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本頁は“日作九支報,67:15-16(2001)”に掲載したものです.図表一部省略.

九州地方の栽培に適する製パン適性を持つ小麦品種の育成

春口真一・吉田智彦 (九州大学農学部)
Breeding of Wheat Cultivars with High Baking Quality for Kyushu
Haruguchi, S. and T.Yoshida   (Fac. of Agric., Kyushu Univ.)
キーワード:製パン適性,タンパク質含有率,中間母本,白度,パン用小麦.

現在,パン用には主にカナダやアメリカから輸入された硬質小麦が利用されている.単に外国の品種を日本で栽培しても品種特性が劣化してパン用として利用するのは難しい.そこで,国内での栽培に適する品種でパン適性を持つものを育成することが課題となる.また,小麦の自給率向上や需要拡大のためにもパン用品種の育成が必要であると考えられる.  本研究では,パン用の外国品種と九州に適する品種との交配に由来する後代系統について,製パン適性の調査を行い,九州におけるパン適性に優れた品種の選抜を試みた.

材料と方法
 九州での栽培に適する日本の品種(農林61号,シロガネコムギ,チクゴイズミ,ニシカゼコムギ,鴻巣25号,西海173号,西海180号)と,外国でパン用に作られている品種(Pampa Inta,Victoria Inta,Cal25),それらの品種間の交配に由来するF3,F4世代の61育成系統(第1表)の種子を,1998年12月3日に九州大学(福岡市箱崎)内の畑に条播した.1系統あたり約20個体とした.晩生のものは廃棄し,1999年6月始めに最終的な収穫をした.なお,供試した系統は前年のF2, F3計176系統について,収穫した種子胚乳の一部を粉砕し,粉の硬質結晶粒子の多少を光学顕微鏡で観察して(佐藤ら1998),硬質と思われる系統を選抜して用いた.
 整粒歩合は2mm以上のものとし,以後の分析には2mm以上の種子を用いた.製粉はブラベンダー社製小型テストミルを用い,A粉とB粉をあわせて分析に供した.また,比較として市販の小麦粉(強力粉2種類 中力粉2種類)を用いた.白度計で白度を,テクニコン社製オートアナライザーII型を用いた自動分析システムで全窒素含有率とアミロース含有率を測定した.タンパク質含有率を全窒素含有率に5.70を乗じて求めた.アミロースの分析はヨウド/ヨウ化カリ反応によった.ラピッドビスコアナライザーでデンプンの糊化特性をみた.
 製パン試験はストレート法によった.すなわち,小麦粉25.0g,塩0.36g,砂糖2.15g,イースト 0.29g,ぬるま湯14.5mLを混合し,表面が滑らかになるまでこねた.ショートニングなどの油脂は使用しなかった.生地を丸く整え,28℃で40分間一次発酵し,生地ねかしの時間を常温で10分間とり,その後,温度38℃,湿度80%以上で10分間二次発酵後,190℃で19分間焼いた.市販の強力粉を基準として毎回いれ,1回につき5個ずつ製パンを行った.できたパンの体積を測定した.体積は基準との比で表した.パンの外観,内相(すだち,色相),味の評価を基準と比較しながら行った.

結果と考察
 外国品種は晩生であったが,育成系統は日本の品種と同じか,やや早生であった.また,すべての材料の最高粘度は300RVUを超えており,穂発芽などによるデンプンのα化が起きてない,健全な小麦粉と考えられるものであった.  市販の強力粉と比較すると,育成系統では膨らみや内相がかなり劣るものから,市販の強力粉に近いものまであり,製パン適性に大きな系統間差があった.しかし,市販の強力粉より優るものはなかった(以上データ省略).
 アミロース含有率は,タンパク質含有率との相関係数が0.173,出穂期との相関係数が−0.145で,ともに相関がなかった.ブレークダウン値は,白度との相関係数が0.252,パンの体積との相関係数が−0.049で,ともに相関がなかった.  タンパク質含有率とパンの体積の関係を第1図の左に示した.タンパク質含有率が高いほどパンの体積が大きくなる傾向であった.タンパク質含有率,パンの体積,内相,食味を総合的に判断して15系統を最終的に選抜した.
 外国の品種は膨らみがあまり良くなかった.これらの品種は晩生であり,わが国で栽培したときは登熟条件が不良になり,本来の品種特性を発揮できなかったものと思われる.
 白度とタンパク質含有率の関係を第1図の右に示した.白度が高いものはタンパク質含有率が低くなる傾向となった.育成系統は全体的に色が暗く,日本の品種は色が白く,市販の粉はタンパク質含有率が高いにもかかわらず比較的白かった.色が白く,タンパク質含有率が高いものが理想であるが,選抜した育成系統は色がやや暗かった.
 選抜した15系統は4つの交配組合わせ中3つが鴻巣25号を親に持つもの由来であり(第1表),外国の品種を交配親に持つものよりも鴻巣25号を親に持つ場合に優れる系統が多く得られた.鴻巣25号は伊賀筑後と豪州13号の組合わせからできたもので,中間母本的な品種である.従ってここでの結果は,外国の品種を直接交配親とするよりも,中間母本を交配親として育成するほうが良いものを得られる場合の多いことを示していると考えられる.
 本育成系統の中には市販の強力粉を上回るものはなかったが,タンパク質含有率やパンの体積においては比較的それに近いものが得られ,九州地方に適するパン小麦育成の可能性はあるものと考えられる.

摘要  九州におけるパン適性に優れた小麦品種育成を試みたところ;
1.製パン適性や小麦粉の性質に系統間差が認められた.
2.タンパク質含有率,パンの体積,外観,内相,食味を指標として,製パン適性に優れた系統を選抜した.
3.選抜系統の多くは鴻巣25号を交配親に持つものであった.
4.外国品種を直接交配親として用いた系統には優れた製パン適性を持つものはあまりなかった.

謝辞
 テストミルなどの使用をご快諾して頂いた福岡県総合農業試験場の方々,パン作りにご助力頂いた九大農学科4年生の方々に厚く御礼申し上げます.
引用文献
佐藤暁子ら1998.東北農試研報 93:101−106.

            第1表 供試材料と供試・選抜系統の数
──────────────────────────────          
 番号   交配組合せ            世代 供試数 選抜数
──────────────────┬───┬──┬──┬─          
  1  西海180号/チクゴイズミ      │   F4│   2│    0│            
  2  鴻巣25号/チクゴイズミ       │   F4│  12│    5│            
  3  シロガネコムギ/鴻巣25号     │  F3│   6│    3│            
  4  ニシカゼコムギ/鴻巣25号     │  F3│   4│    4│            
  5  西海177号/西海180号         │   F3│   7│    0│            
  6  西海173号/Pampa Inta        │   F3│   3│    0│            
  7  Cal25/シロガネコムギ        │   F3│   4│    0│            
  8  西海180号/ニシカゼコムギ    │   F3│   9│    0│            
  9    西海173号/西海180号         │   F3│   7│    0│            
  10   Victoria Inta/シロガネコムギ│   F3│   7│    3│            
──────────────────┴──────┴──┴─          

第1図 パンの体積とタンパク質含有率の関係(左)およびタンパク質含有率と
 白度の関係(右).□;育成系統(■;選抜した系統),○;日本の品種,
 △;外国の品種,×;市販の粉.


以上