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本頁は 学校給食ニュース 227号 (1985年9月) に掲載したものです

新品種カロチン豊富なさつまいも

農林水産省九州農業試験場 主任研究官 吉田 智彦

1.はじめに
 さつまいもはわが国へ16世紀後半に伝来し、以後飢きんのときに救荒作物としてその果した役割はきわめて大きい。それはさつまいもが、栽培しやすい、それほど手をかけなくてもある程度の収量が得られる、台風などの自然災害に強い、病虫害に強い、特に土を選ばない、などの作物としての特性が優れていることによる。

 さつまいもは普通間食あるいは主食の一部、またはスイートポテトやきんとんなどとして利用されているが、ここで紹介するカロチン含量が高く、肉色が鮮やかな橙の品種(品種名ベニハヤト)はさつまいもの新しい利用法開発をねらって農林水産省九州農業試験場で作られたものである。

 カロチンは体内でビタミンAに変り、ビタミンAは動物の成長を促進し、皮膚とくに粘膜の組織や視力を正常に保つ作用がある。このさつまいもを利用することにより、美しい料理ができるのみでなく、ビタミンAの摂取源を増やせることになると考えられる。

2.さつまいもの品種改良
 品種改良とはより良い作物を遺伝的に作ろうとすることであり、主な方法としては、異なる特性を持つ品種間の交配をしてその子孫の中から希望するものを選びだす。例えばたくさんとれるが味の良くない品種Aと、収量はそれほどでもないが味の良い品種Bとを交配する。この種子を苗床にまくと、塊根(いも)から萌芽してできる普通の苗と同じような苗ができる。この苗を畑に移植していもを付けさせ、希望するたくさんとれて味の良いものを探すわけだが、なにごとも話は簡単にはいかず、子孫の多くは収量はそれほどなく味も悪い。

 さらに各種の病気やセンチュウなどの虫に強く、外観が良く(市場で受入れられるためには必須である)、苗がたくさんとれ、栽培しやすく、貯蔵性が優れ(さつまいもは腐りやすい)、関東でも栽培できるようなもの、と言った特性を持つものを探していくと残るものはわずかであり、ときには(いや、しばしば)希望するものがまったく得られない。この間、交配計画から最終的に世にでるまでどうしても10年はかかる。したがって、努力を無にしないためには、10年先を見適した計画をたてる必要があるが、たくさんとれることというのは永遠の目標である。

 ベニハヤトはこうしてできたものの一つであり、昭和51年にアメリカの品種でカロチン含量は高いが収量や耐病性に劣った品種のセンテニアルと、カロチン含量は低いが収量が多く耐病虫性がある品種の九州66号との問で、カロチン含量が高く、収量が多く耐病虫性がある品種を作ることを目的として交配し、ほぼ所期の目的をたっし、昭和60年に農林水産省登録品種となったものである。

3.ベニハヤトの特性
 表にベニハヤトの特性を示した。ベニハヤトは、カロチン含量が多くない普通の市販品種の高系14号やコガネセンガンと比較すると、収量は高系14号より多いがコガネセンガンより少なく、さつまいもの重要な病虫害である黒斑病やネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウにまあまあの抵抗性があり、萌芽性(一つのいもからどれだけ苗がとれるか)は優れているが、貯蔵性が劣る(オールマイティなものを作るのははなはだむずかしいのである)。いもの形状は紡錘型で良く整っており、いもの皮色は赤である。

 いもの肉色は鮮やかな橙である。肉質はやや粘質であり、蒸して通常の食べ方で判定させると高系14号やコガネセンガンよりも劣るというひとが多いが、これは普通のさつまいもの感覚で食して判定したからであり、この品種の真価は各種の加工をしたときに発揮されるものと思う。β−カロチン相当量として算出した総カロチノイド量は高系14号やコガネセンガンの約40倍あり、人参に匹敵する値である。ただしカロチンいもはポリフエノール含量が高いのでいもの切断面が黒変しやすく、調理の際に皮を厚めにむいたり、水さらしを充分に行うなどの注意が必要である。

4.おわりに
 ベニハヤトは人参なみのカロチン含量で栄養価が高く、肉色が鮮やかな橙であるのでその特質を生かした各種の加工・調理方法が考えられると思う(松岡勝子、”カロチンいもの調理” 食生活 6:25−28(1985)の研究を参照されたい)。このベニハヤトが豊かな食生活への一助となり,さつまいも農家の経営にいくばくかの寄与をし,教育の場で品種改良への興味を子どもたちにいだかせるきっかけにもなれば大変幸いである。
〔表〕ベニハヤトの特性
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 品 種 名   いもの収量 萌芽性 貯蔵性 −− いもの −−  総カロチノイド* ポリフェノール*
         (kg/a)          皮色 肉色 食味   (mg%)     (mg%) 
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 ベニハヤト    227    良   不良  赤  橙  やや不良  12.9       76.5 
 高系14号     166    中   中   赤  黄白 良     0.3       42.2
 コガネセンガン  237    中   不良  白  黄白 良     0.3       39.5
 人参(比較)                            12.3
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注)*:鹿児島県農業試験場での分析による


以上