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堆肥連年施用有機水田における堆肥の多量施用と水管理が 水稲の生育,収量と温室効果ガスの発生に及ぼす影響


2004年3月

宇都宮大学大学院農学研究科
生物生産科学専攻
久保二郎

要旨
2001年から2003年にかけて宇都宮大学農学部附属農場内堆肥連年施用有機水田において,堆肥の施用量と水管理を異にして,水稲の生育,収量と,温室効果ガスの発生について検討した.堆肥200kg/aを施用した堆肥標準区では,化成肥料を使用した対照区と比較して生育と収量が劣ったが,メタンの発生は対照区と同程度かやや増える程度であった.堆肥多量区では堆肥を500〜1000kg/aを施用することによって生育量や収量を増加させることができたが,同時に多量のメタンの発生を促進させた.湛水制限を行った堆肥多量・制限区では酸化還元電位が高まり,メタンの発生を抑えることができた.収量は堆肥多量区と比較して若干減少したものの有意差は無かった.極端な低温と日照不良の年では,窒素の供給が多い堆肥多量区,堆肥多量・制限区の生育は比較的よかったが,穂いもちの発生が多く,堆肥を多量に施用しても収量を増加させることはできなかった.湛水制限を行った堆肥多量・制限区では,酸化的な状態と還元的な状態が繰り返されることによって亜酸化窒素が発生する可能性が考えられたが,本研究では発生はほとんどみられなかった.以上の結果から,好天候には堆肥を多量に施用することによって収量が増加し,湛水を制限することによってメタンの発生を抑えられることが明らかとなった.

キーワード 温室効果ガス,水稲,水稲収量,堆肥連年施用,湛水制限,有機水田



緒言

近年,食品の安全性や環境保全への関心が高まり,無農薬・無化学肥料による有機栽培が注目されている.水稲栽培においては農薬と化学肥料を使用しない「有機米」が,JAS法で規格化された.有機栽培における米の収量性を高めるためには,有機質資材の種類や施用量について検討しなければならない.また,1999年7月には新農業基本法が公布施行され,それに伴って,持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)や家畜排泄物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律が制定され,有機質資材の利用が強く求められている.前田 (2001) は,宇都宮大学において1991年から牛糞堆肥による堆肥連年施用試験を行い,有機物の施用は継続年数が長くなるにともない収量が多くなり,堆肥500kg/aの施用によって4年目に穂数が増加して収量が最高に達したと報告している.しかし,その後,堆肥を200kg/aに減らし連用を継続しても,堆肥の累積効果が穂数に現れず,穂数不足が原因で慣行栽培に比べ収量が劣る結果となった.現在,慣行栽培と同程度の収量を得ることを目的として,牛糞堆肥を500〜1000kg/aと多量連年施用有機栽培試験を実施している.

水田への堆肥などの有機物の施用は,温室効果ガスであるメタン (CH4) の発生を促進させる可能性がある.近年,地球温暖化への関心が国際的に高まっており,農業生態系から放出される主要温室効果ガスには二酸化炭素以外にメタンや亜酸化窒素 (N2O) が挙げられている.水田から発生するメタンの起源や発生メカニズムについては,主に稲わらを対象にした研究が報告されており (犬伏ら 1994,木村 1998),稲わら施用によりメタン発生量が増加することはよく知られている.堆肥の施用については,鈴木 (1995),Yagi and Minami (1990) の報告があり,それらによれば,堆肥は稲わらと比べてメタン発生への影響は少ないと報告している.一方,Schutzら (1989) は,稲わらを120kg/aを施用した場合の一日あたりのメタンの発生量は0.68g/u,240kg/aを施用した場合は0.45g/uで,堆肥を600kg/aを施用した場合は0.66g/u発生したと報告している.水田からのメタン発生量の削減に関する研究は,これまで有機物施用法に関するもの (犬伏ら 1994,松本ら 2002,鈴木 1995) や水管理に関するもの (石橋ら 1997,熊谷ら 2000,魚木・野田 2000,八木ら 1994) が報告されている.また,Caiら (1997) は,田面水の排水に伴うメタンの発生抑制と亜酸化窒素の発生促進を報告している.

このような背景の下で,宇都宮大学農学部附属農場において,1997年より設けた堆肥多量連年施用有機栽培水田において収量性とともに,2001年より温室効果ガス発生量の検討も行った.本研究では,堆肥の多量連年施用と湛水の制限が,水稲の生育,収量と温室効果ガス (メタン,亜酸化窒素) の発生に及ぼす影響を検討したので報告する.

 本論文は2章から構成されている.1章では,堆肥の多量施用が水稲の生育,収量に及ぼす影響を検討し,2章では,堆肥の多量施用が温室効果ガスの発生に及ぼす影響を検討した.



第1章 堆肥の多量施用が水稲の生育,収量に及ぼす影響

緒言
 今日の水稲栽培は,農薬や化学肥料を使用し,単位面積あたりの収量を高くしてきた.しかし,近年,食品の安全性や環境保全への関心が高まり,無農薬・無化学肥料による水稲の有機栽培が注目され,JAS法によって「有機米」が規格化された.水稲の有機栽培に関係する研究は数多く報告されている.片野ら(1983),神谷ら(1994),鈴木ら(1994),は,有機物のみの施用でも慣行栽培と同程度の収量を得ると報告しており,片野ら(1983),玉置ら(2002)は有機栽培では,継続年数が長くなるにともない収量が高くなると報告している.一方,前田(2001)や齋藤ら(2001)は,有機栽培は慣行栽培に比べ,収量が劣ると報告している.前田(2001)は堆肥連用・化肥無施肥区の減収の要因は堆肥200kg/aのみの施用では堆肥の累積効果が穂数に現れず,穂数不足が原因で慣行栽培に比べ収量が劣ると報告している.そこで,本研究では堆肥200kg/aを施用した区と500〜1000kg/aと多量施用した区を設け,異なる堆肥の施用量が水稲の生育,収量に及ぼす影響を検討した.なお,2002年と2003年は,堆肥多量区で湛水制限をした堆肥多量・制限区を設け,湛水制限が水稲の生育,収量に及ぼす影響も合わせて検討した.

材料と方法
育苗,移植
試験は2001年,2002年,2003年に栃木県真岡市の宇都宮大学農学部附属農場内厚層多腐植質黒ボク土水田(前田・平井 2002)で実施した.品種はコシヒカリを供試した.種籾は比重1.13で塩水選を行い,流水で5〜7日間浸種した後32℃の定温機中で15時間催芽処理を行った.催芽種子は,60p×30p×3pの田植機移植用育苗箱に乾籾換算で80g/箱を播種し,床土および覆土は附属農場内の山土(黒ボク土)を用いた.播種の際,種子消毒や土壌消毒の殺菌剤は使用していない.育苗箱の施肥は発酵鶏糞を用い,2001年は50g/箱,2002年と2003年は250g/箱とした.育苗はハウス内で行い,育苗期間は2001年は21日間,2002年と2003年は28日間とした.移植は6条乗用側条施肥田植機で2001年は5月15日に,2002年は5月21日と22日に,2003年は5月22日に行った.栽植密度は20.8株/u(30cm×16cm)に設定し,1株あたり約3本で移植したが,圃場の不均一性や田植え機のスリップなどのため,栽植密度は若干異なっていた(第1表).代かきは2001年では移植前日の1回のみで,2002年と2003年では移植1週間前に荒代かき,移植前日に植代かきの計2回行った.

試験区の設定
試験区の構成を第1表に示した.2001年は,堆肥多量区,堆肥標準区,堆肥を全く施用しない対照区を試験区とした.2002年と2003年は,堆肥多量区で波板を用いて湛水を制限した堆肥多量・制限区を設け,堆肥多量区,堆肥多量・制限区,堆肥標準区の堆肥施用区と,対照区の4試験区で調査した.堆肥多量・制限区の水管理は,6月下旬から水尻を開けて排水を行い,土壌の乾燥が強くなると入水し,登熟期まで排水と入水を繰り返した.第8図と第10図に,2002年と2003年の堆肥多量・制限区における湛水深を示した.堆肥は牛糞,落葉,籾殻,稲藁,麦藁による完熟堆肥で,マニアスプレッダーを用いて2001年は3月,2002年は2月,2003年は3月に施用した.堆肥は2001年度のもので水分率68.4%, 窒素1.97%,燐酸2.70%,加里2.65%,C/N比15.7, 2002年度のもので水分率65.3%, 窒素2.65%,燐酸3.55%,加里1.47%,C/N比8.28,ケイ酸8.15%, 2003年度のもので水分率67.5%, 窒素2.45%,燐酸2.19%,加里2.26%,C/N比13.78,ケイ酸6.80%であった.宇都宮大学農学部附属農場では1991年より堆肥,化肥連年施用圃場試験をしており,堆肥は堆肥多量区と堆肥多量・制限区では1996年まで約200kg/aを施用し,1997年は1000kg/a,1998年以降は2001年の1000kg/aを除いては500kg/aを施用した.堆肥標準区では1991年〜1994年に500kg/aを施用し,1995年以降は200kg/aを施用した.対照区は1991年までは150〜300kg/aの堆肥を施用しているが,1992年以降は堆肥を施用せず化成肥料を施用した.基肥は全層施肥として10-18-16化成を窒素で0.4kg/a,側条施肥として5-20-20化成を窒素で0.2kg/aを施用した.全層施肥は,2001年は5月8日,2002年と2003年は5月20日に行った.側条施肥は6条乗用側条施肥田植機で移植と同時に行った.追肥は穂肥として18-0-16化成で2回に分けて行い,2001年は7月10日と25日に,2002年は7月15日と24日,2003年は7月11日と22日に行った.2001年と2002年は窒素で0.4kg/a,2003年は0.3kg/aとした.なお,稲わらは全試験区において全量還元した.

農薬は対照区で除草剤と殺虫剤をそれぞれ1回使用した.除草剤は2001年は5月22日に,2002年は5月28日にキックバイ1kg粒剤を散布し,2003年は5月29日にキリフダ1kg粒剤を散布した.本水田はイネミズゾウムシが毎年発生し,幼虫による根部被害がみられるため,殺虫剤を散布している.2001年にはトレボン2kg粒剤を6月26日に使用し,2002年は6月4日にシクロパック粒剤を10aあたり360g,2003年は6月13日に10aあたり600g使用した.

堆肥施用区の除草方法は,コイ除草,ほうき除草,除草機による機械的な除草を行った.コイ除草とはコイを水田に放して土壌表面を攪拌することによって,雑草の光合成を泥水で阻害して生育を抑えることや雑草を定着させないようにする方法である.コイ除草では圃場の周囲に溝を作り,水が減少してもコイが干上がらないようにした.コイ放飼中は深水で管理し,常時10cm程度の湛水深を保つようにした.ほうき除草とは3連の竹ほうきをひいて畦間の土壌表面を攪拌することによって,雑草の光合成や定着を抑える方法である.2001年の除草方法は,堆肥多量区ではコイ除草を行い,5月22日に体長15〜28p・体重60〜252gのコイを1aあたりに20匹放飼した.堆肥標準区では,ほうき除草を5月22日から1週間ごとに計3回,除草機を用いた機械除草を6月26日に1回,手取り除草を7月10日に1回行った.2002年は,堆肥多量区で,ほうき除草を5月30日と6月6日の2回,手取り除草は6月14〜15日に1回,除草機による除草を6月27日に1回行った.堆肥多量・制限区では,6月14〜15日までは堆肥多量区と同様の方法で除草し,以降は6月27〜28日に手取り除草を1回行った.堆肥標準区では,ほうき除草を5月30日から1週間ごとに計4回行った.2003年は,堆肥多量区と堆肥多量・制限区で,ほうき除草を5月29日,6月3日,6月6日の計3回,手取り除草を6月12〜17日の1回,手取り除草と機械除草の併用を6月20日,7月8日,7月15日の計3回行った.堆肥標準区はほうき除草を5月29日,6月3日,6日,13日,20日の計4回,手取り除草を7月15日に1回行った.  

生育調査
生育は,周囲を含めた欠株の無い1条5株2条10株によって,草丈,茎数,葉数を各区3反復で調査した.2001年は堆肥多量区において6月14日から8月24日まで,堆肥標準区と対照区は6月12日から8月23日まで2週間おきに調査した.2002年は6月11日から8月6日まで,2003年は6月12日から8月21日まで2週間おきに調査した.

穂いもち調査
穂いもちの調査は,2002年は9月3日に,2003年は9月4日に行った.各区40株3反復について,穂首以上に明らかないもち病斑があり,穂上の50%以上の籾が不稔である穂数を数え,総穂数で割り穂いもち発生穂率とした.

収量および収量構成要素
収量調査および収量構成要素は,2001年は9月24日に,2002年は9月14日に,2003年は9月25日に調査した.各区3反復で1条10株4条40株を刈り取り,穂数を数え風乾後,全重,精籾重,総玄米重,精玄米重と水分含量を測定した.精玄米重は,粒厚1.8mm以上で水分15%に換算した.ただし,2003年の堆肥多量区と堆肥多量・制限区においては,1条10株2条20株を刈り取って調査した. 収量構成要素は穂数,玄米千粒重は40株または20株の坪刈りより,1穂籾数,登熟歩合は坪刈り地点周辺より平均穂数株5株の平均穂20穂で調査した.玄米千粒重は玄米20gを秤量し,その粒数から算出した.登熟歩合は比重1.06の食塩水で塩水選を行い,登熟籾と不稔籾とに分別して算出した.

天候
天候はアメダスによって調査し,真岡を観測地点とした.

結果
生育
第1図に平均気温と日照時間の推移,第2表に天候の概要,第3表に生育の主要項目の概要を示した.活着期から最高分げつ期までの天候は3年間とも良好であった.草丈は対照区で最も高かった.堆肥多量区の草丈は堆肥標準区や堆肥多量・制限区より7cm〜10cm高く,2002年と2003年では有意差も認められた.対照区は最高茎数においても最も多かった.堆肥多量区と堆肥標準区間で最高茎数を比較すると,2001年と2002年は有意差が認められなかったが,2003年では堆肥多量区で354本/u,堆肥標準区で266本/uとなり,有意差も認められた.堆肥多量・制限区の最高茎数は有意差は認められなかったものの堆肥多量区より少なかった.幼穂形成期以降の天候は2002年が最も良好で出穂は3年間で最も早かった.登熟期間の天候は,特に2003年が極端な不良天候で,低温,日照不良であった.3年間をとおして主稈葉数に大きな差は無かった.

第2図に2001年の草丈,主桿葉数,茎数の推移を示した.草丈は期間を通して対照区で最も高く,堆肥標準区で低かった.堆肥多量区の主桿葉数は,生育初期は堆肥標準区とほぼ同じで少なかったが,7月中旬以降からは堆肥標準区よりも多くなり,最終的には対照区と同じになった.茎数は期間を通して対照区で最も多かった.堆肥多量区では,6月下旬から7月中旬にかけて急激に茎数が増えた.

第3図に2002年の草丈,主桿葉数,茎数の推移を示した.草丈は2001年と同様に対照区で最も高かった.堆肥の多量施用によって堆肥多量区では堆肥標準区よりも高くなったが,湛水制限を行った堆肥多量・制限区では堆肥標準区とほぼ同じであった.主桿葉数も2001年と同様に対照区で多かったが,試験区間に大きな差は見られなかった.茎数は,期間を通して対照区で最も多かったが,同時に最も有効茎歩合が低かった.堆肥多量区と堆肥標準区の茎数の推移はほぼ同じであった.堆肥多量・制限区の茎数は期間を通して最も少なかった.

第4図に2003年の草丈,主桿葉数,茎数の推移を示した.草丈は2001年と2002年と同様の傾向で,対照区で最も高かった.堆肥多量区の草丈は対照区とほぼ同じで,差は1cmであった.主桿葉数は試験区間に有意差は認められなかった.茎数は,生育前半は対照区で最も多かったが,有効茎歩合が最も低かったため,対照区の有効茎数は堆肥多量区より若干少なくなった.堆肥多量・制限区は,湛水制限によって分げつが抑えられて堆肥多量区よりも少なかった.堆肥標準区の茎数は期間を通して最も少なかった.

最高分げつ期と穂揃い期の生育の特徴を捉えるため,第4表に2003年の茎数,葉面積指数(LAI),乾物重を示した.最高分げつ期,穂揃い期ともに,茎数,LAIは,対照区で最も値が大きかった.堆肥多量区では堆肥の多量施用によって対照区に値が近づき,堆肥多量・制限区では湛水制限によって生育が若干抑えられ,堆肥標準区では値が最も小さかった.乾物重でもほぼ同様の傾向であった.対照区で最も値が大きく,堆肥多量区では対照区に値が近づいて対照区と有意な差が無かった.堆肥多量・制限区の乾物重は堆肥多量区よりも小さく,堆肥多量区と有意な差があった.堆肥標準区は最高分げつ期では堆肥多量・制限区と有意な差は無かったが,穂揃い期では値が最も小さくなり,堆肥多量・制限区と有意な差があった.

収量,収量構成要素および穂いもち発生穂率
第5表に収量構成要素および穂いもち発生穂率,第6表に収量調査の結果を示した.
2001年は,堆肥標準区の穂数が少なかった.1穂籾数に有意差は無かったが,uあたりの籾数が少なかったので,収量は最も少なかった.堆肥多量区は,穂数を増やすことができたのでuあたりの籾数が増えて,堆肥標準区より収量が多かった.対照区は,穂数,1穂籾数が多かった.対照区では登熟歩合は最も低かったものの,uあたりのもみ数が最も多かったので,収量は最も多かった.3試験区間の玄米千粒重はほぼ同じであった.

2002年では,堆肥施用区内に穂数について有意差は認められず,堆肥標準区の穂数は堆肥多量区に近づいた.しかし,堆肥標準区は1穂籾数が少なく,uあたりのもみ数が少なかったので,収量は最も少なかった.堆肥多量区は,特に1穂籾数が多く,収量は堆肥標準区より多かった.堆肥多量・制限区は湛水制限によって穂数,1穂籾数が減少し,有意差は認められなかったが収量は堆肥多量区より若干少なかった.対照区は登熟歩合が低かったが,穂数が多いためuあたりの籾数が多く,玄米千粒重の値も最も大きかったため,収量は最も多かった.

2003年は極端な不良天候で,特に登熟期間を通して低温,日照不良であった.他年度と比べて全体的にuあたりの籾数と玄米千粒重の値が小さかった.多量の堆肥を与えた堆肥多量区や堆肥多量・制限区および対照区では,穂いもちの発生が多かったため,登熟歩合が低く,収量は堆肥標準区より少なかった.堆肥標準区の全重の値は2001年と2002年と同様に最も小さかったが,籾藁比が最も大きく,屑米重も最も少なかったため,最も収量が多かった.

考察
堆肥標準区は3年間を通して他の試験区と比べて生育が劣り,草丈,主幹葉数,LAI,乾物重などは最も低い値となった.酒井ら(1999)によると牛糞堆肥は窒素無機化が遅く,本研究においても堆肥施用区の初期生育は対照区より劣り,窒素不足であった.特に堆肥標準区は茎数が少なかったため穂数は少なく,uあたりの籾数も少なかったため,2001年と2002年は最も収量が少なかった.堆肥多量区では,堆肥の多量連年施用によって生育量が増し,穂数,1穂籾数も増加して堆肥標準区よりも多かった.鈴木ら(1994)によると,300〜500kg/aの堆きゅう肥の施用によってuあたりの籾数が増え,収量が向上したと報告しており,本研究においても堆肥多量区の2002年と2003年の収量は堆肥標準区よりも多かった.熊谷ら(2000)は中干しによってメタンの発生を抑制できるものの,強い中干しは生育を抑えると述べている.堆肥多量・制限区では,積極的に排水を行ったので,通常の中干しや間断灌漑よりも土壌の乾燥が強かった.そのため,草丈,LAI,乾物重などの生育は堆肥多量区よりも劣り,収量も劣った.

2001年はほぼ平年なみの天候だった.2002年は3年間の中で最も天候が良好で,収量も最も多い年であった.一方,2003年は極端な低温と日照不良の年で,全試験区の単位面積当たりの籾数は3年間の中で最も少なく,収量も堆肥標準区を除いて最も少なかった.前田(2002)は,低農薬水稲栽培条件において,不良天候年の堆肥連用・化肥無施用区における穂数と1穂籾数は少なく,それは,有機物中心の施用方では低温で有機物の分解が進まず,窒素供給が不足したためと報告している.堆肥多量区の単位面積あたりの籾数は,2001年は30.8(×1000粒),好天候年の2002年は31.3(×1000粒),不良天候年の2003年は25.3(×1000粒)で,収量は各年47.5kg/a,52.3kg/a,29.3kg/aで,2003年の値が最も低かった.堆肥標準区の籾数は各年20.4(×1000粒),27.1(×1000粒),19.6(×1000粒)で,収量は34.0kg/a,45.6kg/a,34.2kg/aで,2002年の値が最も高かった.2003年の堆肥多量区では,有機物はあるものの低温のため分解が進まず,窒素供給が2001年と2002年よりも少なく,単位面積当たりの籾数や玄米千粒重の値が低下したと考えられる.2003年の堆肥標準区では,低温であっても単位面積当たりの籾数や玄米千粒重の値は2001年と大きく違わないことから,2001年なみに窒素が供給されと考えられる.堆肥200kg/aの施用では,2002年のような好天候によってのみ充分に有機物が分解され窒素が供給されると考えられるため,今後は土壌中の窒素の動態を検討していく必要がある.

2003年は極端な低温と日照不良により,対照区,堆肥多量区,堆肥多量・制限区において穂いもちが多量に発生した年でもあった.穂いもちは窒素過剰によって,イネが軟弱となり体内的には可溶性窒素化合物が集積し,さらに多窒素条件では珪酸の吸収が抑制され(高橋 1982),イネの細胞は菌の侵害に弱くなることが一般に知られている.化成肥料あるいは堆肥の多量施用によって窒素施用量が多くなった対照区,堆肥多量区,堆肥多量・制限区で穂いもちが多量に発生したことも,収量低下の要因となった.

堆肥の多量施用は好天候条件下では収量を増加させたが,米の食味を低下させた可能性がある.米の食味については,玉置(1995)らは有機農法実施年数と米のアミログラム特性値およびミネラル含量との関係について調査しており,有機農法実施年数の増加にともない食味は向上することが示唆されたと報告している.斉藤ら(2002)は有機質肥料の施用による食味の向上や,農薬施用の有無が食味に及ぼす影響は明確に認められなったと報告している.堆肥の多量連年施用における収量と食味については,さらに検討する必要がある.

第2章 堆肥の多量施用が温室効果ガスの発生に及ぼす影響

緒言
近年,地球温暖化への関心が国際的に高まっている.1997年には京都にて地球温暖化京都会議が開かれた.その会議の中で農業生態系から放出される主要温室効果ガスには二酸化炭素以外にメタンガスや亜酸化窒素が挙げられている.温室効果ガスの温室効果の程度を示す地球温暖化係数(GWP)は,メタンでは二酸化炭素の約21倍で,亜酸化窒素では約310倍である.メタンガスの主要な発生源の一つとして,水田が挙げられている.水田への有機物の投入はメタン生成を増大させる要因であり,特に稲わらのような新鮮粗大有機物の投入は土壌の酸化還元電位を低下させ,メタン生成を促進させると言われている(北田ら 1993,Yagi and Minami 1990,八木 1991).水田土壌中では,微生物の代謝作用により土壌中の,O2,NO3-,MnO2,Fe(OH)3,SO42-,CO2等の酸化物が逐次的に還元され,それに伴って酸化還元電位が-200mV付近まで順次低下してメタンが発生する(浅見・高井 1970,Takai 1970,吉羽ら 1996).

水田からのメタン発生量の削減は,環境保全型農業の観点からも必要であり,これまで有機物施用法(犬伏ら 1994,松本ら 2002,鈴木 1995)や水管理(石橋ら 1997,熊谷ら 2000,魚木・野田 2000,八木ら 1994)の改善による報告がされている.また,Caiら(1997)によると,田面水の排水に伴ってメタンの発生を抑えるが,別の重要な温室効果ガスである亜酸化窒素の発生が促進されたと報告している.

宇都宮大学農学部附属農場では,1997年より堆肥多量連年施用有機水田を設け,2001年より温室効果ガスの調査を行った.本研究では,堆肥の多量連年施用と湛水の制限が温室効果ガス(メタン,亜酸化窒素)の発生に及ぼす影響を検討したのでここに報告する.

材料と方法
試験区
試験区は,第1章と同じ試験区を用いた.

温室効果ガス調査
メタンの採取は,各区2反復で行った.測定は陽・八木(1998)のクローズドチャンバー法で行った.底面積3600cm2(60cm×60cm)で高さが100cmのポリカーボネイト製の無底箱容器を水稲8株にかぶせることによってチャンバー内を外気と遮断し,チャンバー設置後5分,15,25分,35分後に50ml容三つ又栓シリンジ(テルモ株式会社製)をチャンバー側面のシリコンセプタムに挿入し,チャンバー内の空気を25ml採取して,バイアル瓶(電理化硝子株式会社製)に保存した.採取したガスはFID付きのガスクロマトグラフィー(島津製,GC15A型)でメタン濃度を測定した. メタンフラックスは一定時間ごとに採取した試料のメタン濃度勾配から算出した.なお,チャンバーを水稲にかぶせる時には,チャンバーが田面を圧迫することにより,土壌中に蓄積したガスが物理的に放出することをさけるため,あらかじめ設置しておいた足場の上から作業を行った.さらに,チャンバーは田面に前もって埋設しておいた塩ビ製の台座の上に置くようにし,田面を圧迫することがないように配慮した.堆肥多量・制限区におけるメタンの採取は,チャンバー下部から空気がもれないように,2002年は採取前日から湛水状態とした.2003年は調査株の回りにトタン製の樋を埋め込み,樋に水を流し込んでからチャンバーを置き,チャンバー下部をシールした.メタンは,2001年は6月28日,7月17日,7月26日,8月9日,2002年は6月13日,7月4日,7月18日,8月1日,8月14日に採取した.2003年は6月19日に全区,7月7日に堆肥多量・制限区,7月8日に全区,7月17日に堆肥多量区と堆肥多量・制限区,7月29日に全区,8月5日に堆肥多量・制限区,8月12日,8月26日は全区でメタンと亜酸化窒素を採取した.

酸化還元電位は,ポータブルORP計PシリーズRM-12P(東亜電波 (現TOA―DKK) 製)白金複合電極を土壌の深さ5cmに設置して測定した.2001年はメタン採取日に白金電極を設置し,2時間以上放置して安定した後に測定した.2002年と2003年は継続的に設置し,週2〜3回の割合で測定した.2001年は2反復,2002年と2003年は3反復とした.

 2003年には堆肥多量・制限区において亜酸化窒素の発生を調査した.サンプルはメタン分析後のバイアル瓶を用い,7月7日以降のサンプルを分析した.分析は農業環境技術研究所に依頼して,ECD付きガスクロマトグラフィーによって分析した.

結果
第5図に2001年のメタンフラックスと酸化還元電位の推移,第6図に2001年の降水量を示した.堆肥標準区,対照区のメタンの発生は少量で,最大フラックスはそれぞれ6.3 CH4 m-2 hr-1,10.8 CH4 m-2 hr-1であった.200kg/aの堆肥の施用は,メタンの発生を促進させなかった.1000kg/aの堆肥の施用した堆肥多量区では明らかにメタンの発生が増え,最大フラックスは55.4mg CH4 m-2 hr-1となり,3年間で最も大きかった.しかし,8月9日は20.3 mgCH4 m-2 hr-1と,2002年と2003年の同時期とほぼ同じ発生量であった.酸化還元電位は,堆肥多量区は約−200mVで安定した.堆肥標準区では後半になって酸化還元電位が下がり始めた.対照区では7月17日−194mVまで低下したが,その後は電位は約−115mVと比較的高かった.

第7図に2002年のメタンフラックスと酸化還元電位の推移,第8図に2002年の堆肥多量・制限区の湛水深と降水量を示した.対照区の酸化還元電位の低下は遅く,メタンの発生量も期間を通して少なかった.堆肥施用区の酸化還元電位は,6月中旬には−200mVに達した.堆肥標準区では,メタンの発生は7月中旬までは対照区とほぼ同量であった.7月下旬以降は発生量が増えたが,堆肥多量区よりは少なかった.堆肥多量区では,堆肥の多量施用によってメタンの発生が増えた.堆肥多量・制限区では,メタンの発生を抑えるため7月中旬に湛水制限を行ったが,継続的な降水のため酸化還元電位が−121mVまでしか上昇せず,メタンの発生を抑えられなった.7月下旬から行った湛水制限では,降水も無く,土壌を乾燥させることができた.乾燥によってイネに害が及ぶ可能性があったため入水を行ったが,酸化還元電位は+112mVまで上昇し,メタンの発生を抑えることができた.

第9図に2003年のメタンフラックスと酸化還元電位の推移,第10図に2003年の堆肥多量・制限区の湛水深と降水量を示した.対照区の酸化還元電位の低下は堆肥施用区より遅く,7月中旬に−200mVに達した.対照区のメタンの発生は2002年と同様に少なかった.堆肥標準区のメタンの発生は8月12日の調査までは対照区と同様の傾向であった.しかし,8月26日の調査では1.5mg CH4 m-2 hr-1と少なかった.堆肥標準区では,8月26日の調査数日前の湛水深が低く,酸化還元電位が上昇していたため,メタンの発生が抑えられたと考えられた.堆肥多量区のメタン発生量は2002年と同様に最も多かった.2003年の天候は,2002年より6月は好天候で7月は不良天候で,堆肥の分解時期がずれたためか,2003年の最大フラックスは2002年より早かった.2003年の堆肥多量・制限区は,2002年より湛水制限が強く,7月9日から8月5日までの湛水深はほぼ0であった.そのため酸化還元電位は7月中旬から8月中旬まで高く,メタンの発生も7月中旬から減り始め,7月29日からはほとんど発生しなかった.

第11図に2003年の堆肥多量・制限区におけるN2Oフラックスを示した.N2Oの繰り返し分析の精度 (CV値) は0.5%であった.サンプルのN2O濃度は約310ppbVだったので,仮に採取時のチャンバー内のN2O濃度が,310ppbVの0.5%ずつ上昇したとすると,N2Oフラックスの変動幅は約±16.5μg N2O m-2 hr-1となる.本研究でのガス採取法の場合,8月5日の調査を除いて,N2Oフラックスはこの変動幅 (誤差の範囲) に入っていた.

考察
メタン発生については,Yagi and Minami (1990) は120kg/aの堆肥の施用では発生量は多くならないと報告している.一方,Schutzら (1989) は,堆肥600kg/aの施用は,稲わら120kg/aまたは240kg/aを施用した場合と同様にメタンの発生を促進させたと報告している.本研究においても堆肥標準区ではメタンの発生は対照区と同程度かやや増える程度で,堆肥多量区では多量のメタンが発生した.

熊谷ら(2000)は中干しによってメタンの発生を抑制できると報告しており,魚木・野田(2000)は慣行よりも入水間隔が比較的長い間断灌漑を行うことによって酸化還元電位が上昇してメタンの発生が抑えられたと報告している.本研究では堆肥多量・制限区では,湛水制限によってメタンの発生を抑えることができた.特に2003年は,メタンの採取の時に入水しないよう採取方法を改良したので,長期間酸化還元電位が高くなり,7月中旬からはメタンの発生はほとんどみられなかった.

第12図,第13に最高分げつ期と穂揃い期における,メタンフラックスと茎数,メタンフラックスと葉面積指数(LAI)の関係を示した.上木ら(1995)は湛水制限を行わず,有機物の施用量が,堆肥の場合で100kg/aと300kg/a,稲わらの場合で50kg/aと75kg/aの試験において,面積あたりの茎数が多い区ほどメタンの発生が少なくなるとしている.これは,茎数が多いほど根圏への酸素供給量も多く,このためメタン生成が抑制されるとともに,生成されたメタンもより酸化されやすくなったためと報告している.本研究においては,メタンフラックスと茎数,メタンフラックスとLAIのいずれにおいても,第12図,第13図に示されているように有意な相関が得られなかった.一方,堆肥多量区のメタンフラックスは生育量に対して極めて大きく,堆肥多量・制限区では生育量に対して極めて小さかった.この事実は有機物の多量施用や湛水制限などの条件がメタンフラックスに及ぼす影響は,イネの生育量よりも大きいことを示すものと考えられた.

Caiら (1999) は化成肥料を窒素で3.6kg/aと多量に施用した水田において,灌漑を抑えることによってメタンの発生が抑えられた一方,亜酸化窒素が発生し,その発生幅は,−9.02〜1640μg N m-2 hr-1 (−14.1〜2570μg N2O m-2 hr-1) であったと報告している.マイナスの値については,大気中の亜酸化窒素が水田に吸収されたためと報告している.本研究の堆肥多量・制限区においては,中干しよりも強い湛水制限を行ったが,ほとんどが誤差の範囲内のため発生も吸収も無かったと考えられた.亜酸化窒素については8月5日に19μg N2O m-2 hr-1とわずかな発生が認められたのみであった. Caiら (1997) は亜酸化窒素は田面水が無くなった直後のごくわずかな期間に発生すると報告している.本研究では,湛水制限期間50日間に7回の測定だったので,亜酸化窒素の発生を捕らえられなかった可能性があるが,亜酸化窒素の発生はメタンに比較して無視しうる程度と考えられた.

総合考察

堆肥連年施用有機水田において,2001年,2002年,2003年に生育,収量と温室効果ガスの発生について調査した.
堆肥標準区は,3年間を通してuあたりの籾数が最も少なく,2001年と2002年の収量は最も少なかった.前田(2001)は,堆肥200kg/aを連年施用した堆肥連用・化肥無施用区の1991年〜2000年の10年間の平均収量は38.3kg/aと,収量が少なかったと報告している.しかし,同時に最も変動が小さかったと報告している.本研究では2003年は低温,日照不良のため,堆肥多量,堆肥多量・制限区,対照区で収量は大きく減少したが,堆肥標準区は2001年とほぼ同じ収量で,大きな変動は無かった.堆肥標準区のメタンの発生は,2001年と2003年は対照区とほぼ同じで,2002年は7月中旬から増加した.2002年は3年間の中で最もイネの生育が良かったことから,2002年は特に土壌中の有機物が分解したためと考えられる.今後は土壌中の有機物,イネの生育,メタンの発生の関係を検討する必要がある.

堆肥多量区では,堆肥の多量施用によって穂数,1穂籾数が堆肥標準区より多くなり,2001年と2002年では収量は増加した。しかし,低温,日照不良の2003年では穂いもちが多量に発生したこともあり,収量は大きく減少した.前田(2001)は10年間の堆肥,化肥連年施用試験において,堆肥200kg/aと化成肥料を窒素で0.4〜0.5kg/aを施用した堆肥連用・化肥少肥区,化成肥料を窒素で0.8kg/a〜1.0kg/aを施用した化肥連用・多肥区は,倒伏や穂いもちの多発年には被害が大きくなり,収量の変動が大くなったと報告している.本研究の堆肥多量区では,化成肥料を施用していないが,堆肥を500kg/a〜1000kg/aと多量に施用して窒素が多くなったため,穂いもちの被害が出て収量が大きく減少した.堆肥多量区では,好天候年と不良天候年のどちらにおいても多量のメタンが発生した.Yagiら(1990)は120kg/aの堆肥の施用では発生量は多くならないと報告しているが,Schutzら(1989)は,堆肥600kg/aの施用によってメタンの発生量は増加すると報告している.本研究によって,少なくとも堆肥500kg/a以上の施用はメタンの発生に影響を及ぼし,堆肥1000kg/aの施用は堆肥500kg/a施用時の2倍以上最大メタンフラックスを増加させることが明らかとなった. 堆肥多量制限区では,湛水制限によってメタンの発生を抑えたものの,生育と収量も若干抑えられた.熊谷ら(2000)は中干しによってメタンの発生を抑制できるものの,強い中干しは生育を抑えると述べている.今後は,メタンの発生を抑え,収量の減少も最低限である水管理を検討していく必要がある.

堆肥多量・制限区では,メタンの発生を抑制する一方亜酸化窒素が発生する現象,トレードオフ現象は認められなかった.しかし,Caiら(1997)は亜酸化窒素は田面水が無くなった直後のごくわずかな期間に発生すると報告している.

本研究では湛水制限期間50日間に7回の測定だったので,亜酸化窒素の発生を捕らえられなかった可能性がある.亜酸化窒素の地球温暖化係数(GWP)は約310で本試験におけるN2Oフラックスは最大であっても19μg N2O m-2 hr-1であった.一方,メタンのGWPは約21で,2003年におけるメタンフラックスの平均(積算値を時間で割った値)は,堆肥多量区で13.1mg CH4 m-2 hr-1,堆肥多量・制限区で4.9mg CH4 m-2 hr-1であった.そのため,堆肥多量・制限区が地球温暖化に及ぼす影響は,堆肥多量区よりも小さいと考えられた.

以上,堆肥の多量施用が生育,収量,温室効果ガスの発生に及ぼす影響を検討してきた.水稲の有機栽培における堆肥の多量施用は,天候が不良な年を除いて収量を増加させることができ,湛水状態を制限することによってメタンの発生を抑えることができた.堆肥の多量施用と湛水制限による亜酸化窒素発生の有無,そして米の品質と食味については,今後も検討が必要である.


引用文献

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SUMMARY

The Effect of Heavy Manure Application and Water Management on Rice Growth, Yield and CH4 & N2O Emission from the Organic Paddy Field with Continuous Application of Farmyard Manure


Jiro KUBO
Rice growth, grain yield and CH4 & N2O emission affected by farmyard manure application and/or water management were examined in the paddy fields with continuous application of farmyard manure from 2001 to 2003. With application of farmyard manure at a rate of 200kg/a, rice growth and grain yield were lower than the control plot without its application, and emission rate of CH4 was almost the same as the control plot. Although application of farmyard manure at a rate of 500kg/a〜1000kg/a raised rice growth and grain yield, emission rate of CH4 was much increased. At the plot with intermitted irrigation, the CH4 emission rate was lowered with increasing Eh value, while grain yield decreased slightly, though the decrease was not significant. In the year of 2003 with extremely low temperature and limited sunshine hour, application of heavy farmyard manure increased rice growth, whereas grain yield didn’t increase because of panicle blast. The intermitted irrigation that was reported to induce N2O emission caused little N2O emission in the present study. Thus, application of heavy farmyard manure to raise grain yield without chemical fertilizer needs restriction of irrigation from the standpoint of CH4 emission. Key words:Continuous application of farmyard manure, Green house effect gas, Organic paddy field, Restriction of irrigation, Rice, Rice yield.

図表一部略


第1表 試験区の構成.						
									
年度		試験区	試験区面積	堆肥  施用量	化肥   施用量	栽植密度	水管理	除草方法	
									
			(u)	(kg/a)	(N-kg/a)	(株/u)			
									
2001年		堆肥多量区	1000	1000	0	20.1	常時湛水	機械的除草	
		堆肥標準区	1000	200	0	19.6	〃	〃	
		対照区	1000	0	1.0	18.8	〃	除草剤	
									
2002年		堆肥多量区	900	500	0	19.3	常時湛水	機械的除草	
		堆肥多量・制限区	100	500	0	19.8	湛水制限	〃	
		堆肥標準区	1000	200	0	21.2	常時湛水	〃	
		対照区	1000	0	1.0	19.8	〃	除草剤	
									
2003年		堆肥多量区	800	500	0	21.0	常時湛水	機械的除草	
		堆肥多量・制限区	200	500	0	22.2	湛水制限	〃	
		堆肥標準区	1000	200	0	20.0	常時湛水	〃	
		対照区	1000	0	0.9	19.3	〃	除草剤	


第3表 生育の主要項目の概要								
									
年度		試験区	草丈			主稈葉数			最高茎数			有効茎歩合			出穂期	
			(cm)						(本/u)			(%)				
2001年		堆肥多量区	116	ab		15.6	a		277	a		91.4	a		8月13日	
		堆肥標準区	106	b		14.6	b		201	a		91.5	a		8月10日	
		対照区	124	a		15.6	ab		333	a		92.6	a		8月11日	
2002年		堆肥多量区	109	b		14.4	a		313	ab		86.3	a		8月6日	
		堆肥多量・制限区	102	c		14.5	a		269	b		88.6	a		8月6日	
		堆肥標準区	102	c		14.8	a		326	ab		79.6	a		8月5日	
		対照区	112	a		14.8	a		400	a		75.4	a		8月5日	
2003年		堆肥多量区	114	a		14.8	a		354	a		81.6	a		8月12日	
		堆肥多量・制限区	105	b		14.7	a		314	ab		83.6	a		8月12日	
		堆肥標準区	105	b		15.0	a		266	b		81.2	a		8月14日	
		対照区	115	a		15.1	a		383	a		73.6	b		8月11日	
																
各項目の年次内での同一のアルファベットはダンカンの多重検定で5%水準で有意差のないことを示す.														

	第4表 最高分げつ期,穂揃い期の茎数,LAI,乾物重(2003年).												
			試験区	茎数			LAI			乾物重		
				(本/u)						(g/u)		
	最高分げつ期		堆肥多量区	354	a		2.16	ab		247	a	
			堆肥多量・制限区	314	ab		1.63	bc		174	b	
			堆肥標準区	266	b		1.25	c		139	b	
			対照区	383	a		2.40	a		302	a	
	穂揃い期		堆肥多量区	290	a		3.67	a		816	a	
			堆肥多量・制限区	261	a		3.08	b		729	b	
			堆肥標準区	217	b		2.74	b		625	c	
			対照区	296	a		3.87	a		838	a	
												
各項目の作期内での同一のアルファベットはダンカンの多重検定で5%水準で有意差のないことを示す.									

第5表 収量構成要素および穂いもち発生穂率.															
年度	試験区		穂数			1穂籾数			uあたり    籾数			登熟歩合			玄米      千粒重			穂いもち発生穂率	
																			
			(本/u)						(×1000粒)			(%)			(g)			(%)	
2001年	堆肥多量区		271	a		113	a		30.8	ab		79.1	a		21.5	 a		―	
	堆肥標準区		183	b		112	a		20.4	 b		86.7	a		21.6	 a		―	
	対照区		287	a		129	a		37.0	 a		70.8	b		21.5	 a		―	
2002年	堆肥多量区		238	b		132	a		31.3	 a		85.9	a		21.6	 c		0.2	
	堆肥多量・制限区		221	b		128	a		28.3	 a		87.9	a		21.7	 c		0.2	
	堆肥標準区		228	b		119	a		27.1	 a		86.5	a		22.1	 b		0.0	
	対照区		289	a		115	a		33.2	 a		81.5	b		22.7	 a		0.0	
2003年	堆肥多量区		216	ab		118	a		25.3	 a		69.8	ab		20.6	 a		6.4	
	堆肥多量・制限区		247	a		112	ab		27.7	 a		57.5	bc		19.7	 b		9.0	
	堆肥標準区		188	b		105	b		19.6	 b		82.0	a		21.1	 a		1.4	
	対照区		242	a		109	ab		26.3	 a		41.8	c		20.3	 ab		20.9	
																			
各項目の年次内での同一のアルファベットはダンカンの多重検定で5%水準で有意差のないことを示す.											

第6表 収量調査.																
年度		試験区		全重			精籾重			藁重			籾/藁肥			精玄米重		
				(kg/a)			(kg/a)			(kg/a)						(kg/a)		
2001年		堆肥多量区		125.2	a		63.4	a		61.8	ab		1.03	a		47.5	a	
		堆肥標準区		85.1	b		43.1	b		42.1	b		1.04	a		34.0	b	
		対照区		139.6	a		69.1	a		70.4	a		0.98	a		52.8	a	
2002年		堆肥多量区		124.6	b		65.1	b		59.5	b		1.10	a		52.3	b	
		堆肥多量・制限区		120.0	b		63.3	b		56.7	b		1.12	a		50.5	b	
		堆肥標準区		111.0	b		56.0	b		55.0	b		1.02	b		45.6	b	
		対照区		145.4	a		76.7	a		68.6	a		1.12	a		63.1	a	
2003年		堆肥多量区		113.5	ab		46.5	a		67.0	a		0.71	b		29.3	ab	
		堆肥多量・制限区		117.6	a		45.8	a		71.8	a		0.64	bc		25.4	ab	
		堆肥標準区		95.0	b		45.0	a		50.0	b		0.90	a		34.2	a	
		対照区		118.7	a		43.0	a		75.6	a		0.57	c		23.5	b	
										
各項目の年次内での同一のアルファベットはダンカンの多重検定で5%水準で有意差のないことを示す.																



 第7図 メタンフラックスと酸化還元電位の推移(2002年).

 第9図 メタンフラックスと酸化還元電位の推移(2003年).

第11図 堆肥多量・制限区のN2Oフラックスの推移(2003年).


(参);メタン測定の様子

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