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湛水土壌表面播種栽培用水稲品種の系統選抜
                            
2003.1.31.

              宇都宮大学 農学部 生物生産科学科
                               植物生産学コース 作物栽培学研究室
                                        993193  肥田野善隆

目次
T 要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
U 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
V 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.	圃場実験
2.	ヨード呈色度実験
W 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.	圃場での選抜
2.	ヨード呈色度による選抜
X 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
Y 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
  Summary・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
  写真・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

T 要旨
湛水土壌表面播種栽培を想定した直播栽培に適する水稲品種を,外国の直播栽培用品種に日本の移植用
良食味品種を交配した後代系統から選抜することを目的とした.また,ヨード呈色度による良食味系統の選抜
を検討した.
 圃場試験における選抜では,関東199号/ヒノヒカリの組合せが特に有望であり,W53/Lemontと
W42/Ansanbyeoの組合せも有望であった.圃場試験によって選抜したものを,食味によって選抜するために
ヨード呈色度実験を行った.現在日本で一番人気の高いコシヒカリのヨード呈色度の値が2であったので,2
以下であるものを良食味系統として選抜した.ヨード呈色度を測定した系統数に対する選抜した系統数の割
合はW42/AnsanbyeoとW53/ Ansanbyeoの組合せで高い値を示した.最終的な選抜割合では,関東199号/
ヒノヒカリとW42/ AnsanbyeoとW53/Lemontの組合せで高い値を示した.よって,これらの組合せは直播栽培
用水稲に必要な特性を持つ有望な系統であると考えられる.

U 緒言
 日本の稲作では,近年農業労働力の減少及び高齢化が進行し,コメの価格の低下やコメの消費の減少な
どによる農業所得の減少(農林統計協会 2002)により,稲作経営は厳しい状況にある.そこで,移植栽培に
比べ省力かつ低コストである直播栽培の確立が期待されている.現在日本の稲作では直播栽培の面積は全
稲作面積の1%にも満たず,直播栽培は普及するにはいたっていない(秋田ら 2000).直播栽培は移植栽培
に比べて,発芽・苗立ちが不安定であり,倒伏しやすく,収量が不安定で劣るなどの問題がある.栽培方法に
よる改善策は部分的には以下のようにものがあるが,欠点もある.発芽・苗立ちが不安定なことの改善として,
過酸化石灰コーティング種子を用いて湛水土壌中直播をする方法があるが,コストがかかり本来の低コストが
損なわれてしまう(秋田ら 2000).土壌中に播種すると酸素不足により,発芽しにくくなるため,土壌表面播種
という方法もあるが,倒伏しやすくなってしまう.代掻きせず乾田で播種し生育初期は乾田のままの乾田直播
もあるが,代掻きしないため漏水しやすく,漏水の少ない田でしか行えない(牧山・山路 1997).また,日本は
湿田が多く播種時に降雨も多いため播種作業が行えないといったことになりやすい.あらかじめ発芽させた種
子を代掻き後落水した田面に散播する潤土直播もあるが,芽が折れやすく,機械化が難しい.また,鳥害と倒
伏が問題となる(秋田ら 2000).
 そして,現在日本の直播栽培に適した品種がないということも,直播が普及しない1つの理由である.よって,
品種の育成が重要な課題となる.直播栽培用品種に必要な特性としては,発芽・苗立ちが良いこと,耐倒伏性
に優れていること,そして,良食味であることなどである.特に,食味については,消費者の良食味志向が高ま
ってきているため,また,コメが余っている状態であることなどから,特に重要な特性となっている.コメの食味を
評価する方法としては,食味による官能試験(食糧庁 1968)が行われているが,コメの理化学特性による食味
の推定方法も行われている.食味の70%は精米のたんぱく質含量,アミログラム特性の最高粘度,最低粘度,
ブレークダウン,炊飯液のヨード呈色度によって推定できる(竹生 1987).たんぱく質含量の測定は,ケルダー
ル法によって行われており,値が低いほうが日本では一般に良食味とされている(竹生 1995).アミロース含量
は,ヨード呈色度によって測定できる.これは,デンプン溶液にヨウ素を反応させ発色を比色する方法である.
これも,値が低い方が良食味とされている(竹生 1995).アミログラム特性は,米粉または米デンプンを水に懸
濁させ,撹拌しながら一定速度で加熱および冷却し,膨潤糊化および老化の過程における糊度変化を測定・
記録する.一般に最高粘度,ブレークダウンが大きい方が食味が良いとされている.(竹生 1995).
 今回の研究では,湛水土壌表面播種を想定した直播栽培に適した品種の選抜を目的として行った.また,
良食味である系統を選抜するため,電子レンジ・ヨード法(坂ら 1992))を用いてヨード呈色度を測定し,コシヒ
カリと同程度の食味であると考えられる系統の選抜(坂・井上 1997)を検討した.


V 材料と方法 1,圃場実験について 供試品種は第1表に示すように,外国の直播栽培用品種に日本の移植用良食味品種を交配した後代系統 を用いた.標準品種として第2表に示す供試品種の親系統など9品種を用いた.供試個体の組合せの1〜5 はF3世代,6〜11はF4世代,12,13はF5世代である. 2002年に宇都宮大学農学部圃場で代掻き後,落水し,5月15日に条間30cm1条70cmで播種し(写真1),翌日 潅水した.各組合せの供試個体系統数は,第1表に示す通りである.Nは元肥のみで4kg/10aとし,除草剤とし てキックバイ1kgを5月20日に散布し,3回手取り除草を行った.  収穫は9月30日までに成熟したほとんど全部と,予備実験による分析結果の特に良いものと悪いもので10 月7日,10月11日に成熟していたものを収穫,倒伏したものは収穫を行わなかった.収穫と同時に各系統の 稈長(各系統無作為に選んだ5本の茎の稈長を測定したものの平均値)を測定した.収穫したものは乾燥さ せ,10月17日に脱穀し,ヨード呈色度実験に必要な量だけ籾摺りを行った. 2,ヨード呈色度実験について 圃場実験で収穫したものを,食味によって選抜するため,電子レンジ・ヨード法(坂ら 1992)をもとに,以下 のようにしてヨード呈色度実験を行った. ・ヨード呈色度実験 系統ごとに,青米や屑米を除いた玄米3gを蒸留水100mLと沸騰石とともに300mを三角フラスコに入れ,電子 レンジ(500W)で20分加熱した.加熱後15分,その煮汁を1mL採取し,ヨウ素ヨウ化カリウム2mL(ヨウ素2gにヨ ウ化カリウム20gを加え,蒸留水で1Lに定量したもの)で反応させ,それを50mLメスフラスコを用い蒸留水で 定量し,NaOHを1滴加える.その後,メスフラスコ内の溶液の色の濃淡を達観で1(黄色)〜5(濃い青緑)段階 に分級した(写真4).1回の加熱で同時に3サンプルをレンジに入れて行った.
W 結果と考察 1,圃場での選抜 第2表は標準品種の発芽・苗立ち,出穂期,稈長,倒伏程度を示している. 発芽・苗立ちでは,全体的に良くヒノヒカリで特に良かった.出穂期では,全体的に遅く,ユメツクシ,Lemont, 日本晴では比較的早かった.稈長ではLemont,日本晴,ユメツクシで低かった.倒伏程度では,ヒノヒカリ, Lemont,W42で良かった. 第1図は,発芽・苗立ちの頻度分布を示す.発芽・苗立ちは悪いものが非常に多かった.これは,播種後に 低温が続いたことが影響していると考えられる.また,日本晴との比較でも悪いものが多かった.  第2図は,出穂期の頻度分布を示す.出穂期は遅いものが多く,選抜したもののほとんどは8月15日まで に出穂したものでした.また,日本晴との比較でも遅いものが多かった. 第3図は,倒伏程度の頻度分布を示す.これは,台風の影響のため信頼できる結果ではないが,台風の影 響なしで倒伏したものは少なかったと思われる.これは,窒素が少なかったことと,成熟期の遅いものでは成 熟前に測定したため,植物体がまだ青々としていたためと考えられる.また,日本晴との比較でも倒伏したも のは少ないと思われる 第4図は,稈長の頻度分布を示す.稈長は高いものが多かった.また,日本晴との比較でも高いものが多か った.  第1表は,各組合せの圃場での選抜数を示した.この表の選抜数とは,実際に収穫を行った系統数または 個体数のことである.3番(関東199号/ヒノヒカリ)と6番(W53/Lemont)の組合せで,選抜系統数,選抜個体数 ともに高い値となった.これは,出穂期が早く倒伏が少なかったからと考えられる.また,3番と8番 (W42/Ansanbyeo)の組合せで,選抜系統数に対して,選抜個体数の割合が高かった.これは,発芽・苗立 ちも良かったためと考えられる.これらのことから,圃場選抜の段階では特に3番の組合せが有望であり,6番 と8番の組合せも有望であると考えられる. 2,ヨード呈色度による選抜  ヨード呈色度は数値が低いもの(黄色に近いもの)ほど,食味が良い(竹生ら1985)ことを示している.第5図, 第6図はヨード呈色度における系統数,個体数の頻度分布を示している.値が2,3となったものが多い結果と なった.また,第3表に標準品種のヨード呈色度の値を示す.現在日本で一番人気のあるコシヒカリの値が2 であったため,本研究では2以下のものを良食味品種として選抜した(第3表).  第7図より,出穂日とヨード呈色度の関係をみると,全体では相関は1%水準で有意であった.このことより, 出穂が早いほどヨード呈色度が良いという傾向が認められた.良い組合せであるものについても同じように関 係をみてみると,3番では,全体と同じような結果となり相関は1%水準で有意であったが,6番,8番では有意 でなかった.これは,サンプル数が少なかったためと8番においては出穂日がほとんど同じだったためと考え られる.  第3表より,ヨード呈色度を測定した系統数に対する選抜系統数でみると,8番(W42/Ansanbyeo)と10番 (W53/ Ansanbyeo)の組合せで,0.77,0.67と高い値を示した.また,6番と9番の組合せでも高かった.最終的 な選抜数(供試系統数に対する選抜系統数)でみると,3番(関東199号/ヒノヒカリ),6番(W53/Lemont),8番 (W42/Ansanbyeo)乃組合せで,0.18,0.15,0.18と高い値を示した.よって,これら3つの組合せが有望であ ると考えられる.  今後,さらに直播栽培に適した系統を選抜していくとともに,圃場実験や玄米でのヨード呈色度実験つい てもより良い方法の確立を進めていく予定である. X 謝辞  本研究の遂行にあたりご指導いただいた,作物栽培学研究室の吉田智彦教授,三浦邦夫助教授,和田 義春助教授,作物生産技術学研究室の前田忠信教授に心から感謝致します.そして,いろいろと協力して 下さった先輩方,4年生の皆さん,本当にありがとうございました. Y 引用文献 1. 秋田重誠ら 2000.作物学(T).文永堂,東京. 65-68. 2. 牧山正男・山路永路 1997.直播稲作の現状と農業土木技術から見た湛水直播の問題解決の 可能性.農業および園芸72:1097-1102. 3. 農林統計協会 2002.図説 食糧・農業・農林白書 平成13年度版.113-119. 4. 坂紀邦・井上正勝・林元樹・伊藤幸司 1992.電子レンジ・ヨード法による水稲良食味選抜の可能 性について(第1報).育雑42(別1):524-525. 5. 坂紀邦・井上正勝・林元樹・伊藤幸司・藤晋一 1992.電子レンジ・ヨード法による水稲良食味選 抜の可能性について(第2報).育雑42(別2):544-545. 6. 坂紀邦・井上正勝 1997.炊飯特性「ヨード呈色度」を利用した水稲良食味系統の選抜.愛知農 総試験報29:19-25. 7. 食糧庁 1968.米の食味試験実施要領. 8. 竹生新治郎・渡辺正造・杉本貞造・真部尚武・酒井藤敏・谷口嘉廣 1985.多重回帰分析によ る米の食味の判定式の設定.澱粉科学32:51-60. 9. 竹生新治郎 1987.米の食味,全国米穀協会.東京.79. 10.竹生新治郎 1995.米の科学,朝倉書店.東京.134-135. Selection of Rice Line Direct-seeded on the Soil Surface in Paddy Fields Yoshitaka Hidano Summary This study was carried out to select rice lines which were direct-seeded on the soil surface in flooded paddy fields. Lines used were offsprings that were obtained from crossing foreign rice cultivars for direct-seeding and domestic good eating quality rice cultivars for transplanting. Moreover, I selected for good eating quality rice lines by the method of the starch-iodine blue value of the residual liquid (IBUR) from cooked rice. In the field experiment, lines from Kanto 199/Hinohikari, W53/Lemont and W42/Ansanbyeo seemed to be suitable for direct-seeding and many lines from these crosses were selected, especially from Kanto 199/Hinohikari. The IBUR was measured for lines that selected by the field experiment. Since the IBUR of Koshihikari, that is the most popular rice cultivar in Japan, was 2, lines that showed the IBUR value of two or less were selected as good eating quality rice lines. High value of the ratio of the selected number of lines to total number of lines measured for the IBUR was obtained in W42/ Ansanbyeo and W53/Ansanbyeo pedigrees. For total selection, high selection ratio was shown in Kanto 199/Hinohikari,W42/Ansanbyeo and W53/Lemont pedigree and they were considered to be especially promising for direct-seeding line. 第1表  供試品種と圃場での選抜数.           世代 供試個体.系統数 系統  選抜数 個体 選抜数 選抜数/供試数 1 ヒノヒカリ/ニシホマレ F3 15 0 0     0 2 W38/ヒノヒカリ F3 30 0 0 0 3 関東199号/ヒノヒカリ F3 45 24 41 0.53 4 W76/ヒノヒカリ F3 20 5 6 0.25 5 ヒノヒカリ/W42 F3 55 2 2 0.036 6 W53/Lemont F4 65 23 26 0.35 7 W38/ヒノヒカリ F4 40 9 9 0.23 8 W42/Ansanbyeo F4 55 13 28 0.24 9 W53/ヒノヒカリ F4 60 7 7 0.12 10 W53/Ansanbyeo F4 65 6 8 0.092 11 W53/ヒノヒカリ F4 140 5 5 0.036 12 W42/ヒノヒカリ F5 110 4 4 0.036 13 W42/ヒノヒカリ F5 25 0 0 0 W53,76:ユメヒカリ //Lemont/ヒノヒカリ, W36,42:葵の風//Lemont/ヒノヒカリ, C/F:Cawwa/Fortuna 6-103-15, Ansanbyeo:韓国の直播用早生品種. 第2表  標準品種の発芽・苗立ち,出穂日,倒伏程度,稈長,稈長,ヨード呈色度. 品種 発芽・苗立ち 出穂日 倒伏程度 稈長 ヨード呈色度 日本晴 4 8月25日 3 69 4 コシヒカリ - - - - 2 ヒノヒカリ 5 9月5日 0 82 3 Lemont 2 8月26日 0 65 4 W42 3 9月5日 1 84 - W53 3 9月5日 2 74 - ユメツクシ 3 8月16日 4 67 3 ニシホマレ 2 9月5日 3 79 - C/F 2 8月30日 3 87 - W42:葵の風//Lemont/ヒノヒカリ,W53:ユメヒカリ//Lemont/ヒノヒカリ, C/F:cawwa/fortuna6-103-15. 発芽・苗立ち:1〜5で5が良.倒伏程度:0〜6で0が良. 第3表 ヨード呈色度による選抜数.             世代 供試.系統数 測定系統数  選抜系統数 測定個体数 選抜個体数                    選抜数/測定数(系統) 選抜数/測定数(個体) 選抜数/供試数(系統) 1 ヒノヒカリ/ニシホマレF3 15 0 0 0 0 0 0 0 2 W38/ヒノヒカリ F3 30 0 0 0 0 0 0 0 3 K199/ヒノヒカリ F3 45 24 8 41 9 0.33 0.22 0.18 4 W76/ヒノヒカリ F3 20 5 1 6 1 0.2 0.17 0.05 5 ヒノヒカリ/W42 F3 55 2 1 2 1 0.5 0.5 0.018 6 W53/Lemont F4 65 23 10 26 10 0.43 0.38 0.15 7 W38/ヒノヒカリ F4 40 9 1 9 1 0.11 0.11 0.025 8 W42/Ansanbyeo F4 55 13 10 28 19 0.77 0.68 0.18 9 W53/ヒノヒカリ F4 60 7 3 7 3 0.43 0.43 0.05 10 W53/Ansanbyeo F4 65 6 4 8 5 0.67 0.63 0.062 11 W53/ヒノヒカリ F4 140 5 2 5 2 0.4 0.4 0.014 12 W42/ヒノヒカリ F5 110 4 3 4 3 0.75 0.75 0.027 13 W42/ヒノヒカリ F5 25 0 0 0 0 0 0 0 W53,76:ユメヒカリ//Lemont/ヒノヒカリ, W38,42:葵の風//Lemont/ヒノヒカリ, C/F:Cawwa/Fortuna 6-103-15, Ansanbyeo:韓国の直播用早生品種.
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