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 本頁は,1992年度農業情報利用研究会賞「農業研究成果情報ネットワーク構築」の受賞講演用模擬原稿で,農業情報利用 6:11-,1992,に発表したものです.

農業研究成果情報ネットワーク構築


元福岡県農業総合試験場,現九州大学農学部 吉田智彦

 今回の栄えある農業情報利用研究会賞の授賞はまことに身に余る喜びであります.そんな大それたことはしていないのですが,人間褒められると単純に嬉しいものです.ありがたく栄誉をお受けいたしたいと存じまして,生まれて初めて北海道に参りました.しかもこの厳寒の北見が北海道の初体験というのもなかなかよろしいのでは,の感がいたしております.

 福岡県の農業研究に関して何らかの格好で情報化,つまりコンピュータ化をせよ,との命を受け,“農業技術情報システム開発研究プロジェクトチーム長”なる辞令を時の原田場長から受け取ったのは1988年6月でありました.多分場長自身も何をさせるのか具体的イメージはその時なかったと推察します.全国場長会等で他県を見学した際に,一見格好のよい気象情報のシステム化なぞの話を聞かされてきて,我が県でも是非何か,とお思いになったにちがいありません.なにしろ彼は負けず嫌いですから.(笑い).

私はその命を受けたとき,次のようなことをすればよいのだろうと考えました.県内の気象,土壌情報,農業生産等のデータベース作成,作図,利用等は,ほっておいても担当の各研究室が今後どんどんやるであろう.むしろ,この際できるだけ広範囲に試験場の研究成果をデータベース化して,簡単に検索できるシステム作りが一番なすべきことにちがいない.なぜなら,試験場の研究成果である技術情報は各種の手段で公開されており,作るのに相当労力をかけている割にはそれらの出版物の利用がいまいちであるからです.しかもこのようなものは貴重なデータベースになり,宣伝効果もあるはずです.実際にどうするのかは,PC−VANの掲示板のごときものに研究成果情報を載せ,電話回線で検索するようなものを作ればよいのであろう.当時既に私はPC−VANの会員で,AGNETの佐々木さんの御活躍を感心と尊敬をもって眺めていました.

 ただし,このようなシステムは大型のコンピュータでもっぱらすることと思っておりましたし,パソコンで電話回線によるデータベースの検索可能なソフトがあるのかどうかは知りませんでした.町の本屋で,“草の根BBS”なるものが世の中にあり,パソコンを利用したホスト用の簡単なソフトがあることを知ったときには,しめしめこれだと思ったものです.NTTによる規制もなく,単に届出だけBBS開局ができることをも知り,時代の流れを感じました.

 蛇足ですが,お役所という所は大きな予算をとることが一つの手柄になるのです.研究情報のシステム化などといって県庁に要求すると,時流に乗っているのでかなりのお金がつく可能性があります.まあ,もちろんそれはそれで結構なことなのですが,私が避けたかったのはシステムメンテの煩雑さでした.いくらお金が付いても人員の確保が困難なのは目に見えていました.馴染みのない高価なシステムを導入して,難解かつ不備なマニュアルに悩まされつつ,あまり生産的でないことに時間を費やすのは御免です.

 どこにでもあるパソコンで,しかもBASICのソフトで,あとは安いモデムと直通電話回線1本をつけて合計100万円もかからずに当初のもくろみのことが最小限の労力でできそうなことがわかり,これでいこうと前記プロジェクトの面々からの合意を得ました.合意を得たことと,場長からのプロジェクトチーム長なる辞令はその後に大いに役立ちました.各部局からの成果情報の収集や疑問点の質問のために,行き易く,しかも皆快く協力してくれました.このシステムに“FARCIS”と名付けたのは前野企画経営部長で,金銭面のみでなく,後で述べるシステム構築の諸問題に対しても全面的なバックアップをして頂きました.

 冒頭であまり大それたことをしていない,と申したのはまさにその通りでして,4万円そこそこで購入したBBSホスト用のソフトの掲示板機能を“Q and A”欄以外は書き込み禁止にして研究成果情報を載せただけなのです.これをシステムの構築というとあまりに偉そうに聞こえます.情報のワープロ入力作業についても,優秀なパートさんが全部てきぱきとしてくれました.

 でも,つくづくと感じたことはあります.それは安いハードにできあいのソフトでも,まさにシステム構築の問題でして,どのような内容にするか,形式・分量はいかに,どう分類するか,検索法の簡便性のかねあい,利用者の範囲を限るべきか,利用時間つまり休日夜間はどうするか,日頃のメンテは誰がする,データ保護はいかに,等でありました.この仕事を与えられたおかげで,ささやかではありますがこのような問題を実感できたことは大変よい経験でありました.

 内容,形式は,単に情報のタイトルだけではあまり利用されないと判断し,情報の中身をデータベース化することとし,その形式は既に毎年出版している研究成果情報集にならうこととしました.一件千〜4千文字で,簡単なデータがついており,普及を対象にしたものです.過去のものはワープロ入力してからシステムに入れましたが,今後は新規に作成されるごとに,そのファイルを担当者から借りてきて追加していけばよいのですから楽にデータの充実が図れることになります.また,訂正や更新は本システムのものをすることと定めておくと便利です.成果情報として報告されたもの以外に,栽培技術指針,薬剤使用基準,稲麦の作柄概況,蔵書目録,累年の気象値,県内土壌基本調査値,等を含んでおりますが,まだまだ充実させる必要はあります.外部からの検索を考慮していますが,試験場職員自身のデータベースでもあります.

  利用者の制限はなくしました.GUEST入力で誰でも利用できます.制限すれば利用がなくなることは明らかでした.県のものだから,無料で誰でもとはいかないというスジ論や,その他にも難しい問題があることは十分解っておりました.でも考えようでして,試験場の図書室に文献の依頼があれば,多分無料で誰にでも便宜を図るはずです.電話がかかってくれば,貴重な時間をさいて誰にでもお答えしています.現地から依頼があれば,旅費こちらもちで出ていくこともあります.だから,利用者の制限なしはそれ程無理のないことであり,当初からの譲れない方針でしたし,関係者にもその点よく理解して頂きました.今回の授賞がこの点特に評価して頂いたとのこと,嬉しい限りです.

とにかく利用してほしいので夜間も運転しています.皆様昼間はなにかと忙しくてアクセスできず,家に帰ってからする人の多いことをLOG記録が示しています.そのおかげで毎日のスイッチのON,OFFはせず,週に1回のみですし,日頃のメンテの手間は“Q and A”への回答以外ほとんどありません.日曜は機械を休めたいので勘弁してください.

このようなものでも,場長は大変お喜びになられ,お客があるたびにデモのためのお呼びがかかりました.何かの会合のたびに我がFARCISを自慢することができました.このようなもの,と言っているのは決して卑下しているのではありません.逆でして,このような安価で,手間閑をかけないでも,これからの時代に必要なものの先鞭をつけたとの自負なのです.農業試験場の仕事は地味で手間がかかるものが多く,そのようなものを軽ろんじる結果になっては決していけませんが,しゃにむに体を動かすことのみでなく,時には現在の仕事を振り返り,何が今後必要なのかを反省することの大切さをも痛感した次第であります.1989年3月の開局以来現在(1992.4.27)までに2332件のアクセスがありました.もの珍しさが終った後こそ真価を問われます.試験場の仕事に真に価値があり,FARCISにそれらが充満していれば利用者は途切れることないでしょう.日頃の業務,例えば奨決や現地試験のデータ,県庁への文書送付にも使用することが望まれます.これは利用頻度を増やすということのみでなく,慣れれば絶対にその方が便利だからです.

このようにまがりなりにも福岡県内での農業研究成果情報のネットワークを構築できたのは,上司,同僚の激励,協力もさる事ながら,第1には福岡県の試験研究が充実しており,県の過去の研究成果を集めればなんとか形あるものができたことによります.一方国の機関が作るとしたら大変でしょう.範囲が広すぎるし,私がしたように,内容を適当に取捨選択や改変ができないでしょうから.今後は国,各県,各専門分野で同様なシステムができることを期待いたします.無秩序な乱立を恐れることはありません.議論はさておき,できる所からとにかくするのが肝心です.乱立してからまた考えればよろしいでしょう.

 さて皆さん,私たち研究をなりわいにしているものは,何を一番重要な目標にしているか御存じですか.(ここで間を一寸置く).道具,この際はコンピュータですか,を使うのは役に立つから,パソコン通信をするのは要するに最終的にはもうかるからでしょう.そうでないのなら使うわけありませんよね.研究している人でも本当はお金が一番なのです.しかし,我々にとっては,なかなか直接お金に結びつくことは少なく,お金はいわば諦めているのです.では何か.(また間を置く).それは名誉です.あの人は偉い,と言われるのが一番なのです.今回北見に農業情報利用研究会賞の授賞に行くと研究室で言ったら,そんな研究会あったのですかと暴言を吐いたやつがおりました.(会場,特に雛檀で苦笑).私は本研究会の重要性を信じて疑いませんし,今回の授賞を心から喜びかつ有難いことと思っております.今後益々本研究会が発展して,できるだけ早い時期に世の中にその存在を知らぬ人は誰もいなくなり,農業情報利用研究会の第1回の授賞者としての名誉がいやがうえでも高まることを期待いたしまして,私のお礼と挨拶とを終ります.有難うございました.(満場の拍手?).

以上