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本頁は,吉田智彦学位論文,「オオムギ葉身の気孔密度と光合成速度との関係およびその育種への応用に関する研究」(昭和53年4月17日 農学博士(東京大学)乙第4592号)を英訳し“九州農業試験場報告 第20巻 第1・2号(1978)”に掲載したたものの和文要旨です.

なお,英文本文全体(pdf,20M)はこちら,提出した和文本文(手書きだ!)全体(pdf,1.9M)は こちら. 

オオムギ葉身の気孔密度と光合成速度との関係およびその育種への応用に関する研究

].和 文 摘 要

 大気中の CO2 が葉緑体に取り込まれるまでの過程は,大気の抵抗(ra),気孔抵抗(rs),葉肉抵抗(rm)の各々の抵抗を受けると考えられる(第1図)。ここではオオムギ葉身の気孔密度の異なる品種,系統を用いて気孔密度を高めることによるrsの減少が光合成速度にどのような影響を与えるかを検討した。またrsの全抵抗に対する相対的重要性について検討した。さらに気孔密度の品種間差,遺伝力,他形質との関係について検討し,気孔密度での選抜をするに際して予想される点について検討した。

 1.止葉裏側の気孔密度の異なる7品種の止葉のみかけの光合成速度を測定したところ,気孔密度と光合成速度に正の相関(r=0.94**)があった(第2図)。

 2.気孔密度以外の形質はなるべく同じような材料で気孔密度と光合成速度との関係をみるために,止葉気孔密度の異なる同質遺伝子系統を2集団育成した。1っはDickson3×CI4176のBC2F4集団(D集団)で,もう1つはPrimusU4×CI5064のBC3F4集団(P集団)である。この止葉の光合成速度を測定した。P集団では気孔密度の高い系統が低い系統より有意に光合成速度が高かった(第6表)。D集団では気孔密度と光合成速度の間の相関が有意であった(第5図)。

 3.気孔密度の高い葉身が厚かったり,窒素含量が高かったり,または葉脈数が多かったりすることはなかった(第10,11,12図,第9表)。従って気孔密度の高い葉身で葉緑体含量が多かったり転流組織が良く発達しているために光合成速度が高いというのではなく,気孔密度自身が光合成速度に影響を与える可能性が高いと考えられる。

 4.上位葉の気孔密度は下位葉より高く,芒や葉鞘に存在する気孔の総数は止葉の総気孔数に匹敵した(第10表)。

 5.光合成速度を測定した材料について蒸散速度を測定しrsを推定した。気孔密度の高い品種,系統でrsが小さかった(第14図)。またrsの小さい品種,系統は光合成速度が高かった(第15図)。従って気孔密度の増加はrsを減少させ,それに伴って光合成速度が増大することが示された。

 6.気孔密度のみならず気孔の大きさもrsを規制する要因であり,大きな気孔でrsが減少した(第18図)。気孔密度と気孔の大きさからガス拡散式((19)式)を使ってrsを計算したところ,この値は蒸散速度から求めたrsの値を比較的良く説明した(第20図)。

 7.Gaastra(1959)の方法でrmを推定する際の葉緑体でのCO2濃度がゼロ,呼吸なしの仮定は両者共にrmの推定値を過大評価するとされているので,葉内のCO2温度に関してより現実的なモデルを考え(第23図)rmの値を求める式を作って((28),(40)式)rmの値を求めたところ,この値はGaastraの方法で求めた値よりかなり小さくなることが示された。

 8.葉面上の風は raを大きく滅ずるとされているので,CO2 拡散の全過程のうちraやrmはかなり小さくなり,rsの値は相対的にかなり大きくなる(第20表)。従ってrsの変化が光合成速度に大きな影響を与え得るといえる。

 9・同一葉身の部位問での気孔密度の変異は小さかった(第22表)。個体間の変異も比較的小さかった(第2表)。止葉裏側の気孔密度と他の器官の気孔密度との相関は高かった(第23表)。従って気孔密度の推定は誤差が少なく,かつ止葉で気孔密度の高い個体は他の器官の気孔密度も高い。

 10.気孔密度の品種間差はかなり大きく,止葉裏側の気孔密度の最高は95(/mm2),最低は43であった(第24図,第25表)。

 11・気孔密度の品種間差は環境条件によって変動しにくく(第25,26図),遺伝獲得量より求めた遺伝力の値は比較的大きかった(第27図,第27表)。

 12・気孔密度と出穂期や稈長との関係はそれほど密接でなく(第7,28表),気孔密度が高く,早生で短稈の品種の育成に大きな困難はないと考えられる。

 以上のことから遺伝的に異なったものの間の比較では,(1)葉身気孔密度の増加により気孔抵抗が減少し,それに伴なって光合成速度が高まる可能性が大きいこと,(2)それは葉内のCO2拡散過程での気孔抵抗の役割がかなり大きいことからみても可能性が高いこと,(3)気孔密度は品種間差が大きく,遺伝カの高い形質なので気孔密度に着目して選抜を行い光合成能力の高い個体を選抜できる可能性があること,の諸点が明らかになった。
以上