日本鳥学会2005年度大会
ハシブトガラスとハシボソガラスにおける鳴き声と発声器官の種差
○塚原直樹1,2)・小池雄一郎2)・青山真人2)・藤原克彦2)・杉田昭栄2)
(1東京農工大院連合農学, 2宇都宮大・農・動物機能形態)


【目的】
ハシブトガラスとハシボソガラスは分類学上近種であるが,鳴き声は大きく異なる.一般的に,ハシブトガラスは澄んだ声で鳴き,ハシボソガラスは濁った声で鳴くといわれている.しかし,音響学的に両者の鳴き声の特徴を明らかにした報告はない.そこで,彼らの鳴き声をソナグラムに現し,音響学的相違を明らかにした.また,ハシブトガラスとハシボソガラスの鳴き声の相違は,鳴管を中心とした発声器官の形態学的相違に由来すると考えられる.そこで,ハシブトガラスとハシボソガラスの発声器官の形態学的相違をも明らかにすることを目的とした.

【材料・方法】
[音響学的解析]
野外において,様々な状況下のハシブトガラスとハシボソガラスの鳴き声を集音した.そのうち,種が特定できる鳴き声をソナグラムに現し,特徴を比較した. [形態学的解析]
深麻酔下で屠殺し,舌から気管,鳴管,気管支,肺までの発声器官を採取した.これをホルマリンにより固定した後,発声器官の外部形態や内部構造における各部位の形態計測を行った.供試動物はハシブトガラス30羽(♂19羽,♀11羽,体重520g〜825g,幼鳥を除く),ハシボソガラス15羽(♂6羽,♀9羽,体重520g〜740g,幼鳥を除く)とした.

【結果および考察】
 [音響学的解析]
ハシブトガラスの鳴き声は,倍音構造が明瞭に現れるものから,倍音構造が不明瞭で,ノイズを多く含むものまで,多様な音響学的特徴を示した.それに対し,解析を行った全てのハシボソガラスの鳴き声は,倍音構造が不明瞭で,ノイズを多く含んでいた.

ハシブトガラスのソナグラム

ハシボソガラスのソナグラム

[形態学的解析]
腹側の鳴管筋で最も大きい腹側気管気管支筋において,ハシボソガラスにおける付着点の左右間距離が,ハシブトガラスより狭かった.また,最も吻側に位置する気管支軟骨付近の鳴管内部の空間の広がりにおいて,ハシボソガラスがハシブトガラスに比べ空間が狭かった.概して,ハシボソガラスの鳴管部分の空間の狭さが,倍音構造が不明瞭な鳴き声を生み出すと考えられる.

ハシブトガラスとハシボソガラスの発声器官
a. 背側からみた声道.左からハシブト♂,♀,ハシボソ♂,♀.b. 腹側からみた鳴管.c. 図bの(c)で切断し,吻側からみた図.d. 図bの(d)で切断し,尾側からみた図.e. 図bの(e)で切断し右側から見た図.図b-eにおいて,左はハシボソ,右はハシボソの各器官を示す.