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本頁は“日作九支報 65 1999.54−56に掲載したものです. Rep.Kyushu Br.Crop Sci.Soc. Japan 65:54−56,1999
キーワード:アルミニウム耐性,遺伝率,集団選抜,耐塩性,耐乾性

   トウジンビエの耐乾性,耐塩性,アルミニウム耐性選抜とその遺伝率

                  吉田 智彦・重宗 明子
                     (九州大学農学部)
            Mass selection for drought,salt,aluminum tolerance
                and the heritabilities in pearl millet
               Tomohiko YOSHIIDA and Akiko SHIGEMUNE
                 (Fac.of Agric.Kyushu Univ.)

 トウジンビェ(Pennicetum typhoideum Rich.)は,主にインドやアフリカで穀実作物として広く栽培されている他殖性作物である.また,他の作物にとってあまりに高温,乾燥し痩せた土地でも栽培が可能で,世界の乾燥地,半乾燥地における重要な作物である.したがって,本研究ではこのような地域における収量を増加させるために,トウジンビェの耐乾性,耐塩性の集団選抜を行った.また,世界の農業利用可能面積の約30%を占める酸性土壌ではアルミニウムの害が収量を低下させているので,アルミニウム耐性の集団選抜も行った.そして,遺伝率を求め,選抜効果を検討した.

         材料と方法
 原集団として,インドのICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所)より導入した短稈集団を1997年8月に九州大学構内の圃場に播種し,一穂粒重の大きいものを選抜し,採種した集団を用いた.千粒重は12.6gであった。

1.耐乾性
 シャーレにろ紙を2枚敷き,その上に種子を25粒置き,さらに1枚ろ紙をかぶせ,23.1%ポリエチレングリコール6000水溶液を5ml加えた(Stout et al.1980).これは浸透圧で約1MPaに相当する(Michel et al.1973).30℃インキュベーターに入れ,4日後に種子根の長さを測定した.発芽直後は胚乳養分により根が生育し,ストレスの影響を受けにくいのではないかと考えられるが,予備実験により,4日後でも耐性の差は現れることを確認した.種子根の長いものを耐性,短いものを感受性として評価した.

2.耐塩性
 方法は耐乾性の場合とほぼ同じである.2.0%塩化ナトリウム水溶液を用いた.6日後に種子根長を測定した.Chiipa et al.(1992)は本実験とほぼ同じ方法でトウジンビエの耐塩性の発芽実験を行い,ストレスを加えたポットで栽培したときに得られる耐性の評価と一致したとしている.

3.アルミニウム耐性
 コムギのアルミニウム耐性の早期検定法としてPolle et al.(1978)によって開発されたヘマトキシリン染色法を用いた.高木ら(1981)は,ヘマトキシリン染色法は従来から早期検定法として使われてきた水耕法に匹敵する精度を示し,そのうえ操作が簡便で,根長を測る手間も省け,コムギ育種の早期検定法として極めて有効であることを確かめている.ここでは,8.0mM塩化アルミニウムを加えた水耕液を用いて発芽させた種子をヘマトキシリンで染色し,強く染色されたものを感受性,あまり染色されなかったものを耐性として評価した.階級1(極弱),3(弱),5(強),7(極強)の4段階で評価した.

 これらの方法で各々約300粒の種子から耐性,感受性個体をそれぞれ1割選抜した.1ポットに3個体移植し,温室で栽培し出穂後に多交配して耐性と感受性集団の次代種子を得た.次代について,同じ方法で耐性を評価し,遺伝率を求めた(松尾1978).

        結果と考察
1.耐乾性
 第1表のように,発芽率は選抜によって低下した.千粒重をみると原集団が12.6gであったのに対し,選抜集団では耐性,感受性とも約5.0gと著しく低下した.よって,発芽率の低下は千粒重の低下が一つの要因になっていると考えられる(Totok et al.1996).また,発芽率は感受性選抜集団が耐性選抜集団に比べ低くなった. 第1図(上)に示すように,種子根の長さはわずかに感受性選抜集団で短くなった.遺伝率は0.09となり,低い値であった(第2表).
     第1表 耐乾性,耐塩性集団の発芽率
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                   発芽率(%)
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 耐乾性
  原集団              98.7
  耐性選抜集団           95.3#
  感受性選抜集団          86.7
 耐塩性
  原集団              98.0
  耐性選抜集団           90.7
  感受性選抜集団          93.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
#は,耐性,感受性選抜集団間の差の有意水準が10%であることを示す.

        第2表 選抜形質の遺伝率
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  形質          M1    M2  M'1  M'2  遺伝率
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 耐乾性        3.90 0.10 1.02 0.67  0.09
 耐塩性        3.75 0.45 1.25 1.25   0
 アルミニウム耐性   7.00 1.00 6.04 3.22  0.47
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表中の値は,耐乾性,耐塩性は根長(cm),アルミニウム耐性は耐性の評価値を示す.
遺伝率=(M'1−M'2)/(M1−M2).
M1,M2=原集団の耐性選抜群と感受性選抜群の平均値.
M'1,M'2=選抜群の次代の平均値.
2.耐塩性
 第1図(中)のように耐乾性と同様選抜集団は発芽率が低くなり,平均値も原集団より低くなった.また,耐性集団と感受性集団はほぼ同じ反応を示した.その結果,選抜効果は見られなかった(第2表).

3.アルミニウム耐性
 第1図(下)に示すように耐性集団が感受性集団より耐性の評価値が高く,遺伝率は0.47となり(第1表),比較的高い遺伝率を示した.トウジンビェにおけるアルミニウム耐性検定の報告はないが,ヘマトキシリン染色法によってコムギのアルミニウム耐性を検定したWheeler et al.(1992)は,コムギのアルミニウム耐性は不完全優性の単一遺伝子によるものであると報告している.

 このように,アルミニウム耐性では比較的高い選抜効果があり,耐乾性ではわずかに選抜効果があったが,耐塩性には選抜効果はみられなかった.選抜効果が低くなった原因としては,選抜方法が不適当であったことか,用いた原集団に耐乾性や耐塩性に関しての遺伝的変異が含まれていなかったことなどが考えられる.また,トウ


第1図 耐乾性(上),耐塩性(中),アルミニウム耐性(下)の分布.原集団(■),耐性選抜集団(●),感受性選抜集団(▲)を示す.*は,耐性,感受性選抜集成間に5%水準で有意差があることを示す.
ジンビエはストレスに対して非常に強いという性質を持っているため,すでに耐乾性や耐塩性に関する遺伝子が集積されてきており,そのさらなる改良も大変難しいと思われる.

 選抜効果を検討するには,選抜方法が重要である.また,集団選抜では大量の個体を扱わなければならないので,簡便な方法であることも必要である.Ashraf et al.1992)は,トウジンビエを14日間塩を加えた水耕液で栽培し,芽の長い個体を選抜するという方法で2サイクルの耐塩性選抜を行い,選抜集団を作った.その集団と原集団をストレスを加えたポットで5週間栽培したところ,特にストレスの強い試験区で,原集団より優れた特性を持ち,この方法が選抜に有効であることを確認している.

 本研究で用いた方法は,簡便であり,大量個体を扱うにはふさわしいものであるが,幼苗期での選抜がどれだけ信頼性があるのか,実際のストレス圃場下でも耐性を 持つかという問題が残っている.今後はこれらの点について検討したい.

         摘  要
トウジンビェの耐乾性,耐塩性,アルミニウム耐性選抜をし,その遺伝率を求めた.遺伝率は,アルミニウム耐性では0.47と,比較的高い値になり,耐乾性では0.10でわずかに選抜効果がみられたが,耐塩性には選抜効果はみられなかった.

         引用文献
Ashraf et al.1992.Plant Breeding 1O8:234−240.
Chiipa,B.R. et al.1992.Indian Journal of Experimental Biology 30:70−72.
松尾孝嶺 1978.改訂増補 育種学.養賢堂,東京.137−140.
Michel,B.E. et al. 1978.Plant Physiol.51:914−916.
Polle,E.et al.1978.Crop Sci.18:823−827.
Stout,D.G.et al.1980.Can.J.Plant Sci.60:13−24.
高木洋子ら 1981.育雑 31:152−160.41:1-9.
Totok,A・D・H.et al.1996.J.Fac.Agr.,Kyushu Univ.41:1−9.
Wheeler,D.M.et al.1992.Plant and Soil.146:1−8.

以上