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2004年度卒業論文
水稲無農薬栽培における米ぬか,フスマ施用除草と
有機質肥料施用の効果







       宇都宮大学農学部生物生産科学科 
           植物生産学コース 作物生産技術学研究室
                   井上雅洋





目次


T.緒言                           1

U.材料と方法
1.	栽培方法                       3
2.	試験圃場および試験区                 4
3.	調査項目および調査方法                7                               

V.結果と考察
1.	生育概要                       12
2.	生育の経過                      16
3.	雑草調査                       23
4.	収穫期の乾物重および窒素含有量            26
5.	収量および収量構成要素                29              

W.摘要                           35

X.謝辞                           38

Y.引用文献                         39
Z.付表および写真                        42


T.緒言
日本の水稲の単収は,農薬や化学肥料等の生産技術の進歩により,戦前の約350kg/10aから約500kg/10aに増加した.また,農薬や化学肥料の使用は労働時間を大幅に短縮した.しかし,多量の農薬の使用は,薬剤抵抗性病害虫を生み出し,圃場の生物層の貧困化を招いた.

 そして,化学肥料は,材料としてや生産の過程で鉱物資源や多量のエネルギーを投入しているため,化学肥料の過剰な使用は資源枯渇問題の一因となり得る.また,圃場外に流出した農薬や化学肥料により周辺環境の汚染や人体への健康被害が引き起こされた.

 このような環境問題や食の安全性に対する消費者の関心は近年向上していて,有機農産物を求める声は高まっている.こうした声に応えるため,また,持続的な生産を続けていくために,有機栽培を行う生産者も増えてきている.しかし,有機栽培の技術はまだ,十分に確立されていない. 水稲の有機栽培における研究は数多く報告されており、前田(2001)や斎藤ら(2001)は有機栽培は慣行栽培に収量が劣ると報告しており,前田(2001)は,堆肥連用・化肥無施肥区の減収の要因は,堆肥を2t/10aのみでは堆肥の累積効果が穂数に現れず,穂数が不足するためと報告している.また,有機栽培では雑草防除が問題である.雑草防除方法として,機械除草,カブトエビ除草,コイ除草,アイガモ除草有機物マルチ,再生紙マルチなどいろいろ研究されている(米倉1979,鈴木ら1994,高橋ら1995,大場ら1998,宇根1998)が,現在の技術では,効果が不安定であったり,労力やコストが掛かり過ぎるため,部分的普及に留まっている.

 本研究は,黒ぼく土水田における有機栽培技術の確立を目的とし,有機栽培への転換開始初年度の圃場において,堆肥2t/10aに加えて,発酵鶏糞と米ぬかボカシを基肥として施用し収量の向上を図った.発酵鶏糞は即効性の窒素を多く含んでおり(橘田ら2002),大山ら(1998)はボカシ肥は即効性と緩効性に優れると報告している.また,除草については米ぬかと,フスマの表面散布を用いた.米ぬか,フスマの表面散布は中村の卒業論文(2003)で100kg/10aの表面散布で除草効果のあったと報告されている.これらを組み合わせた4通りの栽培方法と,堆肥のみで1991年から有機栽培を行ってきた堆肥連用・無化肥区を比較し,生育,収量,除草効果を検討した.

U.材料と方法
1. 栽培方法
 試験は真岡市下篭谷地区にある宇都宮大学附属農場内水田(黒ぼく土)において行った.品種は水稲品種コシヒカリを供試した.種子は4月18日に比重1.13で塩水選を行い,風乾後,温湯消毒機「湯芽工房」を用いて60℃で10分間温湯消毒し、5日間浸種した後、温湯消毒機「湯芽工房」中で30℃で10時間催芽処理を行った.催芽種子は,5月7日に60cm×30cm×3cmの田植機移植用育苗箱に乾籾換算で80g/箱を播種した.育苗用の床土は,山土3リットルと発酵鶏糞200gを混合したものを使用した.播種の際,種子消毒・土壌消毒の殺菌剤は使用しなかった.育苗箱は,ハウス内で保温シートをかけて4日間育苗し,その後保温シートをはずし,農場の慣行法で育苗した.5月25日に6条乗用側条施肥田植機で4.2葉程度の中苗を1株あたり約3本として,裁植密度はuあたり20.8株(30cm×16cm)に設定して移植した.

2. 試験圃場および試験区
 試験圃場は,昨年直播栽培を行った圃場を使用した.この圃場には堆肥を2年に1回2t/10a施用している.対照区として堆肥を1991年から1994年までは各年5t,1995年から2002年までは各年2t堆肥を連年施用した圃場を使用した.いずれの圃場にも本年2月26日に完熟堆肥を10aあたり2t,マニアスプレッターで全面散布した.

試験区の位置と面積を第1図に,試験区の施肥設計を第1表に示した.試験区には,基肥として発酵鶏糞と米ぬかボカシを施用した.除草には米ぬかとフスマを表面散布した.基肥と除草の組み合わせで,鶏糞・米ぬか区,ボカシ・米ぬか区,鶏糞・フスマ区,ボカシ・フスマ区の4区を設定した.また,基肥は堆肥のみで,除草は箒除草,機械除草,手取除草で行った試験区を対照区とした.

いずれの区も農薬,化学肥料は使用していない.基肥は5月11日に散布し,その後鋤き込んだ.基肥の施用量は,窒素量が10aあたり4kgになるように設定した.各鶏糞区は,発酵鶏糞を10aあたり220kgマニュアスプレッターで散布し,各ボカシ区は,10aあたり400kg手で散布した.米ぬかボカシは米ぬか220kgと籾殻75kgに水200kgと発酵材として農場内の林内の表面腐葉土を15kgを加えて混合し1ヶ月発酵させたもの用いた.米ぬかとフスマは移植直後に10aあたり100kg表面散布した.米ぬか,フスマを表面散布した区は箒除草,機械除草は行っていないが,代掻きを例年2回行っていたが1回しか行えず,イボクサが移植直後から繁茂してしまったため,6月1日,6月8日と計2回,特に生長していたイボクサだけ手取した.対照区は6月1日,6月8日,6月15日と計3回の箒除草,6月22日,7月13日と計2回の除草機による機械除草を行った.7月13日の機械除草の際に株間の雑草は手取した.箒除草は,竹箒で条間を掃いて土壌表層を攪拌し,雑草の光合成を泥水で阻害して生育を抑えることや雑草の定着させないためにする方法である.機械除草は,雑草を土壌に埋め込む方法である.ただし,対照区の雑草調査地点は,無農薬かつ無除草での雑草発生を調べるため箒除草,手取り除草や機械除草は行っていない.しかし,箒除草の際に周囲から泥水の浸入があり,雑草の発生は抑制された.

以上の5区で試験を行ったが,参考データとして,肥料は化学肥料のみを施用し、除草剤,殺虫剤を使用した試験区を慣行区として,生育,収量のデータを掲載した.化学肥料は,基肥は「086化成」を5月11日に40kg/10a施用し,移植時に「5‐20‐20化成」を40kg/10a施用した.追肥は7月13日と7月20日に「NK化成」を8.3kg/10a追肥した.除草は,除草剤「きりふだくん」を1kg/10a使用した.また.殺虫剤「シクロパック」を使用した.

3.調査項目および調査方法
(1)生育調査
生育調査は,各試験区ごとに周囲を含めて欠株のない10株(5株2畦)を1つの調査地点として,1試験区あたり3反復行い,草丈,茎数,葉数,葉色の4項目について調査した.草丈,茎数,葉数は,6月10日から8月19日まで2週間ごとに,葉色は6月24日から9月6日まで2週間ごとに測定した.葉色の測定には,ミノルタ社製自動葉緑素計(SPAD502)を用いて最上位展開葉の前葉の中央部分を測定した.また,8月24日と9月6日(登熟期)には止葉の葉色値も測定した.

(2)いもち病・紋枯れ病調査
いもち病・紋枯れ病調査は,1試験区あたり40株,3反復行った.9月6日に発生している葉いもちと穂いもち,紋枯れ病について調査した.葉いもちは,最上位展開葉から3葉目まで5o以上の病班のある茎を数え,穂いもちは,穂首以上に明らかな病斑があり,穂が50%以上不稔になっている穂の数を数えた.紋枯れ病は被害程度を0から4の5段階で示した.

(4)雑草調査
雑草調査は,60cm×50cmの0.3uを1つの調査区として,1試験区あたり3反復行った.8月3日に調査地点内のすべての雑草を抜き取り,種類ごとに分けて本数を数えた.根に付着した泥やごみを洗い落とし,80℃で乾燥させて重量を測定した.本数と乾物重は1uあたりに換算した.

(5)株の掘り取り調査
掘り取り調査は,収穫期の9月26日に掘り取り,調査した.調査は,生育調査地点の平均茎数を調べ,平均茎数を持つ株を各調査地点の周辺から2株掘り取って行った.掘り取った株の根に付着した泥やごみを洗い落とし,葉面積を測定した後,穂,葉身,葉鞘に分けて,80℃で乾燥させて重量を測定した.

(6)収量および収量構成要素
9月26日の収穫時に収量調査および収量構成要素調査を3反復ずつ行った.収量調査は1反復あたり10株×4列計40株を地際から刈り取り,穂数を数えて,風乾して全重,精籾重,総玄米重,精玄米重,水分含量を測定した.精玄米重は,水分15%に換算した. 収量構成要素は,収量調査から得た穂数のデータをもとに収量調査地点の周辺から各地点の平均的な穂数を持つ株を1反復あたり5株掘り取った.各株の平均的な穂4本を取り出し,1反復あたり20穂の籾数を数え,比重1.06の塩水選を行い,登熟籾数から1穂籾数と登熟歩合を算出した.千粒重は収量調査に用いた玄米から特に充実の悪い粒を除外して正確に20g秤量してその粒数を数え,その値から逆算した.さらに,各株から全長の長い順に3茎抜き出し,1反復あたり15本の穂長と節間長を測定した.

V.結果および考察
1. 生育概要
(1) 生育状況
生育状況を第2表に示した.2004年は生育全期に渡り天候が良く,平均気温は田植え後から収穫期まで20℃を上回った.最大草丈はボカシ・フスマ区,ボカシ・米ぬか区,対照区が高かった.最大茎数はボカシ・フスマ区が最も多かった.他の区は対照区よりも茎数が少なかった.穂数は対照区,ボカシ・フスマ区が多く,ボカシ・米ぬか区が一番少なかった.有効茎歩合は,対照区が85%と高く,他の区は79%台でほぼ同じだった.いずれの区も最大草丈,最高茎数,穂数で慣行区を上回らなかった.出穂日は,鶏糞・フスマ区が最も早く対照区が一番遅かった.米ぬか区とフスマ区で比較するとフスマ区の方が早く,鶏糞区とボカシ区では鶏糞区の方が早い傾向だった.本年は,冷夏だった昨年と異なり,水稲の生育には好ましい天候だった.最も出穂の早い鶏糞・米ぬか区でも慣行区より5日遅かった.出穂日に差が出たのは,ボカシよりも鶏糞の方が即効性に優れ,米ぬかよりもフスマの方が肥料効果が現れるのが早いためと考えられる.

(2) いもち病・紋枯れ病調査
いもち病・紋枯れ病調査の結果を第3表に示した.葉いもち,穂いもちともに全ての試験区において殆ど発病しなかった.紋枯れ病は,やや米ぬか区での発病程度が大きかったが,いずれの区でも止葉下第4葉以下に病班がある程度だった.いもち病は,夏の日照不足,低温,多雨の時に発病が多い(久保1991).しかし本年は,この様な天候になることが無かったため,いもち病が少なかったと考えられる.紋枯れ病は気温30℃から32℃で多湿時に発生しやすい.全ての試験区で病班が見られたが,止葉下第4葉以下での発病は収量に影響しない(岩野2001)ため,いずれの区も問題になる発病程度では無かった.

2.生育経過
(1) 草丈,茎数,葉数の推移
草丈の推移を第2図に示した.草丈は,生育初期は鶏糞・米ぬか区とボカシ・米ぬか区は高く対照区が最も低かった.登熟期には,ボカシ区は対照区を上回ったが,鶏糞区は対照区より低くなった.フスマ区では最高分げつ期までは鶏糞区の方が高く推移していたが,7月22日からボカシ区の方が高く推移した.米ぬか区は鶏糞区とボカシ区でほぼ同じ草丈で推移したが,最終的にはボカシ区が上回った.対照区は後半の生育が良く,最終的にはわずかにボカシ区を下回る程度まで生育した.

茎数の推移を第3図に示した.茎数は,生育初期はフスマ区が米ぬか区を上回り,鶏糞区がボカシ区を上回った.対照区は最も茎数が少なかった.最高分げつ期には,ボカシ・フスマ区が鶏糞・フスマ区を上回り,最終的に茎数が多くなった.ボカシ・米ぬか区が鶏糞・米ぬか区を上回る事は無かったが,ボカシ・米ぬか区は,鶏糞・米ぬか区より2週間後まで茎数が増え続けて米ぬか・鶏糞区との茎数の差はほとんど無くなった.対照区は最高分げつ期まで一番茎数が少なかったが,最終的にはボカシ・フスマ区とほぼ同じ茎数を確保した.

葉数の推移を第4図に示した.葉数はどの区もほぼ同じ様に推移したが,後半の上位葉の展開はフスマ区より米ぬか区の方がわずかに良く,ボカシ区より鶏糞区の方が良かった.

化成肥料を使用していない,いずれの区も草丈,茎数,葉数で慣行区に及ばなかった.特に初期成育の差が大きく,茎数では,生育初期の6月24日に慣行区が,化肥を使用していない区の中で最も茎数が多かった鶏糞・米ぬか区よりもuあたり120本多かった.

草丈,茎数,葉数ともに有機物基肥を施用する事で,初期成育が促進された.しかし後半の生育は対照区が最も良く,穂数はボカシ・フスマ区と同じ位になり,草丈もボカシ区と鶏糞区の中間の高さになった.堆肥連用の累積効果が生育後半に現れたと考えられる.鶏糞区とボカシ区を比較すると,草丈,茎数で,鶏糞区の方が初期成育が良く,ボカシ区の方が後半の生育が良かった.その傾向は特に茎数に表れている.即効性は鶏糞の方が優れるが,肥効の持続性はボカシの方がが良いと考えられる. 生育初期の茎数が米ぬか区よりもフスマ区の方が多かったのは,フスマは米ぬかよりも粒子が細かいため,フスマが米ぬかよりも早く分解されて肥効が現れたからだと考えられる.フスマによって初期成育が促進されて生育後半になってボカシの肥効が現れて,鶏糞区よりも長い期間茎数が増え続けたため,最終的にフスマ・ボカシ区の茎数が多くなったと考えられる.

(2) 葉色値の推移
葉色の推移を第5図,登熟期の止め葉の推移を第6図に示した.有機物基肥を施用した4区を比較すると8月5日以降ボカシを施用した区の方が,鶏糞を施用した区よりも高く推移している.止葉の葉色値も同じ傾向を示した.対照区は他の区が減少した,7月22日まで増加した.葉色値は,葉身の窒素含有率と強い正の相関がある(1980 松島).対照区が他の区より遅くまで葉色値が高かったのは,堆肥を連用して蓄積した窒素分が生育後半になって植物が利用できる形になったからだと考えられる.米ぬかボカシの方が発酵鶏糞よりも後まで肥効が続くため,出穂期から登熟期までの葉色値が高かったと考えられる.

3.雑草調査
雑草発生本数を第7図に,雑草乾物重を第8図に示した.雑草発生本数で見ると対照区が1016本/uであるのに対し,米ぬか区で47本/u,フスマ区で97本/uであった.乾物重で見ると対照区が56.1g/u,米ぬか区が6.9g/u,フスマ区が32.8/uであった.個体数に比べて乾物重の試験区間での差が小さいのは,対照区で個体数の多かったキカシグサの乾物重が小さかったためである.米ぬか区,フスマ区の個体数,乾物重ともに問題になる雑草量では無かった.

草種別にみると対照区では個体数乾物重共に多かったのはコナギであったのに対して,フスマ区では,ホタルイが多く米ぬか区はイボクサとホタルイが多かった.今回米ぬか区とフスマ区を設定した圃場は昨年まで直播栽培を行っていた圃場であり,イボクサ,ホタルイは直播栽培で問題となる雑草である.ホタルイ,イボクサの種が多く埋土していたため,米ぬか区,フスマ区では上記の2種が多かったと考えられる.

今回の試験では,中村の試験(2003)よりも除草効果があった.数年間の除草剤の使用や耕起によって雑草の埋土種子が70%以上減少する例が多く報告されている(佐合1995).昨年まで除草剤を使用していたため,雑草の種子が少なかった事が要因と考えられる.

4.収穫期の乾物重
収穫期の乾物重を第9図に示した.乾物重はボカシ・フスマ区と対照区が他の区より大きかった.  収穫期の窒素含有率および窒素含有量を第7表に示した.葉身の窒素含有率は,ボカシ・米ぬか区とボカシ・フスマ区が高く,鶏糞・フスマ区が最も低かったが,有意な差は無かった.葉鞘+茎では,ボカシ・米ぬか区,鶏糞・フスマ区の窒素含有率が低く,ボカシ・フスマ区,対照区を有意に下回った.穂の窒素含有率はボカシ・フスマ区と対照区が高かったが,有意な差は無かった.窒素含有量はボカシ・フスマ区と対照区が多かった.特に,穂の窒素含有量は他の区を有意に上回った.  ボカシ・フスマ区と対照区は乾物重が大きく,窒素含有率も高かった.ボカシ・フスマ区と対照区の乾物重が大きかったのは,他の区に比べて茎数が多かったためと考えられる.鶏糞を施用した区に比べ,ボカシを施用した区の方が窒素含有率が高かった.草丈,茎数,葉色値の推移から米ぬかボカシが発酵鶏糞に比べて後から肥効が現れると推察されたが,同じ事が窒素含有率および窒素含有量からも言えると考えられる.

5.収量および収量構成要素調査
収量調査を第5表に示した.精玄米重は,試験区間に有意な差が見られなかったが,ボカシ・フスマ区が最も大きかった.ボカシ・フスマ区は全重,藁重,精籾重層玄米重も最も大きかった.対照区は全重は最も小さかったが,籾/藁比が高く,精籾重,総玄米重はボカシ・フスマ区に次いで大きくなった.しかし,屑米重が他の区よりも有意に大きくなったため,精玄米重は小さくなった.米ぬか区,フスマ区のどちらの区もボカシ区の方が鶏糞区よりも屑米重が大きくなった.

収量構成要素調査を第6表に示した.穂数はフスマ・ボカシ区が最も多くなった. 1穂籾数はフスマ・ボカシ区と対照区が多かった.登熟歩合は対照区が最も小さく,ボカシを施用した区が鶏糞を施用した区よりもわずかに小さかった.千粒重は,鶏糞を施用した区がボカシを施用した区よりも大きかった.玄米中の蛋白含量は対照区とボカシを施用した区がやや鶏糞を施用した区よりも高かった.慣行区は,化肥を使用していない区に比べ登熟歩合は低いが,穂数と千粒重が大きかった.1穂籾数はボカシ・フスマ区,対照区とほぼ同じだった.

節間長を第10図に示した.稈長は米ぬか区よりもフスマ区の方が長く鶏糞区よりもボカシ区の方が長かった.対照区は最も短かった.第W節間より下位の節は,米ぬか区の方がフスマ区よりも長かったが,第V節間より上位の節はフスマ区の方が長かった.

ボカシ・フスマ区の収量,即ち精玄米重が最も大きくなった主な要因は,穂数,1穂籾数が多かった事だと考えられる.ボカシ・フスマ区が最も穂数が多かったのは,フスマが初期の茎数増加を促進し,ボカシが後半の茎数を維持したためと考えられる.1穂籾数は分化数を多くし,頴花退化をできるだけ少なくすることにより増加する.頴花退化は減数分裂期の栄養不良,特に窒素欠乏によるものであり,幼穂分化期ころと減数分裂期直前ころの2回の追肥で回避できる(星川1975).対照区とボカシ・フスマ区は生育後半の葉色値が高く,生育が良かった事から,この時期に他の区よりも窒素が多く供給され,頴花退化が少なく1穂籾数が多くなったと考えられる.

ボカシ区,対照区の登熟歩合が鶏糞区に比べて低く,屑米重が多いのは,ボカシ区,対照区が,鶏糞区よりも出穂が遅れ,登熟期間が短かったためと考えられる.特に対照区は出穂が遅かったため最も登熟歩合が低くなり,屑米重が優位に大きくなったために,総籾数がフスマ・ボカシ区に次いで多いにも関わらず,収量が低かったと考えられる.ボカシ区が鶏糞区に比べ出穂が遅く,登熟期間が短いため,千粒重も小さくなったと考えられるが,最も出穂期が遅い対照区の千粒重は3番目に大きかった.しかし,これは,千粒重を測定する時に充実の悪い粒を強く除外し過ぎたため,標準よりも充実した粒が多くなってしまったと思われる.

登熟期の多窒素は玄米中の蛋白含量を増加させる.対照区,ボカシ区が,鶏糞区より蛋白含量が高いのは,鶏糞区よりも長く窒素を供給したためと思われる. 下位節間,つまり第W〜Z節間および稈長が長いと,倒伏が起こりやすくなる(松島1980).本試験でも特に稈長の長い慣行区は倒伏した.

 有機転換初年度の圃場で,発酵鶏糞や米ぬかボカシを基肥として施用する事で,堆肥を連用している対照区以上の収量を得られたが,主な要因は有機物基肥施用と,表面散布した米ぬかとフスマの肥料効果によって初期成育が促進されたためと考えられる.後半の生育は対照区の方が良く総籾数も2番目に多かったが,基肥を施用した4区の方が初期成育が良い分出穂日が早くなり,登熟期間が長くなったため,登熟歩合が高くなり,屑米が少なかったため対照区以上の収量が得られたと考えられる.しかし,最も収量の高かったボカシ・フスマ区でも慣行区の75%程度の収量であったが,主に穂数の差が収量の差に影響したと考えられる.ボカシ・フスマ区の穂数は慣行区の74%であり,ほぼ収量の差と一致する.前田(2001)は堆肥連用・化肥無施肥田での減収の要因は穂数不足であると報告している.本試験では,基肥の施用により初期の茎数を増加させたが,慣行区のレベルには至らなかった.また,有効茎歩合が対照区に比べ低く,増加させた茎数を穂数に結び付けられなかった.基肥の種類や施用量,施用時期を再検討し,より多くの初期の茎数を確保する事と,基肥に加えて有機物を追肥するなどして有効茎歩合を高めて,確保した茎数を効率良く穂数に結び付けることが,今後の課題である.

W.摘要
水稲有機栽培の収量向上を目指し,発酵鶏糞と米ぬかボカシの基肥としての施肥効果と米ぬか,フスマの表面散布の除草効果を比較検討した.本実験では有機栽培転換初年度の圃場と対照区として,堆肥による有機栽培14年目の圃場を使用した.

 基肥の施用によって初期成育の向上には一定の効果があったが,後半の生育は堆肥連用圃場の方が良かった.また発酵鶏糞は米ぬかボカシより初期の生育を促進させたが,肥料効果はボカシの方が持続した.初期成育が向上した要因として,基肥の効果だけでは無く,米ぬかやフスマの肥料効果もあったと考えられる.

 雑草は米ぬか,フスマを表面散布した区は,生育を阻害するほど発生しなかった.この圃場は昨年は直播栽培を行っていため,直播栽培で問題になるホタルイ,イボクサが優先した.昨年まで除草剤を使用していたためコナギは少なかった.

いもち病はほとんど発生せず,紋枯れ病も減収につながる程発生しなかった.

ボカシ・フスマ区と対照区は収穫期の乾物重が大きく,窒素含有率も高かった.

収量は,ボカシ・フスマ区が最も良かったが,慣行栽培の75%程度の収量だった.

各試験区間および慣行栽培との収量の差は,主に穂数の差によるものだった.いずれの区も,対照区に比べ有効茎歩合が低かった.

基肥の施用および米ぬか,ふすまの表面散布によって有機栽培転換初年度の圃場でも堆肥連用圃場以上の収量を得たが,主に初期成育の促進がその要因だと考えられる.後半の生育は対照区の方が良かったが,今後有機栽培の年次が進むに連れて後半の生育が改善される可能性もある.

より初期成育を促進させるために基肥の種類,施用量,施用時期を検討する事と,追肥も視野に入れて有効茎歩合を高める施肥設計を検討する事が今後の課題である.

X.謝辞
 本研究の遂行および本論文の作成にあたり御指導,御助言を頂きました作物生産技術学研究室の前田忠信教授,作物栽培学研究室の吉田智彦教授,和田義春助教授,土壌学研究室の加藤秀正教授,平井英明助教授,星野幸一技官には心から深く感謝申し上げます.

 この1年,農場の水田で笑いの溢れる毎日を過ごし,時には炎天下や雨の中,共に調査や作業を行う中で,時には優しくご指導頂き,時には突っ走りがちな私を叱咤して導いて下さった朝妻英治先輩,LyTong先輩,人見成郎先輩,土壌学研究室の松野更和先輩,いつも一緒に頑張ってくれて,時々羽目を外して杯を酌み交わしてくれた川内健介君,白間俊介君,土壌学研究室の近藤晋君,千葉清史君,斎藤奏枝さん,石川恵さん,先輩らしい事は何もしてあげられなかったのに力を貸してくれた上野恵美さん,山室理恵さん,また,いつも心の支えとなって頂いた,Nonoさん,穴澤拓先輩,薄井一樹君,奥平義郎君,廣瀬文恵さん,村上景美さんはじめ作物栽培学研究室の皆様にはいつも感謝して居ます.そして圃場管理など様々な面で協力頂いた宇都宮大学附属農場の技術職員の皆様,いつも温かく見守り応援してくださいました栃木県二宮町の上野さん夫妻,また私を支えてくださいましたすべての皆様に心より感謝申し上げます.

Y.引用文献
星川清親 1975.イネの生長.農山漁村文化協会,東京.243
星川清親 1980.新編食用作物.養賢堂,東京.
稲葉光圀・宇根豊・日鷹一雅・峯田拓也・上野秀人・岸田義郎・大場伸一・鈴木泉・薄上秀男・昆吉則 1999.
 除草剤を使わないイネつくり.農山漁村文化協会,東京.
玖村敦彦 1997.新版食用作物学.文永堂,東京.52−54
片野学・佐藤宏・佐藤種治・佐藤正広 1983.自然農法水田における水稲栽培に関する研究.日作東北支部報 26:1−4
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Summary
The Effect of Rice Bran and Wheat Bran Application on Weeds and Yield Using “Bokashi” Fertiliser in Organic Rice Cultivation.

Masahiro Inoue

This study aimed at the yield improvement of the paddy rice in organic farming. The combination of the basal fertilizer was compared to study the effect on yield and weeding . The fermented chicken droppings and rice bran “Bokashi” were used for the basal fertilizer. Rice bran and wheat bran were surface‐scattered for weeding. The field was organic- farmed for 14 years with compost application. The field of the first year of the organic farming conversion was also used in the experiment as a contorol.

Initial growth was better in the plot where the basal fertilizer was used, but the growth in the latter half of the control plot was better. “Bokashi” fertilizer had the continuous effect though the chicken droppings promoted initial growth than “Bokashi”.

The weeds did not grow as to damage the rice growth by bran application. Bulrush and water murdania grew because of the direct seeding cultivation of the last year. Because the herbicide had been used until last year, monochoria was few.

The disease of blast and sheath blight was scarce.

The yield in the “Bokashi” plot was the highest but still it was 75% of the conventional cultivation.

The difference of the yield in these experiments was mainly due to the difference of the panicle number. In organic culture plots, the percentage of productive stems was lower than that of the control plot.

It is thought that the promotion of initial growth by using the basal fertilizer is the main factor for the high yield in the field of the first year of the organic farming conversion.

The improvement of growth in the latter half way be possible when organic farming will continue in the future.

More examinations for the kind, the amount and the time of using of the organic fertilizers to study and improve the percentage of productive stems are needed to promote the initial growth and obtain the higher yield.

第1表 試験区の構成					
試験区	施肥	除草			
鶏糞・米ぬか	堆肥2t/10a 発酵鶏糞220kg/10a 	米ぬか100kg/10a			
ボカシ・米ぬか	堆肥2t/10a 米ぬかボカシ400kg/10a 	米ぬか100kg/10a			
鶏糞・フスマ	堆肥2t/10a 発酵鶏糞220kg/10a 	フスマ100kg/10a			
ボカシ・フスマ	堆肥2t/10a 米ぬかボカシ400kg/10a 	フスマ100kg/10a			
対照	堆肥2t/10a(14年連用) 	機械除草 箒除草 手取除草			
(慣行)	基肥086(N10 P18 K16)40kg/10a	除草剤(きりふだ君)			
	側条施肥(N5 P20 K20)40kg/10a				
	追肥NK化成(N18 P0 K18)8.3kg/10a×2回				
					

	第3表 いもち病、紋枯れ病調査				
試験区	葉いもち罹病茎数	穂いもち罹病茎数	紋枯れ病罹病程度		
	(本/茎)	(本/茎)	(0〜5)		
鶏糞・米ぬか	0	0	1.1		
ボカシ・米ぬか	0	0	0.9		
鶏糞・フスマ	0.1	0.0 	0.1		
ボカシ・フスマ	0.2	0.0 	0.1		
対照	0	0.0 	1.2		
同一アルファベットはダンカンの多重検定において5%水準で有意差がないことを示す。					
					
第5表 収量調査														
試験区	全重	精籾重	藁重	籾/藁比	総玄米重	屑米重	精玄米重	
	(g/u)	(g/u)	(g/u)		(g/u)	(g/u)	(g/u)	
鶏糞・米ぬか	1215a	579a	636a	0.91a	460a	17c	443a	
ボカシ・米ぬか	1183a	567a	616a	0.92a	463a	20bc	443a	
鶏糞・フスマ	1189a	566a	622a	0.91a	465a	16c	450a	
ボカシ・フスマ	1211a	602a	609a	0.99a	493a	29b	464a	
対照	1154a	591a	561a	1.05a	484a	41a	443a	
(慣行区)	1570	774	796	0.97	644	34	609	
同一アルファベットはダンカンの多重検定において5%水準で有意差が無い事を示す。								
慣行区は参考値								
	食味値							
試験区	食味値	タンパク	CN	アミロース	脂肪酸			
		(%)	(%)					
米ぬか・鶏糞	72a	6.9a	8.2a	19.7c	17.3b			
米ぬか・ボカシ	71.7a	6.9a	8.2a	19.8b	17.8a			
フスマ・鶏糞	72.7a	6.8a	8.1a	19.9a	18.1a			
フスマ・ボカシ	70.7a	7a	8.3a	20.0a	17.8a			
	
					
	第6表 収量構成要素及び玄米中の蛋白含量						
試験区	穂数	1穂籾数	総籾数	登熟歩合	千粒重	蛋白含量	
	(本/u)	(個/本)	(1000個/u)	(%)	(g)	(%)	
鶏糞・米ぬか	239a	103a	24.7ab	90.2a	21.5 a	6.9a	
ボカシ・米ぬか	238a	101a	24.0 b	88.2a	21.3ab	7.0a	
鶏糞・フスマ	247a	99a	24.3ab	90.0a	21.6 a	6.8a	
ボカシ・フスマ	262a	106a	28.0 a	86.3a	21.1 b	7.1a	
対照区	245a	108 a	26.6ab	84.6a	21.4ab 	7.0a	
(慣行区)	331	107	35.4	84,8	22.6	7.3	
同一アルファベットはダンカンの多重検定において5%水準で有意差が無い事を示す。							
慣行区は参考値							


第7表 収穫期の窒素含有率と窒素含有量									
									
		窒素含有率(%)				窒素含有量(g/u)			
	葉身	葉鞘+茎	穂		葉身	葉鞘+茎	穂	合計	
鶏糞・米ぬか	0.84a	0.38ab	1.03a		1.08ab	1.77ab	5.89b	8.74	
ボカシ・米ぬか	0.92a	0.32b	1.06a		1.23ab	1.44b	6.27b	8.94	
鶏糞・フスマ	0.79a	0.34b	1.03a		1.00b	1.50b	6.16b	8.66	
ボカシ・フスマ	0.89a	0.42a	1.17a		1.21ab	1.85a	7.65a	10.71	
対照	0.83a	0.39a	1.12a		1.34a	1.69ab	7.38a	10.41	
									
同一アルファベットはダンカンの多重検定において5%水準で有意差が無い									
事を示す.									

図は省略
				
以上

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