[ホーム発表論文>本文]
本頁は“日作九支報 62 1996.46−47に掲載したものです. 良質組合せ能力推定の図表

近縁係数を利用した良質ビール大麦の交配母本選定   

吉田 智彦・水田 一枝*
(九州大学農学部・*福岡県農業総合試験場)
Estimating cross combinations having high malting quality from the coefficients of parentage in barley
   Tomohiko YOSHIDA and Kazue MIZUTA*
     (Kyushu University,*Fukuoka Agric.Res.Cent.)

 平成7年9月22日 第72回講演会(第58回九州農業研究発表会と共催)で発表  キーワード:家系分析,近縁係数.組合せ能力,交配母本,ビール大麦

 推論型言語Prolog3)を用いて,水田ら1〉は任意の2品種間の一般的な場合についての近縁係数2〉をビール大麦交配両親名データベースから計算した。それによると,福岡農試育成品種と麦芽品質の基幹品種である「はるな二条」の近縁係数は51品種平均で0.56と非常に高く,しかも近年の育成品種が低下傾向にあるとはいえなかった。

 また対はるな二条近緑係数と麦芽エキスとの間には0.421の有意な正の相関があり,はるな二条と近縁なものの麦芽品質が優れていた。

 このことは基幹品種との間の近縁係数を計算することにより,麦芽品質に関する組合せ能力がある程度予測できることを示している。そこで本報告では,福岡農試育成品種を交配親とした系統の対はるな二条の近縁係数を計算し,麦芽品質が優れる交配組合せの推定を行った。

       材料および方法
 近縁係数は両親の遺伝物質の1/2ずつを後代系統が確率的に持つとして2),水田ら1)に記した方法で計算した。最近福岡農試が育成した,同一交配組合せの品種を除く吉系29から吉系45までの15品種,吉系23から吉系45までの20品種,およびアサカゴールド(吉系14)から吉系45までの25品種を相互交配した系統の対はるな二条近縁係数を計算した。

        結果および考察
 第1表に計算の一事例として,吉系44×吉系45での計算に関わる共通祖先への経路の数,その経路での世代数(さかのほる両方向の和)の最高と最低,共通祖先品種別の近縁係数へ占める割合を示した。共通祖先は,愛知早生13号,アサヒ5号,シバリー,ゴールデンメロン,札幌7号,はるな二条の6品種であった。愛知早生13号の経路は合計12あり,さかのぽる世代数の最高は12,最低は10で,近縁係数に占める割合は1.6%であった。近縁係数に占める割合は,はるな二条の経路が一番多く80.9%,次いでゴールデンメロンの経路で13.9%であり,その他の品種の割合は小さかった。

 第2表に吉系29から吉系45までの15品種を相互交配した105系統の対はるな二条近縁係数を示した。最高は吉系43×吉系29の0.73,最低は吉系40×吉系38の0.42であった。

 吉系23から吉系45までの20品種の相互交配の190系統では,最高は0.73.最低は0.32,アサカゴールド(吉系14)から吉系45までの25品種の相互交配の300系統では,最高は0.85,最低は0.32であった(表は略)。第1図にこれらの計算結果の頻度分布を示した。当然組合せ数が増えるほど近縁係数は幅広い分布を示した。

 対はるな二条近縁係数が高いもの,ここでは仮にその値を0.6と0.7としてみると,0.7以上となる交配は,15,20,25品種の相互交配では各々2,3,22の組合せがあり,0.6以上では各々22,30,83の組合せがあった。このような交配により麦芽品質の高い後代系統を得る確率が高くなり,交配組合せが従来の試行錯誤やいわゆる“勘と経験”のみによるのでなく,ある程度合理的に決定することが可能になったと考えられる。

 一方特定品種との近縁度が高まることにより,いわゆる「遺伝的ぜい弱性」4)が懸念される。しかし高度な品質の要求される現代の品種においては,品質の指標となっている基幹品種との近縁度が高まることは避けられない。

従って今後の交配計画を立てるに際しては,本報告で示したように基幹品種との近縁度を保ちつつ,しかも,耐病性などの他の有用遺伝子導入を図っていくのがよい思われる。
         引用文献
1)水田一枝・佐々木昭博・吉田智彦1996.近縁係数のためのPrologによるコンピュータプログラムと
 そのビール大麦品種の近縁関係の解析への応用.農業情報研究.5:19−28.
2)酒井寛一1957.植物育種法に関する理論的研究 V・自殖性作物の育種における近縁係数の応用.育雑 7:87−92.
3)柴山悦哉・桜川貴史・荻野達也1986.「<岩波コンピューターサイエンス>Prolog−KABA入門」.
 岩波書店,東京,301pp.
4)Walsh,J.1981.Genetic vulnerability down on the farm.Science 214:161−164.

第1表 吉系44×吉系45の交配後代系統の対はるな二条近縁係数計算に関わる共通祖先への経路の数
   その経路での世代数の最高と最低,祖先品種別の近緑係数へ占める割合
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                共通祖先
           −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       愛知早 アサヒ シバ  ゴーげン 札幌 はるな
       生13号 5号   リー  メロン  7号  二条
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
経 路 数   12   2   36    64   2   8
世代数最高   12   9   15    14   9   5  
   最低   10   9   10      8     9    4
占める割合%  1.6  0.8  2.0     13.9   0.8  80.9
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



第2表 吉系45〜吉系29の相互交配で得られる系統の対はるな二条近縁係数
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
吉系 45  44   43   42   41    40  39   38   37   36   35   34    32   30  29
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
44 0.50 0.48
43 0.59 0.57 0.66
42 0.57 0.55 0.64 0.62
41 0.52 0.50 0.60 0.57 0.53
40 0.49 0.47 0.57 0.54 0.50 0.47
39 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57
38 0.44 0.42 0.51  0.49 0.45 0.42 0.47 0.36
37 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57 0.47 0.57
36 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57 0.47 0.57 0.57
35 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57 0.47 0.57 0.57 0.57
34 0.54 0.52 0.62 0.59  0.55 0.52 0.57 0.47 0.57 0.57 0.57 0.57
32 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57 0.47 0.57 0.57 0.57 0.57 0.57
30 0.54 0.52 0.62 0.59 0.55 0.52 0.57 0.47  0.57 0.57 0.57 0.57 0.57 0.57
29 0.66 0.64 0.73 0.71  0.67 0.64 0.69 0.58 0.69 0.69 0.69 0.69 0.69 0.69 0.80
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注)対角線上の同一交配組合せの値は,該当品種の対はるな二条近縁係数である


以上