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堆肥多量施用における水稲有機栽培の
栽植密度が生育,収量に及ぼす影響



2003年1月31日
宇都宮大学農学部生物生産科
植物生産学コース 作物生産技術学研究室
向田 直純


目次

T.緒言	1

U.材料と方法                       
1	栽培方法	2
2	試験圃場及び試験区 	2
3	調査項目及び調査方法 	3

V.結果及び考察
1	気象経過及び生育概況 	11
2	生育経過	13
3	コイの放飼及び雑草発生状況	20
4	葉面積,乾物重,窒素吸収及び生長解析 	27
5	収量及び収量構成要素                  	37

W.摘要                                               	42
  Summary                     	43

X.謝辞                                               	44

Y.引用文献                                           	45

Z.付表                                               	47

T 緒言

 今日の水稲栽培は,農薬の散布により雑草や病害虫を防除し,化学肥料の施肥により高い収量を得た.効率的な生産が可能になった一方で,農薬や肥料の河川等への流出など環境問題が発生してきている.また,近年では米価格の低下が進む中で,コスト削減や安全性,良質・良食味などが求められ、有機栽培や無農薬栽培,低農薬栽培が盛んになってきた.これらの,栽培法を確立するには堆肥等の有機物の施用が重要となる.片野ら(1983a),大山(1985),前田(2001),玉置(2002)は堆肥等有機物の連年施用における,水稲の生育収量への影響について検討した.しかし,有機栽培は生育や収量が化学肥料を使用した慣行栽培に劣るとされている.その原因は,初期生育の悪さ(関口 1997)や穂数不足による収量の低下(斎藤 2001,前田 2001)であるとされる.  稲体を,健全に維持するには病虫害を発生させず,生育を良い状態に保つことである.さらに,稲体の健全性には栽植密度が大きく影響を与えており,一般的に栽植密度が高まると病虫害の被害程度が大きくなるといわれている.このため,有機栽培を行う方法として疎植栽培を挙げることができる.疎植栽培において,栽植密度が地上部・地下部の生育に大きく関係すること(田中・有馬 1996)や疎植と施肥法の関係(平野ら 1997),自然農法との関係(片野ら 1983b),病虫害との関係(前田 2002)等様々な検討が行われてきた.  そこで本研究では,宇都宮大学農学部附属農場で1997年より堆肥を10aあたり10tあるいは5tの多量投入を行い,有機栽培の収量増加に取り組んできた堆肥多量連年施用水田を用い,栽植密度の異なる区を設け生育,収量,乾物生産,窒素吸収に及ぼす影響について検討した. また,有機栽培に取り組む中で雑草防除を欠かすことはできない.雑草防除として,竹ぼうきやコイ放飼,除草機などを組合せた除草方法の有用性を検討した.

U 材料と方法

1,栽培方法
 試験は真岡市下篭谷地区にある宇都宮大学附属農場内水田(黒ぼく土)において行った.品種は水稲品種コシヒカリを供試した.種子は4月16日に比重1.13で塩水選を行い,5日間浸種した後32℃の定温器中で15時間催芽処理を行った.催芽種子は,4月23日に60p×30p×3pの田植機移植用育苗箱に乾籾換算で80g/箱を播種した.育苗床土として黒ぼく土である山土を使用し,箱の元肥として発酵鶏糞(成分でN2.7-P7.3-K4.1)を250g/箱用いた.播種の際,種子消毒・土壌消毒の殺菌剤は使用しなかった.育苗箱は,ハウス内で保温シートをかけて4日間育苗し,その後保温シートをはずし,農場の慣行法で育苗した.代掻きは,5月15日に荒代を,5月21日に植代を行った.5月22日に6条乗用田植機で葉齢3.5程度の稚苗を一株あたり約3本植とした.

2,試験圃場及び試験区
試験区の構成を第1表に,配置を第1図に示した.試験圃場は,有機栽培で堆肥の施用量として5t区を設け,それぞれ除草方法としてほうき区とコイ区を設置した.5t区は,10aあたり1997年に10t,1998年から2000年は各5t,2001年は10tの堆肥が投入されている.2002年は5tの堆肥を,マニアスプレッターで2月21日に全面散布した.対照区として堆肥2tを1991年より連年施用し,化学肥料をNで5kg与えた低農薬栽培圃場で除草剤を1回,及びイネミズゾウムシの対策として殺虫剤1回を使用した2t化肥区を設けた.2t化肥区は,10aあたり1991年から1994年は各5t,1995年からは各2tの堆肥が投入された圃場で,10aあたり窒素で5kgの化学肥料を,6条乗用側条施肥田植機を用い側条施肥及び人力による全面施用で行った.栽植密度はuあたり16.6株(30p×20p)の疎植区,20.8株(30p×16p)の密植区に設定し,水管理は深水で常時湛水を保つようにした.
 除草方法で,ほうき区はほうき除草と除草機による除草を行う区で,農薬・化学肥料は使用していない.5月30日と6月6日の2回,ほうき除草を行った.除草機による機械除草は,6月27日に1回行った.手取り除草は,6月14日・15日に1回行った.ほうき除草は,竹ぼうきで条間を掃いて土壌表層を攪拌し,雑草の光合成を泥水で阻害することで生育の抑制や雑草の定着を防ぐ方法である(写真1参照).機械除草は,雑草を土壌に埋め込む方法である.
 コイ区は,5月28日に体長16〜20p・体重60〜123gのコイを10aに200匹放飼した.農薬・化学肥料は使用しない.コイ除草の効果が,場所により劣ったので全体を除草機による機械除草を7月4日に1回,手取り除草を6月12日・13日に1回行った.コイ区には圃場の周囲に溝を作り,水が減少してもコイが干上がらないようにした.コイ放飼中は深水で管理し,常時10cm程度の湛水深を保つようにした.コイの逃げ場として1uの板を,中央に4ヶ所,隅に4ヶ所の計8ヶ所に設置した(写真2,3参照).
2t化肥区は,農薬として5月28日に除草剤キックバイを10aあたり1kg,6月4日にイネミズゾウムシ対策の殺虫剤シクロパック粒剤を10aあたり360g散布した.

3,調査項目及び調査方法
(1)生育調査
 生育調査は,試験区ごとに周囲を含めて欠株のない10株(5株2畦間)を1つの調査地点として,1試験区あたり3反復行い,草丈・茎数・葉数・葉色の4項目について調査した.草丈・茎数・葉数は,6月11日以降2週間ごとに測定した.葉色は,7月9日以降2週間ごとに測定した.葉色の測定には,ミノルタ社製自動葉緑素計(SPAD502)を用いて最上位展開葉の前葉の中央部分を測定した.

(2)雑草調査
 雑草調査は,ほうき区・コイ区で行った.60p×50pの0.3uを1つの調査区として,1試験区あたり3反復行った.8月7日に調査地点内のすべての雑草を抜き取り,種類ごとに分けて本数を数えた.根に付着した泥やごみを洗い落とし,80℃で乾燥させて重量を測定した.本数と乾物重は1uあたりに換算した. 雑草調査地点は,試験区内との雑草発生の差を無くすため,各試験区の除草方法で除草を行った.

(3)乾物重及び窒素吸収量調査
 最高分げつ期の7月9日,穂揃期の8月8日・9日,収穫期の9月17日に稲株を掘り取り,調査をした.生育調査地点の平均茎数を調べ,平均茎数を持つ株を各調査地点の周辺から2株掘り取って行った.掘り取った株に付着した泥やごみを洗い落とし,葉面積を測定した後に穂・葉身・葉鞘に分けて、80℃で乾燥させて重量を測定した.乾物測定後の試料を,器官ごとに約1cmに裁断し,よく攪拌したものから約3gを取り出し,粉砕したものを用い島津社製NCアナライザーで測定した.

(4)収量及び収量構成要素
 収量調査は,9月18日に各区3反復で行い,1反復あたり10株×4列の計40株を,地際から刈り取り,穂数を数え,風乾した後に全重・精籾重・総玄米重・精玄米重・水分含量を測定した.粒厚1.8mm以上を精玄米として,水分15%に換算し精玄米重とした.
 収量構成要素は,9月19日収量調査地点から得た穂数のデータをもとに収量調査地点の周辺から各地点の平均的な穂数を持つ株を1反復あたり5株掘り取った.各株の平均的な穂4本を取り出し,1反復あたり20穂の籾数を数え比重1.06の塩水選を行い,登熟籾数を数え,1穂籾数と登熟歩合を算出した.各株から全長の長い順に3茎抜き出し,1反復あたり15本の穂長と節間長を測定した.収量調査の刈り取り時に,坪刈り地点と周辺部の倒伏程度を調査し倒伏しなかったものを0,完全倒伏したものを5として0〜5の6段階で表した.

V 結果及び考察

1,気象経過及び生育概況

(1)気象経過
本年は,田植え後の活着期から分げつ期にかけて初期生育期間は,晴天の日が続き天候が良く経過した.6月下旬から7月上旬にかけてやや低温であったが,7月中旬から9月上旬にかけて気温が高く,登熟期間の日照時間も多く全体的に良好であった.台風の発生頻度は平年と同様であったが,生育期間中の被害は見られなかった.

(2)生育概況
生育状況を第2表に示した.育苗箱基肥に用いた発酵鶏糞は,有機肥料の中では速効性と言われており苗期の生育が良かった.イネミズゾウムシの発生は少なく,葉の食害や幼虫による根の食害は極めて少なかった.分げつ発生も順調であったが,雑草の発生と生育が初期高温で早く,手取り除草が必要であった.高温だったが降水量が少なかったために多湿にならず,7月31日の葉いもち病の調査と9月3日の穂いもち病の調査で発生は見られなかった.出穂は平年並で8月6日・7日であった.台風の被害がなかったため倒伏はほとんどなくややなびく程度で,全体を通して平年よりも良い生育であった.

2,生育経過

(1)草丈の推移
 草丈の推移を第2図に示した.移植から2週間後の,6月11日で5tほうき疎植区が一番低く,その後も低いまま推移した.全体を通して見ると,5tほうき区では疎植区よりも密植区で高くなった.5tコイ区では,6月11日から7月9日では密植区が高く,7月23日以降では疎植区で高くなった.2t化肥区では,6月11日と6月25日で密植区が高く,7月9日では疎植区が高くなり,以降は交互に高くなった.2t化肥区は5t区に比べやや高い傾向が見られ,密度間の差は少なかった.
 5tほうき疎植区の初期草丈が低かったのは,雑草発生が多かった影響が出たものと考えられる.2t化肥区では,速効性の肥料である化学肥料効果があった.その後は,堆肥が最高分げつ期以降の草丈を高くし,堆肥中に含まれる窒素の大部分が遅効性であるために徐々に肥効が現れた(松崎 1992)からだと考えられる.

(2)茎数の推移
 茎数の推移を第3図に示した.茎数は初期から最高分げつ期までは急激に増加し,最大茎数に達したあと減数分裂期にかけて緩やかに減少した.6月11日では,2t化肥区が多く次いで5tほうき密植区,5tコイ密植区,5tほうき疎植区,5tコイ疎植区となった.この時点で,5tほうき疎植区,5tコイ疎植区で茎数が少なく,以降他区に追いつくことはできなかった.7月9日では,5tほうき密植区が多い値を示した.全体を通して見てみると,5tほうき区,5tコイ区では疎植区よりも密植区で多かった.2t化肥区では6月11日から7月23日では疎植区で多く,8月6日で密植区が多くなった.生育状況の有効茎歩合を見ると,全区で密植区よりも疎植区において多くなり,5tほうき密植区での有効茎歩合は76.1%と低かった.
 5t疎植区において,初期生育での分げつの発生と最高茎数が少なかったので穂数の確保ができなかった.疎植での分げつの発生が株あたりでは多かったが,面積あたりの個体数では少なかった影響が大きかったことと,密植区よりも疎植区で雑草が多く発生した影響であると考えられる.冨樫(2000)は,堆肥が生育後半まで肥効が続き有効分げつを多く獲得できたこと,分げつの発生が少なかったために有効茎歩合が高くなったと,している.

(3)葉数の推移
 葉数の推移を第4図に示した.葉数はすべての試験区で,ほぼ同様に推移したが,8月6日の5tほうき疎植区で低い値となった.全体を見ると,5tコイ区では6月11日で密植区が高く,6月25日から7月23日までは疎植区が高くなり,8月6日では密植区が高くなった.化学肥料を使用した,2t化肥区においてやや高く推移した.

(4)葉色値の推移
 葉色値の推移を第5図に示した.5tほうき疎植区では,7月23日に他の区が低下したが,最も高かくなった.2t化肥区で,7月23日から8月6日にかけて値が高く推移した. 5t区の値は,8月6日から8月20日にかけて上昇し,2t化肥区では減少している.8月20日以降に,すべての試験区で急激な低下が見られた.5tほうき疎植区で5tほうき密植区より高くなったが,5tコイ区,2t化肥区では疎植区よりも密植区で高くなるという結果が得られた. 葉色値は,葉身の窒素含有率と強い正の相関がある(松島 1980)とされている.5t区で,8月20日では堆肥が遅効性であるために生育後半の出穂期にかけて,肥効が現れ高い値を示したのだと考えられる.2t化肥区での8月6日の値が高いことは,7月15日と7月24日に行った化学肥料の追肥による影響で,速効性であることから窒素が稲体にとって有効な形となり効果を与えたものだと考えられる.しかし,持続性がないため8月20日には低い値となった.

3,コイの放飼及び雑草発生状況

(1)コイ放飼
コイ放飼区には,鳥害を防ぐために縦横5メートル間隔で釣り糸が交差するように張った.コイの活動を促し,圃場全体で移動できるようにするためにコイ放飼区の周囲に溝を掘り,コイの逃げ場として1uの板を第6図のように設置した.6月よりコイの活動は部分的になり,8月での回収はできなかった.その原因として,アオサギやカラスが飛んでいたことやコイの死骸が見られなかったことから推察すると,鳥に捕食されたと考えられる.雑草発生始期の頃は,コイの活動が活発であり雑草防除の効果があったが,コイ数の減少によってコイの動く場所が限られてしまい,部分的に雑草防除効果の劣る場所が生じた.
コイの逃げ場として板を置いたが,この板の上に鳥の足跡が見られた.鳥が板の上に乗りコイを捕食したもと考えられたので,6月の始めに板の上に釣り糸がくるように斜めに張った.釣り糸を張る高さや間隔を工夫するなどの検討が必要である.鳥害を回避すれば,コイの回収率を高めコストの削減も可能で,雑草防除効果を持続させることができると考える.

(2)雑草発生状況
雑草発生本数を第7図に示した.単位面積あたりの雑草発生本数は,5tほうき区で5tコイ区よりも雑草発生本数が多く,ほうき除草の効果が少なかったためと思われる.5tほうき区内で見てみると,疎植区で密植区よりも多く発生し,5tコイ区内でも同様の結果であった.雑草の種類別に見ると,全ての区でコナギが最も多く発生し,キカシグサは5tほうき疎植区で多かった.本年は天候に恵まれ,高温・高日照の日が続いた.雑草の発生,成長が早く,1週間に1度のほうき除草の回数では防除が追いつかず,3週間目はほうき除草を断念し手かき除草を行った.
雑草乾物重を第8図に示した.単位面積あたり雑草乾物重は,雑草発生量の多い5t疎植区でコナギが5t密植区よりも多かった.本数ではコナギの次に多かったキカシグサは1固体が小さいため乾物重は極端に小さくなった.疎植区では,密度が薄いために光が田面にまでとどき雑草が発生,繁殖しやすい環境になり,密植区に比べると発生本数・乾物重の値が高く,5tコイ密植区では比較的に雑草の本数も乾物重も少なかった. ほうき区とコイ区の調査地点別雑草発生状況を第3表に示し,コイ区における雑草調査区を第9図に示した.ほうき区では,疎植区の調査区2で発生本数,乾物重の値が高く,密植区の調査区3では低くなった.コイ区では,両区の調査区2と密植区の調査区3において発生本数,乾物重ともに低くなった.ほうき区,コイ区ともに調査地点による差が大きかった.コイ区では,コイの逃げ場設定を中央に4ヶ所置き,その付近をコイが移動したため少なくなったとも考えられる.雑草発生量が少なかった場所は,コイの移動による水の濁りや発生直後の雑草が浮いているのが確認された.コイ放飼区では,疎植区,密植区とも雑草調査試験区の場所によって,雑草の発生本数・乾物重ともに大きな差がみられた.コイの行動範囲に,偏りがあったことを示している.
コイが移動したときに,土壌を攪拌し水濁させることが光を遮断し,雑草の光合成を阻害して雑草の発生を抑制していると考えられる.いったん雑草が土壌に根を活着させ,大きく成長すると,コイの移動が妨げられコイの力では除草が出来なくなり,その後の除草効果がまったく期待できなくなってしまう.雑草の発生初期にコイの除草効果を十分に発揮させることが,栽培期間中の雑草防除効果の維持に重要であると考えられる.田面が高い場所は,コイの移動の妨げになるため田面を均一にすることや,鳥害の対策,深水管理などを徹底することが必要である.

4,葉面積,乾物重,窒素吸収及び生長解析

(1)葉面積
 葉面積指数(LAI)を第10図に示した.全ての区で,出穂期に最大に達しだが,2t化肥区は3を越え,5t区ではほうき密植区が最大で3に近い値で,疎植区より密植区で大きく以降は低下した.5tほうき疎植区では,最高分げつ期,穂揃期で他区に比べ低かった.2t化肥区に比べ,5t区では穂揃い期以降の減少割合が低く,2t化肥区と同程度であった.5t区内の,疎植区と密植区を比較すると疎植区よりも密植区で高かった.  5tほうき疎植区では,雑草による影響が大きかったためと考えられる.5t区では,肥効が現れるのが遅く5tほうき密植区を除いて,最高分げつ期で2t化肥区と比べて低かったが,生育後半の収穫期にかけて効果が現れ,減少する割合が少なかったので収穫期において比較的高かったと考えられる.2t化肥区では,化学肥料の施用により最高分げつ期から高く,穂揃期で高かった.5t区内の疎植区と密植区では,疎植区で茎数が少なかったため,葉面積を十分に確保することができず,密植区よりも疎植区で低くなったのだと考えられる.

(2)乾物重
部位別乾物重を第11図に示した.2t化肥区の最高分げつ期では,密植区よりも疎植区で高かった.その他は,疎植区と密植区での最高分げつ期,穂揃期,収穫期とも全乾物重は疎植区よりも密植区で高かった.穂揃期では,全区で葉鞘と葉身の割合が高かった.収穫期の5t区では,穂の値が大きく,葉身では多少減り,葉鞘の値は一定であった.2t化肥区では穂が大きく,葉身が多少減り,葉鞘では顕著な減少が見られた.5tほうき疎植区は,各期で全乾物重を各区と比べると終始低い値となった.5tほうき区,2t化肥区で密度間に差はあるが,5tコイ区では差がなかった.
2t化肥区の最高分げつ期で,速効性の化学肥料が植物に有効な形であったことと,雑草発生や病害虫などによる影響がなかったため5t区に比べ高かったのだと考えられる.穂揃期で,葉鞘と葉身の値が高かったのは光合成を行う葉身が大きく,それを支える葉鞘が大きくなったからである.収穫期の5t区では,葉鞘と葉身の値から遅効性の堆肥が生育後半にかけて肥効が現れ,収穫期でも継続して効果を発揮し,光合成により作られた養分が穂に転流するが,養分が十分であったので葉鞘,葉身の値を高く維持できたのだとわかる.2t化肥区では,籾数が確保され出穂後に光合成と葉鞘,葉身に蓄積された養分が穂に転流したのだと考えられる.

(3)窒素含有率
地上部窒素含有率を第12図に示した.最高分げつ期では,2t化肥密植区で最も高く,2t化肥疎植区で最も低かった.5t区内では密植区よりも疎植区で高かった.最高分げつ期から収穫期にかけて低くなったが,穂揃期での5tほうき疎植区で低く5tほうき区で値が逆転した.2t化肥区でも値が逆転し,密植区で高かった.部位別窒素含有率を第4表に示した.最高分げつ期の葉身,収穫期の穂と葉身では差がなかった.
 最高分げつ期は,細胞が若く,活性が高いため分裂や光合成が盛んに行われたので高い値を示した.穂揃期,収穫期と経過すると稲体の成熟と老化も進む.葉鞘が,窒素を必要としなくなり葉身や穂に窒素が移動したことや葉の枯れ上がりによるものである.収穫期では,栽植密度や施肥法に差がないことがわかった.

(4)窒素含有量
部位別窒素含有量を第13図に示した.全区で,最高分げつ期から収穫期へと経過するにつれて値は増加した.5t区と2t化肥区の疎植区と密植区を比べてみると各期の密植区で多い値を示した.5tコイ区の最高分げつ期と穂揃期は疎植区と密植区との値が逆転し,疎植区で多い値だった.全区の穂揃期で,葉鞘と葉身の値は最高に達した.収穫期では,穂の値が最大となり葉鞘,葉身は減少し,葉身は高い減少率であった.収穫期における,穂の割合は葉鞘・葉身の2倍から2.5倍となった.5tほうき疎植では,各期において全含有量を各区と比べると終始少ない値となった.各期,各部位において有意な差が見られた.
 5t区での,穂揃期から収穫期にかけての穂の増加量が,2t区に比べて多かった.堆肥を施用したため,収穫期まで窒素が十分で効果が発揮されたからだと考えられる.5tほうき疎植区では,最高分げつ期と穂揃期で値が低かったが,雑草発生が多かったので雑草との競合があり,窒素が雑草との競合により多く吸収されたので,稲体の窒素吸収量が少なかったと思われる.

(5)生長解析
生長解析を第5表に示した.純同化率(NAR)は,最高分げつ期から穂揃期では5t疎植区で10g/u/日を越える高い値だった.穂揃期から収穫期では,5tほうき疎植区で高く,2t化肥区で低い値を示した.個体群成長速度(CGR)は,最高分げつ期から穂揃期では5t区において2t化肥区よりも低く,5tほうき疎植区では16g/u/日と一番低い値だった.穂揃期から収穫期では,値が逆転し5t区で2t化肥区よりも高かった. NARの,最高分げつ期から穂揃期と穂揃期から収穫期での5t疎植区で値が高かったことは,疎植にすることで窒素が十分に吸収できたことと群落内での光量を十分に確保することができたためである.穂揃期から収穫期で,2t化肥区の値が低かったことは5t区に比べ,窒素養分が不足していたことや茎数が多かったので光量を得られなかったためだと考えられる.
高いCGRを実現するには,個体群をできるだけ早く最適LAIに到達させることである.そのための方法として,窒素施用や密植などがある.一般的なイネ栽培の場合には,CGRの最大値は20g/u/日とされている(秋田 2000).このことから,LAIとCGRは密接に関わっていることがわかる.本研究では,堆肥を連年施用していることや疎植栽培を行っているためLAIの値が低く推移した.CGRは,最高分げつ期から穂揃期では5t疎植区でNAR値が高かったが,LAI値が低かったため低い値となった. 2t化肥区ではNARが10g/u/日を越えなかったが,生育が良くLAI値が高かったため最大値とされる20g/u/日を越えることができたのだと考えられる.穂揃期から収穫期では,5t区のNAR値が高く,LAI値も高かったのでCGR値も高くなった.2t化肥区では,NAR値が低くLAI値も低かったので,CGRが10g/u/日程度と低くなったのだと考えられる.

5,収量及び収量構成要素

(1)収量調査
収量調査の結果を第6表に示した.全重は,2t化肥疎植区が一番多かった.次いで2t化肥密植区で多く,生育の遅かった5tほうき疎植区が一番少なかった.精玄米重は,5t区での最高は5tコイ密植区の529g/uで,最も低かった5tほうき疎植区の491g/uを除き,いずれの区も500g/uを越えたが,5t区内に有意な差は見られなかった.5t区と2t化肥区を比較すると,2t化肥区で多い値を示し,5t密植区と2t化肥区で差がなかった. 5tほうき疎植区では,雑草発生の影響により分げつの発生や窒素吸収が抑制され,精玄米重が低くなったのだと考えられる.精玄米重の5t区と2t化肥区は,5t区で初期生育に分げつ数の確保ができなかったので収量にまで影響が現れ,2t化肥区よりも少ない値となった.5t区の疎植区と密植区は,密植区に比べ疎植区で個体間の競合が少なく,有効茎歩合で高い値を示したが分げつ数が少なく,疎植区で少なくなったのだと考えられる.有機栽培で最高530g/uの高い収量が得られたのは,本年の天候が良かったこともあるが,堆肥の連年多量施用により地力も高くなったためと考えられる.
 2t化肥区では,堆肥と化学肥料の施用により安定して収量が多く,5t区の堆肥多量連年施用のみでは初期生育が劣っていた.堆肥のみでも,初期生育を安定させ分げつの発生を多くし,有効茎を確保できるように速効性の有機物を用いるなど施用量,施用方法を検討する必要があると考える.

(2)収量構成要素
収量構成要素を第7表に示した.穂数は, 2t化肥区で多くなった.5tほうき疎植区が有意に少なかったが,登熟歩合では他区に比べ比較的高かった.1穂籾数は,5tコイ疎植区では145個/本と有意に多かった.総籾数は,5tほうき疎植区で有意に少なかった.登熟歩合では有意な差がなく,千粒重では差があまり見られなかった.  2t化肥区で,速効性の肥効を持つ化学肥料による初期生育の良さが茎数推移のように穂数を確保できたのだと考えられる.葉色値は,窒素含有率と強い正の相関があるので,葉色値の推移で比較すると7月15日に行った追肥によって,2t化肥区の値が高く推移し窒素が十分にあることから,穂数の確保ができたのだと考えられる.8月6日の幼穂形成期以降には遅効性である堆肥が,植物にとって有効な形となったので5t区の値を高くした.そのため,8月20日前後の穂揃期に高い値を示し窒素が十分にあることから,1穂籾数の確保ができたのだと考えられる.

(3)節間長
収穫期の節間長を第14図に示した.全長は,5tコイ疎植区,2t化肥区で最も大きく,次いで5tほうき密植区,5tコイ密植区が同じ値を示し,5tほうき疎植区という順になった.生育の遅かった5tほうき疎植区で,低い値が見られた.穂長は,5tほうき区,5tコイ区,2t化肥区での密植区より疎植区で長くなった.倒伏程度は,5tほうき密植区,2t化肥区が2でややなびく程度であった.
下位節間が長く節間が細いもので挫折が見られる.コシヒカリにおいては,主に第W・X節間で挫折が起こる(Akita・Tanaka 1992)とある.一般的に,堆肥多量施用では窒素分が遅く効く恐れがあり,下位節間の伸長時期と重なるため懸念されている.しかし,全長も2t化肥区に比べて伸びておらず,第W・X節間も伸びていなかった.このことから,倒伏程度が2のややなびく程度だったのだと考えられる.

W 摘要

水稲の有機栽培の収量を高めるために堆肥を多量連年施用した水田において,栽植密度の違いがコシヒカリの生育や収量,乾物生産,窒素吸収に及ぼす影響について検討した.試験区は,堆肥多量連年施用区として10aあたり堆肥5tの区と,対照区として10aあたり堆肥を2tと化学肥料を少量与え除草剤を使用した区を設け,栽植密度をuあたり16.6株の疎植区と20.8株の密植区に設定した.
生育は,5t区では堆肥は遅効性であるために初期生育が劣り,疎植区は密度の違いから雑草発生が多く,分げつの確保ができず生育後半まで影響を受け,密植区に比べ収量が低下した.密植区では初期生育が劣ったが,茎数が多く葉面積を確保でき,疎植区に比べ高収量であった.2t化肥区に比べると,劣った. 有機栽培の,5tコイ密植区で最高529g/uの高収量が得られ,5tほうき疎植区の491g/uを除き,いずれの区も500g/uを越えた.

X 謝辞

本研究の遂行と本論文の取りまとめにあたり,適切な御指導と御助言を頂いた作物生産技術学研究室の前田忠信教授,土壌学研究室の平井英明助教授,栽培学研究室の先生方,付属農場の技官の方々に心から感謝致します.
 また,本研究を行うにあたり,協力して下さった本研究室の先輩方,共に頑張った栽培学研究室のみなさん,実験を行うにあたり協力して下さった土壌学研究室のみなさんに深く感謝致します.
Y 引用文献

1.	Kenji Akita・Naomichi Tanaka 1992.Effects of Planting Density and Planting Patterns of Young Seedlings Transplanting on the Growth and Yield of Rice Plants. Jpn.J.Crop Sci.61(1):80−86
2.	秋田重誠ら 2000.作物学(T)−食用作物編−.文永堂,東京.28−31
3.	平野貢・山崎和也・Truoug Tac Hop・黒田栄喜・村田孝雄 1997.窒素施肥体系および疎植の組み合わせ栽培が水稲の生育および収量に及ぼす影響.日作記 66(4):551−558
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5.	片野学・佐藤宏・佐藤種治・佐藤正広 1983b.自然農法水田における水稲栽培に関する研究.第2報 育苗法,栽植密度,搬入有機物の種類・量ならびに有機物マルチの影響,岩手県下における一事例.日作東北支部報 26:5−6
6.	前田忠信 2001.堆肥連年施用水田と化学肥料連年施用水田における低農薬栽培した水稲収量の年次変動とその要因.日作紀70(4):525−529
7.	前田忠信 2002.低農薬栽培における栽植密度が水稲の生育,収量と穂いもち発生に及ぼす影響.日作記 71(1):50−56
8.	松島省三 1980.稲作の改善と技術.養賢堂,東京.319−324
9.	松崎敏英 1992.土と堆肥と有機物.家の光協会,東京.26−37


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11.	齊藤邦行・黒田俊郎・熊野誠一 2001.水稲の有機栽培に関する継続試験−10年間の生育収量−.日作記 70(4):530−540
12.	関口都 1997.無農薬栽培水稲の生産性に及ぼすコイ放飼の影響.宇都宮大学農学部栽培技術学研究室卒業論文.
13.	玉置雅彦・猪谷富雄・中野尚夫 2002.有機農法継続年数が異なる水稲の生育と収量−山口県下での一事例−.日作記 71(4):439−445
14.	田中典幸・有馬進 1996.水稲の根の生育に及ぼす栽植密度の影響.日作記 65(1):71−76
15.	冨樫直人 2000.水稲の有機栽培が生産生態に及ぼす影響.宇都宮大学農学部作物生産技術学研究室卒業論文.

Summary

Effects of Planting Density on the Growth and Yield of Rice with Organic Fertilization in the Field with Continuous Applications of Farmyard Manure

Tadazumi Mukaida

In order to raise yield of paddy rice, the paddy field of continuous applications farmyard of manure was used, and the influence by changing the planting density on the growth of KOSHIHIKARI, yield and dry matter production, and nitrogen absorption was studied. The plots were prepared as 2t compost per 10a with a little chemical fertilize and weed killer for a control and 5t compost per 10a. Planting density was 16.6 hills/u for the sparse planting, and 20.8 hills for close planting . In 5t plot , since a compost had a delayed effect, it initial growth was inferior. Sparse planting field had weeds, and full tillering was not completed. It was influenced untill the second half of growth, and the yield decreased compared with close planting field. Although initial growth was inferior in close planting field, the number of stems could be secured with large leaf area, and the yield was higher compared with sparse planting field. But the yield was inferior compared with 2t compost with chemical fertilizer plot . A maximum yield of 529g/u was obtained in the close planting field of organic agriculture, and all plots exceeded 500g/u except for 491g/u of sparse planting field.

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