日本鳥学会2005年度大会
宇都宮大学構内におけるハシブトガラスとハシボソガラスの行動圏および環境利用様式
○小池雄一郎1)・塚原直樹1,2)・鎌田直樹1)・野口瞳1)・青山真人1)・藤原克彦1)・杉田昭栄1)
(1宇都宮大・農・動物機能形態, 2東京農工大院連合農学)


【目的】
一般的に,ハシブトガラスは高低差のある環境を好み,ハシボソガラスは視界の開けた平地環境を好むといわれている.しかし,宇都宮大学構内ではこれら2種のカラスが共存するにもかかわらず,建物の屋上など高低差のある場所ではハシボソガラスも頻繁に観察される.ところで,一般的仮説における2種のカラスの環境利用様式の違いは,採食形式の違いに由来すると考えられている.従って,宇都宮大学構内での観察が上記の一般的仮説にあてはまらないのは,彼らにとって同大学構内が採食する場所ではないためだと考えられる.そこで本研究では,日中の宇都宮大学構内と,餌場と考えられる早朝の繁華街での,2種のカラスの環境利用様式を比較することで,餌場以外での2種のカラスの環境利用様式の違いの有無を検討した.

【材料・方法】
観察場所は宇都宮大学構内および宇都宮市中心街とした.カラスの種の同定は,行動や鳴き声および双眼鏡(8倍〜10倍)を用いた外部形態の観察によって行った.2種のカラスの行動圏と総個体数の調査は,ラインセンサス法により行った.ラインセンサスは平均時速2km/hで1周約1時間のコースを設定し,日の出から日の入りまで全ての時間帯を網羅するよう行った.さらに,カラスが観察された場所を「高低差有エリア」と「平地エリア」のどちらかに分類して1時間の定点観察を行い,種ごとに出現個体数と平均滞在時間を求めた.出現個体数と滞在時間の2つを総合的に評価する値として,(出現個体数/総個体数)×平均滞在時間をスコアとして計算した.種ごとにエリア別に集計した.

【結果】
宇都宮大学構内における2種のカラスの出現個体数の時間的推移をみると,ハシブトガラスは日の出〜9時と16時〜日没付近にはほとんど観察されなかった.それに対し,ハシボソガラスはどの時間帯においても観察された.行動圏の調査より,ハシブトガラスとハシボソガラスの行動圏の重なりは少なかった.定点観察の結果,有意な差はなかったもののハシボソガラスの平地利用がより多い傾向にあった.一方,宇都宮市中心街における2種のカラスの出現個体数の時間的推移をみると,2種ともに早朝に多く観察され,日中にはあまり観察されなかった.行動圏の調査より,ハシブトガラスの群れにハシボソガラスが数羽観察されるなど,2種のカラスの行動圏に重なりが大きかった.定点観察の結果,2種のカラスの環境利用様式に有意な差はみられなかった.


各時間帯における2種のカラスの平均出現個体数


2種のカラスの行動圏(宇都宮大学峰キャンパス)
カラスが観察された場所に印を付け,その場所でののべ観察個体数を色の濃さで示したもの.
さらに印の分布から種ごとにおおよその行動圏を推測し,エリア分けした.



2種のカラスの行動圏(宇都宮市中心街)
カラスが観察された場所に印を付け,その場所でののべ観察個体数を色の濃さで示したもの.
さらに印の分布から種ごとにおおよその行動圏を推測し,エリア分けした.



各エリアにおける2種のカラスの地上と高所の利用(宇都宮大学峰キャンパス)
スコアが高いほど,その場所の利用度が高いことを示す.


各エリアにおける2種のカラスの地上と高所の利用(宇都宮市中心街)
スコアが高いほど,その場所の利用度が高いことを示す.