や系統樹による分子系統解析
を用いて同定を試みた.その結果,それぞれI〜III 型と異なる系統で,大田原系
統はIV 型,山口系統はV 型である.IV 型とV 型の判別は,早木曽2 号または浦
項皮麦3 と三月を判別品種として用いることにより可能である.また,スカイゴ
ールデン,木石港3 は,BaYMV I〜V 型のいずれにも抵抗性を示し,抵抗性育種に
有効である.今後,ビールオオムギ品種育成において,BaYMV 抵抗性遺伝子rym1,
rym3,rym5 の集積が重要と考えられる.

キーワード:オオムギ,オオムギ縞萎縮ウイルス,系統分化,抵抗性.

The Present and New Strains of Barley Yellow Mosaic Virus (BaYMV) in Tochigi
Prefecture.: Toshinori Sotome, Naoyuki Kawada, Tsuneo Kato,
Takahiro Sekiwa, Hisashi Nishigawa, Tomohide Natsuaki, Koji
Kimura, Yousuke Maeoka, Takashi Nagamine, Syun-ichi Kobayashi,
Yoshiharu Wada, Tomohiko Yoshida 

Abstract: Before the release of a new and first cultivar “Sukai Golden”,
which is resistant to all of BaYMV strains I〜III, an occurrence of BaYMV
strains in Tochigi prefecture was investigated for the extension of the
cultivar. It was shown that the resistance of currently cultivated cultivars
was inadequate, the strain III was found still now in southern area of Tochigi
prefecture and strain I was found in Northern area. In addition, a new strain
was found at Ootawara that differed from strains I, II and III in the virulence
and damages with BaYMV resistance gene rym3. Including Ootawara strain and
Yamaguchi strain, that was also different from three strains in the virulence,
the reaction to barley cultivars, homology of virulence and sequence of base
and amino acid were studied and the phylogenic tree was drawn. The result
showed that Ootawara and Yamaguchu strains were different from the other
strains and Ootawara strain belonged to strain IV and Yamaguchi strain
belonged to strain V, respectively. It is possible to distinguish strain IV
from strain V by using “Hayakiso 2” or “Kouurakawamugi 3” and
“Sangatsu”. Further, “Sukai Golden” and “Mokusekiko 3” are useful for
BaYMV resistance breeding since they show resistance to all strains. It is
believed that accumulation of BaYMV resistant gene rym1, rym3 and rym5 is
critical on malting barley breeding program.
Key words: Barley, Barley yellow mosaic virus (BaYMV), Differentiation of
strains, Resistance.

我が国のビールオオムギ生産において最も重大な病害はオオムギ縞萎縮病で,
本病に罹病すると著しい減収や醸造用品質の低下を招く (草葉ら 1965,藤井ら
1984a,氏原ら 1984,渡辺ら 1995,山口ら 2002).本病は菌類により媒介される
Barley Yellow Mosaic Virus (以下,BaYMV)による土壌伝染性のウイルス病であ
り,非現実的なD-D 剤等による防除以外に薬剤によるに有効な防除方法はなく
(大兼ら 1988,渡辺ら 1995),オオムギ縞萎縮病・オオムギ縞萎縮ウイルス (以
下,BaYMV) 抵抗性品種を作付する以外に確実な防除方法はない.本病に対する抵
抗性遺伝資源の探索の結果,多数の抵抗性品種及び抵抗性遺伝子が見いだされて
おり (高橋ら 1966,1970,Kawada and Tsuru 1987, Kawada 1991,Konishi ら 2002),
rym1 (旧表記Ym (Konishi 2000)) (高橋ら 1970),Rym2 (同Ym2) (高橋ら 1970),
rym3 (同ym3) (Ukai 1984,河田 1988), rym4 (同ym4) (Friedt ら 1990),rym5
(同Ym) (高橋ら 1970),なす二条 (寺村ら 1990),rym6 (Iida 1999),rym7 (Graner
ら 1995),rym7t (内村ら 2005),rym8 (Bauer ら 1997),rym9 (Werner ら2000),
rym10 (Graner ら1999),rym11 (Nissan-Azzouz ら 2005),rym12 (Graner ら 1996)
等が報告されている.

ビールオオムギにおけるBaYMV 抵抗性育種は1964 年から始められ (増田ら
1993,栃木県農業試験場栃木分場 2006),1985 年に木石港3 由来の第3 染色体長
腕上に座上する抵抗性遺伝子rym5 (Konishi and Kaiser 1991) を持った世界初
の抵抗性ビールオオムギ品種ミサトゴールデンが育成され (Kobayashi ら 1987),
その後もrym5 を持つ多くの抵抗性品種が育成された結果,病害の防除とビールオ
オムギの安定生産に大きな成果を上げてきた.

日本国内に多く存在しているBaYMV の多くはI 型である (柏崎 1990) が,しか
し,近年BaYMV の系統分化が明らかになり(安正・吉野 1964,斉藤・岡本 1964,
宇杉ら 1985,Kashiwazaki ら 1989,飯田ら1992),各種品種 (抵抗性遺伝子) と
の反応により, BaYMV I,II,III 型 (以下,I,II,III 型) に分類され,第1
表判別品種に示されるとおりI 型ではrym5, Rym2 やrym3 (を持つオオムギ品種)
は抵抗性を示し,II 型ではRym2 (同) は罹病性, III 型ではrym5 (同)やなす二
条は罹病性となる (Kashiwazaki ら 1989).さらに, rym3 を持ったオオムギ品種
を犯す新型の系統 (以下,山口系統) が山口県農林総合技術センター (縞萎縮病
特性検定圃場) で発見されている (五月女ら 1997) が,分類上は未同定である.
ビールオオムギで抵抗性遺伝子として利用されてきたrym5 を持つ抵抗性ビー
ルオオムギ品種を犯すIII 型は,栃木県を初めとする北関東のビールオオムギ主
産地で被害が拡大している (戸嶋ら 1991, 五月女ら 1997). その結果, 従来の
rym5 を持つBaYMV 抵抗性ビールオオムギ品種では,その安定生産は望めなくなっ
ている (山口ら 2002).一方,BaYMV 抵抗性遺伝子rym3 はIII 型系統に抵抗性を
示し (Kashiwazaki ら 1989),1980 年よりrym5 以外の新しいBaYMV 抵抗性遺伝子
としてその導入が図られてきた (藤井ら 1981).その導入にあたっては,rym3 を
持つ系統とrym5 を持つ系統の交雑後代において有意にrym3 を持つ系統の出現頻
度が低く歪む (五月女ら 2008) ことが報告されていたが,エステラーゼアイソザ
イムを利用したBaYMV 抵抗性遺伝子の集積法 (五月女ら 2008) を用いて,ビール
オオムギで初めてI〜III 型抵抗性となるスカイゴールデン (谷口ら 2001) が育
成された.スカイゴールデンは,rym3 とrym5 の両方を集積した品種で,うどん
こ病抵抗性を備え,多収で,優れた醸造品質を持っていたものの子実中の粗タン
パク質含有率が高くなりやすい欠点がある (谷口ら 2001) ために,III 型発生地
域を中心とした普及が望まれていた.

本報告では,ビールオオムギでBaYMV I〜III 型抵抗性品種のスカイゴールデン
の普及にあたり,対象地域である栃木県におけるBaYMV 系統の発生状況と,その
結果既知のBaYMV ( I〜III 型) 抵抗性遺伝子rym3 を犯す新たな系統の発見,さ
らに同様にrym3 を犯し未同定であった山口系統と合わせてBaYMV の分類を行った
ので,それらについて報告する.

材料と方法
1.栃木県におけるBaYMV 系統の発生状況調査
調査は,第1 図及び第2 表に示した栃木県内ビールオオムギ産地32 カ所 (2004
年16 カ所,2005 年23 カ所) で行った.BaYMV 系統の判別は,kashiwazaki ら (1989)
の二条オオムギの判別品種を改変し,第1 表の品種を用いた.なお,1976 年に育
成されたあまぎ二条以降のビールオオムギ品種はII 型抵抗性であり,現在ビール
オオムギ育種に利用されてrym3 やrym5 はII 型抵抗性あることから,栃木市 (I
型検定圃),宇都宮市 (農試) ,壬生町 (III 型検定圃),大田原市南金丸の4 カ
所を除いた27 カ所ではII 型判別品種のニューゴールデンは除いて実施した.判
別品種の播種は,それぞれの地域の播種適期に準じ10〜11 月に行い,畦幅60cm
条播,播種量約5g/m2,その他の栽培条件は地域慣行法に従った.BaYMV の発生状
況は,翌年の3〜4 月に葉における罹病性反応 (モザイク症状) の有無とエライザ
法により感染を確認した.判別品種の反応で,あまぎ二条,ニューゴールデン,
なす二条が罹病し,ミカモゴールデン (吉田ら 1989) 及びスカイゴールデンが
抵抗性の場合はBaYMV はI 型,あまぎ二条,ニューゴールデン,ミカモゴールデ
ンが罹病し,なす二条,サチホゴールデン (加藤ら 2006) 及びスカイゴールデン
が抵抗性の場合にはIII 型,あまぎ二条,ニューゴールデン,ミカモゴールデン,
なす二条が罹病し,サチホゴールデン及びスカイゴールデンが抵抗性の場合には
I 型とIII 型の混合感染とした.

2.rym3 を犯す大田原市南金丸系統ならびに山口県新型系統の同定
1)各判別品種による反応
大田原市南金丸圃場に2005 年及び2006 年10 月に第1 表判別品種に河田と五月
女 (1998) ならびに五月女ら (1997) の判別品種を加えた第3 表に示した14 品種
を判別品種として2 区制にて畦幅60cm 条播,播種量約5g/m2,その他の栽培条件
は地域慣行法に準じて播種し,翌年3〜 4 月にモザイクの発生程度や黄化程度,エ
ライザ法にて抵抗性反応を調査した. また, 山口系統圃場においても同様に14
判別品種を1997 年及び2006 年10 月に2 区制にて畦幅60cm 条播,播種量約5g/m2,
その他の栽培条件は地域慣行法に準じて播種し,翌年3 月にモザイクの発生程度
や黄化程度,エライザ法にて抵抗性反応を調査した.

2)ウイルスゲノムの分子系統解析
大田原市南金丸系統 (以下,大田原系統),山口系統,I 型,II 型,III 型につ
いて,ウイルスゲノムのcoat protein (以下,CP) の塩基配列及びアミノ酸配列
を調査し,相同性検索を行った.解析は第4 表に示した品種について,2007 年3
月にII 型を除く各圃場より罹病株を4〜5 株を採集し,BaYMV のゲノム全長をい
くつかの領域に分けてPCR,クローニング,シークエンスし,塩基配列を決定し
た.なお,山口系統については2008 年3 月に圃場の広範囲からサンプリングがで
きるようにニューゴールデン及びキカイハダカ (以上BaYMV 抵抗性遺伝子なし)
と同抵抗性遺伝子rym3 を持つ7 品種を2 反復の試験区から2 株ずつ採集し,解析
を行った.なお,II 型についてはKashiwazaki ら (1990,1991) の解析データを
用いた.また,相同性の比較に加えて,アミノ酸配列を基にした系統樹をDNA,
タンパク質配列データの分子進化・系統学的解析ソフトウェアMEGA 4(Tamura ら
(2007). 首都大学東京生命科学コース・生物科学専攻社会統計学研究室.
http://evolgen.biol.metro-u.ac.jp/MEGA/ (2009/5/7 閲覧)) を用いて作成し
た.

結果と考察
1.栃木県におけるBaYMV 系統の発生状況調査
調査結果を第2 表及び第3 図に示した.調査地点32 カ所のうち,8 カ所 (二宮
町長島,益子町前沢,南那須町岩子,那須烏山市藤田,大平町下高島,藤岡町蛭
沼,岩舟町五十畑,下野市川中子) ではBaYMV の発生は確認できなかった. 主に
県中北部の16 カ所 (大田原市花園・佐良土・大輪・市野沢・蛭畑,那須塩原市鍋
掛・下大貫,真岡市大内・小林,小山市穂積,さくら市松山,高根沢町石末・上
高根沢,芳賀町芳士戸,栃木市I 型検定圃,宇都宮市農試) ではI 型が,県南地
域7 カ所 (下野市別当河原,小山市上初田, 栃木市大宮・栃木分場,佐野市堀米,
野木町南赤塚) ではIII 型あるいはI 型とIII 型の混合の発生が認められた.さ
らに,大田原市南金丸ではBaYMV 抵抗性遺伝子rym5 を持つミカモゴールデンなら
びにrym3 とrym5 を持つスカイゴールデンは抵抗性を示したが,rym3 を持つサチ
ホゴールデンは罹病が確認され,既知のI〜III 型とは異なる系統が発生している
と推定された.

今回の結果から,栃木県においては一部で未発生の地点もあったものの県内の
ほぼ全域においてBaYMV が発生しており,大田原市南金丸を除き,2001 年までの
調査結果と同様に県南地域ではIII 型が発生し,県中北部及び東部ではI 型が発
生していることが確認された.栃木県のビールオオムギの約5 割の生産を占める
県南地域ではミサトゴールデンやミカモゴールデンなどBaYMV 抵抗性遺伝子rym5
を持った抵抗性品種が早期から普及したことにより,rym5 を犯すIII 型の拡大が
進んだと考えられた.また,県中北部地域では県南地域に比べてBaYMV 抵抗性品
種育成前からのBaYMV の発生,拡大が少なかったことや県内の約3割を占める県
北地域ではI 型には罹病してしまうもののIII 型には抵抗性のなす二条が中心的
に作付けされていたことにより, I 型の発生が多いものと推察された.大田原市
南金丸では, 今回の判別品種の結果では山口県型と同様であった (五月女ら
1997) が,その同一性についてはわからなかった.なお,大田原南金丸圃場は,
戦前陸軍の飛行場であったところを戦後畑として利用し,1960 年代の開田事業に
より水田化した後,1970 年以降の減反政策実施後六条オオムギの作付けを続けて
きたことを耕作者から聞き取りにより確認したが,1970 年以前のオオムギの作付
けは不明であり,今回の既知のI〜III 型と異なる系統の発生の原因については不
明であった.

2.rym3 を犯す大田原市南金丸系統ならびに山口県新型系統の同定
1)各判別品種等による反応
供試した14 品種の結果を第3 表に示した.なお,第3 表にはI,II, III 型の
結果 (河田・五月女 1998) も併せて記載した.大田原系統は,I 型系統に似た反
応を示したが,サチホゴールデン及びはがねむぎ (以上抵抗性遺伝子はrym3),
縞系4 (徳島モチ裸) (同rym7t),早木曽2 号及び浦項皮麦3 (同不明) は罹病し,
既知のI 型,II 型,III 型とは品種の反応,病原性が異なることが確認された.
山口系統もI 型に似た反応を示したが,サチホゴールデン及びはがねむぎ,縞系
4 (徳島モチ裸),三月は罹病し,既知のI,II,III 型とは品種の反応が異なって
いた.加えて,大田原系統と山口系統では,早木曽2 号及び浦項皮麦3 と三月の
反応が異なっていた.
これらの結果から,大田原系統と山口系統は既知のI,II,III 型とは異なる新
しい系統で,さらにそれぞれが違った系統の可能性が示唆された.
また,スカイゴールデン (同rym3 とrym5),中泉在来 (同rym3 とrym5) (河田
1989) ,木石港3 (同rym1 とrym5) (Konishi ら 1997) はいずれの系統にも抵抗
性であったことから,これらの品種はBaYMV 抵抗性母本として有用である.

2)ウイルスゲノムの分子系統解析
大田原系統は,山口系統圃場で罹病したニューゴールデンより採集したIV 型
CP (Okada ら 2008)と塩基配列及びアミノ酸配列が100%一致したため,IV 型と
推定された.それぞれのCP の相同性検索結果を第5 表に示した.大田原系統は,
山口系統やI,II,III 型とは一致しなかった.また,山口系統は大田原系統やI,
II,III 型とは一致せず,また2007 年及び2008 年に調査した全ての株は同一の
配列を示しIV 型は検出されなかった.

次に,それぞれの系統のアミノ酸配列から作成した系統樹を第4 図に示した.
大田原系統はI 型と同じ群に分類され,山口系統はII 型及びIII 型と同じ群に分
類された.大田原系統と山口系統は,類縁関係においてI,II,III 型との分化性
が明らかとなり,また,大田原系統と山口系統はそれぞれ異なった系統分化した
と推定された.

以上,品種 (抵抗性遺伝子) の反応 (病原性),相同性,系統分類から,大田原
系統はIV 型,山口系統はI,II,III,IV 型と異なる新しいV 型であると考えら
れる.

総合考察
我が国のビールオオムギの約4 割の生産を占める栃木県において,生産及び品
質の安定は最も重要な課題である.その安定を大きく脅かすオオムギ縞萎縮病の
発生は, 1991 年にIII 型が栃木県内で初めて確認されて以来 (五月女ら 1997),
現在も栃木県南地域を中心に発生が常発化している.このIII 型による被害を回
避するためには,抵抗性品種の作付けしか方法が無いため,スカイゴールデンな
どrym3 を持つ品種の導入は有効である.また,栃木県中北地域ではI 型が発生し
ていることが確認され,普及しているなす二条では不十分である.さらに大田原
市でrym3 を犯すIV 型が発見されたことから,今後はスカイゴールデンと同様に
rym3 とrym5 を集積した品種,あるいはrym1 とrym5 あるいはrym1,rym3, rym5
を集積した品種の育成,普及が必要と考えられる.

これまで,オオムギ縞萎縮ウイルス系統 (I, II,III 型) は品種の反応(病原
性)のみで分類された (kashiwazaki ら 1989) が,今回,大田原系統ならびに山
口系統の分類にあたっては,品種 (抵抗性遺伝子) の反応(病原性),塩基やアミ
ノ酸配列の相同性,系統樹による分子系統解析とを用いて行った.その結果,大
田原系統はIV 型,山口系統はV 型であることが明らかとなった.IV 型とV 型の
判別は,早木曽2 号または浦項皮麦3 と三月により可能であり,これらを判別品
種として用いればよい.

今回新たに見出されたIV 型及びV 型を含めBaYMV I〜V 型抵抗性ビールオオム
ギ品種育成のためには,BaYMV 抵抗性遺伝子rym1 とrym5,あるいはrym3 とrym5
の集積が有効である.現在のところ,これら抵抗性遺伝子を集積したビールオオ
ムギ品種はスカイゴールデンだけで, 非醸造用二条オオムギではとちのいぶき
(渡邉ら 2008) のみである. また,rym1 はオオムギマイルドモザイクウイルス
(BaMMV) に抵抗性であることから (Konishi ら2002),今後,BaYMV の系統分化と
Barley mild mosaic virus (BaMMV) (柏崎 1990, Nomura 1996) の発生,拡大に
備えるためには,rym1,rym3,rym5 を集積した品種育成を図ることが重要と考え
られる.これまでBaYMV 抵抗性ビールオオムギの育成において,抵抗性遺伝子の
導入から新品種の育成まで20 年以上を要している(吉田ら 1998).集積品種の育
成を加速化するためには, それぞれの抵抗性遺伝子に関連するDNA マーカー
(Okada ら 2003,Saeki ら 1999,Pellio ら 2005) などを用い効率的に育種を進
めることが必要である. さらに, 近年新しい抵抗性遺伝子が同定され,BaYMV I
型についての抵抗性反応は明らかにされている (Konishi ら 2002) が,II,III,
IV,V 型での反応は不明である.それぞれの抵抗性遺伝子とBaYMV 系統との反応
を調査し,有効な遺伝子の選定と利用,集積を進めことが重要と考えられる.加
えて,昨今,BaYMV のゲノム構造の解析が進み,系統のVPg 領域などの変異も認
められてきており(Nishigawa ら 2008),またオオムギゲノムでウイルス抵抗性に
関わるeIF4E 領域なども明らかにされてきている (Stracke ら 2007).今後,各
抵抗性遺伝子とBaYMV 系統との相互作用や機作が解明されれば,より高度な抵抗
性となるべく遺伝子の選定,組合せも明らかとなり,抵抗性育種が進むものと推
察される.

いずれにおいても, BaYMV 抵抗性品種の育成と併せて,産地における各病害及
び系統の発生の把握と系統発生に対応した品種を効率的に普及することにより,
ビールオオムギのより一層の安定生産が実現するものと考えられる.
謝辞:本研究の一部は農林水産省指定試験事業として行われた.また,栃木県
におけるBaYMV 系統の発生状況調査にあたり,関係農業振興事務所経営普及部の
普及指導員の皆様には多大なるご協力をいただいた.ここに心より厚くお礼を申
し上げます.
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