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湛水土壌表面播種栽培用水稲品種の選抜及び選抜系統の炊飯特性ヨード呈色度を利用した食味の予備評価

宇都宮大学農学部生物生産科学科
植物生産学コース栽培学研究室
983192藤井真弓

目次
I  要旨   1
II  緒言   2
III  材料と方法 4
 1. 圃場実験          4
 2.  ヨード呈色度実験  4
IV  結果および考察 
 1. 圃場での選抜            6
 2. ヨード呈色度による選抜  18
V 謝辞    24
VI 引用文献  25
Suoary    26
写真      27     (略)
付表      29   (略)
      図は略
I. 要旨
 湛水土壌表面播種栽培を想定した直播きに適する水稲品種を,外国の直播き栽培用品種に目本の移植用良食味品種を交配した後代系統から選抜することを目的とした.また,ヨード呈色度による良食味系統の選抜を検討した.

 圃場での選抜では,W42/Ansabyeoの組合せとW42/ヒノヒカリの組合せで直播き栽培に適していると思われる系統が多く選抜できた.各系統のヨード呈色度を測定したところ呈色度の値が2以下の系統が多くみられた.標準品種であるコシヒカリのヨード呈色度の値が1.5であったので,その値に近い2以下のものを良食味である系統として選抜した.ヨード呈色度を測定した系統数に対する選抜した系統数の割合は,W42/ヒノヒカリの組合せとW53/Ansanbyeoの組合せで高い値となった.最終的な選抜割合は圃場での選抜で有望と思われたW42/Ansanbyeoの組合せで最も高かった.この組合せは直播き栽培用水稲が具備すべき特性を持っていると考えられ有望であると思われる.

II..緒言
 近年目本の稲作では労働力の減少や農業生産従事者の高齢化が進行している.また,コメの低価榊ヒや産地問競争の激化の中で稲作経営は厳しい状況にある.それに伴い稲作の低コスト生産が強く求められ,省力かっ低コストである直播栽培の確立が期待されている.現在,目本の稲作栽培面積は176万haであり,その中で直播き栽培の普及面積は8766haである.

 直播き栽培の方法別に見てみると乾田直播きでは4526ha,湛水直播きでは4240ha(農業技術2000)となっていて,全稲作面積の1%にも満たなく,広く普及するまでには至っていないのが現状である.直播き栽培は移植栽培に比べて発芽・苗立ちが不安定であることや,倒伏しやすい,また収量が劣るなどの問題がある.出芽・苗立ちの不安定を改善する方法として,過酸化石灰コーティング種子使用して行う湛水土中直播きがあるが,コストがかかり直播本来の低コスト性が損なわれてしまうというのが欠点になっている.また,コーティングしていない種子を播種する方法には湛水土壌表面直播きがある.これは,土壌中に種子を埋没させると酸素不足により発芽しないために土壌表面に播種する方法である.代掻きをしないで播種を行い,生育初期は未湛水で栽培する乾田直播きもあるが,代掻きをしていないため漏水しやすく,漏水の少ない水田でのみ可能な方式のため,この方式が適する地域も限られてしまうという問題もある.

 そして現在の目本には直播栽培に適した品種がないということも,直播きが定着しない1っの理由であると考えられる.直播栽培を定着,安定させるには直播栽培に適した品種の育成が重要な課題である.直播栽培用品種に必要な特性としては,発芽・苗立ちが良いこと,耐倒伏性が優れていること,そして良食味であることなどがあげられる.特にコメの食味については,消費者の良食味米志向が高まってきているため,より重要になってきていると考えられる.

 コメの食味を評価する方法としては食味による官能試験が行われているが,コメの理化学的特性(タンパク質含量,アミロース含量など)を測定して食味を推定する方法も行われている.タンパク質含量の測定は,ケルダール法によって行われており,タンパク質含量が低いコメの方が目本では一般に良食味であるといわれている.アミロース含量はヨード呈色度によって測定できる.デンプン溶液にヨウ素を反芯させ発色を比色する方法である. この値においても低い方が粘りがあって良食味とされている.

 今回の研究では,湛水土壌表面播種栽培を想定した直播きに適する品種選抜を目的として行った.また,良食味である系統を選抜するため,ヨード呈色度に着目し,電子レンジ・ヨード法(坂ら1997)を用いて品種間差について検討を行った.ヨード呈色度はコシヒカリが関与する良食味品種・系統においては数値が低いという傾向が認められているため,コシヒカリ並の良食味特性をもつ品種の選抜に有効であると考えられ,本研究においてもこの方法を用いてコシヒカリ並の良食味である系統の選抜を検討した.

III.材料と方法
1.圃場実験について
 供試品種は第1表に示すように,外国の直播き栽培用品種のLeoontなどに日本の移値用良食味品種ヒノヒカリなどを交配したもの13後代を用いた.標準品種として,第2表に示す供試品種の親系統など9品種を用いた.供試材料の1〜5番はF2世代,6〜12番はF3世代,13番はF4世代である.宇都宮大学農学部圃場で2001年に代掻き後落水し,5月24日に30p間隔で長さ50pに1系統ほぼ30粒ずつ条播し,5月25日に水入れを行った(写真1).種子の催芽など予措は行わなかった.各組合わせの供試個体数・系統数は第1表に示す通りである.元肥として窒素を10aあたり4kg施肥した.なお,追肥は行わなかった..除草剤としてキックバイを1kg粒材で散布し,生育期に1回手取りで除草を行った.収穫は1O月4,12,18,26日に成熟期に達したものから行った.10月27日以降に成熟期に達したものや,分離の著しいもの,倒伏したものは収穫を行わなかった.収穫と同時に各系統の稈長を測定した.各系統無作為に選んだ5本の茎の稈長を測定し,平均値を稈長とした.収穫した系統は乾燥させた後,11月30目に脱穀をし風選,籾摺り(大屋式籾摺り機25型)を行った.なお,1〜5番の組合せについては個体選抜のみを行った.

2.ヨード呈色度実験について
 圃場実験から選抜したものの中から良食味の系統を選抜するため,各系統のヨード呈色度を測定した.今回の実験では,10月4,12,18目に収穫したものと,第1表に示してある供試数に対する選抜数の割合の値が大きい8番(W42/Ansanbyeo),12番(W42/Hinohikari)の組合せを中心として行った.8番の組合せにおいては収穫したもの全て,12番の組合せにおいては10月26目に収穫したものの中で玄米の収量が80g以上のものについても測定を行った.ヨード呈色度は電子レンジ・ヨード法をもとに以下のような方法で行った.この方法では(1997 坂らは)白米で行っているが,本研究では玄米を用いて行った.

・ヨード呈色度の測定  各系統ごとに青米や屑米を除いた玄米3gを300m1三角フラスコに入れ,蒸留水100m1と沸騰石とともに電子レンジ(500W)で15分加熱した.加熱後30分たってから煮汁を1o1採取し,よう素よう化カリウム2m1(2gのよう素に20gのよう化カリウムを加え蒸留水で1Lに定量したもの)で反応させ,50m1メスフラスコを使用して蒸留水で定量し,Naclを1滴加えた.その後メスフラスコ内の溶液の色の濃淡を達観で1(黄色)〜5(濃い青緑)段階に分級した(写真2).1回の加熱では同時に3系統をレンジに入れて行った.各系統2反復行った.

IV..結果および考察
1.圃場での選抜
 発芽苗立ちはどの系統も順調であり,浮き苗もあまり見られなかった.第2表は標準品種の出穂期,程長,倒伏程度を示している.出穂期について見てみると,移植したコシヒカリで8月7日と最も早かった.ユメツクシ,コシヒカリ,Lemontでは8月中旬,目本晴は8月下旬,ヒノヒカリ,ニシホマレ,C/F,W42,W53では9月上旬であった.播種期が遅かったこともあり,出穂期は全体的に遅かったと考えられる.稈長はニシホマレ,ヒノヒカリ,C/Fで高かった.倒伏程度については,やはり耐倒伏性の低いコシヒカリで多く見られたが,ヒノヒカリでは稈長が高いにも関わらず倒伏は見られなかった.

 第1図に各組合わせの稈長の頻度分布を示した.6番(W53/Lemont)の組合せでは,80p以下の稈長の低いものが多く見られた.7番(W38/ヒノヒカリ)の組合せでは70p〜90pの稈長のものが多かった.8番(W42/Ansanbyeo)の組合せではすべてが70p〜80pであった.9番(W53/ヒノヒカリ)の組合せでは70cm〜80cmのものが多かった.10番(W53/Ansanbyeo)の組合せでは70p以下の低い稈長のものが多かった.11番(W53/ヒノヒカリ),12番(W42/ヒノヒカリ),13番(W42/ヒノヒカリ)の組合せでは80〜90pの稈長の高いものが多く見られた.

 第2図は成熟期における収穫系統数の頻度分布を各組合わせごとに示している.6番(W53/Lemont)の組合せでは,1O月27目以降に成熟期であつたものが多く見られたことから,6番の組合せは全体的に生育が遅かったと考えられる.7番(W38/ヒノヒカリ),8番(W42/Ansobyeo),9番(W53/ヒノヒカリ),10番(W53/Ansanbyeo),11番(W53/ヒノヒカリ),12番(W42/ヒノヒカリ)の組合せでは10月26目付近が成熟期のものが多かった.やはり播種期が遅かったため全般的に成熟期は遅くなった.

 第1表に各組合せの圃場での選抜数を示した.この表の選抜数というのは実際に収穫を行った系統数である.6番の組合せについてみてみると,供試数に対する選抜数の値が最も低くなっている.これは,成熟期が遅いもの(成熟期が10月27目以降であったもの)や倒伏していたものが多かったためと考えられる.8番と12番の組合せでは,供試数に対する選抜数の値が最も高くなっている.これらの組合せでは10月26目迄に成熟したものが多く,倒伏が少なかったため多く選抜できた.このことから,8番と12番の組合せは有望であると考えられる.
第1表 供試材料と圃場での選抜数.
――――――――――――――――――――――――――――――――
番号          世代 供試個体・系統数 選抜数  選抜数/供試数
――――――――――――――――――――――――――――――――
!      H/N           F2         20              8        0.40
2      椛38/H        〃         50            35        0.70
3      関東199号/H  〃         65             51        0.78
4      W76/H        〃         30             22        0.73
5      H/W42        〃         155            87        0.56
6      W53/Lemont    F3         33              9        0.27
7      W38/H        〃         20             11        0.55
8      W42/A        〃         23             14        0.61
9      W53/H        〃         36             18        0.50
10     W53/A        〃         36             18        0.50
11     W53/H        〃         !48            66        0.44
12     W42/H        〃         109            67        0.6!
13     W42/H        F4          26            14        0.53
――――――――――――――――――――――――――――――――
H;ヒノヒカリ, N;ニシホマレ, A;Ansanbyeo,W53,76;ユメヒカリ//Lemont/H,
W36,42;葵の風//Lemont/H, C/F;Cawwa/Fortuna6-103-15, Ansanbyeo;
韓国の直播用早生品種. F2は個体, F3は系統.

第2表 標準品種の出穂期, 稈長, 倒伏程度.
――――――――――――――――――――――――――――――――
品種         出穂期(月・日)    稈長(p)    倒伏程度
――――――――――――――――――――――――――――――――
ニシホマレ          9/8            84           無
ヒノヒカリ          9/1            87           無
夢つくし           8/21           68           微
C/F                  9/3            85           無
W42                 9/5            80           無
コシヒカリ          8/19           82           中
W53                 9/1            73           無
目本晴              8/29           64           微
Lemont               8/18           68           無
コシヒカリ(移植)    8/7            80           多
――――――――――――――――――――――――――――――――
2.ヨード呈色度による選抜
 第3図にヨード呈色度における標準品種の個体数の頻度分布を示した.緒言でも述べたようにヨード呈色度は数値が低いもの(黄色に近いもの)ほど食味官能検査が良好である(竹生ら1985)ことを示している. 標準品種では比較的数値の低いものが多くみられた. ヨード呈色度を測定した品種における品種間及び2反復の二元配置による分散分析を第3表に示した. ヨード呈色度は標準品種9品種間で有意であった.

 第4表に標準品種9品種のヨード呈色度を示した. Lemontは呈色度の値が5であり,他の8品種と有意差が認められた. ヨード呈色度の値が高いのは他の品種に比べてアミロース含量が高いため(坂ら1997)であると考えられ,食味が良くないと推定される. また,Lemontは他品種よりもアミロース含量が高いことが報告されている(Wonら1998). 夢つくしとW53ではヨード呈色度が1であったので最も良食味であると考えられる. この2品種間では有意差は認められなかった. また,W42の値はコシヒカリと同じ1.5であるためW42の食味はコシヒカリ並であると考えられる.

 第4図にはヨード呈色度における系統数の頻度分布を示した. 標準品種と同様に比較的数値の低いものが多かった. コシヒカリのヨード呈色度の値が1.5であったので(第4表),本研究ではヨード呈色度の値がその値に近い2以下のものを良食味品種として選抜した(第5表).

 ヨード呈色度と稈長の関係をみると(第5図)相関係数が0.188となっており相関がみられなかった. 今回は稈長が高くなるほどヨード呈色度が高くなるという傾向は認められなかった.このことから稈長があまり高くない系統でも良食味の系統を選抜できる可能性があると考えられる.

 第6表に収穫日ごとのヨード呈色度の平均を示した. 10月12目に収穫した系統のヨード呈色度の平均が最も高かった. また,10月26日に収穫した系統の平均はわずかであるけれども他の収穫日のものより低い値であった. ヨード呈色度で選抜した系統数を第5表に示した. 今回はヨード呈色度の値が2以下のものを選抜した. ヨード呈色度を測定した系統数に対する選抜数をみてみると,13番(W42/ヒノヒカリ)と10番(W53/Ansanbye)の組合せでそれぞれ100%,83.3%と値が高かった. 最終的に選抜された値をみると8番の組合せ(W42/Ansanbyeo)で39%と他の組合せに比べて高く,10番の組合せでも比較的高かった. また,W42を親に持つ8,12,13番の組合せでは,他の組合せよりも選抜割合が高かった.

 以上のことから,圃場での選抜において有望であると考えられた8番の組合せで良食味である系統が多く選抜できたので,8番の組合せは直播栽培に適する系統として有望であると推測される. 今後更に直播きに適する系統を選抜していくとともに,玄米でのヨード 呈色度の測定法についても検討を進めていく予定である.
第3表 標準品種9品種におけるヨード呈色度についての分散分析.
――――――――――――――
要因   白由度   平均平方
――――――――――――――
品種     8        3.469**
反復     1        0.056    
――――――――――――――
**;1%水準で有意であることを示す.

第4表 標準品種9品種のヨード呈色度.
――――――――――――――
品種           呈色度平均
――――――――――――――
Lemont         5  a 
C/F            3.25 b
ヒノヒカリ    2.5   bc
目本晴        2.5   bc
W42           1.5   cd
コシヒカリ    1.5   cd
ニシホマレ    1.25 cd
W53           1  d 
夢つくし      1  d 
――――――――――――――
同一符号間にはDuncanの多重検定により,5%水準
で有意な差がないことを示す.

第5表     ヨード呈色度で選抜した系統数.
――――――――――――――――――――――――――――――――
           供試   ヨード呈色度  ヨード呈色度に  選抜数/     選抜数/
番号       系統数  測定数       よる選抜数      測定数     供試数 
                                                (%)        (%)   
――――――――――――――――――――――――――――――――
6           33        2             1             50         3      
7           20        2             0             0          0      
8           23        14            9             64.2        39     
9           36        6             3             50         8,3    
10          36        6             5             83.3        13.8   
11          148       6             3             50         2      
12         109        21            15            71.4        13,8   
13         26         5             5             100        19.2   
――――――――――――――――――――――――――――――――
V.謝辞  本研究の遂行にあたり御指導頂いた,栽培学研究室の吉田智彦教授,三浦邦夫助教授,和田義春助教授,作物生産技術学研究室の前田忠信助教授に感謝致します. そして,いろいろな面で支えて下さった先輩方,1年間ともに頑張ってきた4年生の皆さん本当にありがとうございました.心から感謝致します.
VI..引用文献
1. 秋田重誠ら 2000.作物学(I).文永堂,東京.65-68.
2. 牧山正男・山路永路 1997.直播稲作の現状と農業土木技術から見
  た湛水直播の間題解決の可能性. 農業およぴ園芸 72:1097-1102.
3. 農業技術協会 2000.水稲直播の振興を考える. 農業技術 455:64-65.
4. 坂紀邦・井上正勝 1997. 炊飯特性「ヨード呈色度」を利用した水
  稲良食味系統の選抜. 愛知農総試験報 29:19-25.
5. 坂紀邦・井上正勝・中鳴泰則 1993. 電子レンジ・ヨード法によ
  る水稲食味選抜の可能性について(第3報). 日作紀 62(別2):61-62.
6. 竹生新治郎・渡辺正造・杉本貞造・真部尚武・酒井藤敏・谷口嘉
  廣 1985. 多重回帰分析による米の食味の判定式の設定. 澱粉科学 32;51-60.
7. 竹生新治郎 1995. 米の科学. 朝倉書店,東京. 134-135.
8. Won,J.G., Y.Hirahara, T.Yoshida and S. Imabayashi 1998.
  Selection of Rice Lines Using SPGPS Method for Direct
  Seeding. PPS. 1:280-285.
Se1ection of Rice Lines Direct-Seeded on the Soil Surface in Paddy Fie1ds and the IBVR Valeus of Cooking Quality

Mayui Fuji
Summary

This study was carried out to se1ect rice lines which wered direct-seeded on the soil surface in flooded paddy fields. Moreover, I selected for good eating quahty rice lines by the method of the starch-iodine blue va1ue of the residual liquid (IBVR) from cooking rice. In the field experiment, lines fom W42/Ansanbyeo and W42/Hinohikari seemed to be suitab1e for direct-seeded and many lines from these crosses were selected. When the IBVR of each line was measured, many lines had 1ow IBVR scores. Since the IBVR of Koshhilkari was 1.5, lines that showed the IBVR va1ue of two or 1ess were se1ected as a good-eating quality rice 1ines. High va1ue of the ratio of the se1ected number of 1ines to tota1 number of lines meaasured for the IBVR were shown in W42/Hinohikari and W53/Ansanbyeo pedigrees. The highest selection ratio was shown in W42/Ansanbyeo pedigree and they were considered to be the most promising direct-seeded lines.

以上