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本頁は 日作紀 75(2006)に掲載. 蛇足付き

うどんこ病に抵抗性のアマチャ系統の育成

藤井敏男・吉田智彦

要旨:アジサイ属に属する西洋アジサイのブルースカイと甘茶向け品種であるアマギアマチャの交配組み合わせから,甘味成分を持ち,草型が優れ,2倍体で稔性も良いと思われるうどんこ病抵抗性系統を育成した.この系統は甘茶向け品種のうどんこ病抵抗性系統の育成を行う際に母本として有用である.
キーワード:アジサイ属,甘茶,甘味,うどんこ病,耐病性中間母本,フィロズルチン.
Developing a Parental Amacha Line of Hydrangea with Powdery Mildew Resistance: Toshio Fujii and Tomohiko Yoshida
Abstract: An amacha line of Hydrangea with powdery mildew resistance was selected from the cross between Blue Sky and Amagiamach. It has fairly good agronomic traits, diploidy chromosomes and phyllodulcin. It can be used as a future cross parent.
Key words: Amacha, Disease resistant parental line, Hydrangea, Phyllodulcin, Powdery mildew, Sweetness.

 アジサイ属(Hydrangea)に属し,葉に甘味があり,甘茶に用いられるのがいわゆるアマチャである.ハウス栽培される観賞用のアジサイ生産にとって多湿ででやすいうどんこ病は灰色かび病,ダニ害と並んで主要な病害である(注:大阪府園芸植物病害虫図鑑,http://www.afr.pref.osaka.jp/zukan/039.htm).甘茶に用いられる品種はこれまでのところうどんこ病は問題にはなっていない.しかし,今後,甘茶として良質な葉を生産するためには,水分をコントロールするための雨よけ栽培,あるいはハウス栽培も考えられる.うどんこ病に罹病した葉は揉ねん作業の際に砕けてしまうため,著しい歩留まりの低下をきたす.したがって,甘茶用の新品種開発にあたってはうどんこ病抵抗性の付与は重要である.

 そこで,甘茶向けの品種は勿論,アジサイ一般についてもまだ未作成のうどんこ病の調査基準をまず作り,主要アジサイ品種のうどんこ病に関する特性を調査するとともに,いくつかの交配を行って育成中の材料に抵抗性個体を見出したので抵抗性程度を調査し,交配母本としての有用性を検討した.

材料と方法
 試験材料はみつる植物研究所(栃木県小山市)のビニルハウス内で育てた.
1.調査基準の作成と主な品種のうどんこ病に対する罹病程度
 ハウス内はうどんこ病が均等に多発したため,2004年11月に上位から4〜5枚目で罹病程度の異なる葉を採取し,日浦・部田(1952)のオオムギでの結果を参考にして罹病程度の尺度を作成した.なお,本研究で発生したうどんこ病菌については,その分類などの詳細の検討はしていない.

 ハウス内で甘茶向け品種のアマチャ(この場合の"アマチャ"は品種名)とアマギアマチャ,ヤマアジサイ系品種のマイコアジサイとクレナイヤマアジサイ,ハマアジサイ系品種のハナビアジサイ,西洋アジサイのブルースカイ,および近縁種のアナベルを育てた.その二年生苗を1品種当り約200鉢(5号鉢)育て,2004年11月に上記の基準に従って観察し罹病程度を判定した.

2.うどんこ病抵抗性系統の育成
 うどんこ病抵抗性のものは甘茶向け品種の育成のため多数の組み合わせの交配を行った後代から出てきた1個体である.交配用親品種をハウス内で自然開花させて2003年夏期に交配し,ただちに交配種子を播き,実生を何回か移植したあと,2004年7月に6号鉢に鉢上げした.交配操作や実生養成の詳細については別報(藤井・吉田 2006)に記した.

 その中で,西洋アジサイのブルースカイ(H. macrophylla f. hortensia)と甘茶向け品種であるアマギアマチャ(H. macrophylla Ser. var. amagiana Makino)の交配後代に全く発病しないものがあった.そこでこの個体の周囲に,品種育成のための交配後代で多発病した個体をスプレッダーとして2004年11月に配置し,さらに観察を続け全く発病しないことを確認した.2005年7月に尺鉢に植え替え,三年生個体の栽培特性を調査した.ハウス内は夜間最低温度を15℃に保った.

 葉を収穫し,発酵調製して甘茶を作り,別報(藤井・吉田 2006)に記した方法で甘味成分であるフィロズルチンを分析した.

 染色体数を確認するため,新梢を挿して発根した2個体から2cm程度に伸長した根の根端部を長さ約1cm程度採取し,フォイルゲン反応法によって観察した.加水分解は1規定HClで60℃10分間とした.観察は1個体当たり2本の根端を用いた.

結果と考察
1.調査基準の作成と主な品種のうどんこ病に対する罹病程度
 病徴の激しい5からまったく見られない0まで6段階に分類することができた(第1図左).すなわち,5(甚);葉全面を厚い菌そうが覆っている,4(多);葉全面をやや厚い菌そうが覆っている,3(中);葉全面を薄い菌そうが覆っている,2(少);葉のところどころに薄い菌そうが見られる,1(微);,葉にわずかに薄い菌そうが見られるか,または過敏感死による小さな壊疽斑が見られる,0(無);まったく病斑は見られない,の6段階である.

 ハウス内は均等に発病が見られ,交配後代の個体では5に判定されるものが多かった(第1図中).甘茶向けの品種ではアマチャが3で葉全体に薄く菌そうが見られたのに対し,アマギアマチャは0〜1で全く病斑がないか,わずかに過敏感死によると見られる小さな壊疽斑が見られる程度であった.ヤマアジサイ系の品種ではマイコアジサイが3,クレナイヤマアジサイが0〜1であった.ハマアジサイ系のハナビアジサイは1,ブルースカイは1,近縁種のアナベルは0であった.

 アナベルの罹病程度は0であるが,アナベルはアジサイの近縁種とされるものの形態的にもかなり異なる遠縁なものであり,通常の交配は困難である(工藤・新美 1999a,b).

2.うどんこ病抵抗性系統の育成
 ここで見いだされたうどんこ病抵抗性の系統(大系-24と仮称)はアマギアマチャの農業形質の改善,特に強かん性の付与と葉の大型化を図る目的で行ったブルースカイ×アマギアマチャの組み合わせから育成された(第1図右).ブルースカイは3倍体であり,わずかに稔った交配種子から養成された.この組み合わせでは,交配して収穫した果実数は合計15,総種子数は139(1果実当たり種子数は9.3),ただちに播いて発芽した数は計57(発芽率41%),当初の移植個体数は49,最終的に育苗までできたのは15個体であった.

   大系-24の特性はうどんこ病に全くかからない他,1株の生葉重も多く,量は少ないもののフィロズルチンも含まれていた(第1表).草丈は両親の中間でアマギアマチャより短く,分枝数はアマギアマチャよりは少ないが,ブルースカイよりはるかに多い.節間長はやや長いが茎の太さはアマギアマチャよりわずかに太く,全体的に分枝はアマギアマチャより強くなっている.葉の形はアマギアマチャとブルースカイの中間で,大きさはアマギアマチャより大きく,生葉収量は両親よりも多かった.甘茶収集率は両親の中間であるが,両親が低いため,比較のアマチャより5%程度低くなっている.生葉重が多いため甘茶重も両親より多いが,含まれるフィロズルチンの量はわずかで,1株当りフィロズルチン量はアマギアマチャの1/3程度であった.

 根端細胞の観察結果からは,アマギアマチャの染色体数は36本の2倍体,ブルースカイは54本の3倍体であったが,大系−24は染色体数36本の2倍体であった(第2図).交配実験はまだ行っていないが,植物体に果実が多く着生したことから(第1図右),交配に支障はないと思われる.

 以上から,うどんこ病のレース変化は考慮しなければならないが,大系-24は甘味成分含量がやや少ないものの葉の収量が多く,2倍体で稔性も良いと思われ,今後の甘茶向け品種のうどんこ病抵抗性育成を進めるにあたり母本として有用と考えられる.
謝辞:フィロズルチン分析に際しては栃木県産業技術センター食品技術部阿久津智美主任研究員のご指導を,染色体の顕微鏡観察と写真撮影に際しては宇都宮大学農学部房相佑助教授からご助力を賜ったことに深謝いたします.
引用文献 
藤井敏男・吉田智彦 2006.フィロズルチン含有量の多いアマチャ品種の育成.日作紀 75.印刷中.                 
日浦運治・部田英雄1952.大麦品種の耐病性に関する研究 第3報 白渋病 ERYSIPHEGRAMINIS HORDEI MARCHAL 
 の生理品種Tに対する抵抗性の遺伝.農学研究 40:96―102.
工藤暢宏・新美芳二 1999a.セイヨウアジサイとアメリカノリノキとの種間雑種の獲得に関する研究.
 園芸学会雑誌 68:428―439.
工藤暢宏・新美芳二 1999b.胚珠培養由来胚の子葉片培養法によるセイヨウアジサイとアメリカノリノキ
 との種間雑種の作出.園芸学会雑誌 68:803―809.

図表


第1図 写真左は病徴5(甚)〜0(無)の6段階分類.写真中はハウス内の発病.写真右はうどんこ病抵抗性系統の大系-24.


第2図 うどんこ病抵抗性系統の交配両親であるアマギアマチャ(左,2n=36)とブルースカイ
(中,2n=54)および抵抗性系統の大系-24(右,2n=36)の染色体.

第1表 うどんこ病抵抗性系統の大系-24とその両親,比較品種の栽培特性と品質.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――		
品種名       草丈 分枝数 節間長 茎太さ ---- 葉 ----  1株当り 甘茶収 1株当り フィロズル  1株当りフィロ 花色
              cm    本    cm     mm   長さcm 幅cm 色 生葉重g 集率%  甘茶重g チン含有率%  ズルチンmg
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大系-24        44    53   5.5   3.5   11.3   4.4  4.5   199   14.5    28.8      0.35       101       白
アマギアマチャ 48    72   5.0   3.0   14.0   2.3  5.0    96   16.5    15.8      2.07       327       白
ブルースカイ   40  7    4.5   6.3   10.5   7.3  5.5   176   11.9    20.9         0         0      鮮青
(比較)アマチャ 30  12   4.0   5.3   10.0   4.5  6.0   127   19.7    25.0      1.08       270       浅青
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
葉色はカラースケールによる.甘茶収集率は生葉重当たり甘茶重.フィロズルチン含有率は甘茶重当たりフィロズルチン重.
花形はいずれもガクアジサイ型.

本文は以上
蛇足
 本論文の審査にうどんこ病の専門家の植物病理学者があたった.本論文はうどんこ病菌自体についての調査がなく,「うどんこ病抵抗性については全く意味がない」とのコメントであった.

 ご冗談を.たとえレース検定しても,DNA配列を決めたとしても,そのことが抵抗性ブレークダウンに寄与するんだろうか.少しは寄与するんだろうが,抵抗性品種を作ったことに比べ,そんなのあまりにも小さい話ではないですか.

 本品種も多分いずれ(時期あるいは場所で)罹病するではあろう.それみたことかと植物病理の専門家は言うかもしれないが,抵抗性品種,その罹病化,新しい抵抗性品種,の繰り返しで全体的な抵抗性レベルを上げてきている現実,実績のほうが遙かに大切であるので,本論文の価値は「ない]どころでなく,「高い」と考える.

以上