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トウジンビエを早生,短稈,長穂で循環選抜した場合遺伝獲得量や遺伝相関

2003年1月31日
宇都宮大学 農学部 生物生産科学科
植物生産学コース 作物栽培学研究室
            993169K 白鳥 智美


目次

T 要旨	1

U 緒言	2

V 材料と方法
  1.S0集団の育成,及び選抜	3
(1)	栽培方法
(2)	選抜方法及び調査方法
2.S1集団の育成,及び調査	4
(1)	宇都宮大学内での実験
(2)	インドネシアでの実験
(3)	調査方法
  3.遺伝率と遺伝相関の推定方法	5

W 結果及び考察
1.S1集団の選抜	6
2.循環選抜の効果	13

X 謝辞	16

Y 引用文献	17

  Summary	18

    付表	19

  写真                              

T.要旨

トウジンビエ(Pennisetum typhoideum Rich. )の子実収量を向上させるため,早生,短稈,長穂という3つの形質において循環選抜を行った.
遺伝獲得量から推定した遺伝率は出穂日が0.36,稈長が0.59,穂長が0.41となり,選抜の効果が認められた.
 また,穂長と出穂日の遺伝相関は‐0.97となった.穂長と稈長の間の遺伝相関は0.73となった.穂長と稈長の間には表現型においても0.237
と相関が見られており,短稈品種からの長穂品種の選抜は難しいと考えられる.

U.緒言
 
 トウジンビエ(Pennisetum typhoideum Rich. 2n=14)は他殖性作物である.高温,乾燥など,過酷な環境下でも生育でき,世界の半乾燥熱帯
における非常に重要な作物となっている.タンパク質含量が主な穀実作物の中で最も高く,CaやP,Feも多く含んでいる.子実は粉にしてチャ
パティやパン,おかゆにしたり,砂糖やピーナッツなどと調理してデザートを作ったりする(Burtonら 1972).USAやオーストラリアなどでは良質
の飼料として茎葉を利用するほか,主にアフリカやインドでは穀実作物として2600万haもの栽培がある(Kumar and Andrews 1993).これらの地
域では,毎年安定した収量をあげることが重要であるが,在来種は高く細い稈で弱いために倒伏したり,収穫の前に水分欠乏に陥ったりする
ことで収量が低下してしまう.
 よって本研究では,世界的には重要な穀実作物であるトウジンビエ雑種集団を循環選抜することで,子実生産の向上を試みた.循環選抜とは,
ある集団内で遺伝的変異を保ったまま,交配と選抜を繰り返して希望遺伝子を集積する育種操作で,主に他殖性作物の集団を改良するために
用いられている(Fehr 1987).トウジンビエの循環選抜についてはすでにいくつかの報告があり,Ghoropade and Metta(1993),Rattundeら(1989),
Shekhawatら(1993),が子実収量での選抜効果を認めている.また,吉田ら(1999)は子実収量や収量関連形質について2回の循環選抜を行い,
子実収量の向上を目的とした収量関連形質による間接選抜も有効である,と述べている.
今回目的とした形質は,第1に各種障害を避け,また他作物とのローテーションが可能な早生化,第2に耐倒伏性のための短稈化,第3に多収
のために長穂のものである.各形質別に選抜を行った.
また,選抜試験の結果から,各形質の遺伝率及び遺伝相関を推定した.
 
V.材料と方法

 選抜の対象とした形質は,早生,短稈,長穂である.それぞれを選抜の対象とする集団を,以下早生集団,短稈集団,長穂集団とする.

1.S0集団の育成,及び選抜
(1)栽培方法
2002年5月7日,原集団(S0)を宇都宮大学温室内のポット(20×16cm)に数粒ずつ播種した.原集団となったものはインドのICRISAT(国際半乾
燥熱帯作物研究所)より導入した短稈,早生の集団であるICMV89074である(吉田・角田 1996).元肥のみ,窒素を各ポット0.5gずつ施肥した.
除草剤は使用せず,随時手で除草した.水やりは1日1回行うことを原則としたが,夏の暑い日は朝と夕,1日2回行った.出芽の約2週間後に各
ポット2個体になるように間引いた.
各集団,約200個体を育成し,上位10%を示す個体を選抜した.選抜した個体においては出穂直後に原集団とは隔離し,穂に紙袋をかけ,開花
後,集団内でできるだけ各個体同士が均等に授粉されるように多交配を手作業で行った.
8月30日に収穫した.できるだけ各個体から均一な種子数を採るため,各集団別に選抜された個体の穂を約15cmカットし,それぞれ採種し,
これをS1とした.また,原集団から均等に種子をとり,S0集団を維持した.

(2)選抜方法及び調査方法
1)	早生集団
 出穂日が早いものから選抜した.この集団は全個体において,出穂日,稈長,穂長を測定した.
2)短稈集団
  稈長が短いと判断できる個体(約80cm以下)を,出穂日が著しく遅いものを除いて選抜した.全個体において,稈長を測定した.
3)長穂集団
  穂が長いと判断できる個体(約20cm以上)を出穂日が著しく遅いものを除いて選抜した.全個体において,穂長を測定した.   
 
2.S1集団の育成,及び調査
 宇都宮大学内の畑と,インドネシアのSOEDIRMAN大学内の畑の二ヵ所で育成した.
(1)	宇都宮大学内での実験
S0集団及び早生,短稈,長穂において選抜されたS1集団を2002年9月2日,宇都宮大学内の畑に播種した.元肥のみ,窒素3g/uを施肥した.
試験区は1区が条長2m, 条間60cmからなり,2反復行った.出芽の約2週間後に株間約10pになるように間引いた.

(2)インドネシアでの実験
  S0集団及び早生,短稈,長穂において選抜されたS1集団を2002年11月11日インドネシアのSOEDIRMAN大学内の畑に播種した.元肥のみ
1区に窒素が5gになるように施肥した.試験区は1区が条長2m,条間50cmの3条からなる.4反復行った.出芽後,株間約30cmになるように間引いた.

(3)調査方法
1) 出穂日
 各集団の収穫日について調査した.
2) 稈長及び穂長
 主稈の稈長及び穂長を,各区生育中庸な5個体について調査した.

3.遺伝率と遺伝相関の推定方法
 選抜試験の結果から,遺伝率と遺伝相関を求めた.
 遺伝率とは,遺伝する割合のことで,0〜1の値で示され,1に近ければその形質は次代に強く表現される.遺伝相関は-1〜1の値で示され,
絶対値が1に近いほど第1の形質と第2の形質において遺伝的に密接な関係にあることを示す. 
S1集団での遺伝率は,遺伝率=遺伝獲得量/選抜差で求めることができる.ここで原集団の平均値をM,原集団における選抜群の平均値を
M',次世代の平均値をM1,選抜群の平均値をM1'とすると,遺伝獲得量は(M1− M1'),選抜差は(M−M')である.
遺伝相関(rA)は,rA =(CRx ix hx)/(Rx iy hy)で求めることができる(Totok 2002).ここで,Rxはある形質(第一の形質)で直接選抜したときの
その形質の増加量,CRxは第二の形質で間接的に選抜したときの第一の形質の増加量,ixとiyは第一と第二の形質の選抜強度(σ単位.10%
のときは1.75),hxとhyは第一と第二の形質の遺伝率の平方根である.今回は第1の形質を穂長として,出穂日,稈長との関係をみた.
 
W.結果および考察

1.S1集団の選抜 
第1図に出穂迄日数の頻度分布を示した.播種後71日〜80日の間に出穂する個体が多かった.全集団での平均値は81日,選抜集団の平均値
は67日で,選抜差は14(日)になった.
 第2図に稈長の頻度分布を示した.稈長が80〜100cmの個体が多く見られた.全集団での平均値は95.3cm,選抜集団の平均値は65.6cmで,
選抜差は29.7 (cm)となった.
 第3図に穂長の頻度分布を示した.穂長においては,15〜20cmの個体が最も多く見られた.全集団での平均値は18.0cm,選抜集団の平均
値は25.8cmであり,選抜差は‐7.8(cm)となった.
S0集団での稈長と出穂迄日数の関係をみると(第4図)相関係数が‐0.081となっており相関がみられなかった.今回は出穂迄日数が多くなるほど,
稈長が長くなるという傾向は認められなかった.このことから,早生品種から短稈品種を選抜できる可能性があると考えられる.
第5図に穂長と出穂迄日数の関係を示した.こちらは相関係数が‐0.377となり相関がみられた.よって,出穂迄日数が多くなるほど穂長が短くなる
という傾向がみられた.これより早生品種から長穂品種が選抜できる可能性があると考えられる.
 第6図に穂長と稈長の関係を示した.こちらも相関係数が0.237となり相関がみられた.よって,稈長が長いほど穂長も長くなる傾向が見られた.
これより長稈品種から長穂品種が選抜できる可能性があると考えられる. 

 第1図 出穂迄日数の頻度分布
 第2図 稈長の頻度分布
 第3図 穂長の頻度分布
 第4図 稈長と出穂迄日数の関係
 第5図 穂長と出穂迄日数の関係
**:1%水準で有意
 第6図 穂長と稈長の関係
 
2.循環選抜の効果
 宇都宮大学で育成したS1は,早生集団で出芽不良,全区においてネキリムシによる倒伏が見られたものの各区約20個体を育成した.しかし,
11月上旬の低温により全て枯死した.
 インドネシアのSOEDIRMAN大学で育成したS1においても出芽不良が見られたが,各区約20個体が育成された.調査はこちらで育成したもの
のみで行った.第1表に次代における各集団の調査結果を示した.第2表には各形質別の選抜結果と遺伝率の値を示した.
稈長は選抜差が29.7(cm),遺伝獲得量が116.2−98.8=17.4(cm)で,遺伝率は0.59となり.集団全体の稈長は長くなる傾向があったが,比較的
高い遺伝率を示した.また,今回選抜した形質の中で最も高い遺伝率を示した.
穂長は選抜差が7.8(cm),遺伝獲得量が32.4−29.2=3.2(cm)で,遺伝率は0.41となった.
出穂迄日数(次代では収穫迄日数)は選抜差14,遺伝獲得量が80−75=5で,遺伝率は0.36となった.これは3形質の中で最も低い遺伝率とな
っている.しかしこれは,次代の調査を収穫迄日数で行ったことが原因とも考えられ,もう一度出穂迄日数で調査する必要があると考えられる.
第3表に,穂長を第1の形質としたときの出穂日と稈長の遺伝相関の値を示した.穂長と出穂日の遺伝相関は‐0.97となり出穂が遅くなるほど穂
長が短くなるという傾向を示した.これは表現型相関で見られた傾向と異なっていない(第5図).しかし,第1表の調査結果から考えると,実際は
出穂が遅いほど穂も長くなるという傾向が見られている.表現型相関で負の相関が見られたのは,栽植密度が狭かったことにより,日照不足や
養分不足におちいった個体が,遅い時期に短い穂を出穂させたことががなり影響していると考えられる.また,遺伝相関においても同じ傾向が
見られたのは,S1集団選抜の際に著しく出穂が遅いものを除いて交配を行ったことにより生じたゆがみや,先ほども述べたように出穂日を収穫
日で調査したことによって起こった判定の誤差などが影響していると考えられる.もう一度選抜方法や栽培方法を検討しなおす必要があると思
われる.
穂長と稈長の間の遺伝相関は0.73で稈長が長くなるほど穂も長くなるという傾向が見られた.表現型でも相関係数が0.237と相関が見られてお
り(第6図),短稈集団から長穂集団の選抜は難しいということが明らかになった.しかし筆者の観察において,短稈のものでも茎が太いものは穂
長も長いものが多かった.よって,短稈であるのと同時に茎の太さも選抜形質に加えることで,短稈品種から長穂品種を選抜できる可能性出て
くると考えられる.また,集団の数を増やし遺伝的変異の幅を大きくする事も有効と考えられる.



X.謝辞  本研究の遂行にあたり,終始ご指導とご助言をいただいた,作物栽培学研究室の吉田智彦教授,三浦邦夫助教授,和田義春助教授,作物 生産技術学研究室の前田忠信教授に厚く御礼申し上げます.また,インドネシアでの実験に協力していただいた,SOEDIRMAN大学の Professor TOTOK Agung Dwi Haryanto はじめ学生の皆さんに心より感謝いたします.  最後に,データ処理の仕方などを根気よく教えて下さった先輩方,励ましあい,協力し合いながらともに頑張ってきた4年生の皆さん,その他 お世話になった全ての方々に心から感謝を申し上げます.ありがとうございました. Y.引用文献 ・Burton, G. W., A. T. Wallance and K. O. Rachie 1972. Chmical composition and nutritive value of pearl millet (Pennisetum typhoides (Burm.) Stapf and E. C. Hubbard) Grain. Crop Sci 12:187-188. ・Kumar, K. A. and D. J. Andrews 1993. Genetics of qualitative traits in pearl millet : A review. Crop Sci. 33:1-20. ・Fehr W. R. 1987. Principles of Cultiver Development. Vol.1 Theory and technique. Macmillan Pub., New York. 95-105, 219-246. ・Ghorpade, P.B. and L.V.Metta 1993. Quantitative genetic studies in relation to population improvement in pearl millet. Indian J.Genet. 53:1-3. ・Rattunde,H.F., P.Singh and J.R.Witcombe 1989. Feasibility of mass selection in pearl millet. Crop Sci. 29:1423-1427. ・Shekhawat S.S., S.L.Dashora, E.V.D.Sastry and R.K.Sharma 1993. Components of gengetic variation and response of selection in pearl millet (Pennisetum tyhoides). Indian J.Genet. 53:109-114. ・吉田智彦・TOTOK Agung Dwi Haryanto・Nguyen Duy CAN 1999. トウジンビエを2回循環選抜した場合の収量関連形質の遺伝獲得量や 遺伝相関.日作紀 68(2):253-256. ・吉田智彦・角田幸大郎 1996. トウジンビエの集団選抜および改良集団の収量. 日作紀 65:58―62. ・TOTOK Agung Dwi Haryanto 2002. Procedures for Estimating the Heritability Values,Genetic Correlations and Combining Abilities of Several Agronomic Characters. http://www.d1.dion.ne.jp/~tmhk/yosida/heritability.htm Genetic Gains and Genetic Correlations in Pearl Millet after Recurrent Selection on Early Maturing, Short Culm and Panicle Length Tomomi Shirotori Summary Recurrent selection for high grain yield was applied on a pearl millet population. Objects of selection were early maturing, short culm and long panicle. Heritability estimated by the genetic gain were 0.36 for heading date, 0.59 for culm length and 0.41 for panicle length, respectively. Effects of selection were shown on all traits. The genetic correlations were −0.97 and 0.73 for panicle length vs. heading date and panicle length vs. culm length. The phenotypic correlation was 0.237 for panicle length vs. culm length. Accordingly, it seems that selection of a long panicle variety with short culm is difficult. 第1表 調査結果 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 形質     S0集団 早生集団 短稈集団 長穂集団 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 出穂迄日数   80* 75 78 77 稈長 cm 116.2 110.6 98.8 121.4 穂長 cm 29.2 26.3 32.0 32.4 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 第2表   選抜形質の遺伝率 ―――――――――――――――――――――――――――――――――          原集団での        次代での  形質      M1* M2 M1 M2 遺伝率** ――――――――――――――――――――――――――――――――― 出穂迄日数** 81 67 80 75 0.36 稈長 cm 95.3 65.6 116.2 98.8 0.59 穂長 cm 18.0 25.8 29.2 32.4 0.41 ――――――――――――――――――――――――――――――――― M1=全平均値,M2=選抜群の平均値 **遺伝率=遺伝獲得量/選抜差.なお,選抜差=原集団での(M1-M2). 遺伝獲得量=次代での(M1-M2) ***次代での値は収穫迄日数 第3表 選抜形質の遺伝相関 ―――――――――       穂長 ――――――――― 出穂日  -0.97 稈長  0.73 ―――――――――
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