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本頁は,福岡農総試研報 A−11:27〜30(1991),に報告したものです.

   ビール大麦新品種「アサカゴールド」の育成

 吉田智彦*・伊藤昌光**・浜地勇次・古庄雅彦***・篠倉正住****・吉野 稔

            (農産研究所育種部)

 大麦縞萎縮病抵抗性,多収,良質を目標にして福岡県農業総合試験場が育成したビール大麦新品種「アサカゴールド」の特性の槻要は次のとおりである。
 1 麦芽品質が「あまぎ二条」より優れ,「ニシノゴールド」に近い。
 2 裂皮粒や凸腹粒の発生が少なく,子実の外観が優れ,整粒歩合が高い。
 3 収量は「あまぎ二条」並である。大麦縞萎縮病に強く,赤かび病にやや強いが,うどんこ病にはやや弱い。

    〔Key words:malting barley,plump kernel,BaYMV resistance〕

       緒     言

 西日本のビール大麦基幹品種の「あまぎ二条」は大麦縞萎縮病に抵抗性がなく,凸腹粒が近年多発している。縞萎縮病抵抗性品種の「ニシノゴールド」は麦芽品質が優れるが3),収量が不十分で,裂皮粒の発生することがある。また,両品種ともに整粒歩合が低下することがある1)。このため,縞萎縮病に抵抗性で,多収,良質の品種育成が望まれていた。

 そこで筆者らは,有望系統「九州二条9号」を育成し,関係機関に配布し適応性の検定を行ってきた。本系統は当初の期待どおりの成績をあげ,1990年10月に二条大麦農林14号,「アサカゴールド」として農林水産省新品種命名登録規程により命名登録され,また福岡県で準奨励品種に採用された2)ので,その育成のねらいや特性について報告する。なお,麦芽品質での選抜にあたった栃木県農試栃木分場も本品種育成に参加している。

       試 験 方 法
 1981年4月に,「はるな二条」の良質,「倉系2660」の強稈,「関東二条19号」の縞萎縮病抵抗性を組み合わせることを目標に「(はるな二条/倉系2660)F1//関東二条19号」,の交配をした(第1図)。

 以後,系統育種法により育成を進めた。1984年度(播種年度,以下同じ)から生産力予備検定試験,1987年度に「九州二条9号」と命名し生産力検定試験に供試した4)。選抜方法等は「ニシノゴールド」の育成の場合3)とほぼ同様である。ビール各社との共同試験である合同品種比較試験は1985年度から行われた。系統適応性検定試験は佐賀で1985,宮崎で1986と1987,山口,岡山,徳島で1986年度に行われた。特性検定試験の縞萎縮病は栃木で1984と1989,山口で1984から1989,愛媛で1986,赤かび病は鹿児島で1986と1987,高知で1986から1989,愛媛で1986,うどんこ病は長崎で1986から1989,農研センターで1986と1987年度に検定された。

       結     果
 生産力予備検定試験の結果(第1表)によると,1986年度は凸腹粒や裂皮粒が多発したが,本品種はこれらの被害粒発生が少なく,このことが配布系統として決定される第一の要因になった。

 生産力検定試験では(第2表),「アサカゴールド」は「あまぎ二条」と比べて出穂期と成熟期が3日早く,稈長は2cm短いが穂長は長く,子実重は同程度で,整粒歩合と外観品質が勝った。「ニシノゴールド」と比べて,子実重,整粒歩合,外観品質が勝った。麦芽の分析結果では(第3表),「あまぎ二条」より麦芽エキス,エキス収量,最終発酵度が高く,総合評点は「あまぎ二条」より高く,「ニシノゴールド」に近かった。

 特性検定試験の結果では(第4表),縞萎縮病抵抗性は極強で,赤かび病抵抗性は「あまぎ二条」と同程度の抵抗性を有し,やや強で,うどんこ病抵抗性はやや弱であった。系統適応性検定試験の結果では(第5表),「アサカゴールド」の子実重は岡山を除いて「あまぎ二条」並またはそれ以上であった。

 合同品種比較試験における醸造適性試験の結果では(第6表),一般的に「アサカゴールド」は総合評価の値では標準品種並またはそれ以上で,エキスや最終発酵度が標準品種より勝ったが,関東地方で値が低下する場合があった。各県での奨励品種決定調査の結果(第7表)では,西日本地域で一般に評価が高かった。

       考     察
   「アサカゴールド」は当初の育種目標をほぼ満足し,麦芽の品質が優れ,耐倒伏性や収量は標準品種の「あまぎ二条」並である。さらに裂皮粒や凸腹粒が少なく,外観品質が優れ,整粒歩合が高い。「アサカゴールド」は九州と中国地域の平坦地での栽培に適し,既存品種の欠点を補い,ビール大麦としての合格率向上と安定生産に寄与しうると思われる。しかし,うどんこ病にやや弱いので,うどんこ病抵抗性の付与が今後の育種目標になろう。

   第1表 生産力予備検定試験の結果
――――――――――――――――――――――――
        成熟   子実  整粒 外観 裂皮 凸腹
 品 種 名
        期     重  歩合 品質 粒  粒
――――――――――――――――――――――――
        月日 kg/a  %    %  %
アサカゴールド 5.27 42.0 82 中中  3  5
あまぎ二条   5.29 39.4 80 中下  1  12
ニシノゴールド 5.26 36.5 74 中中 30  2
――――――――――――――――――――――――
注)1985−1986年度平均。裂皮粒と凸腹粒は1986年度の値。

           第2表 生産力検定試験の結果
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         出穂 成熟  稈長 穂長  穂数 倒伏 赤か うど  穀皮  1穂稔
品種名       期   期                 程度 び病 んこ病 の厚さ 実粒数
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
         月日  月日 cm   cm  本/u
アサカゴールド 4.8  5.22 94  7.1  546 1.3 1.3 2.7  薄   26.0
あまぎ二条   4.11 5.25 96  6.6  538 1.3 1.3 1.7 やや薄  26.8
ニシノゴールド 4.10 5.22 93  5.9  567 1.0 1.3 3.0  薄   25.5
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
         子実  同標 リットル 千粒 整粒 外観 検 査   裂皮  凸腹
品種名           重  準比   重      重  歩合 品質  等  級     粒  粒
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
         kg/a  %   g        g  %           %  %
アサカゴールド  44.0 100  685   40.5 68  2.7 2等-等外上  0  0 
あまぎ二条    43.8 100  667    38.9 57  4.0 2等-等外上  0   1 
ニシノゴールド  38.7  88  663   37.5 60   4.0  等外上  3.8  0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
注)倒伏程度・病害は,0:無,1:微,2:少,3:中,4:多,5:甚。外観品質は,1:上上,
  2:上下 3:中上,4:中中,5:中下,6:下。1987−1989年度平均。

                   第3表 麦芽品質調査成績
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         −エキス−   麦芽  可溶 コール ジアスターゼ力   最終 総合   同標  概
品 種 名    無水 収量   粗蛋  性窒  バッ ―――――――   発酵  評点   準と  評
         物       白   素   ハ数 ゜WK ゜WK/TN   度         の差
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
         %  %    %   %   %             % 
アサカゴールド 84.0 77.7  10.1  0.78 48.2  254    158   83.3 64.4 10.6 ○
あまぎ二条   81.9 75.2  10.0 0.78 48.5  229    142   81.8 53.8 −
ニシノゴールド 84.2 76.2  10.9 0.84 48.2  265    152   83.7 65.9 12.1 ○
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
注)栃木県農試の分析による1985−1988年度4カ年平均。

      第4表 特性検定試験の結果(総合判定値で示す)
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        縞萎縮病抵抗性 赤かび病抵抗性  うどんこ病抵抗性
品種名         
          栃木 山口    愛媛 高知県    九州農試 長崎 農研センター
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アサカゴールド  極強 極強    極強 やや強    やや強  やや弱 やや弱
あまぎ二条      極弱 極弱    極弱 やや強     中    中   中
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

       第5表 系統適応性検定試験の結果
―――――――――――――――――――――――――――――――
試験             成熟 子実  同標 千粒 外観 有望
    品 種 名
場所          期  重  準比  重  品質  度
―――――――――――――――――――――――――――――――
               月日  ka/a %  g
佐賀 アサカゴールド 5.24  40.1  101 42.8 −  ○
   あ ま ぎ二条 5.24  39.7 100 40.4 −  −
宮崎 アサカゴールド 5.3  40.5 104 38.3 中上 −
     あ ま ぎ二条 5.5  38.9  100 40.5 中中 −
山口 アサカゴールド 5.26 48.7  126 41.5 中下 △
     あ ま ぎ二条 5.26 38.6  100 39.7 中中 −
岡山 アサカゴールド 6.2  34.9  95 35.5 上下 △
     あ ま ぎ二条 6.3  36.6  100 31.5 上下  −
徳島 アサカゴールド 5.23 32.7  126 39.5 下  △
     あ ま ぎ二条 5.24 25.9  100 40.1 中下  −
―――――――――――――――――――――――――――――――


              はるな二条┐               ア
                   │─ (F1)   ┐  サ  
              倉系2660  」          │─ カ
関東二条2号┐        成城17号┐          │  ゴ
      │─ (F1) ─┐      │─ 関東二┘  |
*木石港3 ┘       │───南系 ┘  条19号   ル
       関東二条2号┘    B4618         ド

第1図   アサカゴールドの系譜
*:大麦縞萎縮病抵抗性遺伝子源


               第6表 合同品種比較試験の結果
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
項目  栃木    茨城   群馬 岡山   徳島   福岡   佐賀  熊本  *栃木  K社   Sa社  A社   Su社
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
総合  10.5  −2.8 −2.6  12.5 25.6  0.5 −1.4  5.0  6.8   2.1   0.4 −2.7  2.O
EX  −0.1  −0.1   0.2   1.0  1.4   1.4   0.7  0.7  1.9   0.8  1.2   0    1.4
DP  −6   −19   −7    41     18   −9     14    25   −8   −4   −19    6   −4
AAL   0.9    1.1   0     0.6  5.4  1.7   0.6 0.8   1.2   1.3   0.9  0.4 −0.7
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
注)1987−1989年度平均値。総合:麦芽の総合評価点,EX:エキス無水物(%),
DP:ジアスターゼカ (OwE/TN),AAL:最終発酵度(%)。
各項目ともあまぎ二条(徳島はさつき二条)との差で示した。*栃木は栃木農試栃木分場。

  第7表 各県の奨励品種決定調査の成績    
―――――――――――――――――――――
県名  子実重の村標準比率(%)と有望度 
        1987年 1988年  1989年
―――――――――――――――――――――   
福岡
 農産研究所 100○  96○   92奨
 豊前分場  102○ 123○   122奨
 筑後分場  98△  111△    95奨
佐賀     119○  103△    94○
長崎     100×   96○  105○ 
熊本     104○   92△   107○
大分     111○  109○   107○
鹿児島    87△   97△    99△ 
山口     111△  133△   111○
岡山     112△  90△  102○  
徳島      83△ 134×   −
鳥取      90△   86△   97○ 
島根       −    108△  126○  
京都       −     94△    98△○ 
愛知      −    122△−○ 65×△  
埼玉      −     98△   99△ 
茨城      −    104△  110△  
群馬      −     94△   89△ 
栃木      −    103−  119○
―――――――――――――――――――――
注)奨;奨励品種採用,○;有望,△;再検討,
  ×;打ち切り。

       引 用 文 献
1)浜地勇次・吉田智彦(1989):最近のビール大
  麦における品質低下の実態・原因・対策.農業
  および園芸.64:395〜402.
2)原田皓二・松江勇次・尾形武文・佐藤寿子・吉
  田智彦(1991):醸造用二条大麦の新しい準奨
  励品種「アサカゴールド」の適応性.福岡農総
  試研報.A−11:31〜34.
3)伊藤昌光・浜地勇次・古庄雅彦・篠倉正住・北
  原操一・藤井敏男・鈴木崇之(1987):二条大
   麦新品種「ニシノゴールド」の育成.福岡農総
   試研報.A−6:17〜24.
4)吉田智彦・伊藤昌光・浜地勇次・古庄雅彦・篠
  倉正住・吉野稔(1991):ビール大麦の新品種
   候補系統「九州二条9号」の育成経過.九農研.
   52:15.
Bull.Fukuoka Agric.Res.Cent.A−11:27〜30(1991)

   A New Two−rowed Malting Barley Cultivar‘ASAKAGOLD’
YOSHIDA Tomohiko,Masamits ITO,Yuji HAMACHI,Masahiko FURUSHO,Masazumi SHINOKURA and Minoru YOSHINO
                 Summary
 A new BaYMV-resistant malting barley cultivar,'ASAKAGOLD’developed by Fukuoka Agricultural Research Center was selected from the cross between F1 of 'Haruna Nijo/Kurakei2660’and 'Kanto Nijo19'. The overall malting quality is better than Amagi Nijo. It has plump kernels and the grain yield is similar to Amagi Nijo and higher than Nishino Gold, based on 6-year-yield trial.

* 現九州大学農学部,** 現四国農業試験場作物開発部,*** 現農業研究センター作物第二部,**** 現福岡県病害虫防除

以上