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本頁は“農業技術 56:294(2001)”に投稿した原稿に一部加筆したものである.宇都宮大学にきて最初の論文.
コシヒカリとその近縁品種の栽培面積

吉田智彦(宇都宮大学農学部)
Acerage of Koshihikari and related cultivars
Tomohiko Yoshida

要旨:コシヒカリは全作付け面積の約1/3を占めるが,2位以下の品種の系譜を考慮すると,全作付けの約2/3が コシヒカリの遺伝的背景を持つといえる.

 コシヒカリは現在わが国の水稲作付けの35.5%(第1表)であり,単一品種が広範囲の栽培面積を占めることへの 危惧が指摘されている.さらに,近年の普及品種はコシヒカリと近縁のものが多いので,これら品種の系譜を考慮す ると,コシヒカリの遺伝的背景を持つ品種が栽培面積に占める割合はより多くなる.そこで,ここではその値がどのく らいになるかを推定した.

 計算方法は以下の通りである.第2位の品種ひとめぼれの対コシヒカリ近縁係数は0.769なので,ひとめぼれの栽 培面積148.4千haに0.769を乗じた114.1千ha,第3位以下の品種も同様な計算をした値をコシヒカリの面積544.6千 haに累積して加えた.

 21位以下の品種の平均近縁係数は日本晴並の0.25と仮定すると,計算結果は全面積の65.9%となる(2〜20位の平均 値である0.433を用いると68.8%).

 つまり,2位以下の品種のコシヒカリとの近縁度を考慮すると,わが国水稲全作付けの約2/3がコシヒカリの遺伝的 背景を持つことになる.

 この2/3という値が大きすぎるかどうかの議論はここではおくことにする.但し,わが国水稲品種の遺伝的背景は元 来狭く,少数の祖先品種が多くの寄与をしている.最も大きな品種は愛国であり,コシヒカリには0.25(コシヒカリと愛 国の近縁係数),ひとめぼれには0.214の寄与をしている.

 第1表の栽培面積で比例配分して累積すると,愛国(愛国の変種を含む)0.209,旭または朝日0.148,大場(森田早生)0.155, 器量好(撰一)0.114,上州0.106,亀の尾0.086の寄与をしている.上位3品種(愛国,旭または朝日,大場)合計で0.512, 6品種合計で0.818と,極少数の品種が現在の栽培品種の遺伝的背景の多くを占めている.

 このことは,遺伝的背景を広くして遺伝的ぜい弱性を避けることは勿論重要ではあるが,とりたててコシヒカリのみを 問題視するのは当たらないことを示しているのではないだろうか.
第1表 水稲主要品種の作付け面積と対コシヒカリ近縁係数
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順位   品種名      面積(千ha)  %  近縁係数  交配組合せ
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  1   コシヒカリ    544.6   35.5      1    N22/N1(=ハツニシキ,ホウネンワセ)
   2   ひとめぼれ    148.4    9.7     0.769     コシ/初星(=コシ/喜峰)
   3   ヒノヒカリ    138.8   9.0     0.608   黄金晴/コシ
   4   あきたこまち  130.1    8.5     0.617   コシ/奥羽292号
   5   きらら397      73.2    4.8     0.236   3代前にコシ
   6   キヌヒカリ     56.0   3.6     0.533   コシ準同質遺伝子系統/ナゴユタカ
   7   はえぬき      41.4    2.7     0.535   庄内29号/あきたこまち
   8   ほしのゆめ     40.2   1.6     0.296   あきたこまち/道北48号//きらら397
   9   日本晴         20.3    1.3     0.245   ヤマビコ/幸風
  10  つがるロマン  19.5   1.3   0.413   ふ系141/あきたこまち
   (以上10品種 計 1212.5 79.0     −)
  11  ササニシキ      18.5    1.2     0.375    ハツニシキ/ササシグレ    
  12  ゆめあかり      14.8    1.0     0.556   あきたこまち/青系110号
  13  ハナエチゼン    12.8    0.8     0.488   越南122号/フクヒカリ(=コシ/フクニシキ)
  14  むつほまれ      12.6    0.8     0.232   トドロキワセ/アキヒカリ//藤329
  15  夢つくし        11.1    0.7     0.766   キヌヒカリ/コシ
 16 ハツシモ        9.9   0.6     0.187    東山24号/N8
 17 あいちのかおり  9.4   0.6     0.390    ハツシモ/ミネアサヒ
  18 祭り晴         8.5   0.6     0.433    月の光/ミネアサヒ
  19 朝の光          8.5    0.6     0.273    黄金晴//青い空/北陸103号
 20 月の光          8.4   0.5     0.273   黄金晴//青い空/北陸103号
 (以上20品種  計 1326.9  86.4    −)
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(作付け面積は食糧庁発表速報値で平成12年産の値)

補足:
ひとめぼれの近縁係数が0.769なので,ひとめぼれの栽培面積の76.9%はコシヒカリを植えて いるのと同じこととの想定をしたのだが,まあこれは妥当であろう.

祖先品種の寄与率は,祖先品種(家系図の端にある品種)との近縁係数とした.愛国,朝日(旭) などが最近のどの品種でも家系図の端にたくさんあるよ,ということ.

遺伝的ぜい弱性,ということを言い出した論文は
Walsh, J. 1981.Genetic vulnerability down on the farm. Science 214:161-164.
である.本論文は非常に有名ではあるが,単なる評論家的発言であると思う.

稲麦での祖先数や近縁度の解説,作物間の比較などをできるだけかみ砕いた文献は
吉田智彦 1998.最近育成の稲麦品種の家系分析.農業技術 53:504-507.
本文はこちら

近縁係数の計算法などはこちら
近縁係数とは2個体間の遺伝的な似通いを表す値で,定義は「一方の個体の相同遺伝子のうちの任意の 1つと,他の個体のもつそれに対応する相同遺伝子の任意の1つが共通の祖先から由来する確率」

最近の品種での値についてはこちら

以上