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本頁は“日作紀 67:520-,1998”に掲載したものです.図表一部省略.

大麦縞萎縮病抵抗性の二条種裸性大麦品種の育成

吉田智彦*
(九州大学)
1998年5月28日受理.*連絡責任者 (〒812-8581福岡市九大農学部.yoshidat@agr.kyushu-u.ac.jp).

要旨:裸性の大麦品種は西日本で古くから栽培されているが,六条種であり,赤かび病や過湿などによる被害を受けやすい.そこで裸性品種の収量や品質の安定化を図るため二条種裸性品種のYNH-2とYNH-3を育成した.まず中間母本として (Hiproly/*2西海皮12号//ダイセンゴールド) の交配から羽系N107を,(羽系N107/羽系P20) の交配からNHS-1を育成した.裸性はHiproly由来である.大麦縞萎縮病抵抗性導入のために,木石港-3由来の抵抗性を持つ大系R2264とNHS-1との交配を行ってYHN-2を育成した.ほぼ同様な育成経過でYNH-3を育成した.この両品種は早生で,短稈で,収量は二条種皮性の比較品種と同程度で,粒のみかけの品質は良く,大麦縞萎縮病抵抗性は極強である.YNH-2とYNH-3は裸性以外比較品種と実用上大差ない特性を有しており,裸性品種の安定栽培に寄与し得る品種と考えられる.耐寒性は中〜やや強で,このことは裸性でも耐寒性を有する品種の育成が可能なことを示しており,必ずしも裸品種の耐寒性が劣ることはないと考えられる.
キーワード:大麦縞萎縮病,耐寒性,二条種裸性大麦,戻し交配.
Breeding of Two-Rowed Naked Barley Varieties with BaYMV Resistance: Tomohiko Yoshida* (Fac. Agr., Kyushu Univ., Fukuoka 812-8581, Japan)
Abstract:Six-rowed, naked barley varieties, which are grown in western Japan, are generally susceptible to scab and excess soil moisture injury. For hulled varieties, two-rowed varieties are more tolerant to these injuries than six-rowed varieties are. Therefore two-rowed, naked varieties with good agronomic characters and BaYMV resistance, named YNH-2 and YNH-3, were developed through backcrossings. An intermediate parent, Hakei N107, was developed from the cross of Hiproly/*2Saikai kawa 12//Daisen Gold. Another intermediate parent, NHS-1, was developed from the cross of Hakei N107/Hakei P20. YNH-2 was developed from the cross of Daikei R2264/NHS-1. BaYMV resistance was derived from Daikei R2264, and YNH-3 had nearly the same pedigree as YNH-2. The grain yield of YNH-2 and YNH-3 was same as two-rowed, hulled check varieties. Grain quality was good. At present, two-rowed naked varieties are not grown in Japan, but YNH-2 and YNH-3 would contribute a more stable production of naked barley. The cold tolerance of YNH-2 and YNH-3 was moderate, indicating that nakedness and lack of cold tolerance were not always associated, as previously mentioned.
Key words:Backcrossing, BaYMV, Cold tolerance, Two-rowed naked variety.

 大麦の品種は,穂軸の各節に着いた3小花の全部が稔実する六条種と側列の2小花が退化して不稔となる二条種,成熟期に穎が穎果に癒着する皮性と癒着しない裸性に分類される.わが国では,二条種皮性,六条種皮性,六条種裸性の各品種が栽培されており,二条種裸性品種の栽培はない.二条種裸性の品種育成は昔手がけられたことがあるが (農林省関東東山農業試験場 1959),その育成経過の記録はなく,育成された品種も観察によれば農業的形質は劣っている.六条種裸性品種は食用,みそ原料用などに西日本で古くから栽培されているが,時に赤かび病などの被害が大きいことがある (伊藤ら 1995).西日本で栽培されている皮性品種はすべて二条種である.西日本の皮性品種が二条種であるのは,二条種は西日本で多発する赤かび病,過湿土壌など各種障害への耐性が六条種より強く,収量が安定するためとされる (Konishiら 1965,桐山ら 1976).一方,裸性品種は耐寒性に欠ける (高橋・山本 1950) ので,西日本に栽培が多いとされるが,裏付けるデータはあまりない.そこで,第一に裸性品種の収量や品質の安定化を図るため,第二に裸性と耐寒性が関連しているかを明らかにするため,二条種裸性品種の育成を試みた.耐寒性を検定する際には,大麦縞萎縮病に抵抗性がないと葉の黄変が本病への罹病によるのか寒さによる被害かの区別がつかないので,大麦縞萎縮病抵抗性も導入した.また大麦の実際栽培上でも本病による被害は大きいので,本病抵抗性は実用品種にとって不可欠である (藤井 1987).

材料と方法
 交配に用いた品種はすべて二条種である.最初の交配 (Hiproly/西海皮12号) は九州農試 (筑後市) で1971年春に行った.裸性はHiproly由来であり,本来はHiprolyの持つ高リジン (Munckら1970) の導入を目的に交配を行ったが,育成された品種は高リジンの特性はなく,裸性のみが導入された.以後裸性でかつ優れた農業形質を持つ後代系統を選抜し,それにさらに実用品種の戻し交配を行った.西海皮12号とダイセンゴールドを各1回交配して育成した羽系N107を1977年と1978年に播種して収量試験を行った.次に羽系N107と羽系P20の交配から育成したNHS-1の収量試験を農業研究センター (つくば市) と九州農試 (西合志町) で1983年に播種して行った.さらに大麦縞萎縮病抵抗性導入のため,九州農試 (西合志町) で1984年春にNHS-1と木石港-3由来の本病抵抗性を持つ大系R2264との交配を行った.そのF3系統を福岡農試 (筑紫野市) の本病汚染圃場で栽培して抵抗性系統を選抜し,F4系統を栃木農試 (栃木市) で栽培して耐寒性系統を選抜した.こうして育成した大麦縞萎縮病抵抗性二条種裸性品種のYNH-2と,ほぼ同様な経過で育成したYNH-3の収量試験を福岡農試で1991年に播種して行った.耐寒性の評価は農業研究センターで1992年に播種して行った.育成経過を第1表と第1図に示す.
 収量試験の方法は試験年,場所で異なるが,概ね10月末〜11月始めに播種し,1区は条間0.2〜0.35m×長さ3〜5mで2〜5条の条播きとし,m2当たり100〜150粒播種し,窒素成分でm2当たり2〜6gを施肥し,2〜4反復した.試験年,場所で比較品種は異なっている (第2表).耐寒性の評価は,収量試験の材料について,生育初期の葉の黄変程度や越冬株率を観察により判定することで行った.

結果と考察
 第2表に二条種裸性品種の中間母本である羽系N107とNHS-1,最終的に育成されたYNH-2とYNH-3の特性値を示す.出穂期は二条種皮性の比較品種と同程度で早生である.稈長は短く倒伏はみられなかった.子実重や千粒重は羽系N107<NHS-1<YNH-2,YNH-3の順に戻し交配の回数とともに向上した.穎は子実全体の8%程度の重さ (浜地・吉田 1990) であることを勘案すると,YNH-2とYNH-3の収量は比較品種と同程度,千粒重は比較品種よりかなり重いといえる.穂型や草型は比較品種によく似ている.赤かび病の発生は試験期間中全般的に少なかったが,本品種に赤かび病の発生はみられなかった.粒のみかけの品質は良い.大麦縞萎縮病抵抗性は極強である.このようにYHN-2とYNH-3は実用上比較品種と大差ない特性を有しているといえる.過去にいくつかの二条種裸性品種が育成されたことはあるが (香村1993,吉田1984),実際の栽培はなかった.本品種は大麦縞萎縮病を有しており,収量や外観品質も優れているので,裸性品種の安定栽培に寄与し得ると思われる.
 耐寒性について選抜を行わなかった中間母本の羽系N107やNHS-1の耐寒性は弱であったが,耐寒性での選抜を経たYNH-2とYNH-3の耐寒性は中〜やや強であった (第2表).同時に供試されたアサカゴールドの耐寒性は中,カシマムギ (表には省略.六条種) も中であった.このことは,裸性でも関東地方での低温に充分耐える耐寒性を有する品種育成が可能なことを示しており,必ずしも裸性品種の耐寒性が劣ることはないと思われる.
 本品種は農水省農業生物資源研究所にYNH-2が登録番号00074195,YNH-3が同00074194で保存されている.
 謝辞:本品種の育成や特性検定には多くの方々の協力を賜った.特に徳永初彦氏 (九州農試.所属は当時で以下同様),藤井敏男氏 (栃木農試),古庄雅彦博士 (農業研究センター) の助力なしには本品種は育成し得なかった.ここに記して深謝する次第である.
引用文献
藤井敏男 1987. 大麦縞萎縮病抵抗性ビール麦の品種育成. 農業技術 42:397―400.
浜地勇次・吉田智彦 1990. ビール大麦における穀皮の厚さの品種間差異. 日作紀 59:733―736.
伊藤昌光・石川直幸・土門英司・土井芳憲・片山正・神尾正義・加藤一郎・吉川
 亮・堤忠宏 1995. 裸麦の新品種「イチバンボシ」の育成. 四国農試報 59:109―121.
桐山毅・田谷省三・佐々木昭博 1976. Isogenic系統を用いた大麦2・6条遺伝子
 の作用比較. 九農研 38:56―57.
香村敏郎 1993. 愛知県農業総合試験場. 増田澄夫・川口數美・長谷川康一・東修
 編, わが国におけるビール麦育種史. ビール麦育種史を作る会, 東京. 419―432.
Konishi, T., H. Sugishima and T. Kiriyama 1965. Difference in stability 
 of performance between two-rowed and six-rowed barley varietal 
 groups. Bull. Kyushu Agr. Expt. Stn. 11:1―11.  
Munck, L., K.E. Karlsson and A. Hagberg 1970. Selection and 
 characterization of a high-protein, high-lysine variety from the 
 world barley collection. In Nilan, R.A. ed., Barley Genetics II. 
 Washington State University Press, U.S.A. 544―558. 
農林省関東東山農業試験場 1959. 麦類品種一覧. 農林省関東東山農業試験場, 鴻巣. 1―333.
高橋隆平・山本二郎 1950. 大麦品種の分類と地理的分布に関する研究 第13報 
 皮裸性について. 農学研究 39:32―36.
吉田智彦 1984. 二条種裸性オオムギ系統の育成. 育雑 34:250―251. 

第l表 YNH-2とYNH-3の交配両親と育成経過.
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育成経過
 1971年春に筑後市で最初の西海皮12号/Hiprolyの交配
 1977,78年播種による筑後市での羽系N107の収量試験
 1980年春につくば市で羽系N107/羽系P20の交配
 1983年播種による西合志町,つくば市でのNHS-1の収量試験
 1984 (83) 年春に西合志町で最終の交配
 1986年播種のF3 (F4) 系統を筑紫野市で大麦縞萎縮病選抜
 1987年播種のF4 (F5) 系統を栃木市で耐寒性選抜
 1991年播種による筑紫野市でのYNH-2とYNH-3の収量試験
 1992年播種によるつくば市でのYNH-2とYNH-3の耐寒性検定

最終の交配
 YNH-2:大系R2264/NHS-1
 YNH-3:(羽系NlO7/羽系P20) F4//大系R1706
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育成経過の ( ) 内はYNH-3.

第2表 二条種裸性品種の特性.
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品種名@出穂@稈長@子実@千粒@縞萎@うどん@耐寒@  比較品種    @播種 @試験
    @ 期 @ cm @重%@重%@縮病@ こ病@  性 @          @年  @場所
      @    @    @    @    @    @     @     @                @     @
N107 @ -1 @  +1@ 77 @ 85 @  - @   - @  弱 @ダイセンゴールド@1977,8@筑後市
NHS-1 @ -4 @ -14@ 85 @ 85 @  - @   - @  弱 @アズマゴールデン@ 1983@つくば市
NHS-1 @ -l @ -12@ 94 @ 78 @  - @   - @   - @カワホナミ    @ 1983@西合志町
YNH-2 @ -3 @   -@ 96 @ 99 @極強@  強 @   - @あまぎ二条    @ 1991@筑紫野市
YNH-2 @ +1 @  -6@  - @  - @極強@  中 @  中 @アサカゴールド  @ 1992@つくば市
YNH-3 @ -2 @  -@ 93 @106 @極強@  弱 @   - @あまぎ二条    @ 1991@筑紫野市
YNH-3 @  0 @ -12@  - @  - @極強@  中 @やや強@アサカゴールド @ 1992@つくば市
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耐病耐寒性以外は比較品種との差や比で示す.アサカゴールドの耐寒性は中.あ
まぎ二条の出穂期は4月13日,子実重はm2当たり419g,千粒重は41.2g.あま
ぎ二条を100としたときの子実重と千粒重の値は,ダイセンゴールドが92と106,
アズマゴールデンが94と109,カワホナミが100と101 (育成地のデータによる).
-はデータなし.

第l図 YNH-2の家系図.*印を付した品種は裸性.図中の西暦の数字は交配年.
    ┌ 大系R2264     ← 木石港-3                                     
    │                                      ┌ 西海皮12号             
   ┤1984                           ┌ F1┤1971                     
    │                       ┌ F4*┤1972 └ Hyproly*               
    │         ┌ 羽系N107*┤1975  └ 西海皮12号                    
    └ NHS-1*┤1980        └ ダイセンゴールド                      
               └ 羽系P20                                             

以上