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本頁は 日作九支報59 : 27〜28 (1992) に掲載したものです.
Rep.Kyushu Br.Crop Sci.Soc.Japan 59:27−28.1992

  早期コシヒカリ再生株の生育・収量

      吉田 智彦・穂園 咲子
         (九州大学農学部)


Growth and yield of ratoon crop from rice cultivar “Koshihikari” cultured in early-season culture
Tomohiko YOSHIDA and Sakiko HOZONO(Faculty of Agriculture,Kyushu University)

平成4年4月23日 第69回講演会で発表
キーワード:ヒコバエ,品質,コシヒカリ,収量,早期栽培

   全国的に良質,良食味米の需要が高まる中,福岡県においてもコシヒカリの作付けが推進されており,早期栽培を中心にその作付け面積は拡大する傾向にある。

   一般に九州においては早期水稲の刈り株からヒコバエが発生しある程度の収量をあげることが知られている1,3).そこで本報では,早期コシヒカリのヒコバエについてその発生状況をみるとともに,収量構成要素および収量に及ぼす施肥の影響について調査を行ったので,その結果を報告する。

          材料および方法
   コシヒカリの栽培は1991年に九州大学農学部構内の水田(2.8mX7.8m)において行った.

   1期作の栽培には稚苗(第4葉抽出時)を用い,4月24日に1u当り22.2株(条間30cm,株間15cm),1株当り3本を手植えした.基肥は10a当りN・P2O2・K2Oを各5kg,穂肥(7月4日)は各1kgを施与した.1期作の収穫は手刈り(刈り高15cm)で行った。

   ヒコバエの栽培には標準区と施肥区の2区(1区面積5.5u)を設け,各区2反復とした。施肥区には1期作の刈り取り翌日(8月25日)に10a当りN,P2O5,K2Oを各5,6kg施与し,その後は両区とも湛水状態で栽培した。

 ヒコバエの親株からの発生節位の調査は,稲株を掘り取り,株に付着した土壌を水洗・除去し,稈の基部をカミソリで注意深く削り行った。各区50個体を用いた。

       結果および考察
 1期作の出穂期は7月18日,収穫は8月24日に行った。ヒコバエの出穂期は9月30日,収穫は11月21日であった。ヒコバエの登熱期間(53日)の積算気温は約880℃であった。1期作とヒコバエの収量形質,収量および品質を第1表に示した。1期作は登熟期に鳥害を受けたため,収量は10a当り換算で327kgであった。ヒコバエの収量は10a当り標準区107kg,施肥区129kgで施肥区が約20kg多く,施肥の効果がみられた。食味の指標としてアミロース含量2)を調査した結果,ヒコバエは1期作より約7%高い値となった。検査等級ではヒコバエは両区とも規格外であった。

 収量形質について1期作とヒコバエとを比較すると,千粒重にはほとんど速いがみられなかったがその他の形質はすべてヒコバエの方が小さい値となった。ヒコバエの標準区,施肥区についてみると,1株穂数以外の形質にはほとんど違いがないため,施肥区における約20kgの収量の増加は施肥によって1株穂数が増加したためと考
         第1表 1期作とヒコバエの収量形質と収量,品質
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        稈長  穂長  1株  1穂  千粒重 玄米重 アミロース含量 検査
         cm   u  穂数  粒数   g    kg/10a    %       等級
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1  期  作   78.9  20.6  18  105  19.9  327    14.6    2等下
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ヒコバエ|標準区 47.6  11.7   9   30   19.8   107      21.5     規格外    
    |施肥区 50.9  11.8  11   31   18.9  129    21.9    規格外
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注)アミロース含量の測定および検査等級の判定は福岡県総合農業試験場による。

         第2表 ヒコバエにおける分げつの発生率
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分げつ  (1次) XI  ] \  [  Z      Y    X    W    V
     (2次) − − −   2   2 3 4   3 4   4 5   5 6   6 7
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標 準 区(%) 34 22  -   2   6 60  2  22 56   18 28  8 30  4 18
施 肥 区(%)  - 32 26   6  16 34 -  30 52  34 62  18 50  6 10
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 第3表 ヒコバエの穂の形質に及ぽす施肥の影響
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 発生節位      ]  W6   V4   V5  Y3  Y4   Z3
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穂長(cm) 標準区 11.6 11.3 11.9 12.4 11.9 12.3 12.0
      施肥区 11.6 11.5 12.0 12.0 12.1 12.2 11.7
2次枝梗数  標準区  4.2  2.7  4.4  3.7  3.5  4.3  3.3
       施肥区 3.5 3.3 3.8 2.9 3.4 3.8 2.7
1穂穎花数  標準区 41.4 33.4 36.9 36.4 36.0 40.8 37.9
      施肥区 36.0 36.0 37.9 34.5 39.9 37.3 33.9
稔実歩合   標準区 83.3 85.3 83.2 83.8 85.3 81.4 80.5
 (%)   施肥区 93.1 89.4 83.1 84.9 90.5 90.3 87.9
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えられる。そこで,施肥がどの節位のヒコバエの発生に影響を与えこのような穂数の増加がみられたのかを調査するために,分解調査を行いヒコバエの節位別の発生率を調べた。

 第2表に,各節位のヒコバエが50個体中どの程度の割合で発生していたかを示した。表中のローマ数字は1次分げつ,アラビア数字は2次分げつを示す。例えばXIは主稈の第11節から出た1次分げつを,Z3は1次分げつZの第3節から出た2次分げつを表している。なお,第2表にあげた節位以外からのヒコバエの発生も認められたが,未出穂のものや出穂しても稔実していないヒコバエであったためこの表からは省いた。ここで1次分げつ\は施肥区にのみ発生がみられ,発生にあたって施肥の影響を受けたと考えられるが,逆にXIとZ4は標準区にのみ発生がみられた。両区ともに発生がみられたヒコバエの中ではZ3,Y4,V7は標準区における発生率が高かったが,その他の節位からのヒコバエでは施肥区における発生率が約10%高い値となった。このことから,施肥区での穂数の増加は標準区では発生がみられなかった節位から新たにヒコバエが発生したことによるものではなく,標準区と同じ節位からのヒコバエの発生率が全体的に増加したためと考えられる。また,両区を通じてヒコバエの発生率が高かった節位はZ3,Y4,W6,V5などであった。

 第3表にこれら発生率の高かった節位からのヒコバエについて,穂の形質に及ぽす施肥の影響を示した。穂長,2次枝梗数および1穂穎花数に関しては,施肥による明かな効果はみられなかった。稔実歩合はV4以外で施肥区の方がやや高くなっており,施肥区では標準区に比べ長く葉の活性が維持された結果ではないかと推測される。 なお,葉数,伸長節間数に関しても施肥の効果はみられなかった。

 これらのことから,施肥区における約20kgの収量の増加は,その大半が標準区と同じ節位から発生するヒコバエの,発生率の増加によるものと考えられる。

 ところで,今回のヒコバエの調査では,各ヒコバエの出穂までの総葉数が同伸葉・同伸分げつ理論4)を基にした理論葉数や,松葉の説5)により決定される分げつの葉数から大きくはずれて増加することが観察された。この増加の原因は今のところ不明であるが,“刈り取り→再生”という状況で現れた新しい現象ではないかと考えられ,今後さらに追究したい。

         摘  要
 早期コシヒカリ収穫後の刈株から再生したヒコバエについて,その収量性および施肥の効果の有無について調査を行った。
1.ヒコバエの収量は10a当り標準区107kg,施肥区129kgで施肥区が約20kg多かった。
2.ヒコバエの収量形質は1期作と比較して千粒重以外は小さい値となり,品質もやや低下した.1期作刈り取り直後に行った施肥の効果は1株穂数にみられた。
3.分解調査の結果,施肥区の穂数の増加は標準区においても発生がみられた節位からのヒコバエの発生率の増加によると考えられ,これが施肥区における収量の増加の原因と考えられた。
         引用文献
1)江藤博六・田中耕作・伊藤重雄・服部福良・矢野京蔵・郡司節夫 1991.
 ”シッテ”(再生稲)考.その語源と生育・収量.宮大農場報 7:23−31.
2)稲津 脩 1988.北海道産米の食味向上による品質改善に関する研究.
 北海道農試報 66:1−89.
3)石川忠美 1964.早期水稲の再生に関する研究.宮大農時報 10(1):72−78.
4)片山 佃 1951.稲・麦の分蘗研究.養賢堂,東京.1−117.
5)松葉捷也 1988.イネの茎葉生育の規則性に関する発育形態学的研究.
 第3報 分げつの葉数決定の規則性.日作紀 57:614−620.

以上