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本頁は“農業情報研究 1:143-150(1992)”に掲載したものです.図表一部省略.

福岡県の農業研究情報システムの設計

    福岡県の農業研究情報システムの設計
      吉田智彦*
  福岡県農業総合試験場, 〒818 福岡県筑紫野市吉木587

要旨:福岡県農業試験場の研究成果情報をデータベース化して蓄積し,電話回線を通じて外部から検索可能なシステムを作った.検索のみでなく試験場へのデータ送付も可能にした.情報はタイトルと1〜4千字の成果の内容からなっている.現在約千件の情報数である.利用者の制限はない.本システムにより研究成果が容易に検索でき,情報伝達が迅速に行えるようになった.また情報利用の実態がつかめるので,情報提供のありかたや情報の内容自体の反省材料にすることが可能である.

キーワード:研究情報,データベース,農業試験場

はじめに
 従来県の農業試験場の研究成果は,試験場刊行の研究報告,試験場ニュース,県農政部刊行の農業関係の試験研究成果集,各種の学会,会議資料などで公表されてきた.その数は1989〜91年の平均で研究報告では年間56件,試験研究成果(この両者は内容が重複しているものがある)では年間178件である.これらに報告される以外に,毎年の稲麦の作柄概況,栽培技術指針,薬剤使用基準など,試験場が毎年生み出す情報はかなりの数になっている.そこでこれらの研究情報をデータベース化して蓄積し,電話回線を通じて外部から検索可能なシステムにすると従来以上に情報の有効な活用ができるものと思われる.
 農業技術情報のデータベースには,世界の文献情報データベースとしてのAGRISやCAB(農林水産研究情報センター 1984),普及組織のための普及情報VAN(中村 1990),また各地の農業関係BBS(町田 1991)中の技術情報などがある.しかし,AGRISやCABは内容が基礎研究の分野にかたよっており,また情報の内容は文献のタイトルが中心である.普及情報VANは普及上の各種情報である.また農業関係のBBS中の技術情報は内容が完備しているとはいい難く,しかも他からの情報を引用する際の著作権の問題が残っている.このように各種のデータベースが整備されつつあるが,県の農業試験場が行っている生産現場に直接対応した研究上の成果をその内容の概略とともにデータベース化し,それらを外部から検索可能にした例はあまりない.もちろん一つの県の研究成果のみで現場からの諸問題すべてに対応するわけにはいかないが,今後多くの同様なデータベースが構築されることを期待して,ここではとりあえず福岡県の研究成果をできるだけ網羅してデータベース化することを試みた.また,情報の検索のみでなく試験場への技術相談や質問,現地試験データの送付なども可能にして,県内の農業技術に関する情報ネットワークの中心としての機能をも持ちうるようなシステム作りを目的とした.

システムの構築方法
1.研究情報の内容と分類
 情報の形式,中身は福岡県農政部刊行の農業関係の試験研究成果として発表されているものにならった.つまり,個々の情報はタイトルと1〜4千字の内容からなり,内容は,試験年次,目的,方法,成果の概要,成果の具体的データ,成果の評価と取扱上の留意点,資料名を含み,主に普及を対象として作成されているものである.他に稲麦の奨励品種一覧や作柄概況の速報,文献・図書目録,当場観測の気象値,県内の土壌基本調査値,主要作物の作付概況なども含めた. これらを第1図の分野別一覧に示す“Q and A”の欄を除く18の専門分野に分類した.当初は過去の試験研究成果集から適宜取捨選択し,合計345件をデータベース化した.過去の研究成果は刊行物をワープロ入力してからデータベース化した.OSはMS−DOSであるので,一般的に用いられているコンピュータで作成した文書が変換なしにそのまま利用でき,研究報告や研究成果用の文書ファイルが若干の編集後データベースに容易に追加可能である.以後情報は毎年追加されており,現在は合計1029件の情報数である.

2.ソフトとハードウェアの構成
 情報の数はとりあえず当初が400件程度,数年後で千件程度,従って18の専門分野に分類すれば各々で最大100件程度と予想されたので,あまり高度の検索機能を持つ必要はないと判断した.このため広く出回っている一般的なパーソナルコンピュータによる通信ホスト用の簡単なソフトウェア(五月 1987)を利用することとした.パーソナルコンピュータはNEC社PC9801RX4(20MBハードディスク内蔵),モデムはOMRON社MD1200E,ソフトウェアはMS−DOS版BASICによるシスポート社TOWN−BBS(Ver.4)を用いた.本ソフトの電子掲示板機能を利用し,専門分野別のボードに各情報をメッセージとして掲載した.“Q and A”の欄以外のボードは読みだし専用とした.
 本システムにおけるファイルの構成を第2図に示した.SYSY1ディレクトリー下にはデータベース管理と通信用のメインプログラムを,SYS2ディレクトリー下には成果情報データを,BATディレクトリー下にはシステム支援用のバッチ処理ファイルを配置した.SYS2下には,B1〜B19の専門分野のサブディレクトリーと専門分野一覧のファイル(BOARD.DAT)を,各専門分野下に各成果情報データ(FILE1〜)と情報のタイトル一覧ファイル(INDEX.DAT)を配置するという極めて簡単な構造とした.各専門分野の一番目のファイル(FILE1)には当該分野の説明や問い合わせ先を載せてある.

**  Welcome to FARCIS **
GUEST ト ニュウリョク シテクダサイ -->GUEST
アナタ ノ ナマエ ヲ オシエテ クダサイ : YOSIDA

B? (分野別一覧表示)  または X (終了) と入力して下さい.:B?

 1 Q and A   2 稲,水田      3 麦         4 稲麦の品種解説
 5 稲麦の除草剤など   6 畑・転換作物    7 茶・いぐさ     8 普通作の病虫害
 9 野菜,花          10 果樹           11 野菜の病虫害  12 果樹の病虫害 
13 機械,経営,気象  14 加工,流通利用 15 環境保全土壌  16 飼料作 
17 畜産              18 その他         19 福岡県作物作付概況等  

番号 入力  または X(終了)   ?)一覧表示  X)終了 :  4

[B4] 稲麦の品種解説       Board しばらくお待ちください。
まず S と入力. タイトル一覧がでたら希望の番号を入力. S

バンゴウ ....   タイトル
*   1>       この覧について                
*   2>       稲麦大豆品種一覧        
*   3>       早場米品種「ハヤユタカ」      
*   4>       酒米用早生品種「五百万石」    
*   7>       稲品種「ツクシホマレ」        
*   8>       水稲品種「ミネアサヒ」の栽培法
・・・・・

まず S と入力. タイトル一覧がでたら希望の番号を入力. 2

稲の品種特性一覧
====================================
品種名  成熟  稈長 倒  収量 いも 白葉  その他
         (月日) (cm) 伏 (kg/a) ち   枯
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[極早生]
キヌヒカリ 早 8.27   76 中  57.2  中  ヤヤ弱 穂発芽,いもち,白葉枯注意.
    普 9.23   79 中  48.1  中  ヤヤ弱  
コシヒカリ 早 8.28  84 弱 56.6  弱  中   早期.倒伏に注意.肥沃地不向き.
     普 9.23  88 極弱 47.8  弱  中 
ミネアサヒ   9.26  76 ヤヤ強 45.9  中  中   山間山麓向.出穂の変動に注意.
[早生]
日本晴  10.8   80 中 52.0  中  中  山間山麓向.多肥を避ける
黄金晴  10.8  77 ヤヤ強 53.5  中  中  山間ー平坦に適す.
[中生]
ヒノヒカリ   10.21  88 中 53.6  中  ヤヤ弱  多肥を避ける.いもち白葉枯病を防除
・・・・・


      図1 検索の一例.

  ・・SYS1・・(TOWN BBSのメイン                                            
  ・           プログラム群)            ・・FILE1                       
  ・                                      ・・FILE2                       
  ・        ・・B1・・・・・・・・・・・・・・・(各成果情報)            
  ・        ・・B2・・・・・・・・・・・・・・・                          
  ・・SYS2・・・(各専門分野)            ・・                              
  ・        ・・                          ・・・INDEX.DAT(タイトル一覧)   
  ・        ・  B19                       ・                                
  ・        ・・BOARD.DAT(専門分野一覧) ・・・FILE1                       
  ・                                      ・・・FILE2                       
  ・        ・・XX.BAT                    ・・・                          
  ・        ・・YY.BAT                    ・・                          
  ・・BAT ・・(システム支援用            ・                              
            ・  プログラム群)            ・・INDEX.DAT                   
            ・・                                                          
            ・・・                                                          

図2 本システムのファイル構成.
  注)SYS1;データベース管理と通信用のメインプログラムを含むディレクトリー
    SYS2;成果情報を含むディレクトリー
    BAT;システム支援用プログラムを含むディレクトリー
3.原プログラムの手直しと支援プログラムの作成
 検索操作の簡略化やシステムの管理などのため,原プログラムの一部手直しといくつかの支援プログラム作成を行った.
1)検索操作の簡略化
 原プログラムを変更して,利用者がアクセスしたとき,GUESTと入力,次に利用者名を入力すれば専門分野が表示され,専門分野を選んだ後は各情報のタイトルに付けた番号を指定して目的とする情報を読むという極めて単純な操作とした(第1図).原プログラムにあった電子メール,利用者登録や検索,ライブラリー機能などのメニュー表示はしないようにした.また,英語による入力指示の説明を日本語に変えた.使用実績を調査したいので,利用者名の入力操作は残した.
2)支援用プログラムの作成
 主にバッチ処理で,データベース中の専門分野別情報数のカウント,ハードディスク中のデータのディスケットへのコピー,新規に追加された成果情報のみのディスケットへのコピー,成果情報ファイルの書き込み禁止措置(頻繁な変更がある作況データを除く)などシステムの管理やデータ保護などのためのプログラムをいくつか作成した.
3)“Q and A”の欄への書き込み検出
 本欄は書き込み機能を利用した外部からの試験場への技術相談や質問,システム管理者への注文や連絡,さらには現地試験データの試験場への送付などのためのものである.本システムでは利用者相互やシステム管理者への電子メール機能は削除したが,必要ならば本欄を利用することとした.システム管理者が毎日本欄への書き込みがあったかどうかを調べるのは煩雑なので,書き込みがあったときは直後にホストコンピュータのディスプレイにそのむね表示し,速やかな対応ができるようにした.  その他には,外部からのアクセス中以外はディスプレイに緑色で大きく当システムの略称であるFARCIS(福岡県農業総合試験場研究情報システムの英語訳であるFukuoka Agricultural Reseach Center Information Systemの頭文字をとった)と表示するようにした.

4.利用者の範囲と利用時間
 情報公開の原則から利用者の制限はなくし,誰でもGUEST入力で利用可能にした.日中は忙しく夜間にしかアクセスできない利用者も多いと予想されたので,月〜金曜日の間の連続運転とした.通信の手順は極一般的な方法であり,電話番号は092−928−4409で,とりあえず接続は一回線のみとした.

5.データの保護
 本体のハードディスク中のデータは一旦ディスケットを経由して別の単体のハードディスクへコピーした.従って,バックアップはディスケットとハードディスクの二重になっている.バックアップ用のハードディスクは別室に保管した.

評価と課題
 各地の自治体で気象データの解析,作物の生育予測,農業に関する意見交換などのためにパソコン通信を利用することが盛んになってきている(川井 1988,農林水産省統計情報部 1987).本システムでもパソコン通信機能を利用して,福岡県の農業に関する研究成果が誰でもどこからでも容易に検索できるようにした.また,稲麦の作柄概況などの情報伝達が迅速に行えるようになった.さらにアクセス回数や,どの分野への照会が多いかなどの解析から情報利用の実態がつかめるので,情報提供のありかたや,情報の内容自体の反省材料とすることが可能であることなど,既存の刊行物による情報伝達にない利点を有している.データの試験場への直接送信は現地試験成績の迅速正確な解析を可能にした.このように本システムは安価,簡便で取扱が容易であるが,県内の農業研究情報ネットワークの中心となりうる機能を有すと考えられる.
 本データベースは福岡県の研究成果からなっており,一つの県の試験場の研究成果のみで現場からの多様な問題すべてに対応するのは不可能である.今後はさらに試験場としての研究を積み重ねていくことも大切ではあるが,他機関の成果を出所を明かにしたうえでデータベースに加えることも必要である.また,“Q and A”の欄への質問とその解答を蓄積していくことで様々な問題への対応も可能になっていくであろう.このようにして本システムの内容を充実させ,情報センターとしての役割を果たしていくことも試験研究機関の将来の一つの重要な方向だと考えられる.
今回はとりあえず研究成果のデータベース化をして一般への利用に供することを優先したので,取扱いができるだけ容易な既存のソフトやハードウエアを利用した.従って本システムでは文字データのみとし画像情報は扱わなかった.情報伝達に画像が大きな効果をもつことは確かである.また,情報量が増えればキーワードによる検索が必要になるであろう.さらに現在のシステムでは情報数の最大限界は2千位ではないかと予想され,将来は限界を超えると考えられる.これらの問題及び複数の電話回線による接続などは,使用実績をふまえたうえでの将来の課題とした.
引用文献
1)川井一之 (1988) 地域開発と先端技術.農業技術 43:295−2
 98,358−361,411−414.
2)町田武美 (1991) 農業情報BBSの現状.農業情報利用研究会監修,
 農業情報1991,豊民協会,東京,190−203.
3)中村典裕 (1990) 普及組織におけるコンピュータネットワークシステ
 ムの構築−普及情報VANの概要−.農業情報利用 3:102−111.
4)農林水産研究情報センター (1984) 文献情報検索マニュアル 1 文献
 情報検索利用の手引き.171pp.
5)農林水産省統計情報部編 (1987)  農業情報化のキーワード.農林統
 計協会,東京,198pp.
6)五月出 (1987) パソコン通信ハンドブック.秀和システムトレーディ
 ング,東京,257pp. 

     Development of Network System of Agricultural Research 
           Information in Fukuoka Prefecture
                     Tomohiko Yoshida*
 Fukuoka Agricultural Research Center, Chikushino, Fukuoka 818

                         Summary
  Computerized database and data retrieval system of research information 
in Fukuoka Agricultural Research Center was developed. The information can 
be retrieved by anyone through the public telephone circuit. A host computer in this system is 
NEC-PC 9801 RX4, with a 20 mega-bytes hard disk. Main 
software is Sysport-TOWN BBS (Ver.4). About 1000 items are stored now, and 
they are classified into 18 divisions. Each item consists of reseach 
summaries with a title, which is used for retrieving. Branch stations can 
send the regional trial data. Users can make inquiries to the agricultural 
experiment station for their technical problems. This system can be a center of information 
network on agricultural researches in Fukuoka Prefecture.
  
Key Words : data retrieval, research information, agricultural experiment 
station

* present address) Faculty of Agriculture, Kyushu Univ., Fukuoka 812 

以上