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本頁は 日作紀 75(2006)に掲載.図表一部省略

フィロズルチン含有量の多い甘茶品種の育成

藤井敏男・吉田智彦
要旨: 高品質の甘茶品種育成のため,まず甘味の主成分であるフィロズルチンのHPCLを使用した分析法の分析時間短縮化を試み,1日当り従来約20点だったものを50点分析可能とした.分析精度は育種のためには十分であった.甘茶向けの品種を用いた交配を行い,50ppmジベレリンの播種直後散布,液肥の葉面散布などで健全苗を多数得た.アマチャ×アマギアマチャの組み合わせの交配後代で,1株当たり生葉重,フィロズルチン含有率,1株当たりフィロズルチン量は頻度が連続的な正規分布であり,多数遺伝子によって支配されていることが推察された.1株生葉重やフィロズルチン含有率は多くが両親の間に分布したが,1株当りフィロズルチン量では両親を上回るものが多数あった.生葉重とフィロズルチン含有率との相関はなく,生葉重とフィロズルチン含有率の両方の値が高く,その結果1株当たりフィロズルチン量が両親を大きく上回る系統が比較的容易に得られたものと思われる.フィロズルチン含有率の年次間相関は高かった.
キーワード:アジサイ属,甘味,甘茶,フィロズルチン.

The Selection of Amacha Varieties with High Phyllodulcin Content in Hydrangea: Toshio Fujii and Tomohiko Yoshida
Abstract: The rapid and simplified method for measuring the phyllodulcin content, which is the main substance of the sweetness of amacha (sweet Hydrangea) varieties, was attempted using HPCL. Fifty samples in a day, instead of 20 by the former method, could be analyzed by this method. Crossings among amacha varieties were attempted. Spraying gibberellin (50 ppm) after seeding and spraying liquid fertilizer to the young seedlings increased the establishment rate of seedlings. Many seeds and F1 plants were obtained from crossings of Amacha / Amagiamacha. The value of the F1 plants showed a continuous normal distribution for total fresh leaf weight in a plant, phyllodulcin percent and total phyllodulcin content in a plant, showing that these traits were controlled by polygene. Almost all F1 plants distributed within the values of parents for total fresh leaf weight and phyllodulcin percent. But many F1 plants exceeded the high parent for total phyllodulcin content in a plant. Phyllodulcin percent was not correlated with leaf weight, suggesting that they were not genetically linked, resulting to obtaining F1 plants having high total phyllodulcin content in a plant with both of high leaf weight and high phyllodulcin percent. The year-to-year correlation of phyllodulcin percent was high.
Key words: Amacha, Hydrangea, Phyllodulcin, Sweetness.

 甘茶は,日本に自生するアジサイ品種の中で葉に甘味のあるものを発酵調整したものである.甘茶の有効成分については吉川ら(1994)に詳しいが,生葉にはジヒドロイソクマリン類のphyllodulcin(以下フィロズルチン),hydrangenol(以下ヒドランゲノール),phyllodulcin 8-O-glucoside,およびhydrangenol 8-O-glucosideなどが含まれ,それが発酵する過程で加水分解されフィロズルチンとヒドランゲノールに収斂する.フィロズルチンはショ糖の約400倍甘い(化学大辞典編集委員会 1969,木村・木島 1959).また,山原ら(1994)は甘茶に抗潰瘍活性などがあることを報告している.

 甘茶の原料となる品種の属するアジサイ属(Hydrangea)はアジアやアメリカに40数種が分布し(大場 1988),その中で葉に甘みのあるものが甘茶向けの品種で,代表的なものとしてはアマチャやアマギアマチャがある(山本 1981,最新園芸大辞典編集委員会 1969).本論文では以後,単にアマチャというときは上記の品種のことを示す.甘茶と表記するときは甘茶向け品種を使って得た製品のことを示す.

 甘茶向け品種の栽培はもともと山間部で小規模に行われてきており,1985年に合成甘味料の使用中止に伴う増産があったものの,その後は徐々に衰退し今日ではかつての主産地の長野県に約18ha,他に岩手県に6.6ha,富山県に3ha,わが国合計で27.6ha,収穫量は合計で28.8tと,極わずかに残るのみである(日本特産農産物協会 2003).

 古くから貴重な甘味資源として用いられてきたこの甘茶の新たな需要と生産を喚起するためには,農業形質が優れかつ高品質の新品種育成が必要である.漢方生薬一般でも同様な問題が指摘されている(岡田・川口 2004a).近年の健康への関心の高まりや医療における漢方薬の普及などに伴って漢方生薬製剤の生産高は1000億円を超え(厚生労働省医政局 2004),原料となる生薬の需要も増加しているものの国内の生薬生産量は限られており,消費の多くが輸入品で(日本特産農産物協会 2003),国内生産のため栽培法の確立や新品種育成の努力がなされている(岡田・川口 2004b).

 ヨーロッパやアメリカに渡ったアジサイは品種改良が行われ(McClintock 1957),多くの品種が育成されてわが国へ逆輸入された.しかし山本(1979,1981)によれば,わが国におけるアジサイの研究は原産国であるにもかかわらず遅れており,種間交配(工藤・新美 1999a,b,工藤ら 2002)などの試みがあるものの,甘茶向け品種に関してはほとんど皆無である.

   前報(藤井・吉田 2005)ではアジサイ属品種の中で甘茶向け品種がどのような特徴があるかを解析した.その結果から,良質多収の品種育成には高品質で栽培特性の優れる甘茶向け品種間で交配し,甘味発現遺伝子を集積しながら栽培性の改善を図ることを提唱した.そこでここでは甘茶向け品種間の交配を行い,高良質品種の育成を試みた.

 甘茶向け品種は果実や種子が著しく小さく交配は困難なことが予想されるので(中山 1966,西沢 1988),採種法や発芽法,育苗法について検討し,多数のF1個体を得ることに努めた.甘茶の原料となる品種はこれまで主にアマチャが用いられ,栽培現場で経験的に選抜が加えられた形跡はあるものの,交配などによる新品種の育成は試みられてこなかった.しかし,交配育種が可能となれば,飛躍的な品質および栽培性の向上が期待される.

 品質検定については甘味成分であるフィロズルチンの定量が必要であり,これは吉川ら(1994)が確立した高速液体クロマトグラフを用いた方法があるが,この方法では分析時間が自動分析でも1点あたり70分以上かかり,サンプル抽出の作業時間も含めると1日当り10数点しか分析できない.高品質のための品種育成を行うためには数多くの交配後代の成分分析が必須であり,簡易で多数の分析が可能な分析法も検討した.

材料と方法
1.分析方法
 吉川ら(1994)の方法を一部改変し,メタノール抽出とフィルターろ過による簡易抽出およびフィロズルチン付近のピーク検出を目的として,以下の方法で行った.分析実験は栃木県産業技術センター食品技術部阿久津智美主任研究員のご指導の下,同センターの開放機器を使用して実施した.

 2005年に標準栽培したアマチャ,アマギアマチャ,育成中の株などの上位から3〜4節目を中心に約15g前後の葉を収穫し,天日で柔らかくなるまで風乾し,手で十分に揉んだ後チャック付のポリエチレン袋に入れ,35℃で15時間発酵させた後,紙袋に移し80℃で十分乾燥し,再度チャック付のポリエチレン袋に保存した.ポリエチレン袋に入れたまま十分に揉んで粉にし,0.15gを遠沈管に直接秤量し,メタノール25mLを加え,超音波30分間抽出後,遠心分離を5分行った.ついで5mLシリンジで吸い取り,メンブレンフィルター(TOYO DISMIC25HP045AN)でろ過し,HPLC用サンプル瓶に注入した.

 分析装置は日本分光製ガリバー900シリーズ,検出器として日本分光製紫外可視分光光度計875UVを使用した.カラムはYMC-Pack ODS-A S-5(カラムサイズは250×4.6mm)を用いた.カラム温度40℃,流量は毎分1.0mL,検出波長UV307nmとした.フィロズルチンの標品(和光純薬)20mgを秤量して50mLのメタノールに溶解し原液とし,その2倍および10倍液をスタンダードとして検量線を作成した.

2.交配と実生の養成
 交配は2004年7月から行った.交配用親品種のアマチャとアマギアマチャは前年6月に一節で管挿しを行い,発根後4号鉢に鉢上げし,IB化成を月1回1粒与えて適宜灌水し,ビニルハウス内で育苗し自然開花させた.開花期の揃った両親の株についてまず母本を開花日の前日に翌日咲きそうな花数個を残して切除,翌日の早朝に除雄し,袋掛けした.そして翌日,または翌々日の晴れた午前中に父本の花粉が良く飛ぶ時期を見計らって交配し,再び袋掛けした.

 採種時期は果実の充実度を見ながら順次行い,交配の50〜120日後に収穫した.種子は小さいので,実体顕微鏡下で爪楊枝2本を用いて果実中から種子を採種し,ろ紙上に取りだした.採種後ただちに播種した.鉢で細かくし乾燥した鹿沼土の粉を種子に少量ふりかけ,良くかきまぜて種子をばらばらにした.ついでろ紙を二つ折りにし,播種用の4号鉢の上でヘリをたたいて均一に播種した.種子が小さいため覆土は行わなかった.鉢は発芽箱の中に置いた.発芽箱は市販の透明のフタ付衣装ケースの下2分の1に鹿沼土の中粒を敷き,十分灌水したもので,この中へ底から十分水を吸わせた播種用の鉢(用土は鹿沼土の細粒にピートモスを若干量加えたもの)を埋め込んだ.播種直後50ppmのジベレリンGA3を噴霧した(中山 1966).その後フタをし,できるだけ内部の温度が25℃を超えないよう管理した.鉢の表面が乾いたら霧吹きで水を与えた.発芽開始後は少しずつフタを開けて換気した.発芽が揃った後は液肥(ハイポネクス5000倍)を葉面散布した.

 2〜3葉が展開した翌年1月に36穴の野菜苗育苗用セルトレーに移植した.さらに2月に3号ポットに鉢上げした.この間はジョロで灌水した後に液肥(ハイポネクス2000倍液)を葉面散布した.ついで5月に5号鉢に鉢上げした.なお,この間播種後から3月末まで小型のアルミハウス内にヒーターを床に敷き,かつ風を防ぎながら夜間温度を最低20℃に保った.その後はビニルハウス内で夜間15℃を保った.5月に5号鉢に移した後は無加温のビニルハウスに置いた.

3.交配後代F1の選抜
 アマチャとアマギアマチャの交配F1個体を前節で述べたように育てた.合計155個体を1ポット(5号鉢)に1個体ずつ育成した.これらの材料は実生から二年目のもので,栽培特性の表現はまだ完全とは言えないが,遺伝子型の異なる個体間の比較を行うには充分と判断された.比較のため両親を2004年10月に3号鉢に挿し芽をし,以後無加温ハウスで生育させた.翌年2月に3号鉢に移植した,その時点での生育程度は加温されて育った実生由来のF1個体とほぼ同程度であった.以後F1個体と同じ温度条件下で育て,同じ移植を繰り返した.生育の揃った個体を選んで移植した. 調査収穫は2005年10月1日に行った.生葉を発酵調製した後,品質調査を行った.両親は3反復し誤差の推定を行った.調査項目は草丈,分枝数,節間長,茎の太さ,葉の長さと幅,カラースケールによる葉色,1株当り葉数と生葉重,1株当たり甘茶重(発酵調製後の風乾重),甘茶収集率(甘茶重/生葉重),フィロズルチン含有率(甘茶中の含有率%),1株当りフィロズルチン量とした.

 ここで,甘茶の品質とは甘味成分であるフィロズルチンの含量(フィロズルチン含有率と1株当りフィロズルチン量)とした.

4.フロズルチン含有率の年次間相関
 2003年にアマチャとアマギアマチャとを交配し,上記とほぼ同じ方法で育成してきた4系統と両親品種のフィロズルチン含有率を2004年の二年生株時と2005年時の三年生株時に分析し,この両年の値を比較した.

結果と考察
1.分析方法
 フィロズルチンおよびその近辺のピークに絞るため移動相をテトラヒドロフランと2%酢酸水溶液を30:70の一定とし,これにより分析時間が1点につき従来の65分から35分へと短縮され,従来は1日に約20点であったものが約50点まで分析可能となった.

 育成材料の代表的な分析結果のチャートを第1図に示す.フィロズルチンのピークは明瞭であり,比較的短時間に精度高い分析が可能であった.また,フィロズルチンのピークに隣接して溶質時間の長い物質のピークが確認できた.これらのピークは,ヒドランゲノールの標品が入手できなかったため最終的な確定はしていないが,吉川ら(1994)の結果も勘案するとヒドランゲノールなどのものと思われる.

 主要品種や育成中系統の10品種2反復のフィロズルチン含有率値から求めた標準偏差は0.13,品種間差の最小有意差は0.29であり,品種間差が1〜2.5%に分布することを考慮すると,本分析法は育種における選抜には充分な精度であると判断された.

2.交配と実生の養成
 登熟期間を約100日と十分長くとり,多くの充実した種子が得られた.播種後にジベレリン処理をしたことで1ヶ月以内にほぼ50%を超える発芽率が得られた.前年の予備実験では未処理の発芽が遅れ,かつ発芽数が少なかったが,本実験では高い発芽率であった.処理に伴う障害も無かった.用度に鹿沼土を用いたので気相率の低下がなく,移植時にはしっかりした根を持つ斉一な苗が得られた.育苗に大きなセル用いたことと,ヒーター式の暖房をしたことで過乾燥もなく,さらに最低温度を20℃に保てたことで生育は極めて順調で,移植1ヶ月後には3号ポットに移植することができた.また,灌水後に極薄い濃度の液肥を用いて葉面散布したので枯死株の発生は見られなかった.この結果多くの実生個体を養成することができた.

第1図 高速液体クロマトグラフによるフィロズルチンの分析結果.





第2図 F1の生葉重やフィロズルチン含量の頻度分布.P1はアマギアマチャ,P2はアマチャの値.
横棒は両親反復値から推定した標準偏差.

上;生葉重

中;フィロズルチン含有率含量

下;フィロズルチン含量


第3図は略

3.交配後代F1の選抜
 第1表にF1個体や両親の農業形質や品質の値の平均と変異を示す.栽培特性では,アマギアマチャはアマチャに比べて草丈は高く,分枝数は多く,節間長は長く,茎の太さは細く,葉は長さ・幅とも小さく,葉色は薄かった.1株当りの葉数はアマギアマチャがアマチャの3倍以上あったが,葉が小さいため1株当り生葉重ではアマチャの方が約2倍あった.
第1表 F1の形態や成分の平均,標準偏差,フィロズルチン含有率との相関係数および両親の値.
------------------------------------------------------------------
	草丈	分枝数	節間長	茎太さ	葉長	葉幅	葉色
	cm	本	cm	cm	cm	cm	
------------------------------------------------------------------
平均  48.8 	5.6 	5.4 	4.5 	16.8 	6.0 	6.7 
標準偏差11.1 	3.2 	1.2 	0.7 	2.6 	1.0 	0.4 
相関係数0.167*	-0.027 	0.032 	0.020 	0.003 	-0.067 	-0.036 
アマギ  60.5 	14	4.5 	2.9 	10.9 	2.9 	5.5 
アマチャ32.8 	3	2.1 	4.5 	17.7 	7.0 	6.2 
	1株	1株生	1株当り	甘茶	フィロズルチ 1株当りフィロ	
	葉数	葉重g	甘茶重g	収集率% ン含有率% ズルチン量mg	
平均  53 	52 	9.5 	18.1 	1.4 	130 	
標準偏差18 	11 	2.2 	2.0 	0.6 	67 	
相関係数0.075 	0.025 	0.091 	0.168*	−	0.895**	
アマギ 169	36 	6.9 	19.0 	2.0 	130 	
アマチャ54	69 	15.8 	23.1 	0.7 	106 	
-------------------------------------------------------------------
相関係数に付いた*は5%,**は1%水準で有意なことを示す.両親の値は3反復の平均値.
 品質に関しては1株当り甘茶重はアマチャが約2.3倍と多かったが,フィロズルチン含有率はアマギアマチャが約3倍多く,その結果,それらを乗じた1株当たりのフィロズルチン量はアマギアマチャがアマチャの約1.2倍となった.しかしt-検定の結果では両親間に1株当たりのフィロズルチン量の有意差は検出されなかった.以上の点から品質に関してはアマギアマチャが優れるといえる.ただし,生葉重に対する甘茶重の割合を示す甘茶収集率はアマギアマチャがやや劣った.

 交配後代のF1個体の特性について,第2図に植物体の生育量として1株当たり生葉重を,成分含有率としてフィロズルチン含有率を,植物体当たり成分含有量として1株当たりフィロズルチン量を示した.1株当たり生葉重,フィロズルチン含有率,1株当たりフィロズルチン量は連続的な正規分布を示し,これらの形質が多数遺伝子によって支配されていることを推察させた.

 1株生葉重はほとんどが両親の間に分布し,アマチャを上回るものは8個体であった.高品質の重要な要素であるフィロズルチン含有率もF1は多くが両親の間に分布した.アマギアマチャのフィロズルチン含有率は2.0%であるが,F1の中には2.8%を超えるものが6個体得られた.これらは誤差を考慮してもかなり値の高いものと言えよう.なお,吉川ら(1994)の報告では長野県産甘茶のフィロズルチン含有率は1.21〜2.43%であるとしており,本実験での分析値とはさほど差はなく,ここでの分析結果は妥当であるものと判断される.

 もう一つの品質の要素である1株当りフィロズルチン量は両親間の差があまりなかったが,F1個体は両親の値を上回るものが多数あった.1株当たりフィロズチン量は生葉重(葉の数,長さ,幅),甘茶重(生葉重,甘茶収集率),フィロズルチン含有率の値からなっているが,第1表に示すとおり,生葉重や甘茶重などの値とフィロズルチン含有率との相関はみられなかった.従ってこれらの形質は独立した遺伝をしていると推察され,生葉重やフィロズルチン含有率などの値が全て高く,その結果1株当たりフィロズルチン量が両親を大きく上回る系統が比較的容易に得られたものと思われる.高い親であるアマギアマチャの倍以上である270mg以上のものが10個体得られた.第2図中に示した,親品種の反復から推定した標準偏差の値は比較的小さく,これらのF1個体は誤差を考慮してもかなり高い値を持っているものと考えられる.

 一般に,生育量と成分含有率には負の相関がみられることが多い.多収高品質,例えばカンショでは塊根収量とデンプン含有率(坂井 1964),ビール大麦では収量と麦芽品質(吉田 1991)の両方を目標とした品種改良では,両者の強い負の相関をなんとか打ち破って多収高品質の品種育成を行うことがその歴史であったとも言える.アマチャ群の品種はもとより,アジサイ全般でもまだ成分に関する品種改良がほとんどなされてなく,そのためここでは生育量と成分含有率に相関が認められなかったのであろう.

4.フロズルチン含有率の年次間相関
 4系統と両親の2年間のフィロズルチン含有率に関する相関を第3図に示す.年次間相関は0.950(1%水準で有意)であり,この結果,年次によるふれはあるものの,この品質に関する特性は年次が異なっても安定した形質であり,選抜効果は高いと考えられる.また幼苗検定の可能性を推察させた.

 以上の実験結果は,1)精度の高い簡易迅速な成分(フィロズルチン)分析法を行うことで多数の育種材料を検定することが可能になったこと,2)生育量(1株当たり生葉重)が多い親と成分(フィロズルチン)含有率の高い親の交配後代から成分含有量(1株当たりフィロズルチン量)の多いものが選抜できたこと,3)フィロズルチン含有率の年次間相関は高いこと,を示した.これらから,甘茶の生産振興のための良質多収の甘茶向け新品種の育成は可能であると思われる.
引用文献
 
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図表のタイトル,注一覧

第1図 高速液体クロマトグラフによるフィロズルチンの分析結果.

第2図 F1の生葉重やフィロズルチン含量の頻度分布.P1はアマギアマチャ,P2はアマチャの値.
横棒は両親反復値から推定した標準偏差.

第3図 フィロズルチン含有率の年次間相関.相関係数は0.950で,1%水準で有意.

以上