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異なる移植期におけるワイルドライスの収量性


2004年 2月
宇都宮大学農学部生物生産科学科
植物生産学コース  作物栽培学研究室
003102A
穴澤 拓未
 

目次


T.要旨      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1

U.緒言      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2

V.材料と方法   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3

W.結果と考察   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5

X.謝辞      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 13

Y.引用文献    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14

Summary   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 15

写真      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16
T.要旨
ワイルドライス(Zizania palustris L.)の日本での栽培化における特徴を明らかにするために、移植期が収量に及ぼす影響、形態観察及び発芽率の調査を行った.
個体当たりの籾重・茎数・粒数は移植期が遅いほど減少する傾向を示した.結実率は移植期が遅いほど高くなる傾向がみられた.移植から出穂までに要する日数,及び出穂から開花までに要する日数の変化では,移植期が遅いほど短期間で生育する傾向がみられた.ポットを置いた面積から換算したu当たりの収量は,平均で153.5gとなった.
生体断面の観察では,どの組織にも破生通気組織が観察された.
冷却期間が発芽率に及ぼす影響では、浸漬期間が長いほど発芽率が高くなる傾向がみられた.また、籾を除去した場合のほうが、籾のついている場合に比べ発芽率が高かった.

U.緒言
ワイルドライス(Zizania palustris L.)は,別名アメリカマコモと呼ばれるイネ科マコモ属の植物(n=15)である.子実部を食用とし,主にアメリカ・カナダにおいて,分布・栽培されている.湛水条件下で生育するため,水田栽培の可能性が高いと考えられ,水田の転作作物として興味深い(源馬ら 1993).
子実は、収穫後、発酵・火力乾燥・脱ぷ・選別などの加工処理が施される.処理された子実は、タンパク質・食物繊維・鉄分・マグネシウムが豊富で、健康食品としても注目されている(村上 1988).  日本での販売価格は、1キログラム当たりおよそ2000円〜4000円で、白米のおよそ5倍〜10倍である.
用途としては、スープやサラダの具、この他、肉料理などに用いられる.また、白米と混ぜて炊飯する方法もある.
ワイルドライスは雌花が上部、雄花が下部の雌雄異花植物である.雌花は出穂とほぼ同時に開花し、その2〜7日後に雄花が開花する.そのため、他家受粉の割合が高い植物である.雄花は、赤褐色の外皮の中に黄色の雄ずいが6本あり、開花すると外皮が開いて花粉を放出する.開花後の雄花は、収穫期には、ほとんど脱落する(明石 2003).
本研究では,ワイルドライスの日本での栽培の可能性を探るため,移植期を異にして収量への影響を調査した.また、ワイルドライスの日本での栽培化における特徴を明らかにするために、形態観察及び発芽率調査を行った.

V.材料と方法
1.異なる移植期が生育に与える影響
供試品種は,名古屋大学和田富吉先生から譲渡していただいたZ-13K2を2002年に栽培し、そこから得られた種子を用いた.屋外に置いた直径16cmポットに1個体ずつ移植し,肥料は1ポット当たり窒素0.5gを施用した.移植期について2003年5月1日から2週間間隔で計4つを設定した.移植時の苗は,播種後温室内で約6週間育苗したもの(葉齢約6〜7)を移植した.ポットは,5月1日移植区は25ポットを5×5,残りの5月15日移植区,5月29日移植区,6月12日移植区は36ポットを6×6で配置した(写真).各移植区において,すべての個体について出穂期と開花期を記録した.開花期は,雄花の開花をもって開花期とした.また,ワイルドライスの雌花は,出穂と同時に開花する.種子は脱粒しやすいため,成熟期の穂に袋かけを行った(写真).収穫は,7月27日と8月21日に行った.収穫の回数が4回ではなく2回となった要因は,天候の影響と,成熟の個体差を調整したためである.収穫時に,全個体の草丈・茎数を測定し,その後,稔実籾数・不稔籾数・籾重を調査した.籾重は,収穫した籾を80℃で72時間通風乾燥したもの(水分約8.5%)を測定した.

2.形態観察
葉齢6の苗を用いて,マイクロスライサーで生体の葉,茎,根の切片を作り,光学顕微鏡(オリンパスシステム生物顕微鏡BHS)で断面を観察した.また、オリンパス全自動顕微鏡写真撮影装置PM-10ADを用いて、ASA感度100、露出補正1、フィルム特性2、自動露出に設定し、各組織断面の顕微鏡写真を撮影した.

3.発芽率調査
(1)冷却処理による発芽率調査
 7月27日収穫の種子を、8月5日より、籾つき、籾除去それぞれ20粒を、冷却期間なし、1ヶ月冷却、2ヶ月冷却、3ヶ月冷却、4ヶ月冷却に期間を分け、冷却後室温に戻し、何粒発芽するかを観察する実験を行った.それぞれの種子は、水道水に浸漬し、家庭用冷蔵庫(5〜7℃)においたものを冷却処理とした.また種子の腐敗を防ぐために、二日に一度の割合で水替えを行った.発芽試験は、無作為に選んだ種子20粒を、水道水の入ったビーカーに入れて室温(20℃前後)に置き、30日後までに発芽した種子の数をもって発芽率とした.また、8月21日収穫の種子についても同様の実験を行い、反復とした.

(2)ジベレリン処理による発芽率調査
 ワイルドライス種子の休眠打破に有効とされるジベレリン溶液に、3ヶ月間冷蔵庫で乾燥貯蔵したZ-13K2種子20粒を9cmシャーレにとり、浸漬したものを2反復行った.ジベレリン溶液は、50ppm、100ppm、500ppm、0ppm(蒸留水)を設定した.種子を浸漬したシャーレは、25℃に設定した恒温器内においた.また、恒温器内は、暗条件となってしまうために、日光の影響を調査する目的で、ジベレリン濃度100ppmのシャーレをもう1セットつくり、昼温27℃夜温22℃の環境調節実験棟内温室においた.

W.結果と考察
1.異なる移植期が生育に与える影響
  個体当たりの籾重の比較をすると有意差はなかった(lsd=1.85)が,移植期が遅くなるほど籾重は減少する傾向があった(第1図).同様に,茎数・粒数も移植期が遅いほど減少する傾向を示した(第2図,第3図).草丈・千粒重については,どの移植区においても一定の傾向がみられなかった(第4図,第5図).結実率(稔実籾数/不稔籾数+稔実籾数)は,若干,移植期が遅いほど高くなる傾向がみられた(第6図).移植から出穂までに要する日数,及び出穂から開花までに要する日数の変化では,移植期が遅いほど少ない,すなわち,短期間で生育する傾向がみられた(第7図,第8図). また,以上のような傾向を示す要因と考えられる生育期間中の気温・日照時間・日射量を第1表に示した.データは、宇都宮大学環境調節実験棟の調査によるものを用いた.第1表より,夏季の低温,日照不足及び日射量不足が著しかったことがわかる.仮に,夏の気候が平年並みであったならば,試験結果から得られた傾向は,より顕著のものになっていただろうと推察される.
ポットを置いた面積から換算したu当たりの収量は, 5月1日移植区で190.6g,5月15日移植区で168.8g,5月29日移植区で123.4g,6月12日移植区で131.3g,平均で153.5gとなった.明石(2003)は、同様の試験における10a換算で163kgの収量が得られたと述べている.また、実際の栽培では、有松・林(1985)によると、1977年以降のカリフォルニアの水田利用の栽培において、約7000haで5400トンの生産(10a当たりに換算すると約77kg)があると報告されている.

2.形態観察
生体断面の観察では,根や葉の組織によく発達した破生通気組織が観察された(第9図,第10図).これは、イネと同様に、地上部から根に酸素を送る機能をもつと考えられるため、湛水条件下でも生育できるとみられる.


3.発芽率調査
(1)冷却処理による発芽率調査
第2表より、浸漬期間が長いほど発芽率が高くなる傾向がみられた.また、籾を除去した場合のほうが、籾のついている場合に比べ発芽率が高かった.そのため、ワイルドライスの発芽には、籾の除去は有効であると考えられる.
岡(1989)によると、ワイルドライスの新種子は90〜190日の低温水中貯蔵の後発芽を始める、としている.

(2)ジベレリン処理による発芽率調査
全てのシャーレでカビが繁殖し、また種子の発芽もみられず、実験は失敗となった.実験に際しては、事前に種子殺菌などの処理が必要であったと考えられる. Cardwell et al.(1978)は、GA3濃度をかえて(0.01〜5μM)発芽試験を行った.この実験では、ジベレリン濃度が高いほど発芽率は高くなるという結果を得た.

X.謝辞
 本研究の遂行と本論文の取りまとめにあたり、適切な御指導と御助言を頂いた作物栽培学研究室の吉田智彦教授、三浦邦夫助教授、和田義春助教授、作物生産技術学研究室の前田忠信教授に心より感謝申し上げます.また、ワイルドライスの生育期間中の宇都宮大学峰圃場付近の気象データを提供してくださった土壌学研究室の星野幸一技官には謹んで感謝申し上げます.
 また、本研究を行うにあたり、卒論とはいったいどういうものなのかわからなかった私達に、設計の段階から実験データの処理の仕方まで、貴重なアドバイス、多大な協力をしてくださった本研究室のアナスさん、肥田野善隆先輩、作物生産技術学研究室の久保二郎先輩、リー・トン先輩、朝妻英治先輩、本当にありがとうございました.そして、ともに悩み、励ましあい、協力してくださった4年生の大柿光代さん、中村綾子さん、人見成郎君、間庭昭雄君、若井めぐみさん、その他お世話になった全ての方々に厚く感謝致します.ありがとうございました.
Y.引用文献
・明石春奈 2003.ワイルドライスの形態観察および収量調査.宇都宮大学農学部生物生産科
学科作物栽培学研究室卒業論文.
・有松晃・林利宗 1985.北米におけるワイルドライスの調査.農業構造問題研究147:75−92.
・Cardwell,V.B.,E.A.Oelke and W.A.Elliott 1978.Seed dormancy mechanisms in 
wild rice(Zizania aquatica).Agron.J.70:481−484.
・Everett,L.A.and R.E.Stucker 1983.A comparison of selection methods for 
reducing shattering in wild rice.Crop Sci.23:956−960.
・源馬琢磨・三浦秀穂 1986.アメリカマコモ(Zizania palustris L.)種子の発芽に及ぼす
浸漬処理ならびに種皮処理の効果.帯大研報T,15−1:65−68.
・源馬琢磨・三浦秀穂・林克昌 1993.ワイルドライス幼植物体の生育に及ぼす水深と温度の
影響.日作紀 62(3):414−418.
・村上高 1988.ワイルドライスの植物学的位置と食品的価値.農業および園芸63(12):13−15.
・岡彦一 1989.アメリカンワイルドライス(Zizania)における栽培化と育種.育種39:111−117.


Yield of Wildrice in Different Transplanting Time

Takumi Anazawa

Summary

To demonstrate the possibility of cultivation on Wildrice(Zizania palustris L.)in Japan, grain yield and yield components in different transplanting time, leaf and root morphology and percentage of germination are examined.
Grain yield, stem number and grain number per plant decreased as transplanting time became late. Seed-set percentage was high as transplanting time became late. Period from transplanting to heading and period from heading to flowering became short as transplanting time became late. Grain yield per square meter estimated from occupied area of the pots was 153.5g on average.
In microscopic observation of cross section of tissues, lysigenous aerenchyma were observed in leaf and root.
Percentage of germination was higher as long refrigerated storage. And when wild rice seeds were dehulled, percentage of germination was higher compared to non-dehulled seeds.

 
写真
第9図 根における断面の様子
第10図 葉における断面の様子
移植直後の様子
雌花開花の様子
雄花開花の様子
第一葉(不完全葉)とメソコチルの観察
ワイルドライスの子実と脱ぷした子実
ワイルドライスのクリームスープ
ワイルドライスのサラダ

表
5/1	5/15	5/29	6/12
草丈		108.4 	112.1 	107.4 	118.8 
重量		4.88 	4.32 	3.16 	3.36 
結実率		47%	53%	60%	54%
茎数		7 	5.59 	4.5 	4.5 
千粒重		41.6	34.4	35.7	37.1
粒数		106.47 	97.72 	88.54 	90.58 
出穂期		5/27	6/3	6/15	6/30
開花日		6/3	6/8	6/20	7/4
移植期と出穂期の差		26 	19 	17 	18 
移植期と開花期の差		33 	24 	22 	22 
出穂期と開花期の差		7 	5 	5 	4


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