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本頁の内容は,宇都宮大学農学研究科生物生産科学専攻植物生産学講座の修士論文です.

本実験は主に附属農場において行われた.

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カンボジア水稲品種の直播栽培適用性
The Adaptability for Direct-seeding of Cambodian Rice Varieties

宇都宮大学大学院農学研究科
生物生産科学専攻 LY TONG

目次

緒論									     1

第1章 カンボジア品種間の苗立ち率と生育及び収量
第1節 緒言							     3
第2節 材料と方法							     3
第3節 結果							     6
第4節 考察							     32

第2章 カンボジア品種とコシヒカリとの交雑
第1節 緒言							     35
第2節 材料と方法					 		     35
第3節 結果							     38
第4節 考察							     41

第3章 異なる条件における苗立ち率
第1節 緒言							     42
第2節 材料と方法							     42
第3節 結果							     43
第4節 考察							     49

第4章 硬度の異なる土壌の表面播種におけるコシヒカリ及び
Rohat品種の苗立ち率
第1節 緒言							     50
第2節 材料と方法							     50
第3節 結果							     51
第4節 考察							     54

第5章 SSRマーカーによるカンボジア品種の分類
第1節 緒言							     55
第2節 材料と方法							     55
第3節 結果							     58
第4節 考察							     61

第6章 総合考察				 			     62

概要									     64

Abstract								     66

謝辞									     67

引用文献								     68
緒論
日本では農業生産従事者の高齢者や米の輸入自由化による価格競争が激しい状況の中,低コストの米生産の課題に対応するために,直播栽培の確立が強く求められる.しかし,直播栽培では出芽苗立ちが悪いこと,倒伏や鳥害などによる生産性の不安が問題である.湛水しない乾田直播栽培技術で畑状態で播種することによって出芽苗立ちがよくなる反面,乾田直播栽培できる地域が制約されることや代掻きしないで播種を行うことにより水田が漏水しやすくなる欠点がある.また,乾田直播栽培では播種直後に降雨があると,反対に出芽苗立ちが悪くなり,不安定である.現在,湛水直播栽培では,出芽苗立ち率を高めるためには,酸素供給剤の粉衣種子(三石 1975,中村 1976)を使用した湛水土中直播の方法があるが,特殊な資材のコストがかかることやコーティングの機械及び熟練が必要である.コーティングしていない種子を播種する方法として湛水土壌表面直播があるが,苗が土壌に固着しなく,浮き苗やころび苗の発生がしばしば見られる.これらの浮き苗やころび苗の発生を低減する方法として,播種後の水管理や土中に種子を播種する方法が有効である.水管理の落水処理は倒伏程度を軽減し,増収するという報告がある(狩野ら 1994).落水処理の回数が多く,処理期間が長いことによって倒伏程度が軽減される傾向がみられる(寺島ら 2003).コーティングなしの種子の土中の播種は倒伏とともに鳥による食害の軽減になるが,土中では酸素の不足状態により出芽苗立ちの問題がある.そのため,土中での高い出芽性の品種改良を行うことが重要である.耐ころび型倒伏性には品種間で顕著に差があるという報告がある(芳賀ら1977,滝田・櫛渕 1983,寺島ら 1992).また,耐倒伏性を持っている品種は短稈形質を持つと松尾(1952)は指摘している.また,耐倒伏の品種は根が太い品種であるとの報告がある(滝田・櫛渕 1983).

直播栽培技術の確立が必要とするのは日本だけでなく,マレーシア,タイ,フィリピンなどの灌漑稲作地帯で田植労働力が不足する地域においては、移植栽培に代わって直播栽培が急速に拡大している(桃木 1988,De Datta and Saaran 1990,平岡ら 1992).一方,カンボジアには国産の農業機械がなく,外国からの輸入に頼るしかない現状にあることと,国民の貧困層の90%が農民であり(社会法人 全国農業改良普及協会 2004),農業機械や農業資材の購入資金がないため,カンボジアでの農作業はほとんど人力及び動物に頼らざる得ない.特に,稲作においては田植えが手移植による生産体系で行われ,ha当たりの所要労力が60から70人必要であり,一方、直播栽培では移植栽培の約半分の30から40人になっている(財団法人 農林系統協会 1975).一般的に,一戸当たりの経営面積は平均的に2haから5haの小規模である.この小規模の原因は,灌漑水の制約や資金の乏しいことが挙げられるが,最も重要なのは農作業労力の制約である.Battamban州及びPursat州の一部の5haを超える経営面積では直播栽培を行っているが,全国から見ると5haを超える経営面積を所有する農家は極めて少ない(財団法人 農林系統協会 1975).農作業労力を軽減するために,省力化・低コストでかつ規模拡大ができる栽培法である直播栽培技術の確立が最も重要であると考えられる.また,特殊な資材や機械,精度の高い技術力を必要としない直播栽培適応性の高い品種改良を行う必要がある.

カンボジアのイネの在来品種は約2000品種ある(Whitaker et al.1973).本研究はカンボジアの稲の遺伝子源に着目し,直播栽培適用性のあるそれぞれの形質を探索し,品種改良を行うことを目的とした.直播栽培適用性のある品種改良をするために,先ずカンボジアの在来品種や新品種の直播栽培適用性について,苗立ち率,初期成育速度や倒伏程度及び収量を調査した.また,新品種は在来品種に比べ倒伏に強い短稈品種が多いが,一般的に食味が不良である.そこで,耐倒伏性のあるカンボジア品種とコシヒカリとの交雑を行うとともに,圃場レベルで収量調査,異なる条件下でのそれぞれの品種の苗立ち率の検討,及びSSR分析によるカンボジア品種の分類などを行った.

第1章  カンボジア品種間の生育及び収量調査
第1節  緒言
カンボジアでの稲作の田植えは手移植で行われている.そのため,一戸農家の経営面積が制約されている.5ha以上の経営面積を所有する一部の農家が手移植による栽培が困難のため,直播栽培を行っているが,直播向の品種を用いるわけではない.一戸農家の経営面積を拡大するために,特殊な資材,機械及び精度の高い技術力を必要としない稲の直播栽培技術の確立や直播栽培適用性の高い品種の確立が必要であると考えられる.そのために,本章ではカンボジアのイネ遺伝資源に着目し,それぞれの品種について直播栽培適用性について調査を行った.カンボジア品種を直播栽培適用性について調査するために,苗立ちを調べ,品種間の生育及び収量を比較した.

第2節  材料と方法
試験は2003年及び2004年に宇都宮大学付属農場で行われた.土壌は,黒ボク土壌((農林水産省 農業環境技術研究所 1995),Typic Melanudands(財団法人 日本土壌協会1999), Haplic Andosols (FAO-Unesco 1988),Humic Andosols (ISSS/ISRIC/FAO 1998))であった.種子は2003年3月にカンボジアから導入したものを供試した.17品種の品種名は第1-1表に示した.種子は種子消毒を行わずに,約15℃の水道水によって5日間浸種をした.5日間の浸種後,品種によって,鳩胸状態になるものもあれば,芽がはっきり確認できる状態のものもあった.そうでない種子もそのまま播種した.播種様式としては,各品種を1区3uに300粒散播し,2003年は5月8日,2004年は5月14日に表面播種した.散播様式では両年度においてもカンボジアから導入した種籾を用いた.2004年度の生育調査及び収量調査のために,散播様式と別の試験区を設けて,2003年に宇都宮大学付属農場で採種したカンボジア4品種とコシヒカリの合計5品種の新しい

第1-1表 カンボジア水稲の品種.

種籾を条間約30cmの条播で表面播種した.
基肥として化学肥料(10−18−16)を40kg/10a施用した.播種直後,HORIBA社の酸化還元と温度計の付いた電極を調査区内に地面から深さ約1cm設置し,苗立ち調査日まで約1ヶ月間,週3,4回土壌の酸化還元と地温を測定した.測定値をEN.H.E=E+206-07(t-25)mVで標準水素電極による酸化還元電位値に変換した.EN.H.Eは標準水素電極による酸化還元値,Eは測定値,tは地温とした.播種から約1週間後,除草剤キックバイを1kg/10a散布した.2回目の除草として播種の約1ヶ月後シーゼットフロアブル液剤を1L/10a散布した.また,2003年5月26日にイネミズゾムシ対策として殺虫剤のトレボンを1.5kg/10a散布し,2004年5月25日に殺虫剤のシクロパック粒剤を600g/10a散布した.

播種1ヶ月後,各品種の苗立ちを測定し,2週間おきに生育調査を行った.生育調査においては,各品種の平均的な苗立ちの10個体を選んだ.反復は設けなかった.地面から植物の最も長い葉先端までの草高,葉数,茎数及び約半分展開中の葉一つ下の葉の葉緑素値(SPAD)を測定した.調査区内の稲が約10%出穂した日を出穂始とし,40%から50%出穂した日を出穂期とし,90%出穂した日を穂ぞろい期とした.登熟期に倒伏調査,収量調査及び収量構成要素調査を行った.倒伏調査は垂直方向に対して稲体が15°傾けば1とし,30°傾けば2とし,60°を4として,評価した.

2003年度における収量調査では,50×100cmの面積の稲体を刈り取り,室内条件下で乾燥した.乾燥した稲体の風乾重を測定したのち,籾を脱穀し,風選し,精籾重を測定した.その精籾を籾摺りしたものを総玄米重とした.また,玄米の水分率を測定し,株式会社ケツト科学研究所のKett成分分析計AN-700によって食味値,蛋白質含量及び脂肪酸含量を測定した.その後,千粒重を測定するため,その玄米を約100g取った.2004年度における収量調査では,調査区の稲を30×100cm刈り取り,2003年度と同様に収量調査を行った.収量構成要素については,2003年度及び2004年度とも,試験区の周辺から茎数の平均的な個体を10個体抜き取り,室内条件下で乾燥を行った.その10個体から主茎と思われる茎を一本ずつ取り,稈長を測定した. 1穂の籾数を数えるために,脱粒しないコシヒカリの場合は調査個体から大きさの平均的な穂を選び,粒数を数えた.一方,カンボジア品種は皆脱粒するため,抜き取った調査用10個体をまとめ,それぞれ品種に袋をかけた.乾燥した後,全体を脱穀し,それぞれの袋から得た全籾を2回均分器(不二金属工業株式会社)で,数で4等分にきれいに分け,その内の4分1の籾数を用いた.その籾数を藤本科学工業株式会社の稔実歩合測定器で数えた.カンボジア品種の登熟歩合は,水選により測定したものである.一方,コシヒカリは比重1.13の塩水選により測定したものである.

第3節  結果
3-1 苗立ち
2003年度において,苗立ち率は9%から41%で全体的に低い値となった(第1-2表).最も高い苗立ち率はコシヒカリの41%であり,カンボジア品種の中で最も高いのはRohatの39%であり,続いてSen Pidao,Rumpe,IR Kesarはそれぞれ31%,26%,23%であった.最も低いのはPhka Rumdoulの9%であった.2004年度における苗立ち率は7%から61%で全体的に2003年度より高い値を示した(第1-3表).最も高い苗立ち率はPhka Rumchangの61%であり,最も低いのはRohatの7%であった.コシヒカリは45%であり,Sen Pidao,Rumpe,IR kesarはそれぞれ35%,29%,22%であった.供試種子の新旧における苗立ち率の違いは第1-4表に示す.第1-4表より,新しい種子の使用区は古い種子の使用区よりも苗立ちが高かった.コシヒカリを除いて,新しい種子のほうが顕著に高い苗立ち率を示した.特に,Rohatの苗立ち率については古い種子の苗立ち率が7%に対して,新しい種子区は61%の高い苗立ち率を示した.
第1-2表 2003年における苗立ち率.     
品種	苗立ち率(%)	
コシヒカリ	41 	
Rohat	39 	
TORNG LAHONG	35 	
Chhma Prum	34 	
CAR 13	34 	
Santepheap 3	31 	
Sen Pidao	31 	
PHKA MLIS	29 	
Popoul	27 	
Rumpe	26 	
Sarika	24 	
IR Kesar	23 	
PHKA KHGNEI	23 	
SRAU SAR	17 	
CHHEAM AN'-TUNG	16 	
Phka Rumchang	16 	
NEANG MINH	11 	
Phka Rumdoul	9 	

第1-3表 2004年における苗立ち率.
品種	苗立ち率(%)	
Phka Rumchang	61 	
Phka Rumdoul	59 	
NEANG MINH	56 	
CAR 13	54 	
PHKA KHGNEI	46 	
コシヒカリ	45 	
PHKA MLIS	45 	
Chhma Prum	44 	
CHHEAM AN'-TUNG	43 	
TORNG LAHONG	39 	
SRAU SAR	36 	
Sen Pidao	35 	
Popoul	31 	
Rumpe	29 	
Sarika	28 	
Santepheap 3	26 	
IR Kesar	22 	
Rohat	7 	

第1-4表 使用種子の新旧おける苗立ち率(2004年).
品種	古い種子使用の苗立ち率(%)	新しい種子使用の苗立ち率(%) 	
コシヒカリ	45	69 	
IR Kesar	22	39 	
Sen Pidao	35	52 	
Rohat	7	61 	
Rumpe	29	59 	

3-2 播種後の土壌の酸化還元及び地温の変化
 2003年度における土壌の酸化還元電位は200mvから-180mvに低下した(第1-1図).播種一週間後の土壌の酸化還元電位は0mv以下に還元され,その後も徐々に低下した.2004年度においては,土壌の酸化還元電位は280mvから-200mvの範囲で変化した(第1-2図).播種後,土壌の酸化還元電位は急速に低下したが,最初の2週間における酸化還元電位は0mv前後で変化し,その後,徐々に低下したが,6月10日以降では軽い落水処理を行ったため,酸化還元電位は急速に上昇した.  2003年度における地温は19℃から33℃の範囲で変化した(第1-3図).播種後,2週間の地温が低下し続け,5月23日には最も低く19℃であった.その後,地温は徐々に上昇し,6月5日に最も高く33℃であった.2004年度における地温は18℃から38℃の範囲で推移した(第1-4図).播種後,地温は一時18℃から32℃まで上昇し,5月22日に17℃まで下がり,その後また上昇し,2週間の間平均約28℃を維持した.

3-3 各品種の稲の生育
 全品種における最終草高は89cmから143cmの範囲で分布した(第1-5図).コシヒカリを基準すると,二つのグループに分けられる.コシヒカリ並の草高を示した120cm以下のグループ(NEANG MINH, Rohat, Rumpe, Sarika, Popoul, IR Kesar, Santepheap 3, Sen Pidao)と120cmよりも高い草高を示した(PHKA MLIS, PHKA KHGNEI, SRAU SAR, TORNG LAHONG, CHHEAM ARN’-TUNG, CAR 13, Phka Rumchang, Phka Rumdoul, Chhma Prum)のグループがあった.第1-6図よりカンボジア品種の茎数がコシヒカリより多いことを示している.ただし,カンボジア品種では無効茎数が多く出た.一番多い茎数を示しているのはPhka Rumdoulであった.第1-7図は各品種の主茎葉数の推移を示している.第1-7図よりカンボジア品種の葉数はコシヒカリより多く,いずれのステージにおいてもカンボジア品種はコシヒカリよりも葉数が多いことを示した.
第1-1図 播種後における土壌の酸化還元電位の推移(2003年).
第1-2図 播種後における土壌の酸化還元電位の推移(2004年).
第1-3図 播種後における地温の推移(2003年).
第1-4図 播種後における地温の推移(2004年).
第1-5図 カンボジア品種及びコシヒカリの草丈の推移(2003年).
第1-6図 カンボジア品種及びコシヒカリの個体当たりの

有効茎数の推移(2003年).
第1-8図は各品種の葉色値の変化パターンを示している.第1-8図より登熟期のRohatは他品種よりも葉色値が極端に低下した.2003年におけるコシヒカリ, IR Kesar,Sen Pidao,Rohat,Rumpeの生育を2004年のものと容易に比較するため,第1-9図,第1-11図及び第1-3図を作成した.第1-9図,第1-10図は2003年及び2004年におけるコシヒカリ,IR Kesar,Sen Pidao,Rohat,Rumpeの草高の推移を示している.第1-9図,第1-10図よりコシヒカリは最も草高が高いことを示している.IR Kesarは両年度においても草高が最も低かった.第1-11図,第1-12図は2003年及び2004年におけるコシヒカリ, IR Kesar, Sen Pidao, Rohat, Rumpeの有効茎数の推移を示している.第1-11図,第1-12図よりカンボジア品種はコシヒカリよりも茎数が多いことが読み取れる.特に,Rumpeにおいては茎数が最も多く,2003年の最高分げつ期に26本,2004年の最高分げつ期に22本になった.ただし,最高分げつ期から穂数が決定するまでの期間で茎数が極端な減少を示したことから,有効茎の割合が小さく,無駄の多い分げつが出来てしまったことを示している.

第1-13図,第1-14図は2003年及び2004年におけるコシヒカリ, IR Kesar, Sen Pidao, Rohat,Rumpeの葉数の推移である.カンボジア品種のIR Kesar,Sen Pidao,Rohat,Rumpeの葉数はコシヒカリより約2枚程度多く,止葉葉数の最も多いのはIR Kesarで18枚であった.第1-15図,第1-16図は2003年及び2004年におけるコシヒカリ,IR Kesar, Sen Pidao,Rohat,Rumpeの葉色値である.コシヒカリ及びRohatにおける出穂終期以降の葉色値の変化については,2004年に比べ2003年のほうが極端な低下を示している.また,Sen Pidaoの葉色値はいずれの年度においても出穂終期以降で他の品種より高い値を示している.第1-17図,第1-18図は2003年及び2004年におけるコシヒカリ,IR Kesar,Sen Pidao,Rohat,Rumpeの穂長と各節稈長を示している.コシヒカリの節間長については両年度においても大きな差が見られなかったが,カンボジア4品種においては2003年より2004年の節間長の方が短い傾向が見られた.特にIR Kesarの穂と各
第1-7図 カンボジア品種及びコシヒカリの主稈葉数の推移(2003年).
第1-8図 カンボジア品種及びコシヒカリの葉色値の推移(2003年).
第1-9図 カンボジア4品種及びコシヒカリの草丈の推移(2003年).
第1-10図 カンボジア4品種及びコシヒカリの草丈の推移(2004年).
第1-11図 カンボジア4品種及びコシヒカリの個体当たりの
有効茎数の推移(2003年).
第1-12図 カンボジア4品種及びコシヒカリの個体当たりの
有効茎数の推移(2004年).
第1-13図 カンボジア4品種及びコシヒカリの主稈葉数の推移(2003年).
第1-14図 カンボジア4品種及びコシヒカリの主稈葉数の推移(2004年).
第1-15図 カンボジア4品種及びコシヒカリの葉色値の推移(2003年).
第1-16図 カンボジア4品種及びコシヒカリの葉色値の推移(2004年).
第1-17図 カンボジア4品種及びコシヒカリの稈長と各節間長(2003年).
第1-18図 カンボジア4品種及びコシヒカリの稈長と各節間長(2004年).

節間の合計長については2003年に比べ2004年のほうが約10cm短くなった.また,2004年の節稈長について,コシヒカリとカンボジア4品種との違いは明確であった.第1-5表,第1-6表は2003年及び2004年におけるコシヒカリ, IR Kesar, Sen Pidao, Rohat, Rumpeの出穂状況を示す.いずれの年度においてもコシヒカリの出穂期は他のカンボジア品種よりも早いことが読み取れる.Rohatはコシヒカリに続いて,2番に早かった.一番遅いのはIR Kesarであり,コシヒカリに比べると約一ヶ月出穂は遅くなった.

3-4 風乾重,収量,収量構成要素及び食味
 第1-7表は2003年におけるカンボジア品種及びコシヒカリの平米および個体当たりの風乾重を示すものである.個体当たり風乾重は22gから109gの範囲に分布した.個体当たり風乾重の最も高いのはSRAU SARの109gであり,IR kesar,Rumpe,Rohat,Sen Pidao,及びコシヒカリの風乾重はそれぞれ57g,42g,39g,33g及び24gであった.第1-8表に2004年におけるカンボジア品種及びコシヒカリの平米および個体当たりの風乾重を示す.2004年における個体当たり風乾重をみると,風乾重は2003年に比べ全体的に低く,20gから74gの範囲にあった.その中で個体当たりの最も高いのはSRAU SARの74gであり,次にCHHEM AN’-TUNG の72gであった.個体当たりの最も低いのはRumpeの20gであった.また,コシヒカリの個体当たりの風乾重は,他のカンボジア品種と比較するとRumpeを除いて最も低く,24gであった. 第1-9表,1-10表はそれぞれの2003年及び2004年における収量調査の結果を示すものである.2003年における各品種の平米当たりの全重を見ると,最も高いのはRumpeの1838gであり,次にIR Kesarの1542gであった.最も低いのはコシヒカリの1213gであった(第1-9表).平米当たりの精籾重については,最も高いのはRumpeの732gに対して,最も低いのはIR Kesarの258gであった.平米当たりの藁重については,最も高いのはIR Kesarの1284gに対して,最も低いのはコシヒカリの656gであった.
 第1-5表 カンボジア4品種及びコシヒカリの出穂調査(2003年).
品種	出穂始期	出穂期	穂ぞろい期	
コシヒカリ	8月16日	8月19日	8月22日	
Rohat	8月24日	8月28日	8月30日	
Sen Pidao	9月1日	9月3日	9月7日	
Rumpe	9月1日	9月3日	9月7日	
IR Kesar	9月13日	9月16日	9月19日	

 第1-6表 カンボジア4品種及びコシヒカリの出穂調査(2004年).
品種	出穂始期	出穂期	穂ぞろい期	
コシヒカリ	8月11日	8月13日	8月17日	
Rohat	8月26日	8月30日	9月2日	
Sen Pidao	8月28日	8月30日	9月5日	
Rumpe	8月29日	8月30日	9月2日	
IR Kesar	9月14日	9月18日	9月25日	

第1-7表 カンボジア品種及びコシヒカリの全重,個体数及び
個体当たりの風乾重(2003年).
品種名	全重(g/u)	個体数/(u)	重量(g/個体)	
SRAU SAR	1744	16	109	
Phka Rumchang	2198	26	85	
Phka Rumdoul	1516	18	84	
CHHEAM AN'-TUNG	1486	20	74	
Santepheap 3	1952	28	70	
NEANG MINH	1430	22	65	
Sarika 	1898 	30 	63 	
IR Kesar	1838 	32 	57 	
PHKA KHGNEI 	1332 	26 	51 	
Chhma Prum	1230	28	44	
Popul	1460	34	43	
Rumpe	1274	30	42	
Rohat	1542 	40 	39 	
CAR 13 	1074 	28 	38 	
Sen Pidao	1314 	40 	33 	
PHKA MLIS 	992 	32 	31 	
コシヒカリ	1214 	50 	24 	
TORNG LAHONG 	860 	39 	22 	
   全重は風乾重である.

第1-8表 カンボジア品種及びコシヒカリの全重,個体数
及び個体当たりの風乾重(2004年).
品種	全重(g/u)	個体数/(u)	重量(g/個体)	
Santepheap 3	2962	40	74	
CHHEAM AN'-TUNG	3520	49	72	
SRAU SAR	3849	54	71	
Rohat	1222	18	68	
Popul	1821	33	55	
Chhma Prum	2559	49	52	
Sarika	1822	35	52	
NEANG MINH	3095	66	47	
PHKA MLIS	2398	51	47	
IR Kesar	1678	37	45	
Phka Rumdoul	2397	53	45	
Phka Rumchang	2490	56	44	
PHKA KHGNEI	1946	49	40	
TORNG LAHONG	1743	45	39	
CAR 13 	2137 	61 	35	
Sen Pidao	1221	37	33	
コシヒカリ	1568 	65 	24	
Rumpe	903 	45 	20	
    全重は風乾重である.

第1-9表 カンボジア4品種及びコシヒカリの収量調査(2003年).
品種	全重 (g/u)	精籾重 (g/u)	藁重 (g/u)	籾藁比	総玄米重 (g/u)	
コシヒカリ 	1213	557	656	0.85 	461	
IR Kesar	1542	258	1284	0.20 	196	
Sen Pidao	1314	446	868	0.51 	336	
Rohat 	1274	557	717	0.78 	444	
Rumpe 	1838	732	1106	0.66 	570	

第1-10表 カンボジア4品種及びコシヒカリの収量調査(2004年).
品種	全重 (g/u)	精籾重(g/u)	藁重 (g/u)	籾藁比	総玄米重 (g/u)	倒伏	
コシヒカリ	1568	805 	763 	1.06 	665 	4	
IR Kesar	1791 	408 	1383 	0.29 	296 	0	
Sen Pidao	1836 	706 	1130 	0.62 	558 	0	
Rohat	1925 	911 	1014 	0.90 	654 	4	
Rumpe	1691 	699 	993 	0.70 	553 	0	

籾藁比については,最も高いのはコシヒカリの0.85に対して,最も低いのはIR Kesarの0.2であった.また,平米当たりの総玄米重について見ると,最も高いのはRumpeの570gであり,次にコシヒカリ,Rohat,Sen Pidaoの順で,それぞれ461g,444g,336gである.最も低いのはIR Kesarの196gであった.2004年における値については,第1-10表に示す.平米当たりの全重を見ると,最も高いRohatの1925gに対して,最も低いのはコシヒカリの1568gであった.平米当たりの精籾重についてみると,最も高いRohatの911gに対して,最も低いのはIR Kesarの408gであった.平米当たりの藁重をみると,最も高いIR Kesarの1383gに対して,最も低いのはコシヒカリの763gであった.籾藁比を見ると,最も高いコシヒカリの1.06に対して,最も低いのはIR kesarの0.29であった.また,平米当たりの総玄米重については,最も高いのはコシヒカリの665gであり,次にRohat,Sen Pidao,Rumpeの順でそれぞれ654g,558g,553gであった.最も低いのはIR Kesarの296gであった.倒伏程度については,コシヒカリ及びRohatとも倒伏程度の4を示した.それ以外の品種の倒伏程度は0であった.

第1-11表,第1-12表は2003年及び2004年における収量構成要素について示すものである.第1-11表により2003年における平米あたり個体数をみると,最も多いのはコシヒカリの50個体であり,次にSen Pidao,Rohat,IR Kesarはそれぞれ40個体,39個体,32個体であった.最も少ないのはRumpeの29個体であった(第1-11表).個体当たりの穂数について,最も多いのはRumpeの13本であり,他の品種は7本前後であった.平米当たりの穂数については,Rumpeは最も多く368本あり,次にSen Pidao,Rohat,コシヒカリはそれぞれ328本,320本,305本あった.最も少ないのはIR Kesarの227本であった.1穂当たり籾数については,最も多いのはIR Kesarの129粒であり,次にRumpe,Sen Pidao,Rohatはそれぞれ127粒,126粒,94粒であった.最も少ない粒数はコシヒカリの92粒であった.登熟歩合については,最も高いのはコシヒカリの84%であり,次にRohat,Rumpe,Sen Pidaoはそれぞれ72%,65%,47%であった.

最も低いのはIR Kesarの21%であった.また,収量については,平米当たりの最も高いのはRumpeの522gであり,次にRohat,コシヒカリ及びSen Pidaoはそれぞれ438g,375g及び347gであった.最も低いのはIR Kesarの98gであった.第1-12表により2004年における平米当たりの個体数についてみると,最も多いのはコシヒカリの65個体であり,次にRohat,Sen Pidao及びIR Kesarはそれぞれ61個体,53個体及び52個体であった.最も少ないのはRumpeの39個体であった.個体当たりの穂数をみると,コシヒカリの6本を除いて,カンボジア4品種は全部7本であった.平米当たりの穂数について,最も多いのはRohatの418本であり,次にSen Pidao,コシヒカリ及びIR Kesarはそれぞれ393本,375本及び345本であった.最も少ないのはRumpeの278本であった.1穂当たりの籾数については,最も多いのはRumpeの138粒であり,次にSen Pidao,IR Kesar及びRohatはそれぞれ130粒,125粒及び97粒であった.最も少ないのはコシヒカリの87粒であった.登熟歩合は全体的に低かったが,最も高いのはRumpeの66%であり,次にコシヒカリ,Rohat及びSen Pidaoはそれぞれ64%,63%及び54%であった.最も低いのはIR Kesarの31%であった.また,収量については,最も高いのはRohatの537gであり,次にSen Pidao,Rumpe及びコシヒカリはそれぞれ521g,474g及び444gであった.最も低いのはIR Kesarの191gであった. 第1-13表,1-14表は2003年及び2004年における食味値及び成分分析値を示すものである.2003年における食味値をみると,コシヒカリが最も高く74であり,次にSen Pidao,Rohat及びRumpeはそれぞれ71,70,及び68であった.最も低いのはIR Kesarの62であった.また,蛋白含量をみると,最も高いのはIR Kesarの9%であり,その他の品種は7%前後であった(第1-13表).一方,2004年における食味値については,全体的に2003年に比べると低く,最も高いのはコシヒカリの64であり,次にRumpe,Sen Pidao及びRohatはそれぞれ62,61及び59であった.最も低いのはIR Kesarの56であった.蛋白含量をみると,2003年より全体的に高かった.最も高いのはIR Kesarの
第1-13表 カンボジア4品種及びコシヒカリの食味値,
成分分析値(2003年).
品種	食味値	蛋白含量(%)	脂肪酸(KOHmg/100g)	
コシヒカリ 	74	6	17	
IR Kesar	62	9	15	
Sen Pidao	71	7	17	
Rohat 	71	7	15	
Rumpe 	68	8	17	
株式会社ケツト科学研究所のKett成分分析計AN-700を使用し,測定した.

第1-14表 カンボジア4品種及びコシヒカリの食味値,
成分分析値(2004年).
品種	食味値	蛋白含量(%)	脂肪酸(KOHmg/100g)	
コシヒカリ	64	8	17	
IR Kesar	56	10	18	
Sen Pidao	61	9	19	
Rohat	59	9	18	
Rumpe	62	9	18	
株式会社ケツト科学研究所のKett成分分析計AN-700を使用し,測定した.

10%であり,その他の品種は9%前後であった.

第4節 考察
4-1苗立ちについて
 2003年における全品種の苗立ち率が2004年の苗立ち率に比べ全体的に低いことは,2003年の播種直後約2週間続いた(第1-3図)低温の不良天候が種子の発芽に大きな影響を及ぼしたためと考えられる.コシヒカリの苗立ち率をみると,両年度の苗立ち率の変化は小さいことからコシヒカリは低温条件下でも安定な苗立ちが得られると言える.2003年の苗立ち率は低いであるが,2004年では苗立ち率が高いPhka Rumchang,NEANG MINH及びPhka Rumdoulは,低温条件下では直播栽培に不適切な品種であると推察する.また,新しい種子の使用区でのRohatの苗立ち率が61%に対して,古い種子の使用区での苗立ち率は7%の低い(第1-4表)ことから,直播栽培において,Rohat品種は新しい種子の使用が望ましいと考えられる.古い種子は種子の老化により出芽率を低下させる(内村ら2001).本実験でのRohatの苗立ち率は内村らの実験結果に一致した.

4-2稲の生育について
 第1-5図より最初の生育ステージでは,カンボジア品種はコシヒカリと同様の草高を示したが,生育ステージが進むにつれ,コシヒカリ並みの草高のある品種もあれば,コシヒカリよりも草高が高い品種もあった.草高の高い品種をみると,ほとんどの品種はカンボジアの在来品種が多い.生育速度の速い在来品種は水田の水深を決定できないカンボジアの稲の天水栽培に適応していることが分かる.つまり,カンボジアでの稲作地域はほとんど低地にあるため,稲作シーズンに雨が降ると水が一瞬溢れる.それに適応できる品種は一般的に草高が高い品種である.第1-6図,第1-7図よりコシヒカリよりもカンボジア品種の茎数及び葉数のほうが多いことが読み取れる.これらの形質によりカンボジア品種のほうがソースは大きく,高収量に繋がると考えられる.ただし,コシヒカリの有効茎数をみると,変化が小さいのに対して,カンボジア品種の生育の後半において数が極端な低下を示した.この結果から,カンボジア品種の栽培では,最高分げつ期の後に有効茎数を高めるために追肥が必要であると考えられる.第1-9図,第1-10図から,2003年よりも2004年における登熟期のコシヒカリの草高のほうが高く,100cmを上回った(第1-10図).これは2004年の高温の主な影響であり,倒伏を伴うと考えられる.コシヒカリの伸長は気温に影響されやすい傾向があるのに対して,カンボジア4品種の伸長は両年においても大きな変化を示さなかった.つまり,カンボジア4品種の伸長は気温から影響を受けにくいと考えられる.第1-17図,1-18図の結果からコシヒカリの穂長及び節稈長は2003年及び2004年の両年においても大きな変化が見られなかった.一方,カンボジア4品種の穂長及び節稈長は2004年のほうが若干短くなった.これは2003年の散播と2004年の条播と播種様式が異なるためではないかと考えられる.つまり,面積当たり一定の個体数でも稲体の配置によって植物の養分の吸収効率が異なると考えられる.また,IR Kesar及びRumpeの穂長及び節稈長は2003年より2004年のほうが短かったことについては,2003年よりも2004年の栽植密度のほうが高いことから,植物の養分吸収の競争があったと推察できる.

4-3 風乾重,収量及び収量構成要素について
 2003年の個体当たりの風乾重を見ると, SRAU SAR,Phka Rumchang及びPhka Rumdoulの個体当たりの風乾重は重かった(第1-7表).これは,これらの品種の苗立ち率が低かったためである(第1-2表).一定面積当たりの苗立ち密度の異なることで低い苗立ち蜜度のほうが個体当たりのバイオマスが大きくなることから,この3つの品種の個体当たりの風乾重は高くなったと考えられる.また,2004年における個体当たりの風乾重は2003年に比べ全体的に低いことは,2004年の苗立ち率が高く,これに伴う苗立ち密度が高いため,個体あたりの風乾重が小さくなったと推察した.2004年の全品種の平均収量は2003年に比べ高い傾向が見られた.これは2003年に比べ2004年における単位面積あたりの個体数が多く(第1-11表,第1-12表),これに伴って平米当たりの精籾重が大きくなったためである.また,籾藁比をみると,最も高いのはコシヒカリであり,次にRohat,Sen Pidao,Rumpe及びIR Kesar の順である(第1-9表,第1-10表).この順は登熟歩合の順にほぼ一致している(第1-11表,第1-12表).この登熟歩合に直接に影響を及ぼす要因は出穂期であった.出穂期の最も早いコシヒカリは登熟歩合が高く,最も出穂期の遅いIR Keasrは登熟歩合が低かった.ただし,2004年におけるコシヒカリ及びRohatの登熟歩合は2003年に比べ低かったことは倒伏の影響があったためと考えられる(第1-12表).また,IR Kesarは1穂当たりの籾数が高くても,収量は他の品種に比べ最も低い値を示したことは出穂期が遅い,登熟歩合が低かったのが原因である(第1-11図,第1-12表).

第2章  カンボジア品種とコシヒカリとの交雑
第1節  緒言
カンボジア水稲はインド型稲であり,一般的に食味が不良である.粘りが少なく,味が良くない品種が多い.高級米は粘りが多少あるが,反収が低いため米の価格が高い.本章ではカンボジア水稲品種の食味を高めるとともに直播適応性の高い品種育成を目的としてカンボジア品種とコシヒカリとの交雑を行った.2003年にカンボジア4品種を母親にして,コシヒカリを父親にして交雑をした.また,2003年に交配できなったその他の品種を2004年に明暗室で短日処理し,開花を促進させてコシヒカリとの交配を行った.

第2節  材料と方法
2-1 温湯処理
 実験を2003年,2004年に宇都宮大学農学部のビニルハウス内で行った.供試した品種はコシヒカリ,IR Kesar,Sen Pidao,Rohat及びRumpeの5品種であった.殺菌剤の200倍希釈したホーマイ溶液により一晩消毒を行い,恒温器で34℃下で一晩催芽をした種子を用いて,水田の土を充填した1/5000aワグナーポットに播種した.2003年度の実験においては,開花時期を調整するため,播種を3回行った.1回目を2003年5月3日に行い,2回目を同年の5月25日に行い,3回目を同年の6月25に行った.毎回,品種あたり5ポットを用意して,ポットあたり5粒を播種した.また,ポット当たりの化学肥料(10-18-16)を約1g施用した.播種した後,ポットをビニルハウス内に置き,植物を育てた. 2003年8月15日から9月3日まで交配を行った.

コシヒカリを父親として花粉を用いて,カンボジア4品種を母親とした.交配を朝の7時から9時に行った.カンボジア4品種を母親として,約半分くらいの長さの穂が出ている茎を選び,基部元を個体から切り取った.切り取った茎の止葉から3枚目の葉の節を残して,以下の節を葉ごと切り落とした.また,切り取った茎の蒸散を抑えるために,残り3枚の葉を長さ約半分切り取った.切り取った茎が萎れないように,水の入ったビンに差し置き,穂の上部及び下部の穎花を枝梗ごと切り落とすと同時に,既に開花した穎花を徹底的に切り落とした.その後,雄蘂の花粉を不活性させるために既に用意していた水温43℃のお湯の入ったポットに切った茎を7分間入れて,温湯処理を行った(Hasegawa et al. 1980).温湯処理の後,ポットから稲を取り出し,再びビンに入れておいた.取り出してから約2,3分静かに室内に置くと花の外穎が開くので,その外穎の開いた花を15個から20個残して,その以外の穎花を全部切り落とした.残した穎花が付いた茎を品種別にコシヒカリの穂と一緒に紙袋に入れた.また,温湯処理はカンボジア品種に効果があるかどかを確認するために,コシヒカリの穂と一緒に入れずに,別の紙袋に入れ,コントロールにした.その後,20分から30分ごとに紙袋を5から6回振り動かした.そうすることにより,コシヒカリの花粉をカンボジア品種の雌蘂の柱頭に散らせ,受粉させた.

2-2 短日処理
2003年に栽培しても開花しなかった他の品種を明暗室に入れ,2004年7月28日から短日処理による開花誘導を行った.短日処理は9時から17時までの明期8時間と17時から翌日の9時までの暗期16時間を自動タイマーで設定した.短日処理をかけて約1ヶ月半経つと出穂した.出穂の早い品種の順にコシヒカリとの交配を行った.

2-3 葯除去処理
2004年の交雑については,温湯処理以外に,外穎を切って葯除去処理方法も行った.交配実験を行う前に,予め解剖鋏,鋭い先端のあるピンセット,20×25cm紙袋及び洗濯鋏を用意した.除雄個体は,約半分出穂した茎を選び,止葉を含め,上位の葉を約半分切り落とした.茎は個体から切り取らなかった.上部及び下部の枝梗,既に開花した穎花を切り落とした.残した穎花数は15から20個程度とし,その穎花の外穎を約半分切り取り,穎花の中の6本の葯をピンセットの鋭い先端で完全に取り出し,葯を全部取り残したかをもう一度確認した.除雄が終わった茎を品種別にまとめ,その日に開花しそうなコシヒカリの穂と一緒に1つの紙袋に入れ,洗濯鋏で紙袋の下の入り口を縛った.その後, 20分から30分おきに紙袋を5回から6回振り動かし,受粉させた.紙袋をかぶせたまま2,3日経った後,紙袋を取り出し,日当たりの良いところに置き,十分に光合成させた.一週間後,胚乳の頭が出てくるかどうかを確認した.胚乳の頭が出てくれば,その穎花はちゃんと受精したということである.

2-4 世代促進
2003年の交配に,受精し,胚乳が良く発達した種子を収穫して,50℃恒温器で約7日休眠打破後,種子消毒して2003年11月下旬に水田土を充填した1/2000aワグナーポットに3粒ずつ播種した.植物を宇都宮大学の環境調節棟内の昼32℃/夜間27℃の自動温度調整室内で出穂初期まで育てた.その後,昼27℃/夜間22℃の室内に移した.2004年5月下旬各組み合わせのF1個体を収穫した.その後,各組み合わせのF2種子を休眠打破し,種子消毒の後,水田土を充填した1/2000aワグナーポットに播種した.各組み合わせ8ポットづつ,1ポットあたり10粒を播種した.各組み合わせの種子を80粒使用した.植物体を宇都宮大学峰キャンパス内のビニルハウスで育てた.2004年9月下旬に各組み合わせのF3種子を収穫した.

第3節 結果

温湯処理による交配でのコントロールはどの品種でも稔実種子を確認できなかった.つまり,カンボジア品種においても温湯処理による花粉の不活性ができることが分かった.
第2-1表

第2-2表 2004年における稔実した交雑粒数.
組み合わせ	稔実した交配粒数	
コシヒカリ♀/Santepheap 3♂	2	
Santepheap 3♀/コシヒカリ♂	4	
コシヒカリ♀/PHKA KHGNEI♂	7	
コシヒカリ♀/Phka Rumchang♂	12	
Phka Rumchang♀/コシヒカリ♂	7	
コシヒカリ♀/Sarika♂	2	
コシヒカリ♀/Phka Rumdoul♂	9	
コシヒカリ♀/PHKA MLIS♂	2	
PHKA MLIS♀/コシヒカリ♂	1	
コシヒカリ♀/Sen Pidao♂	9	
コシヒカリ♀/Rumpe♂	11	
Rumpe♀/コシヒカリ♂	42	
コシヒカリ♀/Rohat♂	21	

第4節 考察
 2003年度の交雑の結果では,品種間の得られた粒数の差が大きい.これはカンボジア品種とコシヒカリとの親和性や実験を行う日の天気によるものと考えられる.インド型であるカンボジア品種はコシヒカリとは異なる亜種であり,この交雑は日印交雑である.遠縁交雑では,受精しても胚が正常に育たない場合が多いといわれている(亀谷 2000).いくつかの組み合わせから正常でない胚がしばしば見られた.他の組み合わせよりSen Pidaol♀/コシヒカリ♂の粒数が多く得られたため,Sen Pidaolがコシヒカリとの親和性は高いと考えられる.また,実験を行う日の天気によるものについては,晴天であれば,咲く花の数が多く,花粉が多くなるため,受精確率が高くなったと考えられる.2004年度の交雑結果は全体的に2003年度の結果よりも粒数が少ないのは,2003年と開花期間が一緒にもかかわらず,交配組み合わせ数が多かったため,それぞれの組み合わせの交配回数が1回から2回で少なく,粒数が少なかったと考えられる.

第3章  異なる条件における苗立ち率
第1節  緒言
湛水条件では,播種後の種子は酸素不足の環境に置かれ,胚の活力に必要となる酸素の量は不十分である.また,播種後の土壌の地温も直接に種籾の発芽に影響を及ぼす(佐々木・山崎 1971).これらの要因に対する反応には品種間差が見られる.また,土壌の種類においても土壌の構造により種子を取り巻く環境が異なることによって苗立ちが左右される(萩原ら 1990).従って,これらの条件下の様々な環境に適応性を持っている品種が重要であると考えられる.本章は倒伏に強いとみられるカンボジア4品種及びコシヒカリを各条件下で苗立ちを調査し,品種間差をみた.

第2節  材料と方法
実験は2004年に宇都宮大学農学部の環境調節棟内で行われた.カンボジアのIR Kesar,Sen Pidao,Rohat,Rumpeの4品種及び対照としてコシヒカリを供試した.種子を9月3日に水温約23℃の水道水で浸種をし,9月6日に水田土を充填した34cm×54cm×20cmのプラスチックコンテナに播種した.プラスチックコンテナの土は作土約15cmの深さで充填し,窒素が4kg/10aになるように9.1gの化学肥料(8-8-8)を施用し,湛水した状態で移植鏝で代掻きを行った.1cm播種深度の作成には約5mm幅の木製板を,コンテナの土壌に押し込んで,深さ1cmの溝を作った.各コンテナを半分に分けて,半分を播種深度0cm(表面播種)とし,残り半分を播種深度1cmとした.播種様式は条播であり,条間を5cmにし,1列に1品種を50粒播種した.コンテナの半分には5品種を納めた.試験は3反復を設け,土壌は黒ボク土,沖積土の2処理及び昼32℃/夜27℃,昼27℃/夜22℃の2処理と播種深度0cm,1cmの2処理を合わせた8処理を設けた.ただし,昼27℃/夜22℃の条件下では黒ボク土の1種類のみであった.合計9個のコンテナを作成し,6個のコンテナを昼32℃/夜27℃区に,後3個のコンテナを昼27℃/夜22℃区に設置した.土壌については,黒ボク土は宇都宮大学農学部峰水田の土壌を使用し,沖積土は二ノ宮町の現地農家圃場から取り寄せた土壌を用いた.調査として苗立ち率調査を行った.

第3節 結果
第3-2表は昼32℃/夜27℃条件下で異なる処理における各品種の苗立ち率の比較を示す.第3-2表より黒ボク土の播種深度の0cm区をみると苗立ち率は64%から99%の範囲であった.Rohatの苗立ち率は高く99%であり,Sen Pidaoの64%と有意差があったが,他の品種と有意差を認めなかった.コシヒカリ及びRumpeの苗立ち率は高かったが,他の品種と有意差がなかった.また,昼32℃/夜27℃条件下で黒ボク土の播種深度の1cm区を見ると,昼32℃/夜27℃条件下で黒ボク土の播種深度の0cm区に比べ全体的に苗立ち率が低く10%から69%の範囲であった.コシヒカリ及びRohatの苗立ち率はそれぞれ69%と59%であり,他の品種に比べ苗立ち率が高く,有意差を認めた.昼32℃/夜27℃条件下で沖積土の播種深度の0cm区については,最も高いのはコシヒカリの85%であり,他の品種と有意差を認めた.また,昼32℃/夜27℃条件下で沖積土の播種深度の1cm区については,最も高いのはコシヒカリの85%であり,他の品種と有意差があった.次にRumpe,Rohat及びIR Kesarの苗立ち率はそれぞれ49%,24%及び22%であった.最も低いのはSen Pidaoの9%であった.第3-3表は昼27℃/夜22℃条件下で異なる播種深度におけるそれぞれの品種の苗立ち率について示す.第3-3表より播種深度0cm区においてコシヒカリ及びRohatの苗立ち率はそれぞれ95%と91%であり,IR Kesarの54%及びSen Pidaoの43%に比べ高く有意差があったが,Rumpeの75%とは有意差はなかった.また,播種深度1cm区においてコシヒカリ及びRohatの苗立ち率はそれぞれ86%及び75%であり,他の品種に比べ高く有意差があった.IR Kesar及びRumpeの苗立ち率はそれ
第3-1表 実験の処理区の構成.
播種深度	 	温度条件	 	土壌	
0cm		32℃/27℃		黒ボク土	
	×		×		
1cm	 	27℃/22℃	 	沖積土	

第3-2表 昼32℃/夜27℃条件下でそれぞれの播種深度及び
土壌おける各品種の苗立ち率(%).
 	黒ボク土	沖積土	
品種	播種深度	播種深度	
 	0cm	1cm	1cm/0cm	0cm	1cm	1cm/0cm	
コシヒカリ	92ab	69a	0.75 	85a	85a	1.00 	
IRkesar	66ab	20b	0.30 	24b	22bc	0.92 	
Sen Pidao	64b	10b	0.16 	28b	9b	0.32 	
Rohat	99a	59a	0.60 	49b	24c	0.49 	
Rumpe	88ab	25b	0.28 	58b	49d	0.84 	
各項目における同一アルファベット間にはダンカンの多重検定により
5%レベルの有意差がないことを示す.
※ここで1cm/0cmは1cm区の苗立ちを0cm区の苗立ちで割ったものである.

第3-3表 昼27℃/夜22℃条件下でそれぞれ
の播種深度における各品種の苗立ち率(%).
 	黒ボク土	
品種	播種深度	
 	0cm	1cm	
コシヒカリ	95a	86a	
IR Kesar	54b	37b	
Sen Pidao	43c	14c	
Rohat	91a	75a	
Rumpe	75ab	27bc	

各項目における同一アルファベット間にはダンカンの
多重検定により5%レベルの有意差がないことを示す.

ぞれ37%と27%であった.最も低いのはSen Pidaoの14%であった.第3-4表は播種深度0cmの黒ボク土における異なる温度条件がそれぞれの品種の苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.

第3-4表より,播種深度0cmの昼32℃/夜27℃及び昼27℃/夜22℃のそれぞれの温度条件の間では,それぞれの品種の苗立ち率は有意差がなかった.第3-5表は播種深度1cmの黒ボク土における異なる温度条件がそれぞれの品種の苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.第3-5表より播種深度1cmの昼32℃/夜27℃及び昼27℃/夜22℃のそれぞれの温度条件の間では,IR Kesarを除いて,有意差がなかった.第3-6表は昼32℃/夜27℃下で,播種深度の0cmにおいて異なる土壌がそれぞれの品種の苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.第3-6表より黒ボク土におけるそれぞれ品種の苗立ち率は沖積土に比べ高かったが,Rumpeを除いて,有意差がなかった.第3-7表は昼32℃/夜27℃下で播種深度の1cmにおいて異なる土壌がそれぞれの品種の苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.第3-7表より黒ボク土及び沖積土の間で,それぞれの品種の苗立ち率は有意差がなかった.第3-8表は各温度条件及びそれぞれの土壌における播種深度が苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.第3-8表より昼32℃/夜27℃及び黒ボク土下でRumpeでは播種深度0cmの苗立ち率は88%で播種深度1cmの25%と有意差があった.それ以外の品種においては播種深度による苗立ち率の有意差は見られなかった.昼32℃/夜27℃及び沖積土下では,いずれの品種においても異なる播種深度による苗立ち率の差が認められなかった.昼27℃/夜22℃及び黒ボク土下ではRohatにおいては播種深度0cmの苗立ち率は91%で播種深度1cmの75%と有意差があった.それ以外の品種においては苗立ちのばらつきが大きいため,播種深度による苗立ち率の有意差は見られなかった.
第3-4表 播種深度0cmの黒ボク土における異なる温度条件が
苗立ち率に及ぼす影響.
試験区 	コシヒカリ (%)	IR Kesar (%)	Sen Pidao (%)	Rohat (%)	Rumpe (%)	
32℃/27℃区	92	66	64	99	88	
27℃/22℃区 	95 ns	54 ns	43 ns	91 ns	75 ns	
	 t検定の結果,nsは有意差がないことを示す.

第3-5表 播種深度1cmの黒ボク土における異なる温度条件が
苗立ち率に及ぼす影響.
試験区 	コシヒカリ (%)	IR Kesar (%)	Sen Pidao (%)	Rohat (%)	Rumpe (%)	
32℃/27℃区	69	20	10	59	25	
27℃/22℃区 	86 ns	37 *	14 ns	75 ns	27 ns	
  t検定の結果,* は5%水準で有意,nsは有意差がないことを示す.

第3-6表 昼32℃/夜27℃下で,播種深度の0cmにおいて異なる
土壌が苗立ち率に及ぼす影響.
土壌 	コシヒカリ (%)	IR Kesar (%)	Sen Pidao (%)	Rohat (%)	Rumpe (%)	
黒ボク土	92	66	64	99	88	
沖積土 	85 ns	24 ns	28 ns	49 ns	58 *	
      t検定の結果,* は5%水準で有意,nsは有意差がないことを示す.

第3-7表 昼32℃/夜27℃下で,播種深度の1cmにおいて異なる
土壌が苗立ち率に及ぼす影響.
土壌 	コシヒカリ (%)	IR Kesar (%)	Sen Pidao (%)	Rohat (%)	Rumpe (%)	
黒ボク土	69	20	10	59	25	
沖積土 	85 ns	22 ns	9 ns	24 ns	49 ns	
       t検定の結果,nsは有意差がないことを示す.

 第3-8表 各温度条件及び土壌における播種深度が苗立ち率に及ぼす影響.
処理 	コシヒカリ (%)	IR Kesar (%)	Sen Pidao (%)	Rohat (%)	Rumpe (%)	
32℃/27℃,黒ボク土						
播種深度						
0cm	92	66	64	99	88	
1cm	69	20	10	59	25	
	ns	ns	ns	ns	*	
32℃/27℃,沖積土						
播種深度						
0cm	85	24	28	49	58	
1cm	85	22	9	24	49	
	ns	ns	ns	ns	ns	
27℃/22℃,黒ボク土						
播種深度						
0cm	95	54	43	91	75	
1cm 	86 ns	37 ns	14 ns	75 *	27 ns	
 t検定の結果,* は5%水準で有意,nsは有意差がないことを示す.

第4節 考察
 昼32℃/夜27℃条件下で,いずれの土壌及び播種深度においてもコシヒカリの苗立ち率は他の品種に比べ高い傾向があった.その次はRohat及びRumpeであった.また,いぞれの条件下においてもSen Pidaoは最も低い苗立ち率を示した(第3-2表).昼27℃/夜22℃条件下で,いぞれの播種深度においてもコシヒカリ及びRohatの苗立ち率は他の品種より高い傾向があった.Sen Pidaoはいずれの播種深度においても他の品種よりも低い苗立ち率を示した(第3-3表).第3-4表より播種深度0cm下では,いずれの品種でも昼32℃/夜27℃及び昼27℃/夜22℃の異なる温度条件での苗立ち率の有意差がなかった.播種深度1cmにおいては,IR Kesarを除いて,いずれの品種でも昼32℃/夜27℃及び昼27℃/夜22℃の異なる温度条件での苗立ち率の有意差がなかった(第3-5表).異なる土壌種類での苗立ち率については,播種深度0cmではRumpeを除いて,いずれの品種の苗立ち率においても有意差がなかった(第3-6表).また,播種深度1cm下での異なる土壌で,いずれの品種においても苗立ち率の有意差がなかったことから,黒ボク土と沖積土壌の異なる種類土壌が供試品種の苗立ち率に影響しないと考えられる.異なる播種深度における苗立ち率については,全体的に播種深度0cm下での苗立ち率は高い傾向があったが,反復内のばらつきが大きいため,有意差がなかった.

第4章  硬度の異なる土壌の表面播種におけるコシヒカリ及びRohatの苗立ち率
第1節  緒言
直播栽培の収量を安定化するために,出芽及び苗立ち率を高めることは重要であるとともに,倒伏に対する抵抗性のある栽培法及び品種も求められている.直播栽培の倒伏の改善には,耐倒伏性のある短稈,太い根や太い稈の形質を持っている品種の利用や水管理により土壌の物理性を変化させて植物と土壌との固着を高めることなどが考えられる.移植栽培では,中干しは植物体の根に酸素を送り込む効果と登熟期に倒伏を軽減する効果がある.直播栽培では,種子の播種後,落水処理をし,植物と土壌との固着力を高める方法がある.本章は種子の播種前の圃場を代掻きした後,落水をし,播種までの日数が異なる処理を行い,幼植物の苗立ち及び転び苗の割合について検討した.また,品種間差があるかとうかについても調査した.

第2節  材料と方法
 試験は宇都宮大学農学部峰水田で2004年に行った.供試品種としてコシヒカリ及びRohatの2品種を用いた.土壌は黒ボク土であった.試験を行う時期として,水稲の慣行栽培の播種時期での5月と同様の気温での9月下旬に行った.土壌条件として,代掻きして,落水4日間後播種区,落水3日間後播種区,落水1日間後播種区及び当日播種区の4処理を設けた.本田の土壌処理については,落水4日間後播種区では播種日の4日間前に予め土壌を湛水して,代掻きし,落水して土壌表面を固めた.落水3日間後播種区も落水4日間後播種区と同様にして,予め土壌を代掻きして, 3日間落水した.2日間落水区も同様にして行った.当日播種区の場合については,土壌を代掻きした後,落水せずに直ちに播種を行った.各処理においてそれぞれの品種を100粒播種した.供試品種の種子を水道水で2日間浸種し,催芽を行わずに10月1日に本田に播種した.種子の播種後の入水際に,種子が浮揚しないように,予め如雨露で水を上から丁寧にかけ,その後静かに入水した.水管理として,播種後水深約5cmから10cmの深さを維持した.調査項目として,播種日に表面土壌の硬度の測定を行い,播種の約1ヶ月後垂直方向に対して45°以上及び水面に浮いている個体をころび苗とし,苗立ち率調査を行った.表面土壌の硬度の測定については,各試験区にゴルフボールを1m上から10箇所落とし,貫入深を測定した(澤村ら 1986).

第3節 結果
 第4-1図は異なる落水期間における表面土壌の硬度の変化を示すものである.第4-1図より最も表面土壌の硬度の小さい当日区の貫入深は9.5cmであり,落水1日間後播種区及び落水3日間後播種区の貫入深はそれぞれ6.1cm及び1.2cmであった.最も浅いのは落水4日間後播種区の0.9cmであった.表面土壌の硬度は落水期間が長くなるに連れて,硬くなった(第4-1図).落水期間と表面土壌の硬度とは高い相関関係(r=0.96)にあった.第4-1表は異なる落水期間がそれぞれの品種の苗立ち率に及ぼす影響を示すものである.第4-1表よりコシヒカリにおいては,落水1日間後播種区は苗立ち率が83%で最も高く,他の処理区と有意差があった.落水4日間後播種区及び落水3日間後播種区はそれぞれ72%及び71%であった.最も低い苗立ち率を示す処理区は落水当日播種区の63%であった.落水4日間後播種区及び落水3日間後播種区のそれぞれのころび苗率はそれ以外の処理区より高い傾向が見られた(第4-1表).Rohatにおいて,最も高い苗立ち率を示すのは落水4日間後播種区の60%であり,落水3日間後播種区との有意差がなかったが,落水1日間後播種区及び落水当日播種区と有意差を認めた.最も低いのは落水当日播種区であった.第4-2表はそれぞれの落水期間における品種間の苗立ち
  第4-1図 異なる落水期間における表面土壌の硬度の変化.
※ここでいう貫入深はゴルフボールを落とし,地面から入り込んだボールの底までの深さである.
 はそれぞれの処理区における貫入深の誤差範囲である.

  第4-1表 異なる落水期間における各品種の苗立ち率(%).
処理区	コシヒカリ	Rohat	
当日	63b (26)	20a (31)	
1日後	83a (20)	46b (28)	
3日後	71bc (62)	49bc (49)	
4日後	72c (42)	60c (49)	
括弧内はころび苗率である.各項目における同一アルファベット間には
ダンカンの多重検定により5%レベルの有意差がないことを示す.

 第4-2表 それぞれの落水期間における品種間の苗立ち率(%).
品種	当日	1日後	3日後	4日後	
コシヒカリ	63a	83a	71a	72a	
Rohat 	20b **	46b *	49a ns	60a ns	
  t検定の結果, *,**はそれぞれ5%水準,1%水準で有意,nsは有意差がないことを示す.

率を比較するものである.第4-2表より落水当日播種区及び落水1日間後播種区のいずれの処理区においてもコシヒカリの苗立ち率の方は高く,有意差があった.落水3日間後播種区及び落水4日間後播種区において,コシヒカリの苗立ち率の方が高かったが,Rohatとの有意差を認めなかった.

第4節 考察
 表面土壌硬度について,当日播種区,落水1日間後播種区及び落水3日間後播種区の間の表面土壌硬度は顕著に見られたが,落水3日間後播種区の1.2cm及び落水4日間後播種区の0.9cmとの差は小さかった.このことから,慣行栽培の播種時期の5月においても,3日間以上7日間以内での表面土壌硬度の差は小さいと考えられる.異なる落水期間におけるそれぞれの品種の苗立ち率については,コシヒカリとRohatのいずれの品種においても,落水期間が長くなると苗立ち率が良くなったが,ころび苗率も高くなる傾向が見られた.表面土壌硬度が高くなると種子が土壌中に入り込まなく,発芽のための酸素量が十分供給されるが,発芽後の幼植物の主根や冠根が土壌中に入り込まないため幼植物が浮揚してしまうと考えられる.コシヒカリについては,落水1日間後播種区の苗立ち率が高く,ころび苗率が低いことから,落水1日間後播種は最も適切な落水処理であると考えられる.Rohatについては,落水1日間後播種区の苗立ち率は落水4日間後播種区に比べ有意で低かったが,落水4日間後播種区に比べ落水1日間後播種区のころび苗率は約半分で低かったことから,落水1日間後播種は最も適切な落水処理であると考えられる.第4-2表より当日播種区及び落水1日間後播種区のいずれの処理区においても,コシヒカリはRohatよりも苗立ち率が有意で高いことから,Rohatよりもコシヒカリの方は過酷環境条件下での適性が高いと考えられる.

第5章  SSRマーカーによるカンボジア品種の分類
第1節  緒言
カンボジア水稲品種は約2000品種存在している(Whitaker et al. 1973; E. Javier, IRRI, pers. Commun.).品種育成のために,各品種の近縁関係を知ることは重要であると考えられる.種内交雑では得られない新しい遺伝子型の作出や耐病性の品種育成プログラムにおいては,遠縁交雑による育種法は変異を拡大する目的に有効な方法であり,広い遺伝子源の利用が重要である.一方,種属間交雑である遠縁交雑では,種子不稔が多発生しやすい傾向にあり,子孫を得ることが困難である.本章は直播栽培適応性の向上及び良食味の品種育成の目的で,コシヒカリ及びカンボジア13品種間の近縁関係の検討を分子マーカーを利用して試みた.

第2節  材料と方法
2-1 試験場及び供試品種
 試験は宇都宮大学農学部のゲノムミック棟で2004年に行った.カンボジア13品種及びコシヒカリを供試した.合計14品種の種子を品種別に土を詰めた移植用苗箱一枚に播種し,植物体を宇都宮大学農学部環境調節棟の昼32℃/夜27℃の室で育てた.

2-2 材料の準備
 葉齢7のステージでサンプルとして幼植物の上位の葉をとった.葉の萎れを防ぐために葉を切り取った後直ちに小ビニール袋に入れ,氷の入った発泡スチロール箱に入れ,保存した.

2-3 DNAの抽出
 各品種のそれぞれのサンプルを蒸留水できれいに洗ってから新鮮重約0.1g取り,磁器の壷に入れ,液体窒素を壷の体積の約半分まで入れた後サンプルを素早く砕いた.砕く内にしばらく経つと液体窒素が完全に空中に飛び,残るのはサンプルだけであった.細かく砕いたサンプルに直ちにReagent1(AmershamのNucleon Phytopure)を600μl加え,品種名の書いてある容量1.5mlのマイクロテストチューブに回収し,さらにReagent2(AmershamのNucleon Phytopure)を200μl加えた.その後,マイクロテストチューブ内の液がよく混ざるように1分間手で良く振り,温度65℃のTAITEC社のDry Thermo Unit DTU-1Cに置き,1分間おきに手で一回振り,この動作を10回繰返した.その後,予め用意した氷の入った発泡スチロール箱の奥に入れ,20分間冷やした.その後,-20℃クロロホームを500μl入れ,さらにNucleon Resin(AmershamのNucleon Phytopure)試薬を100μl入れた.Nucleon Resin試薬は通常沈殿になりがちなので,利用する前に試薬ビンをよく振り混ぜた.マイクロテストチューブから液が漏れないよよにLaboratory Filmでマイクロチューブのふたの周辺に巻き付け,用意したスポンジの穴に入れ,そのスポンジごとをTAITEC社のWATER BATH SHAKER器で10分間振とうした.この10分間の間に品種名または番号の書いてある新しい1.5mlマイクロテストチューブを用意した.機械振りの速度を全開にし,10分間経った後,Laboratory Filmを取り外し,HITACHI社のhimac CT13R遠心分離機に20℃下の4000rpm回転で10分間かけた.遠心分離にかけるの際に,バランスを取るためにマイクロテストチューブの数を偶数にし,サンプルが奇数の場合,別の水の入ったマイクロテストチューブを一個加えた.遠心分離が終わった後,マイクロテストチューブ内の上澄みを全部取り,用意した新しいマイクロテストチューブに移した.上澄みを取る際に,マイクロピペットのメモリから取った量を確認した.上澄みの入ったマイクロテストチューブにイソプロパノールを上澄みと同量を入れ,手でよく振った.振るうちに白色糸状のDNAが見えてき,DNAの白色糸状をはっきり確認できるまで振りつづけた.その後,再度HITACHI社のhimac CT13R遠心分離機に20℃下の8000rpm回転で5分間かけた.遠心分離にかけた後,上澄みを取り除き,マイクロテストチューブに残ったものは白色塊のDNAであった.そのDNAを洗浄するために,70%エタノールを100μl入れ,指でマイクロテストチューブに当てて振動させた.さらに,再度HITACHI社のhimac CT13R遠心分離機に20℃下での8000rpmで5分間かけ,DNAを吸い込まないように上澄みを取り除いた.マイクロテストチューブ内の残留エタノールを飛ばし,乾燥するためにマイクロテストチューブのふたを開け,10分間静かに実験室内に置いた.10分間経った後,マイクロテストチューブにTEを100μl入れ,IWAKI社のTEST TUBE MIXERでDNAの塊が完全に溶けるまで振動させた.その後,DNAの入ったマイクロテストチューブを冷凍庫に保存した.

2-4 PCRにおけるDNA増幅  DNA抽出により得たマイクロチューブに入ったDNA溶液を1μl取り,2μlマイクロテストチューブに移し,それに1.23μg〜4.55μgのそれぞれのプライマー(RM101)を入れ,そして1UのQiagen PCR buffer,それぞれのdNTPを200μM,MgCl2,15μM及び2.5UのTaq DNA Polymerase(Core Kit-Qiagen)をそれぞれ入れた.その後,TaKaRa PCR Thermal Cycle MP(TaKaRa BIOMEDICALS)で,PCRにおけるDNA増幅を行った.PCRの条件として94℃の5分間でDNAを変性させ,次に94℃の1分間,55℃の1分間及び72℃の2分間を1サイクルとし,それを35サイクル繰り返し,そして最後に72℃の5分間余分に延長して,DNA増幅を行った.

2-5 電気泳動及びDNA断片のスキャン
 PCRにかけたマイクロテストチューブに6×Loading Dyeを4μl入れ,良く混ぜた.そこから9μlを取り,予め用意した8%のPolyacrylamideの固まった長さ10cmのゲルの溝に静かに入れた.最初の溝にはマーカーを入れ,その次には各サンプルをそれぞれの溝に丁寧に入れた.その後,20mAで約30分間電流を流した.電気泳動の後,ゲルを取り出し,ethidium bromide溶液で染色を行い,その後LAS-1000UV mini(Fuji Photo Film Co, LTD)で各サンプルのレーンを画像化にし,Image Reader Software Version 1.01(Fuji Photo Film Co, LTD)でその画像を読み取った.また,各のサンプルのレーンの断片の分子量をScience Lab.2001 Image Gauge Ver.4.0 Software(Fuji Photo Film Co, LTD)で算出した。

第3節 結果
 第5-1図は電気泳動による各レーンにそれぞれの品種が乗っているDNA断片の写真である.第5-1図のレーンに乗っている各DNA断片の分子量を算出し,読み取れた分子量を第5-1表に示した.第5-1表はRM101プライマーによる各品種のDNA断片の分子量を示すものである.第5-1表よりPhka Rumchangから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ224bp,206bp及び181bpであった.CAR 13から2つの断片を検出し,分子量はそれぞれ205bp及び169bpであった.TORNG LAHONGから4つの断片を検出し,分子量はそれぞれ376bp,254bp,229bp及び196bpであった.SRAU SARから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ224bp,206bp及び180bpであった.Phka Rumdoulから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ227bp,208bp,及び181bpであった.PHKA KHGNEIから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ227bp,211bp,及び185bpであった.CHHEAM AN’-TUNGから5つの断片を検出し,分子量はそれぞれ343bp,293bp,237bp,217bp及び186bpであった.RINXから4つの断片を検出し,分子量はそれぞれ321bp,234bp,217bp及び186bpであった.コシヒカリから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ251bp,231bp及び204bpであった.NEANG MINHから3つの断片を検出し,分子量はそれぞれ234bp,215bp,及び186bpであった.Chhma Prumから2つの断片を検出し,分
 第5-1図 電気泳動による各品種のレーンに乗っているDNA断片.

 第5-1表 RM101プライマーによる各品種のDNA断片の分子量.
 品種	断片の分子量MW(bp)	
Phka Rumchang	224	206	181			
CAR 13	205	169				
TORNG LAHONG	376	254	229	196		
SRAU SAR	224	206	180			
Phka Rumdoul	227	208	181			
PHKA KHGNEI	227	211	185			
CHHEAM AT'-TUNG	343	293	237	217	186	
RINX	321	234	217	186		
コシヒカリ	251	231	204			
NEANG MINH	234	215	186			
Chhma Prum	220	181	 	 	 	

子量はそれぞれ220bp及び181bpであった.

第4節 今後の課題
 それぞれの品種及び交配後代植物のDNA断片を明確に比較するために,プライマーの数をもっと増やすことが必要である.また,Science Lab.2001 Image Gauge Ver.4.0 software(Fuji Photo Film Co, LTD)で算出したそれぞれの品種のDNA断片分子量を用いて,Arlequin Ver. 2000(Schneider et al., 2000)プログラムで品種間の近縁関係図を作成することが必要である.

第6章 総合考察
 本研究は各カンボジア品種の直播栽培適用性を評価するために,異なる環境条件下で各品種の苗立ち率を検討し,それぞれの品種の収量や収量構成要素を調査した.また,直播栽培適用性の高い形質を持っているカンボジア品種とコシヒカリとの交雑を行い,直播栽培適用性があり,かつ良食味の品種改良を試みた.
 収量試験より,播種直後に天候不良の2003年度の苗立ち率において,コシヒカリは他のカンボジア品種より高い値を示したが,播種直後に高温の2004年度の苗立ち率においては,コシヒカリより高い苗立ち率を示すカンボジア品種いくつがあった.これらの品種はカンボジアのような熱帯地帯での直播栽培では苗立ち率が良くなると考えられる.しかし,これらの品種の草高はコシヒカリより高いため,倒伏に弱いのではないかと懸念している.そこで,コシヒカリと交雑して,草高の低い系統の選抜が倒伏の改善に繋がると考えられる.また,コシヒカリ並みの苗立ち率を示すRohat及びIR Kesar,Sen Pidao及びRumpeはコシヒカリより苗立ち率が低かったが,コシヒカリより草高が低いことから,これらの品種とコシヒカリとの組み合わせから倒伏に強い系統が出現することを期待している.収量については,コシヒカリよりも平米当たりの個体数が少ないにもかかわらず(第1-9表,第1-10表),カンボジア品種の平米当たりの精籾重はコシヒカリより多いことから,カンボジア品種の登熟歩合を改善すれば,収量を高めることができると考えられる.
 各条件下における苗立ち率調査より,いずれの条件下でもカンボジア4品種の中で苗立ち率が高い傾向を示す品種はRohatであり,それに対してSen Pidaoはいずれの条件下でも苗立ち率が低い傾向を示した(第3-2表,第3-3表).また,播種深度1cm下では異なる温度によるそれぞれの品種の苗立ち率への影響は小さかったが,播種深度0cm下では異なる温度による苗立ち率への影響は大きい傾向があった(第3-4表,第3-5表).また,播種深度1cm下では異なる土壌による各品種の苗立ち率への影響は小さかったが,播種深度0cm下では異なる土壌による苗立ち率への影響は大きい傾向があった(第3-6表,第3-7表).
 表面土壌の硬度における苗立ち率への影響の試験より,表面土壌の硬度は高くなるとともに苗立ち率も高くなったが,ころび苗率が高くなることから(第4-1表),苗立ち率は高く,ころび苗率が低い落水1日間後播種は最も適切な処理であると考えられる.
 カンボジア品種とコシヒカリとの交雑結果より,Sen Pidaoとコシヒカリとの親和性は高いと考えられ,この組み合わせから稔実性の高い系統が選抜できることを期待している.

概要
カンボジアでは国民の85%が農民であり,約90%の農家が貧しくて農業機械を買うお金がない.慣行稲作では手による移植を行っているため,生産に必要な労力が大きいことと規模を拡大することは難しい状況にある.稲を盛んに栽培するカンボジアでは,米生産を簡素化,省力化し,さらに環境に優しい農法に変えなければならない.そこで,水稲の直播栽培の確立が重要である.しかし,直播栽培には様々な問題がある.それはイネの低い苗立ち率,倒伏や鳥害などによる収量の低下である.その中で最も重要な課題はイネの苗立ち率を高めること及び倒伏の改善である.これらの点の改善には様々な方法があるが,最も重要性の高いことは適用性の高い品種育成であると考えられる.本研究は遺伝資源に着目し,イネの直播栽培適用性の高い品種作出を目的として各品種の直播栽培適用性を調べ,品種間の交雑を行い,直播栽培適用性の高い食味良品種の作出を試みた.2003年よりカンボジア水稲品種(インド型イネ)17品種及びコシヒカリ(日本型イネ)を用いて,直播栽培適用性について調べ,さらにカンボジア水稲品種とコシヒカリとの間の日印交雑も行った.

2003年の収量試験では,2004年の試験よりも苗立ち率が全体的に低かった.これは播種直後に低温の日が続いたことが原因であると考えられる.最も苗立ち率の高かったのはコシヒカリの41%であり,次はRohatの39%,最も苗立ちが低かったのはPhka Rumdoulの9%であった.収量では,Rumpeの537g/uが最も高く,次はコシヒカリの450 g/u,最も低かったのはIR Kesarで117 g/uであった.IR Kesarの低収量の原因は,出穂期が遅れて,夜温が低かったため,不稔が多発したためと考えられる.2003年での交雑では,IRkesar,Sen Pidaol,Rumpe及びRohatのそれぞれの品種とコシヒカリとの交雑を行い,世代促進をし,2004年の10月にそれぞれの組み合わせのF3種子を収穫した.それ以外のカンボジア品種は感光性の強い晩生または中生品種で出穂しなかったため,交雑できなかった.これらの品種を2004年に明暗室での短日処理によりコシヒカリとの交雑を行った.

2003年及び2004年のイネの生育調査によると,コシヒカリに比べIRkesar,Sen Pidaol,Rumpe及びRohatの草高が低く,これは,倒伏しにくい形質であり,系統選抜には有用な形質であると考えられる.2004年の収量試験の結果によると,苗立ち率は全体的に高くなった.これは播種直後に気温が高かったのが主な原因であると考えられる.最も苗立ち率が高いのはPhka Rumchangの61%,次いでPhka Rumdoulの59%,コシヒカシは7番目で45%であった.

 表面土壌の硬度における苗立ち率への影響の試験より,表面土壌の硬度は高くなるとともに苗立ち率も高くなったが,ころび苗率が高くなることから,苗立ち率は高く,ころび苗率が低い落水1日間後播種が最も適切な処理であると考えられる.

The Adaptability for Direct-seeding of Cambodian Rice Varieties
LY TONG
Abstract
Direct-seeding is important for Cambodian rice production. Because about 90% of Cambodian farmers are in poverty, and have no budget to buy farm machinery, most of the labors are by human and animals. In this rice-growing system, the farmers transplant by hand. So the cultivated area is limited. The purpose of this study is to estimate the Cambodian rice adaptability for direct-seeding, and improve the adaptability for direct-seeding and the eating quality of Cambodian rice by crossing some varieties with Japanese rice variety, Koshihikari.

Seventeen varieties of Cambodian rice were valuated the adaptability for direct-seeding, by examining the rate of establishment of seedling grown under different conditions. In the field experiment of flooded paddy field condition, results of 2003 showed that, the establishment rates of all varieties were low, and it was thought to be affected by the low temperature after seeding. Koshihikari showed the highest establishment of 41%, the second was Rohat of 39% and the worst was Phka Rumdoul of 9%. In the year 2004, the establishment rates of all the varieties were high, and it was thought to be affected by the high temperature after seeding, compare to year 2003. Phka Rumchang showed the highest establishment of 61%, the second was Phka Rumdoul of 59%, Koshihikari was the 7th of 45%. In the crossing of the year 2003, 4 crossing combinations were successful. By hastening generations, F3 seeds of each combination were obtained. In the 4 varieties, Sen Pidao seemed to have affinity to Koshihikari showing less sterility.

謝辞:
 本研究の遂行及び論文を作成するに当たり,生物生産科学科作物栽培学研究室の吉田智彦教授,前田忠信教授,和田義春助教授,三浦邦夫助教授には,ご多忙の中,懇切なご指導とご助言を賜り,末筆ながら心から御礼申し上げます.また,本研究を進めるにあたり,数々のご協力を下さった作物栽培学研究室,作物栽培技術学研究室及び土壌学研究室の皆さんに深く感謝いたします.
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社団法人 全国農業改良普及協会 2004.平成15年度農林水産省持続的農業技術協会効率化委託事業 カンボジア・ラオス
における持続的な農業技術を推進するための手引き.1−8.

滝田正・櫛渕欽也 1983.直播栽培適応型水稲品種育成における根の太さの選抜の意義と選抜法.農研センター研報1:1−8.

寺島一男・秋田重誠・酒井長雄 1992.直播水稲の耐倒伏性に関与する生理生態的形質.第1報 押し倒し抵抗測定による耐
ころび型倒伏性の品種間比較.日作紀 61:380−387.

寺島一男・谷口岳志・荻原均・梅本貴之 2003.水管理条件が湛水直播水稲の耐ころび型倒伏性と収量に及ぼす影響.日
作紀 72:275−281.

内村要介・佐藤大和・松江勇次2001.酸素発生剤を用いない湛水土壌表面直播栽培の出芽苗立ち評価.日作紀70:393−399.

Whitaker, D. P., J.M. Heimann, J.E. MacDonald, K.W. Martindale, R.S. Shinn, and C. Townsend 1973. Area 
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財団法人 日本土壌協会1999.Soil Taxonomyによる土壌分類の手引き.1−64.

第2-1表 2003年における稔実した交雑粒数.
組み合わせ	稔実した交配粒数	F1個体数	F1個体より得たF2の粒数	コントロール粒数	稔実粒数	
IR Kesar♀/コシヒカリ♂	90	6	172	45	0	
Sen Pidaol♀/コシヒカリ♂	132	6	221	26	0	
Rohat♀/コシヒカリ♂	14	6	14	69	0	
Rumpe♀/コシヒカリ♂	28	6	82	33	0	
※ここでいうコントロールとは温湯処理を受けた個体に袋をかけ,正常な花粉との受精ができない粒数である.

    第1-11表 カンボジア4品種及びコシヒカリの収量構成要素(2003年).

品種	個体数	穂数	穂数	1穂籾数	登熟歩合	玄米千粒重	収量	
 	(個体/m2)	(本/個体)	(本/m2)	(粒/本)	(%)	(g)	(g/u)	
コシヒカリ	50	6	305	92	84	19	454	
IR Kesar	32	7	227	129	21	16	98 	
Sen Pidao	40	8	328	126	47	18 	347 	
Rohat	39	8	320	94	72	20 	438 	
Rumpe	29	13	368	127	65	17 	522 	

   第1-12表 カンボジア4品種及びコシヒカリの収量構成要素(2004年).
品種	個体数	穂数	穂数	1穂籾数	登熟歩合	玄米千粒重	収量	
 	(個体/m2)	(本/個体)	(本/u)	(粒/本)	(%)	(g)	(g/m2)	
コシヒカリ	65	6	375	87	64	21 	444 	
IR Kesar	52	7	345	125	31	14 	191 	
Sen Pidao	53	7	393	130	54	19 	521 	
Rohat	61	7	418	97	63	21 	537 	
Rumpe	39	7	287	138	66	18 	474 	

図は省略



写真 交配




ゴルフボールによる硬度調査


以上

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