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本頁は“農業情報研究 5:57-,1996”に掲載したものです.図表一部省略.

小麦品種の近縁係数およびその品質との関係

            水田一枝1)・吉田智彦2)
        1)福岡県農業総合試験場,〒818 筑紫野市吉木
        2)九州大学農学部,〒812-81 福岡市東区

要旨:
九州農試育成16品種について,家系図上明らかな最終の祖先品種は合計32,家系図中の最大世代数は5〜9,総祖先数は28〜138,重複品種を除いた祖先数は25〜66であった.'中長'が平均39.5%,'江島','ヒラキ小麦'を加えた3品種で50.2%,'早小麦','神力'を加えた5品種で59.4%の遺伝的寄与をしていた.近縁係数をクラスター分析した結果,系譜の特徴を反映した分類が認められた.アミロ最高粘度は'関東107号'と近縁なものが高いが,'アサカゼコムギ'と近縁なものは低かった.
キーワード: 家系分析,近縁係数,組合せ能力,クラスター分析,小麦,Prolog,品質

1.はじめに
 作物を栽培するときに品種の選択は重要な課題である.また,良質・多収の新品種の開発は生産性の向上に欠くことができない.品種間の血縁関係の程度や,それと品質・収量など品種の性能との関係を明らかにすることは,品種の選択や交配親の決定に重要な手がかりを提供する.筆者らはすでにビール大麦(水田・吉田 1994,水田ら 1996)や水稲(大里・吉田.1996)についてこのような解析を行ってきた.本報告では小麦品種の系譜を解析し,品種間の血縁関係の程度を近縁係数(Kempthorne 1969)を計算することで求め,さらに近縁係数と製麺適性に関する品質との関係をみた.小麦品種の近縁係数は,アメリカの品種についてはCoxら(1985),Murphyら(1986)が計算し,クラスター分析や胚乳蛋白質の電気泳動パターンとの関係の解析を行っている.日本の古い小麦品種については酒井(1957)が計算しているが,最近の品種は系譜が複雑になっており,その系譜を数量的に分析した報告はみあたらない.また過去の小麦の報告では系譜と品種の性能との関係は解析されていない.
 水田ら(1996)は推論型コンピュータ言語のProlog(柴山ら 1986)を用いて自殖性作物の一般的な場合についての近縁係数を計算した.本報告でもこの方法に準拠して小麦品種の家系分析を行った.

2.材料と方法
 交配両親名のデータベース化は農林水産省農蚕園芸局(1989),および各小麦育成地の育成試験成績書を参考にして行った.品種名はすべて小文字のローマ字表記にしたが,スペース節約のため該当品種の育成地での表記法とは必ずしも一致していない(例:norin61→n61,shi→si,・・コムギ→・・kなど).また純系淘汰品種,変種,突然変異系統の名前はそれぞれの原品種名に変えた.系統名で交配に使われ,その後品種名の付いたものは新品種名に変えた.データベース中には233の交配両親名データがある.
 福岡農試の小麦奨励品種決定調査で供試した九州農試育成の西海160〜179号(同一の交配組合せを除いた16品種)と,いくつかの主要品種について近縁係数を計算した.これらの品種についてはデータベースに基いて水田・吉田(1994)に記した方法で家系図を作成し,交配親中最も古く遡れる最終の祖先品種まで検索がなされていることを確認した.家系図中の祖先品種の数,他と系譜的関係のない最終の祖先品種(以後最終の祖先品種と称す)一覧,最終の祖先品種までの検索に必要な両親名データ数も検索した.
 近縁係数の計算プログラムは水田ら(1996)の作成したものを用いた.すなわち,ある遺伝子が両親から子孫に伝えられる確率は1/2とし,純系淘汰品種,変種,突然変異系統はすべて原品種と同一とみなし,親子間の関係は交配によるものだけとして計算した.いくつかの場合について計算の途中経過(近縁係数の計算に関係する共通祖先品種に遡るすべての経路)を外部ファイルに出力し,それから表計算ソフトを用いて共通祖先品種別に値を累積し,その近縁係数への寄与の割合を計算した.
 Prologのインタプリタは,パーソナルコンピュータ用のProlog-KABA(アステック(株))を使用した.  品質の値は,1985〜94年に福岡農試で標準栽培された,'シロガネコムギ','ニシカゼコムギ','ダイチノミノリ','西海167号','きぬいろは','西海170号','チクゴイズミ','西海172〜174号'の10品種について,小麦合同品質連絡試験(氏原 1990)として九州製粉懇談会が分析したものを用いた.品種によって供試年次が異なるので,毎年比較品種として供試された'農林61号'との偏差の平均値を用いた.

3.計算結果
 図1に'農林61号','アサカゼコムギ','シロガネコムギ'の家系図を示した.図中の・・・・は後で挿入した.'農林61号'は農林水産省農蚕園芸局(1989)に記されたとおりの系譜による家系図で,純系淘汰品種と,その原品種も表示してある.'アサカゼコムギ'と'シロガネコムギ'は本論文で近縁係数を計算するときに用いたデータベースによる家系図である.家系図中では品種名の表示を10文字で打ち切っている.
 図2に'アサカゼコムギ'と'シロガネコムギ'の間の近縁係数計算の途中経過を例示した.図2での経路の番号を図1の祖先名の右または下に付した.この場合,近縁係数の計算に関わる共通祖先の経路は,'中長'の8つ(@ACDEFIJ),'江島神力'の2つ(BG),'江島'の1つ,(H),'シロガネコムギ'の1つ(K)の計12あった.@の経路('アサカゼコムギ'→'ヒヨクコムギ'→'ジュンレイコムギ'→'農林52号'→'中長'→'シラサギコムギ'→'シロガネコムギ')では,遡る世代数(遡る両方向の計)は6,この経路での値は(1/2)6=0.015625であった.Kの経路('アサカゼコムギ'→'シロガネコムギ')では世代数は1,この経路での値は(1/2)1=0.5で,@〜Kを累積したのが近縁係数で0.611328125であった.  表1に'西海160〜179号'と'農林61号'の家系図について,最終の祖先迄の世代数で最大のもの,祖先品種の総数,重複を除いた祖先品種数を示した.西海系統の最大世代数は5〜9(平均8.1),総祖先数は28〜138(同86.6),重複を除いた祖先数は25〜66で(同42.8)あった.最終の祖先までの検索に必要な両親名データの数は合計95で,最終の祖先品種は合計32品種(表2)あった.
 表3に近縁係数の計算に関係した共通祖先品種への経路の数,経路を遡る世代数,祖先品種別の割合をいくつかの場合について示した.'ジュンレイコムギ'と'西海179号'の間の計算に関与した共通祖先品種は'中長','江島','ジュンレイコムギ'の3品種であった.'中長'の経路は24あり,遡る世代数の最高は10,最低は5で,近縁係数の32.2%が'中長'の経路であった.'江島'の経路は8,世代数の最高は11,最低は8で,近縁係数の4.1%が'江島'の経路であった.'ジュンレイコムギ'の経路は2,最高は4,最低は2で,近縁係数の63.7%が'ジュンレイコムギ'の経路であった.'中長'は古い品種であるが経路の数は多く,'中長'の経路が近縁係数に占める割合は大きかった.'チクゴイズミ'と'ジュンレイコムギ','農林61号'と'西海179号','農林61号'と'チクゴイズミ'の間の計算でも,'中長'の占める割合は大きかった.一方,'中長'以外の古い品種である'江島'の近縁係数に占める割合は4.1〜6.6%と比較的小さかった.  最終の祖先品種と西海系統との近縁係数をすべて計算したところ,値が最も大きかったのは'中長'(西海系統平均で0.359),次いで'江島'(同0.081),'ヒラキ小麦'(同0.061),'早小麦'(同0.049),'神力'(同0.045),'蘇麦3号'(同0.038),'ハシリコムギ2号'(同0.038)などであった(表2).最終の祖先品種との近縁係数は該当品種への遺伝的な寄与率とみなせる.上位3品種合計で,西海系統平均で50.2%,5品種で59.4%,7品種で66.9%であった.
 表4に西海系統16品種と近縁度の高い品種名を示した.西海系統平均の最高値は'アサカゼコムギ'で0.478,次いで'ヒヨクコムギ'0.373,'中長'0.359,'シロガネコムギ'0.359,'ジュンレイコムギ'0.344,'ニシカゼコムギ'0.315,'関東107号'0.306,'農林61号'0.298,'ミナミノコムギ'0.283,'ウシオコムギ'0.271などであった.品質を検定した10品種についてこれらの品種との間の近縁係数を計算し,品質値との相関を計算した結果,対'関東107号'近縁係数とアミロ最高粘度,対'アサカゼコムギ'近縁係数と60%粉白度やアミロ最高粘度,対'シロガネコムギ'近縁係数と原麦蛋白質含有率の間で有意な相関が得られた(表5).アミロ最高粘度は関東107号と近縁なものが高いが,アサカゼコムギと近縁なものは低かった.60%粉白度は'アサカゼコムギ'と近縁なものが低かった.原麦蛋白質含有率は'シロガネコムギ'と近縁なものが高かった.'農林61号'との近縁度が高まると,相関は有意でないが60%粉白度が低下する傾向があった.'中長'では有意な関係は認められなかった.
 図3に西海系統16品種相互間の近縁係数に基いて最短距離法によるクラスター分析を行って得たデンドログラムを示した.距離0.88を基準とすると,西海系統は3つの群に分類できた.第1は'ダイチノミノリ'や'きぬいろは'を系譜の構成要素とする品種番号 1,14,7,16の品種群,第2は'関東107号'またはその片親である'関東82号'か'トヨホコムギ'を系譜に含む 3,12,6,8,10,9,11の品種群,第3は'蘇麦3号'を祖先に含む5,13の品種群であった.第1群は暖地の従来の品種を交配親としたもの,第2群は関東地方育成の品種からの高品質導入を目的とした交配から得られたもの,第3は'蘇麦3号'の赤かび病抵抗性導入を目的とした交配から得られたもので,このように近縁係数をクラスター分析することで西海系統の特徴づけが可能であった.

4.考察
 北部九州の昭和初期の基幹品種は福岡農試育成の'江島神力'で,多くの交配親に用いられた(福岡県立農業試験場 1950,1979,農林水産省九州農業試験場 1991).しかし,その両親品種である'江島'と'神力'を加えた寄与率は西海系統平均で12.6%であり,'中長'よりかなり小さな値であった.'中長'を片親として1944年に育成され,以来長く関東以西の基幹品種であった'農林61号'も多くの交配親として用いられた.対'農林61号'近縁係数は0.298であるが,'農林61号'の最終の祖先5品種('江島','神力','赤坊主','膝切','中長')の寄与率の合計は52.1%であり,このことは'中長'が'農林61号'経由のみでなく,'中長'を祖先とした他の多くの品種の経路からも現在の品種に寄与したことを示している.
 ビール大麦や水稲では,古い品種の系譜上の差異は近縁係数の計算結果に大差をもたらさなかった.小麦では,古い品種である'中長'が近縁係数に占める割合は大きく,その系譜上の差異は計算結果にある程度の影響を及ぼす可能性がある.実際の交配には,'中長'を兵庫県で1925年に純系淘汰した'新中長'が(永井 1952),赤かび病や萎縮病に強い親として農林61号などの親に用いられた(水田利用部小麦育種研究室 1992).Tinker and Mather(1993)は純系淘汰品種と原品種との間の近縁係数を0.75として近縁係数を計算している.表1に'中長'と'新中長'の間の近縁係数を0.75として計算した値を示した.その値は純系淘汰品種と原品種を同一とみなして計算した値の91〜94%となり,やや値が低下した.'中長'以外の古い品種の場合では,差はほとんどないと思われる.
 西海系統16品種平均の最大世代数は8.1,総祖先数は86.6,重複品種を除いた祖先数は42.8であった.この値はビール大麦20品種平均でのそれぞれ9.3,147,36,水稲17品種平均での13.6,494,86より,ビール大麦での重複品種を除いた祖先数以外は小さく,ビール大麦や水稲に比べると小麦の系譜は単純であり,このことは小麦育種では初期世代の育成系統を早めに親として用いて交配を繰り返すことがなかったことを推察させる.小麦では世代促進がやや困難であることもその一因であろう.
 小麦における家系図上での最終祖先までの検索に必要な両親名データの数は合計95,最終の祖先品種は合計32品種あった.ビール大麦20品種のその値は106と16,水稲17品種では210と40で,最終の祖先数はビール大麦よりは多いが水稲よりは少なかった.
 小麦では3品種合計で50.2%,5品種で59.4%,7品種で66.9%の寄与をしていた.ビール大麦では3品種で72%,水稲では3品種で42%,5品種で63%,7品種で72%の寄与をしていた.これらの値と比べると,小麦はビール大麦ほどではないが,水稲よりは少数の祖先品種が多くの寄与をしており,ここでも小麦の系譜が水稲に比べて単純であることがわかる.
 ビール大麦では,基幹品種である'はるな二条'との近縁係数とエキス含量(水田ら1996),また水稲では'コシヒカリ'との近縁係数と食味に有意な相関が認められた(大里・吉田1996).小麦では,'アサカゼコムギ'はその優れた栽培特性のため多くの交配に用いられたが,品質面では優れた交配親とは言えないようである.長く基幹品種であった'農林61号'も,その近縁度が高まると60%粉白度が低下する傾向であり,品質面での組合せ能力は優れていなかった.いっぽう,'シロガネコムギ'と'関東107号'は優れた品質の交配親として寄与したことが窺えるが,ビール大麦や水稲の場合のような,特定品種と品質の間の関係は小麦では認められなかった.北部九州の小麦育種に関しては,品質の基準となり多くの交配に用いられてきた基幹品種はなかったものと考えられる.
 近縁係数のクラスター分析によって西海系統が分類でき,分類された各群ごとに特徴的な系譜的関係が認められた.このことから,例えば北部九州での栽培適性に富み,かつ高品質である品種育成のためには,第1群の品種と第2群の品種の交配をすることが望ましいと考えられる.本報告におけるクラスター分析の結果は今後の交配親選定に参考になるであろう.
なお交配両親名データや簡単な解説付きの解析プログラムは福岡農試研究情報検索システム(吉田 1992)を通じてテキストデータとして参照でき,誰でも利用できる.他の小麦育成地での材料について解析を行うには,本データベースと重複した部分はあるが,データの追加が必要である.小麦品種は生態型により系譜が大きく異なり,本論文で示した,'中長'の寄与率が非常に高いことや,品質の基幹品種がないことは北部九州の品種に特有である可能性が高い.今後,小麦の各生態型品種別での家系分析や,その品種の性能との関係の解析が必要である.また,このような解析は稲麦などの普通作物でもまだ少なく,野菜や花卉などではほとんどみあたらない.今後多くの作物について解析が行われ,その結果が公開されることを期待する.

5.謝辞
 九州農業試験場の佐々木昭博博士から小麦系譜など多くの教示を賜った.品質データは小麦製粉懇話会の分析値を用いた.厚くお礼申し上げる.
6.引用文献
1)Cox,T.S.,G.L.Lookhart, D.E.Walker, L.G.Harrell, L.D.Albers and D.M.Rodgers
  (1985)  Genetic relationships among hard red winter wheat cultivars as 
  evaluated by pedigree  analysis and gliadin polyacrylamide gel 
  electrophoretic patterns. Crop Sci. 25:1058-1063.
2)福岡県立農業試験場 (1950)「昭和自十七至二一年度業務年報」,福岡県立農業試   験場,26ー28p.
3)― (1979)「福岡県立農業試験場100年史」,福岡県立農業試験場,104ー113,626-629p.
4)Kempthorne, O. (1969) An Introduction to Genetic Statistics. Iowa State 
  University Press,  Iowa, U.S.A., 72-80.
5)水田一枝・吉田智彦 (1994)ビール大麦交配両親名データベースの構築と解析.農業
 情報研究 3:65ー78.
6)―・佐々木昭博・― (1996) 近縁係数のためのPrologによるコンピュータプログラム
 とそのビール大麦品種の近縁関係の解析への応用.農業情報研究 5:19ー28.
7)Murphy,J.P., T.S.Cox and D.M.Rodgers (1986) Cluster analysis of red winter wheat cultivars 
 based upon coefficients of parentage. Crop Sci. 26:672-676.
8)永井威三郎 (1952)「実験 作物栽培各論 第一巻」,養賢堂,東京,240ー248p.
9)農林水産省九州農業試験場 (1991)「旧九州小麦試験地小史」,農林水産省九州
 農業試験場,3,23,39p.
10)農林水産省農蚕園芸局 (1989) 「水陸稲・麦類奨励品種特性表」.農業技術協
 会, 東京,262pp.
11)大里久美・吉田智彦 (1996) イネ育成系統の近縁係数およびその食味との関係.
  育雑 46:295ー301.
12)酒井寛一 (1957) 植物育種法に関する理論的研究 X.自殖性作物の育種に
 おける近縁係数の応用.育雑 7:87ー92.
13)柴山悦哉・桜川貴史・荻野達也 (1986)「<岩波コンピューターサイエンス> Prolog-KABA入門」.
  岩波書店,東京,301pp.
14)水田利用部小麦育種研究室 (1992) 小麦品種「農林61号」及び「農林60号」の
   育成について.九州農試資料 78:51-89.
15)Tinker N. A. and D. E. Mather (1993) KIN:Software for computing kinship 
   coefficients. J. Hered. 84:238.
16)氏原和人 (1990) 九州産小麦品質の実態と高品質化のための技術対策.日作九支報 57:92ー97.
17)吉田智彦 (1992) 福岡県の農業研究情報システムの設計.農業情報研究 1:143ー150.
     Coefficient of Parentage and Its Relationship
    to Quality in Wheat Cultivars
       Kazue Mizuta1) and Tomohiko Yoshida2)
  1) Fukuoka Agric. Res. Cent.,Chikushino, Fukuoka 818
  2) Faculty of Agriculture, Kyushu Univ., Fukuoka 812-81

                Summary 
A database of crossing records of wheat cultivars was developed using a Prolog-KABA interpreter. Five ancestors contributed, collectively, 59.4 % and 7 ancestors contributed 66.9 % to the gene pool for cultivars developed by Kyushu Natl. Agric. Exp. Stn. Cluster analysis based on coefficients of parentage between possible pairsof 16 cultivars revealed that these cultivars formed three clusters relating to the predominant parents. Cultivars which related to 'Asakazekomugi' had low values of flour whiteness, showing that 'Asakazekomugi' had a poor combining ability in qualitythough it was a high yield cultivar and used as cross parents extensively in Japan. Cultivars which related to 'Kanto 107' had high maximum viscosity values.

Key Words : Cluster analysis, Coefficients of parentage, Combining ability, Pedigree analysis, Prolog, Quality, Wheat

【解説】農家が作物を栽培しようとするとき,品種の選択は重要な課題である.品種間の血のつながりの程度や,およびそれと品質(例:食味,醸造や製麺適性)など必ずしも計測が容易でない特性との関連を明らかにすることは,よりよい品種選択のための手がかりを提供する.また,良質・多収を目的とした新品種の育成のためにこのような情報は重要であるにも関わらず,今まで適当な手段がなかったこともあり解析が充分とはいえなかった.この論文は小麦において,品種の選択や育成における自動判断のためのエキスパートシステムを考えるときに不可欠である,こうした情報を得る手段と結果について述べたものである.その内容は以下の通りである.
 小麦交配両親名のデータベースを作り,推論型プログラム言語のPrologを使って解析することで,
1)血のつながり程度を表す近縁係数が手軽なパソコンソフトで計算できた.
2)水稲やビール大麦と比較すると,小麦では家系図中の祖先の延べ数が少なく,家系の構成が単純であった.
3)水稲での'コシヒカリ',ビール大麦での'はるな二条'のような,品質の基準となり多くの交配親となった小麦品種は,少なくとも北部九州ではなかった.
4)'シロガネコムギ'や'関東107号'と近縁なものが良質の傾向であった.
5)良質・多収の品種育成のための交配組合せ候補を多変量解析の結果から提唱した.
 血縁関係の解析にはPrologの持つ推論機能に依るところが大きく,複雑な計算が容易にできた.ここで得られた知見によって,品種の選択や育種計画の策定における意志決定が,試行錯誤や経験のみでなく,より合理的にできるようになると考えられる.
表1.西海系統の家系図で,最終の祖先迄の世代数の内最大のもの,
   祖先品種の総数,そのうち重複を除いた数
──────────────────────────────────   
番号 系統名1)   交配組合せ          最大   総祖  重複を除い
                                       世代数  先数   た祖先数
──────────────────────────────────   
 1 西海160号   関東85号/アサカゼコムギ          8     78     42  
 2   161     関東86号/アサカゼコムギ          7     54     35  
 3   162     トヨホコムギ/アサカゼコムギ            7     62     40  
 4   163     羽系T-33/アサカゼコムギ           8    120     53  
 5   165     蘇麦3号/アサカゼコムギ           7     46     34  
 6   166     関東82号/シロガネコムギ           5     28     26  
 7    168     ジュンレイコムギ/西海155号         6     32     25  
 8   170     関東107号/シロガネコムギ          9     82     39  
 9     171     関東107号/アサカゼコムギ          9    110     50  
 10     172     関東107号/西海155号          9     84     40  
 11     173    関東107号/ミナミノコムギ           9    120     42  
 12     174     西海162号/関東107号          9    128     58  
 13     176     西海165号/関東107号          9    112     52  
 14     177     ダイチノミノリ/きぬいろは          9    112     45  
 15     178     gabo/アサカゼコムギF1//羽系84-70  8     80     37  
 16     179     秋17/きぬいろは             9    138     66  
(比) 農林61号   福岡小麦18号/新中長          3      6      6  
──────────────────────────────────   
 1)西海160号(ダイチノミノリ),同168号(きぬいろは),同171号(チクゴイズミ)

  表2.西海系統と最終の祖先品種との近縁係数
 ─────────────────────                           
     順  最終祖先     近縁1)  累積寄
     位  品種名       係数   与率(%)
 ─────────────────────                           
      1   中長          0.359     35.9
      2   江島           0.081     44.0
      3   ヒラキ小麦         0.061     50.2
      4   早小麦        0.049     54.9
      5   神力          0.045     59.4
      6   蘇麦3号        0.038     63.2
      7   ハシリコムギ2号    0.038     66.9
      8   優勝旗         0.032     70.2
      9   広島シプレー3号    0.032     73.4
     10   伊賀筑後       0.031     76.5
     11   オレゴン          0.028     79.3
     12   豪州13号        0.025     81.8
     13   早熟赤毛       0.023     84.1
     14   カルフォルニア        0.023     86.4
     15   白チャボ        0.022     88.6
     16   徐州           0.022     90.8
     17   赤坊主         0.018     92.6
     18   膝切          0.018     94.4
     19   Gabo            0.013     95.6
     20   Garnet Ott.652  0.010     96.6
 ─────────────────────                           
   1)対西海系統16品種の近縁計数平均値で,近縁係数0.01
  迄を示した.以下,'極早生4-15','赤小麦','Wilhelmina',
  'Rieti','ベルベット','白達磨','白三尺','白小麦1',
  'ペロトルカ','札幌春小麦','白ポロ21号','豪州8号'である.

表3.近縁係数の計算に関わる共通祖先への経路の数,
その経路での世代数(遡る両方向の和)の最高と最低,共
通祖先別の近縁係数へ占める割合
────────────────────────────               
 共通      経路     世代数     占める
 祖先       数    最大   最小   割合%
────────────────────────────               
(ジュンレイコムギ 対 西海179号)
 中長        24        10         5     32.2
 江島          8        11         8      4.1
 ジュンレイコムギ     2         4         2     63.7
  近縁計数 = 0.491 (0.451)1)

(チクゴイズミ 対 ジュンレイコムギ)
 中長        13         9         6     28.8
 江島           3         9         7      4.6
 ジュンレイコムギ     1         3         3     32.3
 農林26号       5         7         4     34.3
  近縁計数  = 0.387 (0.359)

(農林61号 対 西海179号)
 中長          14         9         4     77.3
 江島           8        11         7      6.6
 農林61号       2         6         5     16.1
  近縁計数  = 0.291 (0.274)

(農林61号 対 チクゴイズミ)
 中長          10         8         5     68.3
 江島           3         8         8      5.0
 農林61号       1         4         4     26.7
  近縁計数  = 0.234 (0.215)
────────────────────────────               
 1)( )内は'中長'と'新中長'との間の近縁係数を0.75として
  計算した値.

 表4.西海系統と近縁度の高い上位10品種
 ────────────────                                     
    順位  品種名      近縁係数1)
 ────────────────                                     
      1   アサカゼコムギ     0.478
      2   ヒヨクコムギ       0.373
      3   中長        0.359
      4   シロガネコムギ     0.359
      5   ジュンレイコムギ    0.344
      6   ニシカゼコムギ     0.315
      7   関東107号     0.306
      8   農林61号      0.298
      9   ミナミノコムギ     0.283
     10   ウシオコムギ       0.271
 ────────────────                                     
 1)対西海系統16品種の近縁係数平均値

表5.近縁係数と品質値との相関係数1)
──────────────────────────────────   
 品種名    自由 原麦灰分  原麦蛋白   製粉   60%粉   アミロ最高
       度   含有率  質含有率  歩留   白度    粘度
──────────────────────────────────   
 中長2)      8    -0.382     0.237     0.417  -0.102    0.038
 農林61号   8     0.116   -0.207    -0.277  -0.566   -0.370
 関東107号  8   -0.052    -0.402     0.456   0.575    0.893**4)
 アサカゼコムギ  8    0.013     0.184    -0.375  -0.662*4)-0.838**
 シロガネコムギ3) 7   -0.483     0.709*   -0.451  -0.179   -0.527
──────────────────────────────────   
 1)品質検定した10品種(品種名は本文に記した)について計算した.
 2)対'中長'の近縁係数と品質値との相関係数.
 3)'シロガネコムギ'を除く9品種での相関係数を計算した.
  4)*:5%水準で有意,**:1%水準で有意.

***  asakazek  ノ  カケイズ  ***
・hiyokuk・・・・junreik・・・・n52・・・・・・・・chunaga @A1)
・          ・          ・         ・esimasinri・esima
・        ・     ・       B     ・sinriki
・          ・          ・n26・・・・・・・・chunaga CD
・          ・                     ・saitama29・・cal/so・・・・・calfornia  
・          ・                                ・          ・sojukuakag 
・          ・                                ・hayakomugi 
・          ・saikai95・・・n36・・・・・・・・chunaga EF
・                     ・          ・esimasinri・esima
・                     ・             G      ・sinriki
・                     ・n61・・・・・・・・fukuokakom・fukuokakom・hizakiri   
・                                ・          ・          ・akabozu    
・                                ・          ・esima H 
・                                ・chunaga IJ
・siroganek・・sirasagik・・chunaga
  K       ・          ・n59・・・・・・・・n7・・・・・・・・・goshu13    
           ・          ・          ・          ・sirochabo  
           ・          ・          ・n5・・・・・・・・・yushoki    
           ・          ・                     ・hirosimasi 
           ・saikai104・・hirakik
                      ・n20・・・・・・・・chunaga
                                 ・esimasinri・esima
                                            ・sinriki

***  siroganek K ノ  カケイズ  ***
・sirasagik・・chunaga @CEI  
・          ・n59・・・・・・・・n7・・・・・・・・・goshu13    
・                     ・          ・sirochabo  
・                     ・n5・・・・・・・・・yushoki    
・                                ・hirosimasi 
・saikai104・・hirakik
           ・n20・・・・・・・・chunaga ADFJ
                      ・esimasinri・esima H
                        BG    ・sinriki

***  n61  ノ  カケイズ  ***
          2)         3)
・fukuokakom・fukuokakom・hizakiri
・          ・          ・akabozu
・          ・esimasinri・esima  
・                    ・sinriki
・sinchunaga・<-chunaga4)
           ・chunaga    

図1.'アサカゼコムギ','シロガネコムギ','農林61号'の家系図
1)下,又は右に番号の付された品種は'アサカゼコムギ’と'シロガネコムギ'の近縁係数の計
算に関わる共通祖先品種(図2参照).2)'福岡小麦18号'.3)'福岡小麦12号'.4)'農
林61号'の家系図では祖先の純系淘汰品種を系譜どおりに表記し,原品種がさら
に祖先をもつ場合のために両親名データの父親欄に原品種名が入っている.

*  >>>  asakazek  hiyokuk  junreik  n52  chunaga  
** chunaga  sirasagik  siroganek  <<<  0.015625  @1)
*  >>>  asakazek  hiyokuk  junreik  n52  chunaga  
** chunaga  n20  saikai104  siroganek  <<<  0.0078125  A
*  >>>  asakazek  hiyokuk  junreik  n52  esimasinriki  
** esimasinriki  n20  saikai104  siroganek  <<< 0.0078125  B
*  >>>  asakazek  hiyokuk  junreik  n26  chunaga  
** chunaga  sirasagik  siroganek  <<<  0.015625  C
*  >>>  asakazek  hiyokuk  junreik  n26  chunaga  
** chunaga  n20  saikai104  siroganek  <<<  0.0078125  D
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n36  chunaga  
** chunaga  sirasagik  siroganek  <<<  0.015625  E
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n36  chunaga  
** chunaga  n20  saikai104  siroganek  <<<  0.0078125  F
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n36  esimasinriki  
** esimasinriki  n20  saikai104  siroganek  <<<  0.0078125  G
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n61  fukuokakomugi18  esima  
** esima  esimasinriki  n20  saikai104  siroganek <<<0.001953125  H
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n61  chunaga  
** chunaga  sirasagik  siroganek  <<< 0.015625  I
*  >>>  asakazek  hiyokuk  saikai95  n61  chunaga  
** chunaga  n20  saikai104  siroganek  <<<  0.0078125  J
*  >>>  asakazek  siroganek  
** siroganek  <<<  0.5   K

Coefficient of Relationship = 0.611328125


図2.'アサカゼコムギ'対'シロガネコムギ'の近縁係数の計算過程
  1)各経路の番号は図1の共通祖先品種に対応している.



表5.10品種相互間の近縁係数
──────────────────────────────────                    
   asakaz hiyoku chunag siroga junrei nisika kanto1 n61 minami usiok
──────────────────────────────────                    
asakaz    1 0.611 0.437 0.611 0.441 0.453 0.166 0.335 0.275 0.295
hiyoku0.611     1   0.5 0.222 0.664 0.318 0.232 0.468 0.373 0.414
chunag0.437   0.5     1 0.375   0.5 0.406 0.265   0.5 0.406 0.437
siroga0.611 0.222 0.375     1 0.218 0.588 0.100 0.203 0.178 0.177
junrei0.441 0.664   0.5 0.218     1 0.236 0.332 0.281 0.371 0.253
nisika0.453 0.318 0.406 0.588 0.236     1 0.112 0.539 0.307 0.588
kanto10.166 0.232 0.265 0.100 0.332 0.112     1 0.132 0.341 0.124
n61   0.335 0.468   0.5 0.203 0.281 0.539 0.132     1 0.492 0.875
minami0.275 0.373 0.406 0.178 0.371 0.307 0.341 0.492     1 0.436
usiok 0.295 0.414 0.437 0.177 0.253 0.588 0.124 0.875 0.436     1
avg   0.403 0.422 0.425 0.297 0.366 0.394 0.200 0.425 0.353 0.400
GM    0.335
──────────────────────────────────                    

品質(福岡)    対標準差  年次平均 元データ
    name      gen-kai   gen-tan   budomari  hakudo    amiro     menteki
 1 sirogane     -0.175      0.75     1.475      -0.5    -107.5      0.25
 2 nisikaze    -0.1825     0.175     0.525    -2.125       -65      1.75
 3 daitinomin   -0.045     -0.05     -0.05        -3    -177.5       3.5
 4 s167          -0.06       0.4      -0.3      -3.5    -152.5      1.75
 5 kinuiroha   -0.1175       0.4       1.7      -1.3       0.5     3.075
 6 s170          -0.12         1      -0.5         1        35        -3
 7 tikugoizum   -0.155    -0.625     1.325    -2.425        53     1.325
 8 s172          -0.16       0.3       2.6      -1.5       245       2.5
 9 s173      -0.103333 -0.433333 1.5666666       0.5       260 0.8333333
10 s174          -0.07      -0.4       2.3         0       250         0

s160-179 diallele GM    0.322
   X1000      value
--------------------------------------------------------------------                
    s160 161 162 163 165 166 168 170 171 172 173 174 176 177 178 179        
        
--------------------------------------------------------------------                
ean 332 328 344 309 258 288 365 321 382 333 274 330 288 367 299 315                
gm   321                                                                          
--------------------------------------------------------------------                

以上